シューマンの「色とりどりの小品(Bunte Blätter)」作品99についての覚え書きを残しておきたい。
第一曲:三つの小品I 急ぐことなく、親しみを持って
張りつめたものは無いが、冒頭の音符は奏者と聴衆に、明らかに意識の集中を求めている。
第二曲:三つの小品II とても速く
むせかえるように前曲を逆接の形で受け止めるものの、健全である。ドラマの始まりを告げる。
第三曲:三つの小品III 新鮮に
この三曲は、とてもシューマンらしい行進曲という終わり方をする。
第四曲:音楽帖I かなり緩やかに
ブラームスが「シューマンの主題による変奏曲作品9」の題材に採った。
この曲はシューマン特有の「冬の音楽」であり、全てが動きを止めている。
第五曲:音楽帖II 急いで
一転して無窮動のように絶え間なく動き続ける。前曲と同様に本曲もブラームスの作品9の中に採りいれられている。
第六曲:音楽帖III かなり緩やかに、よく歌うように
シューマンが折に触れて書き綴った「夕べから夜にかけての音楽」。
第七曲:音楽帖IV とても緩やかに
これも第四曲と同様の「冬の音楽」であるが、さらに枯れ果てた先にある――時が止まってしまいそうな世界になっている。
第八曲:音楽帖V 緩やかに
音楽帖のここまでの曲は、まるで独白のような音楽が続いたが、最後には対話する相手がいることがほのめかされる。
第九曲:ノヴェレッテ 生き生きと
小気味よい良いリズムとうねりを持った曲。ノヴェレッテ(短篇小説)というよりも大河小説が書けそうな題材。
第十曲:前奏曲 断固として
突如として降りかかる運命のような閃光と稲妻、そして雷鳴。
リヒテルはモーツァルトのレクイエムから「ラクリモサ」の引用があると指摘している。
第十一曲:行進曲 極めて厳かに
葬送行進曲。内容の面でも長さの面でも全曲の中心となる作品。途中で薄日が差し込むような中間部がある。
第十二曲:夕べの音楽 メヌエットのテンポで
生の世界へ引き戻され、楽しい夕刻の団欒の時を過ごす。子供におとぎ話の続きをせがまれる。
第十三曲:スケルツォ 生き生きと
どこかいたずらっぽいところがある。終曲のように思わせて、そうではないところも。
第十四曲:速い行進曲 とても際立たせて
「速い」と付加されて第十一曲にある行進曲と取り違えないようになっている。シューマン作品特有の終曲に置かれる勝利に向かって歩み続ける行進曲。
自分が一番気に入っていて、よく掛けるCDはリヒテルがオイロディスクに残した1971年のスタジオ録音。このレーベルに残した一連の録音は、今はその全てがボックスで比較的安価に入手できるようになっていて、彼のピアニズムの最良のものを伝えているように思う。
Sviatoslav Richter: Eurodisc Recordings