~熱風の果て~

観劇の記録

イモーラル・ディテクティブ(ぱすてるからっとproduce)@シアターグリーンBIG TREE THEATER

【脚本・演出】佐藤颯

【出演】遠藤三貴、上原ぺこ、七海絢香、合田孝人、飯田ゆか、井上千鶴、込山巧、東藤未沙、高木亮、菊地紀壱、五十嵐睦美、磯崎みずほ、くま、井戸美月、花岡芽佳、増田海、中嶋魁、夢川いゔ、よしざわちか、戸田耀子、中島彩咲
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4月にBox in Boxで「セカソコ」を打った劇団がBIG TREE THEATERに進出。「セカソコ」でW主演の一翼を担った飯田ゆかさんも、引き続き出演となった。どの席からでも舞台が見やすいという点ではBIG TREE THEATERに勝る劇場はないと思う。2公演買っていたうちの1公演を急な仕事で流してしまうことになったのが残念だったが、日曜日の千秋楽は無事に観劇できた。
大正ロマンを時代背景として借りてきたことで、華やかさと乱雑さが交錯する、ある意味何でもありのごった煮の世界観が現出される。小道具も服装も時代の新旧、和と洋が入り混ざる。着物に洋靴という女性陣のいでたちには特に華があった。そんなごった煮の世界観の上に、21人の登場人物全てが何らかの特殊な能力を持っているという設定が、BIG TREEの広い舞台空間を遠慮なく埋めていった。
その21人の全てが、この時代だったり、社会的なものだったり、あるいは自身の特殊能力だったりと、何らかの軛に縛られている。そして、幕が開いて閉じられるまでに、何らかの意識の目覚め、人間的な成長といった変化を遂げているという点もこの作品の見せ所。その分、ラストシーンのストーリー展開はやや性急な印象を受けることにもなったが、破綻はなく、人間を描くという部分がメインと思えばそれほど気にならなかった。
役に合わせて黒髪ロングのエクステを付けて舞台に臨んだ飯田ゆかさん。彼女が演じた猿山無子も、人の優しさや愛に触れることで、辛い過去の記憶を乗り越えて上を向いて歩き始めるという成長がしっかりと用意されていた。無口な役と告知されていたが、表情豊かにセリフも多く、赤い袴姿で舞台上を動き回るさまは可愛らしく、この作品のマスコット的な存在になっていた。今回は前説担当に加え、和装の袖と袴を振り流しながら激しく踊る「ガチダンス」にも選抜されるなど、演技以外でも見せ場が多い分、プレッシャーもかかっていたと思うが、千秋楽の挨拶では誰よりも感極まった感じで鼻を真っ赤にして涙を流していた彼女の頑張りは報われていた。
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チャイナ・ディフェクション(女神座ATHENA)@コフレリオ新宿シアター

【作・演出】山口喬司

【出演】橋本耀、横島亜衿、山川ひろみ、高橋希来、木保英里香、横尾莉緒、赤井玲香、北條夢乃、田畑寧々、杉浦月那
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「聖餐のプシュコマキア」以来、2年ぶりとなる女神座ATHENAの第7回公演。その前作は、女神座としては異色とも言える難解なストーリーだったが、今作はアクションも前面に押し出して、観劇初心者にも取り付きやすい、エンタメ性も重視したつくりとなっていた。
舞台となるラーメン屋に狼藉者が現れるという、K.B.Sの「てんいちっ」を思い出させる物語の導入だった。そこでは、酔拳の使い手を演じた山川さんは、途中までは格闘シーンはなさそうな役かと思っていたが、途中から武術に開眼。山川さんの演技では、一見気が弱そうに見えてちゃっかりしたところがあったり、調子に乗ったりといったシーンが好きなので、メイファンの必殺技の連発シーンは魅力的だった。パンフレットで生年を公表するようになった山川さんだが、お団子に髪を結ってチャイナドレスを纏ったときの少女的な透明感はさすがだった。
様々な得物を持った格闘家たちによって繰り広げられる女性たちの戦闘シーンは女神座ならでは。その中でも正統派の拳法で見せ場をつくったマオとおばあちゃんの二人も、本業はアイドルだったり声優だったり。木保さんは、声質やビジュアルも含めて一本気で向こう見ずなところのあるマオ役にぴったりはまっていた。声量の大きさも特筆もので、舞台の世界では大きな武器の持ち主。違った雰囲気で舞台に立つ姿も見てみたいと思った。
橋本耀さんは、2年前の女神座のリーディングシアターに一度はキャスティングされながらチケット発売直後に降板という経緯があったので、主演での出演には少し驚いた。5年半前にAKB劇場で見たときの16歳のイメージで時は止まっていた。当時の魅力だった無邪気な笑顔の記憶と舞台上の姿がなかなか結び付いてこなかったが、気品あふれる宮廷衣装で舞う姿を見たときに、記憶の断絶が少し埋まったような気がした。
ラストシーンは、人間の肉体と魂とを分けて考える宗教的な価値観が受け入れられないと違和感が残ると思う。小皇后ことパイの魂の行方については、最後に誰かが偲んであげてもよかった。もし、魂聯冥破が予定どおり決まっていたら、ランファンが小皇后として君臨することになって、ラーメン屋どころではなくなっていたのだろうか・・・。ストーリー的には取り付きやすさ重視だったのかもしれないが、個性的な登場人物たちを多く配置していたので、もう少し複雑な関係性や、生い立ちを掘り下げるといったところがあってもよかったように感じた。
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君が残した白いひまわり(K-FARCE)@コフレリオ新宿シアター

【脚本・演出】加治幸太

【出演】坂口和也、夏目愛海、​赤眞秀輝、​酒井尊之、​中谷智昭​、​松田シオン、兼田いぶき、​きむらえいこ、​久保雄司、テラモトタカシ、​山﨑豊明、市川フー
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これまでは、強い個性を持つ数々のキャラクターを演じてきた夏目愛海さん。派手なところのない演劇らしい演劇作品で、キャラクターに頼ることができないヒロイン役として、プレッシャーも強かったはず。さらに、若年性の認知症を患うという、若い身にはイメージすることすら難しい設定。こうした困難を乗り越えて舞台に立った彼女の役者としての一段の成長、大人の役者へ着実に上がっている姿を見ることができた。
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紫羅欄花~私を信じて~(酒竜神)@大塚萬劇場

【演出】久高将史【作】Ryu

【出演】細丼和也、小日向茜、根井雅人、白石チカラ、林昭宏、早速義比呂、おくむらたかし、工藤竜太、河内耕史、東條瑛、杉山龍太郎、岡田アキ、塚本圭、葉月、伴野仁美、仲田正道、緒方祥香、宮蔦秀彰、関口杏珠、土井正明
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小日向茜さんがヒロインとして出演の時代もの。
8年半もの長い期間、武士道の心を持って、まっすぐ過ぎるくらいの覚悟を持ってアイドル道を歩き切った小日向さんだけあって、男装袴姿と殺陣は実際に見ると格好良く決まっていた。Loveな乙女モードで見せる葛藤もまた良かった。
しかし、制作陣が伝えたいことは理解しつつも、展開には甘さを感じた。名前も見た目も似た人が多く出てくるため、登場人物を把握するだけでも困難を伴うところに、立場が目まぐるしく入れ替わり、なおかつその入れ替わりの契機が分かりづらかった。
それだけであれば、シナリオが収束したときに納得はできるはずだが、この作品はとにかく人の生き死にがご都合主義に左右されすぎでそれどころではなかった。大人たちの深慮遠謀の筋書きが平和な未来をもたらす結末につながったと言えば聞こえはよいが、それが単なるご都合主義の上に成り立っているのでは、とても精緻な筋書きとは言い難い。そんなシナリオに乗せられて命を懸けて戦うことになった若者たちは怒らないとおかしいはずなのだが・・・
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楽園の女王(ILLUMINUS)@シアターモリエール

【脚本・演出】吉田武寛

【出演】相笠萌、岡田彩花、栗生みな、千歳ゆう、星守紗凪、椎名香奈江、丸瀬こはる、倉沢しえり、植野祐美、日下部美愛、真田真帆、西村美咲、平原ゆか、楓菜々、神野紗英子、田中亜美、徳岡明
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1月に上演された「赤の女王」が持つ世界観、色彩が好きだったので、続編制作決定と聞いたときから楽しみにしていた。作品への期待が高く、今回は早めに席を確保して、2日間観劇することにした。
若さを保ち続けるリリィ、エリザベート、アメリア、そして悪魔の4人はキャスティングも同じく、再登場。そして、その他の人物の中にも、前作の生まれ変わりと明示される人物や、はっきりと示されないまでも前作の香りを漂わせる人物たちが登場して、40年後という舞台設定にもかかわらず、前作とのつながりも随所に見られた。
前作の主人公であるエルの生まれ変わりとされる、相笠萌さん演じるメアリーは、純粋な少女かと思わせた後の、内に抱えた闇や心の壊れ具合のギャップが恐ろしかった。相笠萌さんの、やや無機質なビジュアルと演じ方は、終演後に振り返ってみれば、その両面を上手く表現していたことに気づく。
アフタートークでは、岡田彩花さんと、二人の普段のキャラと演じたキャラの組み合わせが逆だと話していたが、それが舞台で演じることの醍醐味でもある。卒業して別々の道を歩む同期生がこうして同じ舞台に立つ姿を見ることができるというのも感慨深いものだった。いわゆるアンサンブルのサーヴァントのキャストたちも同等にアフタートークに参加するというのは珍しいのではないかと思うが、こういうところにも制作陣の姿勢のようなものが見える。
前作からの40年間の出来事は詳しく語られることがなかったが、最大の謎は、不死身だったはずのエルがどういう経緯でこの世を去ったのかということ。爆発で粉々になっても再生するという設定まで出てきて、ますます謎は深まるが、年末に上演が決まった続編で明かされるのだろうか。個人的には、「リリィ」と言えば、アサルトリリィシリーズを思い出すので、そちらでメインキャストを演じている星守紗凪さんの出演には縁を感じる。可憐なビジュアルとのギャップを最大限に生かした、アンの潔いほどの狂気に星守さんの演技に新たな境地を見た。前作で強烈なインパクトを残したワルツを踊りながらの斬殺シーンの犠牲者となってしまったが、前作のヒルダと違って、アンの場合は完全な自業自得なので、自慢の顔を斬られるというおまけまで付いて、ある意味では爽快なシーンでもあった。しかし、果物を重しにして海に沈めても、腐れば浮き上がってくるようにも思うのだが、肺に水が入っていれば浮かぶことはないということなのか、はたまた続編でアンが再登場するということもあり得る・・・?
続編でも小綺麗にまとめないインモラルな世界観と複雑な人間模様を堪能でき、ますますパワーアップしたエリザベート様など前作のキャラや魂を受け継ぐキャラに再び会えたのも嬉しかった。一方では、リリィ、エリザベート、アメリア、悪魔の前作組の力は余りにも強大でありすぎた感はあった。リリィと悪魔なんかは宿敵と言うよりも、何となく腐れ縁のような気安さまで感じられ、この4人の関係性に進展が見られなかったのは、やや物足りなかった。アドリブも自在にふざけるエリザベート様は愛すべきキャラクターで、ため息をつくシーンに悩みが感じられもしたが、輪廻転生の輪からも、食物連鎖の循環からも逸脱した存在である彼女たちが、真の幸福や安寧、はたまた終焉にたどり着く日はまだまだ遠そうだ。
もう一つ、椎名さん演じたフィオナの裁判を通しての回想という形式を取った点は、人によって評価が分かれるところか。舞台で演じられるよりも先に一部の核心が明かされるという点では先を読む楽しみが奪われるように感じ、また、回想と事実との齟齬に、人間の業の深さが暴かれるという点では単なる回想ではなく、そこもまた物語の一部を成すという深みを感じた。ルイーズ社長が前作で西村さんが演じたタピカの生まれ変わりだとすれば、フィオナは妹のジェシカの生まれ変わりなのかとも思ってしまうが、前作のジェシカは最後は改心していたと信じたい。
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