「自虐」と「自己否定」のフェミニズム?

 4月4日朝、Facebookをのぞいたら、小島慶子さんのエッセイ「初潮にはプライバシーの尊重を 閉経には祝福を」の紹介が流れてきた。掲載元を見に行って読んで、驚いた。フェミニストを自称する女性の、ここまで強烈な自己否定に満ちた文章は読んだことがない。

 「初潮にはプライバシーの尊重を 閉経には祝福を」小島慶子
  幸複のススメ!  4/4(木) 2024/04/04/ 07:00
https://dot.asahi.com/articles/-/218681?page=1

 小島さんによれば、初潮とはこういうものになる。
 ……………引用開始……………
 初潮を祝うのは、本人のためではありません。子どもを産める女体がこの世に一つ増えたことによって利益を得る人々のためのお祝いです。つまりは親のために、一族のために、ムラのために、お国のために、人類繁栄のために、子どもを産める女が一人増えたことを祝う赤飯。当人は「ええっこれから毎月股間から出血するの? 嫌すぎ」と突然の変化に驚き当惑しているのに、それを周囲に公表され、しかも赤い飯まで食わされるという軽くトラウマになるような体験です。
 ……………引用終了……………

 私の体験とはまるで異なっている。

 私が「月経」について知ったのは、小学4年生の時だった。2つ上の姉(6年生)が、修学旅行の前に女子だけ集められて「女性の生理」について話を聞き、いつ月経が始まるかわからないので、修学旅行前に月経用品を買ってもらい、旅行にも持ってきてくださいと、教師に言われたという。

 姉はかなり興奮して(笑)帰宅し、その話を母にした。それがきっかけで、私は生殖のメカニズムを知り、体格が良かったこともあって、姉と一緒に月経用品を買ってもらった。

 私にとって、月経は「赤ちゃんを産める大人の女性になった」という認識で、6年生の7月に初潮をみた時は嬉しくて(笑)、学校に行ったらすぐ職員室に飛び込んで、体育担当の男先生に「メンスが始まったので、今日の体育は見学します!」と「宣言」した。学校中の先生にバレたわけだが、自分では誇らしくて、恥ずかしい気持ちなどどこにもなかった。

 当時は「生理」という曖昧な表現ではなく、メンスと呼ぶのが(福岡県大牟田市の私んちの周辺では)一般的だったが、その後、アンネナプキンが発売されて以降は「アンネの日」と呼んでいた。

 初潮をみたとき、赤飯を炊いてもらったかどうかは覚えていない。もともと、毎月1日と15日には小豆ご飯を炊いて神棚と仏壇にそなえる家だったので、「赤いご飯」といっても、おこわ(もち米)ではなくうるち米のご飯で、私の大好物。まかり間違っても小島さんのように「食わされ」たなどとは考えなかったはずだ。

 子どもを産みたい私と、子どもは欲しくない夫との間では攻防もあった。
 子宮筋腫のせいで「過多月経」になった時期が何年もあり、それは、貧血と身体的痛みを伴うものでもあった。そして、手術で子宮を取ったため、出産は諦めることになった。

 卵子を採取して夫の精子を使って受精させ、他の女性の子宮を借りて出産してもらう可能性はあったが、仮に私が大金持ちだったとしても、「借り腹」をしてまで子どもが欲しいとは思わなかったし、それを実践するつもりもなかった。

 エッセイの冒頭で、小島さんは閉経をこう表現する。
 ……………引用開始……………
 閉経したら、赤飯を炊こう。いろんなところで言って歩いています。40年以上も続いた毎月の出血とそれに伴う不調や不快とついにおさらばできるのですから。ホルモンの波に振り回される生活からの解放を祝うのです。
 ……………引用終了……………

 そして、締めくくりはこう。
 ……………引用開始……………
 閉経は、更年期症状を伴う大きな変化。いろんな不調も出るけれど、月経と世間の干渉から自由になり、ついに自分の体を自分の手に取り戻せるのです。めでたいこと限りなしです。今度こそ、自分へのお祝いに、赤飯を炊こう。初潮にはプライバシーの尊重を、閉経には祝福を。
 ……………引用終了……………

 1から10まで、共感できるところがどこにもない。
 月経があった期間、「自分の体」を誰に「奪われていた」の?
 小島さんは結婚して2人の子どもを産んでいるが、妊娠のための性行為を誰かに強制されたの?

 被害者意識がとてつもなく強く、自己肯定感が低すぎる。
 このような認識でいれば、そりゃあ、生きるのが辛かっただろう。
 他のエッセイで、小島さんは母親との関係が良くなかったこと、摂食障害(過食嘔吐)に苦しんだことなども読んだ記憶がある。私は、彼女がそれらの課題を「フェミニズム」思想に出合ったことで乗り越えられたと思い込んでいたが・・・。
 今現在の彼女がこんな自己否定(月経を持つ人間のメスとして生まれたことへの否定的認識)につながっている状況は、どこかおかしい。

     *     *     *

 たしかに、一定周期での月経はめんどくさい。月経困難症を抱えた女性は一層辛いだろう。

 月経があるのは、哺乳類の中でもヒト、サル、チンパンジーといった霊長類と一部のコウモリなど、哺乳類の中ではたった2%だという。

 そして、栄養状態が良くなって初経年齢が早くなる一方で、妊娠・出産(妊娠中と授乳期には月経が来ない)回数が減り、あるいは子どもをつくらない選択をする人も増えて、月経回数が急速に増え、それが、女性の体にさまざまな影響を与えているという。

 参考:NHKスペシャル ジェンダーサイエンス(2)「月経 苦しみとタブーの真実」
 前編:https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/pneAjJR3gn/bp/pY8yZ6VDqK/

 後編:https://www.nhk.jp/p/special/ts/2NY2QQLPM3/blog/bl/pneAjJR3gn/bp/pAqD3rJXXp/
 
 それでも私は、ヒトの体の仕組みの不思議には感嘆するし、できれば、メスである自分に可能な一通りのこと(妊娠・出産)も経験したかった。

 子宮筋腫の手術を決心する前、セカンドオピニオンを求めた専門家に、「あなたはこれまで、自分は避妊に成功してきたと思っているかもしれないけれど、仮に受精したとしても、このような筋腫があれば、着床しなかっただろうし、万一着床したとしても、途中で流産したと思います」と断言されてしまった(苦笑)。

 ただ、産めない人生を送ると決まったときには、「ま、こんなこともあるさ」と受け入れて、子どものいない人生をそれなりに楽しく過ごしてきた。「後悔」や「たられば」は、しても無意味な思考なので排除してきたが、何の問題もない。よその赤ちゃんは大好きで、ちょっかいを出しては遊んでいる。

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 自分の女性としての生理(の一部分である月経)を忌み嫌う女性たちはどんな方向に向かうのか。
 NHKの番組でも紹介されているが、女性の身体をトータルに管理しようとする「フェムテック」に向かうのだろう。すでにその流れは企業を中心に推進されている。

 フェムテック(ウィキペディアの解説)
 フェムテック(英語: Femtech)とは、女性の健康の課題をテクノロジーで解決する製品やサービスのことである。「female technology」を略した用語[1]。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%A0%E3%83%86%E3%83%83%E3%82%AF

 月経に関して言えば、経済産業省が、2019年(平成31年)に、「健康経営における女性の健康の取り組みについて」と題するレポートで、次のように書いている。

 ……………引用開始……………
 女性特有の月経随伴症状による労働損失は4,911億円と試算されている。健康経営を通じて女性の健康課題に対応し、女性が働きやすい社会環境の整備を進めることが、生産性向上や企業業績向上に結びつくと考えられる。
 ……………引用終了……………

 さすが資本主義社会日本。女性を効率よく使うことができていないので、月経に伴うマイナスの症状を「科学的に」減らしていこうというわけである。

 健康経営における女性の健康の取り組みについて
 平成31年3月   経済産業省 ヘルスケア産業課
 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/josei-kenkou.pdf

 具体的に企業が進めているのは、ホルモン剤を用いて女性の身体を生涯にわたって(月経困難症の緩和、避妊、妊娠、閉経期の更年期対策等々)管理する方向である。

 そのうちに、「月経回数を減らすためにも子どもを産みましょう」などというキャンペーンが展開される日が来るかもしれない(冗談ではなく)。

 
 私は残り人生の少ない昭和おばぁだが、仮に60歳若返った(=初潮を迎えた年齢)としても、ホルモン剤を飲み続け、あるいは子宮内に装着して「月経随伴症状」を軽減し、「(使う側にとって)より効率の良い労働者」になるのではなく、お腹が痛い時には丸まって寝っ転がって、好きな音楽を聴いたり動画を見たりして心と体を休ませる方を選びたい。

 そして、人間の女として生まれてきた自分の身体やその機能を呪うのではなく、心身を圧迫する社会や職場に順応しすぎず、そちらに変化を求める運動をしていくだろうな、やっぱり。





「くすり」でもあり「どく」でもあり

 大阪の製薬会社が発売している紅麹サプリが原因で体調不良(腎臓障害など)に陥って入院した人が160人を超え、死者も5人を数え、今後、増える恐れがあるという。

 今回の商品は「医薬品」ではなく「機能性表示食品」だが、私はかつて、クリニックで処方された「漢方薬」を服用して、全身のだるさに襲われ、トイレまで這って行くような症状に陥ったことがあった。今思い返しても怖い出来事だった。

 私は30代後半で子宮筋腫が見つかり、セカンドオピニオンを求めた上で(当時はまだそのような認識は一般化していなかったが、「女性と健康」に関わる活動グループが、「女性専門家によるからだの相談」を受ける場を設けていた)、子宮全摘手術を受けた。

 子宮を取っても卵巣は残っていて女性ホルモンも分泌されるので、すぐに更年期のような症状が出るわけではない。ただ、それなりの年齢になったときに、検査を受けるつもりだった。

 仕事仲間であるデザイン事務所と共同でオフィスを借りていたころ、デザイン事務所の社長さん(年上の女性)が、オフィスから徒歩圏内に女医さんの開いている産婦人科を見つけて行ってみたら、けっこう良かった、と話していたのを思い出した。

 相性ってあるよなー。

 私にとっては「最悪」の医師だった。
 この日記を読んでくれている方はお分かりだと思うが、私は自分の納得いかないことは、できる限り「はっきりさせたい」タイプである。

 クリニックでの血液検査の結果、私は「典型的な更年期」に入っていることがわかった。女医さんは即座に「ホルモン補充療法を始めましょう」と言った。
 私は質問した。
 「ホルモン療法はず〜っと薬を飲まないといけないんでしょう? 他に方法はないのですか?」
 医師はめんどくさそうに、「じゃあ、漢方にしましょう」と、さっさと処方箋を書き始めた。「質問は受け付けない」という態度である。

 更年期のホルモン療法にはマイナスの指摘も多々あり、私と同じような質問をする女性もそれなりにいたのだろう。この女医は、「漢方薬を出す」といえば、この手の女性がすんなり受け入れるだろうと、経験的に知っていたのかもしれない。

 このクリニックを紹介してくれた女性は、医師について「サバサバして、いい人」と話していたが、私には、「患者を下に見ている高慢ちきな医者」だった。
 たしかに経歴は優秀で、著名な大学の医学部を卒業しているのみならず、「アメリカに留学して最先端の産婦人科医療の知識を身につけてきた」帰国医であることが「売り」になっていた。

 処方された2種類の漢方薬がどのような薬か尋ねても、「更年期障害に効く薬です」としか、答えない。院外薬局でも薬の説明を求めたが、「更年期に効く薬ですよ」と、似たような答えで、内容については話してくれない。

 ここで別の産婦人科を受診すべきだった、と、のちに深く反省した。

 多分、2、3日しか経っていなかったと思う。全身がだるく、やる気も出ず、昼間っからゴロゴロ寝るしかなかった。その数日間でやった「新しいこと」といえば、漢方薬の服薬以外にない。やがて、トイレに行くために立ち上がるのもしんどくなり、這ってトイレに行き、洋式便器に両手をかけてようやく立ち上がるという状態に陥った。

 そうだ、☆さんに相談しようと思いついた。彼女は上に書いた「女性と健康」に関わる活動グループの一員である薬剤師さん。漢方薬局で何年も勉強したことがあり、西洋薬・漢方薬の両方に詳しい。勤務先はモール内の薬局で、自宅に戻るのは夜10時過ぎだと聞いていた。

 10時になってすぐに電話をかけた。
 漢方薬も薬であり、副作用はある。服薬を止め、すぐにお医者さんに話したほうがいい、というのがアドバイスだった。

 でも私には、あの高慢ちき医者にもう一度会うという選択肢はなかった。

 同病(筋腫のため子宮を全摘した女性)の先輩にこの話をしたところ、彼女の通っている漢方クリニックに行ってみたら、と、勧めてくれた。

 名前を聞いて思い出した(笑)。
 その医師(N医師とする)は京大医学部出身で、学生時代から知っている。息子さんがまだ幼児だったころ、N医師は京大病院勤務で、息子ちゃんを、百万遍にあった「共同保育所」に預けておられた。その主宰者のパートナーも京大出身の医師だったので、多分、面識があったのだろう。

 当時の私は「新婚」で(笑)、夕飯の買い物をするために通った飛鳥井町の公設田中市場で、医師・息子ペアとよく出会ったものだった。1970年代のイクメンである。

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 ぶっ倒れたころの私は大阪住まいで、漢方クリニックは京都。遠いけれども行ってみようと、高慢ちき女医に処方された漢方薬を持って、京阪電車に乗った。

 私の提出した漢方薬を見たN医師は、開いた口が塞がらないといった風情だった。
 「こんなん飲んだら悪なるに決まってますよ。証に合うてへんどころか、逆に悪なるような薬です」

 東洋医学では、患者の「証」を見て、処方する漢方薬を決める。
 今の私の全身状態は(証に合わない漢方薬を飲んだせいで)マイナスに大きく傾いているので、それをゼロに戻すところから治療を始める。N医師はそう言われた。

 「証」の説明は私には難しいので、ウィキペディアを紹介しておく。これも完璧ではないようだが。
  証 (東洋医学)
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A8%BC_(%E6%9D%B1%E6%B4%8B%E5%8C%BB%E5%AD%A6)

 このクリニックに、私は今もお世話になっている。
 数年前、他都市で勤務医をしている息子さんがクリニックを「訪問」されていたので、百万遍時代の「昔話」に花を咲かせた(といってもご本人は1〜3歳のおチビちゃんだったので、記憶はないそうだが。笑)。

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 N医師は西洋医学出身だが、アトピー・アレルギーのような、対症療法では解決しない病気とぶつかったのを機に東洋医学・中医学を学び、そこから、インドの「アーユルベーダ」、フランスの「ホメオパシー」「ハーブ療法」、そしてキューバの「先端医療」まで、幅広く勉強してこられた方だ。

 西洋医が中途半端な漢方薬の知識で処方する場合、私のケースのように、患者の症状を大きく悪化させる恐れは十分にある。ましてや、市販のサプリであればなおさらに、その効果・効用や副作用・弊害には、注意を払う必要がある。

 ネット上には現在、漢方医や漢方薬メーカーによる「証」の診断のようなページがあるが、あれは実に危険である。私も何カ所かで試してみたが、設問そのものが曖昧で(自分ではどっちにも取れそうなケースが多くて)、とてもじゃないが、正しい診断にはたどり着けない。

 私がN医師の診察を受けるときには、まず、顔色や眼など、首から上全体の視診、血圧、脈(脈拍ではない)、舌の状態などを診られ、主訴(患者の訴えの内容による)に対応した診察があり、その上で、「(前回の検診以降の)生活の様子や状態を問診される」という流れが必ずある。

 パソコン画面(の検査結果の数値)しか見ない医師との違いは歴然としている。

 処方される漢方薬も、身体の状態と季節によって変わり、その理由・意味も丁寧に説明してもらえるし、それは薬局でもネットでも検証できるので、ちゃんと納得できる。

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 世の中に「薬大好き」な人たちが大勢いて、お金が許す限り、多種多様なサプリをいっぱい飲んでいたり、身体のあっちもこっちも調子が悪いと言い募って診療各科をめぐったり、同じ「不調」を訴えてドクターショッピングしたりする人がいるのは、知っている。

 その根本的な理由は、「納得できる診療を受けていない」からではないか、と、私は思っている。

 「かかりつけ医を決めましょう」という呼びかけがあっても、「自分で納得できるかかりつけ医」に巡り合えるのは、案外、少数派なのではないか。

 私はサプリとは無縁だが、今回、製薬メーカーが紅麹を卸した相手先リストには、私が日常的に愛用しているお味噌屋さんもあったりして(ただ、紅麹を使った商品を購入したことはなかった)、ギクッとしてしまった。

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 遠い遠い昔の話だが、私の妹は、森永ヒ素ミルク事件が起きたときに同じミルクを飲んでおり、また、米油にダイオキシンが混入していたために起きたカネミ油症事件の「カネミライスオイル」も、カラッと揚がると好評で(実際に、美味しかった)、実家でずっと愛用していた。

 どちらも、製造タンク違いで(有害物質の購入していたタンクで製造されたものに遭遇していなかったので)被害には遭わなかったが、薬害の怖さを身にしみて実感した体験でもあった。


 森永ヒ素ミルク中毒事件
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A3%AE%E6%B0%B8%E3%83%92%E7%B4%A0%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%82%AF%E4%B8%AD%E6%AF%92%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 カネミ油症事件
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8D%E3%83%9F%E6%B2%B9%E7%97%87%E4%BA%8B%E4%BB%B6

 薬はクスリだが、身体に大いなる影響を与えるという意味では、ドクの要素が同時にある。
 当たり前の話だが、その事実は、ふだんはすっかり忘れている。
 何かを「きっかけ」にして、定期的に思い起こす必要がありそうだ。






「オワコン」が決定的になる「とき」

 新年にスタートし、すぐに話題を呼んだドラマ『不適切にもほどがある』(以下「ふてほど」)。
 私には、毎週決まった時間にドラマを見るという習慣がないので、第1話はTverの「見逃し」配信で見て、その後は「◯分でわかるあらすじ」と、各回のミュージカルシーンの動画で流れを掴み、最後の3話は、Tverの「見逃し」配信で観た。

 面白かった。
 ただ、主人公の年齢設定には疑問を抱いた。
 設定では、昭和10年(1935年)生まれとなっている。ということは、敗戦(1945年)の年にはすでに10歳。「軍国少年」だった可能性があるし、東京・大阪の大空襲も、広島・長崎への原爆投下も、はっきり記憶に残っているはずだ。

 それにしては、本人の人物設定が「軽すぎる」。

 1935年生まれの有名人を調べたら、美輪明宏さんが筆頭に上がってきた。本作品中に何度も名前の出てくる(喫茶店のマスターが敬愛する)畑正憲(ムツゴロウ)さんも、同い年の生まれだ。
 他に、プロ野球の野村克也さん、ノーベル文学賞受賞の大江健三郎、作家・歌人・舞台演出と多才だった寺山修司、今年亡くなった指揮者の小澤征爾さんといった、錚々たるメンバーが並ぶ。

 どの方も、ドラマの主人公との「存在のありよう」が違いすぎるだろう。

 せめて、1940年(戦中)生まれにすれば、敗戦時にはまだ5歳なので、幼時の記憶が戦後復興期(実際には1951年の朝鮮特需に始まる)以降しかなく、その後、いかにもな昭和男に成長したところで何の不思議もないのだけれど。

 ちなみに1940年生まれには、ドラマにも名前の出てくる板東英二さんや、作家の志茂田景樹さん、そして、老いた喫茶店マスターとしてこのドラマに出演した沼田爆さんがおられる。

 惜しいなぁ。年齢設定がきっちり詰められていたら、ドラマの中の出来事をすべて「体験してきた」ジジババ(私を含む)は、ドラマをより楽しめただろうに。

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 とはいえ、当時のすべてを知っているわけではない。
 TBSのサイトにある「ふてほど版 昭和用語集」をチェックしたら、知らないものが7つもあった。
 https://www.tbs.co.jp/futekisetsunimohodogaaru/glossary/

 第1話の「シェイプアップ乱」(少年ジャンプの連載漫画)
  2話の「Let'sダチ公」(少年ジャンプの連載漫画)
  3話の「毎度おさわがせします」(TBS系列のドラマらしい)
  5話の「オールナイトフジ」
      番組名は知っているけれど、観たことがない。
     「大沢悠里のゆうゆうワイド」
      TBSのラジオ番組だそうな。
  8話の「ヤンヤン歌うスタジオ」(テレ東の番組)
     「鈴木くんと佐藤くん」(スナック菓子)

 我ながら深〜く納得(笑)。関東圏に住む同世代男性なら、全部わかったことだろう。

     *     *     *

 さて、毎回の「ミュージカルシーン」は、視聴者にどう捉えられていたのだろうか。

 ・・・という疑問を抱いたのは他でもない、ごく最近まで、ドラマの途中でいきなり始まるミュージカルシーンを「意味不明」「馬鹿馬鹿しい」と否定する声が、この国にはずっとあったからだ。

 とりわけ槍玉に上がっていたのは、日本でも大ヒットした『ムトゥ 踊るマハラジャ』をはじめとする南インドの映画群。それらで主役を務めた中年男(笑。ラジニカーントさま。私より1歳年上)の魅力は、およそ3時間近い映画を最後までしっかり観なければ理解できないかもしれない。

 ただ、突然始まるかにみえる「歌って踊るシーン」は、ドラマの流れの中ではごく自然なものであり、それが理解できないのは、鑑賞者のリテラシー(読み解き能力)が低いからだ、と、私は本気で考えている。

 であるから、「ふてほど」のミュージックシーンにも違和感を抱くことはなかった。というか、主張がストレートな歌詞になっていて、わかりやすかったと言った方がいいかな。

 主人公が昭和に戻って以降、その時代の「オヤジの論理」に違和感や拒否感を抱く描写や、ジェンダー研究者の女性が、頭ではルッキズムを否定していながら「ドンズバ」男に揺れたり、令和に戻った後では何でもかんでもハラスメントだと訴える風潮にうんざりしたりというシーンなど、うまいなぁ、「イズム(たとえばフェミニズム)」に凝り固まっている教条主義者の痛いところをついているなぁ〜と、ついニヤニヤ。

 最終回、主題歌を担当しているクリーピーナッツの2人が、バスに忍び込んで昭和にタイムスリップし、いっぱい買い物をしまくったせいでバスに乗り遅れるシーンには笑ってしまった。
 そこからの、卒業式当日の2人の演奏もかっこよかったし。
 「BBBB」といい「ふてほど」といい、今年は、クリーピーナッツの存在と楽曲が、老若男女に知れ渡る年になったのも、感慨深い(一部では、年末のNHK紅白歌合戦出演決定という、気の早い予測もあるらしい。笑)。

 (余談)
 私がクリーピーナッツのファンになったのは4年前。『やすとものいたって真剣です』にゲスト出演したのがきっかけだった。2人の顔と名前と演奏はその前に見たことがあったが、実際に話すのを見聞きし、「いたって真剣」のテーマソングを作る過程を見て、好感を抱いた。
 さすがに当時の動画は残っていなかったが、抜粋を見つけたので、紹介しておく。
 https://www.tiktok.com/@ken_tauras/video/7347290144828837122 
 


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 ここで、話はいきなり、松本人志が提訴した裁判(1回目公判)の話に飛ぶ。日記を書くために「ふてほど」の動画を見直しているうちに、「オワコン」という言葉が耳に入り、それが突然、松本側の「主張」と結びついたのだ。

 3月28日、松本人志が文春を訴えた裁判第1回公判では、松本側が、文春に証言したA子さん、B子さんの個人情報を要請したという。

 モロにヤクザなやり方である。
 「松本派」の連中に人権意識があるとは思えないので、個人情報を入手したとたんに攻撃や脅迫を行う可能性が高い。実際、自称AV女優は、松本との飲み会に共に行った「J子」なる人物をネットで追いかけ回したけれど「完全に逃げた」と高らかに宣言(?)している。そら怖いよなぁー、逃げるよなぁー、何されるかわからないんだから。

 松本の要請については、デイリースポーツが詳細な記事を書いている。
 
 文春の代理人弁護士 松本側の要請を一蹴
 「そんなアホなことがあるかいな」
 矛盾も指摘し勝算も口に
  2024.03.28
 https://www.daily.co.jp/gossip/2024/03/28/0017481227.shtml

 文春側弁護士さんの、「全く身に覚えがないというのであれば『原告の記憶喚起』の必要はない」、「このような情報が必要であるとすれば、原告が2015年の秋ないし冬にかけて、六本木のホテルにおいて、本件記事で描写されたような言動を複数(3人以上)の女性に行っていたという場合しか考えられない。多数の女性を相手に、本件記事で報じられたような行為を行った記憶があるために、そのうちのどの女性がA子さんなのか、またB子さんなのかわからないから、これがわかるような情報が欲しいと、原告は求めているのである」という意見にはとても説得力がある。

 松本人志のファンは圧倒的に男が多いと思う。で、私の観察した「ファンにとっての松本の魅力」は、勉強にもスポーツにも容姿にも人間性にも、これといって秀でた部分がなく、現在の社会の価値観では標準以下の部類に入れられるであろう男が、斜に構えた「ボケ」でそれを突っぱね、やり返した(ように見えた)ところにあったように思う。
 松本が発してきたのはダークな笑いであり、あざけりだ。
 注:松本に関する「容姿にも」の部分は、2024.03.31.19.:30に追記した。

 「事実無根なので闘いま〜す」
  (←文春の性暴力告発記事に対して)
 「とうとう出たね。。。」
  (←被害女性が舎弟に送ったラインメッセージ公表への反応)
 「自分の主張はかき消され」
  (←「事実無根」以外、何も「主張」していないぞ)
 そして、裁判での、被害女性の個人情報の要求。


 性暴力を告発されて以降、松本の一連の発言は、もはや「ボケ」として成立していない。「過去の栄光」の夢をまだ見ている「裸の王様」の迷言にすぎない。

 松本人志、完全に「オワコン」である。
 







 
 

 

結局BBC頼み?(悲)ジャニー喜多川性暴力問題の「今」

 英国BBC放送が、ジャニー喜多川の性暴力問題の「その後」を伝える番組「捕食者の影 ジャニーズ解体のその後」を、3月30日午後12時30分より、世界に向けて放送すると発表した。

 https://www.bbc.com/japanese/articles/c4n7xngj1rvo

 その内容を抜粋したショート動画を見た(上記リンク先で観ることができる)。
 昨年の番組に登場した記者氏は、今回の番組では、スマイルなんちゃらのヒガシにも直接インタビューし、ジャニー喜多川以外に2人のスタッフが、少年たちへの性暴力の加害者だった事実を認めさせている。

 顔出しして実名を公表した結果、誹謗中傷に遭い、自ら命を経ってしまった被害者の妻さんにも、記者は面談して話を聞いている。彼女によると、誹謗中傷の中には、被害者の皆さんが告発した結果、ライブ(コンサート)がなくなったではないかと攻撃するジャニタレファンもいたという。

 これらのファンを名乗る者たちには、性暴力の被害者がジャニー喜多川によって人権を侵害されたのみならず、心身を「壊された」ことへの理解のかけらもない。明らかに、加害者側の一部を成している。

 活動を続けている被害者の二本樹さんは、流暢な英語で、ジャニ側が取るべき行動について語っている。

     *     *     *

 日本のテレビ局はどうか。
 日刊ゲンダイは、「キムタク先頭に4月から旧ジャニタレ一斉復活! TV局の「性加害もう忘れた」を許していいのか」と題する記事を掲載している。
 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/geino/337309

 喉元過ぎれば熱さ忘れるってか? ろくな検証もせずにこれかよ! 
 それとも、日本の「メディア」に「ジャーナリズム精神」を求める方がバカなのか?

 ジャニー喜多川の性暴力問題を先頭に立って追及し続けてきた「週刊文春」「文春オンライン」はいま、松本人志が起こした名誉毀損裁判への対応に、人と時間を割かざるを得なくなっているだろうし・・・。

 まずは、BBC放送のジャニー喜多川性暴力問題番組の第2弾を、姿勢を正して観ることとしよう。




松本裁判スタートの前に再確認しておくこと

 明日3月28日は、松本人志が週刊文春を名誉毀損で訴えた裁判の第1回公判日。

 松本は、記者会見もネットでの「弁明」もしていないくせに、「自分の主張はかき消され」という意味不明の投稿をしたとか。「事実無根です」という「主張」はかき消されたのではなく、裏付けも信憑性もないので笑われただけの話だ。

 松本が全国各地でどのような「飲み会」をやっていたか。
 下記は、すでに9年も前のテレビ番組の一部分を切り取ったTikTok動画だが、ここで語られている内容(飲み会に行ったら何をされるかわからない、暴力が怖いという話が広まっており、女性が集まらなかった)を、松本は否定も怒りもしていない。苦笑いして体をくねくね動かしているだけだ。

 https://www.tiktok.com/@kenpa_kenpa_kenkenpa/video/7324151674698812690

 これに尽きるよなー、と、私は思う。
 私が耳にしていた噂(証拠はない)も似たり寄ったりのものだった。
 結局、当日になったら女性が50人も参加し、支払いは33万6千円に上ったというオチが付く。
 「怖いもの見たさ」の女子が「赤信号みんなで渡れば怖くない」ってな感覚で参加したのだろう。

 福岡でのこの話はきちんとまとまっているが(オチもついているし)、口に出すのも憚られるような行為が過去に多々あったであろうことは容易に想像がつく。

 週刊文春に「告発」した女性たちが、「松本軍団」(←大吉センセの表現)からの恫喝に怯えることなく、証言台に立ってくれることを、私は期待している。

     *     *     *

 元芸人(?)たむらけんじがアメリカから何やかんや言ってきているようだが、そのことにどのような意味があるのか、私にはわからない。

 たむけんといえば、飲食店を開いては閉店し、焼肉店で食中毒を起こしたこともある、「芸人としての知名度を利用しただけの品のない飲食店経営者」というイメージしかない。
 一度、京都市内(河原町三条。京都朝日会館の、道を挟んだ対面)で、「炭火焼肉たむらの牛肉が入ったカレー屋さん」をオープンしたことがあった。私はミーハー精神を発揮してランチどきに行ってみたが、味も接客も「?」レベル。
 リピートする気にはならず、3か月ほど経ったときにはもう閉店していた。

 人間的信頼性の乏しい男が何を言っても、すんなり信じる気にはならないよなぁ、一般的には。ましてや、利益関係のある相手を擁護する発言ともなれば。

 明日は代理人弁護士同士によるやり取りになるらしいので、目を見張るような「進展」はないと思われる。
 いずれにしろ、「立場を利用した性暴力は許さない」ことだけは、はっきりさせておきたい。









プロフィール

はね奴

京都市在住。本・雑誌・DVDの企画・制作。エッセイ講座講師。20代から、労働運動と女性運動の重なる領域に生息。フェミとは毛色が異なる。

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