過去5年間の半導体売り上げから日本の総合半導体メーカーについて語ってみる

日本の総合半導体メーカーの過去5年間の売り上げから
色々語ってみたいと思います。

まず、元になるデータは以下の資料を使用しており。
2005年-2006年 http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070319/129119/?SS=imgview&FD=306417961
2007年-2009年 http://journal.mycom.co.jp/news/2010/03/23/057/index.html

ソニーパナソニック、シャープについては半導体製品の外販比率が低く
半導体総合メーカーと趣旨が若干異なるため除外しております。。

富士通のデータに関して 2005年と2006年は空欄にしてますが、
これは、AMD富士通フラッシュメモリー部門を統合し
スパンションを立ち上げたために起因します。

まず、過去5年間の売り上げを見ますと、
NECルネサスの落ち込み具合が目立ちます。

NECDRAM事業から撤退後、デジタル家電向け SoC に注力しておりましたが、
画像処理向け LSI や EMMA というデジタル家電向けのプロセッサなどの需要が
思ったほど伸びなかったのが原因なのかもしれません。
EMMA 自体はソニーの DVD/HDDレコーダ等にも採用されていますが、
市場規模的にはそれほど大きくないのですよね・・・

また、FPGA の性能が昔に比べ飛躍的に性能が上がったことにより
ASIC事業がかなり落ち込んだ事もあるかもしれません。
昔は試作チップも ASIC で起こすという事がわりとありましたが
今は、FPGA で出来るだけ検証し、その後 TSMC等のファウンドリに委託という
流れが一般的なので、わざわざ NEC を頼る必要性も薄れてきているのですよね・・・
元々 Serdes系の開発能力には定評があり
PCI_Express などの I/F 関連では健闘している気もしますし
I/F系LSI の開発で力を生かして欲しいところです。


ルネサスに関しては、マイコン事業に関してはある程度安定しているものの
携帯向け SH-Mobile系プロセッサの採用があまり伸びていない事が原因かもしれません。
2005年〜2006年くらいまで FOMA携帯向けでは、TI の OMAP を蹴散らすほど
勢いがあったのですが、ここ最近 Qualcomm が強すぎるのですよね・・・

ルネサスはベースバンドプロセッサとアプリケーションプロセッサの
両方を持っているにもかかわらず、うまくそれをビジネスに
生かせていないのが問題ですかね・・・
今後は Androidベースのスマートフォン市場が伸びるでしょうから
ルネサスには Snapdragon を凌駕するような製品の開発を期待したいところです。

4/1 にNECルネサスが統合するということで、
まずは、携帯機器向けビジネス戦略と自動車向けの強化に取り組む事でしょうが、
海外ビジネスに対する体制の強化にも力を入れて欲しいです。


東芝については、2007年に比べて落ちてはいるものの、
かなり健闘していると言っていいでしょう。
フラッシュメモリーは今後 SSD の普及で需要増が見込めますが
インテル&マイクロン連合が大攻勢をかけてくるので分かっているため
是非とも喰らいついていって欲しいです。

フラッシュメモリー開発はプロセス微細化との戦いでもあるため、
設備投資費用がとてつもなく必要になってくるのが厳しい点では
ありますが、腹をくくって勝負していくしかないと思います。
あと、MeP という東芝独自アーキテクチャによるメディアプロセッサー
あったはずですが、どうなったのでしょう? 
市場規模的にはしばらく重要では無いと思いますが開発は続けて欲しいです。


エルピーダに関しては、さすが坂本社長! と言ったところでしょうか。
一時 DRAMスポット価格がどん底まで落ち込み、
赤字スパイラル状態に陥った時にはかなり心配したものですが、
ここ最近は価格も安定してきており、シェアも順調に伸ばしていることですし
かなり健闘してると言っていいのではないでしょうか?
キマンダが事実上倒産したのも追い風でしょうし、
携帯端末にも DRAM が搭載される時代なので
日本唯一の DRAM製造メーカーとして頑張って欲しいです。


さて、最後に富士通についてですが
社名が富士通マイクロエレクトロニクスから
富士通セミコンダクターになるとの事ですが
もう正直厳しいのではないかと思うのですよね・・・

確かに、昔の富士通は通信機器向けの半導体チップや
Sparcチップの開発・製造などで頑張っていたのは事実ですが
あくまでも、ASICベンダーとして強かったという記憶があります。

もう ASICビジネス自体が厳しい時代ですし、
ソニーや色々な会社からの製造委託を受けてしのいでいる感じですが
今後伸びる要素があまり見つからないのです・・・
ファウンドリとして生き残るという道も考えられなくは無いですが
やはりどこかの会社と統合するしかないように個人的には思ってしまいます。

ということで、今回はこの辺で失礼します。

『2009年』半導体ランキングから

アイサプライから2009年の半導体ランキングの発表がありました。
記事はマイコミジャーナルのものですが、
25位まで掲載してくれるの有難いですね。

http://journal.mycom.co.jp/news/2010/03/23/057/index.html

おそらく、インテルサムスン・ハイニクス・東芝など、
プロセッサやメモリー関連の話題は色々なところで記事にされるでしょうから、
私は敢えて普段あまり取り上げられない会社について書いてみます。

DSPをメインに携帯電話や基地局向けLSIで売り上げを伸ばして来ましたが
ここ最近、メディアプロセッサのビジネス獲得が難しくなって来ている様です。
OMAP という DSP&ARMベースのメディアプロセッサのビジネスアプローチや
早くからの開発取り組みは良かったのですが、ここ最近 DSPチップコアを
持っている という利点は薄れてきているかもしれません。
NOKIAインテルと協力する方針を発表したので今後は厳しいかも・・・
アナログ製品やマイコンなど手広い商売をしているので
今後もランキングの上位には顔を出すでしょう。

  • 第5位 STMicro Electronics 『ヨーロッパでは以前強し』

私がこの業界に入った時には『SGSトムソン』という名前で
その当時からアナログ製品は強かった記憶があります。

日本では未だに知名度は低いですが、ヨーロッパでは
かなり有名な半導体総合メーカーであり、
フランスの「トムソン」とイタリアの「Societa Generale Semiconduttori
(SGS) Microelettronica」の合併後、トムソンが撤退し
STMicro Electronics という名前になりました。

STマイクロは総合半導体メーカーとして、かなり手広いビジネスを展開し
イメージセンサーや自動車用・宇宙用まで手がけています。
なかなか日本のメディアに取り上げられませんが
なかなか手ごわい会社という印象を持っています。

最近では、イタリア最大の太陽電池パネル製造工場に
エネル・グリーン・パワー(イタリア最大の電力会社)と
シャープとともに参加というニュースがありました。

Qualcomm については取り上げようかどうか悩んだのですが
何気に知らない人も結構いたりするので書いておきます。

CDMA携帯電話の開発に携わった経験がある人ならほぼ間違いなく
この会社の事を知っていることでしょう。
CDMAの基幹特許を所有していますし、アメリカのCDMAの標準規格は
この Qualcomm によって定義されたくらいですから。

Qualcomm 自体はファブレスであり、製造は TSMC
GLOBAL FOUNDRIES に委託しています。
昔は携帯端末部門や通信設備部門もありましたが
今はほぼ半導体&アプリケーション開発になっているようです。

CDMA用チップの開発において、Qualcomm の特許回避はほぼ不可避なため
ライセンス契約を結ぶしかない状況なのですが、その契約料も
かなりの額だと言う話で、ライセンス料を割引く変わりに契約先の特許を
自由に使用出来る契約を締結したり豪腕振りも目に付きますが、
技術力もかなり高いです、

CDMA に変わる技術が来ない限り、しばらく安泰と言ったところでしょうか?
日本では、去年の秋に公取委から排除措置命令は出ていますが
その後が気になる次第です。

  • 11位の Infinion Technologies についても書こうか悩んだのですが今回はこの辺で

半導体と言っても広い

久しぶりの更新となります。


ここ最近、仕事の方がかなり忙しく
たまに早く帰宅出来た時に Twitter で TL を眺めたり
ちょっとつぶらく位しか出来なかったのですが・・・
圧倒的にプロセッサ系(特にPC・サーバ向けやアプリケーション用)と
モリー系の話題が多いですね。


でも、半導体と一口に言っても、実はかなり製品の範囲が広く
全てを網羅している人はかなり少ないと思います。
いるとすれば、あらゆるボード設計を経験した人くらいでしょうか。


私自身も CMOSプロセスでのLSI設計経験は長いですが、
それ以外の高耐圧系や RF系のプロセスでの設計では
素人レベルになってしまいますし、
そういう人は結構いるのではないでしょうか?


同じCMOSでも携帯電話向けとTV向けのLSI開発に関わったことがありますが、
採用されるチップがかなり違う傾向になってしまいますし
求められる消費電力からパッケージ・チップの厚さやら色々です。


やはり、身近にある製品の中身に興味が沸き、
自然にプロセッサやメモリーの話題になるのでしょうか?
それとも市場規模が大きいものでしょうか?
どちらにせよ興味を持って頂けるのは有難い事です。


ただ、ファウンダリが出来、IPベンダーも多く存在するようになり
おまけにEDAツールの機能・性能も上がった事によって
昔に比べてチップ設計が行いやすくなったとは言えますが
その分検証項目や信頼性に対する要求も強くなり
顧客に採用されるレベルのチップを短期間・低コストで
仕上げるのは難しいと感じています。


さて、最初に切り出した半導体と言ってもかなり範囲が広いということで
多くの方が興味がある iPhone で使用されている
半導体チップを以下の情報から抜き出してみましょう。


http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0906/25/news031.html
http://journal.mycom.co.jp/articles/2007/07/19/InsideiPhone/index.html

だいたい以下の様な感じでしょうか?
(足りないものがあるかもしれませんが)

 ○アプリケーション・プロセッサ
 ○ベースバンド・プロセッサ
 ○フラッシュメモリ(NAND & NOR)
 ○DRAM
 ○無線(Bluetooth/FM /Wi-Fi)チップ
 ○無線送受信チップ
 ○オーディオコーデック&アンプ
 ○ディスプレイ・ドライバー
 ○電源レギュレータ
 ○電源管理IC
 ○GPSセンサー
 ○イメージセンサー
 ○3軸(コンパス)&温度センサー

3軸(コンパス)&温度センサーは AKM(旭化成エレクトロニクス)製のようですね。
AKM は昔から携帯向けのコンバータやセンサーなどでかなり採用されていたりします。


無線系のチップは日本でも開発しているものの
やはり海外の携帯などでの採用は苦戦しております。
理由はチップの性能自体では無く、
コスト・納期・カスタマイズ要求対応・サポート体制・
膨大な数量の安定出荷体制での差だと思われます。


アプリケーションプロセッサについては、
書き出すと長くなりますし、中途半端な情報や間違った事を
書いてしまうのもあれですので、今度機会があれば書いて見ます。


最後に自分自身の勉強のためにも
半導体製品の分類を書き出してみましたが
まだまだ不十分なところがありますね・・・
あくまでもご参考ということでお願いします。

  • プロセッサ系
    • MPU
    • GPU
    • DSP
    • MCU
    • 固有アプリケーション系
    • ベースバンド系
    • ISP系 (イメージ・シグナル・プロセッサ)
  • ロジック系
  • モリー
  • アナログ系
  • I/F系
  • ドライバー系
    • LCD
    • モーター系
    • リードチャネル系
  • RF系
    • 無線系
    • チューナー系
    • RFID
  • センサー系
    • イメージセンサ
    • GPS
    • 温度・加速度センサ
    • リニアセンサ

信頼性と不良とジレンマ

前のエントリーで「過剰技術と工程削減の難しさ」を書きましたが、
半導体バイスの信頼性や不良とそのジレンマについて書いておきます。


ちなみに、湯之上さんのセミコンポータルの以下の記事で
https://www.semiconportal.com/archive/blog/insiders/yunogami/post-203.html

筆者は、「歩留まりと信頼性」に関しては素人です。
本稿は、言わば、素人から見た部外者の意見です。
「歩留まりと信頼性」の専門家の御意見を拝聴したいと存じます。

と書いてありますしね。


まず、「技術過信」とか「過剰技術」とか言われて、
おまけに「病気」とも言われてますが
元々は顧客からの不良クレームから始まっております。


私も経験したことがありますが、日本の顧客の場合
まず、不良が出た原因解析を行い正しく報告し
2度と再発しないようにと釘をさされるというか約束を求められます。


顧客からすると当たり前だと思いますが、
その不良解析と対策というのは非常に労力を要します。


不良率は ppm (100万個に対して何個)で算出されますが
どれくらいの値が適当なんでしょうかね・・・


100ppm だと 0.01% と一見低そうではありますが
1万人に1人が不良品に当たってしまう。。。
(100万台売れる商品の場合には100人が不良品を・・・)


ルネサス・テクノロジーのWEBの以下のところに
私自身も非常に勉強になりますし参考となる
「信頼性ハンドブック 」があり、
不良品や信頼性への取り組み分かります。

http://japan.renesas.com/fmwk.jsp?cnt=reliability_handbook.jsp&fp=/products/common_info/reliability/handbook/


上記のものを読んでもらえると分かると思いますが、
不良品を出さない努力や信頼性への取り組みが
会社の方針として示され、業務として重要性が高い位置におり
目標も根拠があって設定されているのが理解してもらえるかなと。


「過剰技術」と言われるのは私自身も分かります。
削減可能な「工程」も存在しているのは事実でしょう。


ただ、過去の不良報告などから取り入れられた工程等を
コストの面からだけで削減するのは本当に難しいのですよ。
歩留まりを上げるため「だけ」に入れたれた工程なら
判断は難しくないですが、信頼性面を確保のために
加えられた工程はかなり多いはずです。

正直、ここらへんは再確認を行う時期来てるとは思います。
過去の経緯だからと言って、そのまま考慮無しに
継続してその工程を維持し続けるケースは余りにも多い。

製造装置の性能が不良を起こした当時と比べて進化したから
もう過去の不良は再現しないと「予想」はされたとしても、
限りなく低い確率でも原理的にありえる場合には
対策しておくというか、保険としてそのままにしておくという判断が多いです。


ちなみに、設計側として、回路の機能以外に
以下の項目は対策が必須で、それ以外にも基板実装時の
も考慮しノイズ対策などにも対応します。


ESD(Electrostatic Discharge)対策

「静電破壊」と呼ばれ、一時的にチップに過電圧が加わっても
故障を起こさないための対策で、人体モデル(HBM)
マシンモデル(MM)、デバイス帯電モデル(CDM)があり
JEITAJEDEC と言った規格で耐圧によりランクも設定されています。
顧客からの納入仕様で耐圧のランクも指定されますが、
マージンがある方が故障確率も下がるので喜ばれますし・・・・
これの最適化は厳しいかな。

ラッチアップ対策

CMOSバイスは構造上、寄生のNPN、PNP バイポーラトランジスタ
入出力回路部にでき、これが寄生サイリスタを形成します。
(うーん、半導体物性の話に行き過ぎますね。。。)
ノイズが入った場合に電源ラインに過電流が流れ続け、
場合によっては素子破壊が起こってしまう状況をさけるための
対策を行います。

エレクトロマイグレーション対策

半導体チップのレイアウトでは銅やアルミの金属によって
配線が行われますが、金属イオンが移動する現象、つまり
電子の流れる方向にイオンが移動し、陰極側にボイドが発生し
オープン故障になり、陽極側ではヒロックやウィスカが成長し、
最終的にはショート故障に至ります。
これを対策するために、配線幅や配線の形状を工夫し対処します。
(正直、この対策はけっこうしんどい作業です。)

NBTI対策

Negative Bias Temperature Instabilityと呼ばれ、
長時間半導体チップを使用していると、PMOS FET の
閾値電圧が変化してしまいます。
閾値が変わるとタイミングに影響が出てきます)
これは製品寿命に関係するので、考慮可能かな?


実際、これ以外にも色々製品実装時を考慮するべき点が多く
設計を行う時に「信頼性」の項目に対して疑問を持つ事は
多々あったりするのは事実です。


コスト意識は大事! ただそれだけが問題では無く
開発の仕方とか多方面からも考えないといけないのが
今の日本の半導体メーカーが置かれている現状だと思います。

過剰技術と工程削減の難しさ

以前のエントリーでファウンダリ・ビジネスについて書いたので、
次は主に設計面からみた半導体の開発手法の変化について
書いてみようかと思ったのですが・・・


湯之上さんの第2弾の記事が掲載されたので
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2379
やはり現役の半導体エンジニアとして書いておくのが良いかなと。

湯之上さん言ってる事は良く理解出来ますし
ほとんど異論はないのですが、現場からの声を上げておきます。

まず、半導体装置の特注や過剰技術については事実だと思います。
(私も過剰品質についてエントリーを書きましたくらいですから)


ただですね、この問題を日本の半導体メーカがクリアするのは
非常に難しいと思うのですよ。

   本当に経営方針・開発方針から見直さないといけない

まず、半導体チップの不良品の流出を防ぎ、
その不良率を改善する、つまり歩留まりを上げるためには
以下の3つのステップがあります。

1.テスト工程で良品・不良品のスペックを決めそれに基づいて選別を行う
2.不良率を下げるために、プロセスや回路設計面からスペックに対して
  マージンを広く取る設計及び生産工程を取る。
3.不良が起こっている根本的な問題を特定し解決を行う

日本の場合は、上記の2のマージンを広く取る方法以外に加えて
3の根本的な解決を行う時に「プロセス微細化技術」を使って
対処する傾向が極めて高いです。


日本メーカーのチップの不良解析技術はかなり高く
チップの断面解析など当たり前ですし、X線解析装置も持っているでしょう。


「狙った加工」をするために工程数を追加する事が
過剰技術につながる事になるのでしょうね。


この「過剰技術」の問題ですが、組織や評価のあり方が深く関わっていると思われます。


まず、組織面から見ますと、開発の人間は基本的にずっと
開発業務を行う組織に属する傾向があります。
もちろん、量産立ち上げ時にはヘルプに行きますが
立ち上がってしまえば、また新たな開発業務に戻ると言ったスタイルが多いのではないかと。
   開発業務が常に脚光を浴びるため人気がありますし、
   エンジニアである以上、新しい技術開発に取組たい人が多く・・・
   量産化業務は開発が行ったものを移植するという事が多く
   安定化技術やコスト削減のための組織や取組が不十分ですし・・・

それと、「新たな技術」つまり「新規の工程」追加により
問題の解決を行うと評価されます。
問題を解決させたのですから評価されるのは当り前ですが、
既存の工程を改善する事よりも「新規の工程」の方が好まれやすいのが
問題という事になるでしょうか。


これは、新規の技術は特許に繋がり易いので理解は出来るのですが
やはりコスト面からの評価や、利益を上げるという事を
軽視している風潮はあると思います。


また、工程数の削減は極めてコスト的に効果があるのですが、これが本当に難しいです。
工程そのものを削ってしまう、また、2つの工程を1つにまとめてしまうといった場合、
それに伴うリスクが当然生じます。

   そもそも、工程が追加されたのには理由があってのことですから
日本のメーカーはリスクが発生する事に対して非常に敏感で、
リスクマネージメントに対して過剰気味に取り組んでいるはずです。
ここらへんは日本人気質が関係しているかもしれませんが、
そもそも不良率をゼロにする事など不可能ではあるのですが、
限りなくゼロにする事が美徳と言いましょうか・・・


また、工程削減そのものに不良率が上がる等のリスクがあって、
たとえ成功したとしても、新規の開発に比べてそれほど評価されないでしょうし、
(これが非常に大きな問題ではあるのですが)
削減が不可能だった場合、「ほれ見ろ、あの工程は必須なんだよ!」って
いう人が多いでしょうから・・・・
(あと、失敗した場合にすぐに犯人探しをし始めるのがね・・・)


結局は経営者が以下の方針を示し、開発面とコスト面のバランスを考えて
競争力をつけていくしかないのですが・・・
経営者だけでなく現場の技術者も意識を変えていくしかないと思いますね。

○コスト削減に繋がる貢献を正当に評価する。
○リスクが生じる作業に対して、過大に扱わないで受け入れる

と、ここまで書いては来ましたが、ほとんどの半導体の技術者は
状況を理解していると思うのですよ。


ただでさえ不況により早期退職で辞めざろう得ない状況に追い込まれるケースも多く
35歳を超えると再就職先を見つけるのも厳しい中
リスクを犯すような事に手を出すのが難しくてですね・・・厳しい・・・

ファウンダリ・ビジネスの台頭

日本の半導体メーカーの凋落の原因と密接に関係している
ファウンダリ・ビジネスとファブレス・メーカについて
今回は取り上げていこうと思います。

このブログを見る人には説明が無用かもしれませんが
一応、ファウンダリについておさらいしておきます。

まず、専業ファウンダリ・メーカーとして有名な会社は
私の知る限り、TSMC、UMC、Chartered、SMIC になると思います。
TSMC と UMC は台湾、Chartered はシンガポール、SMIC は中国の会社です。

ファウンダリ・メーカーは基本的に自分達で半導体製品の開発は行わず
顧客の開発した製品を製造する、製造請負・受託業務となります。

製造請負自体は、日本の半導体メーカーも製造設備を持たない
家電メーカーや通信メーカー向けに ASIC と呼ばれる
特定用途向け LSI の 開発から製造請負を行ってきたのですが
専業ファウンダリ・メーカとの違いは以下になるかと思います。

 ○シャトルサービス(試作サービス)の提供
 ○デザインキットの提供

まず、「シャトル・サービス」についてですが、
これは半導体製品の試作製造に特化したサービスで
例えば、チップの面積が 「5mm x 5mm」1区画として
100チップ製造し提供、それを 500万円〜2000万円で請負う
といったようなサービスです。

上記のチップ面積・数量・値段はあくまでも一例です。

この試作製造サービスというのが、実に素晴らしく画期的で
チップを開発側する側にとっては安く製造出来ますし、
製造を請け負う側も原価を計算して1区画の値段を設定するため
双方にメリットがあります。

なぜ、半導体製品を開発するのにお金がかかるかというと、
フォトリソグラフィー工程で必要になる
「マスク(フォトマスク)」という物が非常に高価なためです。
製造プロセスによって違いますが、1つの製品を製造するのに
およそ20枚以上のマスクが必要になり、
最先端プロセスになると1枚 500万円以上だったりします。

最先端プロセスで製品を開発すると、マスク代だけで
1億円以上かかるとか普通にあります。
ちなみに、安定した古いプロセスのマスクで
精度をあまり必要としない物は 1枚50万程度です。

マスク自体の最大サイズはおよそ、「20mm x 25mm」くらいなので
もし、「5mm x 5mm」を1区画とすれば、20チップ分を
1つのマスクで製造出来ます。

この試作サービスと似たようなシステム自体は
日本の半導体メーカーでもあったりするのですが

 ○試作にかかる費用がファウンダリに比べて圧倒的高い
 ○試作チップの内容説明・様々な部署との調整作業が必要
 ○よほど重要なプロジェクトの試作チップでない限り
  試作チップの優先度が限りなく低い

やはり試作サービスとして提供されているものと
社内での運用システムを比較すると、
社外の方が顧客として対応される分だけ
楽になる部分が多かったりするのが現実でしょう。。。

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このファウンダリが提供する試作サービスの登場によって
ファブレスメーカー(デザインハウス)が多く立ち上がることになります。

この時重要になるのが、ファウンダリが提供する
「デザイン・キット」になります。
「プロセス・デリバリー・キット」や「プロセス・デザイン・キット」
と呼ばれることもありますが、半導体を設計・開発するために
必要な以下の様なデータや情報を顧客に提供します。

 ○デザイン・ルール
 ○プロセス・パラメータ
 ○ライブラリ

 ソフトウェアの世界での SDK(Software Development Kit)と
 同じようなものと考えて頂いて結構です。

上記の物が入手出来れば、ファブ(工場)を持たなくても
半導体製品の開発から製品の流通までの道筋を立てる事が出来、
今まで総合半導体メーカに頼らなくてはいけなかった部分が無くなり、

つまり、「ファウンダリ」+「ファブレスメーカー」という
新たなビジネス・モデルが登場することになり
日本の半導体メーカーが追い込まれていくことになりました。

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ファブレス・メーカとして成功しており、世界的に有名会社としては
CPU での「AMD」、通信チップの「Qualcomm」、GPU での「Nvidia
あたりになると思います、

私としては、世間ではあまり知られてはいませんが、
「TV」というアプリケーションに特化した戦略で成功しつつある、
台湾の「Trident Microsystems」という会社に注目しております。

なぜかと言いますと、日本の総合半導体メーカーのほとんどが
TV用のプロセッサや画像処理チップを開発・製造しており、
本来ならば、そのチップが同じ企業グループで製造している
TV に採用されてもおかしくない状況にも関わらず、
低価格帯や中価格帯の TV に上記の「Trident Microsystems」の
製品の採用がどんどん増えていっているからなのです。

これは、ひとえに価格競争力があり、性能においても十分なため
採用するのが合理的ではありますが、従来、日本のメーカーが得意としていた
「システム・オン・チップ」の土俵でもファブレスメーカに
勝てなくなって来ている証拠であるのですよね。。。。

あるアプリケーションに特化した製品の開発は日本のメーカーも
対応出来るはずですが、価格要求や顧客からの製品仕様の対応に
時間がかかったり、持っていない I/F を急いで開発しようにも
時間とお金がかかりますし、かといって IP を買ってきてもまた、
お金がかかり、チップ量産時にライセンス料徴収などで
価格競争力が落ちてしまいますし・・・・

日本の半導体メーカーは研究開発から製造、営業、販売チャネルと
全て揃っているはずなのですが、それを全く生かしきれていなく、
かえって組織の壁や社内間の不合理な規則などに縛られて
身動きが取れない状況になっているのが低迷の原因でしょう。。。

DRAM撤退からの戦略

もうさんざん語られている事ではありますが、
日本の半導体メーカーが DRAM を撤退してから
どのような道を模索し、また衰退していったのか語っていきたいと思います。
(今回は、ファウンダリ・ビジネスが登場する前までの話です。)

まず、振り返りになりますが、
2007年度時点での DRAMの世界市場規模は $31275M = 約2兆6500億円 (1$=85円換算)

http://www.mof.go.jp/singikai/kanzegaita/siryou/kanb200822/kanb200822j.pdf

上記の経済産業省が作成した資料からから抜粋しますと、
エルピーダDRAM市場でのシェアは2007年度で約12%程度となっており、
売上高は $3836M で世界半導体メーカランキングで18位に位置しております。
(ランキングと売り上げについては以下の資料から)

http://www.isuppli.co.jp/pdf/IS06-PR072J29Nov.pdf

仮にエルピーダが20%程度のシェアを取っていたとすると
売り上げが約 $6000M となり、世界ランキング9位か10位を獲得出来たことから
DRAM市場が半導体市場全体でいかに大きいかわかるでしょう。


さて、日本の半導体業界は DRAM撤退から
「集中と選択」という舵取りを迫られることになります。

この「集中と選択」ですが、米テキサス・インスツルメンツ社(以下 TI)が
DRAM事業から撤退後、「DSP」という製品にリソースを集中し、
それが非常にうまくいったので日経も盛んに取り上げ
さんざん、煽っていったのですね・・・・

この DSP はデジタル信号処理に特化した製品で
音声処理、画像処理、モーター制御処理、フィルター処理など
かなり用途が広い製品ではありますが、TI が大幅に成功した理由は
携帯端末メーカであるフィンランドノキア社が採用し、
端末向けと基地局向けの製品が拡大していき
ビジネスとして成功したからだと思います。

     TIにとってノキアは極めて重要な顧客でありました。

その時、TIの成功を見た、日本の半導体大手の会社が出した答えですが
ほぼ全社横並びで「これからの時代は情報家電などに向けたシステム・オン・チップ」
で、勝負していくと・・・・

     このシステム・オン・チップも日経エレクトロニクス誌と
     もう休刊になるマイクロデバイス誌が盛んに煽ったんですよね

どのような物が「システム・オン・チップ」かと言いますと
半導体プロセスの微細化が進み、1つのチップに大規模な回路を
搭載することが可能になったことからなのですが・・・
今までは複数のチップで基板に実装されていたのを
1つのチップで実現するということでして。。。

私も ASIC の仕事に携わった事があるので分かるのですが
ただ単に複数の機能やチップを統合するビジネスはすぐに行き詰まります。

当時の良くあるビジネスの話で、A/Dコンバータ、ロジックシステム、
D/Aコンバータを1つのチップで実現したいと顧客から要望があります。

今まで、それぞれのチップの単価が以下の通りだとします。

A/Dコンバータ \500
ASICチップ \800
D/Aコンバータ \400

で、1つのチップで実現したとして、そのシステムチップの価格は
平気で \1000 だったされたりするのですよ・・・

顧客からすると、ASIC(システム)に機能が追加されたとしても
あくまでも、チップの値段は面積ベースで決まるのだから
ASICチップが\800だとしたら、A/D と D/A が追加されても
\1000 程度の要求はある意味当然です。

 A/D や D/A を搭載するとマスクを増やす必要があったりするので
 最終的には \1200 程度に落ち着くことが多かったかとは思いますが

だいたい、大きな半導体メーカーだとASICチップの設計は
ロジック・システム系の部署で、A/D や D/A の設計は
アナログ(ミックス・シグナル)系の部署でしょう。

で、アナログ系のチップは扱いがかなり面倒だったりします。
そもそも、ビデオ用とモーター用で仕様や駆動方式が違いますし、
電源ノイズや電源の揺れをかなり気にしますし、
ロジック系で高速に動作する信号のノイズの影響も当然受けますし。
そもそも、アナログ系の部署がロジック系の部署に
A/D や D/A を提供する事自体、政治的にも色々あるでしょう。

他のパターンで、アナログ系の回路ではないですが
MPEGエンコーダ/デコーダ 搭載や USB I/F や IEEE1394 I/F を
搭載する場合にも似たような話で色々な機能を1チップにしたとしても
手間がかかる割には全然ビジネス的な利益には結びつかないのですよ。。。

ということをなぜ経営陣は理解できなかったのでしょうか?

そもそも、システム・チップが要求される市場自体小さいですし
情報家電のマーケット自体小さかったはずなのですが・・・

DRAMの技術を持っていたため、ロジック+DRAMという
システム・チップの提案は多数ありましたが、
当然価格は上で述べたように安くなってしまうという・・・

ただですね、注意しないといけないのは
システム・オン・チップそのものがいけない訳ではないのです。
ある程度成功が見込めそうなマーケットを見定め
そこに特化したアプリケーション用の製品を開発していくうちに
結果的にそのチップがシステム・オン・チップならば問題ないのですが
最初からシステム・オン・チップが頭にあり
色々な機能の寄せ集めで作ったものは成功するはずがありません。

あまりにも DRAM に依存しすぎ、その後、自分の会社に適した
戦略も示す事が出来ず、また適切な体制を築けないまま
ずるずる現状維持を続けていってしまったのが
今の日本の半導体メーカーの現状なのかなと。。。


次回は、ファウンダリビジネスの登場と
ある分野に特化して成功し例、
TVに特化したチップで成功した、
台湾のトライデント・マイクロシステムズと
LVDS I/F や A/D などで成功したザインエレクトロニクスについて
書いていこうかなと思います。