文房具の想い出

文房具が好きになるきっかけ、と聞いて思い出すのは、地元の大きな文具店である。



山と川に挟まれた田園が広がる町の外れにある、田んぼに刺さっていそうなキャラクターが看板に描かれた大きめのそのお店には、鉛筆などの筆記具からファイルやバインダーまでフロアにぎっしりと陳列されていた。
町内で文房具が揃っているお店といえばそこしかなかったので、必然的に足繁く通うことになる。



シャープペンの芯を買いに来たはずなのに、気づけばコクヨのファイルを意味もなく眺めている。
マッキーが書けなくなったから来たのに、店内を2周3周して新しい商品や変わったアイテムがないかを確認する。
小学生中学生くらいの少年が店内をぐるぐるしている光景は、店員から見れば万引きをしそうな怪しい学生に見えたかもしれない。
今ほどは文房具好きだと自覚していなくても、当時からその兆候は現れていたように感じる。
文具デザインの武具をつけたサイボーグの「文ボーグ」というビックリマンのキャラクターを勝手に妄想していたくらいには。



時は過ぎて、自分自身が文房具に惹かれていると実感したのは大学の就活のとき。
短期インターンシップ先の候補企業にステーショナリーの会社があり、そこでの体験を通して「文具と一言に言ってもたくさんカテゴリがあるし。どれを見てもそれぞれに機能があって面白い」と感じてしまったのだ。
この気付きがなければ、今頃は東急ハンズステーショナリーフロアで1時間以上楽しめる人間にはなっていなかっただろうと思う。



先日発売されたとあるコミックを読んでいて、ふとそのような感じで文房具との想い出を振り返っていた。


『きまじめ姫と文房具王子』。
とある事情で京都のとある大学に講師としてやってきた女性が文房具マニアの男性講師と相部屋の研究室になり、周りを取り巻く文房具や人々の人間模様と触れていくうちに、自身の心境に変化が訪れていくというストーリーである。



きまじめ姫と文房具王子 (1) (ビッグコミックス)

きまじめ姫と文房具王子 (1) (ビッグコミックス)


鉛筆、消しゴム、ボールペン、万年筆、筆箱、ノート、ハサミ、付箋…。
人の数だけ物語があるというけれど、いい想い出にも苦い想い出にも、その傍らにはきっとその物語の数だけの文房具がある。
そして、それが人と人とを繋ぐ大事なものにもなり得る。


子供の頃、無数の宝物のように見えた文房具は、今でも様々に形を変え店先に並んでいる。
誰かと思い出話に花を咲かせながら、今度文具店へ足を運んでみようと思いたくなる。
この漫画は人と想い出を広げていく、そんな作品だ。