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2017年が始まったので、例年通り川崎大師へ初詣に行き、江ノ島で凧揚げをして元日を過ごした。 ところで我が子の1歳からの成長が著しい。1歳までは身体がぐんぐん育っていたが、1歳からは行動がぐんぐん育っている。 1歳になる頃はまだつかまり立ちメインで、ようやく仁王立ちができるようになったくらいだった。 1歳1ヶ月で数歩歩けるようになった。 1歳2ヶ月で普通に歩けるようになった。 1歳3ヶ月では名前を呼ぶと手を挙げて「はーい」と返事ができるようになった。お菓子のある場所を覚えて催促するし、ありがとうのお辞儀もするし、バイバイで手を振りもする。 もはや、しゃべれないことが不思議なくらい「人」だ。ことばで意思を伝えられないことにもどかしさすら感じているように見える。指をさしたり、地団駄を踏んだり、身体で意思を伝えようとする試行錯誤がさらなる成長を促しているかのようだ。 明日にもまた新たな成長を見せてくれると思うと、お菓子をねだる視線を邪険にできないダブルバインド、アンビバレンス、コンフリクトよ。

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ヘルパンギーナに続いてRSウイルスとやらにも罹患した我が子は、この夏けっこう保育園を休んだ。それに合わせて親たちも会社を休まざるをえなかった。強制夏休み。 我が子はプールデビューも果たし(大泣きしたそうだ)、1日単位で急成長を続けている。バイバイと手を振る、ありがとうと頭をさげる、というようなこちら側の解釈次第でどうにでもなる案件もあるけれど、誰がどう見てもそうとしか言いようのない明らかな成長案件もある。 我が子が立った。 仁王立ちだ。 その日は自分が休みで面倒を見ていたのだが、ベッドでゴロゴロしていたらいきなり立った。つかまり立ちではなく、両手をだらりと垂らして二本の脚だけで立っていた。 おおお!とつい叫んでしまった。我が子は真剣な表情で、どこか遠くを見据えて「んんん」と唸っている。まるで武蔵坊弁慶の最期のような、立派な立ち姿だった。驚きのあまり写真を撮り損ねた。 ちなみに、真剣な表情で遠くを見据えて「んんん」と唸るには理由があり、それをこの父は知っているぞ。 ウンチをしていたのだ。 初の仁王立ちはウンチをしながらだった! あとでオムツを替えたらそんなに出てなかった。立ってまで気張ったのに残念だったね。 翌日配偶者も我が子の仁王立ちを見ることができた。日々成長だ、と言い合って家族みんなでカレーを食べに出かけた。夏が過ぎていく。

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ちょっと前、海の日あたり、我が子がヘルパンギーナに罹患した。初めて聞く病名だった。 最初に高熱が出たので、会社を休んで病院(いつも空いている)で診てもらうと、のどの腫れから来た熱ですねー、てんで抗生物質を処方してもらって自宅療養。しかし熱が下がらない。 ミルクも離乳食も一口だけごっくんしたら大泣きしてイヤイヤするし、口の中に指を入れてしきりに何かを気にしているので、おっ広げてよく見ると舌先にプツプツと口内炎がある。こんなに口内炎があるのはおかしいってんで、翌日に配偶者に別の病院に連れていってもらったところヘルパンギーナであるとの診断がくだった。 プール熱、手足口病と並ぶ三大夏風邪のひとつ、ヘルパンギーナ。高熱が出て口内炎がたくさんできるらしい。まんまの症状だ。配偶者によると、のどの奥にもたくさんの口内炎があったらしい。その口内炎が潰れてしみるんだそうだ。考えただけでつらい。 熱が下がるのを待つしか対処のしようがなく、自分が1日、配偶者が3日休んで看病した。我が子はつらくてほとんどの時間泣いていた。可哀想で可哀想でこっちもつらかった。我が子には笑顔でいてほしいと心から思った。 0歳の記憶なんてほとんど残らないから、本人がつらいのは今この瞬間だけかもしれない。でも親の記憶には積み上がっていく。親が代わりにつらい記憶を引き受け、我が子に再びそんなつらい思いをさせたくないと手を尽くす。そうして笑顔を増やしていく。 仕事で疲れた帰りの電車で、よくスマホで我が子が笑っている動画を観る。本人は笑った記憶はないかもしれないけど、親の記憶には積み上がっていく。何度も何度もその笑顔に助けられていく。

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あまりに値段の安い飲食店は不安になる。お客さんが少ないと余計に。 さっき入った中華屋で食べた定食は、メイン料理一品、ライス、スープ、サラダふたつ、ザーサイ、食べ終わる頃に届く半ラーメン、以上で750円。税込。安い。というか多い。しかもランチじゃなくて夜。 こんなにお得なのにお客さんが少ないのは、ははん、雨だからだな。と推測したのだけど、食べ始めてすぐに別の可能性に気づいた。あまりおいしくない……? なんだか全体的に味が薄い。ぼんやりしている。中華料理って大げさで濃い味付けの祝祭感がたまらないのに、私服で踊るサンバのようなもの足りなさがある。羽根飾りがない。 スープはとろみと卵以外の雑味を感じず、つまり塩が足りていない雰囲気。まったくの無味ではないが、どちらかといえばとろみのあるお湯に近い。 一品料理は炒め物で、エビとカシューナッツが入っていた。味はあまり覚えていない。一所懸命食べたな、という印象は残っている。まずくて食べられないということはまったくないけれど、食べなきゃ先に進めない焦燥感に駆られていたように思う。もっと味わわないともったいない、でも味わうべき味があんまりない。そんな葛藤。 サラダがふたつある理由もわからない。でもそれはうれしい。ひとつはキャベツメインの普通のサラダで、もうひとつは量が少なくてチキンナゲットが一個だけ乗っていた。まとめてくれてもいいと思った。 半ラーメンは担々麺を選んだ。もっと辛味や刺激がほしい味だった。ライスとザーサイはごく一般的なもので、感動はないが安心はあった。そんな中、これはうまいと興奮したものがひとつだけあった。それは水だった。 文京区の水がうまいのかこの店の浄水器がよいのかわからないものの、とにかく水はごくごく飲めた。ミネラルウォーターか純水か、とにかく雑味も臭みもなく何杯でもいけそうだった。食後はその水を心ゆくまで堪能し、750円支払って満足して店を出た。 いい水だった。料理はアレだけど、こんなに水がおいしいんだし、そもそも今日は自分の味覚がおかしかったのかもしれないし、あるいはこの町の住民に中華料理好きがたまたま少ないだけかもしれないし、なんにしてもこの店がもっと流行ってくれればいいなと親近感を抱きながら帰途についた。 なお、すぐ近くの餃子の王将を通りかかったら満席だった。

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熱いお茶を内腿にこぼされ、朝からテンションが低い。 幸いやけどにはならず、お茶をこぼされたこと自体はよくあるトラブルとして腹も立たないのだけれど、問題はその後に「ここ最近でいちばん大きな声が出た!」と笑われたことがイヤで仕方ない。なんで熱いお茶をかけられた上にバカにされなければならないのか…。 だからテンションが低いのだ、ということを本人に説明したら、「ちがうちがう、笑っちゃいけないと思ったら余計に笑えて…」と釈明を受けた。「大丈夫?」と聞かれたから所感を答えただけで責めたかったわけじゃないのだが、こう自己弁護を並べ立てられると余計にテンションが下がる。大丈夫じゃなくなってくる。 関係あるかないかでいえばない方に近いんだけど、ファンキー加藤という人の不倫話が世を賑わせていた。これは巷間ではオモシロ話として消費されるのだろう。誰がいちばんゲスいのかで盛り上がるのだろう。 自分としては、夫に裏切られた上によそ様の養育費として生活費が吸い取られるファンキーの妻子が理不尽すぎてつらい、と最初に思った。 彼らは一方的に奪われた。被害しかない。非のない被害者がいる以上不倫はよくない所業だと思うのだけど、「不倫はそんなに悪いことなのか?」と鼻息を荒くする勢力もあって、テンションが低い。 実はファンキーの妻子はそれほどつらい状況にない、という結末であればそれがいちばんいい。

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会社が移転して遠くなった。 まだ初日だけど、電車の中ですることがない。本を読もうか。それがいい。明日からはそうしよう。 移転はいいけど仕事の中身がしんどくて、なんだか自分の首を絞めているだけなんじゃないか…なんのためにこれをしているんだ…とぐったりしている。昨年度の下期のフィードバックもあった。厳しい現実がそこにあった。 一日のほとんどを費やしている活動、それは仕事。それがしんどいなんて。 土曜日はほぼ丸一日我が子と二人きりで過ごし、それはそれで別種のつらさ(意思疎通ができないなど)はあるけど断然楽しさが上回る。二日に一回はずっとベビーカー押して過ごしたい。この子の成長を眺めるだけの仕事がしたい。

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気づいたらGW終わって1週間経ってるのな! GWは両家の母の日を祝った記憶。ほかにあったかな……あった、文フリだ。文学フリマ。それは別に書こうかな。 我が子は寝返りでうつ伏せになるのが好きすぎて困る。 うつ伏せになると、ヨガでいうところのアップワード・ドッグやダウンワード・ドッグみたいなポーズをして、そして泣く。うつ伏せから他の体勢に移れないからだ。スフィンクスっぽい佇まいでさめざめと泣いている。 保育園では上のクラスのお姉さんに構ってもらっているらしい。お迎えは配偶者の担当なので自分は会ったことないのだけど、よく0歳児クラスに来て我が子と遊んでくれる女の子がいるそうだ。 その子は配偶者がお迎えに行くと「遊んであげた!」と報告してくれたり、逆に「お迎えきたよ!」と我が子に報告してくれたりするらしい。 なんというか、我が子は親の知らない誰かとつながりができていて、すでに社会の一員なんだな、他人に影響を与え得るひとりの人間なんだな、と感慨深い。

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気づいたらGW。時がよそよそしく去っていく。 二週間のうちに我が子の保育園送り、保育園の懇親会、熱出して保育園お休みで看病、という保育園デビュー直後イベントはだいたいこなした。こなしているうちに二週間が過ぎた感じ。 古い園なので、もっと効率化できそう…と思うことはあったりする。できればルールはかっちり決めてほしいけど、現場の運用次第になっている部分が多く、それも気になる。 たとえば持ち物には名前を書くルールがあって、それは間違いなく必要なのだけど、お名前スタンプは禁止されている。 理由はスタンプの文字が小さくて読みづらいからだそうだ。でもスタンプのサイズはいろいろあるし、手書きだとしても小さく書く人だっているだろう。ルールとしては「一文字の大きさは○cm以上」と数値で明確にすべきだと思ってもやもやしたのだけど、あんまりキッチリしすぎると逆に父母から文句が出るんだろうか。話によると結局スタンプでもとがめられないらしいのだけど。 反対にルールがあいまいで助かりそうなのは熱が出た時だ。平熱より1℃高いと預けられないらしい、でもギリギリボーダーライン上だったら交渉次第ではOKになるかもしれない。だから園もルールづくりに試行錯誤しているのだろうなとリスペクトせざるを得ない。保育士って見ててほんと大変そうだもんな。 我が子の面倒を見てくれて、毎日コメント書いてくれて、かわいがってくれて、保育士さんありがとう。なんだかんだで言いたいのはありがとうってことだ。

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ちょっと集中したくて打合せスペースで独り作業してたら、周りはもちろん打合せ中で、みんな楽しそうに打合せしてるんだなーと思った。声がはつらつとしてるし、笑い声も聞こえる。 自分は今後、仕事が楽しくなるんだろうか。と落ち込んでしまった。最近ずっと胃が痛い。 我が子は保育園でミルクをたくさん飲めるようになり、配偶者が「今日は120mlも飲んだよ!」みたいに報告してくれる。文字どおり日々成長してる。いや秒かも。秒で成長してる。うれしい。 自分に元気がないせいでケンカっぽくなることもあるけど、今は家族のいる家に帰るのがいちばん楽しみだ。独り外食もおいしく感じなくなってしまった。家で食べるごはんがいい。 風呂に入っているとき、もし自分が無職になったら次を探せるだろうか…と不安になったりする。もはやエンジニアではない。技術に触れていない。ついていけない。かといってコミュ力もない。やっべーぞ、と脳内ナダルが叫んでいる。