シマシマしっぽ

活字中毒な猫バカ。日々の読書の感想を残しています。最近は映画日記化ともなっていますが、楽しみがあるのはいいことです。今日一日、楽しいことを考えて,何とか日々を乗り越えたいです。This is my Lifelog.

コロナと潜水服3

「コロナと潜水服」 奥田英朗 光文社

 ちょっぴり切なく、ほんのり笑えて、最後はやさしい
人生が愛おしくなる“ささやかな奇跡”の物語5編
奥田英朗のマジックアワー
 早期退職を拒み、工場の警備員へと異動させられた家電メーカーの中高年社員たち。そこにはなぜかボクシング用品が揃っていた――。(「ファイトクラブ」)
 五歳の息子には、コロナウイルスを感知する能力があるらしい。我が子を信じ、奇妙な自主隔離生活を始めるパパの身に起こる顛末とは?(表題作)ほか “ささやかな奇跡”に、人生が愛おしくなる全5編を収録。 (Amazonあらすじより)

 読みやすい短編5編。奥田英朗にしては珍しく、幽霊っぽい話が多いのだけれど、全部怖くない優しい存在。
 ちょっと気が抜けすぎた短編ばかりであまり印象に残る作品がなかったけれど、強いて言えば表題作が一番良かったかな。コロナ感染初期のあの緊張感、もう忘れかけてた。レインコートも防護服も売り切れていたからと古道具屋で昔の潜水服を買ってくる奥さんも奥さんだけど、それを着て公園まで出かける主人公の様子が、想像すると笑えてくる。
 どの作品にも筆者が好きな洋楽が出てきて、ご丁寧にもプレイリストのQRコードまでついている。聞こうとは思わないけれど、遊び心がいいね。



坂の上の赤い屋根3

「坂の上の赤い屋根」 真梨幸子 徳間文庫

 わたしが人殺しになったのは、この街のせい――。
人格者と評判も高かった夫婦が、身体中を切り刻まれコンクリート詰めされて埋められた。血を分けた娘と、その恋人によって……。
その残虐性から世間を激震させた『文京区両親強盗殺人事件』から18年後。事件をモチーフにした小説が週刊誌で連載されることになる。
そこで明らかになる衝撃の真実とは!?真梨ワールド炸裂!
 極上のイヤミス長篇。あなたは騙される快感を知る。(Amazonあらすじより)

 うん、まぁ期待を裏切らない真梨幸子ワールドではあった。ただやはり真梨幸子ならではの物足りなさというか、肝心の昔の事件の残虐さの意味がわからなくて。実の両親を惨殺するほどの恨みではないだろう。
 あと、常に真梨幸子の小説に出てくるピントのずれたボーッとした人・・・今回は法廷画家の女、その行動がイライラする。それと、事件で得をした人、多くない?出版関係者が多いからそうなるんだろうけれど。
 

坂の上の赤い屋根 (徳間文庫)
真梨幸子
徳間書店
2022-07-08

日没2

「日没」 桐野夏生 岩波書店

 小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末は――。(Amazonあらすじより)
  
 桐野夏生が岩波書店?!本の帯に「近未来を描く警世小説」とあるが、最初から最後まで著者自身の悪夢を小説化しただけの内容に思えた。いつもは桐野夏生作品は一気読みなのに、この本は途中で読むのをやめようかと思った位退屈。他人の夢の話ほど退屈な話はない。それを読まされている気分だった。


日没 (岩波現代文庫, 文芸352)
桐野 夏生
岩波書店
2023-10-14

聖女か悪女3

「聖女か悪女」 真梨幸子 小学館

 これが、人生の罰ゲーム。

 葉山の別荘で結婚パーティーの最中、カリスマブロガーの月村珠里亜が倒れ、昏睡状態に。心理カウンセラーの麻乃紀和は、死んだ息子を陥れた珠里亜に復讐を果たすべく、彼女の身辺を調べ始める。
 そんな折、四谷の超高級マンションで発見された8体の惨殺死体。珠里亜の過去を追う紀和が辿り着いたのは、2002年に六本木のマンションで8人の子供たちが監禁された”モンキャット事件”だった。事件の鍵を握る人物として浮上したのは、”オザワ”という名の謎の女で――
取材する記者は皆”消される”というモンキャット事件の真相とは!?
マルキ・ド・サドの禁書『美徳の不幸』にオマージュを捧げ、現代に蘇らせた超絶イヤミス!! (Amazonあらすじより)
  
 ああああああ!
 真梨幸子の小説には必ずといってもいいほど、この「ああああああ!」という心の叫びが用いられる。この前読んだ「縄紋」では、「あ」という口の動きに色々考察が入ってた。「ガラスの仮面」の主人公、北島マヤが「はい」という台詞を、幾通りにも演じて見せたのを連想したっけ。
 とにかく、この、ああああああが安っぽさとイヤミス感を匂わせる。今作は真梨幸子のドロドロのエグいイヤミス感満載。本の表紙にも血が飛び散っている。ちょっとゲップしそうな位嫌な要素が詰め込まれていて、これでもか、って感じ。満腹です。ご馳走様でした。



まいまいつぶろ3

「まいまいつぶろ」村木嵐 幻冬舎

 
 口が回らず誰にも言葉が届かない、歩いた後には尿を引きずった跡が残り、その姿から「まいまいつぶろ(カタツムリ)と呼ばれ馬鹿にされた君主。第九代将軍・徳川家重。
 しかし、幕府の財政状況改善のため宝暦治水工事を命じ、田沼意次を抜擢した男は、本当に暗愚だったのか――?廃嫡を噂される若君と後ろ盾のない小姓、二人の孤独な戦いが始まった。(Amazonあらすじより)

 第九代将軍徳川家重。脳性麻痺による言語障害と、不自由な身体を引きずって歩いたと言われている。この本を読むまで、なぜ彼が将軍になれたのか不思議だった。
 家重の言葉にならない呻き声を唯一理解出来る人間がいたのか!それも時代劇で有名な大岡越前守忠相の遠縁のものとは!彼の存在がなければ家重は将軍になどとてもではないがなれなかった。通詞として常に家重の傍らにいる忠光の控えめな性格がいい。

 それにしても時代ものは登場人物の名前が似ていてややこしい。将軍家の名前は仕方がないけれど、今回「忠」のつく人名が多くて、何度も人物相関図を見なければならなかった。あと、漢字のルビが少なくて、こちらも困った。普通くどい位ルビがついているものなのだけれど。
 
 郡上の金森藩の百姓達の揉め事の件がせっかくの流れを変えてしまった。それまでは結構わくわくと読んでいたのに。ちょっとお涙頂戴的な表現が多すぎるとは思うけれど、一つ歴史の勉強になった。こちらの作家さんは初めてで、名前から最初男性作家だと思っていたけれど、時代物なのにとても優しい文章で、途中で検索したらやはり女性だった。もう一作読んでみてもいいかも。


まいまいつぶろ (幻冬舎単行本)
村木嵐
幻冬舎
2023-05-24

縄紋3

「縄紋」 真梨幸子 幻冬舎

「縄紋時代、女は神であり男たちは種馬、奴隷でした」。校正者・興梠に届いた小説『縄紋黙示録』には先日貝塚で発見された人骨の秘密が隠されていた。やがて読み進めるうち身辺でも異変が起こり始めて……。烏、蛇、鳥居、鏡──数々の暗号が繫がる時、破壊の神アラハバキが舞い降りる!過去現在未来が絡み合う、世界まるごと大どんでん返しミステリ。(Amazonあらすじより)

 真梨幸子にしては珍しく日本の歴史がテーマだ。それも、縄文時代。縄文時代が一万年もあったというのは去年ラジオで聞いて、私も驚いた。歴史の教科書では縄文時代というとあの象徴的な土器の写真がのっている位で、たいした解説はされていなかった。農耕をするようになったのは弥生時代になってから、とかだったし。でも、一万年も石を削って矢で動物を狩っていたとは思えない。もっと進化していたのでは?色んな文化的なことがあったのでは?、とは誰しも思うだろう。
 この小説は歴史に関することが多く出てくるので、歴史が苦手なひとには不向きだと思う。いつものドロドロの真梨幸子とはちょっと違う。勿論ドロドロ部分もあるけれど、期待していたよりは少ない。それと、あっと驚くどんでん返しはない。犯人は最初から怪しかったので、全然驚かなかった。ただ、テーマが壮大過ぎて、ちょっと戸惑う。胡散臭さも漂いまくり。
 刑務所に入っている縄紋黙示録を書いた女の過去をもっと洗わなかったのが不自然だ。親族が都合良く交通事故で死んで、保険金を手にしているのに、そこを調べようとしない。皆彼女が書いた小説に振り回されている。いつも通りB級小説で終わってしまうのは、そこなんだよなぁ。急に気分が変わったり、テーマがずれたり、整合性がない。もっとドロドロして欲しかったわぁ。


縄紋 (幻冬舎文庫 ま 25-7)
真梨 幸子
幻冬舎
2023-05-11

真珠とダイヤモンド3

「真珠とダイヤモンド」絖隋ゞ楊邁得検)萋新聞出版

 
 桐野夏生が描く「バブル」 実体なき熱狂の裏側をえぐる傑作長編!
 1986年春。二人の女が福岡の証券会社で出会った。一人は短大卒の小島佳那(かな)、もう一人は高卒の伊東水矢子(みやこ)。貧しい家庭に生まれ育った二人は、それぞれ2年後に東京に出ていく夢を温めていた。野心を隠さず、なりふり構わずふるまう同期、望月昭平に見込まれた佳那は、ある出来事を契機に彼と結託し、マネーゲームの渦に身を投じていく。(Amazonあらすじより)

 主人公達と同世代のものには懐かしいバブル当時の描写。
 株や投資はお金持ちのやるもの、と思っていたのに、田舎のオバサンまでが、新聞の株価に一喜一憂し、住みもしないマンションに投資していた。若かった私にはそんなマネーゲームに参加するお金はなかったけれど、勧められるまま少額を定期預金にしたら、十年後に1・5倍位になって返ってきて驚いた。そういや一億円を定期預金にしたら一年に百万利息がついて、利息で生活できる、とか言ってた時代だよなぁ。

 当時女性の結婚適齢期はクリスマスケーキに例えられ、短大を出たら2年程会社勤めをして、寿退社して専業主婦になるというのが定番だった。出来れば三十歳までに子供を二人生んで。出来ちゃった結婚は恥だったし、会社は夫探しの場所で、会社側も男性社員のお嫁さん候補として女性を採用した。今の若い子に言っても、景気良くてよかったね、そのツケを俺らが払わされてんの、と答えられるだろう。

 さて本題。NTT騒ぎ、ブランドもの、派手なメイクとファッション、縁はなかったが色々懐かしい。マネーゲームに巻き込まれる主人公達は驚くほど若い。二十歳そこそこの若者達が、金儲けのことだけを考えている。舞台が証券会社だからそりゃそうなんだけど、そんな若い子に億単位の金を預ける顧客の感覚も現在では考えられない。
 高卒の伊東水矢子が、働きながら東京で四年生の大学に行く計画を立てているのが、ちょっと設定として不自然。二年働いて大学行って、卒業したら24歳よ?おまけに特に学びたいことはないようで、文学部とかだし。あの当時、その年齢で新卒で雇ってくれる会社は少ないだろうし、結婚適齢期から働いても居場所はないに決まってる。
そんなの最初からわからんのかい、と思いながらも、もう一人の主人公、派手な顔立ちの小島佳那のバブル期の成り上がり願望の熱気にこちらも巻き込まれて、どんどん読み進める。
 株なんて大きなギャンブル、どうして「絶対儲かる」と信じていたのかと不思議なのだけれど、あの頃のパワーは異常で、金持ち達はすっかり毒されていたのだろう。今、新NISAとやらを「儲かるのに、どうしてやらないのかわからない」と長期計画で投資してる若者をテレビで見て、同じはめになるのではないかと案ずる。


真珠とダイヤモンド 上
桐野 夏生
毎日新聞出版
2023-03-03

真珠とダイヤモンド 下
桐野 夏生
毎日新聞出版
2023-03-03

燕は戻ってこない4

「燕は戻ってこない」 桐野夏生 集英社

 29歳、女性、独身、地方出身、非正規労働者。
子宮・自由・尊厳を赤の他人に差し出し、東京で「代理母」となった彼女に、失うものなどあるはずがなかった――。

北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められ、ためらいながらもアメリカの生殖医療専門クリニック「プランテ」の日本支部に赴くと、国内では認められていない〈代理母出産〉を持ち掛けられ……。

『OUT』から25年、女性たちの困窮と憤怒を捉えつづける作家による、予言的ディストピア。(Amazonあらすじより)           
 
 桐野夏生ならではの作品。台詞のやり取りがやたら多いので読みやすく、一気読みできる。
 貧乏な若い女が代理出産というビジネスに関わる。出産経験はないが、妊娠中絶経験一回あり。健康で、依頼人夫婦の妻に似ているという理由で、代理出産を熱望される。
 登場人物は皆自分勝手だ。日本では違法な代理出産という手段を選ぶ子供が出来ない夫婦も、斡旋する会社も、腹を貸す女も、彼らの周りの人たちも。特に依頼人の妻とその親友の春画作家とのやりとりは聞くに耐えない。飲み屋で他の客がいるところでも大きな声で性器の話をし、代理出産の話も堂々としている。おいおい守秘義務はどこにいったのよ。
 主人公の29歳の女も身勝手だ。卵子と子宮まで貸すことになったのに、二人の男と肉体関係を持ち、ややこしい話になってくる。おまけにそのうちの一人には代理出産の詳細な内容を打ち明けて、愚痴を聞いてもらってるし。もう秘密なんかあったもんじゃない。

 というか、こんな展開になるとは思わなかった。夫は妊娠が不可能なオバサンの妻より、妻に似た顔立ちの若い女なら、そっちの方と普通に不倫して子供を作る、ってことになるのかと思ってたのに。
 夫は主人公リキには全く魅力を感じていない。ただ子供を生んでくれる機械のように思っている。妻の方は自分の卵子が使えないのだから、血縁関係が一切ない赤ん坊を生んで欲しいのか、嫌なのか、揺れに揺れている。そりゃあ妻の側の気持ちはよくわかる。
 それに、てっきり海外に行って極秘に産ませると思っていたのに、目の届く日本で、それもすぐ近くで、おまけに養子ではなく実子として扱いたいから、一旦妻と偽装離婚までする、ってなに!?妊娠期間中に妊婦の気が変わったり、妻の気が変わったらどうすんの?!それって代理出産の範疇を越えているでしょ?!
  
 まぁ初めての出産が代理出産、依頼人夫婦の方も子育ての方針が変わってきたりと、皆さん主人公が出産するまで、気持ちが揺れまくって、こちらも困惑しつつ、勢いで読んでしまう。やっぱり小説って面白い!





コメンテーター4

「コメンテーター」 奥田英郎 文藝春秋

 あのトンデモ精神科医・伊良部が17年ぶりに復活!
直木賞受賞、累計290万部の「伊良部シリーズ」、17年ぶりの新刊す。
低視聴率にあえぐワイドショーのスタッフの圭介は、母校のつてで美人精神科医をコメンテーターとしてスカウトしようとする。が、行き違いから伊良部とマユミが出演することに。案の定、ふたりは放送事故寸前のコメントを連発するが、それは暴言か、はたまた金言か!?
(Amazonあらすじより)

 伊良部センセー!!お久しぶり!17年ぶり?!復活してくれて嬉しいっ。こんなお気楽に読める小説滅多にないし。
 相変わらずの設定だ。伊良部先生もセクシーナース・マユミちゃんもトシとってなくて、以前のまんま。懐かしい!
 今回五つの短篇。コロナ禍ならではの悩みもあって、後年読んだ時に懐かしくなるだろう。パニック障害で広場恐怖症の私には他人事と思えない患者が多く、伊良部先生がどう突拍子もない療法で治すか、興味津々。抗不安薬を処方せず、あくまで患者と共に外に出て親身になってくれるセンセー、好きっ!患者が少なくて面白がってやってるんだけど、本当はいいひとなんだよね、伊良部先生?私も先生に診てもらいたいな。今後のご活躍、期待していますよ!


青瓜不動 三島屋変調百物語九之読5

「青瓜不動 三島屋変調百物語九之読」 宮部みゆき 角川書店

おちか、ついに母となる。宮部みゆきのライフワーク、待望の第九弾!

行く当てのない女達のため土から生まれた不動明王。悲劇に見舞われた少女の執念が生んだ家族を守る人形。描きたいものを自在に描ける不思議な筆。そして、人ならざる者たちの里で育った者が語る物語。
恐ろしくも暖かい百物語に心を動かされ、富次郎は決意を固める──。(Amazonあらすじより)

 今回おちかがついに出産をむかえるということで、三島屋の面々の慌てようと喜びようがとてもほほえましい。こんなに待ち望まれて、大事にされて、生まれてくる赤ん坊も幸せものだ。
 表題作の「青瓜不動」では、赤ん坊を孕んでしまったために苦労する女や、子供を授かれないことを理由に離縁されたりと、ひと昔前の女性達の苦労が描かれる。ほんと女は大変なんだよ。お前は木の股から生まれてきたのかと男に言いたくなる。おっかさんに生んでもらって、女房に自分の子供を生んでもらって、命を繋いでいるくせに、偉そうに。昔の女性の辛さを思うと今はずいぶんと楽になったけど、それでもなぁ。いやそれにしても、この青瓜不動のお話は、土や緑の葉っぱの匂いと風を感じる位よかった。
 それと、最後の作品。「針雨の里」!これが又自分がその山里に一緒にいるような感覚になって、語り手の周りの大人達の秘密を知った時は驚いて、二度読みした位。
 富次郎が語り手としてちょっと調子が良すぎるというか軽すぎるんじゃないかと思う描写も増えたんだけど、最後は一緒に泣きそうになったよ。やっぱりいいね、三島屋の百物語は。

 
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トラ猫にゃ

読書と映画、どちらの感想も記録に残しておきたい備忘録です。

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