Chilly solution to neutrino mass problem

http://physicsworld.com/cws/article/news/37476
ニュートリノ質量測定実験の新しい提案を紹介した記事。ニュートリノ単体の質量を測定するため、超冷却した3重水素(陽子1つと中性子2個を持つ水素原子の同位体)のベータ崩壊を利用する2通りの方法を提案する。単独のニュートリノ質量の直接測定には3重水素を用いた実験が行われており、その別の物理プロセスという位置づけのようだ。KATRIN(KArlsruhe TRItium Neutrino experiment)というドイツにある実験装置では、3重水素ベータ崩壊
{}^3H\rightarrow {}^3He+e^-+\bar\nu_e

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Unification could be ripe for the picking

http://physicsworld.com/cws/article/news/37295
多くの物理学者は、少なくとも人類が測りえるエネルギー領域において、アインシュタインが提唱した特殊相対性理論は常に正しく物理現象を記述していると信じて疑ってもいないし、それは実験事実も裏付けている。ただ、この記事で紹介している論文では特殊相対性理論の実験検証の精度を突き詰めれば、その破綻が見える可能性を示唆し、主に超重力場のような特異的環境における特殊相対性理論の破綻と、それに変わる新しい時空の対称性を扱う理論構成の動機付けのための、実験的検証方法の提案を試みている。現在に至るもブラックホールや宇宙誕生初期における重力相互作用が支配的な環境下における時空を記述できるような理論体系は完成されていない。それは、素粒子理論における基本的理論体系である『標準模型』の単純な拡張としてはうまくいかないと考えられるためである。というのは、そもそも『標準模型』は特殊相対性理論が正しく、かつ重力相互作用は無視した前提を課しているが、超重力下では、重力の量子効果が顕著に現れるため、そのどちらの前提も成り立たなくなっていると多くの物理学者は信じているからだ。

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Graphene transistor speeds up

http://physicsworld.com/cws/article/news/37204;jsessionid=9D91627B5DBBC29106A7A9D48E1B866A

グラフィントランジスタというのはグラフィン(グラファイト薄膜)をシリコン上にマッピングして構成される半導体バイスのことで、グラフィンが持つ高い電子輸送率と高電子密度の特性を生かした次世代の半導体材料と考えられている。グラフィンの形状は、丁度炭素結晶で構成されるカーボンナノチューブを縦に切って2次元シート状に広げたようなもので、その厚みは原子数個分に相当する。無線通信のインフラ整備は、高性能カーナビゲーションシステムや飛行通信や人工衛星などの高速移動通信、通信回線の拡大などへ今後需要拡大が見込まれているにも拘らず、現在の半導体技術では出力性能に限界が見え始めている。これは一重にシリコンベースのデバイスサイズが限界に達しつつあるためと考えられている。デバイスが小さければその分電子の移動距離を縮めることが出来る(スケーリングという)ため、省電力・高出力システムを構築することが可能となる。グラフィンは現在のシリコントランジスタの限界サイズ40nm*1を下回る素材と期待されている。またグラフィン上で電子は質量ゼロ粒子のように振舞うという特殊な性質があり、非常に高いキャリア移動能力*2を持ちつつ、現在最高の電子密度をもつGaN(窒化ガリウム)結晶と同程度の電子密度を保つ理想的な半導体素材と考えられている。

しかし、その極度なまでの薄さから回路としてシリコン上にグラフィンをマップすることは技術的に難しい。紹介している論文ではようやく現在の最高周波数の10分の1の大きさである26GHzを実現できた結果を示したとのこと。ようやくとはいえ2004年から7年程度の開発でここまで達成できたことは驚くべきペースだと強調している(シリコントランジスタの開発は50年近く要している)。この開発の肝の部分はゲート長の長さと絶縁膜性能である。ゲート電圧を上げてもリーク電流を抑えるためには、ゲート長を50nm以下に抑え絶縁膜容量(絶縁膜の薄さ)を増大する必要性がある。それらが実現できれば、テラヘルツ帯をたたき出す次世代トランジスタへの道が開けると期待できる。

炭素結晶膜は半導体技術のブレークスルーとなりえるのかもしれない。

*1/8追加
グラフィン状の格子空間でモンテカルロシミュレーションを試みた面白そうな論文が発表されていた
*1/9追加
コストを抑えつつキャリア移動度を増進させる方法として歪みシリコンがよく用いられる。歪みシリコンとはGeSi上にSi膜を敷き詰めることで、GeSiの格子間隔とSiの格子間隔の違い(GeSiの方が粗い格子結晶)から上皮のSi膜に応力が加わり歪みが生じる.シリコンが歪むことで、格子が異等方的となり電子同士の散乱が低減し、結果電子の移動度が増すというカラクリ。歪みの度合いを増すことで電子移動度は40%ほど向上させることができる。さらに歪みの方向をゲート長を圧縮させる方向にコントロールさせることでリーク電流を70%抑えることも可能だという。

*1:最近32nmプロセスのシリコンチップも技術的に可能となっている。しかし10nm以下は物理的制約により実用化は難しいと考えられているが、グラフィンを用いればその限界も超えることが出来ると期待されている。

*2:電子(もしくは正孔)移動度。Ge(ゲルマニウム)では室温移動度は3,900cm^2/Vs、最大はInSb(アンチモンインジウム)で78,000cm^2/Vs、ただし温度依存性が大きいため、実用的にはInAs(インジウム砒素)33,000cm^2/Vsが適する。グラフィンでは10,000cm^2/Vsほどと推定されている。

Did our cosmos exist before the big bang?

Did our cosmos exist before the big bang? | New Scientist

宇宙の始まりについて物理学者が語るとき、常にビックバン以降からはじめる。なぜならそれ以前の状態、つまり宇宙誕生以前の状態を記述できる正当な理論はこれまでのところ考え出されていないためでもあるし観測もできないから。ただ、ビックバン理論を多くの人が信じて疑わないのは、ハッブル赤方偏移の観測から宇宙背景放射(CMB)の最新観測に至るまでの詳細な天文観測の結果から我々の宇宙は膨張過程にあることが確かめられているため、自然な推察として、時間をさかのぼれば宇宙初期はきっとすべての物質(ダークマターを含む)が一点に凝縮されている極限状態があって、そこで宇宙が始まったと考えられるからだ。しかし最近、宇宙物理学及び相対論や重力理論で有名なアシュテカらが提唱しているモデルは、ビックバン理論はそもそも必要ないという。

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LHCの再稼動は2009年6月下旬

http://physicsworld.com/cws/article/news/36973

2008年9月19日に緊急停止して以来、修復作業が続いているスイスのジュネーブ郊外にある研究施設CERNが持つ巨大はドロン衝突加速器(LHC)の再稼動時期が発表された。前回の中間発表では4月ごろという予定だったのが、かなり遅れてしまっている。原因は、セクター3−4間の4重極磁石と2重極磁石を間を挟む電気配線の接続不良によって電気アークが発生し、真空管を覆う液体ヘリウムが入った官に穴を開けて、気化したヘリウムガスの圧力によって周りを破壊してしまった、というのが大まかな事故の現象。さらに最近のレポートによれば、磁石間を繋ぐコネクション部分の金属は超伝導状態にならずに若干抵抗をもっているらしい(液体ヘリウムの外部にむき出しになっているため)。その部分はもちろん地上のテストでは十分にコントロールできていることは確認していたんだけど、LHCのトンネル内に磁石を入れるには一旦分解しなくちゃいけない。それで再配置のときに電気配線を間違えていたらしくて、そこに巨大な電気抵抗が発生して事故に発展してしまったというのが現在までに判明している事故原因とのこと。

交換や洗浄を要する磁石はセクター3−4の55個の4重極磁石のうち14個、154個の2重極磁石うちの39個の合計53個が必要となる。これらは一旦地上に運ばれて使える部分と交換する部分に分けた上で、もう一度地下に配置する。同時に、他のセクターのチェックはもちろんの事、ヘリウム漏洩による圧力に耐えるための補強工事を行った後、圧力テストをしてヘリウムを注入し装置を冷やして実験を開始できる時期が来年夏の初めだということだ。機材のスペアは揃っているので、結局交換と点検作業に手間を掛けさせられるみたい。2度目はない事を願うばかりだ。

自閉症とアスペルガー症候群を読む

自閉症とアスペルガー症候群

自閉症とアスペルガー症候群

自閉症というと、文字通り解釈すれば自らの殻に閉じこもって外界からの情報を遮断し続けている特異的病状を思い浮かべてしまったが、じつはその定義はかなり曖昧というのが近年の主に臨床的研究から明らかになってきている。自閉症患者と診断される多くの人は主に小児期の時点でその傾向を示しており、その症状も様々にある。一般に、臨床的調査などから自閉症患者の特徴として、

  • 対人コミュニケーション能力の欠如

 (他人の心的感情・情緒の認識能力の欠陥、限定的言語能力、アイコンタクトを理解できないや言葉を表面的にしか捉えられない、協調的行動がとれないなど)

  • 反復的運動

 (同じ動作を繰る返し行う。身体をパタパタさせる、必要以上の習慣的行動)

  • 強迫的行動・思考

 (異常的なまでに外部からの刺激に反応する。物の配置にいつまでも固執する)

  • 突出的能力

 (高度な機械的記憶力・計算能力。美術や図形、メカニックに対する高度な技術・技能や知識)
がいわれる。歴史的にはカナー(1943)やロター(1966)の小児自閉症研究から始まり、これは3歳までの健常児と比べて独特な性格的特長があることの臨床現場からの指摘により端を発する。精神分裂症や外部損傷による知能障害(自閉症患者の中にも一部含まれる*1)と比べて、早期の段階からその傾向が見られ環境的要因が少ない点、言語能力や数の概念、抽象的対象の理解は通常以上であるにも関わらず、突発的・破壊的行動や身体的能力の遅滞、話し方の不自然さや感情表現の欠陥、反復運動、人との非言語的コミュニケーションの不可、反語・隠語(メタファー)の無理解など主に社会生活を送るために必要な能力が極端に欠落している点が特徴的である。また、脳組織の器質的変質は一部報告されているが決定的原因箇所やその原因物質の特定にはいまだ至っておらず、遺伝的要因なのかすら明確に把握されていない。ただし、患者の家族構成を調べると多くの場合、父親もしくは祖父が自閉症もしくはその傾向を患っているという報告から一部は遺伝性のものとも考えられている。

*1:特に女子に多い。これは健全出産の自閉症患者には圧倒的に男子が多いことの特徴でもある

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Cosmic-ray hot spots puzzle researchers

Cosmic-ray hot spots puzzle researchers : Nature News

前回に引き続き宇宙線観測に関する記事。今回はMilagroスペイン語でミラクルという意味)という、ロスアラモスにある高エネルギー宇宙線観測装置を使った観測結果を紹介している。この装置は神岡にあるニュートリノ観測装置「スーパーカミオカンデ」と同じような原理を利用している。スーパーカミオカンデは地下深くに5万トンの純水が入った巨大なプール(高さ41.4 m、直径39.3 mの円筒容器)に光電子増倍管(PMTs)を壁一面に配置して、ニュートリノが水中の電子と散乱することで生成される相対論的速度を持った電子が出すチェレンコフ光を観測することで、太陽ニュートリノや大気ニュートリノ観測、K2K(KEKto神岡)実験に利用されている。SN1987A超新星爆発により飛んできたニュートリノを観測したカミオカンデの後身装置でもある。チェレンコフ光は、光速に近い電子が媒質中の光より速くなることで発生する円錐状に広がる放射光のこと*1チェレンコフ光を観測することで、粒子が入ってきた角度やエネルギーを知ることができる。Milagro装置でのターゲットは高エネルギーの宇宙線(陽子線)が上空の大気粒子との衝突によって生じた粒子シャワーをもとにしたチェレンコフ光で、その観測によってオリジナルの宇宙線のエネルギーや入射方向を測定する。

*1:JCO東海村事故で見えたといわれる青白い光も同じ

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