特別な1日  

-Una Giornata Particolare,Parte2-

『デジタル小作人』と『朧月夜の筍』

 ベランダから見た夕空がきれいでした。澄んだ青色とオレンジが入り混じっているのは、寒さが緩んだ解放感と牧歌的な雰囲気が入り混じっているようにも見える。
 この歳になるまであまり気にもしなかったけど(笑)、春の宵は美しいです。

 


 岸田の 訪米に合わせてマイクロソフトが日本に2年間で4400億円、グーグルが1500億円も投資すると発表しました。昨日はオラクルが10年で1.2兆円の投資、少し前にはアマゾン(AWS)が5年で2兆円もの巨費を日本に投資する、と発表しています。

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www.jiji.com

www3.nhk.or.jp

 政府は『2030年までに対日直接投資残高を100兆円へ高めることを目標』にしています。このことについてはいずれ別の機会に書きますが、今回の巨額投資も岸田は自分の手柄にしたいのでしょう。

jp.reuters.com

 ここ数年、『デジタル小作人』という言葉を良く聞きます。アメリカの巨大IT企業に利用料を吸い取られる日本を『デジタル小作人と言うのです。

www.nikkei.com


 グーグルやアップルのスマホだけでなく、社会のデジタル化、クラウドサービスや生成AIなどの利用が進むと、GAFAを中心とするデジタル企業への利用料がかさんでいきます。しかも殆どの支払いはドル建てですから、今の円安は余計に効きます。
 数年前 ボクも勤務先の情報システムを全てAWSへ移したのですが、その時は円安がここまで酷くなることまで考えてなかった(泣)。

 日本のデジタル関連の赤字は23年に5.6兆円、という予測が出ています↓。実際 財務省が2月8日に発表した国際収支統計によるとデジタルサービスの赤字が2022年の4.8兆円から2023年には5.5兆円に膨れ上がったそうです。
 日本人は毎年 消費税2%くらいをGAFAに上納しているわけです(笑)。

 企業だけではありません。省庁や地方自治体だって、全情報システムを25年度末までに政府が作った『ガバメント・クラウド』というクラウドに移そうとしています。クラウドとは自分でコンピュータを購入するのではなく、データセンターに置かれたコンピュータを色々なユーザーが共同利用するサービスのことです。


ガバメントクラウドとは?自治体が得られるメリットや仕組みを解説|クラウドテクノロジーブログ|ソフトバンク

 ガバメント・クラウドは最初はアマゾンのAWSだけでしたが、グーグル、マイクロソフトやオラクルも対象に追加されています。日本企業も最近一社(さくら)が追加されましたが、技術的にも市場シェアでも全く問題になりません。

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 ついでに公立の小中校も生徒の出欠、成績をクラウドへ移して管理するそうです(笑)。

www.nikkei.com

 これからは日本の政府も自治体も学校も、情報システムとデータはアメリカ企業のデータセンターに置かれることになります。もともと、ウィンドウズを使っている以上 マイクロソフトの奴隷でしたが(笑)、もっと甚だしい状況になってきた。
 まあ、アメリカ軍もFBIもCIAもシステムはアマゾンやマイクロソフトクラウドの上で動いているから、日本だけの問題ではないのですが。

 60年安保の時代から今に至るまで、日本のオールド左翼の皆さん、それに三島由紀夫のような純朴な右翼(笑)はよく日本の独立とか対米自立と仰います(笑)。でも、コンピュータのこと一つとっても対米自立とか言ってもお笑い草、であることが判ります。ここまで差がついたら、どうにもならない。オールド左翼の発想は昔の日本軍と一緒で、スローガンや精神論だけで現実なんか見ちゃいない(笑)。

 先のコロナの際も政府が作ったワクチン予約システムがうまく動かず、アメリカの某IT企業がシステムをボランティアで無料提供、あっと言う間に動かしたことがありました。みっともないので流石にニュースでは流れませんでしたが(笑)、日本の実力なんて、その程度です。

 生成AIだって同じことで、全てアメリカ企業のクラウドの上で動いています。今後 生成AIが上司になったり、政治をつかさどることも充分あり得ると思いますが、AIの利用が増えればGAFAへの支払いはどんどん増えていきます。

 また、そのAIがどのような性質を持つかもブラックボックスのままです。どんなAIだって読み込ませるデータ次第で政治的バイアスがかかります。例えばチャットGPTは自由主義で左翼的、メタ(フェイスブックやインスタ)のLlamaは権威主義で右翼的だそうです↓。やろうと思えば、AIの政治的傾向は幾らでもコントロールできます。


www.technologyreview.jp
 
 ちょうど今朝 メタがそのLlamaを無償開放するというニュースが流れてましたが、おっかない話です。

www.nikkei.com


 いずれにしても(笑)日本はデジタル小作人、というのは正に正鵠を射た例えです。斎藤幸平が言うように、確かに『召使い』って言い方もある(笑)。


 余談ですが、日本がデジタルで勝てない理由として、先ほどの日経の記事は『日本は不確実性を回避する傾向がロシアなどに続いて高く、世界で2番目に完璧さを好む国だ。逆に変化を恐れない傾向が顕著だったのは北欧。デジタル競争力ランキングの上位に名を連ねる。』と、言っています。スイスの有名ビジネススクールの調査です。

 例えばフィンランドは『国を代表する製造業だった携帯大手ノキアスマートフォンとの競争に敗れると、フィンランド政府は延命ではなく創造的に「壊す」ことを選んだ。巨艦を離れた技術者の新興企業立ち上げを支援し、産業の新陳代謝有機的に起こす戦略に国が舵(かじ)を切った。

 寂れた商店街や米作に縋りつく農協を潰すことすらできない日本とは全く対照的です(笑)。
 
 ここまで来ると政府がどうの、と言うより、日本人の民度の問題のように思えます(笑)。
 一つ言えるのは具体策もなしに対米自立なんて悲憤慷慨(笑)しているようじゃどうにもならないってことです。そんなくだらないことにかまけているヒマがあったら、環境変化にどうやって対応し活用するかを考えた方が良い

 かって吉田茂が『アメリカ軍を日本の用心棒として使えばいい』と言っていたように、環境変化に応じてどうやって自国の利益を図るかという戦略的な発想は今の野党やオールド左翼にはない
 ボクは絶対反対ですが、先に挙げた対日投資残高100兆円のような戦略的な発想は自民党の一部や役所にはある。そこが与野党の差です。
 60年代末から60年間思考停止したまま、お経のように『平和』、『対米自立』と唱えるだけで具体策はない(笑)。だからダメなんですよ。国民だって、そんなバカに政権を任せようとは思わない。

 今だったら中国の脅威だけでなく、AIやデジタルの覇権を海外に握られた中で、資源もなく少子高齢化の日本がどうやって生きていくのか、そういう発想が必要です。それこそが安全保障、平和を守る事でもある。

 円安じゃ日本の経済は弱まる一方だし、いずれ安全保障だって危うくなる。ボクの勤務先の人がコペンハーゲンへ出張した際 『デンマークではなるべく石油を輸入しなくて良いようにするために都市部では多くの人が自転車移動をしている』と、驚いていました。通貨安を防ぐために、普段からそれくらいの緊張感がある訳です。

 デジタルを活用しながら、如何に効率的で高付加価値の産業を作っていくか。そのためには農業のように、農協や技能実習生頼みの旧態依然とした構造を変えなければならない産業も出てくるでしょう。ゼネコンを頂点とした建設業界もそうです。規制に守られているにもかかわらず、多くの会社が赤字になっている新聞やテレビなどマスコミも解体・再編でしょう。

 一昨日も経産省が書店の振興策を作る、なんて言ってましたが、税金の無駄でしかない。ボクは特徴があるリアル書店は残ってほしいと思うけど、経産省が何かやってうまくいくとは思えない。全国に無駄金をばらまいた商店街と一緒です。

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 これらは地方経済をどのようにしていくか、という問題でもあるし、原発の問題でもあるし、女性の社会進出の問題でもあります。摩擦は避けて通れない。
 頭の悪い奴には理解できないかもしれませんが、男女の賃金差を固定化する第3号被保険者制度や配偶者特別控除も廃止すべきです。

 その結果がこれ、なんだから。

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 そのためにはまず、政治的立場がどうより、事実を直視し、まともな議論が出来るようにならないと前へ進みません(笑)。

 産業のスクラップ&ビルドを進めて、国際競争力がある高付加価値の産業や経済を作っていくことが日本の最良の安全保障です。それこそが、本当の平和主義だと思います(笑)。


今年の桜 もそろそろ終わりです。葉桜を眺めながら、

 また、近所の和食屋へ行ってきました。料亭の菊乃井の元料理長が独立して開いた小さな店です。

 勿論 最初はシャンパン。何で店で飲むと美味しく感じるんでしょうか(笑)。

 突き出しは朝取れの筍と海鼠、こごみを木の芽で和えたもの。

 前日の朝に京都で掘った筍だそうです。

 八寸。生のホタルイカ紹興酒漬け、桜の葉を巻いた鯛寿司、カラスミを散らした菜の花、初物の枝豆、みょうがの醤油漬け、そら豆etc

 お造り。中央から時計回りに、べったら漬けのペーストを載せたヒラメ、黄身醤油を載せたマナガツオ、煎り酒と一緒に食べるホウボウ、生のホタルイカのペーストを載せたアオリイカ、北海道の毛ガニ。真ん中は新玉ねぎの酢漬け。

 お造りにはやっぱり日本酒です。日本酒はボクにはアルコール度数が高すぎるのですが、こういう時は仕方がありません(笑)。

 お椀。先ほどの筍がどっさり。上にはこごみや独活などの山菜。この時期の筍は甘いそうです。朝取りだからあくをとるための下茹でをせず、そのまま使えるから甘みが残っているそうです。春先の柔らかい穂先と違って、4月の大きな筍なんて敬遠していましたが、この筍は確かに甘かった。

 箸休めは土佐酢のゼリーを載せたタコと黒豆。

 。小田原で獲れたものだそうです。昔は立派な鰆と言えば常磐モノでしたが、原発事故以来 常磐モノという言葉は死語になってしまいました。付け合わせは筍の姫皮煮。

 中がレアなのがポイント(笑)。

 甘鯛。これも小田原で獲れたもの。珍しいそうです。この時期にも関わらず立派な甘鯛でしたが、ボクにはちょっと塩が足りなかった。下にはアスパラのペースト。

 筍と桜エビ、花山椒の炊き込みご飯。うーん、良い香りです。筍も白アスパラと同じで、元来は冬に蓄積した食べ物の解毒のために食べるんだそうです。

 お茶碗に盛ると品が良くなります(笑)。

 付け合わせは筍の土佐煮と筍のすり流し、お新香。筍のすり流しは、ポタージュみたいで美味しかった。

 最後はいつも通り、出来たてのわらび餅

 一流料亭だったら複数の料理で材料が被るのはあり得ませんが、筍もこれくらい食べると満足感があります。ボクはちょこちょこ出てくるより、ドカッと材料を味わう料理の方が好き(笑)。今回の筍は甘くて、美味しかった。

 店を出ると、暖かな春の夜、朧月夜でした。

 葉桜と朧月。今年の桜もお終いです。

そしてボクは途方に暮れる(ポリーニ氏の逝去)と映画『オッペンハイマー』

 週末は温かなお天気でした。夏日とか言ってましたが、いかにも春らしい麗らかな陽気でした。マンションの中庭も緑がまぶしくなってきました。


 現代最高のピアニストと言われるマウリツィオ・ポリーニ先生がこの3月に亡くなっていたそうです。この番組を見るまで知りませんでした。18年の最後の来日では『随分弱っている』とは思いましたが、ああいう芸術家は煩わしい世事に関係なく長生きすると思ってました(笑)。享年82歳。


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 この番組で見た若き日のポリーニはボクが生演奏で見た60代、70代の物とは全く違い、超絶技巧に加えて激しさが感じられるものでした。40年以上前ですから映像はショボかったけど、火が出るような物凄い演奏でした。

 それが歳をとるにつれて技巧と成熟のバランスが取れ、演奏が変わってきます。2012年に見た、演奏が白熱するにつれ、まるで天空に立ち上っていくかのようだったベートーベンの23番『熱情』は忘れられません。

spyboy.hatenablog.com

 昨年のムーンライダーズ岡田徹氏の逝去もそうでしたが、今まで心の支えになってくれていた作品を生み出していた人が次々と亡くなっていくのは辛いものです。それこそ途方に暮れてしまう
 嫌な事ばかりの世の中で芸術こそが慰めでもあり、希望です。ポリーニ氏の素晴らしい演奏を聴くことが出来て、ボクは幸せでした。
 導く灯を失っても、人間は生きていかなくてはいけません。RIP

和田誠氏がポリーニ氏のイラストを描いていたとは知りませんでした。


 さて、ファストフードなんか嫌いなので殆ど入ったこともありませんが、ドトールもボイコット決定です。

 社外取締役の収入はプライム市場の企業の平均だと年1000万くらい。中には数千万なんて人もいる↓。毎月1回くらい役員会に出席するだけだから、いくつもの企業を掛け持ちできる。社外取締役こそ『日本の“最”上級国民』と言われています(笑)。ま、立派な人も多いし、大多数はちゃんと仕事をしているんでしょうし、他人の収入をどうこう言う気もありません(笑)。


diamond.jp


 女性役員を増やさなくてはいけないから、上場企業の社外取締役として女性の著名人が引く手あまたなのは判ります。だけど嘘つきジャーナリストを起用するなんて、ドトールも見識を疑います。永遠にさようなら(笑)。


 と、いうことで 六本木で映画『オッペンハイマー

 理論物理学を学ぶJ・ロバート・オッペンハイマーキリアン・マーフィ)はイギリス、ドイツへ留学、博士号を取得した。ナチス原子爆弾の開発を進めることをアインシュタイン博士が警告するなか、アメリカでも極秘プロジェクト「マンハッタン計画」が始まる。組合運動や共産党員との交友があるオッペンハイマーだったが、計画に参加し、世界初の原子爆弾の開発に成功する。しかしナチスが降伏したにも関わらず、実際に原爆が広島と長崎に投下されるとオッペンハイマーは苦悩する。冷戦時代に入り、核開発競争の加速を懸念した彼は、水素爆弾の開発に反対の姿勢を示したことから今度は米政府から追い詰められていく。

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 今年のアカデミー賞を総なめにしたことで話題の作品です。アメリカ本国のプロモーションで原爆を揶揄した?ことが日本で炎上、配給会社の東宝東和が降りてしまったことでも話題になりました。日本公開が半年以上遅れ、この時期になったのもその影響だそうです。

 日本は唯一の被爆国ではありますが重慶などの爆撃で大勢の市民の犠牲者を出す国際法違反を犯した点ではアメリカと一緒です。ショボいとはいえ、原爆開発にも着手していた。偉そうに原爆被害を訴えるような資格はありません。映画を見てもいないのに騒いでいた連中って、どういう頭の構造をしているのでしょうか。そんなくだらないことで騒ぎになるなんて、日本人の頭脳の劣化具合、精神年齢の幼さには呆れるばかりです。

 監督はクリストファー・ノーランアイルランド独立戦争に引き裂かれた兄弟をケン・ローチ大先生が描いた『麦の穂をゆらす風』のキリアン・マーフィオッペンハイマー博士を演じる他、エミリー・ブラントマット・デイモン、アカデミー助演男優賞をとったロバート・ダウニー・Jr、今を時めく演技派、フローレンス・ピューなどのオールスター映画でもあります。


 難解、複雑、という前評判でしたが、ボクは非常にわかりやすい映画だと思いました。
 最初にいきなり『人類に火をもたらしたプロメテウスはその代償に一生拷問の責め苦を受け続けた』という一節が引用されるからです。上映時間3時間のこの映画の内容はこの一節に集約されています。

 お話は3つの話が平行で進んでいきます。原爆を開発するマンハッタン計画オッペンハイマーの歩み、54年にオッペンハイマーのスパイ容疑を取り調べる査問会、59年のオッペンハイマーを追い落としたストローズ原子力委員会委員長の閣僚就任にあたっての議会公聴会

 これさえ判っていれば問題ない。安心して楽しめる映画でした。

 原爆開発は当初はナチの方が進んでいたんですね。オッペンハイマーがドイツに留学した描写がありましたが人材は豊富だったし、研究成果も蓄積されていた。ナチが先に原爆を開発していたら この世の終わりです。オッペンハイマーが原爆開発に死力を尽くしたのは当然のことです。

 伝記映画だから当然ですが、映画の中心はオッペンハイマーの描写です。
 彼はある意味 欠陥人間です。科学者としてはある意味致命的で実験は下手くそで理論、閃きだけ。

 私生活では人間には興味がないどころか、自分の子どもにすらあまり興味がない。育児放棄しても何とも思わない。精神も弱くて、イギリスへ留学すれば、ホームシックで引きこもる。男女を問わず人の気持ちには全く忖度しないから、敵が多かったのも判ります。おまけに女性関係もかなりかなり問題がある。

 

 天才描写も上手いです。幸い数式描写は少なかったですが、様々な言語をあっという間に覚える超天才ぶりなどはお見事です。

 彼が政治的にあんなにリベラルな人だとは知りませんでした。弟がアメリ共産党員だったのは知ってましたけど、婚約者(フローレンス・ピュー)や奥さん(エミリー・ブラント)が元共産党員で、本人は共産党には頑として入らなかったけど組合活動を主導していた、とまでは思いませんでした。赤狩りに引っかかるのも無理はないかも(笑)。

 オッペンハイマーが果たした役割は技術者というより、プロジェクトリーダーだったんですね。軍側の責任者、グローブス将軍(マット・デイモン)と二人三脚でナチと開発競争を続けた。

 これも意外でした。よく考えればこのような巨大計画ではプロジェクト管理は最も重要で、まさにリーダーの仕事です。しかし、それには技術、理屈が判っていなければ判断できない。オッペンハイマーは科学者の理論や技術を捨て、管理と判断に徹した。ここも勉強になった。

 

 なんといっても見事なのは演出です。
 原爆描写がないなんて文句を言ってる奴は真正のアホでしょう。原爆のテスト=トリニティ実験の恐ろしさは音も色彩も驚くような描写でした。専用のフィルムを開発したって言うんでしょ。これにはびっくりしたし、原爆の実際はこういうことなんだろうと思いました。現実を体験した人は生きていないわけですが。

 それに度々オッペンハイマーを襲った心理的な責め苦。地獄の描写と言っても過言ではない。幻想の中で焼けただれる人間を演じたのは監督の娘さんだそうです。これで文句を言ってるような奴は人間はどこまで頭が悪くなれるのかの限界に挑戦しているんでしょう(笑)。

 あと登場人物の描写もお見事です。元婚約者役のフローレンス・ピューはいつもながらに燃え滾るような演技だったし、

 妻役のエミリー・ブラントも素晴らしい。

 ロバート・ダウニーJRはアカデミーの授賞式でミソを付けましたが、この映画では見事だった。人間、これだけ陰険になれるのか(笑)。

 学者たちの立場も様々でした。ナチスが敗北した後 原爆の使用に反対し、署名を集める学者もいました。オッペンハイマーはその署名には参加しなかった。しかし戦後は水爆の開発に反対し、軍拡競争に警鐘を鳴らした。一方 ソ連の脅威に対抗するために水爆開発を推進するべきという学者や政治家もいました。アメリカが開発しなくてもソ連は水爆を開発するのは明らかだったからです。

 査問会で科学者の誰がオッペンハイマーを裏切り、誰がかばおうとしたか。ドラマとして単純に面白いです。
 あとでググってみるとノーベル賞を受賞するようなすごい科学者だらけです。ノーベル賞を取るような学者でも、いざとなると人間はどういう行動をとるか。現実の仕事などでも良くあることではありますが、考えちゃいますね。

 ちなみにナチから逃れ、アメリカに亡命していたアインシュタインはキーパースンとして出てきますが、ナチの原爆開発を警告した彼は左翼過ぎてマンハッタン計画には参加させられなかったそうです。オッペンハイマーだって、普通だったら参加させないと思います。性別、国籍、政治思想を問わず、優れた頭脳を動員、活用したアメリカにも改めて恐れいりました。

 上映時間3時間は全然長くありません。見事な演出(演技、音、映像)で、これぞ映画、という感じです。原作本は『アメリカン・プロメテウス』というノンフィクションだそうですが、神話的な色合いさえある、見事な作品でした。考えさせるし、面白い。日本人こそ見なければいけない映画じゃないですか。大画面で(笑)。


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NHKスペシャル『Last Days 坂本龍一 最期の日々』と『夜桜中華』

 新年度になって、宴会が増えてきました(笑)。
 とにかくボクは人と話すのが恥ずかしいし、話すこともないので、宴会、会合、パーティーの類は大嫌いです。若い時は勿論、歳を経るにつれて益々嫌悪は増してきた。

 宴会の8割くらいは出席を拒否していますが、どうしても断れないものは乾杯だけして5分で退席、それでも逃げられないものはウーロン茶だけ頼んであとはニコニコしながら無言で時間が過ぎるのを待つ、で対処しています。我ながらアホらしくて仕方ない。

 飲みたい奴は勝手にすればいいけど、巻き添えは迷惑です。こんなくだらないことばかりやっているから日本の生産性は低いって言われるんですよ。
 最近の若い人には『職場の宴会になぜ残業代がつかないのか』という子もいるそうですけど、尤もな話です。

 日本の若者はこの国の将来を悲観している人の割合が他の先進国に比べてずば抜けて多い、というニュースがありました。


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 無理からぬことだと思います。与野党含めた政治家、学者に至るまで、日本の将来の羅針盤を示すような人は立場を問わず、殆ど見かけたことがありません。

 せいぜい、経営者が時折、将来のことを語るくらいでしょうか。オーナー系や長く続く企業の経営者は少なくとも自分の会社の行く末は考えていますからね。
 自社が史上最高の決算でも『円安が日本にとって良いわけない。円安になること自体を喜ぶような人は、ちょっとおかしいんじゃないか。』と断言できるユニクロの柳井の方が、未だに円安に繋がるバラマキや金融緩和を主張している与野党の政治家より遥かにマトモです。

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 ま、経営者でもこういう低能はいますけど。

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 政府がやっているのは誰が見ても判るその場しのぎと高度成長のリバイバル、一方 野党と支持者の市民や学者の多くは環境の変化を見ようともせず、これまた昭和のやり方を墨守するだけです。あとは消費税廃止やバラマキのような訳の判らないポピュリズムやデマばかり
 それでは誰だって将来に希望なんか持てるはずなんかありません。

 

 冷静に考えれば、今は昔よりは良くなったことは沢山あります。セクハラ・パワハラは言うに及ばず、今の季節なら公共の公園で酔っぱらったバカじじい連中が薄汚い宴会を繰り広げていた花見一つとっても昭和なんかロクなもんじゃなかった、とボクは思います(笑)。

 確かに少子高齢化に、テクノロジーの変化、格差の拡大、おまけに日本の周りはきな臭いことばかり、では、気分が暗くなるのはわかります。

 希望を見つけるのは自分自身の問題だから若い人が明るい見通しを持てなくてもボクの知ったことではありませんが、それでも大人の最低限の責任として、女性の社会進出にしろ、テクノロジーにしろ、何か糸口くらいは見つけなければならない。多少は(笑)そう思うんです。
 今の現役世代は残念ながら、政治にしろ、経済にしろ、社会にしろ、落ち目のものしか若い人たちには残せそうもありません。それでも何も手渡せるものがない訳でもありませんから。


 日曜日に 放送されたNHKスペシャルLast Days 坂本龍一 最期の日々』。 
 いつも日曜日は9:30には寝るようにしているのですが、見始めたら目が離せなくなって、つい最後まで見てしまいました。

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 番組は23年春に亡くなった坂本龍一の生活に約2年間、正確には死の1時間前まで密着したものです。正確には遺族が提供した材料を編集したものが多くを占めています。

 ボク自身、坂本龍一と言う人にはさほど関心はありません。無駄な音を使わない彼のピアノソロは好きなのでCDは何枚か持っていますが、それだけです。YMOも殆ど興味がない。

 坂本はNY在住だと思っていたのですが、日本に帰ってきていたんですね。数十年前(笑)ボクが実家に居た頃は坂本が犬の散歩で明治公園に来るのをたまに見かけていたのですが、また明治公園脇の数億ション(笑)に仮住まいをしていたようです。
 恐らく通っていた慶應病院が近いからだとは思いますが、人間は死期が近づくと勝手知ったる場所へ戻りたくなるのかな、とも思いました。彼は近くの新宿高校の出身でもあるし。

 20年の12月には余命半年と診断され、21年1月に手術、その後も転移が見つかり、ずっと入退院を繰り返しました。22年1月の段階ではもう、坂本は非常に苦しそうに見えました。
 それでも3,4日に1冊のペースで漱石哲学書、それに荘子西行などの古典を読み、自らの死を考え続けた。なおかつ身体の循環を良くするという野口整体を続け(ボクもやってます)(笑)、滑稽なポーズをするなど身体に良いと思われることを試し、生きようとした。驚くべき意思の力です。

 同時期に闘病生活をしていたYMO高橋幸宏とのエピソードも心温まるものでした。高橋が軽井沢に住んでいるのは知りませんでしたが、穏やかな自然の中で犬と暮らしていたのは如何にも彼らしい。坂本と高橋の直接の再会は叶いませんでしたが存在はお互い感じていたようです。

 それにしても坂本や高橋より5歳も年長なのに、一人残された細野晴臣の心中はいかばかりか。『まだまだできることは幾らでもあった』という彼の述懐は嘘偽りのないところでしょう。


 坂本は抗ガン剤の治療の影響で、ピアノを弾くと電気が走るような痛みが走っていたそうです。CDを聞いている時はそんなことまで想像もできませんでした。

 以前NHKで放送された22年9月の演奏が休み休みの収録で5時間もかかったというのも良くわかりました。

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 もともと坂本のピアノはド下手にしても(本人談)、ハンディを抱えていた晩年の演奏が無駄な音がない、より研ぎ澄まされたものになっていったのも頷けます。 

 晩年に至っても、ロシアの侵略を受けたウクライナの音楽家との共作や外苑の銀杏並木伐採反対などの運動にも関わり続けた彼は『無数にある全ての社会問題にコミットすることはできない』と、より音楽を突き詰めようとしていたようです。

 彼が言う『音楽だけが正気を保つ唯一の方法』とは世の中の不条理に対してだけでなく、彼自身にとっても、だったのでしょう。彼が指導、サポートしていた東北ユースオーケストラなど人前ではにこやかに振舞っていましたが、カメラの前で一人で音楽に携わる時の彼の表情は鬼気迫るものがありました。

 
 このドキュメンタリーを見ながら思い出したのは、先月に見たフランスの映画監督J・L・ゴダールの遺作『遺言 奇妙な戦争』です。彼は坂本に先立つこと半年前、22年の秋に亡くなった。自ら選んだ安楽死です。


godard-phonywarsjp.com

 遺作は架空の映画の予告編という形式を取りながら、画面に鮮やかな映像のコラージュを並べることで、資本主義に抵抗する人間像を表現しようとしたものです。映画のスポンサーは資本主義の権化みたいなケリンググループのサン・ローランですが(笑)。
 20分程の映像の中に時折、死を目前にした彼のレマン湖畔での生活が挿入されます。

 穏やかな生活、ではあります。時折かなり苦しそうな表情を見せますが、彼は映画を作り続ける。ゴダールも坂本も思想的には非常に近いけれど、ゴダールは自ら死を選び、坂本は最後まで懸命に生きようとした。どちらも意志の人、ではありましたが、この違いはどこから来たのだろう。
 坂本もゴダールも私生活では色々あった人ですが、ともに最後は家族に許されたのは幸せでした。自分が自分自身を許せたのかどうかは判りませんけど。

 ちなみに番組の中で映された、坂本が選んだ自分の葬式用の選曲リストにはサティやフォーレドビュッシーなど如何にも彼らしい曲の中に、ゴダールの『軽蔑』の中の曲が入っています。ボクも流麗で憂鬱なこの曲、大好き。

坂本龍一が「Funeral」に選んだフランス音楽を解説! “教授”のフランス音楽愛が見えてくる|音楽っていいなぁ、を毎日に。| Webマガジン「ONTOMO」


 いよいよ死期が迫り、意識がなくなりつつも、病床の坂本がピアノを弾くかのような手の動きをしていたのも印象に残りました。ボクの亡くなった大叔父は画家でしたが、彼も死の間際、意識を失くしても病床でずっと絵筆を動かす仕草をしていました。あれにはビックリした。

 ああいう人たちは、最後はカネも名誉も愛も他人も要らない、もしかしたら自分という存在もどうでもいいのかもしれない。大事なことは芸術だけなのでしょう。芸術への執念こそが彼らの生、だと思いました。

 芸術家にも、バカの癖に威張り腐っている政治家にも、我々のような凡人にも、死は誰にとっても平等です。この番組を見れば誰もが死を身近に感じるし、それを通じて自分の処し方を考えさせられる。
 美しい映像、60分間完璧に決まった編集も特筆すべきですが、あれを撮らせた坂本も撮ったNHKも偉い。人間の生と死を雄弁に物語るドキュメンタリーでした。 


 今年は 毎年恒例の六本木の桜がいまいちだったので、近所の桜でもう一度 お花見をしました。と言っても昼間は仕事ですから夜にしか桜を見ることができません。

 この辺りは街灯だけでなく、マンションや個人宅でもライトアップしている家が多いです。

 桜を見ながら散歩がてら、碑文谷へ中華を食べに行きました。

 コリアンダーと押し豆腐のサラダ。中華の押し豆腐って美味しいです。生で食べても良し、煮込んでも良し、もっと手軽に手に入れば良いんですが。

 ニンニク風味の冷やした蒸しナス。これは絶品です。柔らかいナスがまるで飲み物のように口に入っていきます(笑)。

 ニラ饅頭。ぷりぷりのエビが入っています。30年くらい前から変わらない味です。

 海老の唐辛子炒め。これは始めて頼んだ料理。ニンニクの芽と海老を唐辛子で炒めてあります。この店はお上品なので?それほど辛くありません。海老がやたらとデカい(笑)。

 鶏と青菜の土鍋煮こみそば。昨年食ったものの中でこれが一番うまかった料理です。スープが最高なのと麺が段々スープを吸い込んで味が変わってきます。麺が伸びた方が美味しいという珍しい料理(笑)。


 こちらは違う日。
 ローストダックと鶏飯。渋谷と恵比寿の間に新規開店したシンガポール料理の店。御主人はマレーシア人で英語しか通じないので異国気分が味わえました(笑)。野菜が少ないけど、店はお洒落だし味は美味しかった。焼いた鴨はとても柔らかかったし、鶏のスープはかなり美味しかった。

 豚の角煮そば。こちらも新規開店した新宿の中華麺専門店『百味麺館』で食べたもの。パクチー大盛の混ぜそばです。目玉焼きが載っているのも珍しい。肉もデカいし、味も美味しいんだけど野菜が少なかったのは我ながら失敗でした。こういうものを食べると確実に太る。

 ここもお店の人もお客も中国人だけ。テーブルにはこんな宣伝が(笑)。時代を感じます。同じ日本に居ても彼らは希望を感じているんだろうなあ。