雨の日は本を読んでいたい

あの時の本を読み返したら、今はどう思うのだろう。いつか読み返すために、思いついたことを書いておこう。読みたい本が尽きなければ、雨の日だって、晴れの日だって、読みたい本だけ読んでいたい。

ちょっとそこまでぱんかいに/山下明生、エム・ナマエ

とあるラジオで、お薦めしていたので、図書館で借りてみた。

絵のエム・ナマエ氏はこの後、失明してしまったが、やがて盲目のイラストレータとして活躍したらしい。

この本は眼が見えていた頃の最後の作品で、作風も変わってしまったらしい。

影の部分の塗りつぶしから点描でグラデーションを表現しているところ、4頭身ぐらいの人物の描き方、正確ではない直線と円の割にリアリティのあるフォルム、細かく書き込まれた背景、かなり特徴のある絵だと思った。

盲目になってからの絵と比べてみないと何とも言えない気もしたけれど、そこまでするかどうかはまだ考え中である。

そんなに絵本に造詣がある訳でも無いので。

無敵のソクラテス/池田晶子

ふと、池田晶子氏の著作が読みたくなり購入。

500頁2段組みなので、1,000頁相当の大著であり、ソクラテスシリーズの全作品が入っている。

対話篇という形式は、私という存在を韜晦するのに相応しい。

ソクラテスに語らせながら、「私」という存在を巡って、考えを深めてゆく。

時事ネタもありつつ、私は何者であるのかを問い続ける。

哲学とは考え続けることであり、考えることなしに示すことのできる何かではないということをソクラテスに言わせている。

1,000頁相当の大著を数行にまとめて語ることなどできないけれど、そのまとめられない考える過程こそが哲学なのだということであろう。

また、面白いなと思ったのは、家族に対する人称の考え方で、子供自身が1人称とするなら、母が2人称であり、父親が3人称であるという考えを展開している。

何となくフロイトドゥルーズ=ガタリオイディプス構造を連想した。

 

スノードロップ/島田雅彦

引き続き島田雅彦

出来の良い物語とは酔わせてくれるし、現実とそっくりの顔をしているのではないだろうか、と思っている。

日本の将来を憂う皇后陛下が主人公の、近未来の日本が舞台の物語である。

これは政治小説だろうか?

或いは、細部まで作り込んだ陰謀論の物語だろうか?

小説の中にある真実とは、事実と同じとは限らないし、むしろ、ものの見方や考え方が、現実の自分に影響を与えて、現実の見え方を変えてしまうものかもしれない。

この小説のモチーフの一つに、日露戦争以来、ユダヤ資本に隷属させられている日本という近代史観は、蔓延る陰謀論の類と同型だが、それを梃子に皇室による革命を夢見る物語というのは、物語としては面白いと思った。

それを信じるのか信じないのかは読者の自由であり、それが事実であるかどうかは小説とは関係が無い。

そしてあとがきまで読んで、これは三島由紀夫のモデル小説の手法を踏襲しているのだと気づいた。

島田雅彦三島由紀夫の直系の弟子筋かもしれない。

暗黒寓話集/島田雅彦

個人的に島田雅彦ブームが来ているので、最近の短編集を借りてみた。

暗黒というのは、いささか諧謔味のあるタイトルだと思う。

とはいえ、心温まるような話ではなく、ちょっと斜に構えていたり、ちょっと不気味であったりする短編が収められている。

一つ一つについて細かな解説はしないけれど、東京西部、それも南西方面が舞台が多いのは、特徴的かもしれない。

高度経済成長期に生まれ育って、伝統や地域共同体から切り離されていて、マイルドヤンキー文化と共通するベースが多い、そんな背景から生まれてくる作品だと思った。

たぶん年代的には近しいのだけれど、異なる背景が見え隠れしているような気がする。

それよりある種の不協和音のようなものとして物語に組み込まれている死だとか過去だとかに、感傷的な身振りが全く無いとは言えないけれど、少し斜に構えて見ているようなところがあるように思った。

これらの物語が寓話としての意味を持つのは、その不協和音がゆえなのかもしれない。

欲が出ました/ヨシタケシンスケ

ヨシタケシンスケのエッセイ第二弾も併せて借りた。

なるほど分かる気もするイラストもあれば、それはどうだろうかというものもある。

著者というより、出版社が欲を出したのかもしれない。

文章での説明がないイラストだけのの方が良いものもあると思った。

入社式と「誰でもピカソ」の収録がダブルブッキングしてしまった話が、何となく心に残った。

そういう転機になったかもしれない出来事が、自分にはあっただろうか。

あったかもしれないが、忘れているような気もする。

 

思わず考えちゃう/ヨシタケシンスケ

図書館で読む本を探していて、ちょっと読んでみようかと手に取った。

名前も知っているし、子供向けの絵本を何冊か試し読みをしたこともあるが、ちゃんと読んだのは初めてである。

いまさら説明の必要も無いと思うが、絵本作家であり、エッセイストといって良いのだろう。

この本は、著者が書き貯めているメモを公開している。

ちょっとクスッとするようなものや、なるほどなぁといったものなど、小ネタが50編ほど収録されている。

軽く読み終える一冊であった。

 

スーパーエンジェル/島田雅彦

久しぶりに島田雅彦の「優しいサヨクのための嬉遊曲」が読みたくなって、家の本棚を探したけれど見当たらず、図書館に探しに行っても見当たらず、だったら最近の著作でも読んでみようと思って借りた。

舞台は近未来の日本と思われる国で、AIが人類を管理している。

そこでは人類は遺伝子によって「統治者」「守護者」「学者」「奉仕者」そしてそれらに分類されない「異端」に分けられ、「異端」は社会から排除され開拓地へを追いやられる。

「異端」であることを宣告された主人公と、AI搭載のロボットであるゴーレム3との対話から物語が始まる。

ここで物語の粗筋を書いてしまうと、この物語の半分以上を語ってしまうことになるのでこれ以上は書かない。

物語の要素としては、AI、量子、自由といったものが挙げられる。

舞台設定、世界観、主人公の背景など、説明を重ねたうえで物語が始まるが、あっさりと終わってしまう。

そして、この本には物語をベースにしたオペラの台本が収録されている。

これは小説として表現したいものではなく、オペラとして表現したいものなのかもしれない。

だが、最初から小説であることを志向していたのか、小説では表現しきれなくなってオペラに移行したのか、読了しても何だか収まりが悪い。