あめのとうきょう

雨の東京に行った。行きたくなかった。だって雨なのだ。雨なのに出かける。その理由は友人が店をオープンしたからだ。38年の付き合いになる友人。38年前、あそこの毛はえてる?って見せあった彼がバーを作ったという。店のオープンに花を出したのだけど、それが木曜の朝には片づけられてしまうから水曜のうちに見にこいという。なので行ってきた。店の前には想像を絶する花のスタンドが並べられていた。60基あるからねーと言っていた。花のスタンドは基と数えるのだと初めて知った。花が多すぎて店の扉がわからない。壁に小さく会員制と書いてある。壁が扉だった。そもそも扉であることを知らせる気はないらしい。店内に入る。暗くて雰囲気のあるバー。赤と黒の世界。扇形のカウンターに席数は10数席。カッシーナのイスだという高級なイスがゆったりおかれている。席数こそゴールデン街の店と変わらないが高級感と広さがケタ違いである。お祝いにワインを一本入れた。勧められたワインはケタが違ったので、申し分けないが違うのを頼んだ。店にはひっきりなしにお客が来て盛況だった。だからあまり友人とは話せなかった。それでもおめでとうの気持ちだけはおいてこれたと思う。とにかくおめでとう。立派だ。本当に。ひとりで行ったので、ひとりでワインを空けた。酔っぱらった。気がついたら朝で家だった。記憶はなくしたが、財布はなくしてなかった。とてもめでたいことだと思った。

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このためにみてる

「辰巳」を見た。

圧倒的な一作だった。映画に求めてる事ってこういうことなんだよ、こういう作品に出会うために映画見てるんだよって、そんな映画だった。ヤクザのはぐれものが、組織に狙われた少女を守るっていう、本当によくありそうなプロットながら、まったくありふれた映画なんかじゃ無い。エネルギーが充満してて、あらあらしい。とにかくこの主役二人が神々しいほど素晴らしい。遠藤雄弥、むちゃくちゃかっちょいい。そして、森田想。なんてすごいキャラクターなんだ。野生動物のようなむき出しの凶暴性。それが次第に心をひらいていく。人間っぽくなっていく。主役2人をずっと見ていたくなる。悪役ふくめ役者がみんないい。顔がいい。どこをとっても、どこかで見た中途半端さがない。低予算ながら、絵の一つ一つからそれが伝わってくる。オープニングクレジットからかっこいい。もうそこで痺れる。車で荒野を行くシーンもすばらしい。飲み屋街の迷宮感もいい。映画として絵が安くない。そして何より主演2人が、もう。第一印象と見終わった後で、印象ががらりと変わっている。見えてる世界そのものが変わる。それを体感する。「ケンとカズ」の小路紘史監督、8年ぶりの新作。すごかった。

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はじめからまかい

マンティコア 怪物」を見た。

後味最悪ながらも細部が楽しい映画でした。一見すると内気な青年と献身的な女性のラブスーリーである。おかしなことはおきない。青年はゲームのグラフィックデザイナー。緻密なモンスターを創作する人。女性は病気の父を介護して自分のやりたいことを抑えて献身的に尽くす人。この2人が出会う。そして恋が始まる。そういう話ではある。だけどそこに常に何か変な予感がある。そしてそれは突如崩れ落ちる。外側だけ見ていると分からない内なる隠された欲望、自分の中の怪物の話である。そのことは誰にも話さない。見せない。はずなのに…。とにかく静かに事が進んだ終盤、とてつもない怖さがやってくる。どこまでいくの?そう思って見ていると、一枚の絵にやられる。怪物の正体は最初から見抜かれていたのかと…。何の話かわからないでしょう?でもそういう映画なんです。でもね、よく考えたら、最初から怖いんです。顔が。もう。ラストは絶望かと思いきや、意外にもある人の欲望をしっかり満たすある意味ハッピーエンドです。後味の悪い大好きなタイプの映画です。ちなみに青年のスマホの着信音は、魔界村ゲーム音楽です。最初からすでに魔界です。で、女性のトラウマになっているという「ビデオドローム」だと思って父のビデオを見たらポルノが入っていた、というのは、「サムライ・ドリーム」というタイトルのポルノだったんじゃないですか?で、あれば正解です。それビデオドロームです。あと伊藤潤二の新作マンガって何だったの?とか、とても細部のオタク要素が楽しい映画でした。

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げつようなんです

先週、無事セミナーが終わりました。いやーオンラインセミナーきつかった。一人で部屋でスライド見ながら、しゃべるんですよ。相づちをうってくれる人もいなければ、何の反応もない…地獄ですね…。チャット見ながら気楽にしゃべるみたいな内容だったら、まだよかったのかもだけど…というか、そうればよかったのかもしれないけど、とにかく準備も大変、話すのも地獄で、なんか本気でキツかった。その上、反応が見えないから、まったく達成感もない。ちょっとしたやりきった感と、得体の知れない疲労がすごかった。ま、でもとにかく終わった。無理矢流でもなければやらなかった自分のデザインに向き合うことのとっかかりになった。その意味では声をかけてもらったことに感謝している。こんな大変なこと自発的には向き合えなかった気がする。考えてみたら今まで誰かにデザインの仕事のことを相談したり、わからないことを聞いたり、悩みを聞いてもらったり、27年やってきて一度もなかったなって…。よくやってきたなって思った。とりあえずいったん寝かして、またいずれ向き合おう。そう思った。

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そこにいるとは…

「異人たち」を見た。

そこで食べるのはそれなのかな映画だった。わたしは大林宣彦坂「異人たちとの夏」が好きである。大林監督が亡くなったときに見たのはこの映画だった。一時期は毎年夏が来るとみていた気がする。あのラストがあるのでけっこう不思議なバランスの映画なんだけど、あの空気感が好きで、特にすき焼きを食べるシーンの切なさが何とも言えず好きで、あの映画を観るとすき焼きを食べたくなる。これ、お盆の話じゃないですか。イギリスでリメイクしてその感じがどうなるんだろうって思ってたんだけど、いや、これが何ともとてもいい映画だった。お盆云々はどうでもよくなっていた。よくできていた。同じなんだけど、まったく違う映画になっていた。基本の骨格はそのまま。でも違う。過去に何を置いてきたのか。そして今をどう生きていくのか。愛と孤立と死…存在とは何であるか…。ノスタルジーのその先が描かれた映画になっていた。クライマックスのすき焼き、そうかイギリスだとそれになるのかは、なんかだかほっこりポイントでした。しみじみとしみてくる映画だった。

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おまえだれなんだ

「貴公子」を見た。

ずっと終わらないで欲しい映画だった。めちゃ楽しかったー。もう始まった瞬間からこのキャラ最高!サイコでナルシストで紳士なプロの仕事人。クセが強い!強すぎる。「お前、誰?」「友達だよ」って、もう笑顔が最高にサイコでこえー。でもなんか愛くるしい。ほんと、誰なのお前?が止まらない。その見せ方が面白い。最初、一体なんの話かわからない。フィリピンの地下ボクシング。野良犬みたいな青年と、そこに突然現れる金持ちたち。「あなたは実は韓国の大金持ちの隠し子で…」って、理由も分からず韓国に連れて行かれる。そこに突然現れる「友達だよ」っていう笑顔の男。シンデレラストーリーなの?韓国財閥の超金持ちたちの権力抗争ものなの?この笑顔の紳士は敵なの?味方なの?何が起きるのー?な揺さぶりがすごい!見せ方が超面白い。そしてキャラがいい。いつまでも見ていたい。終わらないでほしい。永遠にやっててほしけど、映画だからね、終わっちゃう。終わり方、よかった。オチもかわいかった。楽しい映画だった。続編、お願いします。

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まんがみたいな…

プリシラ」を見た。

少女マンガ!?から一転、なんだか切ない映画だった。ソフィアコッポラ。なのでオシャレ。すごくオシャレなんだけど、けっこう怖い映画でした。始まりはマジ少女マンガ!世界的スーパースターが、なんてことない平凡な15歳の女子中学生に一目惚れ?!世界が熱狂するプレスリーがですよ。なんでわたしー!って、女子中学生がスーパースターから熱烈アタックを受ける。「ヤバい、ぜんぶあげちゃう!」と思ったらまさかの「君を大事にしたいから、いまはプラトニックな関係のままでいよう」って、猛烈に惚れられた上に、大事にされてるーって、マジ少女マンガ。浮かれてたら、彼はアメリカに帰って離れはばなれ。やっぱりあれは夢?なんて思ってら、アメリカ行きのファーストクラスのチケットが送られてくる。ぎゃーーーー!もう、少女の願望が全部盛り!もりもり、な胸キュン映画。ここまでが前半。一転して、中盤以降様子が変わる。なぜわたしだったのか?彼は何を求めていたのか?それが次第に分かってくる。牢獄に囚われた姫のような…そんな映画になっていく。これは人をコントロールして支配しようとする力の映画だ。実際の人物像がどうだったのかは分からないが、映画としてはその描き方が、ちょっと怖くて、そして哀しくもあった。そして囚われの姫はやがて自由を手にするが、世界のスターがここから辿る道は…。そう考えると運命の皮肉のようなものも感じる。そういう映画だった。

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