ミセス・ケネディ

去年の5月、このブログでご紹介した“Mrs. Kennedy and Me: An Intimate Memoir”の邦訳が、原書房からもうじき発売されます。
アマゾンにはまだデータがないので、hontoネットストアのページをリンクします。
【送料無料】ミセス・ケネディ [ クリント・ヒル ]

『ミセス・ケネディ 私だけが知る大統領夫人の素顔』
J・F・ケネディ没後50年企画、だそうです。訳者は白須清美さん。わたしがブログを書いていた頃、すでに翻訳作業が粛々と進んでいたのでしょうね。
発売が楽しみです。

I’m baaaaaaack!

みなさま、新年あけましておめでとうございます。

昨年7月末から更新が止まっておりましたのは、えー、まー、後日お話しするとして。
復活です。
5カ月間読み貯めていた本のレビューをちまちま(ちまちま?)アップしていきます。

昨年は本当にたくさんの出会いとご縁がありました。
なんとか出版翻訳者としてやっていけそうな手ごたえを感じております。

それでは、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

深い疵

さいきんドイツ語がマイブーム。NHKのドイツ語講座(テレビ・ラジオ両方)、東京外大とタフツ大学によるウェブ語学講座と、ちょっと手を広げすぎでね? ぐらいにはまっていますが、まだまだまだ初心者です。

こんなことになったのは、酒寄先生、あなたのせいよ……というのは冗談ですが、楽しみにしていたこの本にようやくたどり着けました。発売日に買ったクセに。

深い疵 (創元推理文庫)

深い疵 (創元推理文庫)

【あらすじ】

ホロコーストを生き残り、アメリカ大統領顧問をつとめた著名なユダヤ人が射殺された。凶器は第二次大戦期の拳銃で、現場には「16145」の数字が残されていた。司法解剖の結果、被害者がナチスの武装親衛隊員だったという驚愕の事実が判明する。そして第二、第三の殺人が発生。被害者の過去を探り、犯行に及んだのは何者なのか。(東京創元社ウェブサイトより)


何者なのか……。
えーーーーっ!

って、人です。

――では感想になりませんので、ネタバレにならない程度に説明を。物語の中核を形成するのが、フォン・ツァイドリッツ=ライエンブルク家とカルテンゼー家。カルテンゼー家に嫁ぎ、大企業のトップに君臨するフォン・ツァイドリッツ=ライエンブルク家の娘、ヴェーラには3人の子どもがいます。長男は美術史家、次男が家業を継いで経営をまかされ、末娘は政界に。絵に描いたような上流階級の一族ですが、それゆえにゆがんだ関係も生まれるわけで。隠し子もいれば悪い仲間もいる、カルテンゼー家に恨みを持つ者もいれば、一家のスキャンダルで儲けようともくろむ人々も。

読んでいる間の脳内BGMは、これでした。作曲は大野雄二さんだったんですね、すっかり失念しておりました。

横溝正史ばりのもつれた人間模様を読み進めていくと、意外な事実にたどりつきます。そこが第一の「えーーーーーっ?」。

なんでなんで? とおどろき戸惑いつつ、さらに読んでいくと、あの人がアレで、この人がコレ――と、たたみかけるように真相があきらかになり、読者はふたたび「えーーーーーー?」最後に「お前かよ!」という人物が立ちはだかり、シリーズの主役であるピアとオリヴァー絶体絶命のピンチ! となるわけです。これをいちいち書いているとネタバレになるので、いいかげんな感想だとなじらないように。

本国ドイツではすでにシリーズ5作が出版されており、本作は第3弾にあたります。シリーズの女主人公ピアはバツイチ・アラフォーの刑事、恋も仕事も一生懸命!――と、海外ミステリでは俺的に食傷気味のキャラなのですが、彼女のプライベートがストーリーの前面に出てこないので嫌味なく読めました。ただ、元夫とどうして離婚したのか、あの現彼(あまりに女性にとって都合がよすぎて、かえって影が薄い)とはどうして知り合ったのかが気になります。本作を読んだかぎりでは元夫とのほうが馬が合うように思えてならないのです。この先よりを戻すのでしょうか? 

と、今回も酒寄マジックに翻弄されました。ドイツミステリは英米・北欧とはひと味違った“えぐみ”みたいなものがありますね。本作もそうですが、第二次世界大戦から冷戦時代、東西分裂という歴史をたどるだけでも、ドイツという国は、たくさんのミステリが生まれる要素をはらんでいます。個人的には数十年前の東独が舞台のノアールが読みたいのですが、それはもうちょっとドイツ語を勉強して、自分で探すしかありませんね。よし、モチベーションが上がったぞ。


でも最後にひとこと。「おセンチ」は死語ではないでしょうか?

かくも長き不在〜スチームパンクの森で迷子になる

気がついたらひと月半もブログを書いていませんでした。

この間なにをしていたか。仕事はもちろん、持ち込み用の原書を読んだり、どえらく長いミエヴィルの新刊を読み始めたりと、はい、正直に申します。ネタ切れでした。

ただ、スチームパンクでなにかレビューを書こう、とは思っていました。
そこで数冊手に取り、実際に読んでみたのですが……。書けない。
じぶんがイメージしていたスチームパンクとは違う作品にばかりめぐりあってしまったのです。

スチームパンクといえば、

  • 舞台はヴィクトリア朝のロンドン
  • 蒸気機関のガジェット目白押し
  • 飛行船もお約束
  • 荒唐無稽のアクションはあり、だけどゾンビや異形のものに逃げて欲しくはない

そのはずが、ウェブジンの英語版も、邦訳された新刊も、わたしの考える"スチームパンク"ではありませんでした。

拙ブログでは、いたずらに辛口エントリを増やしたくありません。自分が読んで面白かったもの、心をゆさぶられたものだけを書いていくのをルールと定めています。というわけで、このひと月で読んだスチームパンクについてはあえて触れません。お察しくださいとしか申し上げません。

さて、どうするか。

いろいろ読んだ末、わたしにとってスチームパンクの原点ともいえる『ディファレンス・エンジン』を再読することにしました。

ディファレンス・エンジン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

ディファレンス・エンジン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

ディファレンス・エンジン〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

ディファレンス・エンジン〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

大友克弘GENGA展

5月7日、外神田の3331で開催中の『大友克弘GENGA展』に行ってきました。

この展覧会、厳しい入場制限が課せられています。この日は出発直前に至急返事を書かなきゃいけないメールが飛び込んできて、半ば入場をあきらめつつ家を出たところ、交通の便がスムーズに進んだおかげで、なんと開場10分前に到着。よかったー。

そして原画展もよかった! 大友氏は原稿をホワイトで一切修正しないのです。ホワイトは不要になったセリフや枠外の汚れを消すだけにとどめ、ペンとベタ、トーンだけで描かれていました。

漫画家さんの原画展には何度か足を運びましたが、どなたもコマのどこかにホワイト修正があり、油絵の具のように盛り上がったホワイトの上に、少女漫画の星入りの目がきれいに描いてあったのには逆に感動しました。それだけに大友氏の描く線の迷いのなさは、ほんと、怖いほどです。線がぶれたら最初からやり直していたのだろうか。あの細かい線の上から消しゴムをかけるアシスタントさんは心臓が破裂しそうなほど緊張してたのではないだろうか――漫画を描いていたひとりの素人として、その丁寧な仕事ぶりに驚嘆しました。

FB友から事前に情報を得てはいましたし、平日の昼間だったからかもしれません。観客は美大生風の若い人が大多数でした。『ハイウェイスター』や『ショートピース』をリアルタイムで読んだ世代はわたしたちだけだった……。

大友作品は初期のものが好きで、『童夢』や『AKIRA』は(ビッグになりすぎちゃったなあ)と、あえて読まなかったものですから、今回原画を見てあらためて自分がなんてアホだったか思い知りました。

一般展示が終わると、撮影許可エリアに出ます。
有名な金田のバイク

童夢』の名シーン

(画像はkenちく小考さんよりお借りしました)
が再現できる壁。

どちらも人が乗ったり壁にへばりついたりできるのですが、あえてトライせず。

最後に宮城県出身の大友氏発案による、入場料の3分の1を東北の復興に取り組む6つのNGOに寄付するコーナーへ。チケットの下半分が投票券になっていて、寄付したい団体の箱に券を入れるというもの。
どうぞ復興がつつがなく進みますように。

映画『裏切りのサーカス』と写真展@ポールスミス丸の内

5月5日、遠方より友来たる。久しぶりに都心に出たので、丸の内と有楽町に向かいます。どうしても劇場で観たかった『裏切りのサーカス』と、ポールスミス丸の内店で行われている同映画の写真展を観るためです。

久しぶりのポールスミスブティック。レディスものがありません。好きだったブランドだけに残念。
写真展の雰囲気はこんな感じ。


Paul Smith JapanさんのFacebookからシェアした写真です)

以前レディス売り場だったのでしょうか、がらんどうの2階を丸ごと写真展に使っていました。祝日なのに見物人はわたしひとり。静寂の中、ゲイリーとジャック・イングリッシュの写真を堪能しました。上映時間の関係上写真展を先に観ましたが、これから映画をご覧になるかたは、映画→写真展の順番で回ったほうが余韻が楽しめると思います。

さて本編。

密度の濃い映像美が予告編からも伝わってくるのでは。書庫の搬送用エレベーターの扉開閉、おもむろに電源が入り、乱数暗号を打電するテレックスのクローズアップなど、機械の動作をうまく使った演出、ブダペストイスタンブール、そしてロンドンの重苦しい空気と湿気が肌に乗ってきます。映し出される空は重く雲が立ちこめ、屋上のシーンは雲に押しつぶされるよう。

そして豪華なキャスト、ゲイリー・オールドマンジョン・ハートコリン・ファースの英国3大おっさん主役級メンツに、BBCテレビシリーズ『シャーロック』で一躍脚光を浴びたベネディクト・カンバーバッチ。『シャーロック』のときよりかなりバルクアップした様子。なにより驚いたのは、キレキレでテンション高い役が多かったゲイリー・オールドマンが抑えた枯れの演技を見せてくれたことです。普段の見た目は実年齢より10歳若く見える人が、実年齢より10歳は老けて見える役作りをしている。アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされたときは「?」と疑問に感じたわたしが馬鹿でした。これだけ頑張ったんだからゲイリーにオスカーをあげてもよかったんじゃないかな。

ちょっとネタバレかもしれませんが、ひとつだけアドバイスを。
グロいシーンが2カ所あります。グロが苦手なかたは覚悟の上でごらんください。となりの観客がかなりショックを受けていましたが、ハードなホラーが苦手なわたし的にはスルーできる程度でした。

原作:ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ[新訳版]早川書房 村上博基・訳


最後にひとつ知りたいことがあります。このビデオの25秒あたりで出てくる車、これってポルシェですか?

ジャッキーのSP回顧録が発売2週間でアマゾン総合51位!

邦訳が出たら読みたいな、たぶん自分は訳者に指名されないだろうから、誰か訳してくれないかなという洋書をご紹介します。

第1回は“Mrs. Kennedy and Me: An Intimate Memoir”

Mrs. Kennedy and Me: An Intimate Memoir

Mrs. Kennedy and Me: An Intimate Memoir

1961年に大統領に就任し、1963年にダラスで凶弾に倒れたジョン・F・ケネディ大統領。ファーストレディ、ジャクリーン夫人のSPをつとめ、通算5名の大統領のボディガードとして奉職したClint Hill氏の回顧録です。

2012年4月に発売後、5月1日現在、Amazon.comで回顧録・伝記部門の第7位(ちなみに8位がジョブズ)というベストセラー。なんだかんだ言ってもアメリカ人はケネディ家ものが好きなんですね。ジャクリーン夫人の後半生はけっして“お手本”と呼べるものではなかったかもしれませんが、彼女のファッションセンスやライフスタイルは日本の女性にも大きな影響を与えました。いまだに女性誌で“わたしたちのお手本は、やっぱりジャッキー!”みたいな特集が組まれるほどですから。

アメリカの読者層は40代以降の女性が中心のようです。☆2つの辛口評価が1件、それがなんと「この本は文字が小さい! おかげで新しい老眼鏡を買う羽目になったわ!」と、どこをどう突っ込んでいいのかわからない逆ギレコメントで、ああ、お気持ちよーくわかりますとうなずくわたくし。邦訳化の際は大きめの活字でよろしく>編集者のみなさま

Look Inside!でざっくり中を見てみたところ、まあ無難な内容。ジャクリーン夫人に心酔したボディガードがうつくしいおくさまとのうつくしいおもいでを語っています。とはいえ聖女とはほど遠いジャッキーのことですから、ちらちらとわがままで自己中なおくさまへの愚痴もあったりして。

ホワイトハウスの住居部分の描写は、テレビドラマ“The West Wing”とどっちが真に迫っているか――ぐらいかな。

ジャクリーン夫人のSPといえば、ダラスで起こった発砲事件を思い出さずにはいられません。Look Inside!では当該章は読めないように加工されています。読者レビューを見ると、あ、やっぱりここに注目していた人がいました。予想どおり、ケネディ大統領の被弾にとっさに動いたのがHill氏だったわけですが、肝心の部分の記憶があいまいではないかとの指摘がありました。もう50年近く経っていますし、言ってはいけないことだってあるでしょうし。

この本のデータを探している間、ホイットニー・ヒューストンの“あの曲”が脳内でエンドレス再生されていました。

なーんかすでにだれかがどこかで日本語に訳しているような気がします。どなたかわかりませんが、がんばってください。