Devil's Own

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耽美と愛憎の学園メロドラマ『おにいさまへ…』を見よ

"Dear Brother"1991-1992/JP

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©NHK・NEP・池田理代子プロ・手塚プロダクション

 最近、妹からの強いレコメンドを受けて、『おにいさまへ…』というアニメに見はまってしまった。原作は、『ベルサイユのばら』の池田理代子さんが1970年代に「週刊マーガレット」に連載した少女まんが。手塚プロダクションの製作で、1991〜92年にNHK-BSで全39話が放映された。監督は『あしたのジョー』、『エースをねらえ!』などで知られ、『ベルばら』のアニメ化も手掛けた出崎統さん。作画監督とキャラクターデザインはもちろん、出崎監督とのコンビで多くの作品を送り出した杉野昭夫さんが手掛けている。アニメ好きにとっては、知る人ぞ知る隠れた傑作らしいのだが、その方面に明るくない私は、原作も、アニメも寡聞にして知らなかった。これねえ、すっごくおもしろいんですよ。

 主人公は、平凡な(といってもそこそこ上流家庭の)女子高生、御苑生奈々子。受験期に塾講師だった大学生、辺見武彦に対して恋とも、憧れともつかない不思議な親愛の念を感じ、「お兄様になってください!」と頼み込んで以来、文通している。タイトルの「おにいさまへ」はここからきていて、アニメの語りも、奈々子が辺見に宛てた手紙という形式で展開していく。

 物語は、奈々子が親友の有倉智子と入学した青蘭学園の登校初日から始まります。青蘭には選ばれし生徒だけが入会を許された社交クラブ「ソロリティー」があり、学校運営にも絶大な力を握っている。メンバーには、豪華絢爛なパーティーや優秀な先輩たちによる勉学指導、卒業後の進路や縁談などさまざまな「特典」が用意されていて、多くの生徒の憧れの的なのだ。わけても、美貌と知性、カリスマ性を兼ね備えた会長、一の宮蕗子は「宮様」と崇拝されている。「一般層」の奈々子には関係のない世界に思われたが、なぜかメンバーに選ばれてしまったことで、他生徒の嫉妬と嫌がらせ、さらには愛憎渦巻くソロリティーメンバーの人間関係へと巻き込まれていく。

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主人公の奈々子(左)と親友の智子 ©NHK・NEP・池田理代子プロ・手塚プロダクション

 序盤から濃すぎるキャラクターが次々と登場。劇画調の止め絵を用いた「出崎演出」が続出し、羽田健太郎氏による流麗なスコアが「華麗なる人々」(第1話のサブタイトル)をこれでもかと盛り立てる。耽美に振り切った世界観とカロリー高めの語り口に、頭がくらくらしてくる。あまり集中して見ていると、どっと疲れるので注意が必要だ。小椋桂、原田真二両氏が手掛けたオープニング、エンディングの主題歌もうつくしい。

おにいさまへ…』の魅力① 濃すぎる登場人物

 本作の魅力を説明するとき、個性的な登場人物たちは外すわけにはいかない。主人公を取り巻くメインキャラクターを一人ずつ紹介していこう。

美と誇りに尽くす完璧主義者 一の宮蕗子

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©NHK・NEP・池田理代子プロ・手塚プロダクション

 ソロリティーの会長である一の宮蕗子は、「〜でしてよ」「〜でなくって?」などやんごとなき言葉づかいで振る舞う誇り高きリーダーだ。奈々子のソロリティー入会を強く推し、学園に混乱を招いた張本人だが、そこには意外な、しかし切実な理由が隠されていた。完璧主義者で、成績不振の1年生会員に「自主退会」を迫るなど冷徹な面を見せたことから、奈々子は不信感を抱く。反発はしだいに周囲にも広がっていき、終盤は孤立していく。

耽美と退廃の麗人 朝霞レイ

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©NHK・NEP・池田理代子プロ・手塚プロダクション

 一見、男に見間違えられる男装の麗人。薔薇をくわえながら優雅にピアノを弾いたかとおもえば、バスケットでも卓抜した才覚を発揮し、女生徒たちには「サン・ジュストさま」と持てはやされる。未成年なのにタバコをたしなみ、正体不明の錠剤を持ち歩いて服用している破滅型ジャンキー。蕗子とは実は異母姉妹で、姉である蕗子を崇拝。だが当の蕗子はレイに冷たく当たり、その愛憎入り混じる関係が彼女をますますデカダンな生き方へと駆り立てていく。

いのちを燃やす華麗なアスリート 折原薫

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©NHK・NEP・池田理代子プロ・手塚プロダクション

 レイの親友で、バスケットが得意なスポーツウーマン。男勝りな性格でレイと並んで女性ファンが多く、「薫の君」と持てはやされている。病気で休学していたため、1学年下の奈々子と同じクラスにいる。生徒を選別し、特権化するソロリティー制度に強い不信感を持っていて、終盤はソロリティー廃止運動の先頭に立つ。強烈なキャラクターぞろいの本作にあっていちばんの常識人で、頼り甲斐もあり、見ている側も薫が出てくると安心感がある…のだが、終盤は胸の奥底に深い悲しみと死への恐怖を抱えていることがあきらかに。

愛を求め、愛に生きる黒髪の乙女 信夫マリ子

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©NHK・NEP・池田理代子プロ・手塚プロダクション

 奈々子と同じクラスからソロリティーに選ばれた1年生。学園に多額の寄付金をしているため周囲から一目置かれているが、裏では「ポルノ作家の娘」と蔑まれている。父は仕事と愛人を理由にほとんど家には帰らず、大きな屋敷に母と二人で暮らす。奈々子に異常な執着心を見せ、智子との仲を引き裂こうとする典型的な愛着障害

 物語は、主にこれらの登場人物と奈々子とが織りなす、時には同性愛的な友情と衝突を描いていくわけだが、正直読んでいて「すでにお腹いっぱいだな…」って思ってませんか。でもこの作品が描こうとするのは、濃すぎる登場人物や絢爛華麗な世界観とはむしろ正反対の、普遍的で地に足の着いたメッセージだったりするのです。

 

おにいさまへ…』の魅力② 思春期の葛藤と成長を描く普遍的ドラマ

 紹介してきたように『おにいさまへ…』の登場人物は、どれも極端なキャラ付けされ、いかにも「少女漫画的」なキャラクターのパロディーにも見える。だが物語が進むにつれ、彼女たちが抱えるコンプレックスや苦悩が明かされ、キャラクターの根幹をなしていることがわかってくる。多くが理想を追い求め、理想通りにいかない現実にもがきながらも、やがては自分を、家族を、友達を、許し、受け入れていく。その葛藤と相克こそが本作のテーマといっていいだろう。だから、一見して現実離れした登場人物であっても、最終的にはすっかり感情移入し、その成長に涙してしまうのだ。

 たとえば、信夫マリ子はどうだろう。シリーズ序盤は、病的なまでに奈々子に執着するヤンデレだが、孤独を分かち合い、奈々子や智子と真の友情を結んでからは、ストレートな性格がむしろポジティブなものとして受け止められていく。さらに中盤以降では、彼女のパーソナリティに深い影響を及ぼす父との関係も描かれる。

私はね、マリ子。お前の目から見れば、きっとどうにも許せない人間だ。

きっと私を知っている誰もが、私をくだらないやつだと言うだろう。

でもね、そんな私でもほんの少しでもいいところがあると自分では思っている。

誰にも見えないが、私だけが知っているいいところが、少しはあると思っている。

私はそれを大事にしている。ひそやかだが愛してさえいる。

それがないと生きられないからだよ。いや、それさえあれば、どんなことがあっても生きられると思うからだよ。

自分を愛さなくて、誰が君を愛することがある。

         ―檜川信夫第28話「クリスマスキャンドル」より)

         ©NHK・NEP・池田理代子プロ・手塚プロダクション

  第28話「クリスマスキャンドル」で、マリ子の父、檜川が娘に語り掛ける言葉は、本作全体のテーマを言い表すほどの名台詞だ。これまで顔すらもろくに画面に映らず、ひたすら感情移入しづらい人物として扱われていた男の口から、感動的な言葉が引き出すことで、見る者の意表を突き、驚くべき効果を上げている。大人の不完全さを許し、受け入れることで、マリ子は自分自身も許し、愛せる人間へと成長していく。不完全さを許し、きびしい理想から解放されることで、本当の意味での自尊心を獲得するプロセスは、ほかの登場人物でも繰り返し変奏される。

奈々子だって、鍵のひとつやふたつ、実はもう持っているんじゃないのかね。

そんなことは分かった上で、人は愛しあったり、信じあったりするんじゃないのかな。

              ―奈々子の父(第37話「回転木馬」より)

         ©NHK・NEP・池田理代子プロ・手塚プロダクション

 マリ子の父に限らず、作り手はむしろ周辺に位置する「大人」にこそ重要なメッセージを託しているように見える。最終話近くで、奈々子の父が語る台詞も、テーマにかかわるせりふだ。主人公の奈々子にも実は複雑な家庭の事情があるのだが、マリ子の成長に立ち会ったことで、すんなりと受け入れるようになっている。

 

おにいさまへ…』の魅力③ 「モブキャラ」がいない重層的な作品世界

 このように本作は、一見浮世離れした舞台設定やキャラクターを用いつつ、実は普遍的な少女たちの成長譚を描いている。電車とバスを乗り継ぐディテールに富んだ通学描写や、奈々子と智子とナチュラルな日常会話もリアリティーを生んでいる。

 しかし私が度肝を抜かれたのは、キャラクターに対する深い理解と洞察が、ささいな登場人物に至るまで、すみずみに行き届いている点でした。通常ならおろそかになりがちな「モブキャラ」にも多角的なエピソードを盛り込み、作品世界をさらに奥深いものにしているのです。

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©NHK・NEP・池田理代子プロ・手塚プロダクション

 たとえば、奈々子に嫉妬し、陰湿な嫌がらせを繰り返す三咲綾、園部みゆき、古田めぐみの3人組。序盤は奈々子の体操服を隠したり、授業中に嫌味を言ったりして、絵に描いたようなヒールぶりを発揮。中盤には、まり子の家庭問題を暴露して、トラブルの引き金となる。通常なら、憎まれ役に徹し、主人公たちを引き立てて退場してもいいものだが、物語は意外にも「主人公になれなかった」彼女たちの苦悩へとフォーカスしていくのだ。三咲とマリ子との確執も明らかになり、序盤では想像もしなかったエモーショナルな結末を迎える。

 このほか、1話限りのゲストキャラクターと思われた人物が意外な形で物語に絡んできたり、「宮様」の取り巻きでしかなかったソロリティー幹部たちがスリリングな政治劇を演じたりと主要人物以外でも、重層的な人間ドラマが展開する。「主人公の物語」に奉仕するだけの書き割り的なキャラクターは、ほとんど登場しない。それぞれの背景や行動原理を描きこむことで、主人公に多角的な視点を与え、「不完全さを許す」という作品のテーマをより強固にしている。

 

まとめ 理想と現実のはざまで

 たえず理想を追い求め、きびしく自らを高める生き方にもまた、敬意が払われてる。作中で最も「理想」にとらわれたキャラクターは「宮様」=一の宮蕗子だろう。完璧主義者ゆえに孤立し、すべてを失ったかに見えた彼女が、誰のためでもなく、自らを鼓舞するためのスピーチを披露する場面は圧巻だ。

誇りは持とうと思わない限り持てません

しかしながら私は、その私が誇りを持てるだけの者かどうかは、いつも疑っています。

迷っています。

時には…時には捨ててしまいたいと思うときさえあります。

でも、持とうと思わない限り、持てないことを、私は知っています。

        ―一の宮蕗子(第32話「誇り、ラストミーティング」)

          ©NHK・NEP・池田理代子プロ・手塚プロダクション

 蕗子は、幼いころの「夏の日」に執着し、思い出が詰まった部屋をそのまま保管している。「きみを夏の日にたとえよう」で始まるシェイクスピアソネット18章が効果的に引用され、神格化された記憶を表現する。奈々子をソロリティーに引き入れたのも、自らの完璧な思い出を侵させないためだった。そんな蕗子も最終話には、ほとんど呪いですらあった思い出から解放される。

 それぞれが自らの理想と現実に折り合いをつけ、ほんの少しのさみしさを抱えながら、前に進もうとするとき、全編を通して描いてきた人間賛歌が浮かび上がる。 人生も、人間も、完璧ではない。それでもうつくしく、愛する価値がある。

The 100 Essential Shots of "Ultraman Ace"

Ultraman Ace"1972-1973/JP

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"Ultraman Ace" Main Title ©円谷プロ

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#1 Ep.1 "Shine! The Five Ultra Brothers" ©円谷プロ

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#2 Ep.1 "Shine! The Five Ultra Brothers" ©円谷プロ

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#3 Ep.2 "Surpass the Chouju"©円谷プロ

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#4 Ep.3 "Burn! Chouju Hell"©円谷プロ

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#5 Ep.3 "Burn! Chouju Hell"©円谷プロ

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#6 Ep.3 "Burn! Chouju Hell"©円谷プロ

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#7 Ep.4 "30,000 Year Chouju Appears" ©円谷プロ

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#8 Ep.4 "30,000 Year Chouju Appears" ©円谷プロ

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#9 Ep.5 "Giant Ant Chouju vs. Ultra Brothers" ©円谷プロ

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#10 Ep.5 "Giant Ant Chouju vs. Ultra Brothers" ©円谷プロ

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#11 Ep.5 "Giant Ant Chouju vs. Ultra Brothers" ©円谷プロ

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#12 Ep.6 "Pursue The Mystery of The Transformation Chouju"©円谷プロ

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#13 Ep.7 "Kaiju vs. Chouju vs. Seijin" ©円谷プロ

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#14 Ep.7 "Kaiju vs. Chouju vs. Seijin" ©円谷プロ

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#15 Ep.8 "Life of the Sun, Life of Ace" ©円谷プロ

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#16 Ep.9 "10,000 Chouju! Surprise Attack Plan" ©円谷プロ

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#17 Ep.9 "10,000 Chouju! Surprise Attack Plan" ©円谷プロ

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#18 Ep.10 "Battle! Ace vs. Goh Hideki" ©円谷プロ

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#19 Ep.10 "Battle! Ace vs. Goh Hideki" ©円谷プロ

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#20 Ep.11 "The Chouju is Ten Women?" ©円谷プロ

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#21 Ep.11 "The Chouju is Ten Women?" ©円谷プロ

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#22 Ep.12 "The Red Flower Of Cactus Hell" ©円谷プロ

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#23 Ep.13"Execution! The Five Ultra Brothers." ©円谷プロ

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#24 Ep.14 "The Five Stars that Scattered Throughout the Galaxy" ©円谷プロ

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#25 Ep.15 "Curse of The Black Crab" ©円谷プロ

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#26 Ep.16 "Monster Story: Cow God Man" ©円谷プロ

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#27 Ep.17 "Monster Story: The She-Devil of Firefly Field" ©円谷プロ

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#28 Ep.17 "Monster Story: The She-Devil of Firefly Field" ©円谷プロ

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#29 Ep.18 "Lend Me The Pigeon" ©円谷プロ

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#30 Ep.18 "Lend Me The Pigeon" ©円谷プロ

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#31 Ep.19 "Mystery of The Kappa's Residence" ©円谷プロ

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#32 Ep.20 "The Star of Youth - The Star of a Couple" ©円谷プロ

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#33 Ep.21 "I Saw The Phantom of a Heavenly Woman" ©円谷プロ

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#34 Ep.22 "Yapool, Demon of Revenge" ©円谷プロ

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#35 Ep.22 "Yapool, Demon of Revenge" ©円谷プロ

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#36 Ep.23 "Comeback! Zoffy Now Arrives" ©円谷プロ

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#37 Ep.23 "Comeback! Zoffy Now Arrives" ©円谷プロ

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#38 Ep.23 "Comeback! Zoffy Now Arrives" ©円谷プロ

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#39 Ep.23 "Comeback! Zoffy Now Arrives" ©円谷プロ

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#40 Ep.23 "Comeback! Zoffy Now Arrives" ©円谷プロ

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#41 Ep.24 "Look! A Giant Transformation in The Middle of The Night" ©円谷プロ

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#42 Ep.24 "Look! A Giant Transformation in The Middle of The Night" ©円谷プロ

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#43 Ep.24 "Look! A Giant Transformation in The Middle of The Night" ©円谷プロ

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#44 Ep.24 "Look! A Giant Transformation in The Middle of The Night" ©円谷プロ

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#45 Ep.24 "Look! A Giant Transformation in The Middle of The Night" ©円谷プロ

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#46 Ep.25 "The Pyramid is a Chouju's Nest!" ©円谷プロ

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#47 Ep.25 "The Pyramid is a Chouju's Nest!" ©円谷プロ

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#48 Ep.26 "Total Annihilation! The Five Ultra Brothers" ©円谷プロ

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#49 Ep.27 "Miracle! The Ultra Father" ©円谷プロ

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#50 Ep.28 "Farewell Yoko, Sister Of The Moon" ©円谷プロ

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#51 Ep.28 "Farewell Yoko, Sister Of The Moon" ©円谷プロ

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#52 Ep.28 "Farewell Yoko, Sister Of The Moon" ©円谷プロ

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#53 Ep.28 "Farewell Yoko, Sister Of The Moon" ©円谷プロ

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#54 Ep.28 "Farewell Yoko, Sister Of The Moon" ©円谷プロ

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#55 Ep.29 "The Sixth Ultra Brother" ©円谷プロ

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#56 Ep.30 "The Ultra Star That Even You Can See" ©円谷プロ

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#57 Ep.30 "The Ultra Star That Even You Can See" ©円谷プロ

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#58 Ep.30 "The Ultra Star That Even You Can See" ©円谷プロ

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#59 Ep.31 "From Seven To The Hand of Ace" ©円谷プロ

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#60 Ep.31 "From Seven To The Hand of Ace" ©円谷プロ

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#61 Ep.32 "With A Prayer Upon The Ultra Star" ©円谷プロ

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#62 Ep.33 "Shoot That Hot-Air Balloon" ©円谷プロ

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#63 Ep.33 "Shoot That Hot-Air Balloon" ©円谷プロ

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#64 Ep.34 "A Chouju Dances on an Open Rainbow" ©円谷プロ

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#65 Ep.34 "A Chouju Dances on an Open Rainbow" ©円谷プロ

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#66 Ep.35 "A Gift From Zoffy" ©円谷プロ

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#67 Ep.36 "his Chouju's 10,000 Phones"©円谷プロ

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#68 Ep.37 "The Star of Friendship Forever" ©円谷プロ

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#69 Ep.37 "The Star of Friendship Forever" ©円谷プロ

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#70 Ep.38 "Resurrection! The Ultra Father" ©円谷プロ

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#71 Ep.38 "Resurrection! The Ultra Father" ©円谷プロ

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#72 Ep.38 "Resurrection! The Ultra Father" ©円谷プロ

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#73 Ep.38 "Resurrection! The Ultra Father" ©円谷プロ

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#74 Ep.39 "The Life of Seven! The Life of Ace!" ©円谷プロ

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#75 Ep.39 "The Life of Seven! The Life of Ace!" ©円谷プロ

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#76 Ep.39 "The Life of Seven! The Life of Ace!" ©円谷プロ

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#77 Ep.40 "Give Back the Panda!" ©円谷プロ

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#78 Ep.40 "Give Back the Panda!" ©円谷プロ

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#79 Ep.40 "Give Back the Panda!" ©円谷プロ

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#80 Ep.41 "Ghost Story! Lion Drum" ©円谷プロ

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#81 Ep.41 "Ghost Story! Lion Drum" ©円谷プロ

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#82 Ep.42 "Mystery! The Resurrection of The Monster Woo" ©円谷プロ

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#83 Ep.43 "Ghost Story! Cry of The Yeti" ©円谷プロ

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#84 Ep.44 "Setsubun Ghost Story! The Shining Bean" ©円谷プロ

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#85 Ep.45 "Big Pinch! Save Ace!" ©円谷プロ

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#86 Ep.46 "Ride Beyond The Time Machine" ©円谷プロ

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#87 Ep.46 "Ride Beyond The Time Machine" ©円谷プロ

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#88 Ep.47 "Curse of The Salamander" ©円谷プロ

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#89 Ep.48 "Revenge Of Velokron" ©円谷プロ

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#90 Ep.48 "Revenge Of Velokron" ©円谷プロ

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#91 Ep.48 "Revenge Of Velokron" ©円谷プロ

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#92 Ep.48 "Revenge Of Velokron" ©円谷プロ

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#93 Ep.48 "Revenge Of Velokron" ©円谷プロ

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#94 Ep.49 "The Flying Jellyfish" ©円谷プロ

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#95 Ep.50 "Mass Chaos in Tokyo! Traffic Signals Gone Haywire" ©円谷プロ

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#96 Ep.50 "Mass Chaos in Tokyo! Traffic Signals Gone Haywire" ©円谷プロ

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#97 Ep.50 "Mass Chaos in Tokyo! Traffic Signals Gone Haywire" ©円谷プロ

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#98 Ep.51 "Life-Sucking Sound" ©円谷プロ

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#99 Ep.52 "Tomorrow's Ace To You!" ©円谷プロ

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#100 Ep.52 "Tomorrow's Ace To You!" ©円谷プロ

R.I.P. Adam Schlesinger

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https://www.billboard.com/articles/news/obituary/9348904/adam-schlesinger-dead-fountains-of-wayne-coronavirus


 米国のロックバンド、Fountains Of Waye(FOW)のベーシストで、ソングライティングの要を担っていたアダム・シュレシンジャーが新型コロナウイルス感染症で亡くなった。FOWだけでなく、女性ボーカルを擁した3ピースバンドIVYなどでも活動、楽曲提供と客演も多岐にわたり、『すべてをあなたに』、『ラブソングができるまで』など映画音楽でも多くの代表作を残した。3月に入院したと知ったが、「呼吸器を付けているものの重篤ではない」とのニュースもあり、安心していた矢先の訃報であった。

 思春期特有の背伸びで「洋楽」を聞き始めた14歳のころ、1枚1000円で叩き売られていた輸入盤を当てずっぽうでジャケ買いした。それがFOWのセルフタイトルのファーストアルバムだった。その後、ロッキングオンの、おそらく坂本麻里子氏が執筆されたコラムで、ギークロックやパワーポップと呼ばれる系譜のバンドであることを知った。このジャンルの筆頭であるウィーザージェリーフィッシュも、FOWより後で知ったのだ。ちょうど2枚目の『Utopia Parkway』もリリースされ、この2枚は繰り返し聞いた。3枚目の『Welcome Interstate Managers』が出たのは高校3年生のときで、センター試験の帰り道、惨憺たる結果から逃避するかのようにヘッドフォンで鳴らした。4枚目『Traffic and Weather』のリリース時は東京で大学生活を謳歌していて、来日公演にも観に行った。今の仕事に就いた2011年、5枚目『Sky Full of Holes』が出た。間違いなくこの20年間、FOWは私の心の特別な位置を占め続けてきた。

 たいへんなショックを受けながら、Spotifyのプレイリストを再生した。"Stacy's Mom''、"Sink To The Bottom"、"Someone To Love"、"Denise"、"Radiation Vibe"、"Hackensack"、"Leave The Biker"、"It Must Be Summer"。何度も口ずさんだ甘くせつないメロディー、単純明快なパワーコード、美しいコーラスワーク、そして詩情とユーモアに満ちた短編小説のような詞世界…。ちくしょう、なんていい曲なんだろう。どれもこれも最高で、ぽろぽろと涙があふれでた。

 一緒にライブに出掛けた女友達やCDを貸し借りした親友と久しぶりに連絡を取り、悲しみを分かち合った。またライブ、観たかったな。

 こんな思い入れを書き綴ったとして、何の役にも立たないし、この最悪な状況が変わることもない。残されたバンドのメンバー、わけてもシュレシンジャーと共に多くの名曲を作ってきたフロントマン、クリス・コリングウッドはどのような心持ちでいるのだろうか。それもほんらいなら私には関係のないことだ。でも、彼らが生み出したいくつかのレコード。そのなかに登場する情けなくい主人公たちを、私は抱きしめたくなるほど愛しているし、彼らの物語は、黄金のメロディーと共に永遠に生き続ける。


Fountains Of Wayne - Radiation Vibe (Official Music Video)

Fountains Of Wayne - Leave The Biker


Bright Future In Sales - Fountains of Wayne


Fountains of Wayne - The Summer Place

『つけびの村』(高橋ユキ)

 

つけびの村  噂が5人を殺したのか?
 

2013年に山口県周南市限界集落で起きた殺人事件に取材したルポルタージュ限界集落で孤立を深めた男が近隣住民を5人も殺害した特異性から「平成の津山事件」などと当時からネットで話題となっていた。私も発生当初からこの事件に関心を持っていた。というのも、容疑者の男が集落で村八分やいじめに遭っていたといううわさが当時からネット上にあふれていて、そのほとんどが信頼に足りうるようなソースに乏しかったからだった。きちんとしたファクトチェックがされないまま「平成の津山事件」が形成されていく過程が現代的だと思ったし、やはり俗っぽい好奇心もあった。

 著者は裁判傍聴ブロガー出身のフリーのルポライター。事件の舞台となった金峰集落でのていねいな地取り(現場の聞き取り取材)に加え、集落の歴史や受刑者との面会をとおして、事件を掘り起こす姿勢に好感を持った。取材を進めるうちに、被疑者、被害者遺族、集落の住民の多くが「信頼できない語り手」であり、曖昧模糊で出所不明、そのわりに偏見と悪意だけが増幅された「うわさ」だけが不気味に横たわる事件の輪郭が浮かび上がってくる。私も事件記者をしていたのでよくわかるが、現場が地方であればあるほど、事件に関するうわさがものすごい勢いで拡散していくのだ。真偽不明の情報に振り回され、追いかけてはつぶす徒労に明け暮れたこともある。

 見るからに異様な雰囲気の村人への取材に後ずさりしたり、緊張のあまり腹を下し村人にトイレを借りるくだりなど記者としての「弱さ」も率直に書いているところもよかった。特に被害者遺族、河村さんとの奇妙な絆にはうたれる。悲惨な最期をとげた河村さんが、死後に「うわさ」の餌食となっていくオチにも肝を冷やした。個人的に本書の白眉は、著者が事件の特異性を「地方コミュニティーの闇」で片づけず、SNS上で真偽不明(いや、むしろだいそれた偽りであるほど)の情報を拡散し、検証することもなく事件を消費してきた現代人の病理へと射程を広げているところだとおもう。

 事件ルポとしてはオチも弱く、肩透かし感があったが、「あとがき」を読むと、事件ノンフィクションの定型から自覚的に逸脱しようとした著者の意図も伝わった。結果として、事件について安易に「わかった気」にさせない特異な読後感を残すことに成功している。週刊誌用に執筆したルポが長らくお蔵入りになり、noteに有料コンテンツとして公開してから、バズるまでの過程も興味深かった。

『全裸監督』(武正晴、河合隼人、内田英治)

"The Naked Director"2019/JP

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  話題のNetflixドラマ、『全裸監督』(全8話)を見ました。「ハメ撮りの帝王」として90年代に一世を風靡したアダルトビデオ監督、村西とおるの半生を基にしたフィクションです。自他共に認めるAV好きの私ですが、残念ながらリアルタイムでの村西監督の全盛期はよく知りません。「ナイスですねえ」に代表される独特の"村西トーク"や顔射、駅弁といった現在のAVにまで連なる表現を編み出した史実を知っている程度。とはいえ、先日ここでも書いた通り、私はポルノ・AVカルチャーに対して並々ならぬ思い入れを持っています。やはりこの作品については書いておかなくてはなるまいとおもうのです。

 物語は、北海道で英会話教材のセールスマンだった村西が、「ビニ本」でポルノカルチャーと出会い、警察や業界と対立しながらも新時代のAV監督として成り上がっていくさまを、バブル時代の狂騒を背景にエネルギッシュに描いている。さすがはNetflix制作とあって、性描写や暴力表現に手抜きはなく、主人公を演じる山田孝之をはじめ、玉山鉄二満島真之介ら一線の俳優陣が、エロに情熱を傾ける若者たちをのびのびと、過激に演じている。

 特殊な業界を舞台としているが、野心と創意工夫に満ちた若者たちが、大人たちと対峙しながら、時代をサバイブしていく正統派の青春群像劇だ。劇伴音楽の雰囲気からは『ソーシャル・ネットワーク』(2010)の影響もかいまみえる。業界最大手、ヤクザ、警察とそれぞれの立場で主人公チームに立ちはだかる石橋凌國村隼(『オーディション』のコンビ!)、リリー・フランキーら「大人側」陣営も、手練れの演技力で迎え撃つ。

 わけても手ごわいラスボスに設定されているのが、業界最大手ポセイドン企画の社長・池沢(石橋)だ。ポセイドン企画(宇宙企画がモデル?)は、女優たちを契約で占有し、美少女路線で売り出しつつ、実際には搾取している。さらには自主規制団体を立ち上げて、表現を縛り、業界の支配者としても君臨する。これに対して村西は、女性のセックス解放を体現するAV女優・黒木香(森田望智)とコンビを組み、「本番あり」のドキュメント路線で挑んでいく。

 本作では、村西たちがもたらすAV業界の変革が、昭和から平成への転換期と重ねて描かれる。じっさいこの時期は、AVに限らず、映画、音楽、お笑いとあらゆる分野でフィクションからドキュメントへの移行が進んだ。「昭和の終わり」は「ファンタジーの終わり」だったのだ。

 時代の趨勢が村西の側に付いたことを「未来」を生きる私たちは知っている。本作の真骨頂は、劇中の村西たちの姿が、現代のエンターテインメント業界における『全裸監督』じたいのポジションと一致している点だろう。既得権益と自主規制ですっかり退屈になってしまったテレビ業界の枠組みから、本作は完全に解放されている。まさに村西たちと同じく業界を破壊し、新時代のスタンダードとなりうる可能性を秘めている。

 劇中、村西たちに「逆転」の契機をもたらす人物を演じているのが、現状テレビから干されているピエール瀧というのも痛快だ。偶然というにはあまりにできすぎなキャスティングのマジック。これこそ本作が時代に愛されている証左かもしれない。昭和から平成のコンテンツの変革を切り取った作品が、 令和の始まりにテレビコンテンツにとどめを刺した、と言えばうがち過ぎか。

 最後にひとつ。本作には女優への出演強要や中傷被害など現代的な問題も織り交ぜることで、村西の立場が巧妙にロンダリングされていることは指摘しておきたい。黒木香のキャラクターによって女性のセックス解放とすり替えられた感があるが、じっさいの村西は女優にとってリスクも負担も大きい「本番行為」の主流化を後押ししたのであり、女性たちを傷つけ、搾取する今日的なAV制作の構造に加担した側面はある。劇中でも、村西が「本番」をそそのかしたことが引き金となり、破滅していくAV女優(川上奈々美)のエピソードが描かれている。すでにシーズン2の制作も決まっている。この後、AVの表現がさらに過激化していくことは周知の事実だし、インターネットの台頭によりエロをとりまく環境も激変していく。女優、男優双方の労働環境や尊厳について、いまも多くの課題を抱える日本のAV業界と、作り手がどのように向き合っていくのか。作品の面白さとはべつに、注目していきたいです。

『オーディション』(三池崇史)ー恋は、怖くて痛い

Audition/1999/JP

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 三池崇史監督の国際的な評価を決定づけた『オーディション』が英アロービデオでBlu-ray化されました。私は村上龍の原作を含めて、この映画のファンなのですが、見返してみて、あらためて物語のせつなく、はかないメロドラマ性にうたれました。クライマックスにおける目をそむけたくなるような激痛シーンと、過激な暴力行為をかれんに演じ切る椎名英姫(現・しいなえいひ)さんのサイコパス演技も見どころですが、本質的には誰にでも共感できる恋愛論映画だった。大人になると、いっそう深くテーマが心に突き刺さりました。

 妻に先立たれた主人公、青山(石橋凌)は友人の吉川(國村隼)の協力を得て、映画オーディションというかたちで再婚相手をさがす。中年男二人が、若い女の子にあれこれ聞き出しながら値踏みするという発想じたいが、そもそも気持ち悪いわけだが、テンポのいい編集と石橋、國村の息の合った演技で楽しいシーンに仕上がっている。オーディション前、誰も座っていない空っぽのいすを映したショットが印象的。背後にある窓のカーテンが開かれ、まだ見ぬ誰かとの「出会い」への期待と不安を表現する。吉川のいかにも「業界人」っぽい俗物性と青山の硬派で洗練されたキャラクターの対比もいい。オーディションを通して青山は、なぞめいた女性・麻美(椎名)につよく惹かれるわけだが、ていねいな切り返しによって、二人のほのかな交情の芽生えをスリリングにとらえている。

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 石橋は、ともすれば不愉快な人間にすらなりかねない青山の役柄を、清潔さを損なわずに演じた。オーディションの書類をめくりながらも妻の遺影が気になり、そっと写真立てを伏せるしぐさ、はじめてデートを麻美に取り付けて、小躍りする少年のような笑顔。Vシネや北野映画でやくざ役を演じることが多い石橋の意外な側面を引き出している。

 青山はモテる。会社の部下(広岡由里子)とは一度は関係を持ったことがあるようだし、自宅の世話をする家政婦(根岸季衣)もひそかに思いを寄せているように見える。たぶん彼は、妻と死別してからも、それなりに女性にモテたし、たまには火遊びもあった。それでもこれまで再婚を考えるほど、真剣な交際はしてこなかったということなのだろう。そして、やっぱり何度も誰かを傷つけてきた。

 三池監督のコメンタリーによると、欧米では本作を、虐待、搾取された女性が男性社会に復讐する、ある種のフェミニズム映画として見る向きもあるそうだ。青山がいかに好印象な中年男性であっても、周囲の女性たちのまごころに向き合わず、オーディションで若い再婚相手を探している身勝手さに変わりはない。幼いころから虐待(しかもたぶんに性的なニュアンスを含む)を受けてきた麻美を通して、青山は女性たちを傷つけ、弄んできた自身の過去に向き合うことになる。

 眼球に針を突き刺し、足首を切り落とす凄惨な拷問シーンは今見ても衝撃的だ。麻美が切り落とした足首をカメラのほうに放り投げると、画面手前のガラス戸に音を立ててぶつかる。繊細かつていねいに積み上げられてきた大人の恋愛ドラマが、身もふたもない即物的な暴力に破壊される感覚に身震いがする。

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 ミイケの名を世界にとどろかせた名場面が、ここまで鮮烈な印象を残すのは、たんに露悪的だからではない。もはや暴力と痛みでしか、他者と心を通わせたり、愛を確かめ合ったりできない麻美の、切実でやるせない「まごころ」を感じ取れるからだろう。青山を痛めつけ、男の身勝手さや浅はかさを責める麻美。それでも、私たちは青山が彼なりの真剣さと誠実さで麻美と向き合ってきたことを知っている。麻美と少しずつ距離を近づけていくときのときめきや、彼女のこころを理解しようとする誠意に、うそはなかったはずだ。それでも、ふたりの愛のかたちには、はじめから決定的に違っていた。その残酷な不一致に、たまらない切なさを感じるのだ。

  青山の息子を手にかけようとした麻美は、誤って階段から転げ落ち重傷を負う。断末魔の麻美がうわごとのように繰り返すのは、青山と初めてデートした時の言葉だった。観客は、間違いだらけでも、彼女なりにいちずだった麻美の恋心に思い至る。長い髪をたらして、黒電話の前で待ち続けた彼女の深い孤独と狂おしいほどの渇望。この世界にあふれている行き場を失った愛の姿だ。

 相手が異性でも、同性でも、気持ちが通じ合いそうな他者との出会いには胸が高鳴る。共通の話題が見つかったり、運命的なよすがが感じたりして、心の距離がぐっと詰まっていくあの感覚。もしかしたら、この人が自分にとってかけがえのない友達や恋人になるかもしれないという期待と、ひょっとしたら深く傷つけあうかもしれないといういちまつの不安。そうした感覚を俗に「ときめく」というのだろう。ともかく私はこれまで、そうやって友達や恋人と出会ってきたが、もちろん幸福な関係を築けたのは、ごく一握りしかいない。あの時、彼の誘いに乗っていれば、彼女を誘っていれば、違った未来があったのだろうか。踏み出せなかったのは、怖かったからか、めんどくさかったからか。中絶してしまった幾多の出会いを引きずりながら、性懲りもなく私は、空っぽのいすに期待を寄せる。

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『座頭市逆手斬り』(森一生)、『座頭市地獄旅』(三隅研次)

座頭市逆手斬り』(森一生

"Zatoichi and the Doomed Man"1965/JP

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第11作。市が百叩きで罰せられるショッキングな冒頭に始まり、同じ牢に入れられた島蔵という老人から、無実の罪を証明してくれる知人を連れてきてほしいと頼まれるいきさつが、フラッシュバック形式で語られる。釈放された市は、島蔵の頼みをあっけなく反故にする(ひどい)のだが、ふしぎな因果に引き寄せられるように、島蔵を陥れた黒幕へと引き寄せられていく。本作には市と対等に勝負できるヒール役は登場しないが、市の名をかたる小悪党「偽座頭市」が登場。松竹新喜劇藤山寛美がひょうひょうと演じている。基本、コメディリリーフ的な役回りなのだが、うそを重ねすぎて「本当の自分が誰なのか時々わからなくなる」と市に語る場面などはそこはかとないペーソスにあふれる。中盤で島蔵の息子だとわかるが、さして物語には絡むことなく、ラストで役人にしょっぴかれながらも、まだほらを吹き続けているというおかしくも、哀しいキャラクターなのであった。ストーリーに無関係なのだが、海を見たことがない市が、見知らぬ少女に海について教えてもらう場面も印象的だ。

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座頭市地獄旅』(三隅研次

"Zatoichi and the Chess Expert"1965/JP

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第12作。敵役に名優、成田三樹夫伊藤大輔が脚本、三隅研次が演出を手掛け、さまざまな登場人物の因縁が情念が交錯する重厚な群像劇に仕上がった。成田演じる十文字糺は、殴られ屋で生計を立てる将棋好きの浪人。今の境遇に落ちぶれたバックストーリーなどは語られないが、ニヒルな存在感でひさびさに深みのある悪役となった。十文字が自分の過去をしる男を抹殺する場面の引き算演出、目隠し将棋を指しながら市と刃を交える決闘シーンなど緊迫感のある編集がさえる。岩崎加根子が演じるヒロインはお種で、万里昌代が演じた初代ヒロインの存在がかなり久しぶりに言及される。お種が顔のほくろを市に確認させる、あの印象的な名場面も再現。お種(2代目)が、死んだ初代お種にやきもちを焼く様子がかわいらしい。

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2018年の映像ソフト12選

ことしも封切り映画は20本くらいしか見ておらず、ますます「在宅派」が進んでしまいました。というわけで、ことし購入して「よかった!」というBlu-ray、DVDソフトを書いていこうとおもいます。作品内容はもちろんですが、あくまでパッケージとしての満足度に重きをおいたラインアップとなっています。

ネバーエンディング・ストーリー ニューマスターコレクターズエディション』(TCエンタテインメント)

ネバーエンディング・ストーリー ニューマスター コレクターズ・エディション [Blu-ray]

国内で2度目のBlu-rayリリースです。インターナショナル版とエクステンデッド版、特典ディスクの3枚組。前回との違いはインターナショナル版がHDリマスターやエクステンデッド版のドイツ語音声収録、ウォルフガング・ピーターゼン監督のコメンタリーなど。インターナショナル版の日本語吹き替えは前回と同じく、テレビ放映版とソフト版の2種類収録されています。

インターナショナル版の画質は、目が覚めるほど向上ではないですが、普段はこちらを見ることが多いのでうれしいところ。コメンタリー好きなので音声解説もうれしい。特典ディスクにも初収録のメイキングドキュメンタリーを収録。当時の技術の粋を集めた特撮技術の裏側が見られます。

アウターケースが劇中の本を模したデザインになっていたり、リマールが歌うヒット曲「Never Ending Story」のミュージッククリップが隠しコマンドで見られたりなど遊び心が満載。高いけれど、買い替える価値のある商品でした。逆に前の商品の意味がなくなっちゃったけど。

デッドプール2(4枚組)』(20世紀フォックス

デッドプール2 (4枚組)[4K ULTRA HD + Blu-ray]

本編と劇場公開版より15分長い「スーパードゥーパー$@%!#&カット」の2種類に、それぞれBlu-rayと4KUHDBlu-rayをコンパイルした4枚組。この作品は劇場で見たときは情報量の多さゆえにとっちらかった印象を受けたのですが、ソフトでくり返し見ているうちに評価が急上昇。小ネタが多いのでソフト鑑賞向きの作品だなあと思いました。1作目はヒーロー誕生譚としてよくまとまっていたけど、コミックスを読むと、こっちのほうがデッドプールっぽいんだよね。長尺版はさらに特盛感がすごい。暴力シーンを追加しただけに見えるけど、ところどころでカットが変わっていたり、音楽が差し替えられていたりと演出上の違いもあので油断できない。さらにメニュー画面は、劇中でも効果的に使われているa~ha「Take On Me」をBGMに、VHS画像風の名場面が流れるという非常に凝ったもの。音声解説や特典も面白い。時間をかけて作品世界を味わい尽くせるようなこだわりにあふれていて、映像ソフトの楽しみを再認識させてくれる。新作映画では断トツのパッケージでした。

2001年宇宙の旅 4K ULTRA HD』(ワーナー)

2001年宇宙の旅 日本語吹替音声追加収録版  4K ULTRA HD&HDデジタル・リマスター ブルーレイ (初回限定生産/3枚組/ブックレット&アートカード付) [Blu-ray]

ボーナスでテレビとプレイヤーを4K化したのですが、この『2001年宇宙の旅』はあまりの高画質に愕然とした。DVDからBlu-rayに買い替えたときでもこんなに驚かなった気がする。往年の映画にデジタル処理で修正を加えることの是非は差し置いても、この映像体験は個人的にはいちばんの衝撃だった(本当は劇場で体験しかったけど)。画質の向上に目がいきがちですが、このBlu-rayは日本語吹き替えが初収録されたこともうれしいポイント。

ただ、本作品は今後もさまざまな形でリリースされるとおもいますし、決定版にはたぶんならないでしょう。まったく同じスペックでの廉価版が近い将来リリースされる可能性も低くないとおもいます。リージョンフリーの海外版にも日本語字幕はついているそうです。なので決して商品としての優位性が高いとはいえませんが、現時点でのインパクトという意味であげておきます。

八月の鯨 日本公開30周年記念ニュー・デジタル・リマスター』(パラマウント

八月の鯨 日本公開30周年記念  ニュー・デジタル・リマスターBlu-ray

夏が来ると、自然とDVDを引っ張り出して見返してしまう映画。これまで安かろう(画質)悪かろうのDVDに甘んじていましたが、ようやくまともな商品が出ました。海と夏空の美しいブルーを堪能することができます。

まずはリリースされたことを喜びつつ、輪をかけてうれしかったのは110分にもおよぶ特典映像。リリアン・ギッシュベティ・デイヴィスらキャスト陣や主要スタッフのインタビューがほぼノーカットで入っています。特にベティのインタビューがめちゃくちゃ面白い。たばこをふかしながら、皮肉なギャグを飛ばしたり、中身のない質問にダメ出しをしたりする奔放ぶりに、インタビュアーがたじたじになっていて笑ってしまった。

『浮草 4Kデジタル復元版』(角川書店)

浮草 4Kデジタル復元版 Blu-ray

小津安二郎監督作の4Kプロジェクトも徐々に進み、今年は松竹が『お茶漬けの味』、『東京暮色』、『早春』をリリース。唯一の大映作品の『浮草』は角川からリリースされました。作品内容は言うまでもありませんが、特典映像のフィルムセンターでのデジタル復元をめぐる講演がすごく面白かった。音声解説は既存DVDの流用だけど、ちゃんと収録してくれてうれしい。角川書店は今年、シャブロル、ブニュエルルイ・マル川島雄三などの充実のラインアップ。シネフィルレーベルからは『狩人の夜』、『暗殺のオペラ』、『サテリコン』なども発売され、一時期の紀伊国屋を思わせる勢いでした。大映の小さな作品も地道にDVDで出し続けてくれているし、本当に良心的。東宝東映にも見習ってほしいですね。今後もしっかり買い支えていきます。

DEVILMAN crybaby COMPLETE BOX』(アニプレックス

DEVILMAN crybaby COMPLETE BOX(完全生産限定版) [Blu-ray]

1月にNETFLIXで公開された湯浅政明監督の新作。まずもって作品がとにかくすごかった。原作にほぼ忠実なんだけど、舞台を川崎に移し、陸上部やラップなどのアレンジを効果的に加えることで、現代的な物語にアップデート。「『デビルマン』って、今の時代にわりと現実化してないか」と思い至りゾッとした。全10話にコメンタリーとサウンドトラックCD、メイキング本とアートワーク集までついて、とにかくでかい。置き場所に困るという難点はあるものの、配信アニメのパッケージなんだから、このくらいやってもらわないと。アニメシリーズのソフトでいつも思うのは、コメンタリーには声優ではなく監督、脚本のスタッフ陣だけでつくってほしいということ。声優さんのコメンタリーが好きな人もいるんだろうけど、ぶっちゃけ内容が薄いんですよね。キャストとスタッフの2種類収録とかにはできないものだろうか…。特に湯浅作品のようにディテールにこだわったアニメの場合は、ワンシーンワンシーンの解説を聞きたい気がする。

『100イヤーズ・オブ・オリンピック・フィルムズ』(クライテリオン)

Criterion Collection: 100 Years of Olympic Films [Blu-ray] [Import]

ここからは輸入盤。1912年のストックホルム五輪から、2012年のロンドン五輪まで100年間のオリンピック記録映画計53作品をどどんと網羅した32枚組のBlu-rayボックス。正直、オリンピックにそんなに興味ないのですが、2Kデジタルレストアの『東京オリンピック』(市川崑監督、1965)や、20世紀初頭の記録映画の物珍しさにコレクター欲をくすぐられ、買ってしまった。結果、会社の同僚に平昌五輪の話題をふられると、オリンピック記録映画の話をし始めるめんどくさいシネフィルおじさんが爆誕。これね。思った以上に面白いんですよ。「記録映画」然とした素朴な作品が、ベルリン五輪2部作をきっかけにドラマチックになり、運動会が国際的な情報発信の場と変容していくさまも興味深い。それでもアスリートたちの鍛え抜かれた肉体、研ぎ澄まされた運動の美しさ、生命力だけは変わらないんですよね。よく知らない人たちが一生懸命走ったり、跳んだりしている映像そのものに、原始的な快楽がある。スポーツと映画の親和性をあらためて知れる作品群でした。

羊たちの沈黙』(クライテリオン)

Criterion Collection: Silence of the Lambs [Blu-ray]

かなり初期段階でクライテリオンのラインアップに入っていた(カタログのナンバリングは♯13)90年代のクラシックを、Blu-rayで再リリース。作品のシンボルである蛾の模様を、ロールシャッハ・テスト風にデザインしたパッケージも秀逸。『羊たちの沈黙』は現行の国内Blu-rayがかなりお粗末な画質で不満だったが、さすがは安心のクライテリオンブランドとあってすみずみまで生き届いています。リピート率でいえば、間違いなく今年一番のソフト。

『ミシマ:ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ』(クライテリオン)

Criterion Collection: Mishima: Life in Four / [Blu-ray]

ポール・シュレイダー監督が、三島由紀夫の生涯と作品世界を映像化した1985年映画。

日本では公開すらされなかったまぼろしの作品で、ジョディ・フォスターもお気に入りらしい。私も今回初めて見た。緒方拳演じる三島が自決する最後の1日を追ったドキュメンタリー風のパートと、幼少期から「楯の会」結成までの回想パートに、「金閣寺」、「鏡子の家」などの文学作品を映像化したパートをつなぎあわせるややこしい構成。文学作品パートは石岡瑛子が美術を担当し、舞台のように抽象化されている。これがめちゃくちゃ面白い。劇中後は、ほぼ日本語だし、今後、国内で発売されることもないと思うので買いだとおもいます。

江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(アロービデオ)

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クライテリオンが取りこぼしがちなグラインドハウス映画を高スペックでリリースしてくれる英アロービデオが、石井輝男のカルト傑作を満を持して発売。すでに昨年、国内版DVDが出ていますが、2K レストアの高画質に加え、共同脚本の掛札昌祐さんの撮りおろしインタビューや塚本晋也河崎実のインタビュー映像など特典も満載でした。ジャケットは、ほかの日本映画と同じく国内公開時ポスターとのリバーシブル仕様。それにしても、名画座のプログラムをチェックして見に行っては、劇場に必ず一人はいる「笑い屋」にイラついたり、町田のあやしげなお店で劣悪画質の海賊版DVDをつかまされ落胆したりしていたのがほんの十数年前なのに、すでに隔世の感がありますな。

『影なき淫獣』(アロービデオ)

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ブログで紹介したおもしろいジャッロ映画。くわしくは過去記事を。 

『シェラ・デ・コブレの幽霊』(KLスタジオ)

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出たこと自体がニュースな幻の恐怖映画。くわしくは過去記事。

 

『座頭市関所破り』(安田公義)、『座頭市二段斬り』(井上昭)

座頭市関所破り』

"The Adventures of Zatoichi"1964/JPf:id:DieSixx:20181223200343p:plain

シリーズ9作目。市が立ち寄った宿場では、代官と結託し、旅芸人たちかあ法外な金を巻き上げているやくざ一派が幅を利かす。市は、父の行方を探すお咲(高木美和)と知り合うがお咲の父親は宿場の陰謀に巻き込まれ、すでに殺されていた…。座頭市が旅先で知り合う庶民との交流を深めながら、悪党を成敗していくという基本スタイルがほぼ確立され、演出、演技、脚本のすべてが円熟の高みに達している感じ。市の腕を見るや「わしはやらん。一両で命は捨てれん」と言ってあっけなく逃げ去る用心棒、市にお咲を逃がすように頼まれたのに酒代欲しさに寝返ってしまう老人、市に斬られたふりをしてそっと地面に斃れる小悪党など人間の弱さ、ずるさを感じさせる描写が、何とも言えない滋味を与えている。市とお咲を助ける芸人の子供二人もかわいらしい。

 敵役の用心棒として登場する平幹二郎もなかなかいい味を出している。雪のふりしきる中の対決もムードがあるが、わりとあっけなく敗れ去る。

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座頭市二段斬り』(井上昭)

"Zatoichi's Revenge"1965/JP

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第10作。郡代とやくざが手を組んで、女をだまし、女郎屋に沈めてこき使っている。市のあんまの師匠の娘役として坪内ミキ子が3度目の登場。10作目ともなると、同じキャストの再利用も多く、記憶が混乱してきますね。くわえてタイトルと内容があまり関連性がないのも、記憶の難度を増している気がする。

 市の師匠は何者かに殺されてしまっていて、娘は借金を押し付けられて女郎屋に幽閉されている。師匠の犯人捜しを主軸に物語が進む。いかさま賭博で身銭を稼いでいるが根は善良な渡世人三木のり平、歌の上手い一人娘役になんと小林幸子が出演していた。全然気づかなかったなあ…。

 さらに師匠殺しの真犯人である今回の敵手には加藤武。非常に重厚な演技で見せるが、今回もあっけなく市に敗れる。シリーズを重ねることで市の強さがインフレを起こしているのと、役者として勝と釣り合うかという問題もあり、敵役のキャスティングは悩ましいところだ。

 テレビ時代劇を多く手掛ける井上昭が初登板。井上は溝口健二森一生の助監督も務め、本作を見る限りでも高い演出力がうかがえるが、あまり知名度は高くありませんね。撮影は森田富士郎。奥行きを生かした構図は森田の手腕によるところも大きいのだろうか。

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『シェラ・デ・コブレの幽霊』(ジョセフ・ステファノ)

"The Ghost of Sierra de Cobre"1964/US

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 長らく「幻の映画」だった『シェラ・デ・コブレの幽霊』が、今年ついにアメリカでソフト化された。私も迷うことなく入手したが、世界中のシネフィルや映画マニアが長年恋い焦がれていた映画が、ついに自宅に届いたときにはさすがにふるえた。見たい見たいと願いながら、夢かなわず死んでいった人たちもいただろう。簡単に見てしまっていいものなのか。しばらく逡巡したのち、厳かな気持ちで再生ボタンを押した。そして映画を見終えた私の心に残ったのは、満足感よりむしろ、幻が幻でなくなったことへの一抹の寂寥感であった。

 それにしても、これほど魅惑的なストーリーを抱えた映画もそうはあるまい。『サイコ』で知られる脚本家、ジョセフ・ステファノが自らメガホンをとり、テレビシリーズのパイロット版として製作されたが、そのままお蔵入りとなり、ステファノの監督作は生涯この1本のみとなった。作品が封印された理由として、あまりの恐ろしさに試写会で局幹部が嘔吐したためという逸話がまことしやかにささやかれた。

 日本では1967年に「日曜洋画劇場」で放送。たった一度きりの放送が、多くの人々の心に爪あとを残した。もっとも有名なのが脚本家、高橋洋であり、この当時の衝撃的な映像体験が、のちの『女優霊』や『リング』へと結実していく。さらにテレビ番組「探偵ナイトスクープ」で「史上最高に怖い映画」として取り上げられたことで、作品の存在は広く知れ渡るようになった。

 世界の恐怖映画史で重要な位置を占める1本だが、現存するフィルムは世界で2本しか確認されておらず、権利関係の錯綜もあいまって、ソフト化や再上映の機会はほとんどなかった。この希少性も作品を神格化し、人々の渇望を刺激した。2本のうち1本は、映画評論家の添野知生氏が所持していて、近年は国内で上映される機会もあるにはあった(前述の「探偵ナイトスクープ」でも、映画を見たいという依頼者に添野氏がフィルムを見せている)。それでもやはり幻は幻であった。

 さて実際に作品を見て、さびしさを覚えたと書いたけれど、作品そのものに幻滅したわけではない。半世紀以上前の映画であり、もちろん技術的な古さはある。だけれど確かにこの作品は「史上最高に怖い映画」だったのだ。

 以下はネタバレを含みます。また英語力に自信のない私が、日本語字幕なしで見たため、誤って理解している可能性もあります。

マーティン・ランドー演じるネルソン・オライオンは、盲目の資産家マンドールから「死んだ母から電話がかかってくるので調べてほしい」と依頼を受ける。オライオンは建築家だが「心霊探偵」としての顔も持っていて、おそらくテレビシリーズは彼を主人公に、毎回不可解な依頼を解決していくというストーリーで企画されていたのだろう。

 マンドールの邸宅には、妻のヴィヴィアと家政婦のポリーナが同居している。2人は、幽霊に女教師が呪い殺されたといういわくつきの村、シエラ・デ・コブレの出身であった。調査を進める過程でオライオンは、恐ろしい超常現象や油絵から抜けだしてくる幽霊を目撃。幽霊に呪われているのはマンドールではなく妻のヴィヴィアであると見破った。彼女とポリーナは実は親子で、かつてシェラ・デ・コブレ村で幽霊を売りにした見世物興業で身銭を稼いでいた。幼いヴィヴィアが客を墓場に連れていき、ポリーナが簡単な仕掛けで驚かすというものだったが、幻覚作用を及ぼすドラッグを服用させることで劇的な効果をあげていた。ところが、ある女教師はドラッグの効果がなく、料金の支払いを拒んだ。ポリーナがさらに多くのドラッグを服用させたたため、女教師は狂ってしまう。怖くなった二人は女教師を地下の墓地に閉じ込めて殺害した。ヴィヴィアの口からおぞましい真相が語られたとき、ふたたび幽霊が現れる。

 異様な雰囲気をたたえた家政婦役にはジュディス・アンダーソン。ヒッチコックの『レベッカ』(1940)をかなり意識したキャスティングとなっている。美しい人妻ヴィヴィアを演じるダイアン・ベイカーも、ヒッチコックの『マーニー』(1964)に出演。ほかにも何本かのサスペンスドラマで、ヒロインを演じているようだが、『羊たちの沈黙』(1991)での上院議員役が有名だろう。

 さすがステファノの脚本とあって、ミステリーとしても非常によくできている。超常現象を見せる演出も堂に入っていて、特に最初の恐怖シーンとして描かれる納骨堂でのポルターガイスト現象は不吉な音響効果と絶妙に気持ち悪いカット割りもあいまって見ごたえがある。しかし、やはり真骨頂は油絵から這い出した幽霊が観客に迫ってくる表現だろう。ソラリゼーションで反転させた女性像を合成するという単純な特撮だが、見るものに生理的な不快感と恐怖を及ぼすような強烈な魔力がある。「死に見入られる感覚」とでもいうのだろうか。「試写でテレビ局幹部が嘔吐した」という話もあながち嘘ではないのかもしれないと思わせるのだ。

 むかし、高橋洋氏はラジオ番組で興味深いことを語っていた。

 恐怖映画の「怖さ」もどんどん進化して、程度が上がっているわけです。たとえば、今の僕らにとって怪奇映画として定着している『吸血鬼ドラキュラ』(1958)。あの映画の公開時は、宣伝半分ですが、看護婦を劇場に待機させて、失神した人運ぶとかやってたわけです。『吸血鬼ドラキュラ』見て、そんなにセンシティブに怖いなんてことありえないだろうって思うけど、実際当時の記事を読むと「口中を血だらけにしたドラキュラの顔のアップが映った時、悲鳴を上げる人がいた」と。ここからは思考実験ですけど、その時代に劇場で悲鳴をあげていた人が、タイムスリップで1974年に来る。そこで『悪魔のいけにえ』を見てしまうと「たぶん死ぬぞ」ってなんとなく思うんです。

 現代の私たちが『シェラ・デ・コブレの幽霊』を真に怖がるのはむずかしい。私たちは『悪魔のいけにえ』や『リング』を知っている世代だから。でもあの時代もし、まかり間違って『シェラ・デ・コブレの幽霊』が封切られていれば、もっと広くテレビで放映されていれば、あるいは誰か一人くらいは殺せたかもしれない―。そんなことを夢想せずにはいられない。だから、いつか映画がついに人を殺してしまうその日まで、この映画は依然として「史上最高に怖い映画」なのだ。

 

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