(読書メモ) 河野真太郎『戦う姫、働く少女』

 女性主人公の描き方に焦点を当てて、そのような描き方を求める社会の現状と、時にはその変革の欲求までもを捉えて記述しようとしている点が面白い。複数の作品を、思いもよらなかった形でつなげているのは著者も述べるように、大きな知的興奮なのだけれど、その一方で個々の作品の分析ももっと読みたい、というのは無い物ねだりか。著者の立てている図式が強力なので作品の組み合わせは説得力があるのだけれど、その図式を打ち破る新たな力の萌芽のことも、もっとたくさん聞いてみたいと思わせてくれる記述だった。ということで、著者による夏休み講座、『著者が伝授、君にも書ける、『たた姫』式批評』の開催を希望いたします。

『あなたの人生の物語』(『メッセージ』原作)

映画『メッセージ』を面白く観たので、原作『あなたの人生の物語』も購入。そのメモ。

(知りたくない方は読まない方がよいかも)

 七本足の生命体(ヘプタポッド)の言語理解(二層になっている、音声発話をともなう通常言語の「ヘプタポッドA」と表意言語「ヘプタポッドB」)が進むにつれて、主人公の言語学者の時間認識も変化して、直線的時間から円環的時間が取り入れられ、未来を知ることになる。その結果まだ生まれていない娘の死を知り、それを語っているという構造。

 それに抗うことはできないとすれば、未来を知ったものの行動は「自由意志」が入っていると言えるのか、と問いかけているように思われた。作品内ではボルヘスの「三世の書」などへの言及もあるが、「自由は幻想ではない」という一節が力強く感じられた良篇だった。

※限定された形では七月隆文 『僕は明日昨日の君とデートする』も類似したテーマに基づいているといえるかもしれない。

未知と驚異の悦びという恩寵へ踏み出すために

上野の国立科学博物館でやっている「ラスコー壁画展」が非常に面白かったので、古代の人々の想像力と芸術の起源についての著作を参照しながら思いを馳せる。

バタイユの『ラスコーの壁画』ーバタイユは久しぶりだけれど、いま読むと2万5000年前に描かれて奇蹟的な保存状態で現代に現れたラスコー壁画に託して、自身の超越的なもの(奇跡、恩寵、驚異的なもの、期待を超えるもの、情緒的な衝動)に対する思索が展開されているのだということがよく分かる。

他には
港千尋『洞窟へ』
デヴィッド・ルイス=ウィリアムズ『洞窟の中の心』

それと関連して
エルネスト・グラッシ『形象の力 合理的言語の無力』
ポール・ド・マンロマン主義のレトリック』
ワイリー・サイファー『文学とテクノロジー

(1/21追記)
アルフォンソ・リンギス『変形する身体』
現代思想 人類学のゆくえ』2016年3月臨時増刊号

思えば年始めの岡本太郎の芸術と呪術についての本との再会が始まりだったな。今年は非合理な方向へと触手を伸ばしてみようと思う。
キーワードは「非合理」「崇高」「ロマン派」となるか。まとめというよりも今後の方向性としてリスト・アップ。

『忘れられた巨人』についてのメモなど

唐突に更新してますが、ひっそりとしたメモ代わりです。ツィッターなどある昨今ではブログの方が個人的なつぶやきの場として適してきたような気も。

カズオ・イシグロの『忘れられた巨人』(Kazuo Ishiguro The Buried Giant)を読み、再読してもいまだに釈然としないところも多いので、書評やインタビューなどを参照してみる。<日本語記事>
日経新聞-2015-0510(Financial Timesの翻訳)←日本語で読めるものでは現在これが一番充実していると思う
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO86503620Y5A500C1000000/

日経新聞書評-2015-0621
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO88325980Q5A620C1MY6001/

朝日新聞-2015-0303
http://www.asahi.com/articles/ASH33212SH33UHBI002.html

産経新聞書評-2015-0607
http://www.sankei.com/life/news/150607/lif1506070017-n1.html

英語版の主要紙など

・Washington Post-2015/02/24
http://www.washingtonpost.com/entertainment/books/review-kazuo-ishiguros-the-buried-giant-defies-easy-categorization/2015/02/24/51747868-bb71-11e4-8668-4e7ba8439ca6_story.html

The New York Times-2015/03/01
http://www.nytimes.com/2015/03/01/books/review/kazuo-ishiguros-the-buried-giant.html?smid=fb-nytimes&smtyp=cur&bicmp=AD&bicmlukp=WT.mc_id&bicmst=1409232722000&bicmet=1419773522000&_r=0

・The Telegraph-2015/03/05
http://www.telegraph.co.uk/culture/books/bookreviews/11451411/The-Buried-Giant-by-Kazuo-Ishiguro-review.html

・The New Yorker-2015/03/23
http://www.newyorker.com/magazine/2015/03/23/the-uses-of-oblivion


・The Telegraph-2015/02/27
http://www.telegraph.co.uk/culture/books/11436950/Kazuo-Ishiguro-Most-countries-have-got-big-things-theyve-buried.html

・Financial Times-2015/03/06
http://www.ft.com/cms/s/2/24786502-c29e-11e4-ad89-00144feab7de.html

The New York Times (Interview)-2015/03/05
http://www.nytimes.com/2015/03/08/books/review/kazuo-ishiguro-by-the-book.html?ribbon-ad-idx=4&rref=books%2Freview&module=Ribbon&version=context®ion=Header&action=click&contentCollection=Sunday+Book+Review&pgtype=article

日経の夕刊にも出ていたようだけれど、これはネット上でもよめるのかな?

NHKでも特集があるようだ。

NHK Eテレカズオ・イシグロ 文学白熱教室」
http://www.hayakawa-online.co.jp/new/2015-06-22-151530.html

追記
Wired Interview
http://www.wired.com/2015/04/geeks-guide-kazuo-ishiguro/

Wired 日本語版
http://wired.jp/2015/08/10/kazuo-ishiguro-interview/
http://wired.jp/2015/08/10/kazuo-ishiguro-interview/2/

新年度も始まって

こちらでの暮らしも、早くも4年目。
新学期も予定通りに始まり、教務担当としての学生対応も何とか落ち着いたこの時期。とはいえ折に触れて日常の生活が送れるありがたさが身にしみる昨今。
今年度より新たな委員会の仕事を拝命。学生の行事に顔を出す機会が増える模様。その手始めとして、先週は学生会主催の新入生歓迎バスツアーなるものに付き添う。互いに見知らぬ同士が集まったバス内の1時間半をゲームで仕切るという、自分なら確実に心が折れてしまうであろうタスクを引き受けていた学生会の学生たちに関心。目的地の野田市清水公園で和気藹々と楽しそうな学生たちの雰囲気にほだされて、アスレチックに挑戦したら首の筋を痛める。何だか思ってもみなかった仕事が増えてきているなぁ。

今日は某学会の関東支部。職場の上司が司会を務められるシンポを拝聴。しっかりした資料を作られていて、自分が発表する際の参考になった。

その行き帰りで↓

さよなら渓谷 (新潮文庫)

さよなら渓谷 (新潮文庫)

「批難もできない、礼も言えない」という何気ない簡潔な言葉に行き着くまでに、この二人には、たしかに長い物語が必要だったんだな、という説得力を感じさせた。

無事の報告

ご連絡いただいた方々、ご心配をおかけしました。

地震で大変なことになっていますが、こちらは無事でいます。
地震発生時は顧問をしている合気道部の合宿で伊豆にいたので、少し揺れた程度だったのですが、ニュースを見て驚きました。
千葉では相当に揺れたようで、自宅は奇跡的にタンスが倒れた程度で治まってましたが、近隣の家では食器棚から食器が飛び出して棚のガラスが割れたり、屋根瓦が落ちたりしてました。職場は幕張の沿岸だったので相当にやられてるようです。地割れが起きて、液状化が起こってたそうです。研究室も本棚が倒れてたり、パソコンが落ちたりしてるそうですが、こちらはもともと壊滅的にちらかってたので、あまり影響なさそうです。

家族の無事は確認できましたが、帰ろうにも伊豆急が止まっていて、結局日曜のお昼に戻ってきました。合宿所はインターネットが使える環境でもなく、自分の携帯もそうした仕様でもなかったので、ご心配をおかけしてしまった皆さん、どうもすみませんでした。

関東圏では今日からも計画停電が実施されて、生活や交通網にも大きな影響が出るようです。ネットなどで情報収集・交換しながら、極力遠出は避けた方がよさそうです。

ひとまずご報告まで。

それにしても、こうした情報が本当に必要なのは、現地の方々なのだろうに、そうした人々に一番情報が届きにくくなって、文字通り日本が分断されている状況はもどかしい限り。

今年度の締めくくり

成績関係も一段落したので、同期入社の体育教室Hさん(最近は英語よりも体育の先生方とのからみが多いですね。そのうち体育教室に売られてしまうかもしれません)と年度の打ち上げ。

お互い体育教室と英語教室の下働きとして今年も何とか生き延びたね、とねぎらい合う。

その後は、同世代での話題として昔のファミコン話。ありがちだけれど、やはり盛り上がる。
今回は、「たけしの挑戦状」で歌うこととか、スーパーマリオの裏面やドラクエ2の「はかいのつるぎ+はやぶさのけん」といったバグ技などだったように思う。
タイトルや会社名も意外と覚えてるもんで、ジャレコアイレムなんかは名前が出るだけで「そうそう」となるあたり、世代で共有しているもののありがたみをしみじみと感じるアラフォー世代。

Hさんが「今度実家からファミコン持ってくるわ」と言ってくれたので、「バルーンファイト」と「キン肉マン―マッスルタッグマッチ」をリクエストする。

最後は、近隣の有名店「なりたけ」のトンコツ醤油ラーメンで〆。
ただでさえコッテリで名高いラーメン屋なのだが、気分がよくなっていたので、背脂増量の「ギタギタ」をオーダー。普段なら完食できなかったと思うが、友情パワーで二人とも食べきる。気さくに話せる同世代の同期っていいなぁ。


丼のフチがぼやけて見えるのは大量の背脂のため。