January 08, 2007

最終話 旅の終わり

大魔王が傷つきながらも繰り出した渾身の一撃。
それを紙一重でかわすと素早く間合いを詰めて頭上に剣を振りかざす。
ありったけの力を込めて振り下ろした剣。
それは凄まじい速さで大魔王の眉間に吸い込まれた!

大魔王の体力から2点さしひいて・・・0点に。
醜い頭部を撃砕された大魔王は、この世のものとは思えないような叫び声とともに床に崩れ落ちる。

断末魔の叫びとともに崩れ落ちる大魔王の体。
その異形の体からすさまじい勢いで瘴気が噴出する。
奔騰する瘴気から腕で顔をかばいつつ部屋の隅に下がる。
幾度か激しい痙攣を起こす大魔王の体。
しかし、その体は徐々に小さく萎んでいくのだった・・・。

・・・。
終わった・・・。
ついに大魔王を倒した。
大魔王はこの世界における力を失い、その身に相応しい神々に見捨てられた世界へ帰っていったのだろう。
いまや一握りの灰と化した魔王の体を見詰めつつ、部屋の隅から立ち上がる・・・。
・・・やった・・・。
パン屋の二代目が勝利したのだ!!

大魔王との決戦は終わった。
それにしても・・・イテテテ・・・こっちもボロボロだ。
部屋の中には《王たちの冠》とファーレン・ホワイデの体が残されている。
老学者の体に近付きひざまづく・・・首筋に手を当ててみるが、やはり死んでしまったようだ。
可愛そうだけれど仕方が無い・・・。
痛む体を押さえながら、再び立ち上がると机の上の《冠》に近付く。

机の上にはまばゆい光を放つ冠が待っていた・・・。
万感の思いとはこういうのだろうか・・・。
シャムタンティの丘を越え、港町カーレを抜け、バクランドで戦い、マンパン砦に辿りついた。
多くの仲間に出会い、多くの敵を倒した・・・。
助けられ、助け、裏切られ、裏切った・・・。
そして今大魔王を倒し、ついに《冠》を手にする・・・。

手にした冠は金属で出来ているにも関わらず、驚くほど軽かった。
うやうやしく取り上げると包み布にくるみ、背負い袋の中にそっとしまい込む。
はあぁぁぁ〜・・・。
思わず安堵の大きなため息がでる。
さぁ、アナランドに帰ろう!

・・・と、その前に。
やはり、この哀れな老人をそのままにしていくのは心苦しい・・・。
背負い袋に確か役立ちそうな物が入っていたような・・・さっそく掻き回す。
あった、あった!ティンパン川の聖なる水!
老婆ジャビニーからもらった聖なる水。
これをホワイデ老人の体に振り掛けて様子を見守る・・・。

しばらくすると、老人のまぶたがピクリと動いた。
口の周りの筋肉がゆっくりと痙攣をはじめ、やがて老人は息を吹き返す。
やがて体を起こすと、ぽかんとした顔でこちらを見やった。
どうやら、ここがどこなのか、いままで何が起きていたのか全く覚えていない様子だ。
手短に事情を説明してあげよう。
かくかく、しかじか。

話を聞き終えたファーレン・ホワイデは語り出す。
「もし、いまの話が本当だとすれば、わしはあんたに命を助けたもらったわけだ。」
それにとどまらずフェンフリー同盟の全ての住民に今後の平和と繁栄をもたらした・・・と。
そういってもらえると嬉しいね。
しかし、せっかく取り返した冠もアナランドに持ち帰ることが出来なければ意味が無い・・・と、ごもっとも。
「そんなことにならないように、わしも少しばかり手助けさせてもらうとしよう。」
そう言って老人は机の一番下の引き出しからベルベットの袋を取り出した。
中から水晶玉を取り出して、それをじっと覗き込む。

「もし、サマリタンたちがまだ無事でいれば、あんたの力になってくれるはずだ。」
そうだった、シンのサマリタンに銀の呼び笛をもらっていたんだ。
「おお、クルーの姿が見えてきた。」
水晶玉ののぞき見ればバードマンが何事か指示している姿が見える・・・ピーウィット・クルーに違いない。
ホワイデはピーウィット・クルー達シンのサマリタンもマンパンに敵対する勢力だから、アナランドまで連れて行ってくれるだろうと言う。
うんうん、クルーのことなら良く知ってる。
差し出された呼び子と同じ物を、背負い袋から取り出して老人に見せる。
そして、破顔する老人を横目に呼び子に息を吹き込んだ・・・。

窓の外に向かって鳥の鳴き声に似た鋭い笛の音が響き渡る。
なかなかバードマンがあらわれないことに、少しだけ不安を感じつつ待つ。
やがて大きな翼の音とともにピーウィット・クルーの見慣れた顔が現れた。

「《冠》を手に入れたのか?」
頷いて、大魔王との戦いの様子を話すと、背負い袋を軽く叩く。
精悍な顔をほころばせながら大きく頷くバードマン。
「では、出発しよう!」
やがて、クルーが大きな声で言った。
「お互い見事任務をやりおおせたわけだ。」
そう!見事に任務をやり遂げた!!
冠さえなければマンパンに恐れるような力は無い・・・。
俺につかまれというクルーの背にしがみつく。
そしてバードマン達は低地ザメンに向けて羽ばたくのだった・・・。

・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。

ピーウィット・クルーの背の上で考える・・・。
イルクララ湖を越えたら、クルーと別れてフェネストラのもとへ向かうとしよう。
魔法使い仲間の生還をきっと歓迎してくれるはずだ。
マンパンでの顛末も聞きたがるだろうし、傷を癒して食事をするにはもってこいだろう。
それに可愛そうなミニマイトの事もちゃんと伝えなければ・・・。
一夜明けたらZEDの呪文でビリタンティへ行くとするか。
スヴィンたちに無事な姿を見せれば、彼らは快くもてなしてくれるに違いない。
それとも、今後のことを考えてカーレの実力者、ヴィックに挨拶していくべきだろうか?
そうそう、クリスタンティのグランドレイガーの酒場で一杯やって、滝を楽しむのも悪くない・・・。
ああ、シャドラックをきちんと埋葬してあげなくちゃ・・・彼には随分と世話になったんだ。
シャムは相変わらず姿を変えて荒野を走り回っているんだろうか?
フランカーにも会いたいなぁ。
サイトマスターの軍曹は息災だろうか?

ふと後ろを振り返れば随分マンパン砦から離れていた。
そのとき、急に体を包む柔らかな暖かさを感じはじめる・・・。
きっとリーブラの加護が届きはじめたに違いない!
女神は今夜の夢の中で、忠実な信者を少しは褒めてくれるだろうか?

・・・いかんいかん!
《王たちの冠》を届けるのが一番大事なことだった・・・。
ZEDの秘密を知ったからには、時間も場所も好きなように行き来できるんだから・・・。
いまは寄り道よりも無事冠を届けることを考えるべきだろう!!

どちらにせよ、マンパンはしばらく分裂状態になるに違いない。
何年も経てばまた別の権力者が現れてアナランドを脅かすことになるかもしれない・・・。
ま、それもしばらく先のことだ・・・。
当分の間は胸を張って生きるとしよう。
なんせ、どのアナランド人にも出来なかった偉業を達成した「パン屋の二代目」なのだから。
いずれアルノの名は伝説となって子から孫へと語り続けることになるはずだ・・・。

もう少しで低地ザメンを越えてイルクララ湖に達するはずだ。
バードマンの背で頬に当たる風が心地いい・・・。
あぁ・・・旅が終わったんだ・・・。
長くて困難な旅が。


〜〜〜完〜〜〜

sorcery_livedoor at 11:08|Permalink 王たちの冠 

December 16, 2006

第六十九話 最後の戦い

らせん階段を上りきると扉の前で息を整える。
この扉の向こう側でファーレン・ホワイデが壷を手に不意打ちしようと待ち構えているはずだ・・・。

用心深く扉を押し開いて部屋の中に足を踏み入れる。
以前来た時と同様に部屋の中は殺風景だ。
どこにでもありそうな寝室・・・むき出しの石壁につくられた細い窓から、わずかに夕日が差し込んでいる。

背後に十分注意を払いながら数歩踏み込む。
そのとき扉の影から物音が・・・。

ふりむいて扉の影に目をやると、その向こうからすすり泣きが聞こえてくる・・・。
頭のはげあがったでっぷりと太った老人が下着姿で佇んでいた。
・・・ホワイデだ。
真鍮製の大きな壷を抱えて立っている・・・。

「だめだ。」
男は泣きながらいった。
「わたしにはとてもできない!」
そう、出来ない・・・出来るはずもない。
なぜなら、こちらはその正体に気づいているからだ!

なるほど、すすり泣く哀れな老学者の姿はとても悪党には見えない。
上手く化けたもんだ・・・これなら騙されるわけだ。
・・・と感心してる場合じゃない。
あいかわらず鼻をすすり上げる老人に、お前の正体は分かっていると告げる。

老人ははっと息を呑むとあとずさった。
やがてその目が細くなり、顔つきが変わっていく・・・。
思わずひるんでしまいそうな、狡猾で邪な光がその両目に満ちわたる。

「そうか!お前は秘密を知ったんだな。
わしらが考えていた以上に手強い相手だったようだ。」
もはや正体を偽る必要性がなくなった大魔王はじりじりと後ずさる。
姿形こそいまだホワイデ老人のままだが、その顔からは哀れで弱々しい老人という雰囲気は消え去っている。
瘴気とでも言うのだろうか・・・息が詰まりそうな程の悪意が大魔王から噴出してくるのを感じる。
邪悪な笑みをうかべて大魔王が言をつなぐ。
「その技量には感服した。手厚く報いてやるぞ。
お前がここまで来た目的は《王たちの冠》を取り戻すためだな。」

そうだ!冠をアナランドの正当な保管者に返せ!
噴出する瘴気に抗うように要求する。
すると邪な笑みを浮かべつつ、老人の姿をした大魔王は机の中から何かを取り出した。

「ひと目だけ《冠》を拝ませてやろう。」
そういって手にした黄金に輝く冠を机の上に置く。

《王たちの冠》!!
ひと目見てそうわかる!
この冠と比べれば牢獄の塔でみた冠など単なる模造品に過ぎない!
なんという美しさ・・・荘厳さだろう!!
心を奪われるとはこのことか・・・。

・・・と、冠に心を奪われている僅かな間に信じられないことが起きつつあった!!
我に返ってホワイデ老人をみれば、その体は既に死んだように床に崩れている。
そしてその体の上には恐ろしい姿の生き物が現れつつあった!
冠のことなど瞬時に吹き飛ぶほどの禍々しさだ!

巨大な雄牛の頭。
足には蹄をもち、全身は黒い毛に覆われている・・・。
ふたつの鼻の穴からは煙を噴き出して・・・。
どうやら目の前に姿をあらわしつつあるのは、黄泉の国の悪魔そのものだ!

さぁ、決戦のときだ!
黄泉の国の悪魔が相手となれば、人間の力でどうにか出来る相手じゃない!
完全な姿を顕していない今こそ最初で最後のチャンスだろう。
魔法か?剣か?
体力は残り3点・・・。
ZAPやHOTなどの攻撃魔法を使う余裕は無い・・・。
となれば、不本意だが・・・肉弾戦あるのみだ!

大魔王の体が徐々にその形を整えつつある・・・。
その前になんとか勝負を決めよう!
今なら・・・大魔王の技量は7、体力も7・・・。
こちらは技量10、体力3、運勢は7点・・・。
完全な姿になるまでの僅か5ラウンド以内に決着をつけなきゃいけないのか。
これはグズグズしてはいられない!

さっそく1ラウンド目突入だ。
素早く駆け寄ると最初の一撃を見舞う。
大魔王の出目は・・・12!
ぶふ〜〜っ!
さ、さすがは悪の大魔王!貫禄の出目だ!
こちらは・・・8!
攻撃点は大魔王19・・・こちらは技量点10だから18。
・・・まじかよ!

運勢チェックでなんとか体力減少を1点に抑えたい!
現在の運勢点は8点・・・。
サイコロを振って・・・ていっ!出目は9!
お守りの力で1差し引いて・・・ぎりぎり幸運!!
あ、あぶね〜!!
ダメージは1点に減少、さらに鎖かたびらのチェックを・・・。
サイコロひとつを振って5か6が出れば、ダメージを1点減らせるから・・・。
とりゃ・・・6!よし!
結局体力点は減少せず!!
運勢点は1点減って7点に・・・。

やるな・・・大魔王。
残されたラウンドは4ラウンド・・・。

2ラウンド目。
大魔王の出目は10!
またしても高い!
こちらは・・・10!よし!
ここは、運試しでさらなる打撃を与えるべきだろうか?

・・・よし、運試しだ!
運勢点は現在7点だから、お守り効果で8点以下なら幸運ということだな。
いくぞ・・・6!!うおおお幸運!
運勢点は6点に減少。
さらに2点ダメージを追加して合計4点のダメージを与えたぞ!
大魔王の体力は3点を残すのみに!

3ラウンド目。
さぁ、うまくすればこのラウンドで決着だ!
大魔王の出目は・・・5!
よし!!このラウンドはもらったも同然!
こちらの出目は・・・7!
まだ2ラウンドあるし、ここは運勢チェックを無理にやる必要もないか。
大魔王の体力を2点差し引いて・・・残り1点!!

さぁ、4ラウンド目だ。
最初の一撃こそ喰らったものの、完全体になる前の大魔王ならなんとか勝てそうだ!
次の一撃が命中すれば勝負がつく・・・。

傷つきつつ咆哮とともにその腕を振るう大魔王!
その攻撃の出目は・・・8!
さぁ、これが最後の攻撃だと信じて・・・こちらの出目は・・・。
とりゃ〜・・・10!命中!!

咆哮とともに繰り出された渾身の腕の一振りを身を引いてかわす。
そして頭上に高々剣を振り上げると、禍々しい雄牛の頭に向けて振り下ろした!!


sorcery_livedoor at 12:20|Permalink 王たちの冠 

November 23, 2006

第六十八話 禁忌の呪文

すねたように背を向けたジャンを横目に考え込む。
やはり魔法の呪文にこそ、このピンチを切り抜ける手掛かりがあるのでは無いだろうか?

なにか呪文の手助けとなるような物が無いかどうか背負い袋をひっかき回す。
それを見かねてジャンが邪魔をする。

「いってるでしょう、時間の無駄だって!」
確かにジャンがいるかぎり通常の魔法は効果が無い。
ミニマイトの霊気が魔法を妨害してしまうからだ・・・。
イラついているジャンに説明する。
ミニマイトの防御霊気の影響を受けない呪文が無いか探しているんだってば・・・。

「ミニマイトの霊気をしのぐほどの魔法を知っている者なんて、ほとんどいやしません。」
お願いだからそんな体力の無駄使いはしないで下さい、とジャンは訴える。
無駄にして良いだけの体力・・・か。
今、体力点は10。
・・・無駄に出来るでしょう!
だからさ、ジャン、魔法を探すの手伝ってくれよ〜。

「・・・。あなたの知ってる強力な魔法をいってごらんなさい。」
根負けしたジャンがしぶしぶ向き直る。
ひとつひとつ霊気を打ち破ることが出来る魔法かどうか教えてくれるという。

さっそく、知りうる限りの強力の魔法を羅列する。
アレでしょ、ソレでしょ・・・え〜っとコレでしょ。
その度にジャンが首を横に振る。
・・・やっぱり無駄なのかなぁ。
あと他に知ってる呪文で強力なものといったら・・・ZEDくらいかな?
でも、どんな効果かよく知らないんだよな〜。
う〜む、ZEDは無しかな・・・。

しかしZEDの呪文を口にした瞬間、ジャンが金切り声を上げた!
「ZEDの魔法だって!ZEDの魔法を知ってるんですか!」
耳が痛くなるようなジャンの叫び声に圧倒される。
ジャンが言うにはZEDの呪文ならばすべて問題は解決するらしい。
ミニマイトの強力な防御霊気もZEDの呪文の前には効力を発揮できないという。

驚いた・・・しかし、なぜアナランドの呪文でも秘中の秘であるZEDをジャンが知っているんだ?
素朴な疑問をジャンに向ける・・・。
するとジャンは静かに話し始めた。
「じつは、おれたちミニマイトは、たいていの魔法使いよりも魔術のことにくわしいんです。」

ジャンが言うにはミニマイトという種族は、もともと魔法と権力に強い執着を持つ種族だったそうだ。
その性質からやがてミニマイト社会は崩壊し、互いに仲間を避けて放浪をする一匹狼になったという。
そのそもそもの原因が魔法だったというのだ。

ため息をつきながらジャンは続ける。
「ZEDの魔法はスローベンで作り出されたと思われていますが、じつはそうではないんです。」
マンパンの時間の神クロナダに仕える呪術師が考え出したものを、ミニマイトの一族が盗み出したという。
その呪文がミニマイトの社会が崩壊した際、スローベンの魔術師に持ち込まれたのだそうだ。
ZEDの呪文は空間と時間を旅する魔法だが、その取り扱いは難しいという。
完全な精神統一が必要で、移動する先と時間が完全にイメージ出来ていなければならない・・・。
それが出来ればスローベンの魔術師と同じように時間と場所を自由に旅ができる。

「ZEDの魔法についておれが知っているのは、これだけです。」
魔法のかけ方は教わってないし、かけたいとも思いません・・・。
それだけ言うとジャンは口をつぐんだ。

・・・ZEDか。
完璧な精神統一が必要で、移動する先を完全にイメージしなければならない・・・。
ジャンがZEDについて詳しくて助かった。
よくわからないままに試していたら大変なことになっていたに違いない。
時間と場所を移動する究極の呪文ZED・・・。
これならこの牢獄を抜け出すことが出来るはずだ!

さぁ、脱出する方法は分かった・・・。
いや、脱出というより、むしろ突入する方法か。
薄明かりの中、不安げなジャンを尻目におもむろに立ち上がる。
ジャンがまさかという顔でこちらを見上げた。
決意を込めて見返すと、呪文の詠唱に向けて精神集中を開始する・・・。

体力を7減らして・・・残りは3点!
さずがに強力な呪文だ・・・体力の消費が凄まじい。

完全な精神統一を終えて呪文の詠唱を開始する。
呪文の詠唱が進むにつれ、体が震え始めた・・・。
ミニマイトのジャンの鋭い叫びが聞こえる。
ZEDの呪文に対してはミニマイトの防御霊気も役に立たない・・・。
ジャンは床に倒れて胸をかきむしって苦しんでいる。
・・・ごめんよ、ジャン。
これしか方法がないんだ!
罪悪感を感じる一方、魔法が効いている手応えも確かに感じる。
魔力の充実にあわせ床の上でのたうちまわっていたジャンが不意に動かなくなった。
苦痛のあまり死んでしまったのだろうか?
しかしここで呪文を止めるわけにいかない・・・!
やがて部屋がぐるぐる回りはじめ、波が押し寄せるような音が辺りを包む・・・。

!!
不意に体のバランスが崩れると宙に浮いたまま体が転がった。
その下を世界が流れすぎていく!
様々な人々、様々な場所や景色、様々な生き物がまるで水のように流れて・・・。
場所と時間を移動する・・・。
そうか!きっと過去に向かって進んでいるに違いない!

しかし、いつまでこんな状態が続くのだろうか?
少し不安を感じ始めたその時、始まりと同じように突然終わりはやってきた。
そこは、ついさっきまでいたはずの塔の牢獄ではない・・・らせん階段の途中だ!
どうにか体のバランスを取って立っている。
転倒しないように足を踏ん張って、らせん階段の上方に目をやる。
階段を上りきった先には頑丈な扉が見える。

・・・。
・・・呪文は完全に成功だ・・・。
記憶が間違っていなければ、ここはファーレン・ホワイデの部屋の手前。
つまり、本物の大魔王の部屋の手前ということだ・・・。

随分と遠回りさせてくれたな大魔王!
今度こそ騙されないぜ!
最後の決戦の場へ向け、確かな足取りで僕は階段を上がり始めた・・・。

sorcery_livedoor at 22:11|Permalink 王たちの冠 

November 18, 2006

第六十七話 再会

ようやくの思いで体を床の上から引き起こす。
そしてそのまま座り込むと、失意に打ちひしがれつつ辺りを見回した。
行き着いた先は牢獄か・・・。
小さな窓からさしこむ明かりが、わずかに部屋の中を照らしている。
扉の前に金属の皿が一枚置いてある・・・その他はきれいさっぱり何もない。
塔のてっぺんに押し込まれたという訳だ・・・。

この先どうなるんだろう・・・ぼんやりと扉の前の皿を見る。
皿には食べ残しのの食事が・・・。
・・・ん?食べ残し!?
他にもこの部屋に誰かいるのか?
あらためて周囲を見渡す・・・しかし、そんな気配はない。
と、そのとき何かがそっと肘をひっぱった。

「大丈夫ですか?けがはないですか?」
きんきんした声に驚きながら振り向くと、そこには懐かしい姿が!
ミニマイトのジャン!
思わず笑みが浮ぶ。
しかしシャムタンティの丘で知り合ったミニマイトがなぜここに?
カーレの手前で別れてから随分経つぞ・・・。

「ああ、神よ。」
ジャンも思わぬ再会に驚いている様だ。
「アナランドのお友達じゃないですか!」

感無量といった様子で小さな友人は続ける。
「ああ、こんなことになってしまって。
あなたが捕らえられたのは、みんなおれのせいなんだ。」
・・・え?どうゆうこと?
そういえばミニマイトと一緒にいる間は魔法が使えなくなるし・・・面倒なことばかりだった気がする。
・・・この再会は幸運じゃなくて不運なんじゃないか?
しかし、それはさておき、何でジャンまで大魔王に囚われているんだろう?
気になるなぁ・・・。

「あなたとはぐれてとても悲しかったですよ。」
ジャンは言う。
どうやらカクハバードを越えていくのに手を貸そうと思ったらしい。
しかし背徳の港町カーレに入る気にはとてもならなかったようで、先回りしてバグランドで探していたそうだ。
驚いたことに魔女フェネストラとジャンは知り合いで、こちらの動向を知ったものの、その貧弱な羽根の力では湖を渡ることは出来なかったという。
仕方ないので岸伝いに来た・・・というジャンの姿を見てあることに気がついた。
その背中に生えていたはずの羽根が無い・・・。

「あの黒ん坊の大食らいのやつらめ!」
ジャンはうめくように言った。
「あいつらが俺の羽根を切ったんです!」
黒ん坊の大食らいというのは衛兵のことだろうか?
レッドアイに掴まったジャンは、衛兵たちに羽根を切り取られてここに閉じ込められていたらしい。
自慢の羽根を失って、すっかりジャンはしょげ込んでいる・・・。

・・・それにしても何故大魔王は自分の住む塔に僕を閉じ込めるんだろう?
さっさと牢獄用の別の塔なり、拷問部屋なりそれなりのところへ連行しても良さそうなのに。
元気を無くしているミニマイトを横目に呟く・・・。
するとミニマイトは驚いた様子で首を振り振りこう言った。
「あなたは思いちがいをしてますよ。」

・・・へ?思い違いだって?どういうこと?
「ここは大魔王の塔ではなくて、牢獄用の塔です。」
!!・・・うそだろ!?
ジャンが言うには、大魔王は大事な捕虜をこの塔に閉じ込めるようにしているという。

え?でもファーレン・ホワイデが・・・あの兵器の老学者が・・・。
ジャンに兵器の専門家の老人が言ったことを残らず話す。
話すうちにジャンはさもおかしそうに笑い出した。

「『兵器の専門家』のファーレン・ホワイデなんて嘘っぱちですよ。」
・・・マジ?
「その老人が、変装した大魔王本人だったんです!」
げげ!!
じゃ、じゃあ大魔王にまんまと騙されて、わざわざ自分から牢獄に来てしまったってことか!?
ジャンは愕然とする僕を哀れむように見つめている・・・。

くうぅぅ〜・・・大魔王め・・・。
それにしても大魔王に遭遇していながら、全く気付かなかったなんて!
そのうえ、のこのこ自ら進んで牢獄に向かっていたとは・・・。
あ〜、もぉ!自分が情けない。
しかし・・・いい事を聞いた。
次にあの老人に会ったときはその正体を暴いてやる!絶対に逃さない!!

・・・次に・・・か。
その前にこの牢獄を脱出しなければいけないんだよなぁ・・・。
しかし、先程牢獄に連れて来られたときの茫然自失とした状態から、随分と立ち直っているいる自分に気づく。
よ〜し、なんとか脱出の方法を考えねば!

・・・う〜む、考えれば考えるほど状況は絶望的だ・・・。
扉は頑丈だし、錠前も頑強だ。
窓から飛び降りるにしてもこの高さは致命的だろう。
衛兵が食事を差し入れにきたときに襲い掛かるか?
いやいや、そもそも食事が出てくるかどうかも定かじゃない・・・。
魔法を使って・・・ってミニマイトがいる限り魔法は使えないし・・・。
一体どうしたものか・・・。

そうだ!シンのバードマンを呼び出す銀の呼び子が背負い袋にはいっていたはず・・・。
って、冠も手に入れてないのに彼らを呼び出すわけにもいかないか・・・。
・・・うう〜む。
思い悩んだ末、ジャンに話しかけてみることにする。

「俺の意見を聞きたいって?逃げようなんて考えるだけむだですよ。」
ジャンはすっかり諦めている様子だ。
こちらが考えていたことなど全て既に考えていたようだ。
衛兵への不意打ちも、魔法も、窓から飛び降りることも・・・。
すべて無駄だ、尋問に誰かが来るのを待つしかないという。
・・・はたしてそうなのだろうか?
本当に逃げ出す手立ては無いのだろうか・・・。
なにか忘れていることは無かったろうか?

・・・。
薄暗い牢獄の中で考え込む。
何かが、ひっかかってるんだ・・・何かが・・・。


sorcery_livedoor at 21:43|Permalink 王たちの冠 

November 03, 2006

第六十六話 対決

最強の武器である祝福された樫の木の槍を握り締めながら扉を押し開く。
高鳴る鼓動を感じつつ努めて冷静に部屋の中を覗きこんだ・・・。

部屋の中は何かの事務室の様な雰囲気だ・・・壁には図面や地図が所狭しと貼り付けてある。
床の上には藁が敷き詰めてあるのは何だか妙な気もするけれど・・・。
窓には奇妙な装置が据え付けてある。
・・・望遠鏡?星でも見るのだろうか。
むむむ・・・この部屋こそ・・・大魔王の執務室!?
緊張を体に駆け巡らせつつ、さらに部屋の奥を覗き込む。

奥の机には髪の黒いやせた男がこちら向きに腰掛けていた。
そっと部屋に踏み入った気配に気づいたのだろう、半月型の眼鏡越しにこちらを見やる。
その顔に皮肉な笑みが浮かんだ・・・。
この容貌、全てを見通したような不敵さ・・・こいつが大魔王に違いない!

さらに一歩を踏み出そうとしたとき、男が口を開いた。
「何者だ?いや聞かなくてもわかっている。」
理性的な声は明らかに他のマンパンの生き物たちとは違う・・・。
こう、なんというか大ボスとしての貫禄と実力がびしびしと伝わってくるようだ。

「アナランド人だな。ここまでやってくるとは思わなかった。」
ふふん、パン屋の二代目を舐めるなよ!
「その勇気と技量には敬服するが、それももうここまでだ。
ここにいるのは、臆病なブラックエルフや能なしのクラッタマンとはわけが違うぞ。」

・・・さすが、大魔王・・・その圧力たるや、マンパン随一だ。
しかし!こちらも数々の死線をくぐり抜けてきたんだ!
ちょっとやそっとじゃびびらないぜ!
キッパリとした口調で王たちの冠をアナランドの正当な保管者に返すよう要求しよう!
冠が戻るまではこの旅を終えることは出来ないのだから!!

「ああ、王たちの冠のことか。
いますぐ返してやるから、それをもってここから消え失せろといったら、どうする?」
・・・へ?
ちょうど、あのくそいまいましい代物を厄介払いしたいと思っていたところ・・・だって?
・・・ホントに?
いかにも面倒臭そうな様子の大魔王に、そう語りかけられて心が揺らぐのを感じる。
うむむ・・・大魔王は間違いなく強敵だ。
そんな相手と争わずに目的を達成出来るならば、それにこしたことは無いんだろうけど・・・。
この言葉を信用できるのだろうか??

武器でも、魔法でもすんなり勝てる気はしない・・・。
大物の悪党こそ意外に話し合いで解決できるかもしれないし・・・。
まずは話し合いに応じてみよう。

用心深く構えていた槍の穂先を下ろすと、話し合いに応じると答える。
おとなしく冠を引き渡すならばこちらも黙って出て行こう・・・。

やせた男は軽く頷くと、口の中で二言三言何事か呟いた・・・。
すると空中に何かゆらめきが現れて、男の手の平の上に降りてきた。
やがてゆらめきがはっきりとした形を現す。
僕はその形をみて思わず両目を大きく見開いた!
王たちの冠!!

咄嗟に手を伸ばして掴もうとする。
が、それより早く大魔王は手を引っ込めた。
むなしく宙を掴んだ手で槍を掴みなおすと、あらためて大魔王に相対する。

笑いながら大魔王は言う。
「そんなにあわてなさんな。
約束だぞ。すぐにここから出て行くんだ。」
・・・わかった、約束しよう。
「出て行く途中で誰にも危害をくわえない保証として、武器をここへ置いていってもらおう。」
・・・。

・・・武器を置いて行けだって?
武器を手放した途端、今度はこちらの安全が保証されないじゃないか!
さすがにそいつは無理な要求だ!

早く武器を捨てろとばかりに机を指で弾く大魔王・・・。
・・・いや、そればかりは無理だ。
交渉は決裂した・・・隙を見て奪い取るしかないだろう。
僕はしぶしぶ槍を捨てる素振りを見せて・・・不意に突きかかった!

樫の木の槍が凄まじい勢いで大魔王の首筋に襲い掛かる!
しかし、薄笑いを浮かべつつ、大魔王は身を翻した。
その笑いは、こちらの心の動きをすでに見透かしていたとでも言いたげだ。
「そんな物で俺を殺せるとでも思うのか?」
そして余裕たっぷりの表情で、思い通りにこちらの武器を操ってみせようと宣言した。
そんなこと!出来るものならやってみろ!
もう一度槍を繰り出す。

またしても穂先をかわして大魔王が静かに言う。
「よろしい。それじゃ、見せてやろう・・・。」
男の両手が動いたとみるや、祝福された樫の木の槍は突然その重さを増した!
何!?突然槍は鉛の塊の様に重量を増した!
槍の変化に驚きつつ握りなおす。
しかし、握り締めた槍は生き物のように手中からすり抜ける。
そしてひとりでに宙に浮んだ!
その穂先が睨み付ける様にこちらを向く・・・マズイ!

繰り出される槍の穂先をかわしつつ後ずさる。
あわわ・・・みるみるうちに部屋の隅に追いやられてしまった。
額に汗を感じながら大魔王を横目に見る。
相変わらず薄笑いを浮かべている・・・が、やがて口を開いた。

「では、仕上げに取り掛かるとしよう。こんどはロープだ!」
そういって再び両手を動かすと空中に一本のロープが舞い上がった。
まるで蛇のように鎌首をもたげると、男の命令を待つ。
男が命令を下す。
その途端こちらに向かって飛んで来ると、素早く両手首に絡みついた!

・・・ぐぬぬ。
あっという間に縛り上げられてしまった。
これは捕まってしまったということですか?
全身で喘ぎながら、顔を上げて大魔王を見る。
大魔王は面白そうにこちらを眺めていたが、やがて大声で叫んだ!

「衛兵!」
その声で壁の隠し扉が開くと三人の衛兵が姿をあらわした。
・・・万事窮す・・・。
衛兵は呆然と立ち尽くす僕の腕を乱暴につかむと、部屋の外に引きずりだした。
事態の急激な悪化に呆然自失・・・。
抵抗らしい抵抗も出来ないまま、塔のてっぺんに続く狭い階段を小突かれながら上っていく。
やがて頑丈な錠前がついた扉が開かれ、その中に突き飛ばされた。

汚れた床に転がりながら考える・・・。
冠を目前にしながら・・・。
暗澹たる気持ちと後悔の波が押し包む。
祝福された樫の木の槍も失ってしまった・・・でも、そんなことは大したことじゃない。

もうここから逃げ出すことさえ絶望的だろう・・・。
任務は失敗に終わったということだ・・・。

sorcery_livedoor at 11:23|Permalink 王たちの冠 

October 26, 2006

第六十五話 ヒドラ

「それ」はゆっくりと動き始めた。
大きな袋にも思われた「それ」はうろこに覆われた皮を波打たせながら起き上がる。
あまりの驚きに棒立ちで見守る・・・。
やがて目の前に起き上がったのは噂に聞いた巨大なヒドラだった!!

うは〜・・・マジですか。
しかし、その姿は完全ではない様だ。
首をもたげてもその先に頭がない・・・。
・・・。頭が無いのになんで生きていられるんだろう?
疑問が頭をかすめる・・・が、すぐにその理由はハッキリした!

なんと!もたげた首の先から頭が生えてくるじゃないか!!
しかもその頭は想像していたような蛇の頭ではなくてグロテスクな人の顔だ!
あまりの事態に呆然としているうちに、あることに気がついた。

あごひげを生やし、頬を膨らました真っ白な顔は・・・風の神パンガラ!!
続いてあらわれたオレンジ色の輝く髪に燃える瞳の女の顔は・・・太陽の女神グランタンカ!?
ほかの首にも次々にマンパンの神々の頭が生えてきている!!

・・・まずい。
これは、非常にまずいぞ!
もしこのヒドラがマンパンの神々の力を備えているとしたら、人間なんぞに到底勝ち目は無い。
完全な姿になる前になんとかしなけりゃ!
って、どうにかなるのかホントに・・・?
半ば絶望感に囚われながら剣を抜き放つ。

首が全て揃う前ならなんとか・・・。
そこに一縷の望みをかけてにじり寄る。
そうしているうちに次の頭が現れた。
顔全体が緑色の鱗におおわれて尖った鼻にエラを持つのは、水の神ハイダナか!?
次の瞬間ハイダナの耳まで避けた口からすさまじい水流が噴出した。
不意をつかれてもんどりうつ。
いたたた。
体力を1点減らして10点に・・・。
ぐずぐずしていられない!戦闘開始だ!

・・・。
技量17の体力24ってなんだそりゃ!
今まであったどんな敵よりも強力だ・・・。

いやいやいや、このヒドラ強力過ぎるだろ!
むふふふ、勝てる訳がない・・・。
あまりの強力さ加減に思わず意味不明な笑いがこぼれる。
ええい、もうどうにもならん!
第一ラウンド開始だ!出目の奇蹟に賭けるしかない!!
て〜い!
気合いを入れて振ったサイコロの目は・・・ヒドラが8のこちらは3。
だめじゃん・・・。
出目でも負けてりゃしょうがない・・・とほほ。

剣を振るった次の瞬間、ヒドラの太い尾が胸に激しく叩きつけられる!
強力な一撃をもろに食らって、そのまま壁に叩きつけられ・・・ることを覚悟・・・したのに・・・んん?
あれ?衝撃がいつまでたっても無い・・・。
あの太い尾の一撃をくらって平気なはずが無いのに・・・。

・・・!!
そうか!
だんだん状況が飲み込めてきた!
このヒドラは現実の生き物ではない・・・幻覚に過ぎないんだ。
そう考えると全て納得がいく・・・。
部屋に漂う腐臭・・・生き物の気配を感じなかったこと・・・。

そういうことなら恐れることは何もない。
目を閉じて心を落ち着かせて・・・もう一度あたりを見回す。
思ったとおりだ!
さっき入ってきたときと部屋の中の様子は全く変わっていない!
ヒドラの死骸も横たわったままだ・・・。

魔力を失ったヒドラの死骸には何の脅威もない。
いやいやいや・・・今度ばかりは、ダメかと思った。
一息ついて奥の扉へ再び近付いていく。
幻覚が破れたのかさっき感じていたほど扉に危険も感じない。
しかし、細心の注意を払って取っ手を回そう・・・。

カチャリという小さな音とともに取っ手は回る。
鍵はかかっていなかったようだ・・・。
慎重に扉を開いても、鉄釘も飛び出さなければ爆発も衝撃も無い。
なんだ普通の扉か!

拍子抜けしながら向こう側を覗き込む。
扉の向こうには上に向かうらせん階段が見えた。

足音を殺しながら、息を詰めてらせん階段を上っていく。
やがて階段をのぼりきると、真鍮の枠をはめた頑丈そうな扉が・・・。
扉は手の込んだ立派な構えだ。

この扉の向こうに大魔王がいる・・・そんな気がする。
さぁ、今度こそ対決だ!

sorcery_livedoor at 23:10|Permalink 王たちの冠 

August 15, 2006

第六十四話 秘密の合言葉

囚われの老人に礼を言って部屋を後にすると、言われた通り通路左の石壁に向かう。
秘密の抜け道を探して石壁を丹念に調べていく。

しかし、隅から隅まで探しても隠し扉の様な物は見つからなかった。
・・・もう一度引き返すの?
ブンブンブン・・・頭を振って思い直す。
そろそろ衛兵たちも異変に気づくはずだ・・・。
とても無事に引き返せるとは思えない。

その時聞こえるはずの無いリーブラの声が聞こえたような気がした!

「わたしのしもべのひとりが秘密の道を抜けて、砦から逃げ出してきました。
その男は、隠された扉をあける合言葉を発見したのです。」

・・・そう言ってたぞ。
確かにそう言ってた!
秘密の扉の合言葉・・・。
すっかりスローベンドアのことだと思っていたけど、きっとここの事に違いない!

石壁と向かい合うと教えられた合言葉を呟く・・・。
・・・どきどき・・・。
すると壁から重くきしむような音が聞こえてくるではないか!
やがてさっきまでは何も無かった石壁の表面に割れ目が出来てきた。
秘密の扉が姿をあらわし始めた!
心臓を高鳴らせて待つうちに、人が通り抜けられるくらいの扉があらわれる。
そのとき、階段の下のほうから騒がしい物音が聞こえてきた。
急いだ方がよさそうだ!
すばやく扉に滑り込むと後ろ手に扉を閉じる。

扉の向こう側は狭いトンネルになっていた。
下に続く階段がつづいている。
ジグザグに下る階段を進むと、やがて出口らしい扉に突き当たった。
長いこと使われていなかった埃まみれの扉を押すと、蝶番のきしむ音とともになんとか開くようだ。
用心深く外をうかがう。
・・・ホワイデ老人の言っていたとおりこの扉は砦の外に通じているようだ。
しかし、大魔王が住むという塔はまだ見えるだろうか。
隙間から塔のある方をのぞき見る・・・。
・・・ほっ。
塔はまだ見えてる!
多分一度見た人間には姿を隠すことは出来なくなるに違いない。
さて、あたりに誰もいないことを確認して扉を出よう。

薄暮の中、塔に向かって歩き出す。
塔の入り口にはすぐに辿りつくことが出来た。
しかし、入り口にはどっしりと頑丈な扉がついている・・・。
押してみたが鍵がかかっている様だ。

・・・なになに?サイコロふたつ振って技量点以下なら首尾よく扉を開けることが出来る・・・。
失敗しても成功してもサイコロを振るたびに体力を1減らす・・・って。
剣を使っての戦いじゃないから純粋な技量点での勝負か!
きついなぁ・・・なんで魔法が使えないんだよぅ。
文句を言っても始まらない・・・。
現在の技量は5点!体力は14点!

では一回目・・・7!うう。
次こそは・・・二回目は・・・8!ぐぅ。

さすがに5はきついなぁ・・・確率は36分の6だもんね。
三度目の正直だ・・・てい!
4!!キターーーーー!
3回挑戦したから体力を3減らして11に。
このままずーっと開かなかったらどうなったんだ・・・まったく。

何はともあれ扉は開いた。
勢いあまって頭から扉の中に飛び込んでしまった。
床には麦わらがしいてあり、随分殺風景だ。
ここが大魔王の本当の住処か?想像とは随分ちがうなぁ。
見渡せば左右の壁に扉がひとつづつある・・・。
・・・左だ。
そんな感じがする。

本能に任せて左の扉を開ける。
扉には鍵がかかっていなかった。
すんなりと中に入る・・・部屋は三日月形の奇妙な形だ。
光は部屋の奥の小さな窓から入ってくるだけで、かなり暗いなぁ。
それよりも、鼻をつくこの匂いは・・・腐敗臭だろうか?

用心深く部屋の中に進む。
生き物の気配は感じられない・・・向こう端に扉があるようだ。
足早にそちらへ向かおうとしたとき、部屋の真ん中に何やら大きな塊が落ちているのに気づいた。
動いている様子はないな。
部屋の中央に鎮座する大きな塊は気にはなるけど・・・。
先を急ぐべきだと判断して扉に近付く。

部屋の奥に辿りつき扉の取っ手に手をかけようとする。
そのとき部屋の中に大きな声が響いた!
「止まれ!その取っ手に触るな!」
ご主人様の許しの無いものはらせん階段をのぼることはできないことになっている、と声は続ける。
もし逆らえば命をもって償うことになると警告する・・・。
・・・どうしよう?
ご主人様とは大魔王のことに違いないだろう。
この扉にスローベンドアの様な魔力が込められていたならば、取り返しがつかない・・・。
部屋を出てもう一つの扉を試すべきだろうか?

一旦扉からあとずさりして考える・・・。
考えていたその時、部屋の外で物音が聞こえた。
!?・・・衛兵だろうか?
どこか暗がりに身を潜めたほうが良さそうだ。
さっき目にした大きな塊の影なら身を隠すには十分だろう。

いそいで部屋の中央までもどると大きな塊に近付く。
それにしてもこいつは何なんだ?
じっとして動かない・・・生き物ではなさそうだし、がらくたでも詰めた袋なんだろうか?
異臭に眉をしかめつつ腰をかがめる。
大きな塊の表面には爬虫類の皮のような光沢が・・・。

何か大きな動物の死骸だろうか・・・?
そう思ったその時、その大きな塊が動き出した!

sorcery_livedoor at 13:32|Permalink 王たちの冠 

July 19, 2006

第六十三話 囚われの男

4つ目のスローベンドアを抜けて、ついに大魔王のいる塔に辿りついた。
目の前のらせん階段を上って行けば大魔王の執務室があるに違いない・・・。

ここまで来れば任務は達成したも同然だ。
あとは邪悪な砦の主の命を奪って冠を取り戻すだけ・・・。
塔をのぼる階段を様々な思いとともに上がっていく。
上りきったところには鍵のかかっていない扉があった。
この向こうに大魔王がいるのだろうか?

武者震いをおさえながら・・・扉を開く。
しかし、壁に本が並ぶ立派な書斎を予想していたのに・・・。
その予想はみごとに裏切られた。
部屋の中は殺風景で、どこにでもありそうな寝室のようだ。
むき出しの石壁につくられた細い窓からわずかに明かりははいってくるが、日はもう沈みかけている。
安っぽい机もあるんだけど・・・誰もいないのだろうか?

拍子抜けしながら部屋に数歩踏み込む。
そのとき扉の影から物音が!
思わずふりむいて身構えると続いてすすり泣きが聞こえてくる・・・。
扉の影には頭のはげあがったでっぷりと太った老人が下着姿で佇んでいる。
真鍮製だろうか?大きな壷を抱えているようだ。

「だめだ。」
男は泣きながらいった。
「わたしにはとてもできない!」
おそらく部屋にはいったところを真鍮の壷で殴って気絶させるつもりだったに違いない。

とても悪党には見えない男だ。
何か事情があるんだろう・・・。
興奮してすすり泣く男をなだめながら、部屋の中のベンチに並んで腰掛ける。
それにしても一体どういうつもりだったんだろうか?
落ち着きを取り戻し始めた男はやがて話し始めた。

「わしの名はファーレン・ホワイデだ。」
どうやらマンパンの人間でもカクハバードの人間でもないらしい。
ザンズム連峰のはるか西方のラドルストーン王国の科学者で造兵学が専門だという。
兵器の発明家としては有名人で、閃光粉末が最大の発明なのだそうだ。
しかしその発明によって大魔王に目をつけられた彼は、バードマンによって拉致されてきたらしい。
それ以来、大魔王の世界征服のために研究を無理強いされているという・・・。

なんとも気の毒な身の上の老人に、アナランドから王たちの冠が奪われたことを話す。
老人はうなづきながら、大魔王は常に手元に王たちの冠を置いているという。

大魔王の居場所を尋ねると、ホワイデは立ち上がり窓辺に立った。
「ああ、それならお安いごようさ。来なさい」
そういって窓の外を指差す。
「大魔王は、マンパン砦へはめったにやってこない。」
なるほど・・・へ?マジで?
あまりの発言に口はあんぐり。
じゃ、ここまでの苦労はなんだったんだ・・・。

腰が砕けそうになりながらかろうじて立っていると、老人は続ける。
大魔王はマンパン砦は敵を防ぐには万全だと思っていない・・・。
世間に対しては砦に住んでいるように見せかけて別のところに住んでいるという。
そして指先で高地ザメンの山々を指し示す・・・。

おもわずうめき声がもれる・・・。
もう一度砦の外に忍び出て、また旅をつづけなけりゃいけないの?
暗澹たる思いでベンチに腰を落とす。
くぅ〜・・・がっくし。

失意にすっかり肩を落としていると、老人が気遣わしげに語りかけてきた。
「がっかりすることはないよ、お若いの。
ひとつわたしの魔術をお目にかけよう!」
老人はそういうと手をメガホンのように口に当てて聞いたことのない言葉を三つ唱えた。
呪文の効果があらわれるのを呆然と見守る。

塔の外に靄のようなものがあらわれ、それはゆっくり上に伸びていく。
それにつれ老人の言った意味が分かってきた。
魔法の力で隠されていた別の塔が砦の外にあらわれたのだ!
ファーレン・ホワイデは自慢げな顔で振り向いた。
「あれが大魔王の塔だ。やつはあそこにいる」

暗くならないうちにたどり着かなければならないだろう・・・。
それにしても、ここにたどり着くだけでボロボロだ。
気づけば呪文でDOCが使えるぞ。
しっかり回復していくとしよう。

薬を取り出しDOCの呪文を唱える。
体力を1減らしてから、全快させる・・・。
体力点は全快して14点!

さて、それでは本当の大魔王の住処に向かうとして・・・。
ホワイデ老人は行き方をしってるんだろうか?
「ひとつだけ方法がないこともないが・・・。」
そういって老人は語り始めた。

扉を出て左に行ったところに頑丈な石の壁があるという。
その壁に秘密の抜け道が隠されているのだそうだ。
以前大魔王がここに住んでいたときには秘密の脱出路にしていたらしい。
残念ながら合言葉は知らないそうだ・・・。
そりゃ、そうだよね・・・知ってたら逃げるわな。

その脱出路が使えなければ、もう一度塔の中を通り抜けて外に出るしかない。
う〜ん・・・それは無理でしょ。
とにかく秘密の抜け道を探すとしようか。

sorcery_livedoor at 23:16|Permalink 王たちの冠 

June 28, 2006

第六十二話 眠れぬラム

衛兵隊長を見送ると向かいの大きな扉に手をかける。
開いた扉の向こう側は大きな広間になっていた。

広々とした大きな部屋の周囲はアルコーブが彫りこまれているようだ。
壁にとりつけられた松明が、大理石でできた壁や床をゆらゆらと照らす。
反対側の壁には両開きの扉が見える・・・。

ふむ・・・広間のなかには誰もいないのかな。
ただ、部屋の中央に高さ60センチほどの台座があり大理石の大きな彫刻が置かれている。
彫刻はこちらのほうを向いて立っているようだ。
犬にしては大きいな?いや・・・羊か?
ぼんやりとした松明の光ではよく見えない。
罠があるかもしれない・・・。
とりあえず慎重に向こう側の扉に近付いていくとしよう。

慎重な足取りで5歩ほど進む。
・・・?気のせいかな?
確かに部屋の中央にある彫刻が動いたような気がしたんだけど・・・。
松明のあかりでゆらめいて見えるだけかもしれない。

首をかしげつつ次の一歩を踏み出す。
その時、きしむような物音が彫像から聞こえてきた。
彫像はこちらの動きにあわせて台座の上で向きを変えている・・・。
間違いない・・・動いている!!

さらに彫像を横目に二歩ほど歩いてみる。
すると不自然なまでの早さで台座から彫像が跳び下りた。
その異常な素早さには戦慄さえ覚える・・・。
緊張して様子を窺って・・・って突進してくるじゃないか!!

頭をさげて猛烈なスピードで突進してくる彫像!
避けることができるだろうか?
ここで運試しだ・・・現在運点は8。
お守りの力で出目から1引けるから9以下なら幸運か。
あのスピードだ、避けなければ大怪我するかもしれない・・・。
では・・・とおりゃ!
出た目は11!
ぐはっ・・・不運!
お守りの力で不運と出たときは運点を減らさなくてもいいのがせめてもの救いか!?

結局大慌てで避けようとしたけれど・・・彫像の突進からは逃げられなかった!
彫像の頭で尻を突き上げられ宙を舞い飛ぶと壁に激突する。
イタタタタ・・・。
体力点を2点失って4点に・・・って死んでしまいそうだ。
痛みをこらえつつ体勢を立て直す。
やばい・・・やばいぞコイツ。

この不気味な彫像に対抗できるような道具はなかったかな・・・。
記憶を呼び覚ます。
よく見てみればこの彫像は羊に似てないか・・・?
羊・・・仔羊・・・ラム・・・。
眠れぬラムか!!

「眠れぬラムを眠らすために
 シャムを探し出すがよい」
きっとこの彫像が眠れぬラムに違いない・・・。
だとすれば、バクランドで出会った女魔術師のシャムがくれたあのガラス瓶が役立つに違いない!
すでに方向転換を済ませこちらの様子をうかがう彫刻を尻目に、背負い袋をかき回す。
ガラス瓶・・・ガラス瓶・・・あった!
さっそく取り出してガラス瓶の栓をひねる・・・が、固い。
んん〜、栓が抜けない!!

気がつくと彫像は再び凄まじい速度で突進をはじめた!
くそ〜、こうなりゃガラス瓶ごとぶつけてやれ!
追い詰められて投げつけたガラス瓶は彫像の頭に吸い込まれる・・・。
突進する彫像のスピードも手伝って、そのまま砕け散る。
派手な音とともに中の液体が彫像にふりかかった!

・・・。
そのとたん彫像のうごきがピタリと止まった・・・。
そして何かと戦うようにその場でよろめいている。
お?効いてるのかな?
液体の刺激臭が漂う中、息を呑んで様子をうかがう・・・。
彫像の首筋のあたりからは白い湯気が立ちのぼり、ついに大理石の羊は足を滑らせて横倒しになった!

チャ〜ンス!
今とばかりに両開きの扉に駆け寄る。
そして扉に辿りつくと羊を振り返った。
げ!!もう立ち上がってる!
液体の効果はもう無くなってしまったのか!
全身の血が凍りつくような思いで扉に向き直る。
後ろからは大理石の床を蹴る彫像の蹄の音が近付いて来た!

はやく外に出なければ!!
扉の取っ手を掴んで・・・って、待て!
この扉はスローベンドアじゃないのか?
あせる手元でカートゥームからもらった鍵を鍵穴に差し込む。
ぴったりだ!
素早く鍵を回して扉を開ける。
そして爆発しそうな心臓の高まりとともに扉の向こうに飛び込んだ!

突進する羊を尻目に扉を閉じる・・・。
彫像が扉に激突するのを予想して身構えたが・・・あれ?
意外にもこれ以上は追いかけて来ないのか。

はあぁ〜・・・。
おもわずため息をつきながら扉を背にしてへたり込む。
かろうじて大理石の羊の目前で扉を閉じることができた・・・。
いやいやいや、危なかった・・・!
シャムのガラス瓶が無かったらどうなっていたんだか。

しかし、4つ目のスローベンドアをくぐったということは・・・。
もうすぐ大魔王と対決することになるのだろう。
王たちの冠を奪回すれば・・・この旅も終わる。

息を整えて顔を上げれば目の前には塔の上方に続くらせん階段が見えた。
さぁ、もうすぐだ・・・まってろよ大魔王!

sorcery_livedoor at 23:35|Permalink 王たちの冠 

June 14, 2006

第六十一話 衛兵隊長

闇夜の間からようやくの思いで抜け出す。
う〜ん、外の明るさが目まぶしいなぁ・・・。

しかし、ほっとするには早すぎた。
部屋を出る前にもっと気を配るべきだったんだろう。
思いもかけない事態がそこには待っていた!

明るさに目を慣らそうとしていると屈強な力が両手首をつかんだのを感じる。
あっというまに左右から衛兵らしい男たちに両腕を抱え込まれてしまった。
は?え?ナニ?捕っちゃったの!?

両腕をつかむ二人の衛兵は意気揚々と左手の扉に向けて僕を引きずって行く。
声の様子から相当興奮しているのが分かる。
そりゃそうだろう・・・アナランドからの侵入者を捕まえたんだもんなぁ。
きっと、上司に褒められるよね・・・。
よかったね衛兵さん・・・ってオイ!
何とか逃げ出そうと試みるも、馬鹿力にがっちり押さえ込まれてどうしようもない。
この旅ももうこれまでか・・・。
絶望感に包まれていると、衛兵のひとりが扉を開いた。
そして衛兵隊長らしい人物の前に荒々しく突き出す。

隊長らしい男は書類の散乱するデスクの向こう側に腰掛けていた。
驚いたことに衛兵たちと異なり、毛むくじゃらの生き物じゃない。
髪を肩の辺りまで伸ばしたスラリと背の高い人間だ。
きっとカクハバードのもっと東の方の人間に違い無い。
・・・もうどうにでもなれという気持ちで冷静に衛兵隊長らしき男を分析する。
この状況では抵抗しても無駄だろう・・・とりあえずこの男がなにか言い出すまでダンマリを決め込もう。

「例のアナランド人だな!」
隊長が大きな声でいう。
隊長から大魔王様に報告してやろうと言われて、二人の衛兵たちが自慢げな唸り声をもらした。
隊長はすっかり元気をなくしているこちらの顔をのぞき込むと再びデスクの向こうに腰掛ける。
「だが、その前に尋問しなくてはな。」
・・・拷問部屋にでも連れて行かれるのか・・・。
何か活路はないだろうか・・・必死の思いで部屋の中を見回す。
そんな姿にお構いなしに隊長は何の目的で砦に侵入したのか尋ねてきた。

部屋は隊長室らしい調度で整えられている・・・。
隊長の後ろにある女性の絵が気になるだけで、逃げ出す上で使えそうな物はないなぁ・・・。

部屋を見回したまま質問になかなか答えないのにしびれを切らして、衛兵の一人が頭を小突く。
衛兵隊長ともあろう男だ・・・さすがに買収は無理に違いない。
会話の中で隙を見出して、なんとかこの場を切り抜けるしかなさそうだ・・・。
頼りに出来そうなのは魔法だけかな・・・なんとかここは隙を探さねば。
とっさに考えを巡らせる・・・。
そして、大魔王へ個人的なメッセージを持ってきたと答えてみた。

「大魔王様へのメッセージだと?」
衛兵隊長カートゥームと名乗るこの男は、鼻先でせせら笑った。
こちらの答えを子供騙しの作り話と断定したようだ。
目的はあくまでも大魔王様の暗殺だろうと詰問してくる。
・・・そうなんだけどね。
そんなことを認めるわけにはいかない。
少しでも話を引き伸ばして逃げ出す機会を作らなければ・・・。
そこで、あくまでもメッセージを届けに来たんだと嘘を突き通す。

何度か押し問答を繰り返していると、ついに隊長が怒り出した。
両脇から抱えこんでいる衛兵に合図を送り、デスクに僕を押し付けるよう指示する。

衛兵が命令に応えようとしたその瞬間・・・わずかな隙が生まれた!
左右からデスクに押し付けられるよりも早く上半身を倒れこませると、自由になった両足で衛兵の向こう脛を蹴り上げる。
目から火花の出るような痛みに両手を掴む手が離れた!
次の瞬間デスクから飛び退くとポケットの中にあった金の装身具を腕に巻きつける!
体勢を立て直した衛兵と隊長が飛びかかろうとする中、辛うじて呪文を唱えることが出来た!!

唱えた呪文はGOD。
体力点を1点減らして6に・・・。

呪文を唱え終わって指差した先には隊長カートゥームがいたはずだ。
飛びかかった衛兵にもみくちゃにされながら再び捕らえられる・・・。
しかし衛兵隊長はひとつ咳をすると二人の衛兵にその手を放すよう命令した。
よし!呪文が効いたか?!
隊長は重々しく宣言する。
「これほどの大物は、たとえ敵でも、もっと丁重に扱わねばならん。
衛兵、下がってよろしい。」
先程までとはうって変わった隊長の態度に首をかしげつつも、二人の衛兵は部屋を出て行かざるを得ない。

ふぅ・・・一体どうなることかと思ったよ。
衛兵が部屋を出て行くのを見送って隊長と二人きりになる。
するとカートゥームは急に打ち解けた口調で手荒な扱いをしたことを謝った。
呪文の効果によって彼の中では僕は古くからの親友ということになっているに違いない。
しかし、ゆっくり話をしてる暇はないぞ・・・魔法がいつ切れるとも限らないし。

しきりに話しかけてくる衛兵隊長を押しとどめ、本丸へ早く行かなければと告げる。
彼は神妙にうなずくと案内してやろうと言い出した。
ちょっと迷惑な気もするけど・・・隊長がいれば役立つ事もあるかな。
とりあえず部屋を出て、向かいの大きな扉に向かおう。

しかし部屋を出て、向かいの扉に手をかけたその時、衛兵のひとりが息せき切って駆け寄ってきた。
少し離れたところで早口で小声に隊長となにやら話し込んでいる。
・・・マズイ事になったのかな?
心配して見守っていると隊長がこちらに戻ってきた。
何やら緊急事態が起きたらしい。
すまなさそうな顔つきで語りかけてくる。
「ミュータントの奴らがまた騒ぎを起こして、ちょっと面倒なことになっているらしい。
すぐに駆けつけなけりゃならなくなった。」
そう言うと、ポケットから鍵を取り出して押し付けてくる。
「これが、大魔王様の塔の入り口にあるスローベンドアの鍵だ。」
つかった後は大魔王様に預けておいてくれ・・・って、いいの?
そしてそのまま足早に衛兵と駈け去ってしまった。

スローベンドアの鍵・・・随分とすんなり手に入ってしまったなぁ。
なんだかツイてる!
よく見ると鍵には17と書かれていた。

隊長と衛兵がいなくなったのを確認すると、ひとつ息をついて扉に手をかける。
取りあえずは、ピンチを切り抜けることが出来たってことだ!

sorcery_livedoor at 22:16|Permalink 王たちの冠