揺れる米競馬界

昨年度米年度代表馬ゴーストザッパーが左前脚種子骨を骨折。電撃的に引退、種牡馬入りすることが発表されました。
今季初戦となったメトロポリタンHで6馬身差で圧勝し、今年もこの馬だと思わせた矢先の出来事に関係者はショックを隠せない様子。一族に活躍馬を多数輩出した血統から将来の展望も明るいことでしょうが、残念なニュースでした。


これで今年のドバイWC勝ち馬ロージズインメイと、プリークネスSベルモントSの2冠を達成したアフリートアレックスが2強を形成しそうな感じですが、評論家の合田直弘氏はそうは見ていないようですね。
というのも、今年の3歳牡馬路線が極端に低レベルなメンバー構成だったからだそうで、確かにケンタッキーダービー馬ジャコモはその後の2冠をいずれも惨敗したし、他に入着した馬も重賞で活躍している実績を残した馬が少なく、ベラミーロードなき今、いうなればアフリートアレックスが勝って当たり前の状況が出来上がっていました。

となると今年の米競馬はロージズインメイの1強ということになりますが、それがシガーやスキップアウェイのような誰も文句のつけられないような存在だったならばいざ知らず、最有力馬がアクシデントで戦線離脱したことによりどんぐりの背比べの中で1強と呼ばれても競馬が盛り上がるはずがありません。よって今年は少し米競馬に興味がそがれた感が否めませんね。
新星の登場に期待したいところですが、11月のブリーダーズカップまで半年を切った段階でそこまでの上がり馬が出現することは考えづらいよなぁ。スマーティージョーンズが無事だったらこんなことにはならなかったはずなんですがねぇ。。。

瞬発力とは何か

鉛筆の芯は削れば削るほど鋭く研ぎ澄まされる。しかし研ぎ澄まされた鉛筆はその鋭さとは引き換えに、むしろいとも容易く、折れる。しかし時に鋭さと強さを併せ持った例外も存在するようです。


シーキングザパール、彼女はそんな馬でした。
彼女のJRA発表による現役時の最高馬体重は474kg。それは96年阪神3歳牝馬S(現・阪神JF)で記録されたもの。翌年1月、シンザン記念から彼女の競馬はスタートし、その時の馬体重は前走から8kg減った466kg。そこから連勝を重ねるごとに体重は減り続け、NHKマイルC出走時には456kg。馬の成長期とは裏腹に減り続ける馬体重は不安を掻き立てましたが、それをよそ目に、彼女の走りは鋭さを増していく一方でした。


その強固な芯にもモロさがないわけではありませんでした。
秋になってからは掛かりグセが表面化し、やや長めの距離では鞍上の制止をきかないことが多くなったし、雨にも弱く、少しでも馬場が悪化すれば力を出し切れないことがありました。
仏に遠征しモーリスドギース賞を制した時と、馬場が悪化し惨敗したムーランドロンシャン賞の明暗もそれを証明するものであったはずです。


遠征を終え帰国し、まず出走したのはマイルCS。現役で2番目となる馬体重472kgで出走した彼女はタイキシャトルの前に8着と惨敗。そして返す刀で出走したスプリンターズSはマイナス14kgの458kg。見た目に誰もが「ガレている」と感じたその馬体はまさに研ぎ澄まされた鉛筆の芯そのものでした。ゲートが開き、道中は1200mでは絶望的ともいえる離れた最後方を進んシーキングザパール。鞍上武豊に芽生える確信。


「このギリギリの体ならば瞬発力の違いで差しきれる」


直線ではその思惑通り、まさにケタ違いの鬼脚を発揮し前を行く馬をごぼう抜きしていくシーキングザパール。しなやかに繰り出されるバネのきいた後ろ脚の回転運動。それはまさに瞬発力とは何かということを体現しているかのよう。結果2着には敗れはしたものの、競馬場に詰め掛けたファンにはその姿が鮮烈に焼きついたことでしょう。


それ以降、俺が個々の競走馬を見るときに瞬発力を測る上で最高の基準となったのがシーキングザパールの後ろ脚の回転運動です。
その仔、シーキングザダイヤは母親の走法をソックリそのまま受け継いだいわれていますが、俺の目からはその怒濤の瞬発力を生み出した、後ろ脚の回転運動が受け継がれているようには見えませんでしたし。母と同じように体重を削ぎ落としたからといって、あの瞬発力が再現できるとも思いませんでした。


あの胸のすくような鬼脚をもう1度見てみたい。シーキングザパールの忘れ形見は残すところ牝馬2頭。彼女達にその素質が受け継がれていることを願います。


シーキングザパールの冥福を心よりお祈り申し上げます。