::: BUT IT'S A TRICK, SEE? YOU ONLY THINK IT'S GOT YOU. LOOK, NOW I FIT HERE AND YOU AREN'T CARRYING THE LOOP.

 [ABOUT LJU]
 [music log INDEX] 
 

Lost Souls Of Saturn “Reality” (2024)



Realization


 デトロイトの Seth Troxler とニューヨークの Phil Moffa によるユニットの5年ぶりの2ndアルバム。全8曲、45分。
 強弱併せ持つビートでうねるグルーヴにコズミックなシンセ・サウンド、そこにトランペット、ギター、シタールといった生楽器、そしてヴォーカルがゲスト・ミュージシャンによって添えられる。
 アルバムの頂点は Lvv Gvn の流麗なヴォーカルをフィーチャーした M-5 “Click”。その他、ホーンを伴うダブ・サウンド M-2 “Scram City”、ノイジーで不穏な M-6 “Metro Cafe”、Adam Ohr が印象的なフレーズを繰り返す M-7 “Mirage” など。
 それなりに変化のある曲構成だけど、曲間がシームレスなこともあって、全体としてエレクトロニック・ミュージックの上質なアルバムにまとまっている。



Lost Souls Of Saturn
Information
  Years active  2017 -
  Current members  Seth Troxler, Phil Moffa
 
Links
  Officialhttps://lostsoulsofsaturn.com/
    bandcamp  https://lostsoulsofsaturn.bandcamp.com/album/reality
    instagramhttps://www.instagram.com/lostsoulsofsaturn/
  LabelHoloverse Research Labs  https://holoverseresearchlabs.bandcamp.com/

ASIN:B0CS6YBB9G


遠藤健一 “物語論序説 〈私〉の物語と物語の〈私〉”



物語論 (ナラトロジー) の主たる流れに従って、非言語的な物語より言語的な物語を対象としており、なかでも特に 「一人称の物語テクスト」(物語論の用語で言うと 「等質物語世界的物語テクスト」) を扱う。
部分的には、エクフラシスというかたちで絵画に関連する物語も扱われている。
全6章+補論から成り、1〜3章が理論編、4章〜6章と補論が実践編。

  • ポイント
      • 語るということは、物語る世界の外側に立つことに他ならない。
      • 語るということは、「語る〈私〉」(=潜在的な一人称の語り手) を不可欠に伴うことになる。
      • どの登場人物の視点が語りのパースペクティブを方向づけているのかという問題と語り手は誰なのかという問題はまったく別であり、区別すべきである。

続きを読む

2023年のアルバム10枚


2023年に銘記しておくアルバム10枚。順不同。



 Aunty Rayzor “Viral Wreckage” 〈Hip Hop〉

Never
アフロビートで繰り出される英語/ヨルバ語のラップ。
→see. https://lju.hatenablog.com/entry/2023/09/18/210418
 

 Noname “Sundial” 〈Hip Hop〉

boomboom [Explicit]
今年かなり聴いた。社会問題に意識的なシカゴの詩人/ラッパー。それだけに Jay Electronica の参加曲があるのが残念なところで、実際、本人の反応も含めて物議を醸した。
一方で $ilkMoney/billy woods/STOUT との M-10 “gospel?” や Common/Ayoni との M-11 “oblivion” などはコラボレーションとして順当な良曲だし──総合的に見ると何とも危ういバランスのアルバム。
 

 Kelela “Raven” 〈Pop / R&B〉

Raven
黒人/女性/クィアであるとはどのようなことかを思考しながらR&Bとエレクトロニック・ミュージックを融合させたアルバム。
M-7 “Contact” の浮遊感が崇高。
 

 a.s.o “a.s.o” 〈Electronica / Trip Hop〉

a.s.o.
4ADライクでアンニュイ/ドリーミーなトリップホップ。
M-3 “Rain Down”、M-5 “Love in the Darkness” など。
 

 Tirzah “trip9love...???” 〈Electronica / Pop〉

No Limit
低音の歌声とピアノ、歪んだ粗い仕上がりの音響。
M-3 “u all the time”。
 

 Sleaford Mods “UK GRIM” 〈Post Punk〉

UK GRIM [輸入盤CD] (RT0391CD)_1692
UKワーキング・クラスのアティチュードで突進するポストパンク。
→see. https://lju.hatenablog.com/entry/2023/03/26/194730
 

 Squid “O Monolith” 〈Post Punk / Rock〉

O Monolith
Warp からのリリース。Tortoise の John McEntire によるミキシング。
M-1 “Swing (In a Dream)” の導入部がとてもよい。あとは M-5 “The Blades”、M-7 “Green Light” とか。
 

 H31R “HeadSpace” 〈Experimental / Electronica / Hip Hop〉

HeadSpace [Explicit]
プロデューサー JWords とラッパー Maassai によるブルックリンを拠点とするユニット。
エレクトロニックだけどパーカッシブなトラックと、抑えたラップ。

 Loraine James “Gentle Confrontation” 〈Experimental / Electronica〉

Gentle Confrontation
Hyperdub からのリリース。Black Midi の Morgan Simpson による生ドラムと共演する M-7 “I DM U” が秀逸。
 

 Nondi_ “Flood City Trax” 〈Experimental / Electronica〉

Flood City Trax
先鋭性がある。実験的ジューク/フットワーク。
特に M-3 “Sun Juke”、M-6 “01-25-2022”。
 


 

“大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ” 2023.11.01. - 2023.12.25.



大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ
 国立新美術館




 国立新美術館で開催。
 ここは多数の展示室を持つ巨大な美術館なのでいつも雑多な展示をやっているイメージがあるけど、ちょうど日展とイヴ・サン・ローラン展も開催されていて、脈絡のなさがいつにも増して際立っていた。それぞれを訪れる客層がけっこう違っていたと思うのだが、そうした人々が雑然と混合して1階のロビーとカフェに溢れている状態がわりとカオスだった。

 目玉は最初に待ち構える《Gravity and Grace》と、暗闇の部屋で展開される《Liminal Air Space》で、どちらもアートスペースの大きさを活かしたインスタレーション。
 最近は美術館での写真撮影も認められることが多くなってきていて、この展覧会も全面的に撮影可だった。《Gravity and Grace》も写真を撮る人が目立っていたけれど、写真を媒体に体験共有が広がることは意義があると思う。一方、《Liminal Air Space》は写真が撮りづらい作品なので、現地で体験しないとなかなかわからない価値がある。
 この展覧会は無料なので、他の展示を見に来た客がついでに覗いていきやすい閾の低さがあるが、そうした偶然的な観客も含めて「おもしろいものを見た」という声と写真が拡散して集客性が働きそうな仕組みが成り立っている気がする。

 大巻伸嗣(1971年岐阜県生、神奈川県在住)は、「存在するとはいかなることか」という問いを掲げ、身体の感覚を揺さぶるような大規模なインスタレーションを創り出してきた現代美術家です。大巻は、そうしたスケールの大きな創作を、日本はもとより、アジアやヨーロッパなど世界各国で発表し、高い評価を得てきました。また、地域を活性化するアート・プロジェクトから舞台芸術まで、多くの人々と協働して空間を変容させるさまざまな現場でも比類のない資質を発揮しています。[ … ]
 本展覧会は、国立新美術館で最大の、天井高8m、2000m²にも及ぶ展示室をダイナミックに使って開催されます。この広大な空間でなければ展示できないインスタレーションは、観客の身体的な感覚と強く響き合い、細分化した世界に生きる私たちが失った総合的な生の感覚を喚起することでしょう。展示には、映像や音響、そして詩も用いられるほか、会場内でのパフォーマンスも予定されています。大巻が創り出す、現代の総合芸術をお楽しみいただければ幸いです。
大巻伸嗣 Interface of Being 真空のゆらぎ 企画展 国立新美術館



f:id:LJU:20231126175429j:image:h260:left

《Gravity and Grace》
 光と影を投げかける巨大な花瓶。透過する花柄模様でできていて、本来想定される中身が器に投影されているような図式。
 天井の高さ、部屋の幅・奥行きのサイズ感・プロポーションがしっくりくる。


f:id:LJU:20231126175648j:image:w150:leftf:id:LJU:20231126175901j:image:w150:leftf:id:LJU:20231126175737j:image:w150:left
f:id:LJU:20231126175725j:image:w150:leftf:id:LJU:20231126175700j:image:w150:leftf:id:LJU:20231126193646j:image:w150:left

《Liminal Air Space》
 微かな月明かりを浴びて浜辺へ打ち寄せる波。
 暗闇のなかで黙って波を眺めるという体験をまわりの観客と共有することまでが作品の一部となっている。


f:id:LJU:20231126175402j:image:h260:left

《Linear Fluctuation》
小さな細長い廊下の左右に連続する絵と正面突き当たりの一枚。
横方向が強調される画面構成とさまざまな色彩が、次のパートへつながる予兆として作用している。


f:id:LJU:20231126175419j:image:h260:left

《Rustle of Existence》
テクストはない方がいいと思ったけど、視野いっぱいのスクリーンを森林が埋め尽くす映像はよかった。


f:id:LJU:20231126175410j:image:h260:left

《影向の家》のためのドローイング
越後妻有アートトリエンナーレ2015で発表された《影向の家》のためのドローイング。





 

“ザ・クリエイター/創造者”






“The Creator”
 Director : Gareth Edwards
 US, 2023


 AIとの戦争が続く近未来を舞台にした物語で、『ローグ・ワン』の監督ギャレス・エドワーズによるSF映画。

 まず、冒頭で出てくる軌道要塞 USS NOMAD の造形と地上をスキャンする独特のムーブメントにやられた。
 それから、スキャニングの光に先導されながら輸送機が侵攻するときに Radiohead の “Everything In Its Right Place” がかかるシーンも、あぁ、いまSF映画を見ているんだ…ということを強く実感させられる。なぜいまこの曲…?と思いつつ、センスなのか単なる好みなのか、とにかく意志をもって選曲しているというのが伝わって、気分が盛り上がる。航空機による小部隊の敵地侵入シーンにこの系統の曲って、意外な組み合わせだけどとても良い。
 その後のロードムービー的展開では、東南アジアの日常風景のなかにロボットや乗り物や機械的な巨大構造物が自然に溶け込んでいる様子が Simon Stålenhag とか Jakub Rozalsk のイラストみたいなテイストだったりして、とにかくSF的な絵が延々と続いていく贅沢な映画。
 後半で出る山岳地帯の寺院などは、ひとつの絵として、いまある数多の漫画やアニメを含めたなかで見てもトップクラスだと感じた。

 アジア要素の強調は、日本語がフィーチャーされるディスプレイ表示や街頭の広告物、映画テロップなどにも現れていて、際どくチープな印象もあるんだけど『ブレードランナー』のただしい踏襲と受け取るべきなのかもしれない。実際、アジアの猥雑な近未来都市を舞台に、身体も精神も人間と見紛う “シミュラント” を据えたストーリーという点では『ブレードランナー』を現代的に刷新したような感じもある。異種同士の主人公ペア、常に空中で存在感を放つ浮遊構造物といった要素からは『第9地区』を思い起こすものがあるし、“Alpha O” が封印されているところは『AKIRA』のようだし……といったように、過去のSF映画から影響を受けている節が随所に見える。あとは、Nirmataの探求、米軍の蹂躙とかは『地獄の黙示録』か。

 ストーリー自体はシンプルだけど、それでいて「天国」だとか「オン/オフ」だとかのキーワードの扱い方がそれぞれ構成的に整理されてるし、死の直後の脳をスキャンするというイーガン作品にも出てくるような装置と寄付された分身のシミュラントというものを伏線にして最後のシーンにつながる──という組み立て方もよくできている。
 最後なんかいかにも『ローグ・ワン』撮った監督だな…っていう感じではあるんだけど、でも自分としては『ローグ・ワン』好きだし、この映画の終わり方にもすっかり満足してしまった。



 

IMDb : https://www.imdb.com/title/tt11858890/

Aunty Rayzor “Viral Wreckage” (2023)



Never



 ナイジェリアのラゴスで活動するアーティスト。ネオ・バイレやトラップ、ドリルなどのトラックにヨルバ語と英語のパワーあるラップを乗せる。
 ウガンダのレーベル Hakuna Kulala からのリリースで Debmaster や Scotch Rolex がトラックを提供する女性ラッパー、というと、今年4月に “Yallah Beibe” をリリースした MC Yallah が思い起こされるけれど、キャリアの長い MC Yallah と比べると Aunty Rayzor はまだだいぶ若い。
 このデビューアルバム "Viral Wreckage" に参加しているのは DJ Cris Fontedofunk、Scotch Rolex、Debmaster、Kabeaushé といったように世界のさまざまなプロデューサーたち。ナイジェリアのラップ/アフロビートがグローバルなアンダーグラウンド・シーンとつながって影響し合う様子は、アフリカ随一の都市ラゴスが巨大に成長し、伝統と発展が混ざり合って膨張していく姿に重なる。


Aunty Rayzor
Information
  Birth name  Bisola Olungbenga
  Current Location   Lagos, Nigeria
 
Links
  Official
    SoundCloud  https://soundcloud.com/auntyrayzor
    instagram  https://www.instagram.com/auntyrayzor/
  LabelHakuna Kulala  https://hakunakulala.bandcamp.com/album/viral-wreckage

ASIN:B0CC6Q1RBN


“TAR/ター”






“Tár”
 Director : Todd Field
 United States, Germany, 2022


 当代のクラシック界で栄誉の頂点にある指揮者リディア・ターという人物を主人公に据え、彼女が次第にその栄光から転落していく様を、ケイト・ブランシェットの鬼気迫る熱演で描く映画。
 女性主人公の名前を冠し、主演の演技力が大きな魅力となっている映画という点で、ジェシカ・チャステイン主演の “Miss Sloane(邦題:女神の見えざる手)” に似ている。

 物語の軸は明瞭だが、2時間半以上の長さのなかに謎や仄めかしが散りばめられ、決して固定した解釈が導かれない。
 最初見ただけではよくわからず、二度目以降に気づく発見がいろいろある。

 セクハラ/パワハラ、ジェンダー/セクシュアリティ、キャンセルカルチャーなどの現代的イシューが詰まった映画ではあるけれど、それらの扱い方という面では少なからず問題含みなところがある。クラシック界をリアリティをもって描ききれているかという点にも疑問符が付く。
 そのようにもったいない欠点はあっても、全体としては鑑賞者を引き込む力がある。
 一度この映画を見ると、もう一度見て細部を確認したくなる。理解することを誘導させられるような遡及性のある映画。



以下は覚え書き

続きを読む





music log INDEX ::

A - B - C - D - E - F - G - H - I - J - K - L - M - N - O - P - Q - R - S - T - U - V - W - X - Y - Z - # - V.A.
“でも、これはごまかしよ、ね。つかまったと思ってるだけ。ほら。わたしがここに合わせると、あなたはもうループを背負ってない”
―Angela Mitchell