テロリストとは誰か?

オサマ・ビン・ラディンは富豪であることがよく知られているが、テロの根底に貧困問題があるという説には、今後なお一層の疑問が投げかけれることになるかもしれない。テロリストたちは、むしろ、平均的な人々よりも特権的階級に所属しているのだと見るのが、統計的には正しい:

  • 75%の反西欧的テロリストは、中流・もしくは上流階級出身である
  • 65%は大学を卒業している
  • 75%は、工学や科学などのプロフェッショナル職に就いているSource:Trading Cricket for Jihad By David Brooks, NYT, Aug. 4th 200 Jihad By David Brooks, NYT, Aug. 4th 2005

こうした数字は、たとえアラブ社会を資本主義に組み込み、彼らにマクドナルドのゴールデンアーチ理論を体得してもらったとしても、テロの撲滅には一向に寄与しない可能性を示唆している。パリやロンドンなど、至るところでテロの萌芽は発育しうるのである。
 こうした、先進諸国内部のコミュニティにおける原理主義者たちの生誕には、いったいどのような背景があるのだろうか? 7・7ロンドンテロ以降、イギリスではこの種の議論が高まっている。
 一般に、宗教観には世代間のギャップが存在すると言われている:古い世代に属する人間はより厳格な規律を要求し、若い世代はより柔軟で開放的な信仰体系を支持する、と。だが、次の調査結果は、この構図の転倒をこそ示唆している。

アメリカのアフガン侵攻後の世論調査では、英国のイスラム教徒のうち、「宗教が彼らのアイデンティティの源泉である」と答えた人間は
35歳以上では30%
35歳以下では41%
であったという。
Source:In the melting-pot The Economist July 23rd 2005

つまり、若い世代のほうが、宗教を自らの生活やアイデンティティの中核的な価値観として措呈する割合が高いのである。この構図は、日本人にとっては既視感を生じさせる:オウム真理教騒動のときも、日本人は、なぜ若い世代の人間が新興宗教にはしるのか訝ったものである。

Take Back The Faith

Korobokkuru2005-08-07

政治の分野でケーススタディになりそうなモデルを考える時、アメリカの二大政党制が参考にされることが多い。現野党の民主党にとって、喫緊の課題は如何にして「信仰を取り戻すか」にある。ホワイトハウスと議会の両方を掌握した共和党は、民主党員たちは信仰心を著しく欠いた異教徒であるかのようにレッテルを貼ることに成功した。
NYTに寄稿された文章の中でJim Willisは、民主党が政権を奪取するための処方箋を幾つか提示している:

  1. 貧困問題と信仰心の問題を結び付けること
  2. 環境問題と信仰心の問題を結び付けること
  3. 中絶問題を隠蔽したり矮小化せず、より広いプラットフォームのもとで解決すること
  4. Pro-familyの政策を打ち出すこと
  5. 外交でアメリカの「信用」を回復すること

Source:The Message Thing, NYT Aug 4, 2005

1つ興味深かったのは、筆者が、platformという単語を政策理念を語る際のキーワードに据えていたことである:個々の各論を、有機的に結び付ける堅固かつ柔軟な思想的土台こそが、求められているというのだ。
 それにしても、日米両国の民主党とも、いまいち不甲斐ないのはなぜだろう。

核兵器

日韓を対象に「安全保障のため米国の核兵器の力に頼ることが必要か」と聞くと、
韓国で「必要」47%と「そうは思わない」48%が並び、
日本でも「必要」39%が「そうは思わない」48%に接近する。
さらに韓国では、52%が今後自国が核兵器を持つことに「賛成」と答えた。核廃絶の理想と、核兵器に頼らざるを得ない現実との隔たりが、あぶり出された形だ
Source:朝日新聞「核保有国、今後増える」 6カ国世論調査で判明 2005年08月05日

日本でも今後、韓国と同様の世論の分裂が生じてくるのかもしれない:核廃絶を目指す平和主義と、核保有を通じての平和主義との衝突が、それである。

Irving Kristol

ポール・クルーグマンが鋭い視点から宗教右派の及ぼすアメリカへの悪影響を論じている:科学でさえも、イデオロギーに左右されてしまうという弊害が、それである。クルーグマン曰く、ネオコンの祖たるアーヴィング・クリストルは、同時に、「インテリジェント・デザイン説」の祖でもあるのだという。インテリジェント・デザインとは、進化論の「最新」学説である;ただしこの学説は、アメリカの一部の学区でしか支持されていないのではあるが。その説曰く、生物の進化は、──ダーウィニズムの主張とは異なって──まったくの偶然によって引き起こされたにしては、あまりに精巧である。では、何がそれを引き起こしたのか? 偶然ではなく、何らかの知能が──「全知全能」の存在者を思わせるような仕方で──生物種の進化を誘発したに違いない、と。
 これは、見事な科学史観の書き換えである。クルーグマン曰く、宗教右派は、この学説を生物学界における主流にしようなどと大それたことを考えているのではない。彼らは、「混乱Confusion」を生じさせ、人々に一抹の疑念を与えることをこそ意図しているのだという。迷いが生じれば、既存のダーウィニズムを論難する素地が整い、ひいては、自勢力への引き込みが容易になるというわけだ。
 こうした学説とネオコンとをクルーグマンが結び付けたのは、次のような意図があってのことだ:サプライサイド経済学への熱烈な支持、予防的先制攻撃の論理などが、何の根拠もなく主張され、主流になってしまったのと同様、われわれはこのインテリジェント・デザイン説に鹹め取られつつあるのかもしれない、このことに警鐘を鳴らす意味が込められている。
Source:August 5, 2005/Design for Confusion
cf:The Economist/The peopling of the Americas /The plot thickens/Jul 14th 2005
このThe Economistの記事は、アメリカ人が──コロンブス到来以前のAmerindian、つまり先住民たちが──いったいどこからやってきたのかについても、科学史の書き換えが起ころうとしていることに注目している。

  • In common with some other faiths, Amerindian religions preach creation rather than evolution. One consequence is that many tribes believe they and their ancestors have occupied the same places since the dawn of time.
  • These ancestral humans[・・・]coasted around the northern Pacific Ocean over the course of several millennia. [One reseacher]suggests, on the basis of their anatomy, that they came from a homeland somewhere in the vicinity of South-East Asia.

江戸期の公吏

江戸中期は、アジア史では異常な社会だった。封建制をとりつつも、同時に沸騰した商品経済をあわせもっていた。[・・・]官吏・公吏の人数がこれほど過剰な社会は世界史になかった。
 はるかな後年、[・・・]明治六年(一八七三年)現在の士族の数は、戸数にして四十万八千余戸、人数にして百八十九万二千余人である。この人数を、江戸時代に遡及させていい。:46

人間の思考が神学的価値観から解放されたときに、近代がはじまる。:43

 日本は商人国家などと、わりあい自虐的に語られますが、歴史的に日本の商人は十分に魂の入った存在でした。
 その商人国家のリアリズムに基づいて、日本にとって困難の多い国際問題の交渉のなかで、その状況、状況で自らを慰め、相手に訴え、素晴らしいレトリックを生み出すべきです。[・・・]政府が主張するレトリックも工夫すべき[・・・]もっと魅力的なレトリックで説明してほしいものですね。:263-264
Source:『この国のかたち 四』

America's religious right

Korobokkuru2005-08-05

アメリカの宗教右派の影響力の測定を、The Economist誌は客観的に行っている:

  • Liberals regularly contend that one of America's two great parties is bent on creating a theocracy—backed by a solid core of somewhere between a quarter and a third of the population
  • Most Americans say that religion is very important (60%) or fairly important (26%) in their lives, but Karlyn Bowman, a polling analyst at the American Enterprise Institute, points out that the figures were 75% and 20% in 1952.
  • The generally liberal mainline churches have declined, while harder outfits like the Southern Baptists have spurted forward. White evangelicals, who see the Bible as the literal truth (or darned close to it), now make up 26% of the population[of the Protestant America]
  • There are some 25m black evangelicals, who seem to be moving slightly more to the right; and new immigrants, too, provide plenty of recruits. Larry Eskridge, of the Institute for the Study of American Evangelicals at Wheaton College, guesses there may be 8m Latino evangelicals. A huge number of Asian-Americans are fervent Christians, too.
  • A Zogby poll last November put the national figure for “religious traditionalists” at 29%, but they accounted for 58% of RepublicansSource:America's religious right:You ain't seen nothing yet, Jun 23rd 2005

上の分析によると、宗教右派は言われているほど『白い』というわけではない:むしろ彼らは、黒人やラティーノアジア系アメリカ人や移民たちからの支持をとりつけているのだ。白人以外の層は従来、熱烈な民主党支持者であるのが常だったが、いまやその構図は崩れつつある。 また、共和党支持者のうちでの伝統的な宗教右派層の比率が高まっていることが伺える。いまや、半数以上の共和党支持者は、宗教的動機ゆえの政党支持であることが明らかになっている。
 興味深いのは、アメリカ人全体が宗教回帰を経験しているのではない、という箇所である。曰く、50年前に行われた調査の時点で、宗教が「とても重要」だと答えた人の割合は8割に迫っていたが、現在では6割に過ぎない。
 であれば、政権が宗教重視の方針を打ち出さざるをえないのは、政治的影響力の強い富裕層が戦略的かつ成功裡に指導者を輩出していることを示しているのではないだろうか。

教科書問題

日本でも自治体レベルでつくる会の教科書が採択されるなど、イデオロギーや党派性をどこまで教育に反映させることが許容されるべきなのか、論議の機運が高まりつつある。
アメリカでも、教科書・カリキュラム問題の議論が生じている:キリスト教的な価値観を、どこまで子供に学校で教えるべきなのか、世論が割れているのだ。
テキサス州では、2006年の学校カリキュラムに聖書学習の課程を導入することがOdessaの委員会で決定されたという。同様のBible Curriculumは、いまや17万5000人の生徒、312の学区、37州で使われている(Source: NYT Bible Course Becomes a Test for Public Schools in Texas, Aug 1, 2005)。
この聖書カリキュラムに批判的な陣営は、次のような活動を反論の矛先に据えている:【1】カリキュラム上の「間違い」を指摘する;【2】政教分離の原則を主張する。
この二つは、現在の日本の靖国問題で参拝反対派が拠って立つ論拠とまったく同一のものである。参拝擁護派の歴史観が「間違って」いるとか、政治指導者が特定の宗教施設に参拝すべきではないといった類の、巷間に溢れた議論がそれである。
私は、この反対派の反論の仕方では──日米両社会において──反対派の敗北が約束されてしまうのではないかと危惧している:なぜなら、賛成派が「間違っていてもいいじゃないか/絶対的に正しい価値観に基づいた教育など可能なのか」と開き直る戦略に出た時に、反対派は応戦の弾薬をすでに消耗しきってしまっているからである。