セッケイカワゲラ

セッケイカワゲラ

セミナーの途中で溶岩の先を見に行くということで向かった先。もう5月になろうかというのに、弁当を食べる予定だった草原は、まだ雪で覆われていた。仕方ないので雪のないアスファルトの上に座り込んで昼食に。雪景色もそれなりに風情がある。


弁当を食べ終わって話していると、誰かが雪の上にあるく黒いものを見つけて興奮しているのが目に付いた。どうやら雪の上に動き回っている虫がいるらしい。近づいてみせてもらうと、雪上に生きる昆虫、セッケイカワゲラEocapnia nivalisの仲間だった。大きさ1cmぐらい。話には聞いていたが、本物をみるのは初めてだ。よく見ると他のカワゲラ(クロカワゲラやオナシカワゲラ)も雪の上を歩きまわっている。クロカワゲラやオナシカワゲラの仲間が翅を持つのに対し、セッケイカワゲラは翅がないので識別は容易。他にもクモとかもいるし、雪の上も以外に生き物がいるものだ。


セッケイカワゲラを写真にとろうと思っていい状態を狙ってみるが、結構移動してしまう。なんでこんな季節に雪の上にわざわざいるんだろうか。調べてみると、どうやら成虫は川上を目指して移動を続けるものらしい。しかも太陽の方向を感じて、進行方向を修正するんだとか。すごい虫やなぁ。


他の個体を探して雪の上を見ながら歩いていると、ふと視界が赤くなってクラクラし始めた。どうやら雪目になったらしい。考えたことなかったけど、雪の上で何か探すときはサングラス必携かもね…。

「氷河に棲む生き物たち」
http://www2.athome.co.jp/academy/entomology/ent06.html

番所溶岩

板状節理

4/22-23日は、大学の3つの学科が集う合同セミナーに泊まり込みで参加した。地学と生物学ぐらいに離れた分野の人がお互いの領域を発表して理解を深め合うという初の試みだ。セミナーの一環として、野外観察なども含まれる。今回は乗鞍岳の溶岩について、火山学の先生の解説を聞きながらポイントを回った。

最初の写真は番所(ばんどころ)という滝の名所。滑りやすい階段をしばらく降りていくと、大きな滝が現れる。

この滝は3万年ほど前に火山が噴火したときの溶岩と、もともとの岩盤の中間を削ってできている。滝の落差は3万年分ということだろうか。削れた斜面にはむき出しになった溶岩がよく観察できる。よく見ると溶岩には規則正しく割れ目が入っている。

溶岩にはいろいろな割れ方があるらしいが、ここの溶岩は水平に数cmずつきれいに割れた部分があり、1枚ずつ抜き取ることができるらしい。これを板状節理といい、番所溶岩の特徴だそうだ。不思議な割れ方だが、まだだれも形成メカニズムをしっかりとは示せていないらしい。


さっき滝まで降りてきた道を見ると、なるほど、その板状節理がそこらじゅうに見える(写真右)。降りてきたときには気づかなかったが、上るときには世界が変わっていた。このような体験は久しぶりだ。知ることによって世界の見え方がまたひとつ広がった気分。勉強でも学問でも気持ちいいのはこういうところ。先生の教え方がうまいんだけどね。

「柱状節理と板状節理」
http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~hayakawa/fieldguide/book/078.html

日本語の英名表記は、なぜ「名→姓」

中学校で英語を習い始めてから、アルファベット表記を「名→姓」とすることに疑問はなかった。しかし、大学時代、日本以外の国の人間が自分の名前をアルファベット表記する際、姓名順は母国語と同じになる、という話をどこかで読んで少し考えが変わった。(このサイトのような記事http://home.att.net/~keiichiro/gokai/jpn/name.html)
つまり日本語なら、「姓→名」とするのが自然なんだ、と。この合理的な考え方に共感を覚えて、しばらく意識的に「姓→名」を使っていたことがある。 その順番で何の問題もなさそうだった。


だが、少しだけ悩んだ時期があった。論文を書く際の名前を決定する必要に迫られた時だ。論文にはローマ字表記で統一した名前を使う必要がある。それまでの考えに基づいて姓→名の順に書いた初めての英語名の論文は、担当教官に名前順がしっかり「修正」され、「名→姓」の順になって返ってきた。それに軽いショックを受けた。きっと典型的な日本的な考え方なんだ、姓→名の順番は認められないんだ…、と。


だいぶ後になって、それはただの論文誌の名前の表記ルールであることがわかった。基本的に著者名は姓で引用される。どちらが姓であるかひと目でわかる必要がある。どの国の人だろうと、その論文誌の種類によって姓が後ろになったり前になったりするのである。ただの合理的なルールだったのだ。


合理的といえば、最近英名を、姓名順に関わらず、どちらが姓でわかるように、そちらを全て大文字で書く人が増えた。例えば福沢諭吉ならYukichi FUKUZAWAでもFUKUZAWA Yukichiでもどちらでもよい。「大文字で書いてある方が苗字」である。研究関係のメーリングリストなどで参加者の英語表記を見ると、姓名順は結構バラバラだが、どちらが姓であるかはひと目でわかる。私もこれに倣い、現在は姓→名の順で表記している。


そんなわけで、少なくとも研究者の世界では「姓→名」は徐々に増えつつある。海外のスタンダードに触れているからだろうか、一般人とは少しずれているからだろうか。他の職種の人たちはどうしているのだろう。




参考
「日本人の名前が外国で変えられちゃうのは何故?」
http://homepage2.nifty.com/osiete/s989.htm
「ことば・言葉・コトバ−文化差・姓名−」
http://blogs.dion.ne.jp/bunsuke/archives/852968.html

金属製広辞苑

最近EXPACK(エクスパック)をたまに使う。
http://www.post.japanpost.jp/service/parcel/expack.htm
「A4封筒サイズ(角2封筒がすっぽり入る厚紙仕様の専用封筒(248mm×340mm))」の特殊な小包だが、一律500円でコンビニでも買え、ポストからでも送れ、だいたい次の日には到着し、さらに追跡サービスでどこまで荷物が移動したかわかる。手軽に使えてなかなか便利だ。


裏には使用上の注意書きがある。


1 国際郵便にはご利用できません。
2 特殊取扱はできません。


8 EXPACK500の重量制限は「30kg」までです。


A4サイズで30kg!
がんばれば広辞苑(2.8kg)ぐらいの大きさまでギリギリ入るらしいが…30kgってなに詰めんねんw さすがに無理やろw


…と最近までそう思っていたのだが、ちょっと計算してみることにした。もしかして重いものなら30kgに達するのだろうか?


まずは重そうな物質を選んでみる。
http://www.coguchi.com/data_s/genso/index.html
この中ではイリジウムが一番重そうだが、どこで手に入れるのかよくわからない(隕石に多いんだっけ?)ので、ここは「現実的な」白金を選ぶ。白金の比重は21.45(g/cm3:20℃)らしい。


次に紙の比重だが、紙によって異なり、大体0.7-0.9というところらしい。今回は0.9として計算してみよう。


紙(比重0.9)でできた広辞苑は2.8kg
これを全て白金(比重21.45)で作るとχkg
比重:重さで式を作ってみると
(紙)0.9:2.8=(白金)21.45:χ
χ≒66.73
白金でできた広辞苑は66.73kgもあるらしい…。これではEXPACKの重量制限にひっかかってしまう。


では、どんな物質でできた広辞苑までなら送れるのだろうか。
今度は比重をχにして、重さ制限30kgにしてみる。
(紙)0.9:2.8=(Expack限界物質)χ:30
χ≒9.64
つまり比重9.64までの物質でできた広辞苑なら送れる。
さっきの比重表から拾って比較しよう。


金 19.32
銀 10.49
銅  8.95
鉄  7.87


つまり、鉄製・銅製の広辞苑は送れても金・銀製、さらに白金製の広辞苑は送れない。送れないものがありうる。一見意味がなさそうな大げさな重量制限は、一応機能する数字なのである!

そこで本日のトリビア
EXPACKの30kgの重量制限は・・・
貴金属をいっぱいにつめたときの重量を基準にしている。」

Evolution

先日amazonで洋書を注文した。研究室で行われている輪読会に途中参加するため、その本が必要になったためだ。7000円ぐらいで買えると聞いていたのだが、調べてみると、割引して送料タダなのに9000円台だった。どうやら3ヶ月ほどで円安が進んでかなりの差が出たらしい。普段あまり意識しないが、こんなにダイレクトに自分に関係したのは初めてだ。しかも損。

注文して二日後に届いた本のページは、紙が薄いせいだろうか、水に濡れたあとようにたわんでいた。返品交換が気楽にできないのは仕方がないけれども、なんだか悲しい。内容はいい本なのでいいんですがね。

Evolution「Evolution」Douglas J. Futuyma (2005) Sinauer Associates Inc

GC-MS使い方講習

パソ付きGCMS

今日は朝から夕方までぶっ続けで機械の操作説明を受けた。狭い部屋に10数人が横並びになり、1人が説明。はっきり言って無理がある。説明していた担当の方はかなりがんばっていたんだけど。私は端から機械を覗くような形で説明を聞いたのだが、自分の位置からでは操作に使うコンピュータの画面がほとんど見えなかった。

そう、今回入った機械はほとんどの操作を、接続してあるコンピュータから行うことができるのだ。今までGC機の本体にある操作ボタンをペシペシ押していたのとは隔世の感がある(1年ぐらいしかやったことないけど)。そんなわけで説明はコンピュータの操作方法を中心に行われた。MSの真空状態*1の確認や、メソッドの作成*2、データの解析、そして結果のプリンタ出力などである。特に、データの解析部は画面を見ながら自分で操作しなければなかなか理解しづらい。今回は仕方ないので、また後からマニュアルをじっくり読んで勉強しよう。


と思ったのだが、ソフトのバージョンが新しすぎるためか、日本語版はおろか英語版すらマニュアルがないらしい…。共用で使用する機械のマニュアル、大部分は自分が作らなければならなそうだが、今回の記憶でどこまでいけることやら。分析作業より忙しそうな予感…。

*1:検出に使用する部分は真空状態を保つ必要がある。各部分の温度設定が一目で分かる

*2:基本の温度設定条件を記録して何回も使える。これまではGC機本体に設定を覚えさせるプログラムは使えたものの、使いにくかった。

GC-MSがやってきた

GC-6890N

ここ半年ほど、GC(ガスクロマトグラフィー:通称ガスクロ)でいろいろやってきた。昆虫の表皮の成分について地域間で差を見るためだったのだが、結局差を定量化するところまではいかないまま次のステージがやってきてしまった。GC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析装置:通称ガスマスorGCマス)である。

GC-MSというのは、平たく言えば物質を「分離」して、一つ一つの「分子構造を決定」する機械である。温度の違いによって物質の分離をするのがGCで、ある物質をバラバラのパーツにして、その情報からもとの物質の分子構造を決定するのがMS(マススペクトル:質量分析計)である。GC-MSとはこの二つの機能が直結したものといえるだろう。

現在やっている研究の方向性からすれば、最終的には物質の同定をしなければならなくなる。いずれどこかで分析させてもらうなりする必要はあった。さらには、遠くに行ってしか分析できなかったものが、自分のかなり近いところに設置された機械でできるということを考えても、この変化は大きい。その設置、立ち上げの初日が今日だった。


件の部屋に着いたころにはもう、業者さんがGC-MSの設置を進めていた。思っていたよりはコンパクトにまとまっている。装置の組み立てや、カラム(試料を分離するための長い管の部分)の取り付け、スイッチの入れ方など、設置作業を進めながら少しだけ教えてもらった。

装置の電源をオン。ポンプの音が結構大きい。今回電源を入れてから、しばらく機械を止めることはなさそうである。MS検出器は真空状態を必要とするため、真空ポンプ(ディフュージョンポンプ)がとりつけられている。装置が使用できるまでの真空状態を作り出すためには、だいたい1日ぐらいかかる。そのため、毎日〜1日おきぐらいの頻度で機械を使用するなら、つけっぱなしにしたほうがよいのである。


設置が終わり施錠。部屋を閉めても廊下にポンプの音が響いていた。これからずっと音が響きっぱなしになるわけだが、大丈夫だろうか。もしかすると騒音対策もいりそうだ。

明日は機械の原理などから簡単にレクチャーしてもらえる予定。基礎がまだしっかり分かってない身にとってはありがたい。こうしてブログを書きつつ復習しておこう。