私は冒頭記載の「ストーリー」をちゃんと読まないで映画を見たので、最後の最後までこの裁判映像は実際におきた反革命運動に関わるガチなものだと思い込んでいて、映像が終わった後に裁判全体が作られたものだということを初めて認識したのですっかり混乱してしまい「被告人も全部シナリオ通りに演じているだけ? 傍聴する多数の一般人はリアルな反応なのかこれも仕込みなの? そもそも被告の人達は本当は裁判の前から秘密警察の人なのかそれともグレーな立場だったのでこの機会に初めて権力側についたのか?」とかの疑問をいろいろ感じながら映画館を後にして今でもモヤモヤしているのだが、これがまさに作った側の狙いではないかという気もする。今回の上映の他作品もなるべく見るつもり。
THE KEITH TIPPETT GROUP – How Long This Time?
Live 1970(2022年British Progressive Jazz)6曲/50分
キース・ティペット(p)、エルトン・ディーン(sax)、マーク・チャリグ(コルネット)、ニック・エヴァンス(トロンボーン)の四人をコアメンバーに活動していたKTGの未発表放送用スタジオライヴ発掘ものhttps://britprogjazz.bandcamp.com/album/how-long-this-time-live-1970 。2022年3月にリリースされていたことに気がつかず最近になって購入したもの。KTGはスタジオ録音アルバムとしては1970年にジェフ・クライン(b)とアラン・ジャクソン(dr)を加え1st「You Are Here..I Am There」を、1971年には7名のサポートメンバーを加えて2nd「Dedicated
To You,But You Weren’t Listening」を発表しているが、本作の録音時期としてはその間の時期になるのだろうか。1970年1月と8月の録音が3曲づつ収録されているがうち1曲は重複しているので実質5曲だが、うち3曲が2nd曲の初期バージョンで残り2曲が完全な未発表曲らしい。サポートメンバーは1月がジェフ・クラインとトレヴァー・トムキンス(dr)、8月はロイ・バビントン(b)とブライアン・スプリング(dr)。発売元からのコメントには「オリジナルのオーディオソースは状態が悪く、リスニング可能な水準にするため大幅な修復が必要だった」とあるが、この時期の発掘ものとしては十分に良い音質。楽曲と演奏は予想通り申し分なく...というか2nd曲の初期バージョンはラスト曲の即興パートとか凄まじくて期待値以上。近年の発掘ものの中でも大当たりの1枚。
DANIEL SCHMIDT – Cloud Shadows(2022 Schmidt
&Recital)10曲/59分
2019年発表「In My
Arms, Many Flowers」(1978-1982年録音) 、2020年発表「Abies Firma」(1976-1991年録音)の2枚のアルバムを聴いてかなり気に入っていたアメリカのガムラン現代音楽家ダニエル・シュミット(スイスの映像作家とは同名異人)の作曲集の3枚目が出ていたことを最近になって知って(アバンギャルドの中古コーナーで見つけて)購入したものhttps://recitalprogram.bandcamp.com/album/cloud-shadows 。これまでの2作が30~40年前の過去の活動アーカイブの集成だったのに対し、本作は2017-2019年に録音されているまあまあ新作で、前掲HP記載やブックレットの曲目解説からしても作曲時期も最近のものがほとんどのようだ。また、過去2作は基本インスト作品だったのだが、本作は約半分の曲が歌ものとなっていて、シュミットの妻によるテキストだったり、ルー・ハリソンと並んでシュミットの師匠格の一人であるジョン・ケージの誌を使ったりもしている。反面で、過去作品は一部曲では笛や弦楽器(ルバブ)が使われていたり、スタジオ作品では音響効果を重ねたりというバラエティ性があったのだが、本作ではほとんど鍵盤打楽器だけで器楽演奏が構成されているようで枠組みは絞り込まれている、というあたりが特徴的なところ。シュミットの正確な年齢はわからないのだが、HPやブックレット記載によると録音時期に80歳を迎えたらしいので、青年期のより多様な音楽性を絞り込んで成熟させた結果、ということで納得。ジャワやバリの青銅製ではなく、独自に製造されたアルミ製の楽器の不思議な響きは相変わらず心地よい。ジャケットには最終曲のみ譜面(数字譜?)が掲載されているのは、ガムラン入門初心者(※)の私としてはありがたく、より楽曲を興味深く聴ける。
※4年前からバリガムラン教室に入って練習し続けているのですが、来月からジャワガムランの教室にも通うことにしました。
BONDAGE FRUIT – VII(2024年まぼろしの世界)8曲/62分
ギタリスト鬼怒無月のリーダーバンド、19年振りとなる7作目の新作。加わるメンバーは(もう27年前にもなるわけだが)1997年のサードアルバム以来変わっていない、勝井祐二(vln)、大坪寛彦(b)、高良久美子(vib/per)、岡部洋一(dr/per)の五人編成。1990年の結成~1994年の1stアルバム~1997年からのインスト化~と激しい変化を重ねて、19年前の「VI」ではずいぶん落ち着いて良い意味で余裕のある円熟ぶりを見せた後で沈黙してしまったわけので、もう活動しないのではないかと近年思い込んでもおり、古くからのファンとしては嬉しいリリースである。テクニカルジャズロック、ブルースハードロック、アコースティックチェンバー、フォークトラッド、カントリー、ミニマル、脱力ユーモラスなどの交錯。温かみに溢れるキャッチーなメロディラインを中心に時折挟み込まれる印象的なダークネス。。。といった鬼怒ワールドの引き出しは19年前とそんなに変わっているとは思わないが、より幅広く柔軟性を高めているというところだろうか。前作のオープニングナンバーだった”Three Voices”を本作ラストにボーナストラック名義で再録していることも前作からの継続性の印象を強めている。一聴では新鮮さに欠けると思ったのだが、聴き込むにつれて次第に説得されてきた。アルバムリリースに合わせて再開してくれたライヴにも期待。
HENRY COW –Glastonbury and Elsewhere(2023年ReR)5曲/61分
このアルバム2022年12月にリリースhttps://henrycow.bandcamp.com/album/glastonbury-chaumont-bilbao-and-the-lions-of-desireされていたことに私が気がついておらず、2024年2月のマーキーベルアン国内流通盤の発売告知で初めて認識して詳細情報をあんまり認識せずに輸入盤購入してみたもの。ブックレット記載コメントによると2019年発売の50周年記念「Cow
Redux Box」後に発見されたBoxセットの追加版という位置づけということなのだが、調べてみると同じような性格の「Ex Box: Collected Fragments 1971-1978」も2022年4月にリリースされているhttps://henrycow2.bandcamp.com/album/ex-box-collected-fragments-1971-1978 ので、追加版のさらに続編というところなのだろうか。
全5曲は1972年から1977年までで収録時期も参加メンバーもバラバラ、音質的にもまずまずだし内容的にも一番興味を引いたのが、オープニングのM1)Glastonburyでの“Poglith Drives a Vauxhall
Viva”(ホジキンソン作)17分。クリス・カトラーが加入前時期ということでこのライヴではドラムはマーティン・ディッチャムが担当し、フレッド・フリス、ジョン・グリーブス、ティム・ホジキンソンとの4人編成。この曲は「Collected Fragments 1971-1978」にも11分版が収められているが、こっちの方がインプロ的なパートを中心にした長尺バージョン。初期のソフト・マシーンやキャラバンというかワイルド・フラワーズというか、少しブルース風味のあるカンタベリー系ジャズ・ロックが延々と展開されるが、初期ピンク・フロイドのライヴに共通するようなサイケデリック要素もある。グリーブスのベースとホジキンソンのサックスとオルガンには傑出した個性はまだ見出しにくいがフリスのリードギターにはすでにそれらしき独自の魅力が見える。個人的な好みとしてはかなり好きですね。ところでこの曲、クレジットでは1972年6月とあるのだが、これまで語られてきたカウのヒストリーではディッチャムが脱退する前のGlastonburyでのライヴと言えば1971年6月だったはずで合わない。クレジットの印刷ミスなのかな。。。
M2)は1973年の” Half Asleep, Half Awake”(グリーブス曲:1974年の2ndアルバムUnrest収録)の一部(2分)、クーパー、カトラー、フリス、グリーブス、ホジキンソンの5人編成。M3)は1976年の即興的な楽曲“The Road to Ruins”11分、グリーブスがボーンに交代した5人編成。フリス既存曲の断片とセロニアス・モンク曲を組み合わせたM5)13分も同様の5人編成で1977年。とこの3曲はまあまあ想定通り。
M4)は1977年の”The Lions
of Disire” 18分で、カトラー、フリス、ホジキンソンにヴォーカルとトランペットでフィル・ミントンが加わったHENRY COWと呼んでよいのかどうかよくわからない四人編成で、ブックレット解説によるとHENRY COWとMile Westbrook Brass BandとのジョイントユニットTHE ORCKESTRA用の楽曲をこの編成で演奏している、ということなのかな。ミントンの個性の付加が新鮮。
UNIVERS ZERO-Lueur(2023年SubRosa)11曲/48分
2023年11月にSubRosaから発売 https://subrosalabel.bandcamp.com/album/lueur され、ディスクユニオン流通盤(帯解説付き/邦題「閃光」)では12月に発売されたUZの10年振りとなる新作。UZの場合Crawling Windとかをどうカウントするのかという問題から何枚目のアルバムなのかのカウントが難しいが前作「Phosphorescent Dreams」(邦題「燐光」)リリース時に13枚目という明確なアナウンスがあったのでそれに従えば14枚目。私は国内発売時にCDを買いそびれていたらすぐに売り切れてしまいなかなか入手できなかったので購入が遅れてしまったもの。
クレジット上の注目点は、録音年月が2020-2023年の長期に渡っていることと、何より固定メンバーによるバンド形式にはなっていないこと。UZ名義作としては(コロナ影響とは言え)これまでなかったことだ。全曲ダニエル・ドゥニの作曲で、全曲参加はダニエルのみでドラムとパーカッションとキーボードのマルチプレイ。これに全11曲中6曲と過半曲への参加なのはベースとパーカッションとボーカルでダニエルの息子ニコラのみということなので親子プロジェクト的な性格が強い。少数曲参加はあと2人で2010年以来のメンバーであるクラリネットのクルト・ヒュデが2曲、前作から参加のギターのニコラ・デシェンが3曲(ギターが聴こえる曲はもっとあるのでクレジットが合っているのかどうかはちょっと疑問)、という形態。ロックバンド展開がしっかり聴きとれる楽曲はざっくり半分くらいに限られているので、UZ名義よりもソロアルバム名義にしてもらった方がしっくりきた。とは言っても、作曲的にも演奏&アンサンブル的にもしっかり練り込まれた楽曲が揃っていてアルバムトータルとしては聴きごたえのある好作には仕上がっているのは、過去の2枚のソロ作同様。ヒュデのクラリネットを生かしたチェンバー曲2曲は安心して聴ける想定通りのアンサンブル、デシェン参加の3曲は冒頭曲が暗黒エレクトロニクスで始まるがそれ以外の2曲はなかなかに軽快なジャズロックの要素も盛り込んでいる。この2人が不参加曲では音響チェンバーパーカッション曲というかドゥニ参加時期のART ZOYDを思わせるような楽曲も混じってこれも懐かしさとエレクトロニクス処理の新鮮さが交じり合って興味深く聴けた。UZ/ドゥニの最高作更新にはいたらないが、期待値水準は上回った、ということで、本作参加メンバーフル参加バンド形式での次作があったら良いね。
なお、本作購入が遅れたことの反省から、今月末発売のPRESENTの新作は予約しました。
AMOEBA SPLIT-Quiet Euphiria(2023年āMARXE)6曲/40分
前作を聴いて好盤だと感じていたスペインのユニットの7年ぶりの新作3rd。前作は正式メンバー6人(b&g/key/dr/sax/sax&fl/tp)に加えて曲替わりの弦楽器などを含むゲストが8人クレジットされていたが、本作では前回ゲストの中からセカンドキーボードとヴィヴラフォンが正式メンバー扱いに昇格したクレジットで8人のみの編成となっている。「ホッパー&ディーン在籍時のソフトマシーンとジェンキンス在籍時のニュークリアスのエッセンスを現代的なセンスで(ジェンキンス加入後のソフトマシーンとは風合いがなんとなく違うような気がするのだが別アプローチで)フュージョン化したカンタベリージャズロック」という基本線は変わらずだが、当然ながらツインキーボードの音色の多様性と、フロントのメロディラインを管楽器アンサンブル中心だけではなくキーボードとヴィヴラフォンが交錯しあって展開する場面がアルバム全体に拡大。小曲と中尺曲でバラエティに富んだ6曲の構成力も申し分なく40分あっと言う間に終わる。前作よりもより軽い印象で最初に聴いたときは物足りないかとも感じたが、聴き返すにつれて味わいの増す、前作に匹敵する好盤だった。ストリ-ミング視聴/直販サイトは以下
https://amarxe.bandcamp.com/album/quiet-euphoria
なお、Tubeの公式チャンネルで最近のライヴ映像を探したところ、本アルバムM3)の2023年6月ライヴ映像があったhttps://www.youtube.com/watch?v=2Lv6H5PlbVo。雰囲気的にはアルバム同様ではあるがtpとvibがいない6人編成となっている。ちなみにこのチャンネルでの過去のライヴ映像では発表済みアルバムでの路線とはかなり異なるプログレスタンダード曲のカバーも多く収録されていて意外性があって面白い。
RHÙN – Tozïh(2023年Baboon
Fish Label)3曲/38分
https://rhunmusic.bandcamp.com/album/toz-h
2024年2月末発売のユーロロックプレス誌100号のディスクレビュー原稿を加筆
なお、昨年2023年から、特に印象に残った作品についてはタイトルに★を付けて識別していましたが、本2024年も継続することにしました。本作が今年最初の★です。感覚的には「年間ベスト10入り」レベルのものを対象とします。
とみ