「白日青春 生きてこそ」 すばらしいアンソニー・ウォン

アンソニー・ウォンの新作「白日青春 生きてこそ」を松山で観てきた。東京では1月公開の映画なのに、四国民は3ヶ月も待たされる。いつもの許しがたい地方格差である。

アンソニー・ウォン 黄秋生

アンソニー・ウォンは好きな役者だ。好きになったきっかけは「八仙飯店之人肉饅頭」(1993)だった。以降もハーマン・ヤウ監督と組んだ人間探求シリーズ(と勝手に呼んでる)、「タクシーハンター」(1993)、「エボラ・シンドローム 悪魔の殺人ウイルス」(1996)など傑作が多い。とかなんとか言いつつヒットした「インファナル・アフェア」三部作は観てなかったりする。

なぜオレはアンソニー・ウォンをこんなに好きなのかを考えながら観ていた。 (★4)

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底辺から見る宇宙 「宇宙探索編集部」

「宇宙探索編集部」

「宇宙探索編集部」を観るために、週末に高知に行ってきた。この映画は文化荒廃県・香川では上映されなかったので、上映してくれたゴトゴトシネマさんに感謝します。高知には他にも毎週末上映会をやってるシネマ四国さんもあって、皆さん立派だ。文化の荒廃と日夜闘っておられる。

以下、CinemaScapeに投稿したネタバレいっさいなしの感想。今年のベスト候補です。

穴の空いた胸には、ロマンのかけらがほしいのである (★5)

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ミスター珍と、力道山

1994年刊

ミスター珍が亡くなる前年に刊行された著書、「万病息災 糖尿地獄からの生還」を読む。こんな本が出ていたことは全然話題にならなかったし、こんな本を読んだのは流智美と吉田豪とGスピ編集部ぐらいなんじゃないかと思う。タイトル通りミスター珍の長年にわたる闘病の記録であり、しかし日本プロレスや国際プロレスの貴重な記録、歴史の証言でもある。正直言ってこの本はメチャクチャ面白かった。君たちも探して読みたまえ。

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「夜明けのすべて」 上白石萌音のモコモコ装備

モコモコのマフラー

「夜明けのすべて」を観てきました。三宅唱監督の前作「ケイコ 目を澄ませて」がよかったのと、みんな大好き上白石萌音が出てるからである。よかったですよ。以下感想。あ、「指で月を隠す映画」ってのは劇中2人の会話に出てくるんですよ。判る人は教えてください。

指で月を隠す映画ってなんだろう、知らないな。「指を見るんじゃない。その先の栄光を見失うぞ」 は「燃えよドラゴン」だけど。 (★4)

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邦題イマイチだが傑作 「理想郷」

ヤーねえ田舎ってウンコくさくって…

先日、松山に足を伸ばして観てきたスペイン映画「理想郷」。高松でもあと2週間待てば上映するんだけど、どうにも待ってられなかった。そしてオレの勘は当たった。たいへんな傑作だったのでご紹介。以下感想、ネタバレ満載なので未見の諸兄は読むなよ絶対に読むなよ!

「田舎は地獄」、その向こう側へ (★4)

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「シン・ちむどんどん」 日本が植民地支配する島で

日本映画専門チャンネルで放送された「シン・ちむどんどん」のRECを観た。プチ鹿島氏とダースレイダー氏が大島新プロデュースで作った「劇場版センキョナンデス」の続編だ。もともとはお二方のyoutube番組「ヒルカラナンデス」があって、いや、説明めんどくさいから各自調査な。

前作「劇場版センキョナンデス」は劇場で観て、面白かった。今作「シン・ちむどんどん」はオレが住む香川の近くで上映がなく観られなかったので、CS放送はありがたい。楽しみにしていたのだが、これが思いもよらぬヘビー級の傑作だった。

映画の前半は2022年9月の沖縄県知事選(現職の玉城デニー知事が当選)を、前作「センキョナンデス」式に取材。後半は米軍基地問題の今を描く構成になっている。以下感想。

辺野古の中山さん

終盤に登場する辺野古ボランティアガイドの中山さんの、このうえなく明晰な説明を聞いて改めてゾッとした。これがあるだけで、値千金の映画だ。 (★4)

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竹内さんと「PERFECT BLUE」と今敏

モンスターとして描かれるストーカーくん。今敏の人間観が出てる

先週末は大変だった。金曜の夜に香川の宇多津で「PERFECT BLUE」の4Kリバイバルを観た。そのまま瀬戸大橋を渡り、土曜朝から岡山で「バーナデット ママは行方不明」。夕方には広島で「PIGGY」。しまなみ海道を渡り、日曜朝に愛媛の松山で「国葬の日」。香川の自宅に戻って競馬(負けた)。

地方における映画の公開があまりにもデタラメ、気まぐれ、遅れまくり、バラバラであるせいで、観たい映画をすぐに観たいせっかちなオレはこのような弾丸密航を敢行せざるを得ない。ちなみに、4本の中でいちばん気に入ったのは「バーナデット ママは行方不明」。皆さんも観ましょう。

今敏の「PERFECT BLUE」(1997)はたぶん99年頃、ビデオ化されて間もなくVHSで観た。気に入らねえなと思った。以後、今敏は気に入らねえアニメーション監督としてチラチラとオレの視界に入り続けることになった。以降オレが観た数少ない今敏監督作は「PERFECT BLUE」、「千年女優」、「パプリカ」の3本(だけ)である。

以下、昨夜CinemaScapeに投稿した感想。以前ここに書いた竹内さん関連の記事と一部内容が被るので、はてなブログにあげる気はなかったのだが、シネスケを読んだ友人から「はてなにはあげないんですか! あげないんですか!」と詰め寄られたのでやっぱり転載します。

今敏を出会い頭で嫌いになった作品 (★2)

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気に喰わねえ 「アリスとテレスのまぼろし工場」

「アリスとテレスのまぼろし工場」を観てきた。

岡田麿里の前(監督)作「さよならの朝にナントカカントカ」は円盤で観て、気に喰わねえな気持ち悪いなと思ったものだ。「アリスとテレスのまぼろし工場」は劇場で観たわけだが、気に喰わねえな気持ち悪いなと思った。以下、ネタバレあり。

90年代初頭には道の駅がないのでドライブインがある

園部さんかわいそう (★2)

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鈴木敏夫プロパガンダ 「天才の思考 高畑勲と宮崎駿」

2019年(高畑勲死去の翌年)に出た文春新書。鈴木敏夫の口述本で、高畑・宮崎を中心にジブリの足跡を語っている。言うまでもなく鈴木敏夫史観によるジブリ史であり、鈴木敏夫に都合のいいことばかり語られ、都合の悪いことは語られないか、矮小化されている。勝者の語る歴史である。

では、鈴木敏夫に都合のいいこととは何か。まず語り部としてウケる鉄板ネタ。周囲の人に何度も語っていくうちに枝葉が整理されネタ化された数々の面白エピソード。加えて、鈴木さんすごいすご~い、と褒められるような制作秘話。えっ、あの映画のアレは鈴木さんがこう言ったからああなったんだ、みたいなやつ。幇間サンパブロこと川上量生が「さすが鈴木さんでゲスよ! 鈴木さんの言う通りでゲスよ!」と持ちあげるやつね。

つまりキャバクラでキャバ嬢相手に調子こいてる鈴木敏夫の隣の席で聞き耳を立てているような気分になる本である。それを前提として読まねばならない。鵜呑みにすべきじゃないし、できない。そんな本でもオッ、これはと思う箇所も幾つかあったので、ここに一部引用しようと思う。

まずは高畑勲の「おもひでぽろぽろ」制作中。リアリズムでデザインされたキャラクターの頬骨や皺の作画にアニメーターたちが大苦戦。進行が遅れスケジュールが危機に瀕し、公開が危ぶまれた時。

今回の企画の言い出しっぺである宮崎駿はどうしたか? 会議室にメインスタッフを全員集めて、スタジオ中に響き渡る大きな声で檄を飛ばしました。
「絵の描き方を変えろ! こんなことをやっていては、いつまでたっても終わらないぞ!」
宮さんのあんな声は、後にも先にも聞いたことがありません。一方、当事者の高畑さんはうなだれるばかりです。宮さんが「パクさん、なんか言ってください!」と水を向けても「はい」と言うだけ。ところが、宮さんが帰った後、高畑さんはこっそりスタッフの間をまわって、「いままでどおりの描き方でいいですからね」と言うんです。

鈴木敏夫によると、宮崎駿はこの時大声を出しすぎて震えが止まらず、三日間眠れなかった… と後に語ったという。

続いては「紅の豚」制作中、「平成狸合戦ぽんぽこ」の脚本が完成したと知った宮崎駿。

「制作中止にしよう」
冗談を言っている顔じゃありません。真剣なんですよ。
――俺はいつも作品を一年で作ってきた。でも、パクさんは二年かけて作る。これじゃジブリの主流はパクさんで、俺は傍流じゃないか。いま俺がどんな思いで『紅の豚』を作ってると思ってるんだ。パクさんが『おもひでぽろぽろ』でガタガタにしたスタッフを立て直すために、俺がどれだけ苦労しているか、他ならぬ鈴木さんが一番よく分かってるだろう! だから、『狸』は制作中止だ!

「制作中止にしないのなら、俺がジブリを辞める」と言い張る宮崎駿と1ヶ月ほど押し問答が続いたある日、宮崎駿は呻きながら胸を押さえて倒れたという。救急車を呼ぶかとジブリは大騒ぎになったが、幸い大事には至らなかった。

続いて「平成狸合戦ぽんぽこ」の制作終盤。

その日、僕は都心に行く用事ができて、スタジオを留守にしていました。その間隙を突いて、『狸』の作業場にやって来た宮さんが、メインの原画マン5人を呼んで、「クビだ!」と告げたんです。みんなわけが分からないけれど、宮さんがえらい剣幕なので、仕方なく荷物を片付け始めた。
宮さんから「鈴木さんには連絡するなよ」と釘を刺されていたんですけど、その場にいた僕の部下の高橋というのが何とか脱出して僕に電話してきた。そこで、僕は慌ててスタジオのある東小金井にとんぼ返り、五人を引き留めました。むろん、宮さんには何も言いませんでした。

流石にそこはなんか言った方がいいんじゃないかと思うけど、下手なこと言って怒らせて辞められちまったら飯の食いあげだもんな。猛獣使いの阿吽の呼吸というやつか。

と、ほんの一部を抜粋しただけでこれなので、いかに鈴木敏夫がキャバクラでモテモテか、容易に想像できるというものだ。あまりにもモテモテなので飽きちゃって、カンヤダちゃん方面に走っちゃったのかもしれないなあ。

「君たちはどう生きるか」の胎内めぐり

宮崎駿の新作「君たちはどう生きるか」を観てきましたよ。いやあ凄いもん観ましたねえ。こんな凄いもんが、2023年のこの国で生まれるなんて本当にビックリですね。以下、読まんでもいいような感想ですが、内容に触れてます。皆さん一刻も早く観てくださいね。語り草になる映画です。

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ママから生まれたい、という欲望 (★4)

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あの日観た映画の映写環境を僕達はまだ知らない

わたくし今日、愛媛に密航して「フリークスアウト」を観てきたんですよ。

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大傑作「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」を作った世界最重要監督のひとり、ガブリエーレ・マイネッティ監督の長編2作目である。オレが寄せた過大な期待には及ばなかったものの、面白かった。マイネッティ監督、永井豪の後継者だな。ちなみにオレ認定の世界最重要監督は結構いる。数えたことはないが。

それはそれとして、映画館について最近思っていることを少し。どこまで通じる話なのか、オレだけの個人的問題なのか判らない。判らないからとりあえず書いておくのだが、あのー最近、プロジェクターの光量が足りてない劇場が多くないですか。

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我々と無関係じゃない 「聖地には蜘蛛が巣を張る」

アリ・アッバシ監督といえば世界最重要監督のひとりである。いやーそれほどじゃないでしょ、という人もそりゃいるだろうがオレのブログでオレが思ってることを断定して書くことに何のためらいがあろうか。世界最重要監督のひとりだとオレが言ったらそうなのである。前作「ボーダー 二つの世界」(2018)を観ればそれは明白だ。ちなみに長編デビュー作「マザーズ」(原題「Shelley」 2016)というのもあるらしい。近々観てみよう。

アリ・アッバシ監督の新作「聖地には蜘蛛が巣を張る」が公開されたので観てきた。文化が死に絶えた辺境の地・香川では上映がなかったので、松山まで行ってきた。今回はじめて行ったシネマサンシャイン衣山というシネコンにも、これが入ってるパルティ・フジ衣山という商業施設にも盛大な文句と呪詛があるがそれは割愛する。以下感想だが、観てない人には何のこっちゃ判らんだろう。暴力描写が苦手な人には勧めないが、そうでなければ観てほしい。こわい怖い映画である。

聖地には蜘蛛が巣を張る [DVD]

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殺しはペルシャ絨毯の上

前作でオレが寄せた信頼を裏切らぬ、流石のアリ・アッバシ監督。背筋も凍るとはこのこと。傑作。(★4)

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