2005年09月04日

Kさんというお百姓のこと

 今朝、と言っても10時頃、犬の散歩で農道を歩いていたら、後ろから軽トラが来た。近くのKさんが畑にとうもろこしを取りに来たのだ。Kさんはこの辺では一番大きな農家のご主人。夏から秋、戸隠に向かう街道沿いには、沿道の農家が屋台を出して自分の畑でとれた作物などを売っている。観光客が通りがかりに寄って野菜を買って行くのだが、中でも焼きとうもろこしはこの町の名物になっている。
 Kさんの屋台はこの街道ではいつでも一番にぎわっているし、戸隠よりもKさんの野菜を目当てに来る人達もかなりいるようだ。私もこの季節になると、スーパーなどでは野菜は買わない。
 すごく広い畑なのに、他人を雇わず、Kさん、奥さん、おばあちゃんの三人だけで土作りから種まき、草取り、収穫、全部やっている。アルバイトを頼むのは夏の観光シーズンだけ。とにかくよく働くのだ。

 軽トラの音で後ろを振り返ると、Kさんも車を止めて降りてきた。リンゴをかじっている。
「おはようございまーす。」と言うと「毎日犬の散歩も大変だなあ。」「うーん、でもこれがないと全然歩かないから。」「そうだろな。俺なんか毎日20キロは畑の中で歩くよ」「えーッッ?そう、体力あるんだわねえ。」20キロにはびっくりした。
「もうリンゴが出てるの?」と聞くと、車から包丁を取ってきて、半分切って私にくれた。「人のおやつ食べちゃったら悪いからいいよ。」「いいよいいよ、一人で食べるよりも人と分けて食べた方がおいしいからさ。」
 リンゴをいただきながらこの頃のリンゴの品種のことなど話していると、犬が草を食べ始めた。「ここの草は除草剤を使ってないから安心して食べさせられのよね。」「うん、俺は除草剤嫌いだからね。死んだ親父も嫌いだったし。キャベツなんかはどうしても農薬を使うけど、それも最初の頃だけにしてる。」「ふーん、そうよねー、こんなに広いんだもんね。いちいち手で虫をとれないよね。」
 「私なんか100平米の畑でも草取りができなくてさ。」と言うと「草は生えてたっていいんだよ。適当にね。あんまりみっともなく生えてるようじゃ困るけど。」よく見ると、ほんとに適当に草が生えている。
「けっこういい景色ね。」「そうだろ?この畑全部が絵になるように作りたいんだよ。」えっ?絵?
「畑がキャンバスでさ、見る人にきれいだなあと思ってもらえたらいいと思って。それができなくなったらもう体力限界ってことだよ。」
 話を聞いているうちに、なんだかいい絵本の世界にいるような気分になってきた。

 「でもたいしたもんよね。家族だけで一切やってるんでしょ?」「俺、百姓好きなんだよ。24時間百姓やっていたいんだ。でも眠らなきゃならないから24時間は無理だね。」そして「喜んで買ってくれる人たちがいるからがんばれるんだな。」と言った。
 夢があるんだと言う。「採るべき時に最高の状態になるように育てる。最高の野菜を売る。これがやりたくて毎年がんばってる。」でも、そう願ったまま一生を終わるのかな、と笑っていた。
 
 働くのが好きでよく働く、その分稼ぐ、自分が全然そういう生き方をしていないことをちょっと考えたし、「ソウイフヒトニワタシハナリタイ」という賢治の詩が浮かんだけれども、だからと言って自分の生き方を反省するわけじゃない、ただただいい気分で犬と一緒にうちに帰った。

  
Posted by tabichin2005 at 23:41Comments(0)TrackBack(0)田舎暮らし