ことばから誤解が生まれる/飯間浩明

文章でも会話でも、送り手と受け手との間で様々な誤解が生じることがある。諸例をひきながら、何故誤解が生まれるのか、それを避けるにはどうしたら良いのかを実践的に述べている。
「正確な情報伝達は伝達する側に責任がある」というのはワタクシが先輩から言われたことだが、知識や価値観の似通った人との間では確かにそのとおりであろう。
「一を聞いて十を知る」「以心伝心」という世界は素晴らしいし、そう願いたいものである。しかし現実社会はそう巧くはいかないものだ。本書の教えが少しでも広まれば良いのだが。

電力と国家/佐高信

電力と国家 (集英社新書)

電力と国家 (集英社新書)

第二次世界大戦前から戦後にかけての電力業界の再編成。民営を堅持するため国家(或いは官僚)と真っ向から対立し、現在の九電力体勢の根幹を築き上げた松永安左エ門らを中心として独立自尊を貫いて経営責任を全うしようとした先達を描き、国家にべったりと寄りかかる今日の同業界との対比を浮かび上がらせる。
福島原発の事故の責任はいずこにあるかはともかくとして、国家の庇護の下にぬくぬくと過ごしてきた東京電力を見つめる著者の視線は厳しい。ただ、官僚に対する理由なき批判(或いは蔑視)は些か度を過ぎているように感じられてならない。同じ公益事業であるガスや水道の供給者との対比という視点が欠けているのも気になるところ。

論理病をなおす!/香西秀信

論理病をなおす!―処方箋としての詭弁 (ちくま新書)

論理病をなおす!―処方箋としての詭弁 (ちくま新書)

議論に勝つため、あるいは説得をするため、我々はしばしば詭弁を弄する。本書はその様々な手法を分析し、思考術あるいは弁論術を高めようとする一冊である。
本書の中にも数々の「詭弁」が埋め込まれており、読む側としてはそのような著者からの挑戦を見抜く楽しみもあった。

日本の鉄道 乗り換え・乗り継ぎの達人/所澤秀樹

日本の鉄道 乗り換え・乗り継ぎの達人 (光文社新書)

日本の鉄道 乗り換え・乗り継ぎの達人 (光文社新書)

鉄道による移動には不可欠な乗り換え。その抵抗感を少なくするために為されている様々な工夫を、ソフト・ハード両面から一般読者にも馴染みやすく紹介している。ただ、後半3分の1を占める寝台特急乗り継ぎ紀行は蛇足でした。

JRにおける特急料金の乗継割引制度は、四国や九州で列車の系統分割に伴うものに適用が拡大される一方、九州では新幹線がらみの割引を全廃するという暴挙に出た。直通列車の恩恵にあずかれない長崎や大分の人々は、何故怒らないのだろうか…。

一億総うつ社会/片田珠美

一億総うつ社会 (ちくま新書)

一億総うつ社会 (ちくま新書)

増えるばかりのウツ患者。「治療薬の拡販」「診断基準の切り替え」という増加の背景を踏まえつつ、著者はフロイトの学説を元に「新型うつ」を読み解いている。自己愛の肥大化――他責感の強大化を招来した社会的構造変化への指摘は明解でわかりやすい。
書名である「一億総うつ社会」は既に現実だ。ただ、それを受け入れるだけの余力は我が国社会には存在しない。この先どうなっていくのだろうか。

テツはこう乗る/野田隆

テツはこう乗る 鉄ちゃん気分の鉄道旅 (光文社新書)

テツはこう乗る 鉄ちゃん気分の鉄道旅 (光文社新書)

「マニア」がどのような視点で鉄道と接しているのか。多少(かなり?)誇張も交えながら描いている。
施設や景色を凝視し、走行音や案内放送に耳をそばだて、内燃機関の排気を嗅ぎ、車輌に触れ、駅弁や立ち食いそばを味わう――マニアは五感を最大限に活用して鉄道そのものを愛するのだという。本書を読んだ人が鉄道とその愛好家に魅力を感じてくれれば良いのだが、相当程度の愛好家を自認するワタクシですら近寄りがたい気配を感じてしまう。著者の「どや顔」が文字の向こうに見え隠れして、客観的に「キモい鉄ヲタ」とならぬよう他山の石としなくては(苦笑)。

地図の科学/山岡光治

地図の起源や測量方法の概念・変遷など、地図造りにまつわる様々な蘊蓄話を集めた本。
書中に二人の登場人物が出てくるのだが、これが全く活かされていない。編集者は何を考えているのやら…と、内容とは関係ない印象ばかりが残ってしまった。