SUMMER SONIC 2011 OSAKA 展望

あと5日と迫ってきましたSUMMER SONIC
なにげに初フェスです。もっと言うと初めて海外アーティストのライブを見ます。果たして生き延びることは出来るのだろうか…。
それはさておき、今回は見る予定のアーティストを予習がてら音源と一緒に紹介していこうと思います。

1.androp

"Bright Siren"
この一曲しかまともに聴いたことはないのですが、ビデオの世界観と音の表現が好みなのでライブではどのようなパフォーマンスを見せてくれるのかが今から楽しみです。ちなみに彼らはソニックステージのオープニングアクトを務めています。

2.Smith Westerns

"Weekend"
すごくポップな甘酸っぱい音で、夏の朝を心地良く盛り上げてくれるのではないかと期待しています。タイムテーブルを見るとライブの時間がちょっと短めなようなので、楽しみ切ることができるのかという一抹の不安はありますが。

3.The Morning Benders

"Promises"

"All Day Day Light"
個人的な大本命。彼らと、後述するDeerhunterを見たいがために上京のプランも練っていたほど大ハマリしたバンドです。ハンドクラップやシンガロングしやすい歌メロと、すごくライブ映えしそうで期待は否応なしに高まります。

4.Deerhunter

"Helicopter"
個人的ダブルヘッドライナーのもう一翼。彼らの音は間違いなく大音量推奨なので、これは文句なしにライブバンドでしょう。ドリーミーな轟音の洪水に身を委ねたいですね。

5.Metronomy

"The Look"

"The Bay"

"She Wants"
とにかく新譜"The English Riviera"の出来が素晴らしくよかったです。先のDeerhunterの轟音でどこかへ行きかけた意識を引き戻してくれるのではないかとも期待しています。

6.The Pop Group

"She's Beyond Good and Evil"
これまでの流れとは打って変わって相当に攻撃的で刺々しい音となりました。ポスト・パンクの源流となった偉大なバンドで、一目拝んでおく価値は間違いなくあると思います。ここで怒涛のソニックステージ籠りタイムはいったんおやすみして、マウンテンステージへ向かいます。

7.Public Image Ltd.

"Rise"
こちらは言わずと知れた元Sex Pistolsのボーカル、ジョニー・ロットンことジョン・ライドン率いるP.I.L。アルバムごとに気色が違うのでライブはどんなものになるのか想像がつかず、故に楽しみでもあります。

8.Primal Scream present SCREAMADELICA LIVE

"Come Together"
これは外すことはできないでしょう。真夏の夜にこのヴァイブスに浸る、考えただけでぞくぞくするほど素晴らしいではないですか。やはりこれは最初から最後まで通しで見届けたいですね。

9.Suede

"Beautiful Ones"

"Trash"
もう一生生で観ることはないだろうと思っていたところにこのリユニオンはとても嬉しかったです。しっかりとこの目に焼き付けておきたいですね。

以上九組が今回僕が見る予定のアーティストです。前半は今をときめく若手勢、後半はリユニオンなどの大御所とくっきり別れた形となっておりますねー。かぶりの問題などで見逃すことになるであろうアーティストたちもたくさんいるのですが、Two Door Cinema ClubとFriendy Firesを見逃してしまうのは特に痛いです…(笑)気づけばオーシャンステージには一歩も足を踏み入れていませんね。果たしてXはスケジュール通りに動くことができるのでしょうか。まああくまで展望なのでどう転ぶかはわかったものではないのですが(笑)

さて、13日まで残り僅かな日数、楽しみに過ごしていきたいと思います。実際に行ったあとは詳細なレポートも書こうかと。

127時間 -127 Hours-/イントゥ・ザ・キャニオン


試写会に当選したぞーというわけで鑑賞してきました。(@TOHOシネマズなんば 別館)原作は未読です。
まず結論として少し書いておくと、無料で観てしまったのが申し訳ないほどに強い感銘を受け、勇気づけられました。間違いなく僕の映画史に名を残すであろう作品となったので、正式にロードショーが始まったらもう一度劇場に足を運ぼうと決めています。
ちなみに生まれて初めて試写会というものに足を運んだのですが、非常に女性客が多いのですね。席もほとんど埋まっていて、空いている状態で観ることが多い僕にとっては久々に満員の劇場で映画を観ることとなったのでした。周りの観客が息を呑むさまや目を背けているさま、感動に打ち震えているさまなどが空気感からありありと味わえて、これもまたいい体験になったなあと思いました。満席の映画館もたまにはいいものですね。
さて、本題。観た直後にツイッターの方でもあれこれ書いたのですが、言い足りないことや考えを巡らせていて思いついたことなどがいろいろあるので、あちらで書いたものに+αして、こちらの方にまとめて書き記しておきたいと思います。
【以下、内容に触れています。内容を知ってもこの映画に込められたパワーは減るものではないと思います(現に僕がそうでした)が読まれる際にはご注意を】
大前提として。この物語は実話です。大どんでん返しなどのギミックもありません。あらすじを書くとすれば「岩に手を挟まれた男がその場を脱出するまで」とわずか二十文字で収まる単純なストーリーなのです。そんな単純な物語で一本の映画が出来上がるのか?などと疑問に思う方がひょっとしたらいるかもわかりません。が、この映画はある男が生きるためのひとつの決断に辿りつくまでの過程を克明に、かつ真摯に描き出しています。その過程があまりにも壮絶、かつストーリーテリングが巧みなのでスクリーンから目を逸らすことができなくなってしまいます。この映画には主要登場人物は実のところ一人しかいません。それがジェームズ・フランコ演じるアーロン・ラルストンなのです。さらに、この映画は物語の殆どが彼が囚われた峡谷内のみで進行します。すなわちワンシチュエーション・ワンマンショーの形式で映画は進行していきます。なのですが、ジェームズ・フランコの卓越した演技とそのキャラクター性をがっちりと補強する魅力、さらにダニー・ボイルのイマジネーションが炸裂した映像世界に抜群の選曲センスが光る音楽が乗ることによりこの作品は凡百のソリッドシチュエーションものなどとは格別の輝きを放つのです。たとえシンプルなアイデアでも、作る側が題材に真正面から向きあえば素晴らしい傑作ができるという証明たりうる作品となっています。
ここからはとりわけ印象に残った場面ごとに書いていきます。
まずオープニング。疾走感溢れるダンスビートに乗せて、週末の夜の昂揚感とのちのちの伏線となる様々なポイント(電話に出なかったり、戸棚からスイス製の優れたナイフセットを持っていかなかったり)を同時に描写することに成功しています。これ以上ないほどにつかみはバッチリです。目的地に到着し、車内で仮眠を取り朝を迎えるとアーロンはマウンテンバイクで駆け出してゆきます。赤い大地に青い大空、さらにその空よりも青い地底湖とこのコントラストがほんとうに見とれてしまうほど美しく、そこを颯爽と駆け抜けてゆくアーロンは生の喜びや愉しみを余すところなく放っています。この地底湖に行く際に二人の女性に出会うのです(出会って間もなく別れますが)が、中盤彼女たちもまた重要なファクターとして機能しているのがすごくうまいな、と思いました。
そして足を滑らせて谷間に落ち、落ちてきた岩に手を挟まれてしまうのですがタイトルロゴがここで“127 HOURS”と出るのがたまらなくクールでかっこいいと思いました。ここまでがオープニングで、案外序盤に囚われてしまうのです。ここからはあれほど美しく感じていた大自然が脅威としか映らなくなってくるから不思議なものです。つい先程まで生の輝きに満ち溢れていたアーロンにも暗い影が忍び寄ります。ここからあれやこれやとトライ&エラーを重ね、それでも岩はびくともしないので彼はもはや諦めた面持ちで両親に向けたダイイング・ビデオ・メッセージを撮影し始めます。序盤の時点でこんな状態になるとは思いもしなかったので、けっこう驚きました。予告

で言うと中盤あたり、暗い面持ちでげっそりした彼がそうです。予告の最初に出てくる元気なアーロンは実は日数が経過してからの姿なのです。いわゆる予告マジックですね。
当然持ってきた水や食料にも限りがあります。もそもそと非常食(ランチパック的な)を頬張っていると(序盤、出会った女性たちにパーティに誘われた経緯があったのですが)彼はパーティで自由に呑み喰いしている情景を夢想します。ですが、彼はそのパーティの輪の中には入ることが出来ず、外側からただ見つめているだけなのです。これと同じような構図が要所要所で繰り返し登場します。水も底をつくと、やむを得ず自らの排泄物で喉を潤そうとし、さらには自らの腕を傷つけて、その血液でさえも水分として補給しようとします。前者はまだ想像の範囲内であったとは言え相当に厳しい描写だったのですが、後者は少し自分の理解の枠を超えていた行動だったのでとても強く印象に残りました。また、三大欲求の一つ、性欲の問題もきっちり描写されている(ビデオで撮影した地底湖での女性たちの姿に劣情を覚えてしまった)あたりがアーロンも聖人君子などではなく、ひとりの人間なんだということを改めて強く実感させるいい場面だったと思いました。
そして脱出。生への飽くなき欲求が妄想の形でアーロンに語りかけてきて、彼はついに決断を下すのです。この決断から十分ほどは本当に痛くて、なんども目を背けてしまいそうになりましたし吐き気を抑えるのに必死になりました。そうです、生半可なスプラッターものよりもこのくだりはキツイのです。それはおそらく劇中でのアーロンに対する感情移入の度合いがとてつもなく深くなっていたことと、淡々とキリキリ進んでいくさまがたまらなくリアルだったからなのでしょう。ですが、この先を抜ければ光が見えるのです。それがわかっていたからこそ目をそむけることなく全てを見届けることができた、という点は確かにあります。失神することがすなわち死に直結するような状況下、アーロンは本当によくやってのけたなと安堵で胸がいっぱいになりました。ここから加速度的に世界は色彩を取り戻し、場内には高らかな生命賛歌が響きわたってきます。それがSigur Rosの"Festival"です。

タイミング的にも選曲的にも何もかもがベストで、心が浄化されたような気持ちになり自然と安堵の涙が溢れてきました。元気な姿のアーロン・ラルストン本人が登場するのですが、その現在の姿がまた輝かしいのですね…妄想を自らの手で現実のものにした、という事実に心をガツンと殴られたかのような衝撃を受けました。生きていれば運命は切り拓くことができるんだ、諦めないことが肝心なんだということを改めて胸に刻まれるような、そんな思いを抱きました。
とまあ長々と書き連ねてしまいましたが、僕の文章などではこの映画の本物の魅力を一割も表現出来ていないと思います。ここまで読まれた方で仮に未見の方がいらっしゃるなら、とりあえず劇場に足を運んでみてください。美しい映像や音楽を大スクリーン大音響で体感し、周りの観客と痛みや喜びを共有することによりこの映画の本質をより強く実感できるのだと思いますから。

(10・米・英 94分 監督:ダニー・ボイルスラムドッグ・ミリオネア』主演:ジェームズ・フランコスパイダーマンシリーズ』)

素晴らしき哉、人生! -It's a Wonderful Life-


今日も今日とて午前十時の映画祭へ。最近は新作よりも旧作を数多く映画館で観ているような気がします。これまで知ることのなかった人生に刻まれるレベルの名作にたくさん出会えているので本当にありがたい事だと思います。話を戻しましょう。この作品はずっと劇場で観るのを待ち望んでいた一本なので初日に行ってきました。客席は満員で、終わったあと場内にとても幸せそうな空気が漂っていたのが印象的でした。(@TOHOシネマズなんば)
二年前ほどにDVDで初めて観て以来、僕はことあるごとにこの作品を観てきました。何回も何回も観ているので展開や結末など全て頭に深く刻み込まれているにもかかわらず、改めてスクリーンで観てもやはりその感動は色褪せるどころか重みと深みを増して胸にどっと押し寄せてきたのです。という訳で始終ニヤニヤ顔の涙目という歪んだ顔のままスクリーンを見つめていました。しかし心中はただただ幸せでうれしい気持ちでいっぱいになっていました。
まず登場人物があたたかい。本当にみんな魅力的。主人公のジョージを演じるジェームズ・ステュアートのアメリカの良心とも言える顔つきがほんとうに見てて安心できます。友人のサム(ヒーハー!というおどけた仕草がチャームポイント)、薬屋のガウアーじいさんや叔父などの完全なる脇役すらもこの世界においてはみんな光り輝いています。ですが、やはり何よりもお気に入りなのはジョージの守護天使クラレンスです。

登場するのは終盤も終盤なのですが、その愛らしい見た目と言動で強い強い印象を残します。天界と交信する際にきらきら星の音楽が流れるのですが、これがまた可愛らしいのです。灰色の世界にも色をもたらしてくれるすてきな天使です。彼が初めてスクリーンに姿を表した瞬間から涙が溢れて止まらなくなってしまいました。

この作品、公開当時は興行的にも惨敗で著作権もすぐに切れパブリック・ドメインの作品となったので、アメリカではテレビで放送されまくっていたらしいのですね。そしてそのテレビ放送を観た人々から次第に支持を集めるようになり、今では毎年必ずクリスマスシーズンに放送されるアメリカの国民的映画となっているそうです。このあたりの過程はこれまた僕の愛してやまない一本である『ショーシャンクの空に』と重なる部分があるように思います。この作品を映画館で観ることができて本当に幸せな体験をできたと思います。

(46・米・130分 監督:フランク・キャプラ或る夜の出来事』主演:ジェームズ・ステュアート『めまい』)

フォロー・ミー -Follow Me-


ほぼ毎週足繁く通っている『午前十時の映画祭』企画のうちの一本。去年観逃してしまったので、今度こそはと言うわけで観てきました。(@TOHOシネマズ梅田)
この作品、去年まではソフトリリースされていなかったのですね。なので僕もこの企画でスクリーンに返り咲くまで存在自体を知らなかったのです。が、英国の映画らしく機知に富み、音楽もロンドンの街並みも何もかもが可愛らしく美しい、愛すべき一編となっておりました。ソフトも無事リリースされて、この作品が人の目に触れる機会も増えたのであろうと思うと嬉しくなってしまいます。観ることができて本当に良かったと思える、とてもあたたかい作品だと思いました。
主要登場人物は三人と少なく、ストーリーとしてもミニマムな仕上がりとなっているのですが、描写がいちいち愛らしくて微笑ましくて上映中ずっと頬に笑みを浮かべながらスクリーンを見つめていました。途中、音楽のみが流れ会話はないまま画面進行するいわばサイレント映画のようなシーンがあるのですが、これも最後のほうできっちりと生きてくるんですね。このあたりは戯曲家としても名高いピーター・シェイファーの脚本に依るものが大きいと思います。ただのコメディ演出と思いきや、ばっちりとストーリーの重要な要素として回収してくるあたりはさすが名作と言われるだけのことはあるな、と思いました。
登場人物もとにかく愛らしいのです。妻ベリンダを演じるミア・ファローの可愛さもさることながら、とりわけ髭面の私立探偵、クリストフォルーのナイスキャラっぷりと愛くるしさはちょっと類を見ないレベルのものだったと思います。おじさんの可愛らしさに身悶えしながら映画を観るのはこれまででもなかなかないことだったと記憶しています。

これはこの映画のサントラのジャケットなのですが、まさにこのジャケットのイメージ通りの映画に仕上がっていたと思います。ロンドンの名所もたくさん映るので、いつかはロンドンへと行って映画に出てきた場所をマカロン片手に巡ってみたりしたいなあ、と思わせてくれる一本となっていたのでした。
(1972・英・93分 監督:キャロル・リード『第三の男』脚本:『アマデウス』 主演:ミア・ファローローズマリーの赤ちゃん』)

大脱走 -The Great Escape-

今年の『第二回午前十時の映画祭 赤の50本』、トップを飾る作品としてジョン・スタージェス監督、スティーブ・マックイーン主演『大脱走』をTOHOシネマズ梅田にて鑑賞してきました。

実話ベースの物語で、あらすじは言ってしまえば「男達が監獄にぶち込まれ、脱走を計画し、脱走し、その後…」といった非常に単純なストーリーと言えるのですが、そこはやはり名画の力量、一筋縄ではいきません。濃いい密度の物語を濃いい顔の男達が約三時間近くみっちり濃い演技で演じきった非常に濃厚な作品だったのですが、やはり気に入った映画にはよくあることで全く飽きることなく最初から最後までしっかりスクリーンを見つめっぱなしで、体感時間も相当短く感じられました。二転三転する物語に翻弄されっぱなしで、気づけば客電が点灯していました。キャラもみんな凄く立っていて、脱走を計画している時や地下にトンネルを掘るときのドキドキ、昂揚感はここ最近味わったことがないぐらいに素晴らしいものでした。それと同時に看守に掘っていたトンネルが見つかってしまったときの焦燥感や失望感も凄かったですね。もう完璧に囚人たちに感情移入しきってずっと観ていました。脱獄モノの割には監獄の陰湿さや悲惨さなどはあまり描かれることなく、けっこうコミカルな要素が多かったことも印象に残っています。緑広がる草原をヒルツ(マックィーン)の駆るバイクが走り抜けていくシーンの爽快さもスクリーンで観てこその映画的快楽が詰まっていました。このパノラマ的光景をスクリーンで初めて観たときの観客の感動はこの上ないものでしたでしょう。現代に生きる僕が観てもとてつもない快楽を味わうことができたのですから。
映画やドラマなどで見たことのある脱獄の手法のルーツなども知ることができて満ち足りた気分です。過去の作品でも観てみるとこういう新しい発見があるから映画を観ることはやめられないですね。

あと、やはり特筆したいのが音楽の素晴らしさ。

この胸の踊るようなマーチ!永遠に残る名調子ですね。おそらくCMや番組のBGMなどで聴いたことがあるはずです。名画の音楽というものは映画音楽の枠を超えて愛されるようにもなるのだなあと実感したりもしました。

という訳で、自分の住んでる地方にフィルムが回ってきたら絶対に鑑賞したほうがいいと断言します!!やはりこの映画祭、名作をスクリーンで観るというのはそれ自身が素晴らしい行為なんだと再確認できる企画なんですほんとに。

冷たい熱帯魚

2/3木曜日、ティーチイン付き先行上映@シネ・リーブル梅田に行ってきました。平日の夜遅い回の上映にもかかわらず客席はほぼ満員、いかにもな映画好きが場内に集い、期待と興奮に満ちた一種異様な熱気を漂わせながらの上映開始となりました。
本編の前にまず今秋上映予定だと言われている、今回観た『冷たい熱帯魚』に続く園監督の新作『恋の罪』の特報が流れました。この『恋の罪』も相当に衝撃的な内容であろうことはその短い映像からでも伺えましたので、今から非常に正式公開が楽しみな作品となりました。

さて、ここから本編の『冷たい熱帯魚』について。
まずやはり特筆すべきであろう、キャスト陣の圧倒的な演技。殺人鬼村田を演じるでんでんの人の良さそうな非常に人懐っこい顔が、冷酷な殺人者の顔つきに変貌していくさまなどは心凍るものがありました。ところがこの村田、恐ろしいことに人を殺す過程、または死体を解体する作業などとてつもなく残酷なことをやらかしている最中にもにこやかに笑みを浮かべたり、場違いなギャグ、セリフを泰然といってのけるのです。その、あまりにも極限的な状況とシュールな発言との大きなギャップに観客は思わず笑ってしまいます。現に僕もあらゆる局面において大笑いしていました。不謹慎だとか悪趣味だとかそういう感覚は不思議と浮かばなくて、極限状態に追い込まれるとなんだか笑えてしまうんだな、なんてことをずっと考えながら観ていました。もちろん、村田のこれまたクレイジーな嫁を演じる黒沢あすかの鬼気迫る、かと思いきや妖艶だったりする極上の悪女っぷりも素晴らしすぎるほどに素晴らしかったですし、村田に染め上げられてゆく吹越満の頼りないいかにもダメな父親、夫っぷりもすごく生々しくリアルなものがありました。社本の妻を演じる神楽坂恵は、少し演技が硬い部分もあったかなと見受けられる点もあったのはあったのですが、そのぎこちなさ、硬さも彩りのない生活に疲れた嫁、母、女としてこれまたリアリティが出ていて結果的には大きなプラスだったのではないかなと思ったりもしました。園監督の話によれば、前述した次回作の『恋の罪』(こちらにも神楽坂恵は出演している)ではさらにブラッシュアップされた演技を見せているということでこれまた期待が高まります。女優さんたちがバンバン脱いで濡れ場もガッツリやって、こんなに生っぽい邦画を観たのも久々だったのでなかなかにその面でも衝撃は大きかったです。近ごろの生っちょろいテレビ局主導の映画に対し真っ向からつばを吐きかけ、「これぞ映画だ、テレビで放送なんかできねえだろ!」と宣戦布告しているかのような映画でした。いやあ確かにこれは地上波放送なんてできたものではないですね。他人にも無邪気に「面白かったよ!」などと話題に上げるのも躊躇われる内容なのは確かです。血もドバドバ出ますし、下世話ですし暴力に満ち溢れていて希望など一欠片もないですしね。“分かっている"人とじっくり腰をすえて話したくなる、そんな映画でした。

まあそういった意味で易々とおすすめするのはちょっと違うのかもしれませんが、少なくとも僕個人的にはこの映画を欠かして今年一年の映画を総括して語るというのは考えられないレベルの映画だと思います。「我こそは映画好き!」と自負する方は是非にでも観るべし!

午前十時の映画祭

一週間後の2月5日より、あのお祭りがより豪華にボリュームアップして帰ってきます。その名も『午前十時の映画祭』

この企画は過去の名作をスクリーンで今一度上映して生粋の映画ファンはもとより、映画好きでない若い層をもファンとして育て上げようという理念に基づいて企画されたものであり、そのラインナップも非常に名作・傑作ぞろい、とても楽しい映画祭となっております。何よりも素晴らしいのは大人1000円、学生500円という非常に良心的な価格設定。上映館数も第一回の時の25館から倍に増え、全国50館となりました。それでも網羅しきれてはいないのですが、そこは今後続いてゆくであろう第三回、第四回に期待しておくこととしましょう。午前十時の一回しか上映されないというのが難点でもありましたが、第二回からは東京のみゆき座と大阪のTOHOうめだの二館のみですが赤の作品群(第一回で上映されていた50本)を終日上映してくれるので、観るチャンスが格段に増えたと言っても過言ではありません。
今回は第一回の時に果たせなかったコンプリートを目指してみようかななどと思っています。好きな映画を観ることだから頑張るのも全然苦とはなりませんしね。ひとまず二月は赤の作品群から大脱走、戦場にかける橋、ニュー・シネマ・パラダイス、映画に愛を込めて アメリカの夜の四本を、さらに青の作品群からET、シザーハンズ、バックトゥザフューチャー、アメリカン・グラフィティの四本、計八本をこの映画祭で観ようかという計画を立てています。なんだか胸が弾むようなラインナップではありませんか?バックトゥザフューチャーとニューシネマパラダイスは個人的にオールタイムベスト級の作品であるということと、どちらもソフトは持っているのですがスクリーンでは観たことがなかったのとが重なってとても楽しみなのです。やはり心にずっしりと残っている作品を劇場の音響と映像で見ることができるというのは素晴らしいことですから。

いずれにせよ2月5日の開幕が楽しみです。