指先が忘れかけていた記憶

 

 

 

おおむね晴れ。29度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ、サラダ(レタス・リーフレタス・キャベツ・キュウリ・ミニトマト・コーン・チーズ・バジル・カニカマ)、味噌汁(オクラ・油揚げ・豆腐・玉葱・人参・キャベツ・竹輪)、ハム・目玉焼き、トースト、アールグレイ。食後にコーヒー、道明寺。
妻と買取店へ。ぼくのハードディスク2個も。シミの残っている服は持ち帰ることに。
ひとり図書館へ。取り寄せ本を受け取りに。ハーパー・リー著、上岡伸雄訳『さあ、見張りを立てよ(原題:Go Set A Watchman)』(早川書房)。アラバマ物語の続編という触れ込みだが、リーはもともとアラバマ物語の一部としてこれを書いていたという。編集者が枝葉を刈りとって物語を整えた。このときの枝葉が本書の幹になっている。『To Kill a Mochingbird』から20年が経ったという設定だ。リーは本書が刊行された翌年に他界している。
昼餉は、マクドナルドで妻とフレンチフライ、ハンバーグ、アイスコーヒー。コーヒーの味を見直したとメニューに書かれている。「もともと美味しいのにね、なにを見直したんだろう……」と妻。値上がりしたとはいえ小さなサイズで120円のコーヒーは、ホットもアイスもしっかりした味だ。
オーバーホールに出していた腕時計がもどってきた。リューズを回す指先にゼンマイが締め上がっていく微細な感じが伝わってくる。いつからかその精妙さが伝わらなくなっていた。それに気づく。メールで感謝を伝えたら、職人にもメールを見せますという返事。
夕餉は、冷奴、切り干し大根煮、ひじき煮、野菜と竹輪のかき揚げ、ざる蕎麦、ウィスキー・オンザロック。食後にコーヒー、食パンの耳で作ったラスク。

 

 

 

 

 

 

 

無理はするな

 

 

 

 


曇り。24度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ、サラダ(レタス・リーフレタス・キャベツ・ミニトマト・キュウリ・チーズ・バジル・カニカマ)、味噌汁(油揚げ・豆腐・竹輪・玉葱・人参・キャベツ)、卵トーストサンドイッチ、アールグレイ。食後にコーヒー。
サラダドレッシングの詰め合わせが送られてくる。プレゼント企画に応募したことさえ妻は忘れている。せいぜい2パターンしかないぼくのドレッシングとはうってかわって5種類もあって、どれも美味しそうだ。ありがたくいただく。
ジョギング、5.41キロメートル。最大心拍数128bpm、最大速度7.8kph。日を追うにしたがいどんどん遅くなる。
昼餉は、菓子パン、オールブラン・シリアル、コーヒー。
昔、ぼくがジョギングをはじめたと話すと、友人は「ジョギングを提唱した男は、走っている最中に心臓発作で死んだんだよ」と言ってぼくの熱中に水をさした。『奇蹟のランニング』を書いたジェイムス・フラー・フィックスがそういう死に方をしていたことをぼくは知らなかった。当時、ぼくは4時に起きて走っていた。雨の日もあったし、もちろん風の日もあった。暑い日はもちろんだったが、寒くて凍えそうな日も走った。それからシャワーを浴び、支度して会社へ向かった。
今、それほどの熱量もなく、でも走りたいと身体が訴えているときは素直に従っている。彼が話してくれたことはいつもどこかに貼り付いている。無理はするな、と言ってくれた友人のそれは贈り物だと思っている。
夕餉は、冷奴、納豆、ヒジキ煮、切り干し大根煮、卯の花煮、ズッキーニのポン酢焼き、味噌汁(油揚げ・豆腐・玉葱・人参・キャベツ・かまぼこ)、鶏そぼろをかけた玄米ご飯、ウィスキー・オンザロック。食後にコーヒー、串団子。

 

 

 

 

 

 

 

手遅れのこと

 

 


雨、のち晴れ。24度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ、サラダ(レタス・リーフレタス・キュウリ・キャベツ・ツナ・コーン・カニカマ・バジル・チーズ)、味噌汁(玉葱・人参・油揚げ・豆腐・キャベツ・かまぼこ)、卵サンドイッチ、アールグレイ。食後にコーヒー、クッキー。
妻はクワイアの稽古へ。夜遅くに戻る。
あたりまえすぎて、気づくことさえないがしろにされている。そんなことでこの世は満ちあふれている。そんな気がする。たとえば仕合わせは、みずからの手で作るのだというようなこと。すこし昔ならわかっていたのに。失くすかもしれないが、また作ればいい。誰もそうは言わなかったが、誰もがそう思っていたのに。
昼餉は、ミルクをかけたオールブランのシリアル、コーヒー、クッキー。
ジョギング、5.36キロメートル。最大心拍数133bpm、最高速度9.4kph。
個性を伸ばせと言われるようになり、できないことに時間を割くことはないと言う。個性は伸ばすものでも、大事にするものでもないのに。
わかりきったこと、あたりまえのことが、そうではなくなっている。
冬眠から覚め、腹を空かせたクマに出くわす。どちらが邪魔をしているのか。わかりきったことだが、もう遅いのだ。
夕餉は、リーフレタスとミニトマトのサラダ、即席カップ麺、いなり寿司、ウィスキー・オンザロック。食後にコーヒー、パンの耳のラスク。
LINNはDSMのファームウェアDavaarをアップデートして、107  Build  542 (4.107.542)をリリースした。コメントには「メンテナス・リリース」という世を儚んだような一文が添えられているだけ。

 

 

 

 

 

 

おまけの日々に倦いたすえに

 

 

 

 

曇り、日差しあり。27度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ、サラダ(レタス・リーフレタス・キュウリ・ツナ・コーン・バジル・カニカマ)、味噌汁(スナップエンドウ・キャベツ・豆腐・玉葱・人参)、ポテトサラダのトーストサンドイッチ、アールグレイ。食後にコーヒー、煎餅。
『パパ・ヘミングウェイ』より——

「ジョイスはおれといっしょに何度かここにきたことがある」アーネストはいった。「千九二一年から死ぬまでつきあった。彼は、パリではいつも仕事の仲間やおべっか連中に囲まれていた。議論になると、すごく熱がはいって、おそかれはやかれジョイスが手ひどい侮辱をうけることになった。あいつもいい人間だが、いやらしいところがあった。とくに、誰かが作品のことをいいだすと、まるでいやなやつで、何もかもが喧々囂々のさわぎになるとプイッと帰ってしまって、あとはおれに始末させるんだ。ジョイスはひどく誇り高く、ひどく無礼だったね——とくに青二才にはね」アーネストは自分のペルノオを飲んだ。「酒が好きで、いつまでも飲みつづける彼を何度も家へ送りとどけてやったが、細君のノーラがドアを開けて、こういうのさ。『あらら、作家のジェームズ・ジョイス、またしてもアーネスト・ヘミングウェイと酔ってご帰館ね』」
 
このくだりは、ヘミングウェイの交友関係を如実に物語っている。ちなみに、このエピソードは以下の独白で終わっている。

 彼は静かに酒を飲みながらジョイスのことを考えつづけていたが、やがて、「彼はほんとうに稲妻がきらいだったなあ」といった。

昼餉は、ミルクをかけたオールブラン・シリアル。
ジョギング、8.71キロメートル。最大心拍数131bpm、最高速度7.4kph。
パリにおける交友とその日々は、ヘミングウェイの人生のハイライトだったと思うのだ。それ以降はおまけだった。最初の妻とのアパート暮らし。若き日々のあれやこれやは『移動祝祭日』に詳しい。ホッチナーの本を読んでいると、ヘミングウェイが描いたパリ暮らしの簡潔にして端正な文章のなにものにも代え難い香気が立ち上がってくる。
夕餉は、冷奴、納豆、ひじき煮、切り干し大根煮、かぼちゃコロッケ、竹輪とオクラの磯辺揚げ、味噌汁(ジャガイモ・玉葱・人参・油揚げ・豆腐・小松菜)、焼きシャケを混ぜた玄米ご飯、ウィスキー・オンザロック。食後にコーヒー、煎餅。
Appleは、iOS 17.5を更新して17.5.1をリリースした。削除したはずの写真がまた表示されるというマイナーバグの訂正。

 

 

 

 

 

 

 

アフォリズムにおける内部崩壊のこと

 

 

 


雨、のち曇り。21度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ、サラダ(レタス・リーフレタス・キャベツ・トマト・コーン・チーズ・バジル・カニカマ)、味噌汁(スナップエンドウ・キャベツ・玉葱・人参・油揚げ・豆腐)、卵サンドイッチ、アールグレイ。食後にコーヒー。
『パパ・ヘミングウェイ』より——

〈フィンカ〉への最初の訪問で、妻と私は接待用の邸に泊まることになっていたが、かがやくばかりに生き生きした女性、メアリ・ヘミングウェイは私たちを迎えると、あいにくまだ支度ができていないのだと詫びた。「ジャン=ポール・サルトルが思いがけず昨夜、女のかたといっしょにいらしたんですけど」と彼女がいった。「まだシーツを換えてありませんの」
 本邸に行く途中、アーネストが打ち明け話をしてくれた。「昨夜、食事のときサルトルが何なんていったと思う? “実存主義”ということばは新聞記者が作ったもので、彼、サルトルは関係ないんだとさ」
 みんなが居間にはいると、アーネストはふと天井を見上げた。「先週、ウインザー公夫妻が見えたが、漆喰が剥げているところだけに感じ入ったらしい」

昼餉は、コンソメスープ、スパゲッティ・ナポリタン、コーヒー。
ジョギング、6.75キロメートル。最大心拍数131bpm、最高速度8.0kph。
ホッチナーを読んでいてしみじみ思うのは、言葉はほんのひとにぎりのことだけを大事にしなければということ。生きるに際して、大事なことはそれほど多くない。ぜんぶを護って生きるのは荷が重いし、忘れたり勘違いもする。言葉にまつわる大事なことは、エズラ・パウンドが遺している言葉に尽きる。彼の言葉は、書くにさいして心がけるべきことだが、それは言葉全般に当てはまる。曰く、書くことにおける唯一のモラリティは、基本的な正確さをもって記述することだと。
唯一のモラリティと断っているところが厳粛である。基本的な正確さと読む者に委ねているところが広大無辺である。恥ずかしいことだが、この言葉はイサク・ディネーセンが遺したものだと長いあいだ間違って覚えてきた。失礼な話しなのだが、この間違いの構図がわれながらとても気にいっている。アフォリズムを図らずも内部崩壊させてしまっているからであり、ぼくはちょっと笑ってしまうのだ。ぼくが好きなディネーセンが遺した言葉は、私は希望も絶望もなく、毎日ちょっとずつ書きます、というものだ。
パウンドとディネーセンの言葉は、原典にあたったわけではない。レイモンド・カーヴァーの文章からの引用だから、ほんとのところはわからない。これも内部崩壊の芽を宿していると言えるかもしれない。誰かさんのように……。
夕餉は、ひじき煮、ポテトサラダ、竹輪とお蔵の磯辺揚げ、味噌汁(スナップエンドウ・豆腐・玉葱・人参・小松菜)、鶏ひき肉と卵の二色そぼろ丼、ウィスキー・オンザロック。食後にコーヒー、煎餅。

 

 

 

 

 

 

 

オスとしての観念

 

 

 

曇り、のち雨。23度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ、サラダ(レタス・リーフレタス・キャベツ・トマト・キュウリ・バジル)、ハムと目玉焼き、味噌汁(ジャガイモ・油揚げ・豆腐・玉葱・人参・蕪の葉)、ブルーベリージャムのトースト、アールグレイ。食後にコーヒー。
NHKの囲碁講座で映画『碁盤斬り』に協力した棋士たちを紹介している。碁会所シーンの背景で井山裕太王座が打っていたことに気づかず。スナップの効いた左手が映っていたというのに。その手前に座る國村隼と草彅剛に釘づけだった。迂闊である。
昼餉は、中華スープ、焼きそば、コーヒー、パンの耳のラスク。
サム・シェパード著『鷹の月』より——

 こんな些細な気がかりをいつももっている。はじめはそれほど気にならない。すぐに気づくというよりも、起こってしまってから気づくというように。それから俺にいつもつきまとう思いは、あることがらにちなむ些細な気がかりであると気づく。いくつも部屋のある大きな家の中にいるとすると、それぞれの部屋に足を踏み入れるたびに、もし一生そこに監禁されたら、どんなふうに暮らせるかと考えてしまう。監禁されることや、誰がどういう理由でそうするのかなどはどうでもいい。つまり、この場合の些細な気がかりというのは、この、またはある部屋のなかで、そこにある設備を使ってどうやってサヴァイヴするかということに関係する。もしそこが、たとえば暖炉みたいな設備がふんだんにある部屋だとしよう。俺はまず、薪のことを考え、それから薪の蓄えをほじくり返して、それがどれだけもつかを計算する。薪のことと暖炉のことにいいかげんにきりをつけ、一族の肖像画や一族の印証や紋章や、紋章付き陣中着のことなんかに注意がすり変わるまでそれをつづける。そんな興味もそろそろ失せる頃を見計らって、俺は次に、乳白ガラスの灰皿や南北戦争の写真や、中央にガラスの葡萄とガラスの梨を盛ったガラスの鉢があるガラスのテーブルのような心ときめかせてくれる品物を物色しにかかる。(後略)

男なら、こういう視線とか考え方は少なからず持っている。シェパードが「気がかかり」と呼ぶのはまさにそうで、男はどこかで予行演習をするのだ。ヒトという種族の男たちは、そうやって生き延びてきたとでも言わんばかりに。強迫観念のないオスは、ひょっとしたらオスではないとさえおもう。
夕餉は、冷奴、ヒジキ煮、ポテトサラダ、鳥肉ハンバーグ大葉包み焼き、味噌汁(蕪の葉・スナップエンドウ・油揚げ・豆腐・玉葱・人参)、玄米ご飯、ウィスキー・オンザロック。食後にピーチティー、チーズタルト。

 

 

 

 

 

日本人の素描

 

 

 

晴れ。28度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ・キウィ、サラダ(リーフレタス・レタス・キュウリ・トマト・コーン・バジル・カニカマ)、味噌汁(蕪の葉・油揚げ・豆腐・玉葱・人参)、卵サンドイッチ、アールグレイ。食後にコーヒー。
妻と歩いて映画館へ。白石和彌監督『碁盤斬り』。昨日公開になったばかりだが評判はいい。近くの映画館では今日になって上映が決まった。草彅剛さんが演じた主役の浪人がいい。最後のシーンが彼の佇まいに己れの心象を重ねられたかと思う。古典落語の『柳田格之進』を膨らませて、その部分が物語に奥行きを与えることになった。
ぼくらは折々に時代劇を映画館で観ている。朝一番の上映には20人くらいしか入っていないものの、みな満足そうな顔をして小屋を出た。
草彅剛さんは『ミッドナイトスワン』もそうだったけれど声のトーンがいい。抑制が効いている。なにより含羞がある。それは日本人らしさの素描につながっている。その「らしさ」は一歩踏み誤ると鼻につくのだが、彼は持って生まれたものが真贋を嗅ぎわけているように見える。ヒトはそれを天性と呼ぶらしい。
含羞など微塵も持ち合わせていない俳優たちから無理矢理に引っ張り出してみせたのは監督・小津安二郎である。台詞を棒読みのように言わせ、大袈裟な振る舞いを禁じた。生臭くて不恰好な演技を抹殺した。いまさら言うまでもないが、小津が描いたのは平素の人々の素描である。それは日本人に限らない敷衍性の描出になった。草彅さんはその線上を歩いているのかもしれない。
昼餉は、ファミリーレストランで。妻はハンバーグ、ぼくはボローニャ風ミートソース。二人してドリンクを飲み過ぎる。
大相撲夏場所で、角番の大関・霧島が休場となる。関脇の来場所で10勝しなければならぬ。
夕餉は、食パンの耳、コーヒー、チョコレートアイスクリーム、ウィスキー・オンザロック。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

回るよまわる

 

 

 

 

晴れ。26度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ・キウィ、サラダ(レタス・キャベツ・トマト・キュウリ・バジル・カニカマ)、味噌汁(シメジ・玉葱・人参・油揚げ・豆腐・蕪の葉)、卵サンドイッチ、アールグレイ。食後にコーヒー。
井上陽水を聴いている。1980年代末から1990年代にかけてのアルバム。ブルーズ・コードの楽曲がどれもいい。Beatles経由の陽水のブルーズ、なんとも遠回りだなぁと途中で思う。どれくらい遠回りしたかで、文化の断面はかがやく。この国は遠回りの宝庫で、ぼくらはそれを空気のように吸っている。それがさらに海外へ流出して、もうわけがわからない芳醇さとなっていく。そうして何周かすることもあるんだろうか。
昼餉は、ラスク、コーヒー。
カーシェアでクルマを調達して妻とちょっと離れた公園へ。バラ園の花が満開。菖蒲園も来月初旬に開花するとか。久しぶりのクルマ。ちょっとした渋滞に遭うと、なんだか落ちつかない。無下な時間が過ぎていく。やりきれない気持ちが新鮮だったりする。未来のヒトは、大昔にそんなことがあったなんてなんと無為無策で愚かな社会だったのでしょうと語るんだろう。
基本的人権を憲法で明文化していたなんて、そんな当たり前のことさえ確認せざるを得なかったなんて……いやいやそもそも憲法ってなんだ? 明文化ってなんだ?という日もいつかくる。ほんとだろうか——。
夕餉は、冷奴、切り干し大根煮、中華スープ、焼きそば、ウィスキー・オンザロック。食後にコーヒー、ラスク。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冷蔵庫のコーヒーゼリー

 

 

 

 

雨、のち晴れ間。25度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ・イチゴ、サラダ(レタス・キャベツ・トマト・キュウリ・コーン・カニカマ・バジル)、味噌汁(シメジ・キャベツ・玉葱・人参・油揚げ・豆腐)、ピザトースト、アールグレイ。食後にコーヒー。
妻の作ったコーヒー・ゼリーが冷蔵庫に眠り続けている。食べたい、と言うまで彼女はそれを器に盛るつもりはないかのようだ。きっと同じようなことを妻はぼくの作ったものにも抱いている。そして食べたいと言うことを我慢している。
それは食べものに限らない。ぼくらの暮らしには、そんなことがたくさんあって、ひょっとしたらそれだけで暮らしは彩られているのかもとおもう。ちょっと口に出してみればいいのに。なぜだか我慢している。もう我慢とは呼ばないのかもしれない。
いつしかそれは、密やかな愉しみとなって暮らしの無口のぶんをすべて占拠している。口にされずに、表立って浮かびあがることもなく。
そのくせ、消えてなくなったら、ぼくらの生きる力もなくなってしまう。そんな存在に育っている。
昼餉は、蕪の葉・蒲鉾を添えたきつね蕎麦。
ジョギング、5.29キロメートル。最大心拍数142bpm、最大速度8.8kph。南西の強い風。
妻が起きてくるまえに、ぼくは台所に立ってサラダを作っている。味噌汁も火にかける。ドレッシングも茹で卵も作る。まだ半分寝ている妻が立っている。おはようと言いながら、ぼくは妻を抱きしめる。無口のぶんを5秒くらいの抱擁に代えて。
コーヒー・ゼリーのことは黙ったままで。
夕餉は、冷奴、切り干し大根煮、蕪のとろとろ煮、メカジキの竜田揚げ、味噌汁(シメジ・蕪の葉・玉葱・人参・油揚げ・豆腐)、玄米ご飯、ウィスキー・オンザロック。食後にアイスクリーム、コーヒー。
井上陽水『Twin Shadow』の歌詞より——

嫌いな言葉はWHY
恋の理由を訊くなんて
世界中あなただけ
インスピレーション

 

 

 

 

 

 

 

気づきはじめたこと

 

 

 


曇り、日差しあり。23度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ・イチゴ、サラダ(レタス・サニーレタス・キャベツ・トマト・キュウリ・バジル・カニカマ)、味噌汁(シメジ・玉葱・人参・油揚げ・豆腐・蕪の葉)、卵サンドイッチ、アールグレイ。食後にコーヒー。
『モーテル・クロニクルズ』より抜粋——

 高い高い草から
 アスファルトの運動場の縁へと
 ぼくは君がぼくを観察するのを見る
 
 ぼくはぼくに見られているのに気づいていない君を見る
 ぼくがかすめ取る盗み見の一つひとつが
 ぼくの生命に一日を加える

 近ごろ君はつかまえにくい
 あるいはぼくが耄碌してきたのか
 君かぼくのどちらかが確かに負けようとしている

 

81/11/6
ホームステッド・ヴァレー、カリフォルニア

昼餉は、菓子パン、コーヒー。
強い自制が働いている男たちがいる。ひと握りの男たちは、その自制に忠実に生きている。ほかの男たちにもその自制が伝わる。忠実であることの強い意志とともに。不平を言ったり、苛立ったり、己れを不必要に昂らせたりすることがない。ただ自制して、できることともっとできるようになりたいことの狭間で、今できることに気持ちを集中させる。そういう姿勢は、チームをすこしずつ強くする。一番打者と三番打者は、そういう顔つきをしている。視線の先の一点を見つめている。新たに加わった男たちも、一番打者と三番打者の視線の先を追っている。
大谷翔平は、やっと二人の視線の意味に気づきつつある。とば口に立って、やっとあるべきことへ向かうことの意味を知りつつある。身体が理解するまでには、まだちょっと時間がかかる。それが身につくかどうかはわからない。大谷翔平はそのはるか手前にいて、チームの意味を肌で感じはじめたばかりだ。
夕餉は、冷奴、ポテトサラダ、切り干し大根、納豆、フレンチフライを添えた鶏胸肉の唐揚げ、味噌汁(シメジ・蕪の葉・油揚げ・豆腐・玉葱・人参)、玄米ご飯、ビール、ウィスキー・オンザロック。食後にコーヒー、チュロス。

 

 

 

 

 

 

サム・シェパードという男

 

 

 


曇り、のち晴れ。22度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ・イチゴ、サラダ(レタス・サニーレタス・キュウリ・トマト・カニカマ)、味噌汁(ジャガイモ・リーフレタス・玉葱・油揚げ・豆腐)、茹で卵ディップとパンの耳、アールグレイ。食後にコーヒー。
ジョギング、7.31キロメートル。最大心拍数135bpm、最大速度7.9kph。
ゆっくり走ることと、少しでも速くという気持ちがぶつかり続ける。気持ちがノイズになって身体をむしばんでいく。
昼餉は、バターロールパン、コーヒー。
図書館で取り寄せ本を借りる。サム・シェパード著、畑中佳樹訳『モーテル・クロニクルズ(原題:Motel Chronicles)』(ちくま文庫)、サム・シェパード著、黒木三世訳『鷹の月(原題:Hawk Moon)』(中央公論社)。サム・シェパードとは映画『The Right  Stuff』で演じた寡黙な男チャック・イェーガーからはいった。というよりも、ずっとそこにとどまり続ける存在だった。なんとなれば、彼のイェーガーはその場所に置いて行かれる者を演じて余りあるものだったからだ。『ペリカン文書』とか『すべての美しい馬』、『ブラックホーク・ダウン』にも出演していたというのに、ぼくはシェパードを黙殺していたのだとおもう。さらに遡れば、彼のキャリアは劇作家からスタートしているのだった。そして’84年の『パリ、テキサス』では脚本家としてクレジットされている。原作は『モーテル・クロニクルズ』である。監督のヴィム・ヴェンダースがシェパードの本を気に入っていたらしい。そういうつながりがあることをつい最近知る。
不幸せだった子どもは、大人になってから不幸せにまつわるものごとに惹き寄せられていく。シェパードの心象には、そんな言葉が刻まれている気がする。通り過ぎていった不幸せは居心地がいい。多かれ少なかれ子どもはそういうものだと大人は振り返っておもう。彼は、その心象を生きる糧にしたのだ。
そんな風情を漂わせている男に惹き寄せられる女がこの世にはおおぜいいる。
そんな女の気持ちがよくわかる。
夕餉は、冷奴、煮豆、ヒジキ煮、切り干し大根、ポテトサラダ、蓮根の甘唐揚げ、味噌汁(シメジ・リーフレタス・玉葱・油揚げ・豆腐・蕪の葉)、玄米ご飯、ウィスキー・オンザロック。食後にコーヒー、ずんだ餅。

 

 

 

 

 

 

雨脚の不運と言い訳

 

 

 


おおむね雨。20度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ・イチゴ、サラダ(レタス・サニーレタス・トマト・キュウリ・チーズ・カニカマ・バジル)、味噌汁(シメジ・蕪の葉・ジャガイモ・玉葱・人参・油揚げ・豆腐)、ピザトースト、アールグレイ。食後にコーヒー。
雨脚が強まる。ベランダの万年青の鉢に落ちる雨垂れが土を穿っていく。近江で求めた万年青は、その不運をかこつこともない。鉢を動かしスコップで土を撫でる。慰めにもならないことを、今さらながらに。
かたわらをツバメが飛びすぎる。地面ぎりぎりから屋根へと、雨粒を跳ねかえして駆けあがる。固定した羽は特急列車のフロントマークと寸分違わぬ。ぶつかり合う寸前で一方が急降下する。もとより羽虫は飛んでいない。腹を空かせた雛たちへ、言い訳のように飛んでみせる。
昼餉は、ラスク、コーヒー。
万年青の不運も雛への言い訳も、彼らのあずかりしるところではない。ぼくは彼らの生きざまにベタベタと貼りつける。彼らのすがすがしさに異議を申し立てるように。すがすがしささえ、ベタベタと。
彼らには彼らの言葉がある。ぼくらの想像をはねつけるような言葉。彼らにも彼らの言葉であらわすところの不運とか言い訳というものがあるのか。強くなる一方の雨脚に、ぼくは尋ねる。
夕餉は、納豆、ヒジキ煮、ポテトサラダ、焼き鮭、味噌汁(シメジ・蕪の葉・ジャガイモ・油揚げ・豆腐・玉葱)、玄米ご飯、ウィスキー・オンザロック。食後にコーヒー、クッキー。

 

 

 

 

 

 

ホッチナーの眼と耳、そして注意深さ

 

 

 

 

曇り。24度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたイチゴ・バナナ、サラダ(レタス・サニーレタス・キュウリ・トマト・チーズ・カニカマ・バジル)、味噌汁(シメジ・蕪の葉・サヤエンドウ・油揚げ・豆腐)、卵サンドイッチ、アールグレイ。食後にコーヒー。
妻はクワイアに招いた女性歌手の舞台を応援に。客が詰めかけていたという。夜に戻る。
日記によれば14年前に求めたらしいレイ・ブラッドベリの『火星年代記』を読みはじめている。どこかにあったはずだと本棚の奥を掘りおこす。あきらめかけたころ、背表紙は恥ずかしげに姿をあらわした。
『パパ・ヘミングウェイ』より抜粋——

 ヘミングウェイはいくらか遅れてやってきた。カーキ色のズボンをはき、Gott Mit Uns(「神はわれらとともに在り」の意)という字が彫りつけてある大きなバックルのついた幅のひろい革のベルトを締め、だぶだぶの白いリンネルのスポーツ・シャツをきて、ソックスをはかず茶色の革のローファーをはいていた。髪は暗色で部分的にグレイになり、こめかみは白く、口もとまでゆたかな口ひげを生やしていたが、顎ひげはなかった。どっしりしている。身長は六フィートを一インチこえているだけだから身長からうける感じではなく、体重のせいでもないが、向かい合ったときに押し寄せてくる威圧感といったものを感じさせた。体重二百ポンドの大部分が腰からうえに集中している。角ばった逞しい肩、長くて筋肉がはりつめた腕(左腕にはぎざぎざの傷痕があって、肘がいくらかまがっていた)、ぶあつい胸板、腹はでているが、臀も腿も大きくない。彼の見てくれには何か相反するものがあった(中略)
「ホッチナー」彼は握手をしながらいった。「〈カブ・ルーム〉にようこそ」手は分厚く四角ばっていて、指はいくらか短く、爪はまっすぐ切りそろえている。バーテンダーが私たちの前にフローズン・ダイキリを二つ置いたが、円錐形のグラスで、これまで私がダイキリとして飲んできたものの二倍はあった。「さあ、ダイキリ作者の芸術の最高作品を賞味しよう」ヘミングウェイがいった。「ここで、一晩に十六杯も飲んだことがあるんだ」
「このサイズで?」
「当店の記録ですよ」私たちの話を聞いていたバーテンダーがいった。
 ヘミングウェイは口いっぱいふくみ、長いあいだ口のなかに入れておいて、少しずつ咽喉にのみこむふうにして手本を見せてくれた。彼は満足そうにうなずいた。

 

ホッチナーの五感はフル稼働している。言葉は録音しているものを再生して確認しているらしい。それにしても、彼の観察は驚嘆に値する。そのことは、ヘミングウェイにもなんらかの形で伝わった。ホッチナーの書いたものをとおしてではなく、ホッチナー自身の存在がそれをヘミングウェイに伝えて、ヘミングウェイはそれを正確にうけとったのだとおもう。そうでなければ、自死するまでの年月を過ごしてもいいとはおもわない。人を見る目が厳粛だったことに端を発しているヘミングウェイの孤独のカーテンの内側に、ホッチナーは入ることを許された。
注意深い——ヘミングウェイがホッチナーを信頼したのは、この一点においてのみだったと思う。注意深いがゆえに、嘘がない。注意深いがゆえに、誇張しない。信頼に足るとは、そういう結果をもたらす才能のことをいうのだとつよくおもう。偉大な作家の眼が間違っていなかったか。この本は、それに答えるただ一つの判例だとおもう。
昼餉は、菓子パン、コーヒー、ラスク。
大相撲夏場所は今日から。ちょっと太りすぎじゃないかなという力士の一番目にくるのは大関の琴櫻。膝やくるぶしが心配になる。横綱と大関、関脇が平幕に負ける。波乱の幕開けとはよく言われることだが、文字どおりではある。
一人の夕餉は、シジミの味噌汁、蕪の葉と豚ひき肉のオイスターソース炒め丼、ウィスキー・オンザロック。食後にコーヒー、妻の土産の駄菓子。

 

 

 

 

 

冷たさと暖かさと

 

 

 

晴れ。27度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ・イチゴ、サラダ(サニーレタス・キャベツ・トマト・キュウリ・チーズ・バジル・カニカマ)、味噌汁(サヤエンドウ・シメジ・玉葱・人参・油揚げ・豆腐)、卵サンドイッチ、アールグレイ。食後にコーヒー。
日の出の頃はまだ冷たかったのに、空気はすぐ温まった。夜が冷気を保っていられるのは数週間もない。
昼餉は、菓子パン、コーヒー。
午後になって吹く風が生ぬるい。ため息の温度のようだ。
夕餉は、ほうれん草のお浸し、フレンチフライと人参のグラッセを添えたハンバーグ、味噌汁(蕪の葉・シメジ・サヤエンドウ・油揚げ・豆腐)、玄米ご飯、ウィスキー・オンザロック。食後にコーヒー、パンの耳のラスク。

 

 

 

 

 

 

まことの敵役は表にはいない

 

 

 

 

晴れ。23度。
7時に起きる。
朝餉は、蜂蜜とヨーグルトをかけたバナナ・イチゴ、味噌汁(サヤエンドウ・蕪の葉・厚揚げ・玉葱・人参)、ブルーベリージャムのトースト、アールグレイ。食後にコーヒー。
妻は友人とのランチなどで出かける。東京おもちゃ美術館にも寄ったらしい。夜に戻る。
ジョギング、7.03キロメートル。最大心拍数146bpm、最大速度9.1kph。そこここでランナーに出会う。風が薫っている。こんな日に走らなければ、いつ走るというんだ。ランナーはみんなそんな顔をしている。ぼくもきっとそうなのだろう。
昼餉は、菓子パン、コーヒー、煎餅。
デンゼル・ワシントン主演の映画『イコライザー THE FINAL(原題:The Equalizer 3)』。脚本がどんどんショボくなっていく。ワシントンは輝かしい経歴を持っているのに、このシリーズを観ていると黒人が置かれた米国社会の闇が濃くなる一方に感じる。ワシントンは疲れた老人になりつつある。そう見えてしまう。そもそも、マフィアの描き方がしょぼい。ヒーローよりよほどスマートで独自のロイヤルティーを堅持している悪人はこの世にたくさんいる。悪人がただの阿呆という脚本はつまらない。最後まで付き合いきれないのは、まことの悪人が米国社会を描かせないせいかもしれぬ。
夕餉は、牛のサイコロステーキ、シジミの味噌汁、玄米ご飯、ウィスキー・オンザロック。食後にコーヒー、ピーナッツ、煎餅。
Appleは、macOSの開発者バージョン14.5のRCをリリースした。