ヒステリックな身振り―初期映画

G・アガンベン「身振りについての覚え書き」、『人権の彼方に―政治哲学ノート』所収、 高桑和巳訳、 以文社、2000年、pp. 53-66

「1.西洋ブルジョワジーは、19世紀末には自らの身振りを決定的に失っていた。」

「ジル・ド・ラ・トゥーレットは〔…〕『歩行に関する臨床的・生理学的研究』(1886年)を出版した。人間の最もありふれた身振りが厳密に科学的な方法によって分析されたのは、これがはじめてのことだった。」


バルザックがある心的性格の表出としか看て取らなかったところで、映画(シネマトグラフ)をすでに預言しているまなざしが働きだしている。」


「こうした視覚を備えた眼だけが、足跡測定法と言われる測定法を開発することができた。ジル・ド・ラ・トゥーレットこそ、この測定法を完成させた人である。」


*足跡測定法:
長さ7〜8メートル、幅50センチの白く塗られた巻紙を地面に留め、そこに長軸にそって鉛筆で分割線を引く。足の裏に三二酸化鉄をまぶされた患者がこの巻紙の上を歩くことで、分割線に沿った足跡を得ることができる。この足跡をつうじて、患者の足取りは様々な媒介変数にしたがって測定される(歩幅、中心からの隔たり、傾斜角など)。


*足跡の模写・・・マイブリッジの写真的実践
→24機の対物レンズからなる撮影機によって撮影
「通常の速度で歩行する男性」「銃を担いで走る男性」「歩行して水差しを拾う女性」「歩行して投げキスをする女性」など


「足跡測定法を可能にしたのは、最も日常的な身振りを距離を置いてとらえる、ということだったわけだが、それがここでは、チック、痙攣、断続的運動、ぎこちなさといったものの顕著な増大を描写するのに適用される。こうした動きの増殖は、身振り性の圏域の全般化された破局としてか説明できない」


「痙攣においては、いかなる運動の目的もないままに筋肉が踊るように見える(舞踏運動chorea)」

人権の彼方に―政治哲学ノート

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