特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

映画『コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-』

 毎度のことながら週末が過ぎるのは早い、です。楽しいことはあっという間に過ぎてしまうのは不思議です。とりあえずゴールデンウィークまでの1週間、『我慢』です(笑)。
 人生は我慢の連続だな(笑)。


 と、いうことで、新宿で映画『コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話-

 1968年のアメリカ・シカゴ。ベトナム反戦運動が盛んになり、民主党大会でも逮捕者が出る時代。弁護士の夫と高校生の娘と共に幸せに暮らす専業主婦・ジョイ(エリザベス・バンクス)は、2人目の子供の妊娠が原因で心臓の持病が悪化する。夫妻はジョイの生命を守るため、医師に中絶を相談するが当時は法律的に許されておらず、病院の評議会も中絶を却下する。そんな中、街で偶然見つけた張り紙を頼りに、違法だが安全な中絶手術を行う女性たちの組織「ジェーン」(ジェーン・コレクティブ)にたどり着く。彼らの手助けにより命を救われた彼女は、自分と同じ状況にある女性たちを救うため、ジェーンの一員として活動し始めるが。

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 初監督を務めるのは『キャロル』などの脚本を担当したフィリス・ナジー、プロデューサーには『バービー』や『ダラス・バイヤーズ・クラブ』などに携わってきたロビー・ブレナーが参加。主人公を最近は監督にも進出している女優、エリザベス・バンクス、ジェーンのリーダーを『エイリアン』シリーズのシガーニー・ウィーヴァーが演じています。

 余談ですが、昨年公開されたエリザベス・バンクスの初監督作品『コカイン・ベア』、くだらないけど、なかなか良くできた作品でした。麻薬の密売人が飛行機から落とした大量のコカインでキマッたクマが大暴れする。という実話(笑)をもとにした作品でした。ボク、動物モノは必ず見るようにしているんです。
 


 この映画、主人公は架空ではありますけど、これもまた実話ベース、いくつもの実話を組み合わせて作られたお話です。
 舞台は1969年のシカゴ。ベトナム反戦運動が盛んな時代です。シカゴで行われた民主党大会も流血の惨事になりました。
 映画は、目の前で警官に殴られる若い反戦活動家を見て主人公のジョイがショックを受けるところから始まります。弁護士の妻、専業主婦として優雅に暮らしていたジョイはそんな世界があるとは夢にも思わなかったからです。

 当時は職業を持っている女性もほとんどおらず、女性は自分名義のクレジットカードや銀行口座も持てなかった。現在のように何でも金に換算される新自由主義とは違うにしても、資本主義とは思えないような世界です。ほんの50年前の話です。
 何よりも女性には妊娠中絶を決める権利がなかった。母体の安全や暴行を受けたなどのやむを得ない事情があっても、原則として中絶は違法でした。

 第二子を妊娠したジョイは心臓を患い、出産した場合、命の危険が50%もあることを医師から告げられます。夫も同意してジョイは中絶を希望しますが、それを決定する権限がある病院は許可しない。ちなみにメンバーは全員おっさんとジジイ、男性です。

 途方に暮れるジョイですが、電話ボックスに貼られていた『妊娠?困ったらジェーンに電話して』という文言と電話番号が書かれた貼り紙に気が付きます。

 彼女が電話すると、そこは女性の安全な中絶を援助する秘密の女性団体’’ジェーン’’でした。もちろん違法な活動団体です。

 秘密を守るため目隠しをさせられた彼女は’’ジェーン’’の手助けで医者の所へ連れていかれ、安全に中絶手術を受けることが出来ました。

 それをきっかけに彼女は’’ジェーン’’の活動に引き込まれていきます。
 市民運動など全く縁がなかった彼女でしたが、現実に困っている女性が沢山居ること、彼女たちが助けを求めていることを知ると、放ってはおけなくなったのです。彼女のような恵まれた立場の主婦だけではなく、貧困家庭の黒人女性、親に言い出せないティーンエージャー、事情は様々です。

 女性の送り迎えのドライバー役から始まり、中絶手術の手伝い、やがては自ら中絶手術を行うようになります。

 今までは高額の費用を取る闇医者に医療するため助けられる人の数には限りがありました。特に黒人、ティーンエージャーなど本当に助けが必要な人を救うことができない。

 自分たちで安全に施術を行うことができれば、より多くの人たちを助けられるようになります。

 専業主婦だったジョイが突然 家を空けるようになって、夫や娘はいぶかるようになります。やがて彼女の秘密は家族にも知られるようになるのですが- - -

 

 ジョイはより多くの女性たちを救うため、また自分の生活のため、ある決断をします。

  やがて73年 女性たちの活動が実を結び女性の中絶の権利は保証されるようになります。’’ジェーン’’もめでたく解散。彼女たちは1万人以上の女性の中絶を助けましたが一度も事故を起こさなかったそうです。

 60年代ポップスが多用され、終始 明るい雰囲気でドラマは展開されます。全然暗くならない。そこは特筆すべき点です。
 シガニー・ウィーバーが’’ジェーン’’のリーダーを好演していますが、団体の中の路線対立を話し合いで乗り越えるところなど非常に興味深い。女性たちを助けるという目的のためにお互いが妥協点を探していく。自分の『正しさ』ばかりに固執して、直ぐ内ゲバが始まる日本の運動体や政党とは大違いです。

 国家は信用しない。他人に頼らず自分の力で自分の身体を守ろうとした実話をもとにしたお話は同じプロデューサーが手掛けた『ダラス・バイヤーズ・クラブ』によく似ていると思いました、

 この映画でも女性たちがあくまでも独立独歩であるのも気持ちがいい。専業主婦だった主人公と保守的な価値観の家族との関係が変わっていくところも感動的です、民主主義は自分たちで作っていかなければ存在しないことを、この映画は声高ではないけれど雄弁に語っています。

 また主人公が最後に下す決断も素晴らしいと思いました。まさに大人の判断で、精神論に引き摺られる日本の市民運動とは随分違います。

 映画が作られたのは22年。ところがその後トランプに選ばれた保守派の最高裁判事たちが中絶手術を禁止する州の法律は合憲である、という判断を示します。テキサスなど一部の州では中絶ができなくなりました。

 それに対して女性団体だけでなく、オラクルやセールスフォース、ディズニーなど一部の大企業も反対声明を出したり、手術が可能な他の州への旅費支給を行うなど従業員の中絶を支援していますが、州によっては支援者まで罪に問うような法律が施行されています。

 時代はまた、逆戻りです。どうなっているのでしょうか。統一教会日本会議の手先の政治家がのさばっているのですから、似たようなことは日本だってやりかねない。夫のDVがあっても女性や子供が逃げることができなくなる可能性がある共同親権なんかその典型です。

 過去に女性たちがどうやって問題を乗り越えていったのか、思い出すことに意味がある時代になってしまいました。酷いものです。そういうことも含めて、今見るべき良い映画だと思います。結局 自分たちで戦い続けていないと民主主義は維持できないということが良く判りました。


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『デジタル小作人』と『朧月夜の筍』

 ベランダから見た夕空がきれいでした。澄んだ青色とオレンジが入り混じっているのは、寒さが緩んだ解放感と牧歌的な雰囲気が入り混じっているようにも見える。
 この歳になるまであまり気にもしなかったけど(笑)、春の宵は美しいです。

 


 岸田の 訪米に合わせてマイクロソフトが日本に2年間で4400億円、グーグルが1500億円も投資すると発表しました。昨日はオラクルが10年で1.2兆円の投資、少し前にはアマゾン(AWS)が5年で2兆円もの巨費を日本に投資する、と発表しています。

www.watch.impress.co.jp
www.jiji.com

www3.nhk.or.jp

 政府は『2030年までに対日直接投資残高を100兆円へ高めることを目標』にしています。このことについてはいずれ別の機会に書きますが、今回の巨額投資も岸田は自分の手柄にしたいのでしょう。

jp.reuters.com

 ここ数年、『デジタル小作人』という言葉を良く聞きます。アメリカの巨大IT企業に利用料を吸い取られる日本を『デジタル小作人と言うのです。

www.nikkei.com


 グーグルやアップルのスマホだけでなく、社会のデジタル化、クラウドサービスや生成AIなどの利用が進むと、GAFAを中心とするデジタル企業への利用料がかさんでいきます。しかも殆どの支払いはドル建てですから、今の円安は余計に効きます。
 数年前 ボクも勤務先の情報システムを全てAWSへ移したのですが、その時は円安がここまで酷くなることまで考えてなかった(泣)。

 日本のデジタル関連の赤字は23年に5.6兆円、という予測が出ています↓。実際 財務省が2月8日に発表した国際収支統計によるとデジタルサービスの赤字が2022年の4.8兆円から2023年には5.5兆円に膨れ上がったそうです。
 日本人は毎年 消費税2%くらいをGAFAに上納しているわけです(笑)。

 企業だけではありません。省庁や地方自治体だって、全情報システムを25年度末までに政府が作った『ガバメント・クラウド』というクラウドに移そうとしています。クラウドとは自分でコンピュータを購入するのではなく、データセンターに置かれたコンピュータを色々なユーザーが共同利用するサービスのことです。


ガバメントクラウドとは?自治体が得られるメリットや仕組みを解説|クラウドテクノロジーブログ|ソフトバンク

 ガバメント・クラウドは最初はアマゾンのAWSだけでしたが、グーグル、マイクロソフトやオラクルも対象に追加されています。日本企業も最近一社(さくら)が追加されましたが、技術的にも市場シェアでも全く問題になりません。

www.nikkei.com

 ついでに公立の小中校も生徒の出欠、成績をクラウドへ移して管理するそうです(笑)。

www.nikkei.com

 これからは日本の政府も自治体も学校も、情報システムとデータはアメリカ企業のデータセンターに置かれることになります。もともと、ウィンドウズを使っている以上 マイクロソフトの奴隷でしたが(笑)、もっと甚だしい状況になってきた。
 まあ、アメリカ軍もFBIもCIAもシステムはアマゾンやマイクロソフトクラウドの上で動いているから、日本だけの問題ではないのですが。

 60年安保の時代から今に至るまで、日本のオールド左翼の皆さん、それに三島由紀夫のような純朴な右翼(笑)はよく日本の独立とか対米自立と仰います(笑)。でも、コンピュータのこと一つとっても対米自立とか言ってもお笑い草、であることが判ります。ここまで差がついたら、どうにもならない。オールド左翼の発想は昔の日本軍と一緒で、スローガンや精神論だけで現実なんか見ちゃいない(笑)。

 先のコロナの際も政府が作ったワクチン予約システムがうまく動かず、アメリカの某IT企業がシステムをボランティアで無料提供、あっと言う間に動かしたことがありました。みっともないので流石にニュースでは流れませんでしたが(笑)、日本の実力なんて、その程度です。

 生成AIだって同じことで、全てアメリカ企業のクラウドの上で動いています。今後 生成AIが上司になったり、政治をつかさどることも充分あり得ると思いますが、AIの利用が増えればGAFAへの支払いはどんどん増えていきます。

 また、そのAIがどのような性質を持つかもブラックボックスのままです。どんなAIだって読み込ませるデータ次第で政治的バイアスがかかります。例えばチャットGPTは自由主義で左翼的、メタ(フェイスブックやインスタ)のLlamaは権威主義で右翼的だそうです↓。やろうと思えば、AIの政治的傾向は幾らでもコントロールできます。


www.technologyreview.jp
 
 ちょうど今朝 メタがそのLlamaを無償開放するというニュースが流れてましたが、おっかない話です。

www.nikkei.com


 いずれにしても(笑)日本はデジタル小作人、というのは正に正鵠を射た例えです。斎藤幸平が言うように、確かに『召使い』って言い方もある(笑)。


 余談ですが、日本がデジタルで勝てない理由として、先ほどの日経の記事は『日本は不確実性を回避する傾向がロシアなどに続いて高く、世界で2番目に完璧さを好む国だ。逆に変化を恐れない傾向が顕著だったのは北欧。デジタル競争力ランキングの上位に名を連ねる。』と、言っています。スイスの有名ビジネススクールの調査です。

 例えばフィンランドは『国を代表する製造業だった携帯大手ノキアスマートフォンとの競争に敗れると、フィンランド政府は延命ではなく創造的に「壊す」ことを選んだ。巨艦を離れた技術者の新興企業立ち上げを支援し、産業の新陳代謝有機的に起こす戦略に国が舵(かじ)を切った。

 寂れた商店街や米作に縋りつく農協を潰すことすらできない日本とは全く対照的です(笑)。
 
 ここまで来ると政府がどうの、と言うより、日本人の民度の問題のように思えます(笑)。
 一つ言えるのは具体策もなしに対米自立なんて悲憤慷慨(笑)しているようじゃどうにもならないってことです。そんなくだらないことにかまけているヒマがあったら、環境変化にどうやって対応し活用するかを考えた方が良い

 かって吉田茂が『アメリカ軍を日本の用心棒として使えばいい』と言っていたように、環境変化に応じてどうやって自国の利益を図るかという戦略的な発想は今の野党やオールド左翼にはない
 ボクは絶対反対ですが、先に挙げた対日投資残高100兆円のような戦略的な発想は自民党の一部や役所にはある。そこが与野党の差です。
 60年代末から60年間思考停止したまま、お経のように『平和』、『対米自立』と唱えるだけで具体策はない(笑)。だからダメなんですよ。国民だって、そんなバカに政権を任せようとは思わない。

 今だったら中国の脅威だけでなく、AIやデジタルの覇権を海外に握られた中で、資源もなく少子高齢化の日本がどうやって生きていくのか、そういう発想が必要です。それこそが安全保障、平和を守る事でもある。

 円安じゃ日本の経済は弱まる一方だし、いずれ安全保障だって危うくなる。ボクの勤務先の人がコペンハーゲンへ出張した際 『デンマークではなるべく石油を輸入しなくて良いようにするために都市部では多くの人が自転車移動をしている』と、驚いていました。通貨安を防ぐために、普段からそれくらいの緊張感がある訳です。

 デジタルを活用しながら、如何に効率的で高付加価値の産業を作っていくか。そのためには農業のように、農協や技能実習生頼みの旧態依然とした構造を変えなければならない産業も出てくるでしょう。ゼネコンを頂点とした建設業界もそうです。規制に守られているにもかかわらず、多くの会社が赤字になっている新聞やテレビなどマスコミも解体・再編でしょう。

 一昨日も経産省が書店の振興策を作る、なんて言ってましたが、税金の無駄でしかない。ボクは特徴があるリアル書店は残ってほしいと思うけど、経産省が何かやってうまくいくとは思えない。全国に無駄金をばらまいた商店街と一緒です。

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 これらは地方経済をどのようにしていくか、という問題でもあるし、原発の問題でもあるし、女性の社会進出の問題でもあります。摩擦は避けて通れない。
 頭の悪い奴には理解できないかもしれませんが、男女の賃金差を固定化する第3号被保険者制度や配偶者特別控除も廃止すべきです。

 その結果がこれ、なんだから。

news.yahoo.co.jp


 そのためにはまず、政治的立場がどうより、事実を直視し、まともな議論が出来るようにならないと前へ進みません(笑)。

 産業のスクラップ&ビルドを進めて、国際競争力がある高付加価値の産業や経済を作っていくことが日本の最良の安全保障です。それこそが、本当の平和主義だと思います(笑)。


今年の桜 もそろそろ終わりです。葉桜を眺めながら、

 また、近所の和食屋へ行ってきました。料亭の菊乃井の元料理長が独立して開いた小さな店です。

 勿論 最初はシャンパン。何で店で飲むと美味しく感じるんでしょうか(笑)。

 突き出しは朝取れの筍と海鼠、こごみを木の芽で和えたもの。

 前日の朝に京都で掘った筍だそうです。

 八寸。生のホタルイカ紹興酒漬け、桜の葉を巻いた鯛寿司、カラスミを散らした菜の花、初物の枝豆、みょうがの醤油漬け、そら豆etc

 お造り。中央から時計回りに、べったら漬けのペーストを載せたヒラメ、黄身醤油を載せたマナガツオ、煎り酒と一緒に食べるホウボウ、生のホタルイカのペーストを載せたアオリイカ、北海道の毛ガニ。真ん中は新玉ねぎの酢漬け。

 お造りにはやっぱり日本酒です。日本酒はボクにはアルコール度数が高すぎるのですが、こういう時は仕方がありません(笑)。

 お椀。先ほどの筍がどっさり。上にはこごみや独活などの山菜。この時期の筍は甘いそうです。朝取りだからあくをとるための下茹でをせず、そのまま使えるから甘みが残っているそうです。春先の柔らかい穂先と違って、4月の大きな筍なんて敬遠していましたが、この筍は確かに甘かった。

 箸休めは土佐酢のゼリーを載せたタコと黒豆。

 。小田原で獲れたものだそうです。昔は立派な鰆と言えば常磐モノでしたが、原発事故以来 常磐モノという言葉は死語になってしまいました。付け合わせは筍の姫皮煮。

 中がレアなのがポイント(笑)。

 甘鯛。これも小田原で獲れたもの。珍しいそうです。この時期にも関わらず立派な甘鯛でしたが、ボクにはちょっと塩が足りなかった。下にはアスパラのペースト。

 筍と桜エビ、花山椒の炊き込みご飯。うーん、良い香りです。筍も白アスパラと同じで、元来は冬に蓄積した食べ物の解毒のために食べるんだそうです。

 お茶碗に盛ると品が良くなります(笑)。

 付け合わせは筍の土佐煮と筍のすり流し、お新香。筍のすり流しは、ポタージュみたいで美味しかった。

 最後はいつも通り、出来たてのわらび餅

 一流料亭だったら複数の料理で材料が被るのはあり得ませんが、筍もこれくらい食べると満足感があります。ボクはちょこちょこ出てくるより、ドカッと材料を味わう料理の方が好き(笑)。今回の筍は甘くて、美味しかった。

 店を出ると、暖かな春の夜、朧月夜でした。

 葉桜と朧月。今年の桜もお終いです。

そしてボクは途方に暮れる(ポリーニ氏の逝去)と映画『オッペンハイマー』

 週末は温かなお天気でした。夏日とか言ってましたが、いかにも春らしい麗らかな陽気でした。マンションの中庭も緑がまぶしくなってきました。


 現代最高のピアニストと言われるマウリツィオ・ポリーニ先生がこの3月に亡くなっていたそうです。この番組を見るまで知りませんでした。18年の最後の来日では『随分弱っている』とは思いましたが、ああいう芸術家は煩わしい世事に関係なく長生きすると思ってました(笑)。享年82歳。


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 この番組で見た若き日のポリーニはボクが生演奏で見た60代、70代の物とは全く違い、超絶技巧に加えて激しさが感じられるものでした。40年以上前ですから映像はショボかったけど、火が出るような物凄い演奏でした。

 それが歳をとるにつれて技巧と成熟のバランスが取れ、演奏が変わってきます。2012年に見た、演奏が白熱するにつれ、まるで天空に立ち上っていくかのようだったベートーベンの23番『熱情』は忘れられません。

spyboy.hatenablog.com

 昨年のムーンライダーズ岡田徹氏の逝去もそうでしたが、今まで心の支えになってくれていた作品を生み出していた人が次々と亡くなっていくのは辛いものです。それこそ途方に暮れてしまう
 嫌な事ばかりの世の中で芸術こそが慰めでもあり、希望です。ポリーニ氏の素晴らしい演奏を聴くことが出来て、ボクは幸せでした。
 導く灯を失っても、人間は生きていかなくてはいけません。RIP

和田誠氏がポリーニ氏のイラストを描いていたとは知りませんでした。


 さて、ファストフードなんか嫌いなので殆ど入ったこともありませんが、ドトールもボイコット決定です。

 社外取締役の収入はプライム市場の企業の平均だと年1000万くらい。中には数千万なんて人もいる↓。毎月1回くらい役員会に出席するだけだから、いくつもの企業を掛け持ちできる。社外取締役こそ『日本の“最”上級国民』と言われています(笑)。ま、立派な人も多いし、大多数はちゃんと仕事をしているんでしょうし、他人の収入をどうこう言う気もありません(笑)。


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 女性役員を増やさなくてはいけないから、上場企業の社外取締役として女性の著名人が引く手あまたなのは判ります。だけど嘘つきジャーナリストを起用するなんて、ドトールも見識を疑います。永遠にさようなら(笑)。


 と、いうことで 六本木で映画『オッペンハイマー

 理論物理学を学ぶJ・ロバート・オッペンハイマーキリアン・マーフィ)はイギリス、ドイツへ留学、博士号を取得した。ナチス原子爆弾の開発を進めることをアインシュタイン博士が警告するなか、アメリカでも極秘プロジェクト「マンハッタン計画」が始まる。組合運動や共産党員との交友があるオッペンハイマーだったが、計画に参加し、世界初の原子爆弾の開発に成功する。しかしナチスが降伏したにも関わらず、実際に原爆が広島と長崎に投下されるとオッペンハイマーは苦悩する。冷戦時代に入り、核開発競争の加速を懸念した彼は、水素爆弾の開発に反対の姿勢を示したことから今度は米政府から追い詰められていく。

www.oppenheimermovie.jp

 今年のアカデミー賞を総なめにしたことで話題の作品です。アメリカ本国のプロモーションで原爆を揶揄した?ことが日本で炎上、配給会社の東宝東和が降りてしまったことでも話題になりました。日本公開が半年以上遅れ、この時期になったのもその影響だそうです。

 日本は唯一の被爆国ではありますが重慶などの爆撃で大勢の市民の犠牲者を出す国際法違反を犯した点ではアメリカと一緒です。ショボいとはいえ、原爆開発にも着手していた。偉そうに原爆被害を訴えるような資格はありません。映画を見てもいないのに騒いでいた連中って、どういう頭の構造をしているのでしょうか。そんなくだらないことで騒ぎになるなんて、日本人の頭脳の劣化具合、精神年齢の幼さには呆れるばかりです。

 監督はクリストファー・ノーランアイルランド独立戦争に引き裂かれた兄弟をケン・ローチ大先生が描いた『麦の穂をゆらす風』のキリアン・マーフィオッペンハイマー博士を演じる他、エミリー・ブラントマット・デイモン、アカデミー助演男優賞をとったロバート・ダウニー・Jr、今を時めく演技派、フローレンス・ピューなどのオールスター映画でもあります。


 難解、複雑、という前評判でしたが、ボクは非常にわかりやすい映画だと思いました。
 最初にいきなり『人類に火をもたらしたプロメテウスはその代償に一生拷問の責め苦を受け続けた』という一節が引用されるからです。上映時間3時間のこの映画の内容はこの一節に集約されています。

 お話は3つの話が平行で進んでいきます。原爆を開発するマンハッタン計画オッペンハイマーの歩み、54年にオッペンハイマーのスパイ容疑を取り調べる査問会、59年のオッペンハイマーを追い落としたストローズ原子力委員会委員長の閣僚就任にあたっての議会公聴会

 これさえ判っていれば問題ない。安心して楽しめる映画でした。

 原爆開発は当初はナチの方が進んでいたんですね。オッペンハイマーがドイツに留学した描写がありましたが人材は豊富だったし、研究成果も蓄積されていた。ナチが先に原爆を開発していたら この世の終わりです。オッペンハイマーが原爆開発に死力を尽くしたのは当然のことです。

 伝記映画だから当然ですが、映画の中心はオッペンハイマーの描写です。
 彼はある意味 欠陥人間です。科学者としてはある意味致命的で実験は下手くそで理論、閃きだけ。

 私生活では人間には興味がないどころか、自分の子どもにすらあまり興味がない。育児放棄しても何とも思わない。精神も弱くて、イギリスへ留学すれば、ホームシックで引きこもる。男女を問わず人の気持ちには全く忖度しないから、敵が多かったのも判ります。おまけに女性関係もかなりかなり問題がある。

 

 天才描写も上手いです。幸い数式描写は少なかったですが、様々な言語をあっという間に覚える超天才ぶりなどはお見事です。

 彼が政治的にあんなにリベラルな人だとは知りませんでした。弟がアメリ共産党員だったのは知ってましたけど、婚約者(フローレンス・ピュー)や奥さん(エミリー・ブラント)が元共産党員で、本人は共産党には頑として入らなかったけど組合活動を主導していた、とまでは思いませんでした。赤狩りに引っかかるのも無理はないかも(笑)。

 オッペンハイマーが果たした役割は技術者というより、プロジェクトリーダーだったんですね。軍側の責任者、グローブス将軍(マット・デイモン)と二人三脚でナチと開発競争を続けた。

 これも意外でした。よく考えればこのような巨大計画ではプロジェクト管理は最も重要で、まさにリーダーの仕事です。しかし、それには技術、理屈が判っていなければ判断できない。オッペンハイマーは科学者の理論や技術を捨て、管理と判断に徹した。ここも勉強になった。

 

 なんといっても見事なのは演出です。
 原爆描写がないなんて文句を言ってる奴は真正のアホでしょう。原爆のテスト=トリニティ実験の恐ろしさは音も色彩も驚くような描写でした。専用のフィルムを開発したって言うんでしょ。これにはびっくりしたし、原爆の実際はこういうことなんだろうと思いました。現実を体験した人は生きていないわけですが。

 それに度々オッペンハイマーを襲った心理的な責め苦。地獄の描写と言っても過言ではない。幻想の中で焼けただれる人間を演じたのは監督の娘さんだそうです。これで文句を言ってるような奴は人間はどこまで頭が悪くなれるのかの限界に挑戦しているんでしょう(笑)。

 あと登場人物の描写もお見事です。元婚約者役のフローレンス・ピューはいつもながらに燃え滾るような演技だったし、

 妻役のエミリー・ブラントも素晴らしい。

 ロバート・ダウニーJRはアカデミーの授賞式でミソを付けましたが、この映画では見事だった。人間、これだけ陰険になれるのか(笑)。

 学者たちの立場も様々でした。ナチスが敗北した後 原爆の使用に反対し、署名を集める学者もいました。オッペンハイマーはその署名には参加しなかった。しかし戦後は水爆の開発に反対し、軍拡競争に警鐘を鳴らした。一方 ソ連の脅威に対抗するために水爆開発を推進するべきという学者や政治家もいました。アメリカが開発しなくてもソ連は水爆を開発するのは明らかだったからです。

 査問会で科学者の誰がオッペンハイマーを裏切り、誰がかばおうとしたか。ドラマとして単純に面白いです。
 あとでググってみるとノーベル賞を受賞するようなすごい科学者だらけです。ノーベル賞を取るような学者でも、いざとなると人間はどういう行動をとるか。現実の仕事などでも良くあることではありますが、考えちゃいますね。

 ちなみにナチから逃れ、アメリカに亡命していたアインシュタインはキーパースンとして出てきますが、ナチの原爆開発を警告した彼は左翼過ぎてマンハッタン計画には参加させられなかったそうです。オッペンハイマーだって、普通だったら参加させないと思います。性別、国籍、政治思想を問わず、優れた頭脳を動員、活用したアメリカにも改めて恐れいりました。

 上映時間3時間は全然長くありません。見事な演出(演技、音、映像)で、これぞ映画、という感じです。原作本は『アメリカン・プロメテウス』というノンフィクションだそうですが、神話的な色合いさえある、見事な作品でした。考えさせるし、面白い。日本人こそ見なければいけない映画じゃないですか。大画面で(笑)。


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