ジョン・クローリー監督 / 「BOY A」

 

 
地元のミニシアターで、イギリス映画「BOY A」を観る。
 

過去の過ちから人生の大半を、社会から隔離された場所で過ごしてきたエリック。
そんな彼にも社会復帰の時が訪れ、「ジャック」という名前で、新しい人生を歩み始める。
 
相談役のテリーに導かれ、彼が経験する、新しい家庭、新しい仕事、新しい親友、そして初恋…。
 
順風満帆に思えた「ジャック」としての人生だったが、真実を誰にも告げられない生活が、同時に彼の心に暗い影を落としていた。
 
自問自答の日々の中、不意にその幸福な生活は終わりを告げて…。

 
一言で言えば、とんでもなく重い映画。
 
でも、観ていて、そこまで息苦しさを感じさせなかったのは、イギリス映画らしい美しい映像と音楽、そしてなにより、出ている役者さんの演技力によるところが大きいのだと思う。特に、主人公のジャックを演じるアンドリュー・ガーフィールドは本当に素晴らしかった!
 
物語自体はいろんな視点から観れて、メッセージ性の強い社会派映画として観ることもできれば、瑞々しい感性で描かれた青春映画として観ることもできるし、悲劇であると同時に贖罪の物語でもある。
 
で、そういう色んな視点や物語性が存在する映画なんだけど、新しい世界にでてきたことで主人公が感じる戸惑いとか、「ジャック」としての人生を歩む上で経験する苦悩とか、映画の重要なエモーションの部分は、少しもブレずに観ている側に伝わってくるんだよな〜。
 
映画のラストで「一般社会で暮らす私たち」に問いかけられるメッセージは、余りにも問題が複雑過ぎて、僕みたいな凡人には、とてもじゃないけど答えが出せないけれど、単純に悲劇として片付ける気持ちになれないのは、やっぱりこの映画が物語としての説得力に満ちているからなんだろうな。
 
素晴らしい映画だったけれど、欲をいえば、もうちょっと相談役であるテリーの人間性や家庭を掘り下げて描いて欲しかった。ラストへの流れが、ちょっと唐突に感じてしまった。
でも、まぁ、それって「あのアイドルの娘は、すごく可愛いんだけど、泣きボクロがあるのが気になるんだよなぁ」みたいな、俗な無い物ねだりに過ぎないです。そういう贅沢な欲を言いたくなっちゃう程に、この映画は美しいのです。
 

天才、発見!

 
うちの近所の公園では、敷地内にあるモニュメント的なものに、近所の小学校の子どもたちが描いた絵が埋め込まれているのですが…。
 
その中から見つけた、才能溢れすぎの一枚!
 

 
動物や遠足の風景などが描かれた絵が並ぶ中、バケモノがサッカーをしている異常な光景にギョッとして、思わず歩みを止めマジマジと見てみると……絵の上に書かれたタイトルは、
 
 
 
 
 
 
宇宙vs地球
 
 
 
 
 
 
……スケール、でか過ぎ!
 
 
どうやら、この子は地球人と宇宙人がサッカーをしている絵を描いたみたいです。…ってことは、胸に「ヒラマツ」って書かれたユニフォーム着た男の子は地球代表として…。
 
この真っ赤なボディーで、北島三郎みたいな鼻の穴した怪人物は宇宙人!?
 
まぁ、額にローマ字で、「UCHUU」って書いてあるから、間違いなく宇宙人なんだろうな。
 
ちなみに、宇宙人さんのユニフォームを見る限り、彼の名前は「テプドン」
 
 
この言語感覚といい、絵のモチーフといい、描いたヤツは間違いなく天才(笑)!
 
 

おっさん達のロックンロールにドキドキする。 − マーティン・スコセッシ「SHINE A LIGHT」

 
昨年は、本当に素晴らしい映画が多くて。
 
ありがたいことに、年が明けてからもそういう状況が続いていまして、今年に入って見た映画も、どれも大当たりでウハウハです。
 
映画とか音楽とかの「表現」が持つパワー、エネルギーって凄いものがあるんで、今年もこのまま上り調子で素晴らしい作品に沢山出会えたらな、と思います。
 

 
マーティン・スコセッシによるThe Rolling Stonesのライブ・ドキュメンタリー映画「SHINE A LIGHT」も昨年観た良作の中の一本。
 
正直、ロックの持つヒリヒリとした緊張感は薄めなんですけど、スコセッシとストーンズという、年齢を重ねても「表現」を行い続けているアーティストとしての姿こそが、本作の何よりの見所かな、と。
 
ひたすらにカッコ良くて、でもやっぱり年食ってるから、ちょっとカッコ悪くて、でもそのカッコ悪さが一周して逆にカッコ良かったり…っていう、ロックの魔力と魅力がスクリーンに描かれるライブの間中ずっと漂っていて、ひたすら観ていてニコニコでした。
 
クリントン元大統領を始めとするVIPの面々がライブを観に来てたり(クリントンの親戚に挨拶をするハメになった時の、「あ〜…メンド臭ぇなぁ…」っていうメンバーの表情は必見!)、ゲストにThe White Stripesのジャックが一曲だけ参加したり、クリスティーナ・アギレラがこれまた一曲だけ歌いに来たりと、The Rolling Stonesというバンド自体に「スペシャル感」「大物感」が漂っているのは勿論なんだけど、長年の活動の蓄積から生まれた下世話なユーモアやエンターテインメント精神すらロックンロールに昇華しちゃえるのが、このバンドの一番偉大なところだと再認識。
 
「あ〜、肩肘張らずに自然体で、こういう空気感を持てるのが、大物なんだな〜」なんて。
 
デュエットで歌っている時に、クリスティーナ・アギレラのヒップに股間を押し当てるミック・ジャガーの絶倫っぷりを目にして、やっぱおっさんが頑張ってる姿っていいもんだな、と凄く素直に思いましたね。

そんなヤツが書いてます。

 
友達に、僕の顔がアーケードゲーム機動戦士ガンダム戦場の絆〜」のテレビCMに出てくる役者さんにソックリだと言われました。
 
気になって調べてみたところ…。
 
<機動戦士ガンダム戦場の絆〜 CM>

 
 
うわぁっ! 確かにソックリ!
 
 
…どうやら、僕の顔面は、世間一般の不特定多数の人がイメージするガノタ(=ガンヲタガンダムおたくのこと)のビジュアルのイメージと同レベルのようです(笑)……はぁっ…。
 

「天然パーマネント・ヴァケーション」は、そんなヤツが書いているBlogです。
 
 

新年早々、有り得ないくらいの絶望感を味わったぜ!

 
今年から、こちらのBlogで、日記を書いていきたいと思います。
 
書いている人は、「さよならストレンジャー・ザン・パラダイス」という、はてダの中の人と同一人物です。
こちらは、映画や音楽の話題が中心になると思いますが、メインサイトと同様、よろしくお願いいたします。
 
さて、新年一発目&Blogの書き込み一発目という、あたかも白紙に書初めを行うかの如き、晴れ晴れしい気持ちの初エントリーですが、扱うテーマはジョージ・A・ロメロの新作ゾンビ映画ダイアリー・オブ・ザ・デッド」です。
 

 
明らかに新年の清らかな空気に合わない作品ですが、新年一発目に観てしまった作品がコレだったんだから、しょうがないです(笑)。
 
以下、感想は、これから観る人にとっては、一部ネタバレになるかもしれないので、収納しておきます。
 

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負け犬たちのアートによる遠吠えが世界を変える − 「ビューティフル・ルーザーズ」

 

 
90年代のアメリカのアートシーン、ユースカルチャーを、当事者であるアーティスト達のインタビューを基に検証するドキュメンタリー映画
地元のミニシアターのレイトショーで。
 
僕は、「アート」なんつうものに関しては、「アレだよな、キース・ヘリングと、ヒース・ヒーリングって名前似てるよな」くらいのコメントしか出てこない、ホトホト朴念仁な人間で、この映画で描かれているアートやデザインの知識もほとんど知らないまま観に行ったんですが、それでも大きく心を動かされました。
 
特に、物語導入部、90年代のストリートにおけるグラフティや、絵画、映画、アパレル・デザイン、ヴィジュアル・デザインなどの若者文化に革命を起こしたアーティスト達が、如何に学校でメインストリームから外れていて、マイノリティーであったかという話をそれぞれが語るシーンがとても良かった。
 
学校で異端であった彼、彼女らを支え、居場所を与えてくれたのは、アメリカのハーコアパンクでありHip Hopであり、そうした音楽とクロスオーバーした、スケボーやサーフィンやグラフティだった、と。
一般音楽誌からは無視されがちなアメリカン・ハードコアだけど、こうやって才能のある人に確かに多大な影響を与えていたのだ、っていうのを再認識できて嬉しかったなぁ。
 
で、そういった音楽やストリート・カルチャーに影響を受けたアーティストが、Sonic YouthAirトミー・ゲレロみたいな先鋭的なアーティストのアルバムを手掛けるようになる、というね。これは、もう立派な物語だと思いますよ。
 
映画に登場する「作品」の中には「Andre the Giant Has a Posse」Sonic Youthの「Washing Machine」のジャケット、ビースティーズの諸作品みたいに、僕みたいな朴念仁も知っているような、有名なデザインも出てきたりして親近感も感じられたし、「アート」のドキュメンタリーとして堅苦しく観るよりは、社会からフリーク・アウトした異端な人間のサクセス・ストーリーとしてリラックスして観るのが正しい作品だと思う。
 
マニー・マークによるミュージック・スコアも素晴らしかったですね。
 
レイトショーでの上映だったんですが、如何にもアートスクールの生徒って感じの若い子が沢山観に来てて、なかなかの盛況でした。中にはこの映画に影響を受けて、明日から走り出す若者が出てきたりするのかなぁ、とか思うと微笑ましかったり。
僕は、年を食いすぎてるし、センスもないから、もう駄目だけどね(苦笑)。
 
帰宅後、久々にSonic Youthの「Washing Machine」を聴き返したんだけど、
 

Washing Machine

Washing Machine

 
映画を観た後だったから、凄く心に沁みたなぁ。アートって、思い入れの受容体だ。
 


 

過剰なまでの「やり過ぎ感」に酔いしれろ! ― 「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」

 

 
PANCRASE所属のプロレスラー、鈴木みのるが「週刊プロレス」で連載しているコラムが好きで、毎週密かに楽しみにしています。
 
鈴木らしい毒に満ちたユーモアで日本のマット状況をぶった切りながら、自身の理想とするプロレス、プロレスラー像について語っているんですが、その鋭い観察眼に裏打ちされた文章は機知と批評に富んでいて、全日本プロレスファンである自分にとって「鈴木みのる」というレスラーは間違いなく「敵」であるにも関わらず、思わず感心してしまうことが多々あります。
 
で、最近、特にコレは! と思った文章がコレ。
 

オレが中学1年生ぐらいの時に描いていた理想のレスラー像は、背が大きくて筋肉質でフライング・ボディアタックができてトペができて、各種スープレックスができて、キックができて関節技ができて顔がカッコイイ選手…つまりなんでもできてなんでも持ってる選手だった。これは足し算の発想から生まれた理想像だけど、今考えてみると全然面白くないんだよな、そんなヤツ。

 
これは、プロレスに限らず、表現分野全般に言えることですよね。あれもこれもで、万人に受け入れられるように継ぎ足されたものなんて、標準的過ぎて、おもしろさを見出せない。多少、歪だったり、偏ってたり、無駄を省いたソリッドなものにこそ心惹かれる、という感覚は例えば音楽や映画を愛する人ならば、きっと分かっていただけると思います。
 
今年、観たコメディー映画の中でダントツにおもしろかった、ベン・スティラー主演の「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」も、そういった歪な魅力に満ちた一本でした。
 
この映画が凄いのは、「映画を観に来た観客の半分を大爆笑させることができれば、残りの半分はドン引きさせても構わない!」という潔い精神に満ちていることです。
 
大作戦争映画の主演俳優たちが、映画の撮影中に麻薬組織のテリトリーに足を踏み入れてしまったことから始まる、ホンモノの戦場さながらの活劇を、ハリウッドや映画会社への毒を交えながら描くブラックなコメディー映画なのですが、そのギャグセンスが、良い意味でも悪い意味でもホントにギリギリ。
 
例えば映画の序盤、麻薬組織の領土に足を踏み入れてすぐに、映画監督が地雷を踏んで木っ端微塵になってしまうんですが、それを映画撮影の演出だと信じて疑わない主演俳優のスピードマン(ベン・スティラー)。
あろうことか、吹き飛んだ監督の生首(!)を拾い上げると、「こんなもの作り物に決まっている!」「お前らは、ハリウッドの裏側を何にも分かっていない!」と毒を吐き出すんです(アホだ…)。
それでも、仲間から疑念の目を向けられると、「どうせ、この血もシロップに決まってるんだ!」と、その生首をベロベロ嘗め回すんですよ!
 
で、「これは、ホンモノの血を使っている! これぞ、リアリティーだ!」とかのたまうんです。ヒドい!
 
案の定、客席の反応は完全に引いている人と、馬鹿笑いしている人の、極端に別れてましたね。ミニ・シアターならともかく、大手のシネコンで上映されている映画で、そんな危険球を投げてくるなんて! でも、その気概! 大好きです!
 
もう、一事が万事こんな感じで、「過剰さ」や「偏り」「やり過ぎ」といった、万人向けのセンスとはかけ離れた精神に満ち溢れいるため、劇中でのギャグも、マニアックな映画・音楽のパロディーや、シニカルな業界ネタ、動物や老人や子どもにも笑いのためなら容赦なくバイオレンス! という際どい笑いのオンパレードで、お笑い芸人で言ったら、江頭2:50の如くキワモノ感と、それ故の誰にもマネできない孤高感を併せ持っています。
 
散々、ムチャクチャやりながら、それでもハッピーエンドに向かって力技で加速していくラストなんて最高だったなぁ。
 
この「やり過ぎ感」のせいで、「中庸」こそ尊しとされる現代社会の物差しからは完全にフリークアウトしてしまっている作品なんですが、そんな映画だからこその魅力と(人を選ぶけど)最高の笑いに満ちた映画です。
 
そして、僕はそんな映画が大好きです。