ツーリング日和20 あとがき

 ツーリング小説を書いているつもりなのですが、なにぶんシリーズが長くなり過ぎまして、ツーリングはサイドでラブロマンスがメインになってしまっているのは御愛嬌です。もう一回のツーリングで長く行けるところが思いつかないぐらいです。

 それでもツーリング部分は実際にツーリングしたところを中心にしていますので、その分だけリアリティが増してくれてるはず、いやしていて欲しいと思ってます。その代わりみたいなものですが、ご近所ツーリングばっかりになっているのは現実の反映です。

 ラブロマンス部分はヒロイン設定に七転八倒しています。そうそう新味を生み出せなくなってるからです。こういうものは美男美女が魅かれ合う悲恋もあります。ロミオとジュリエット型です。でもあれは合っていないし書きにくい。

 勢い、必ずしも美人じゃない設定をあれこれ捻くり回すのですが、これはこれでそれでも魅力のある設定をしないと行けない訳でして・・・あれぐらいになったぐらいです。ヒロインの友人役ですが、あれはそれこそ苦しい時のユッキー頼みで、もう少し違うキャラにしようと努力はしましたが、自作がモデルですからヨシとしています。

ツーリング日和20(第35話)そして・・・

 その夜に告白されて結ばれた。と言ったら愛想がないけど感動と試練の一夜だった。告白があるのはどこかで予感してたけど、現実となると信じられないとしか言いようが無かったもの。

 瞬さんの想いはサヤカが推測した通りだった。マナミと逢えば逢うほど魅かれていったみたいなんだ。マナミの魅力はサヤカが分析してたけど、そんなところに重点を置いて相手を選ぶ人が本当にいるのは信じられない気分しかなかったもの。

 そりゃ、もう情熱的に口説き落とされてしまった。あんなイイ男にそこまでされてNOなんて出来るはずがないじゃないか。そりゃ、もう嬉しくて、嬉しくて状態になったよ。あれでならなきゃウソだろ。

 けどね、YESを出せば次がある。この歳だもの、これだけのシチュエーションで無い方が不誠実だ。それももちろん了解済みで武田尾まで来てる。こっちだってネンネじゃないしバツイチだ。

 とは言うものの大難産の手術以来なんだよね。あそこが使えるかどうかには不安しかなかったもの。ここばっかりは、事前に誰かに試すのは出来ないのよ。そんなもの医者相手だってお断りだ。もっともそんなテストをやる医者がいれば警察沙汰だけどね。

 マナミがもうちょっと、いやサヤカ並みの美人だったら一夜のアバンチュールぐらい出来ただろうが、そこはブサイクチビのアラフォーに縁があまりにも遠すぎた。でも、それについての後悔はない、男漁りは趣味じゃない。

 後悔はないけど後悔はある。ぶっつけ本番だもの。そりゃ、経験はたんまりある。元クソ夫は変態趣味の性欲マシーンだったから、トコトンやられまくったもの。それこそヒーヒー状態にまでされてたからね。だけどあの時のあそこじゃない。処女じゃないけど、初めてみたいなものじゃない。

 ここまで来れば女は度胸と開き直るしかなかった。まさかまさかのウルトラ巨根だったら突き破られての病院送りも覚悟した。そこまで考えると武田尾から病院まで遠そうだから失敗したかもしれないって頭を過ったもの。

 そしてついに始まった。何が起こるかの不安しかなかったな。ここがダメなら後ろもあるけど、そんなところを瞬さんが好きかどうかもわかんないもの。もう祈るような気持だった。まず体はスタンバイ状態になってくれた。

 そうなれば来る。入って来る感触はお久しぶりだったけど、問題は奥だ。瞬さんがグイって感じで入ってきた。そりゃそうするよね、相手は処女じゃなくバツイチ女だ。あっとは思った時には奥までズドンだった。

 でね、痛くなかったんだ。妙な違和感もなかったし、ちゃんと受け入れてる感触も変わっていない。そうだね、欲しくて、欲しくてたまらない愛おしいもので満たされる嬉しさも込み上げるぐらい。この時点でダメだったら話にならないけど、まずは最初の難関はクリアだ。だが本当の試練はここからだ。

 祈るような気持ちでそれは始まった。これもどうなるかなんて想像も付かないじゃない。なにか変な感触が起らないか全神経を張り詰めてた。そしたらね、かつての感覚が次々と蘇って来るのがわかった。ホッとしたなんてものじゃなかったよ。ちゃんと受け入れられて反応も出来てるんだもの。

 それで安心したのが悪かった、いや良かった、いや悪かった、いやムチャクチャ良かったけど、最悪の展開になってしまった。なにを言ってるかわかんないと思うけど、体が全開に突っ走っちゃったのよ。

 これはさすがに恥ずかしかった。だってまだ瞬さんとは初めてじゃない。そりゃ、処女じゃなくバツイチだから感じたってかまわないはずだけど、これはいくらなんでも拙すぎるって思ったんだよ。

 そこそこのところで終わってくれるように願ったのだけど、こういう時に限って、そうは問屋が卸してくれなかったんだよね。そりゃ、もう必死になって堪えたんだけど、結果的にあれも良くなかった、いやこの世で最高、そうじゃなくてトンデモない結果、う~んと、う~んと、究極の結果オーライみたいなものだ。

 女だってね、やるからにはイキたいのよ。あれは女にとって最高の感覚だし、一度覚えれば麻薬のようなものだ。中毒性だってあると思うし、何回イっても飽きたり慣れることもないもの。たぶん男だってそうのはずだ。

 感じれば高まり、高まり切ってイクじゃない。そのルートを驀進していたんだ。感じるところまでは良いとしても最初からイクのは避けたかったんだ。だってだって、まだ瞬さんとは一回目だ。そこまでの姿をいきなり見せたくないじゃない。

 ここまでになっても女にはプライドがある。プライドって言い方もちょっと違うから恥じらいかな。あれになっても感じちゃう姿を見せるのは本当に恥ずかしいのよ。ましてやイキ姿をさらすなんてだ。

 そりゃそれを見せないとイケないのだけど、いくらなんでも最初からイキ姿までさらしたくなかったんだ。だから耐えた、頑張った。歯を食いしばり、涙を飲んで悶えまくる姿までさらしたよ。

 悶える姿も本当は見せたくなかったんだけど、イキ姿よりマシだとあきらめた。つうかあきらめるもクソも、そうでもしないと堪えられるものじゃなかったもの。悶絶するってああなるのがわかったけど、もう一心不乱になって堪えに堪えたんだ。

 イク時って人によって違うだろうけど、マナミの場合は高まりからイクに自分で持ち込む感じが多かったんだ。だからそこを堪えれば凌げるはずって計算はあるにはあった。それだけをひたすら念じて、後少し、もう少しって踏ん張ってた。

 だけどさぁ、ふと気が付くと体がエライ事になっているのがわかったんだ。あれは高まりなんて代物じゃなくマグマだ。それが噴火に向かって物凄い勢いで噴き上がって来るのがわかったんだよ。もう、もうの状態で、あれこそどうしようもなかった。

 出来たのは絶叫することだけ。凄まじい大爆発に粉微塵にされてしまった。こんなもの経験したことなんかあるものか。イクは絶頂とも表現されるけど、そうだね、感じとして絶頂から大噴火して吹き飛ばされたって言えば良いかもしれない。

 凄まじすぎる衝撃は体中を貫いていった。こんな世界がこの世にあり、ここまで女って感じれるものかってボンヤリ思ったもの。そうだね、これを感じられるのなら死んだって後悔はないぐらいの感覚だった。そして意識が真っ白になった。

 気が付いたら朝だった。あのまま眠っていたんだ。昨夜の事を思い出すだけで顔が真っ赤になりそうだったよ。イキ姿をさらすなんてレベルじゃなく、マナミのすべてをさらしたようなものじゃない。でもね、瞬さんは、

「最高だった。愛してる、もう離さないよ」

 そういって抱きしめて熱いキスまでしてくれた。素直にその言葉を受け取れたし、生まれて来てこんなに嬉しいと思ったのは初めてだ。ああなってしまったマナミを瞬さんは喜んでくれたんだもの。

 瞬さんは逞しかった。巨根ではないと思うけど、元クソ夫よりはるかに逞しかった。けどね、マナミがあそこまで感じられたのは瞬さんの逞しさだけじゃない。短小は見たことも経験したこともなから置いとくけど、一般的に小さいより大きい方が良いとは言われてる。

 そういう女もいるのは知ってるけど、マナミは違うと思うんだ。女はそんな単純なものじゃないのよ。最高に良いのは入れて欲しい人に入れてもらうこと。女ならわかると思うのだけど、本当に欲しいものが入ってくれることなんだ、

 元クソ夫だって本当に欲しいものの時代はあったんだよ。だから感じたし、イクことも出来た。だけど瞬さんへの愛おしさは段違いとしか言いようがない。愛してたって意味では同じはずなのだけど、どう考えたって違うんだよ。

 それは瞬さんがイケメンだとか、お金持ちからじゃないと思う。そりゃ、イケメンでお金持ちなのは誰だって魅かれるだろうしマナミだって例外じゃない。でもそんなのじゃなくて、なんて言えば良いのか難しいけど、ついに見つけたって気がしてる。

 それこそ魂が本当に魅かれ合う相手をね。そこまでの相手だからあそこまで感じることが出来たはず。エラそうに言ってるけど今だって夢見心地なんだ。あの夜って本当にあったんだろうかって。


 お泊りツーリングから帰った後にサヤカにも報告した。だってどうなったかって、聞かせろ、聞かせろってウルサイんだもの。でさぁ、サヤカの奴は武田尾の夜に瞬さんからの告白を受け入れて結ばれたって聞いて

「前も使えて良かったねぇ」

 いきなりそこかよ。そりゃ、前がダメだったら後ろしかなくなるけど、後ろばっかりの関係はどう考えたって歪みすぎだろ。

「後ろはどうするの?」

 いくら女同士でもそこまで聞くか! そりゃ、求められたら拒否しないけど、出来たら避けたいな。元クソ夫には開いてしまったし、後ろだって感じるけど、

「やっぱり前だよね。後ろなんて変態行為の極致みたいなものだよ」

 そこまで言うか。無理やり聞き出しやがったのはサヤカだろうが。あの時はあの時でしょうがなかったんだから。場の空気とか、流れってものがあるでしょうが。

「それはともかく、そこまで感じれるのは羨ましいな」

 やるからにはそこまでになりたいのは女の本音だ。えへへへ、サヤカの知らない世界だろ。とにかく良いんだから。アラフォーでバージンしてたらカビが生えるぞ、

「ほっといてよ。相手がいないんだから」

 やっぱりか。どうもそうじゃないかと思ってたんだ。サヤカは耳年増ではあるけど、

「誰が耳でも年増なんだよ」

 同い年だから立派なアラフォー仲間だろうが。

「むむむむ」

 サヤカの話しぶりなんだけど、どうにも実戦の裏付けが乏しそうに感じてたんだ。それぐらい女だからわかるよ。つまりはまだネンネだ。ネンネなんかに男に感じる世界やましてやイク世界なんて実感をもって語れるものか。マナミだってね、ダテにバツイチになったんじゃないんだからね。

「ネンネ、ネンネってうるさいよ。覚えてろ」

 ああ覚えとくよ。サヤカがやっとこさ初体験出来たら、せいぜい慰めてやるからな。サヤカの歳で初めて突っ込まれたらさぞ痛いと思うぞ。だって使ったことないから歳相応に硬くなってるはずだもの。

「そんなことないもん」

 悔しかったら突っ込まれてみろ。話はそれからだ。あの世界を知るにはそれしか方法がないからな。そうだそうだ、イクとこまでになったら報告しろよな。どうなったかの大熱弁を聞いてやる。

「一発目でイってやる」

 そんなもの絶対に無理だって。出来るのは突っ込まれた衝撃で血を流しながら呆然とするだけだ。なんでもそうだけど積み重ねが必要なんだよ。ロストバージンでイクのはエロ小説の中だけ。

 男のあれって最初はグロテスクにしか見えないんだよ。それが経験を重ねることで愛おしい物になり、さらに入れて欲しくてたまらないものに変わっていくんだよ。そうなっていく中で感じれるようになれるし、感じた先にイクがあるってこと。

 とくに処女からならそうだ。すべての女は積み重ねた経験の末にあの世界にたどり着いてるんだ。それも誰しも行ける世界ですらない。行けない女もたくさんいるらしいからね。サヤカも行けるようには願っとくよ。もっともネンネには難しすぎる話か。

「うぐぐぐ、悔しい」

 そんな事はともかく問題はこの先だ。

「その先? 結婚しかないでしょ」

 そりゃ、したいけど瞬さんがそこまで考えているかはあるじゃない。

「マナミが逃げようとしても無駄だよ。相手を誰だと思ってるのよ。最初っからそれしか考えてなくて、着々と外堀も内堀も埋められてしまったのが今のマナミだよ。本丸の天守閣だって武田尾の夜に燃え上がってしまってるじゃない」

 た、たしかに大炎上してしまった。サヤカは微笑みながら、

「今度は絶対だよ。今度こそ思う存分、ラブラブ夫婦を満喫できる。最初からそうだったら良かったのにね」

 そりゃそうだけど過去は取り戻せないよ。すべては運命の糸車。出会いの巡り合わせの結果だもの。そうだよ、前の結婚だって全部が無駄じゃない。あの経験だって次の結婚に活かせる部分は必ずあるはず。

「前向きなのは良いことだ。わたしにもそんな男が現れてくれないかな」

 う~ん、やっぱり無理だと思うぞ。

「どうしてよ」

 そりゃ、誰が皇帝陛下の種馬になりたいものか。

「マナミでも言って良い事と悪いことがあるぞ。ブルキナファソに行きたいのか」

 そんなところになんか行くものか。瞬さんが守ってくれるよ。

「だろうね。秋野瞬なら命を懸けてもマナミを守ってくれるはず。ああ、羨ましいったらありゃしない。でもホントに良かった。今度こそ幸せになってね」

 サヤカにだっていつの日か現れよ。たぶん・・・だけどね。

「シエラレオネに新婚旅行に行きやがれ」

 それも良いかもね。

「それはさすがにお勧めしないな。日本の大使館さえない国だし、政情だって本当に不安定なんだよ。エボラ出血熱の流行こそ収まったけど、治安も衛生状態も良くないよ。だいぶ落ち着いては来てるらしいけど観光開発はまだまだらしいし」

 だからマジレスするなって。誰が新婚旅行でそんなディープなところに行くものか!

ツーリング日和20(第34話)ノスタルジー

 宿の名前は紅葉館別庭あざれってなってるけど、さっきの元湯にくらべたら腰が抜けそうな高級旅館だ。なんていうかな、上に積みあげたような大旅館じゃなくて離れを繋ぎあわせたような平べったい細長い作りの気がする。

 中もシックで上品だ。部屋に案内されて一服したらとにもかくにも温泉だ。透明なお湯だけど気持ち良いな。窓から見える武庫川渓谷もなかなかだ。まだ新しそうなのもあるだろうけど清潔感も嬉しい。

 この温泉に入るために、江戸時代から多くの旅人が山を越えて訪れたのだと思うと余計に気持ちが良くなる感じ。今夜がどうなるかわからないけど、しっかり洗っておこう、いや磨き上げておこう。

 部屋に戻ったら夕食だ。てっきり懐石コースみたいなものと思ってたけど、なんとすき焼きだ。これはこれで嬉しいな。まずは、

「カンパ~イ」

 今回のツーリングは瞬さんの子どもの時の旅行の思い出をたどるのが目的だけど何かわかったのかな。

「元湯には行っていないで良いと思います」

 小学校の頃の思い出だし、記憶だって断片的も良いところみたいだけど、

「元湯まで行って見たのは、ここまで来てるから見ておきたいのもありましたが、見れば何か思い出すかと考えてました」

 でもなんにも思い出さなかったみたい。そりゃ、たぶん行ってないよ。マナミが見るところ、瞬さんの子ども時代より寂れてはいるけど、その頃の建物はそれなりに残っているはずなんだ。それを見ても何も記憶がないのは初めて見たからで良いと思う。泊った宿の記憶はなにか残ってるの?

「とにかく橋を渡って宿に行ったのだけは覚えます。だから歓迎アーチのあった温泉橋の向かい側ぐらいにあるぐらいだと思ってましたけど・・・」

 だから武田尾橋から温泉橋まで走ったんだ。でもあそこに温泉宿があったとは思えないよ。そんな痕跡も見当たらなかったし、それどころか温泉宿が建てられるようなスペースさえ無かったもの。

「ボクもそう思います。そうなると子どもの頃に渡った橋は武田尾橋しかありません。でもあの橋を渡ろうと思えばまず温泉橋を渡って対岸に行き、それから渡り直す必要があります」

 今は廃線跡に道路が出来て武田尾橋を渡らなくてもこの宿に来れるけど、線路があった頃にあんなところをクルマなんて通れるはずがないものね。そっか、だから今日は紅葉館に泊まったのか、

「こっちにしたのは元湯があまりにも風情があり過ぎたからですよ」

 秘境感とか、いかにも秘湯なのは認めるけど、泊るには少々ディープなところがあるのは同意だ。元湯には申し訳ないけど、泊るなら紅葉館が良いよ。元湯のような宿は好きな人は好きだと思うけど、万人受けは良くないもの。元湯の話はそれぐらいにて、瞬さんの親父さんが宿にたどり着いたルートは、

「武田尾にクルマで来るには今だって県道三十三号しかありません。これはバイクでも同じです。廃線前ですから岸に近い道からまず温泉橋に向かったはずです

 あの辺はすっかり変わってるはずなんだ。見てこれはなんだと思ったけど、とにかく駐車場がビッシリある。あれって、

「武田尾駅から大阪に通勤するためで良いかと思います」

 パークアンドライドってやつか。武田尾は秘境みたいなところだけど、電車で考えたら宝塚まで駅三つだものね、通勤は可能だよ。お蔭でかつての面影は、

「歓迎アーチぐらいしか残ってないで良いでしょう」

 旧の武田尾駅から温泉橋を渡り、さらに武田尾橋が渡って紅葉館に来たのはそれしかルートがないのはわかるけど、電車で来たら遠すぎない?

「それは思いました。だから電車の人は宿から送迎のワゴン車とかマイクロバスが出てたのじゃないでしょうか」

 それしかないよね。あんなところまで荷物を抱えて歩かされたら行く気が失せるもの。でもさぁ、でもさぁ、そもそもだよ、神戸からどうやって、

「あれもどうやって来たかはわかりません。あの道しかないのは走ってみてわかりましたけど、あの当時にあんな道を知っていた、もしくは探して行ったのは驚くしかありません」

 当時はネットなんてSF小説にも出て来ない時代ものね。だからドライブするにも頼りに出来るのは紙のロードマップのみ。だけどさ、今のナビでもそうなんだけど、

「ああそうです。国道ぐらいはまだしも、県道以下となるとそれこそ行って見ないとわからない世界だったはずです」

 国道だって酷道なんて揶揄されるところがあるものね。ちなみに県道は険道で市道は死道だ。これも当時ならなおさらのはず。

「おそらくですが、六甲山トンネルはありましたから、それを越えて有馬街道に入り、そこから三田に向かったはずです」

 さすがに六甲山トンネルはあったのか。有馬街道から三田へ当時でも行けたはずだけど三田からは、

「まだニュータウンの建設前か建設中ぐらいのはずですから、国道一七六号も三田の市街地を走っていたはずです。そこから現在の県道三十三号を目指したはずですが・・・」

 北摂里山街道は当時も無しか。そうなると三田市内から県道なり市道を縫って走って行ったはずだけど、香下で見た三田市内から続く道も一車線ちょっとぐらいの道だったじゃない。

「それどころか舗装がされていたかも疑問です」

 瞬さんに教えてもらったのだけど、お父さんの頃のドライブの心得として、迷ったら広い道と言うか、舗装してある道を走れってのがあったぐらいだって。それぐらい主要道とその他の道の格差はあったで良さそうだ。

 三田から武田尾は今だってすんなり行けるとは言いにくいところはあるけど、当時ならなおさらどころでなかったはず。最後の県道三十三号だって舗装されていないところがあっても不思議ないかもしれないよね。

「それを言えば武田尾温泉に続く道だってどうだったかわかりません」

 良くそんなところを走って行けたものだと思うよ。国道一七六号も今と同じじゃないはずだし、有馬街道だってそうだ。まさに野を越え、山越えだ。

「でも来てみて感じましたが、親父は楽しかったんじゃないかと思っています。これこそ旅の醍醐味ではないでしょうか」

 なんかマナミもそんな気がした。でもそれってクルマじゃなくてツーリングの楽しみ方じゃ、

「というか、クルマの旅で失った部分かもしれません」

 瞬さんがお父さんと来た時代から世の中は進歩してる。道路だって整備されたし、ネット時代になり誰でも豊富な情報をお手軽に手に入れられる時代になってるもの。それで便利になったのは否定しないどころか、昔になんて戻りたくないぐらい。

 だけど失われたものはある。旅は便利になり過ぎたのかもしれない。この辺は時代が進むほど余裕がなくなってる・・・

「余裕は変わらないと思いますよ。昔だからって遊んで暮らしてわけじゃありませんから」

 そ、それはそうか。となると失われたものは、

「旅の不便を楽しむ心構えでしょうか」

 上手いこと言うな。不便より便利が良いに決まってるし、なんでも便利になろうしたのが今だ。これからだってそうなるはず。でも便利になり過ぎると、今度はちょっとした不便が苦痛になり耐えられなくなってしまうぐらいかな。

「そんな感じです。クルマだってかつてはナビどころかエアコンも、カーステも無かった時代がありました。窓だって手動です」

 それ旧車のユーチューブで見たことがある。

「それに比べたらバイクなんか原始的な乗り物です」

 そうだよね。あんなシンプルな構造にクルマみたいな快適さを備えようとしたらバイクじゃなくなってクルマになっちゃうよ。

「マナミさんもバイクに乗るから当時のクルマの旅の楽しさがわかったと思いますよ」

 ここも誤解しないで欲しいけど、今のクルマの旅の楽しさを否定する気なんてないからね。ましてやだから旅をするならバイクが上とかもだ。そうだな、時代の進歩とともに性格の違いが大きくなってしまったぐらいで良いと思う。

「どちらが上なんて議論は不毛です。あえて言うなら、バイク乗りは昔の旅の楽しみ方が好きな人種ぐらいには出来るかもしれません」

 かもね。だからバイク乗りはいつまでたっても少数派なんだよ。でもね、そういう旅の楽しみ方って、どこか昔どころか大昔の旅の楽しみ方の血を引いてる気さえするかな。それぐらいは自負したって罰は当たらないだろ。


 ところでだけど、この紅葉館は瞬さんが子どもの時に泊まった宿だよね。元湯があった方は否定されてるから消去法でここしかないはず。

「うっすらですが紅葉館の名前を覚えている気がします」

 でも当時の宿と同じじゃないよね。どう見たって新しいもの。

「場所だって同じかどうかは自信がありません」

 とにかく子どもの頃の記憶だからアテにはならないとしてたけど、橋を渡ってすぐにあったらしい。

「それも橋の右側だったはずなのですが、実際に来てみると、そんなところに旅館が建つスペースもなさそうです」

 でも可能性だけは残るとしてるのよね。それは武庫川ってこの辺でもしばしば水害を引き起こすそう。現在の紅葉館だって二〇〇四年に台風に被災して建て直したものだけど、それ以前にも水害で、

「怪しい記憶ですが、営業が出来なくなった記事を読んだことがある気がします」

 その時の水害で、旅館が建てられるスペースが失われたか、

「武田尾橋の位置も変わってしまったのかもしれません」

 そっちの可能性を考え出すと現在の紅葉館の下と言うか川岸に近い方に無料の足湯があるんだよ。そこに駐車場もあるのだけど、ひょっとしたらかつてはそのあたりに宿も橋もあったのかもしれないって。

 それが水害を受けたから一段高いところの再建した可能性があるぐらいかな。この辺は現在の旅館名が別庭ってなってるけど、これは元のところじゃないって意味もあるかもしれないよね。

 瞬さんは子どもの頃の記憶と今の武田尾をあれこれ繋ぎ合わせてノスタルジーに浸ってるみたい。余程楽しかった記憶なのだろうね。

「あははは、楽しくなかった記憶こそありませんが、楽しかったかと言われるとわかりません。子どもの頃の温泉と言うか旅行の興味は違いましたからね」

 瞬さんでもそうなのか。そりゃそうよね、温泉と言ってもただの大きなお風呂だし、夕食と言っても子ども向きとは言えなかったはず。

「おそらくですが、武田尾温泉へのドライブが記憶のどこかに楽しいを植え付けている気がしています」

 そこから瞬さんが姿勢を直して・・・

ツーリング日和20(第33話)武田尾ツーリング

 地図も見てたけど、武田尾なんてどうやってバイクに行くのだろうって思ってた。だって宝塚あたりから行けそうな道なんてないんだもの。昔は武庫川の河原を歩いたのかもしれないけど、そんなところをバイクで走れるはずないじゃないの。

 そう思ってたら、なんと六甲山トンネルを抜けて六甲北有料道路を走るんだ。そのままウッディタウンを通り抜けて、さらに国道一七六号を横切ってしまった。この道は北摂里山街道ってなってるな。

 この街道は有馬富士公園を通り過ぎ、やがて香下ってところに出てきた。そこでなぜか瞬さんはバイクを停めたのだけど、この街道って昔からあった道なの?

「明治の地図では・・・」

 その頃に福知山線はあったみたいだけどウッディタウンも新三田駅もないそうなんだ。当たり前か。明治の地図では杣道は置いとくとして、道路としてはっきり記されてるのは三田駅あたりから香下に向かう道だけらしい。どうもあそこの道みたいだけど、どうしてそんな道があったんだ。

「向こうのあの辺に羽束山があるのですが、この山は丹波の修験道のメッカみたいなところで、今でもかつての寺院の名残みたいなものが残されています」

 おそらく羽束山にあった寺院への参詣ルートとして出来たのじゃないかとしてた。なるほど、道に歴史ありだねぇ。この先は、

「今は猪名川の道の駅に通じますが、明治期の地図では途中で杣道になります。ですがそれでもある種の街道として使われていた可能性はあると考えています」

 この辺は推測も入るとしてたけど、猪名川まで出れば南に下ればダイレクトじゃないけど能勢の妙見さんの方にも行けるし、そのまま下れば猪買いで有名な池田にも行けるらしい。だったら三田からのルートとしてあってもおかしくないか。歩けりゃ良いんだものね。

 でも今日は猪名川まで行かない。千刈の水源地の北側を通り抜け、なんかごしゃごしゃしたところから、県道三十三号に入った。この辺は昔のままなの。

「だいぶ変わっています。明治の地図ではもう少し手前で曲がり南下する道になっています。今でもあるみたいですが、良くわかりませんでした。いずれ合流するのですけどね」

 そうなのか。だいぶ変わっているんだろうね。県道三十三号も田んぼの中の田舎道だけど、段々と山の中に入って行くな。この道を進めば武田尾に着くそうだけど、やっぱり明治の頃は途中で杣道に変わってたの。

「いえ最後まで道路になっています。これは江戸時代からそうだった可能性もありますが、もしかしたら福知山線の工事のために整備されたのかもしれません」

 それはありそうだ。人や資材を送り込むルートぐらい整備してもおかしくないはず。食料だっているものね。ちょうど温泉もあるから工事基地みたいになってのかも。やがて道は突き当り右に曲がって高架の下を潜ったけど、宝塚北ICの案内があるけど、

「あれは新名神高速道路です。クルマなら京都や大阪からでも近くなっています」

 へぇ、そうなんだ。神戸からならこんなに不便なのにね。

「そうでもないですよ。六甲北有料道路からでも阪神高速の北神戸線からでも新名神に連絡しています。もっともモンキーでは走れませんけど」

 それは小型バイクの宿命だ。それでもこうやって下道で来れるし、こういう道を走ることこそがツーリングだし、楽しいのじゃない。

「そうですよね」

 道は完全に山道なって狭くなったけど、峠みたいなところを下ると急に開けて来たぞ。なんか想像してた感じと違い、きちんと整備されてるし、新しい家ばかりの気がする。

「この辺に停めさせてもらいましょう」

 そっちは廃線敷のハイキングコースだけで、まあいっか。ここまで来たら気分だけでも味わいたいよね。しばらく歩くとトンネルを潜って広場みたいなところに出た。これはなかなかの景色だ。人気があるのがわかる気がする。そこから引き返したのだけど、

「かつてはこちらの道が線路だったはずです」

 そうなるのはわかる。さっきの続きだからそれ以外にないだろ。広い道になってるけど、線路を撤去した跡なんだろう。

「昔の地図でも道路は川沿いになってます」

 そっちにも道はあるな。やがて橋が見えて来たけど、武田尾温泉の歓迎のアーチがあるじゃないの。ちょうどトイレもあったから生理現象を解消させといて、あれっ、瞬さんは何を見てるの。古ぼけた案内看板だけど、

「この案内看板ですけど相当古いものだと思います。この看板の案内からすると」

 案内看板には真っすぐ進めばJR武田尾駅、左に曲がると武田尾温泉ってなってるけど。そのままじゃない。

「そうなんですが、廃線前の武田尾駅はおそらくそこの駐車場辺りにあったはずです。それも駅から先は人が通れなかったので、ここに橋を作り、武田尾温泉に案内しようとしたはずです」

 言われてみればそう見えるかな。たぶん川側にホームがあって、改札はこの辺だったのかも。駅から来た人は橋を渡って向こう岸から温泉に向かったぐらいかな、だからこの橋に歓迎アーチがあるのはそういう意味か。

「まずまっすぐ進んでみましょう」

 すぐに現在の武田尾駅があったけど、そこを通り過ぎるといきなり道が狭くなった。そっか、ここは線路の跡なんだ。だからこれだけしか幅がないし、こんなところだからこれ以上広げようがなかったはずだよ。たしかに線路があった頃にここは人が通れそうな気がしない。

 やがてトンネルがあるけど、暗いし、これまた狭いトンネルだ。さらにだよ、突き当りになってるじゃないの。そこを曲がってトンネルを出たけど、

「あれは鉄道のためのトンネルで、かつてはそのまま通り抜けていたのでしょう」

 そう思う。クルマのためなら直角に曲がるトンネルなんて誰が作るものか。トンネルを抜けるとここにも橋がある。トイレのところの歓迎アーチがあったのが温泉橋で、こっちが武田尾橋か。

「渡ります」

 どっちの橋もクルマのすれ違いにも苦労しそうな道幅だけど、対岸の道もそんなもんだ。橋を渡ると、なになに、この先は道がさらに狭くなってクルマのすれ違いが出来なくなるから、クルマはこの辺に駐車して下さいってか。バイクなら行けるだろうけど、あんまり行きたくないな。

「行きましょう」

 行くよね。だってこの先に武田尾温泉があるってなってるもの。どうなるのかって走って行くと、行き止まりみたいなとこで左に入った。こりゃ、山じゃなくて谷だ。それもかなり狭苦しい。それでも走って行くと旅館のような建物が見えてきた。

 見えてきたと言っても閉まってるな。既に廃業した旅館だろうけど、結構な大きさじゃない。さらに奥にもそれらしい建物が見えて来たけど、やがて行き止まり。全部廃墟かと思ったら、一番奥の旅館は営業してるみたい。だって湯元って書かかれたTシャツを着た人が宿の前を掃除してるもの。

 ここかと思ったけど瞬さんは引き返したんだ。あれって思ったけど、なんか助かった気がした。だって谷間で薄暗くて、ジメジメしてるんだもの。それにしてもだけど、

「ここで武田尾直蔵が薪拾いに来た時に温泉を見つけたはずです」

 そうなるはずだけど、とにかく谷間で狭いところなんだ。この手のところは往時とか、かつてみたいな話があるのが定番だけど、全盛時って言われる時にも五軒もあったのだろうか。どう見たって十軒は無理そうな気がした。

 もう一つ気なったのがありそうなものが無かったこと、少なくともあそこには最近まで三軒の温泉宿があったはずで、それも軒を並べる感じだよ。それだけあればお土産屋さんとか、飲食店がありそうなものじゃないの。

 あれだけ寂れたら今は無いのはしょうがないけど、かつてはそうだったみたいな廃墟は目につかなかったな。

「それを言えば駅前商店街的なものがあったかどうかもわかりません」

 たしかに。歓迎アーチのあったあたりに一軒ぐらい店があっても良さそうだもの。もっとも線路の付け替えの時に根こそぎみたいな再整備をされてるみたいだから、

「想像と言うか推理ですが、廃線敷のハイキングコースの入り口のところに一軒ありますよね。あれが生き残りかもしれません」

 再整備の時に移転したってことか。その線はあるかもしれない。でもさぁ、あのハイキングコースは廃線になってすぐに出来たものじゃなかったはず、それまでは、

「だから推理とか想像です」

 たしかに今は一軒しか残ってないけど、最盛期だってどれぐらいかと言われてもたいしたことなさそうな気がしないでもない。武田尾橋まで戻ってきて瞬さんはバイクを停めたのだけど、温泉橋の方を眺めながら、

「それしかないよな・・・少しお付き合い下さい」

 どうするのかと思ってたら武田尾橋から温泉橋に走り出した。これも狭い道だな。まあ、これだけ山が迫ってると広げたくとも広げられないのはわかるけどね。温泉橋をまた渡るのかと思ったら、

「引き返しましょう」

 ターンして武田尾橋に戻ったんだ。武田尾橋を再び渡って今度は左に。道が二つに分かれていて、一つは山の方に登り、もう一つは川の方に下ってるけど、案内があって山の方に宿があるみたいだ。登っていくと

「今日の宿になります」

 えっ、ここなの!

ツーリング日和20(第32話)突っ込んだ話

 そこから瞬さんの話になったんだけど、次のツーリングを悩んでるって相談したんだ。次は武田尾ツーリングなんだけど、瞬さんは泊りにするって言うのよ。この話を聞いた頃は、瞬さんの気持ちがライクだと見切ったつもりだったからホイホイ受けたのだけど、サヤカの話を聞いてラブの可能性もあるんじゃないかって思い始めてるんだ。

「あのね、イイ歳した女と男の温泉旅行だよ。そんなものラブ以外にあるわけない」

 そうなるんだよな。問題はそのラブの持つ意味だ。男ならズバリ突っ込みたい女で良いはずだ。突っ込みたいからラブになり、ラブの目的は突っ込むことだ。だってだよ、突っ込みたくない女にどうやってラブ出来るんだよ。

 だったら女のラブはどうかだ。男の逆だから突っ込まれたいになるかと言われたら男ほど単純じゃない。とくに経験が少ない女、処女なんかなおさらだろう。とはいえ突っ込まれたくないとも言えない。結果として突っ込まれてるからね。あれはラブのある男なら突っ込ませても良いぐらいだろう。この辺は経験の差が大きいから、

「マナミなら、どうか突っ込んで下さいよね」

 そこまで言うか。マナミだってためらいとか、恥じらいはあるんだぞ、それもまあ良い。ラブすれば男は突っ込むし、女は突っ込まれるのは間違いないからな。その点はバツイチのアラフォーだから当然ぐらいに思ってるけど、次なる問題は突っ込まれた後だ。

 ここでもラブの意味が変わってくる。高校生ぐらいなら、とくに男子は突っ込んだ後のことは何も考えていないで良いだろう。せいぜいまた突っ込みたいぐらいだ。この辺は女子も大差ないかもしれない。

 だが大人になれば変わってくる。何が変わるってか、そんなもの結婚だ。そこまで視野に入れてのラブなのかそうでないかで意味が変わってくる。そっちのラブであれば終着駅はズバリ結婚だ。

 もう一つは性欲解消のためのラブだ。やりたいぐらいのラブはあるけど、あくまでもやりたいだけで、こっちの終着駅はセフレぐらいだ。楽しくお付き合いして、夜はベッドで燃え上がる関係ぐらいかな。

「そんなもの答えは簡単よ。マナミ相手にセフレはありえない」

 えらい断言するな。

「当たり前じゃない。セフレにマナミを選ぶはずないじゃないの」

 どういう意味だよ?

「誰がセフレにブサイクチビのアラフォーのバツイチなんか選ぶものか」

 自覚はあるけどサヤカに言われると腹が立つ。釘バットで滅多打ちにしてやろうか。

「あのね、セフレにしたいのなら見た目九割に決まってるじゃないの。そういう女だから、性欲が湧くのでしょうが。どうしても相手がいなくてブサイクチビのアラフォーのバツイチを選ぶのもいるかもしれないけど、秋野瞬が女に不自由なんかするはずないだろうが」

 サヤカのやつ、またブサイクチビのアラフォーのバツイチって言いやがった。いつかダイナマイトで吹っ飛ばして粉微塵にしてやる。でも一理ある。瞬さんがその気なら、

「いくらでもセフレぐらい作れるに決まってる」

 だよね。あれだけイイ男だしカネだって持ってる。それだけでいくらでも女は群がるはずだ。そんな瞬さんがわざわざブサイクチビのバツイチのアラフォー女をセフレにするはずがないのはサヤカの意見に一理ある。でも怖いんだよ。

「それはわかるよ。でもお医者さんは出来るって言ってるのでしょ」

 そうなんだけど、これも元クソ夫とレスになった理由の一つでもある。あの難産は最終的に子宮全摘になってしまった。つまり、二度と子どもを産めないってこと。

「それは問題ないよ。秋野瞬だって種無しだ。子宮があろうがなかろうが、子どもは出来ないのは同じ」

 それはそうなんだけど、やっぱり怖いんだよ。子宮全摘になった人の経験談を調べてみたのだけど、やっぱり色々だった。問題なく出来るって人もいたけど、そうでないって人も多かったもの。そりゃあそこの奥は子宮だ。それを切り取られて影響が出ないはずがない。

「そんなものやって試してみないとわからないじゃない。それとも秋野瞬はウルトラ巨根で子宮までぶち抜くぐらいなの」

 そんなものを知ってる訳がないでしょうが。あんなものベッドに行って初めてわかるものだし、そんなもの見せびらかして女を口説く男なんかいるものか。そんなものにウットリして口説かれて落ちる女だっているはずないじゃないか。

 でも巨根問題はあるかもしれない。ここは、元クソ夫しか経験ないから大きなことを言えないけど、子宮までぶち抜くようなウルトラ巨根なんて実在するのかな。そりゃ、隣と言うか続きにはあるけど。

「いるのはいるらしいけど、そこまで行けばある種の奇形だろ。少なくとも秋野瞬の前妻はやれたはずだからだいじょうぶだと思うけど」

 壊されてた可能性まで言えばキリないものね。巨根問題は置いといても、やっぱりダメの可能性はどうしても残るじゃない。もしダメだったら、

「マナミには必殺技があるじゃない」

 スペシウム光線も波動砲もカメハメ波も使えないぞ。ついでに魔貫光殺砲もだ。

「前がダメなら後ろよ」

 そっちか。そりゃ、開いてしまったし、開発までされてしまってるけど、

「どっちでも突っ込んだ結果に変わりはない」

 あのな、同じにするな。男からすれば突っ込めるところって意味で同じかもしれないし、フィニッシュが目的なら妊娠さえ目指さなければ似てる部分はあるかもしれないよ。

「ほら、同じだ」

 違う、断じて違う。そりゃ、前がダメなら後ろでラブするしかないかもしれないけど、後ろだけでラブするカップルなんていないだろうが。

「ゲイなら普通だよ」

 マナミは女だ。女なのに後ろしか使えないっておかしいだろうが、ゲイは後ろしか使えないから普通かもしれないが、女は前が使えるんだ。元クソ夫の後ろへの執着は物凄かったけど、マナミの後ろが開かれても前もちゃんと使ってたから妊娠もしてるだろうが。

 だいたいだよ、瞬さんがそんな変態女にラブするものか。それこそセフレ止まりが関の山だ。というかさ、後ろしか使えない女に熱中する男の方が気色悪すぎだ。そしたらサヤカは大きなため息を吐きながら、

「マナミの価値はそこじゃない」

 じゃあどこに価値があるって言うんだよ。

「マナミのような女は世界中探しまわったってそうは見つからない。秋野瞬だって単に再婚したいだけなら、いくらでも相手はいるわよ。だけどね、何があっても手に入れたいのはマナミのような女なのよ。たとえ後ろしかダメでも喜んで受け入れるに決まってるじゃない」

 じゃあレスでも。

「ああそうだよ。夫婦ってね、国家公認でやり放題みたいなものだけど、やることだけが夫婦の仕事じゃない。だいたいだよ、歳取ったらどんな夫婦でもレスになる。それが早いか遅いかだけ」

 でも最初っからレスは、

「やってみなさいよ。そりゃ、ダメになってる女がいるのはマナミの調べた通りだと思う。でもさぁ、ちゃんとやれてる女だっているんだろ。どっちなのかはやってみないとわからないじゃないの」

 そう言われても・・・ダメだったら後ろオンリーのラブは嫌だよ。