2014年を振り返る

少し早いですが今年を総括すると、プライベートではやるべきことを粛々とこなす1年になりました。ここ数年「アレやらなきゃ」「○○できたらいいな」と思っていた大小の事に決着をつける目処をつけられたので、個人的な達成感はあります。ほとんどは些細なことですが、それでも保留にしていて頭の片隅で気にし続けるのに終わりがみえるのはスッキリします。
仕事、もしくは世の中がらみでは、なんといってもSTAP細胞です。1月の華々しい会見、2〜3月の疑惑、4月の小保方氏の会見、5月からの再現実験、そして7月の笹井先生の訃報。小説かドラマだったら「よくできたスジだな」と思うくらいドラマチックな展開でした。明日には再現実験の結果発表があるので、2014年中にひとまずの決着がつくでしょう。STAP細胞が存在しないことは3月には自明だったのですが、その後も非化学系(と思われる)の人たちが小保方氏を擁護しつづけるのには驚きました。嘘をついてるようには見えない、とか、若い女性が涙を流して謝罪してるんだから、とか。世間の大多数が、いかにエビデンスとは別の判断基準で動いてるかが分かったのが、今年の最大の収穫です。

無料でウェブを翻訳こんにゃく

Duolingo
昨日のreCAPTUREの発案者のTEDトークを見ました。後半の話しで「今までの人類の偉業、たとえばピラミッド建設や月面着陸は、おおよそ10万人規模のプロジェクトだった。なぜならそれ以上の人数をまとめ、給与を払うのは不可能だったから」というのが印象的でした。
インターネットを使えば、それ以上の人数でもプロジェクトを遂行できる、reCAPTUREがその一例だけれど、もっとできないだろうか?ということで、今はduoliogoというウェブページの翻訳を無料ですすめるプロジェクトに携わっているそうです。これも面白そうなんで、ちょっと覗いてみます。
Duolingo

reCAPTCHAのTEDトーク

あの「イラつく文字認証」のおかげで年間250万冊もの本がデジタル化されている - ログミーBiz
ウェブのユーザ認証で使われてるCAPTUREを古い書籍のデジタル化するプロジェクト、2年半前にチラッと書いたんですが、TEDトークにあがってるそうです。あとで見てみよう。
Massive-scale online collaboration | Luis von Ahn - YouTube

STAP細胞とは、なんだったのか?

ネイチャー STAP論文を正式取り下げ NHKニュース
世紀の大発見、ノーベル賞級の研究成果として華々しく記者会見が開かれてから5ヶ月。ついにNatureの論文が取り下げられました。ここまできたら本件の大勢は確定したと思うので、簡単に雑感をしるしておきます。

  • 理系と「それ以外」の人たちとの隔絶: 論文の不備、実験ノートの不在など、理系からすれば早々に小保方氏の怪しさが露見してました。しかし理系以外の人たちは、4月の会見の時点でも小保方氏の潔白を信じてるような世論だったのが、個人的には驚きです。「なんかよぉわからんけど、若い女性が涙ながらに訴えて可哀想。イジメはやめろ」って風潮は、とても理解できません…が、この国の大多数はこちら側のようですね。
  • 研究業界、アカデミアへの不信感: Natureに載ったんだから、天下の理研の記者会見だから、早稲田で学位を取得してハーバードに留学してたんだから…という、アカデミアにおける信頼をことごとく粉砕。理研への特別予算は決定直前に白紙に戻され、CDBはセンターごと潰されそうです。小保方氏の学位審査〜理研採用〜ユニットリーダー就任まではともかく、STAP細胞論文の疑義対応がマズすきました。
  • 真面目に頑張ってる研究者への打撃: 博士号を目指して破れていった学生、ポスドクのまま次の職が見つからない・研究費が通らない研究者は、小保方氏を見て忸怩たる思いでしょう。自分も学位を諦めアカデミアを去った身として、氏の学位論文コピペを聞いたときは内心怒り心頭でした。真面目にやってる人が報われるべきとまでは言いませんが、不正を働いた人が報われる業界はいずれ廃れます。有能な研究者から理研に見切りをつけ、有能な学生はアカデミアに近づかなくなるのは、当然の流れでしょう。

つらつらと書きましたが、日本のアカデミアの暗部の結晶が小保方氏のSTAP細胞騒動だったのではないでしょうか。

これは妙なことをおっしゃる

[シカゴから]最先端研究 責任は自身に : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)
理研SRCセンター長の中村先生が妙なコラムを書いてらっしゃいます。実験ノートの重要性の説明会の後に、職員に実験ノートを支給していたのは、中村先生がセンター長をされてた時代だと思うんだけどなぁ…アレがないと特許申請などで支障が出るから必須だという通達は、センター長レベルには届かなかった?あと理研での研究活動は支給されたパソコンのみ、私物禁止ルールもそうだったと記憶してるんだが…小保方氏は両方守ってなかったのは、理研の組織としての責任がないとは言わせません。
小保方氏は、そもそも実験ノートの書き方すら知らなかったらしいのですが…まぁそこは本人の責任(もしくは基礎教育を怠った早稲田の責任)としても、ユニット全体の研究活動をモニタリングする必要性は、理研神戸にあったと思います。それと、副センター長が共著者になる論文のチェックも。

ゲノム、次世代シークエンスとブログの勝利


伝的異常が強く疑われるものの従来の遺伝検査では原因がわからない病気の変異を次世代シークエンス技術・全エクソンシークエンスでかなり高い確率で検出しうることが示されました。
Kids who don't cry: New genetic disorder discovered - CNN.com
オリジナル論文→Clinical application of exome sequencing in undiagnosed genetic conditions. Need AC, et al. Journal of Medical Genetics. 2012 Jun;49(6):353-61.
涙を見せず、無気力で肝臓障害を伴う難病を持つ子の親が、アメリカ中の病院・研究所を訪れるものの診断がつかず、ゲノム解析をしたところ新規の遺伝子変異NGLY1が見つかったというお話です。キモはNGLY1の突然変異が見つかったもののモデル生物でしか先行研究が見つからず、藁にもすがる思いでウェブ検索したところ、同じ遺伝変異を有した子を持つ研究者のブログにたどりついたところでしょうか。ヒトゲノム計画、次世代シークエンスという研究技術の進化も重要ですが、ブログという個々の疾患情報が発信されてなかったら、このケースの医学的発見はなかったと思います。
もちろん、根気強く診断を求め続けた親御さんの努力と、原因をつきとめようとした研究者の尽力も欠かせません。CNNの記事によると、今では同じNGLY1を持つ患者が14人見つかったとか。一世代前だったら「奇病」呼ばわりされたかもしれない病態が少しずつ解明されてきていることは素晴らしいと思います。