ネタ

研究に関するネタというよりも面白いネタ。Googleでは英語表記に関して自動翻訳する機能が付いたらしく、検索をかけるとたまに[このページを訳す BETA]というリンクも同時に出るようになりました。

生物関連の情報・単語は特殊な用法になっている場合が多く、直訳するととんでもない訳が出てきてびっくりすることがあります。
以下、そのネタ。

Singer Lab Publications:
>歌手の実験室書:
→Singerさんという研究者の業績リストで、実際に歌手がプロトコールを書いているわけではない(笑)。

Cells migrate forward by extending membrane protrusions.
>細 胞は膜の突起の拡張によって先に移住する。
→migrationは直訳すると確かに「移住する」だから正しい。ただここまで擬人的に表現しなくても・・・。

Neural Wiskott-Aldrich syndrome protein (N-WASP), a ubiquitous member of the WASP family, induces actin polymerization by activating Arp2/3 complex and is thought to regulate the formation of membrane protrusions.
>神経のWiskott-Aldrich シンドローム蛋白質(スズメバチ家族の いたるところにあるメンバー, N-WASP) は複雑な活動化のArp2/3 によってアクチン重合を引き起こし, 膜の突起の形成を調整する と考えられる。
WASPファミリーがまずオカシイし(笑)。Waspは「スズメバチ」ではなく「Wiskott-Aldrich Syndrome Protein」の略。「複雑な活動化のArp2/3」っていうなら「complex activation of Arp2/3」とかになるはずですけどね。正確には「Arp2/3複合体の活性化」

it is totally unclear
>それは総に明白でない
→こう読むと何か詩的というか戯曲的というか・・。「生きるべきか死ぬべきかそれが問題だ(To be or not to be)」みたいな(笑)。

fluorescence resonance energy transfer (FRET)
>蛍光性共鳴エネルギー移動(焦燥)
珍しく正しく訳せてます。でもFRETは略語で、決して焦ってません。

などなど。珍変換に勝るとも劣らないすばらしい翻訳。
英語が苦手な人にとっては便利なツールでしょうけど、分かっている人がそれを読むとかなり笑える文章になってしまいます。暇人なら解説をつけてしまうぐらいで、変な若手芸人のネタよりも爆笑モノです。

ちなみに今日の一番のヒットは
Western blot→西部のシミ

ワルファリン作用機序

Natureに連報で掲載された
Mutations in VKORC1 cause warfarin resistance and multiple coagulation factor deficiency type 2 (Rost, S. et al)

Identification of the gene for vitamine K epoxide reductase (Li, T. et al)

News&Views(K is for koagulation)でも紹介されているが、ネタ満載なのでちょっと紹介。

まずVitamin Kの発見の話。
1943年のノーベル賞医学生理学賞)にVitamin Kを同定したHenrik DamとEdward Doisyが受賞している。なぜVitamin "K"なのか、それは血液凝固作用を持つVitaminであり、koagulationに関与するVitaminだからである。もちろん辞書を引いても"koagulation"という単語はない。それはすなわちHenrik Damの母国、デンマークスカンジナビア半島)のスペリングだからである。英語ではcoagulationということである。

次に、ワルファリン発見の経緯から(詳しくはエーザイのHPに)。1920年代に牛が出血死する奇妙な病気が流行しはじめ、原因は腐ったスイートクローバーにあるとされたのが1922年。当時の牛の飼料が生育もよく、収量も豊富で牧草として最適のスイートクローバーに推移してきたこともあって大流行した模様。1930年代にウイスコンシン大のKarl Linkが原因物質であるdicoumarolを発見、誘導体としてVitamin K拮抗剤のwarfarinを合成することに成功した。warfarinという単語はこの物質の特許を持つ
Wisconsin Alumni Research FoundationのWARFとクマリン系薬物の語尾につけるARINをつなげて、「WARF+ARIN=WARFARIN」となったわけです。

論文の詳しい内容は後日UPします

Formin’ adherens juctions

というZigmondによって書かれたNCBのNews&Views。

細胞が隣の細胞と接着する際にできるのがadeherens junctionと呼ばれる構造で、この形成にForminという分子が大事だという話。

元論文はNCBのJan. 2004にあるMamalian formin-1 participates in adherens junctions and polymerization of linear actin cables。Forminとは四肢形成不全マウス(手足ができない)で欠損している遺伝子産物。最近になってこの分子が細胞形態形成を担っており、アクチン重合活性を持っていることが明らかになっている。今回の細胞間接着形成に関する報告では、細胞間接着形成に必須の分子、α-カテニンという分子の結合タンパクを酵母two-hybrid法で探索したところFormin-1が取れてきたのでその機能解析を行っている。Fmnのcoiled-coil領域にα-カテニンとの結合領域が存在しており、細胞に強制発現させると接着形成が阻害されるということを示している。この接着形成にはFmnが細胞の縁にいることが大事で、Fmnのアクチン重合活性部位とα-カテニンのβ-カテニン結合領域を融合させた人工的な分子をα-カテニンを欠損しているマウスの細胞に発現させてやると本来なら形成されない接着が形成される。

In vitroでもFmnのFH1ドメイン、FH2ドメインでアクチン重合活性化を引き起こすことを証明しているが、興味深いのはcoiled-coil領域を加えるとそのアクチン重合活性化を阻害するらしい点。Fmnの近縁分子であるmDiaは自身が活性部位を阻害しており(autoregulation)、他の分子からのシグナルを受けた場合にその抑制機構が解除され、アクチン重合活性を持つようになる。となるとα-カテニンがFmnのcoiled-coil領域に結合してautoregulationを解除すると考えるのが無難だが、どうやらそうではないらしい。このautoregulationの解除機構、結合タンパクを同定するという課題が残っている。

で、News&ViewsでZigmondが指摘している点で、Arp2/3複合体による「枝分かれ」構造のアクチン繊維重合とFormin(とその類縁分子)による「直線的」構造のアクチン繊維重合化のメカニズムがうまく使い分けられているらしい。これは酵母でも分かっていたことで新しい話ではないですが、今回の論文で取り上げられている細胞の進展に伴う急速なアクチン重合→接着した後の細胞膜を裏打ちするアクチン繊維の重合という一連の流れの中でForminが大事であるということを見出したのは非常に重要な知見。この「受け渡し」の機構もまだまだ未解明。

CERT

とりあえずCERTのことに関してメモしておきたいと思います。

Nature誌(18/25, Dec. 2003)に掲載されたMolecular machinery for non-vesicular trafficking of ceramideという論文。国立感染症研究所のグループによって細胞内のスフィンゴ脂質の輸送経路に関与するCERTという分子の機能解析。細胞内で生合成されるスフィンゴ脂質はゴルジでまず前駆体が合成され、その後ERに輸送されてそこで最終的な合成が行われるのだが、ゴルジ→ER間を輸送する機構はこれまで不明であった。今回同定されたCERTにはPHドメイン(ゴルジに結合)、FFATドメイン(ERに結合)、STARTドメイン(スフィンゴ脂質に結合)と全てのcriteriaを満たす分子構造を持っている。

非常にスマートな仕事で、彼らはLyseninという毒素を用いた細胞アッセイ系でCERT遺伝子を単離している。この毒素はミミズが出すもので、ミミズが外界から刺激を受けたとき、つまり敵に攻撃された際に霧状に体内から放出されるもので、ヒトの皮膚に触れると痛みを伴う。このLyseninが細胞内のスフィンゴ脂質代謝系に作用することは分かっていたのですが、このLysenin耐性(つまりLyseninが効かない)細胞のLY-A細胞にヒト遺伝子を戻して、Lysenin感受性(Lyseninが効く)になるのはどの遺伝子を戻したときなのかを調べたところ、CERT遺伝子を導入するとLysenin感受性になり、元のLY-A細胞ではCERT遺伝子に変異が入っているためにLysenin耐性になっているということを見出した。

ちなみにNature Cell BiologyのJan. 2004号のNews&ViewsでLipid pickup and deliveryということでHowerd Riezman、Gerrit van Meerによって簡単なReviewが掲載されています。