【経済学】マンキュー経済学17章 独占的競争

今回のミクロ経済学読み比べのテーマは不完全競争3部作(独占、寡占、独占的競争)の最後となる独占的競争についてです。どの教科書においても扱っているページは独占や寡占よりも少なく、また、解説においてもそれほど大きな違いはありませんでした。あえて違いを挙げるとすれば、具体例や応用例の豊富さのぐらいでしょうか。

独占的競争の特徴は「多数の企業がいる」「製品が異なる」「参入退出が自由」といった仮定がおかれていることです。これらの仮定は、完全競争や独占競争の極端な状況からより現実に近づけたものとなります。また「製品が異なる」ことが競争力につながることから、経営学マーケティング論の分野とも大きく関係しています。

しかしながら、経済学の代表的な教科書であるマンキューやクルーグマンではそれほどマーケティングの内容は扱っていなく(あたり前?) 、重点を置いているのは例えば「広告」に関する経済学的な意味づけ等であり、あくまで経済学の立場を貫いています。

基本的な独占的競争のモデル自体はそれほど難しくないので、マンキューを読んで、数式的な解釈として武隈ミクロで捕捉すれば、学部レベルの内容は十分カバー出来ると思います。さらなる応用例を学びたい場合は、ヴァリアンがお勧めです。ヴァリアンでは「Monopoly Behaivor(独占的行動)」といった単独の章があり、独占及び独占的競争の応用例がふんだんに紹介されています(独占の章も別に存在します)。
 最後に、独占的競争がテーマにもかかわらず、それぞれの教科書の独占的競争の説明においてはそれほどの製品(解説?)差別がないのは、なんたる皮肉と感じた次第です。

①Mankiw(2008)「Principles of Economics」South-Western Chapter16 Monopolistic competition P345〜P364

  • 独占的競争で1章割いている。なお、5th editionでは、完全競争→独占→独占的競争→寡占の順番で章が構成されている(4th edition(日本語版)では、寡占の後に、独占を解説している)。
  • 独占的競争の特徴として「excess capacity」と「mark up over marginal cost」を解説している。
  • 「Advertising(広告)」の経済学的な意味をシグナリング等を用いることで説明している。具体例が非常に豊富。


②Krugman,Wells(2009)「Economics second edition」WORTH(邦訳版ではクルーグマンミクロ経済学) Chapter14 P355〜P386

  • 独占的競争で1章割いている。扱っているトピックはマンキューとほぼ同じ。
  • 製品差別の類型として「differentiation by Style or Type」、「differentiation by location」、「differentiation by Quality」の3つを紹介している。
  • 独占的競争における短期と長期の均衡の違い、独占的競争と完全競争の違いの解説はマンキューよりも丁寧(だが、その分長い)。


③Stiglitz,Walsh(2005)「Economics fourth edition」NortonP405 Chapter12 Monopoly,Monopolisitic Competition,and Oligopoly P261〜P287

  • Chap12にて、不完全競争(独占、独占的競争、寡占)の一つとして独占的競争を解説している。
  • 内容的にはマンキューやクルーグマンほどは充実していない。
  • 応用例の紹介も特段なし。


八田達夫(2009)「ミクロ経済学Ⅰ 市場の失敗と政府の失敗への対策」東洋経済新報
・(ざっと見たところ)該当する章なし。


⑤Hal Varian(2010)「Intermadeiate MicroEconomics 8th edition」Norton Chapter25 Monopoly BahaviorP461〜P484

  • Monopoly Behaviorの章の一部で独占的競争を解説している。その他はPrice Discrimination(価格差別)、Bundling(セット販売)、Two part tariff(2部価格)の解説等。
  • 独占的競争の解説はグラフでのみ行っており、数式での解説はなし。
  • 独占的競争の応用例として、location model of product differentiation,product differentiation,more vendorsを紹介している。いずれも数式はなく、直感的な説明のみ。


⑥武隈愼一(1999)「ミクロ経済学 増補版」新世社 6章不完全競争 P192〜P195

  • 不完全競争の章において「製品差別と独占的競争」という節にて独占的競争が解説されている。
  • 二つの企業が類似商品を販売している状況を仮定したモデルで独占的競争を解説している。互いの製品価格が、自社の製品価格に影響を与えるという、寡占的な状況を想定している点がポイント(他の教科書ではこのことは明示されていない。)。
  • 独占的競争の長期均衡を数式を用いて解説している(長期均衡の状態では、需要曲線の傾きと平均費用曲線の傾きが等しくなる)。


⑦西村和雄(2011)「ミクロ経済学入門第3版」岩波書店 第10章不完全競争市場P155〜P157

  • 不完全競争市場の章の中で、独占的競争を解説している。
  • 具体例や数式での解説はなく、グラフでのみ解説を行っている。
  • 理論的な解説の内容はマンキューとほぼ同じ。

以上

【経済学】マンキュー経済学16章 寡占

ミクロ経済学読み比べの今回のテーマは「寡占」です。ミクロ経済学の生産の理論において、完全競争市場や独占の理論はやや極端な仮定の下で企業がどのような行動をするかを分析していますが、寡占においては、比較的現実の状況に近い想定がなされています。

一方で、現実に近い状況を想定すれば、とたんに分析の難易度はあがることとなります。この複雑さを分析する際の手がかりとなるのが、相手の動きを予測した上で意思決定を行う「戦略的」という概念になります。各種教科書では、この戦略的な状況をどのように扱っているかで、寡占の説明の仕方も変わってきます。

マンキュー、スティグリッツクルーグマンは寡占の章において、初めてゲーム理論の考え方を導入しています。他方、日本語の教科書である武隈ミクロ、八田ミクロ、西村ミクロではどれも寡占単独の章を設けていない上に、ゲーム理論的な解説もあまり行われていません。代わりに、反応関数や屈折需要曲線の解説に力を入れています。恐らくですが、日本語の教科書では、公務員試験や資格試験、大学院入試をある程度は想定して作られているため、こういった解説になっているものと思われます。反対にマンキューらの教科書では、反応関数や屈折需要曲線の解説は出てきません(クルーグマンには詳しい解説あり。)

そんな中、バランスが取れているのは、ヴァリアンです。ゲーム理論的な解説も行われいますし、反応関数も扱っている上、さらにシュッタケルベルグ均衡やベルトラン均衡も出てきます。ヴァリアンでは多様な寡占のモデルを紹介しているので、寡占の性質を様々な角度から知ることが出来るという大きなメリットがあります。

まとめとしましては、寡占の直感的な理解をするためにまずはマンキューを読んで、理論的な厳密性を学ぶためにヴァリアンで補足するという学び方がいいと思います。武隈ミクロや西村ミクロでは説明が短すぎて恐らく消化不良になるのではないでしょうか。ヴァリアンが重い場合は、クルーグマンをしっかりと読めば学部レベルの寡占はほぼ問題なく網羅できると思います。

①Mankiw(2008)「Principles of Economics」South-Western Chapter15 Monopoly P311〜P341

  • 寡占市場を分析するに当たり、まず完全競争市場と独占市場との違いを解説している(供給量は独占より多く完全競争市場より少なく、価格は独占より低く、完全競争市場より高い)。
  • ゲーム理論囚人のジレンマ)を用いて寡占企業による協働の難しさを解説している。
  • 寡占に対する政府政策としてアンチトラスト法を紹介しているが、グラフや図による寡占市場の分析はなされていない。


②Krugman,Wells(2009)「Economics second edition」WORTH(邦訳版ではクルーグマンミクロ経済学) Chapter14 P355〜P386

  • マンキューと同様に寡占で1章を割いている。解説の内容はマンキュー、スティグリッツよりも充実しているとともに、具体例も非常に多い。ただ、読むには少々骨が折れる。
  • 寡占度を測る例として最初にハーフィンダール指数を紹介している。
  • ゲーム理論の説明に加え、屈折需要曲線もグラフつきで説明もあり。

③Stiglitz,Walsh(2005)「Economics fourth edition」NortonP405 Chapter12 Monopoly,Monopolisitic Competition,and Oligopoly P261〜P287

  • Chap12にて、不完全競争(独占、独占的競争、寡占)の一つとして寡占を解説している。
  • ゲーム理論を用いて寡占の協働の難しさを説明しているが、内容的にはマンキューやクルーグマンほどは充実していない。
  • 企業が協働しないときの企業の戦略として、restrict competition(競争制限)を紹介している。具体的にはexclusive territories,exclusive dealing,tie-ins,resale price maintenance等。


八田達夫(2009)「ミクロ経済学Ⅰ 市場の失敗と政府の失敗への対策」東洋経済新報 第6章 規模の経済:独占P205〜P239

  • 寡占を説明した章はなし。
  • 規模の経済:独占の章にて、寡占の例が一部出てくるが、寡占のモデル自体は解説していない。
  • 11章「権利の売買」にて、数量カルテルを扱っている。また、寡占の典型的な状況としてテレビ局の認可(ライセンス制)を紹介している。


⑤Hal Varian(2010)「Intermadeiate MicroEconomics 8th edition」Norton Chapter27 P497〜P520

  • 寡占単独の章を設けている。数式での解説も多数あり。
  • 寡占の様々なモデルを紹介している。具体的には、quantity leadership(Stackelberg),price leadership,simultaneous, quantity setting(Curnot),simulataneous price setting(Bertrand),collusive solution,punishument starategy等。
  • モデルの解説が多いが、想定しているモデルの仮定や具体例も解説されていて、文章の量は多いものの、非常にわかりやすい説明になっている。


⑥武隈愼一(1999)「ミクロ経済学 増補版」新世社 6章不完全競争 P185〜P191

  • 数式とグラフのみ抽象的な議論で複占市場を解説している。ゲーム理論を直接用いた解説及び具体例はなし。
  • 複占市場のモデルから始まり、反応関数を設定し、そこからクールノーナッシュ均衡を導き出している。
  • 二つの企業にそれぞれ先導者と追随者の役割を与えることで、シュタッケルベルク均衡を導き出している。


⑦西村和雄(2011)「ミクロ経済学入門第3版」岩波書店 第10章不完全競争市場P150〜P155

  • 不完全競争市場の章の中で、寡占を解説している。ゲーム理論を直接用いた解説及び具体例はなし。
  • 反応曲線から寡占市場における均衡点、すなわち独占均衡に比べて価格は低く生産量は多い状況を解説している。また、企業数を増やすことで、完全競争均衡の生産量に近づいていくことを数式で説明している。
  • 寡占価格が費用の変化に対して硬直的であることを説明する理論として、屈折需要曲線、売上最大化仮説、マークアップ原理についての解説がある。

以上

【経済学】マンキュー経済学15章 独占

毎度おなじみのミクロ経済学の読み比べです。今回は独占についてです。

独占は完全競争の次に学ぶ分野となりますが、大別すると教科書によって独占単独の章を設けている本と独占的競争や寡占市場と一緒に扱っている本の2種類に分けられます。マンキューでは、前者の立場をとっていることから、独占にまつわる問題や原因、対処法がより深く考察されています。

一方で数学的記述は皆無のため、理論的背景がきちんと学べないという欠点もあります。具体的には、限界収入曲線の傾きは需要曲線の二倍(絶対値ベース)になること等です。この点はクルーグマンでは図とグラフを用いて丁寧に説明していますが、それほど難しくない数学で証明できるので、ラーナーの独占度を含めヴァリアンや西村ミクロで補った方がいいでしょう。その他、独占の理論では企業戦略の話も出てくるので、経営学の本や「戦略の経済学」をあわせて読むのも面白いと思います。

①Mankiw(2008)「Principles of Economics」South-Western Chapter15 Monopoly P311〜P341

  • 独占の説明に1章を割いている。数式を使わずグラフと言葉のみで、独占が起こる原因、独占状態での企業の価格に関する意思決定、独占の経済厚生、独占に対する政府の対応等を解説している。
  • 独占が起こる原因を3つ指摘(独占資源、政府の規制、自然独占)。
  • 経済厚生(生産者余剰と消費者余剰)の観点から、死荷重を解消する方法を4つ指摘している。(反トラスト法、価格規制、国有化、何もしない(政府の失敗に関するスティグラーの議論を引用))。

②Krugman,Wells(2009)「Economics second edition」WORTH(邦訳版ではクルーグマンミクロ経済学) Chapter14 P355〜P386

  • 独占の説明に1章を割いている。レベル的にはマンキュー、スティグリッツとほぼ同じ。3冊の中では一番解説が丁寧だが、その分記述も一番多い。
  • 独占企業の収入における二つの逆の効果、すなわちquantity effect(生産量を増やすことで増える収入)とprice effect(価格を下げることで減る収入)についての記述あり。
  • 飛行機の座席を例にした価格差別の説明が充実している。なお、完全価格差別(Perfect Price Discrimination)を達成すると消費者余剰はなくなり、生産者余剰が最大化されるという驚きの指摘もあり。


③Stiglitz,Walsh(2005)「Economics fourth edition」NortonP405 Chapter12 Monopoly,Monopolisitic Competition,and Oligopoly P261〜P287

  • 独占、独占的競争、寡占で章で独占を解説している。レベル的にはマンキュー、スティグリッツと同等。
  • 需要曲線の傾き(弾力性)により独占価格がどのように変わるかを図を用いて解説している(他の本で解説されている言葉でいえば、ラーナーの独占度)。
  • 独占市場において生じる価格差別を、各国の薬の価格を事例として解説している。薬の例はクルーグマンでも用いられているが、スティグリッツ南アフリカの例を扱うことで社会的な側面からこのような価格設定を批判している。


八田達夫(2009)「ミクロ経済学Ⅰ 市場の失敗と政府の失敗への対策」東洋経済新報 第6章 規模の経済:独占P205〜P239

  • 第6章にて、「規模の経済」が生む独占の市場の失敗を解説している。完全競争市場や寡占市場とは連続して解説は行われていない。
  • 独占の弊害(死荷重及びX非効率性)を解説した後、独占の対策を詳細に説明している。
  • 独占の対策として国有化、価格規制、独占企業の民営化の3つを挙げている。それぞれの対策において、死荷重とX非効率性がどれほど解消されるかを実際の事例を用いて説明している。

⑤Hal Varian(2010)「Intermadeiate MicroEconomics 8th edition」Norton Chapter24 P439〜P460

  • 独占の説明に1章を割いている。
  • 独占企業の価格設定を数式を用いて解説している。数式の展開は他のテキストと比べて一番丁寧。
  • 独占企業に課税したケース、著作権の長さの適正性、企業の独占の原因となるminimum efficient scale(平均費用を最小化させる産出量。MESが少なければ市場は競争的になるが、MESが大きい場合は、生産量を多くしなければ平均費用が少なくならないため必然的に独占となる。)等の事例が豊富。

⑥武隈愼一(1999)「ミクロ経済学 増補版」新世社 6章不完全競争 P179〜P183

  • 不完全競争の章にて独占を解説。5ページしかないがエッセンスは詰まっている。
  • ラーナーの独占度((P-MC/P))についての説明あり。
  • ラーナーの独占度と需要曲線の関係から、ラーナーの独占度が需要の価格弾力性の逆数に等しいことを解説している。

⑦西村和雄(2011)「ミクロ経済学入門第3版」岩波書店 第10章不完全競争市場P143〜P160

  • 「第10章不完全競争」で、独占、寡占、独占的競争を解説している。なお、各企業の直面する需要曲線が右下がりである市場を「不完全競争」と呼んでいる(完全競争では企業は、水平な需要曲線に直面している)。
  • 数式を用いることで、限界収入曲線の傾きは需要曲線の傾きの2倍になることや、ラーナーの独占度(価格が限界費用から乖離する度合い)を説明している。
  • 規制の下では自然独占企業が費用最小化の努力を怠る「X-非効率性」についての言及がある。平均費用価格形成や2部料金制を用いても、このX非効率性は回避することが出来ない。

以上

【経済学】マンキュー経済学14章 競争市場下における企業行動について②

毎度おなじみのミクロ経済学の読み比べです。今回の内容は、完全競争市場における企業行動となります。今回の内容を土台として、独占、寡占、独占的競争へとテーマは拡大していくこともあり、企業行動を学ぶ上で非常に重要な回となっています。
経済学入門の本であるマンキュー、クルーグマンスティグリッツでは解説の方法もほぼ似っています。一方、ミクロ経済学の入門書である八田、ヴァリアン、武隈、西村ミクロはそれぞれ個性的な解説を行っています。
マンキューは数式での説明を極力廃止し、言葉での説明を重視しているため、直感的な理解には役立ちますが、厳密性にはかけてしまいます。そのため、ミクロ経済学の教科書を読むことで厳密性をある程度は補う必要があるでしょう。個人的には、マンキューと西村を組み合わせて読むことで、より理解が深まるものと思います。


①Mankiw(2008)「Principles of Economics」South-Western Chapter14 Firm Behavior and the organization of industry

  • 「完全競争」と「利潤最大化」の仮定を充分に説明した後に、企業の行動を解説している。簡単な数式あり。
  • 完全競争の特徴として「多数の売り手・買い手」「売り手によって供給される財はほぼ同じ」「企業は自由に市場に入退出出来る」ことをあげている。
  • 企業の「インセンティブ」、「合理性」、「時間概念」の視点から、企業行動及びこれから導き出される供給曲線を説明している。


②Krugman,Wells(2009)「Economics second edition」WORTH(邦訳版ではクルーグマンミクロ経済学) Chapter13 Perfect Competition and the supply curve

  • 説明の基本的な流れはマンキューと同様。マンキューよりもやや丁寧に説明している印象あり。
  • opitimal output rule(MR=MC)及びPrice taking firm's opitimal output rule(P=MC) の用語解説あり。
  • 完全競争市場における長期市場均衡は効率的な資源配分(費用が最小化され、資源の無駄は存在しない)を達成していることについて言及している。


③Stiglitz,Walsh(2005)「Economics fourth edition」NortonP405 Chapter7 the competitive firmP155〜P174

  • 説明の基本的な流れはマンキューと同様。マンキュー、クルーグマンに比べ、説明はあっさりしている。
  • 完全競争市場では利潤はゼロになるが、そのような状況でも市場への企業の入退出が存在する理由として、Opportunity CostとEconomic Rentをあげている。
  • Eonomic Rentとは希少なtalentに対して支払われる超過支払部分のことである。ある企業が他の企業よりも効率的である場合、当該企業はEconomic Rentを得ていることとなる。


八田達夫(2009)「ミクロ経済学Ⅱ 効率化と格差是正東洋経済新報 2章供給P57〜P95

  • 図を用いた余剰分析の視点からの説明を重視している。
  • 短期と長期といった視点での分析はなされていない。
  • 短期と長期の説明がないことから、操業停止点を生産者余剰の点から解説している(操業停止点を「生産者余剰がある生産量で正になる場合には、企業は操業を行うべきであり、いかなる生産量でも正にならない場合には、操業を停止すべきだということになります。」と解説)。


⑤Hal Varian(2010)「Intermadeiate MicroEconomics 8th edition」Norton Chap22,23 P395〜P437

  • Chap22で企業の供給曲線を、Chap23で産業の供給曲線を解説している。
  • 産業の供給曲線では、企業の産業への入退出を扱っている。
  • 産業への入退出に制限がある場合の長期費用曲線についても扱っている(例:ニューヨーク市でのタクシーライセンス等)。


⑥武隈愼一(1999)「ミクロ経済学 増補版」新世社 3.1費用と供給 P72〜P103

  • 企業行動を数式を用いて費用関数と生産関数の視点から解説している。
  • 生産が労働と資本に依存し、短期的には資本量は変化できないという仮定の下、生産関数から企業の短期費用関数と長期費用関数を導出している。
  • 要素需要関数(生産に用いる生産要素の購入に関する関数)を用いて、要素価格がその要素需要に与える「自己効果」や他の要素の需要に与える「交差効果」の説明も行っている。


⑦西村和雄(1995)「ミクロ経済学入門第2版」岩波書店 第8章企業の長期費用曲線と市場の長期供給曲線P165〜P183

  • S字型の生産関数を想定して「いない」状況で、まず以下のことを指摘。すなわち、長期においては、固定費用の概念が存在せず、また新規企業が産業に参入したり、既存企業から退出することが自由に出来るため、短期の分析のように一定数の個別企業の供給曲線の水平和をとって、市場の供給曲線を得るという方法をそのまま長期分析に適用することは出来ない。
  • そこで以下の2パターンの視点から長期費用曲線を分類している。一つ目は、個々の企業が生産量を増加するときに、その企業の平均費用が増加するか、減少するかによって、長期費用を分類する方法(長期費用を一定・逓増・低減に分類)。
  • もう一つは、産業の規模が拡大するにつれ、個々の費用曲線そのものが上にシフトするか下にシフトするかで、産業を分類する方法。こちらでは、産業全体での生産量の増大が金銭的・技術的外部効果を通じて個々の企業の費用関数をどのようにシフトするかという視点から長期費用曲線を分析している。

期待インフレ率の測定方法について

村上龍氏が発行しているメールマガジンJMM」のQ1,146のテーマは「インフレ期待が国民の間に醸成されるためには、政府の、どのような経済政策が有効なのでしょうか。」がテーマでした。各論者が期待インフレ率の醸成方法について意見を投稿していましたが、これらの回答には「そもそもどうやって期待インフレ率を測定するのか」という点には必ずしも言及されていませんでした(ただし、JPモルガンの北野氏のみ「消費動向調査」を用いて期待インフレ率を定性的に測定していました)。そこで、定量的にインフレ率を測定するにはどうすればいいのかを今回は共有していたと思います。

清水谷先生の「期待と不確実性の経済学」では期待インフレ率の具体的な測定方法として以下の4つをあげています。以下では清水谷[2005]を参考に期待インフレ率の測定方法を概観します。


①物価連動債を用いる方法
物価連動国債とは、元金額が物価の動向に連動して増減する債権です。物価連動国債の発行後に物価が上昇すれば、その上昇率に応じて元金額が増加し、下落すれば下落率に応じて元金額が減少します。

株や不動産と異なり、通常の債権は、償還される元金の金額は固定されていることからインフレ時には実質元本が減少することになりますが、物価連動債はインフレ時には元本が上昇するため、インフレヘッジの役割を果たすこととなります。

上記の性質を利用して期待インフレ率を測定する方法が物価連動債を用いる手法となります。この手法は欧米諸国では広く用いられてきた方法ですが、日本でも2004年から10年物の物価連動債が発行されたことから、物価連動債から期待インフレ率を測定することが可能となりました。詳しくは、北村先生の論文をご参照下さい。

なお、詳細な実証分析を行わなくても物価連動債の動きをを見ることで、実質利子率を観測することも可能です。フィッシャー方程式より名目金利=実質利子率+期待インフレ率となりますが、2010年12月19日付日経ヴェリタスの「米長期金利、良い上昇か悪い上昇か」という記事では、QE2の実施後の長期金利の上昇を、物価連動債の動きを見ることで、実質金利は低位なままでの期待インフレ率の上昇によるものと結論付けています。以下、当該記事です。

FRBの狙いはインフレを加味した実質金利の低位安定であって、名目の長期金利上昇に目を奪われると本質を見誤るという。
 名目金利からインフレ率を差し引いたのが実質金利で、国債利回り3.5%、インフレ率2%なら実質金利は1.5%。長期でみて、景気や為替変動などを左右するのは実質金利とされる。
 元利払いがインフレ率に応じて増減する物価連動債の流通利回りが実質金利の代表的指標で、足元では10年物で1%強。10〜11月の0.5%前後という極端な低水準からは上がったが、名目金利に比べれば上昇は緩やかだ。投資家は物価上昇で低い利回りが穴埋めされて帳尻が合うとみており、これはつまり期待インフレ率の高まりを意味する。実質金利がさほど上がらない限り不動産や設備投資の意欲は衰えず、景気を冷やす懸念は小さいと主張する。


②期待を取り入れたフィリップス曲線を利用する方法
フィリップス曲線は失業率と物価のトレードオフの関係を示すものです。このフィリップス曲線は理論上は経済主体の期待によってシフトすることとなります。この性質を利用することで、期待インフレ率を測定する方法が二つ目の方法です。
アメリカではフィリップス曲線に基づくインフレ予測が極めて良好なのですが、日本では当てはまりはあまりよくないそうです。詳細は東大の福田先生達がかかれた論文を参照してみてください。

なお、ニューケインジアンモデルにおけるフィリップス曲線と期待インフレ率の関係については日銀レビュー「ニューケインジアンフィリップス曲線」に詳しく書かれています。


サーベイデータを用いる方法
サーベイデータとは「聞き取り調査から得られるデータ」のことです。このサーベイデータを用いてカールソン・パーキン法(以下、CP法)という計量経済学の手法を用いて期待インフレ率を測定する方法が3つ目の方法です。
この方法を理解するには計量経済学における分布の仮定や質的データを扱う手法(ロジットやプロビット等)の知識が必要となります。また、データの散らばりに対して多くの仮定が必要であることや分析がややテクニカルとなってしまうのが難点です。
加納先生が書かれた「マクロ経済分析とサーベイデータ」という本では「法人企業動向調査」を用いて修正CP法により期待インフレ率を測定していますので、詳しい分析手法を知りたい方はこちらをご参照していただければと思います(清水谷[2005]では、CP法による分析はされていません。ただ清水谷先生自体は別の論文でCP法を扱った期待インフレ率を測定しています。)


④家計・企業の直接物価期待を質問する方法
最後は最もアナログな方法ですが、直接家計や企業に来たインフレ率を質問するというものです。日本では内閣府が実施している「国民生活モニター」や「企業行動アンケート調査」があります。

清水谷[2005]では、国民生活モニターのデータを用いて回帰分析を行うことで、量的緩和が期待インフレ率にどのような影響を与えたかを実証分析しています。その結果、量的緩和については、知っているだけでは期待インフレ率は有意に変化しなかったが、量的緩和をしったことで期待インフレ率を変更した家計にとっては、テロ事件やイラク戦争と変わらないくらいの期待インフレ率の上昇をもたらした事が指摘されています。そして、その結果を受けて以下のことを指摘しています。

金融政策にとって直接的にデフレを反転させようとするなら、少しでも多くの家計に働きかけ、多くの家計がそれを知り、物価期待を修正するように、より大胆かつわかりやすい形で実施していくことが不可欠だ。


以上、期待インフレ率の測定方法4種類を概観してきました。近年デフレを脱却するための金融政策のあり方についての議論が白熱しています。期待インフレ率の誘導については東大岩本先生もブログにてその難しさを指摘していますが、どのようにして期待インフレ率をコントロールするのかに加え、そもそもどのようにして期待インフレ率を測定するのかももっと議論すべき事柄ではないでしょうか。

参考文献

期待と不確実性の経済学

期待と不確実性の経済学

マクロ経済分析とサーベイデータ (一橋大学経済研究叢書)

マクロ経済分析とサーベイデータ (一橋大学経済研究叢書)

【経済学】マンキュー経済学14章 競争市場下における企業行動について①

マンキュー経済学14章では競争市場下における企業の行動を分析しています。この章は企業行動のミクロ経済学的アプローチの基礎部分となります。

マンキューにおいて説明される企業の意思決定には、様々な前提条件が課されていることもあり「非現実的で、役に立たない」という意見もあるでしょう。実際、世の中の企業が行うジャッジは、マンキューが想定しているような諸条件とは異なり、多数の利害関係者がいて、将来の不確実性がある中で行われます。それでも、やはりマンキューの解説は企業の意思決定プロセスにとって有益だと思います。理由としては主として3つあげられます。


まず第1に、仮定がおかれた中で企業はどのような意思決定を行うべきかが明確に提示されている点です。企業の意思決定は、状況やタイミングで変わってくるので、取るべき行動は実際には「ケースバイケース」になるでしょう。ですが、そうした場合、場当たり的になってくるのも事実です。他方、マンキューでは、仮定がおかれた上でも「企業は利潤最大化を目指す。」「限界で考える」「サンクコストがあるために短期と長期とで企業の行動は変わる」「長期的には利潤はゼロとなるが、その際には機会費用が考慮に入れられている」といった実際の企業の意思決定においても、ほぼ普遍的であるといえるセオリーが導かれます。これらの結論を実務経験から導くには多大な時間び労力がかかりますが、いくつかの仮定をおくことで、経済学ではこれらが簡単に導き出されることとなります。


第2に逆説的ではありますが、セオリーを学ぶことで、実際の企業の行動との違いを認識できる点が上げられます。実際の企業は「限界の概念」を用いて意思決定を行っていないかもしれません。ですが、その場合はいったいどのような基準で企業は意思決定を行っているのでしょうか。もしからしたら「上司の一言」かもしれませんし、「えいや」かもしれません。実際に企業が行っている意思決定は、マンキューで想定されているものと違う可能性もありますが、違うからこそ「何が違うか」をマンキューを読むことでより把握することが出来るようになります。なぜならば、マンキューでは「合理的な意思決定」の仮定をおいた上で、それから導き出される論理的帰結を提示しているからです。これらは、現実の企業行動を分析する際にも有益な視座を与えてくれます。


第3に仮定を明確に「提示」していることで、仮定が変わったときには企業はどのような行動をとるのかを考えられる点が上げられます。マンキューでは完全競争市場の仮定として「大多数の売り手と買い手」や「財は同一」、「企業の参入退出は自由」ということをおいています。しかし、現実の経済では、企業が独占的に財やサービスを提供していることもあります。また、企業が提供している財・サービスは画一的ではない方が自然といえるでしょう。もちろんこのような事象をいきなり扱った方が近道なのですが、実際にこのような経済状況を扱うには事象が複雑すぎて、そもそも分析するには困難が伴います。そこで、まずはわかりやすい仮定をおき、次に仮定を変えたとき、すなわち独占や寡占を仮定することで、企業行動はどう変わるのかを分析することとなります。まさに「急がば回れ」なのです。また、そうすることで、仮定が変わったときの企業行動の違いもより明確に知ることが出来ます。上述した第2の点は「モデルから導き出される帰結と現実の違いを知る」ことについてでしたが、この点は「モデルとモデルの帰結の違いを知る」こととなります。


なお、経営学の本である「ブルーオーシャン戦略」においても、ブルーオーシャン戦略のミクロ経済学的な説明がなされています。本書では、経済学の独占での企業の行動を示した後に、ブルーオーシャン戦略における企業行動を解説しています。このように経済学的な説明を用いることで、仮定を変える前と後の企業行動及び経済厚生の変化、すなわち、ブルーオーシャン戦略のメリットをより具体的に把握できることとなります。ただ残念なことにブルーオーシャン戦略においては、「完全競争市場(レッドオーシャン)」における経済学的な企業行動の解説はなされていません。今回の章を学ぶことで、レッドオーシャンについての理解も深めていただければと思います。

【経済学】マンキュー経済学13章 生産費用について②

費用の章についてのミクロ経済学読み比べです。Mankiwを初めとする経済学の入門書では、収穫逓減を仮定した上で費用関数への説明へと入りますが、Varianや西村といったミクロ経済学専門の教科書では、まず生産関数の単独の章を設け、生産関数をしっかりと説明した後、生産関数のもう一つの側面である費用関数の説明に入ります。

生産の理論では、企業の利潤最大化と費用最小化という二つのアプローチから企業の生産について分析をしますが、経済学の入門書ではそこまで深入りせず、多くの場合利潤最大化のみしか扱っていません。費用最小化を扱わないことで、説明はすっきりしたものになりますが、「今のパフォーマンスを維持しつつをコストを減らすためにはどうしればよいのか」といった現実における企業の重要な意思決定の説明が欠けてしまい、少し物足りない気もします。費用関数についてMankiwからさらなる学習をするにあたっては、ミクロ経済学的な厳密性を保ちつつも、直感的な説明も大事にしている西村ミクロをお勧めします。武隈ミクロは数式での説明しかないため、西村ミクロの後に読む方がいいのではないでしょうか。

①Mankiw(2008)「Principles of Economics」South-Western Chapter13 The costs of Production

  • 企業行動を分析するにあたり、初めに機会費用の解説を行い、経済的利益と会計的利益の違いを説明している。
  • 生産関数の説明から費用関数の説明へと移行している。ただし、生産関数についてはそれほど深入りせずに限界生産物逓減(diminishing marginal product)を直感的に説明しているのみ。
  • 最後に短期と長期の費用について記述している。時間軸(time horizon)の話については、弾力性や税金等で何度も出てきているので、マンキュー読者には馴染み深い。


②Krugman,Wells(2009)「Economics second edition」WORTH(邦訳版ではクルーグマンミクロ経済学) Chapter12 Behind the supply curve:inputs and costs

  • 基本的にはマンキューと同様の内容。
  • マンキューと違い機会費用の説明はない一方、Increasing returns to scale,decreasing returns to scale,constant returns to scaleの説明が充実している。
  • 具体例が豊富。収穫逓減の具体例をマルサスの人口論から始まり、ソフトウェア産業にまで当てはめて説明している。


③Stiglitz,Walsh(2005)「Economics fourth edition」NortonP405 Chapter6 the firm's cost P130〜P152

  • 基本的にはマンキューと同様の内容。
  • 生産関数を説明する際に、最初に収穫逓増、収穫逓減、収穫一定の3種類を説明し、費用関数の説明に入っている。
  • 生産における要素として、代替性の原則(the principle of substitution)、費用最小化(cost minimization)及び範囲の経済(Economies of Scope)についての説明があり。具体例が地球温暖化になっており、このあたりは特にスティグリッツらしい例が扱われている。


八田達夫(2009)「ミクロ経済学Ⅱ 効率化と格差是正東洋経済新報 2章供給P57〜P95

  • 生産量が増加すると費用はどうなるかを分析し、そこから供給曲線を導きだしている。
  • その後生産者余剰の分析。生産者余剰=利潤−生産量が0の時の利潤=利潤−(−固定費用)=利潤+固定費用=利潤+生産量0の時の損失
  • Sunk cost,explicit cost,implicit cost(accounting cost)についても解説もあり。


⑤Hal Varian(2010)「Intermadeiate MicroEconomics 8th edition」Norton Chap21 P378〜P394

  • Chap19でProfit Maximization,Chap20でCost Minimizationを経て、Chap21でCost Curvesを扱っている。
  • 企業が利潤最大化するにあたりどのような生産関数を想定しているのか、産出量が決まっている際にいかにして費用最小化を行うのか、そして最適な産出量が決定されるに際して費用はどのような特徴を持っているのか、という流れで解説をしている。
  • グーグルのチーフエコノミストだけあって、オンラインオークションの費用曲線(クリック数が費用に影響すると仮定)という特殊事例を説明している。


⑥武隈愼一(1999)「ミクロ経済学 増補版」新世社 3.1費用と供給 P72〜P103

  • 企業行動の一番最初の説明として費用関数を説明している。
  • 費用関数について数学的な説明を重視している。直感的な説明はほぼなし。「平均費用曲線の最低点を限界費用曲線が通過する」ことに対しても、数式で解説している(この解説を行っているのは武隈ミクロのみ。)
  • 費用関数→供給曲線→生産要素→生産関数→等産出量曲線→費用最小化という流れで説明。ミクロ経済学的説明の流れは非常にわかりやすい。


⑦西村和雄(1995)「ミクロ経済学入門第2版」岩波書店 第7章企業行動と費用曲線P143〜P182

  • 第6章にて「企業行動と生産関数」を説明した後の章として第7章で費用曲線を説明している。
  • 生産関数の後に費用関数を説明しているが、その理由として「生産関数と費用関数は、コインの裏と表のような関係にありますが、生産関数という技術的制約があって費用関数が求まります。そこで、まず前章で生産関数を説明し、次に本章で費用関数を導出するという方法を選んだわけです。」と述べている。
  • 数学的説明と直感的説明をバランスよく行っている。固定費用をコンビニエンスストアの地代、限界費用と平均費用を野球の打率に例えて説明している。