東浩紀著『訂正する力』(2023)

 

ひとは誤ったことを訂正しながら生きていく。

哲学の魅力を支える「時事」「理論」「実存」の三つの視点から、現代日本で「誤る」こと、「訂正」することの意味を問い、この国の自画像をアップデートする。

デビュー30周年を飾る集大成『訂正可能性の哲学』を実践する決定版!

聞き手・構成/辻田真佐憲 帯イラスト/ヨシタケシンスケ

保守とリベラルの対話、成熟した国のありかたや老いの肯定、さらにはビジネスにおける組織論、日本の思想や歴史理解にも役立つ、隠れた力を解き明かす。それは過去との一貫性を主張しながら、実際には過去の解釈を変え、現実に合わせて変化する力――過去と現在をつなげる力です。持続する力であり、聞く力であり、記憶する力であり、読み替える力であり、「正しさ」を変えていく力でもあります。そして、分断とAIの時代にこそ、ひとが固有の「生」を肯定的に生きるために必要な力でもあるのです。

第1章 なぜ「訂正する力」は必要か
第2章 「じつは……だった」のダイナミズム
第3章 親密な公共圏をつくる
第4章 「喧騒のある国」を取り戻す

 

森本光「レーマンによるヒッチコック――『北北西に進路を取れ』のダイアローグ分析」『映像学』2024 年 111 巻 p. 28-46

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本稿は、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画『北北西に進路を取れ』(1959)について、この作品のオリジナル脚本を手がけたアーネスト・レーマンの仕事を評価しつつ、そのダイアローグの言語的な地平に光を当てようという試みである。従来、ヒッチコック作品は、監督の「純粋映画」の主張のために、その視覚的表現に主に焦点が当てられ、ダイアローグや言語的側面はあまり注目されることがなかった。しかし、作家主義の概念の見直しが進むにつれ、近年では、ヒッチコック映画にたずさわった脚本家たちの仕事が脚光を浴びるようになってきている。したがって、この文脈をふまえて、本稿は『北北西に進路を取れ』におけるダイアローグについて検討し、そこに見出される言語にまつわる問題について考察している。この映画のナラティヴでは、冷戦を背景とするスパイ・スリラーのプロットと、メイン・キャラクターであるロジャー・ソーンヒルの自己形成のドラマのプロットが同時に進行する。後者のドラマのプロットでは言語の問題が重要なテーマとなっており、その主題は、映画全編にわたって展開されている。本稿では、「ヒッチコック・純粋映画・映像」から「レーマン・ダイアローグ・言語」へと視点を変えて眺めることで、この映画の従来とは異なる見方を提示する。

 

藤田正勝著『日本哲学入門』(2024)

 

西洋哲学と出会って150年、日本の哲学者たちは何を考え、何を目指してきたのか。日本哲学のオリジナリティに迫る、第一人者による入門書の決定版!

【本書のおもな内容】
・日本最初の哲学講義はいつ行われた?
・「哲学」という呼び名はこうして生まれた
西田幾多郎の「純粋経験」を知る
・経験と言葉のあいだにあるもの
・言葉の創造性を考える
・人間の生のはかなさと死に迫る
・心によって生かされた身体とは
田辺元が生み出した「種の理論」
・「自然」という言葉の歴史
和辻哲郎の「風土論」
・美とは何か、芸術とは何か
・移ろうものと移ろわぬもの
・光の世界と闇の世界

第1講「日本の哲学」とは/第2講 哲学の受容第/3講 経験/第4講 言葉/第5講 自己と他者/第6講 身体/第7講 社会・国家・歴史/第8講 自然/第9講 美/第10講 生と死

88 山内得立

109 上田閑照

112 坂部恵

158 市川浩『精神としての身体』1975『〈身〉の構造』1984

162 中村雄二郎「共通感覚」論

164 湯浅泰雄

233 深田康算『美と芸術の理論』

234 岩城見一

光瀬龍著『百億の星と千億の夜』(1973)

 

西方の辺境の村にて「アトランティス王国滅亡の原因はこの世の外にある」と知らされた哲学者プラトンは、いまだ一度も感じたことのなかった不思議な緊張と不安を覚えた……プラトン、悉達多、ナザレのイエス、そして阿修羅王は、世界が創世から滅亡へと向かう、万物の流転と悠久の時の流れの中でいかなる役割を果たしたのか?――壮大な時空間を舞台に、この宇宙を統べる「神」を追い求めた日本SFの金字塔。

 

トーマス・パー, ジョバンニ・ペッツーロ, カール・フリストン著, 乾敏郎訳『能動的推論 ー心、脳、行動の自由エネルギー原理』(2022)

 

ヒトにおける知覚、認知、運動、思考、意識…それぞれの仕組みの解明に向けた研究が進む中、それらをたった1つの原理で説明する画期的な理論が世界的に大きな注目を集めている。
――著者の一人、神経科学者フリストンが提起した「自由エネルギー原理」である。本書ではこの原理の意義を強調しながら、我々が生きる世界についての不確実性を解消する「能動的推論」を解く。認知的現象を統一的に説明した、今までにない新たなモデルを提供する書。

序 文
凡 例


 第Ⅰ部

1 序 章
  1.1 はじめに
  1.2 生物はどのようにして生存し,適応的に行動するのか?
  1.3 能動的推論:第一原理から行動を考える
  1.4 本書の構成
  1.5 まとめ

2 能動的推論への常道
  2.1 はじめに
  2.2 推論としての知覚
  2.3 生物の推論と最適性
  2.4 推論としての行為
  2.5 モデルと世界の間のずれを最小化する
  2.6 変分自由エネルギーの最小化
  2.7 期待自由エネルギーと推論としての行動計画
  2.8 期待自由エネルギーとは何か
  2.9 常道の終わりに
  2.10 まとめ

3 能動的推論への王道
  3.1 はじめに
  3.2 マルコフ・ブランケット
  3.3 サプライズの最小化と自己証明
  3.4 推論,認知,および確率的ダイナミクスの関係
  3.5 能動的推論:行動と認知を理解するための新しい基盤
  3.6 モデル,ポリシー,および軌道
  3.7 能動的推論のもとでのエナクティブ理論,サイバネティクス理論,予測理論の統合
  3.8 能動的推論:生命の誕生から主体性まで
  3.9 まとめ

4 能動的推論の生成モデル
  4.1 はじめに
  4.2 ベイズ推論から自由エネルギーまで
  4.3 生成モデル
  4.4 離散時間の能動的推論
  4.5 連続時間の能動的推論
  4.6 まとめ

5 メッセージパッシングと神経生物学
  5.1 はじめに
  5.2 微小回路とメッセージ
  5.3 運動指令
  5.4 皮質下構造
  5.5 神経修飾と学習
  5.6 連続的な階層と離散的な階層
  5.7 まとめ


 第Ⅱ部

6 能動的推論モデルを設計するためのレシピ
  6.1 はじめに
  6.2 能動的推論モデルの設計:4段階のレシピ
  6.3 どんなシステムをモデリングしているのか?
  6.4 生成モデルの最も適切な形とは
  6.5 どのように生成モデルを設定するか?
  6.6 生成プロセスの設定
  6.7 能動的推論を用いたデータのシミュレーション,可視化,分析,フィッティング
  6.8 まとめ

7 離散時間の能動的推論
  7.1 はじめに
  7.2 知覚処理
  7.3 推論としての意思決定と行動計画
  7.4 情報探索
  7.5 学習と新規性
  7.6 階層的推論または深い推論
  7.7 まとめ

8 連続時間の能動的推論
  8.1 はじめに
  8.2 運動制御
  8.3 ダイナミカルシステム
  8.4 一般化同期
  8.5 ハイブリッド(離散および連続)モデル
  8.6 まとめ

9 モデルベースのデータ分析
  9.1 はじめに
  9.2 メタベイズ
  9.3 変分ラプラス
  9.4 パラメトリック経験ベイズ法(PEB)
  9.5 モデルベースの解析手順
  9.6 生成モデルの例
  9.7 誤推論のモデル
  9.8 まとめ

10 感覚状態に反応する行動の統一理論としての能動的推論
  10.1 はじめに
  10.2 これまでのまとめ
  10.3 点をつなぐ:能動的推論の統合的視点
  10.4 予測する脳,予測する心,そして予測処理
  10.5 知 覚
  10.6 行為の制御
  10.7 効用と意思決定
  10.8 行動と限定合理性
  10.9 感情価,情動,モチベーション
  10.10 ホメオスタシス,アロスタシス,内受容処理
  10.11 注意,顕著性,認識的ダイナミクス
  10.12 規則学習,因果推論,および高速の般化
  10.13 能動的推論と他の分野:未解決の問題
  10.14 まとめ


補遺A-数学的背景
  A.1 はじめに
  A.2 線形代数
  A.3 テイラー級数近似
  A.4 変分法
  A.5 確率的ダイナミクス

補遺B-能動的推論の方程式
  B.1 はじめに
  B.2 マルコフ決定過程
  B.3 (能動的)一般化フィルタリング

補遺C-注釈付きMatlabコードの例
  C.1 はじめに
  C.2 予備知識
  C.3 尤 度
  C.4 遷移確率
  C.5 事前選好と初期状態
  C.6 ポリシー空間
  C.7 まとめよう
  C.8 シミュレーションとプロッティング

注 記
引用文献
訳者あとがき
索 引

 

トマス・M・ディッシュ著,浅倉久志,小島はな訳『SFの気恥ずかしさ』(2005=2022)

 

『歌の翼に』『いさましいちびのトースター』の奇才トマス・M・ディッシュのSF評論集、ついに登場!

SFの限界と可能性を論じた名講演「SFの気恥ずかしさ」をはじめ、新世代SF作家を批判してジョージ・R・R・マーティンに反論された伝説的評論「レイバー・デイ・グループ」、書評家として燃やすべき本について舌鋒鋭く語った「聖ブラッドベリ祭」、ディック作品に対する愛にあふれる『偶然世界』序文、そしてエイリアンに誘拐された体験記の書評が奇想天外な展開を見せる「ヴィレッジ・エイリアン」など、技巧とユーモアに満ちた書評・エッセイを集成。『歌の翼に』『アジアの岸辺』で知られるSF作家ディッシュの卓越した批評家としての面を堪能できる傑作SF評論集。〈ディッシュの文章には磨かれた知性があり、ユーモアがある〉若島 正(本書解説より)

*本書で取り上げられている作品(一部)
A・E・ヴァン・ヴォークト『非Aの世界』/ノーマン・スピンラッド『鉄の夢』/ウェルズ『モロー博士の島』/ポー「ベレニス」/ジーン・ウルフ新しい太陽の書〉四部作/ウィリアム・バロウズ裸のランチ』/バラード「夏の人食い人種たち」/オルダス・ハクスリーすばらしい新世界』/レイ・ブラッドベリ「黒い観覧車」/アーサー・C・クラーク『楽園の泉』/アーサー・C・クラーク2010年宇宙の旅』/アイザック・アシモフファウンデーションの彼方へ』/カート・ヴォネガットガラパゴスの箱舟』/スティーヴン・キング『恐怖の四季』/スティーヴン・キング『ペット・セマタリー』/フィリップ・K・ディックヴァリス』/ルーディ・ラッカー『ホワイト・ライト』/グレゴリイ・ベンフォード『タイムスケープ』/フィリップ・K・ディック『ゴールデン・マン』/ヴォンダ・マッキンタイア「霧と草と砂と」/ロバート・A・ハインライン『フライデイ』/『夜のエンジン』/L・ロン・ハバードバトルフィールド・アース』/フィリップ・K・ディック『ティモシー・アーチャーの転生』/ジョン・クロウリー『エヂプト』/ジョン・クロウリー『エンジン・サマー』/ジーン・ウルフジーン・ウルフの記念日の本』/ウィリアム・ギブスンモナリザ・オーヴァドライヴ』/ウィリアム・ギブスン『ヴァーチャル・ライト』/ウィリアム・ギブスンブルース・スターリングディファレンス・エンジン』/フィリップ・K・ディック『偶然世界』/フィリップ・K・ディック『最後から二番目の真実』/ホイットリー・ストリーバー『コミュニオン――異星人遭遇全記録』/ピーター・ワシントン『神秘主義への扉――現代オカルティズムはどこから来たか』/ロバート・A・ハインライン『自由未来』/『未知との遭遇』/ホイットリー・ストリーバー『宇宙からの啓示――異星人遭遇記録』/ピーター・アクロイド『原初の光』/ジョン・バース『船乗りサムボディ最後の船旅』/ウィリアム・S・バロウズ『シティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイト』

第一部 森
SFの気恥ずかしさ 
イデア――よくある誤解 
神話とSF
壮大なアイデアと行き止まりのスリル――SFのさらなる気恥ずかしさ

第二部 祖先たち
ポーの呆れた人生 
墓場の午餐会――ゴシックの伝統におけるポー 
すばらしい新世界』再再訪 
テーブルいっぱいのトゥインキー 
原文ママ、ママ、ママ 
天国へのバス旅行 
宇宙の停滞期 
アイザック・アシモフ追悼 
世代の溝を越えたジョーク 
時間、空間、想像力の無限性――そしてとびっきりの筋肉 

第三部 説教壇
王(キング)とその手下たち――〈トワイライト・ゾーン〉書評担当者の意見
エスとの対話 
レイバー・デイ・グループ 
一九七九年――綿くずと水の泡 
ブラッドベリ祭 

第四部 選ばれし大きな樹
違った違った世界
クロウリーの詩
ウルフの新しい太陽
サイバーパンクのチャンピオン-――ウィリアム・ギブスンの二作品について
ヴィクトリア女王のコンピューター
ディックの最初の長篇
一九六四年にならえ

第五部 狂った隣人たち
ヴィレッジ・エイリアン
UFOとキリスト教の起源
SFという教会
まだ見ていない事実の確認
天国への道――SFと宇宙の軍事化
月光の下院議長―ニュート・ギングリッチの未来学参謀
未知との遭遇』との遭遇
最初の茶番

第六部 未来のあとで
生ける死者の日
おとぎの国バグダッド
SF――ゲットーへの案内
川を越えて、森を抜けて
首吊りの方法
天才キッズの秘密の暗号
とんちんかん、ちんぷんかん、ちちんぷいぷい

解説 若島正
訳者あとがき
索引

 

岡奈津子著『〈賄賂〉のある暮らし ー市場経済化後のカザフスタン』(2019)

 

ほんとうの豊かさとは?
1989から30年、市場化が問いかけるもの

ソ連崩壊後、独立して計画経済から市場経済に移行したカザフスタン。国のありかたや人びとの生活はどのような変化を遂げたのだろうか。

豊かさを追い求めた、この30年……

1991年のソ連崩壊後、ユーラシア大陸の中央に位置するカザフスタンは、独立国家の建設、計画経済から市場経済への移行という、大きな変化を潜り抜けてきた。その過程で、国のありかたや人びとの生活はどのような変化を遂げてきたのだろうか。
豊富な資源をもとに経済発展を続けるカザフスタンは、いまや新興国のなかでも優等生の一国に数えられる。
独立前からカザフ人のあいだにみられる特徴のひとつに「コネ」がある。そして、市場経済移行後に生活のなかに蔓延しているのが、このコネクションを活用して流れる「賄賂」である。経済発展がこれまでの人びとの関係性を変え、社会に大きなひずみが生じているのだ。
本書は、市場経済下、警察、教育、医療、ビジネス活動など、あらゆる側面に浸透している「賄賂」を切り口に現在のカザフスタンをみていく。賄賂は多かれ少なかれ世界中の国々でみられる現象だが、独立後のカザフスタンは、それが深刻な社会問題を生み出している典型的な国のひとつである。
ここから見えてくるのは、人びとの価値観の変容だけでなく、ほんとうの「豊かさ」を支える社会経済システムとはどのようなものかという問題だ。豊かさを追い求めた、この30年の軌跡。

プロローグ 〈賄賂〉を見る眼

第1章 中央アジア新興国カザフスタン
一 国土と住民
二 ナザルバエフ政権の功罪
三 民族と言語
四 人びとの暮らし

第2章 市場経済化がもたらしたもの
一 計画経済から市場経済
二 変化するライフスタイル
三 コネとカネの使い分け
四 カザフ人の親族ネットワーク

第3章 治安組織と司法の腐敗
一 警察とのつき合い方
二 買われる正義
三 兵役と青年
四 腐敗の構造

第4章 商売と〈袖の下〉
一 ビジネスの実態
二 なぜ賄賂を払うのか
三 住宅問題
四 ビジネスと非公式ネットワーク

第5章 入学も成績もカネしだい
一 変わる教育
二 大学と「市場原則」
三 学校と保育園
四 腐敗の再生産

第6章 ヒポクラテスが泣いている
一 医療システムの変容
二 賄賂か謝礼か
三 命の沙汰もカネしだい
四 医療をめぐる現実

エピローグ 格差と腐敗

註記
あとがき
初出一覧
附録
索引