インサイド・ルーウィン・デイヴィス、ゴダール2作

コーエン兄弟案外面白いというのと、オット氏のゴダール穴埋めチョイスによりこのラインナップ。
私はほとんどゴダールって見たことがなくて、なんというか映画を観る以上はもうちょっと初期のやつとか見ておくべきなのかと思いつつ、放置。気狂いピエロとかみてみたいんですけど、なんかタイミングを失って今に至る。


コーエン兄弟の割と最近のやつ。淡々とした映画でした。コミカルじゃないほうのタイプでしたが、淡々と最後まで見られるのは、音楽が随所に差し挟まれているからかもしれません。
売れないフォークシンガーのルーウィンが、知人・友人のところを転々としながら食いつないでいく様が描かれています。エピソードは大げさなものはなくて、日常で私たちが出会うようなもの、たとえば、大切な友達が死ぬとか、父親が認知症で入院するとか、たまたま関係をもった女性が妊娠するとか、猫が行方不明になるとか。その中でルーウィンは次第に、自分の才能と金儲けとは無縁であることを知り、それでも歌うことから離れられずに夜な夜なステージに立ちます。時代はようやくボブ・ディランが登場し、フォークソングに光が当たり始めたころ。派手ではないけど、自分がもっているものでなんとかやっていこうとする主人公の、諦めと開き直りがまざったヤケクソな歌声が胸に響きました。ちょっと落ち込んでるときとか、ひとりで見るといいかもしれません。


ウラジミールとローザ [DVD]

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ありきたりの映画 [DVD]

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ゴダールがジガ・ヴェルトフ集団として作成した2編。ゴダールにほとんど親しんでいない私としては、『ウラジミールとローザ』の方が見やすかったです。まだストーリーがあるし。とはいえ、登場人物たちはめちゃくちゃこっち見てくるし、なぞのテニスシーンはあるし、というかこれで映画になるのか、という驚きさえ感じました。正直、なんじゃこりゃ、って思いますが、なんとなく最後までいってしまうのが不思議。
『ありきたりの映画』のほうはかなりの金太郎飴ぶりで、途中でもしかして、これ永遠にこのままなのかと思い早送りしてみたのですが、本当にそのままでした。タルコフスキーよりもすごい金太郎飴感。どこで切っても中身が同じ。これをどうして100分もの長さに編集したのかと。もうこうなったらこの長い会話の連続によって私たちが疲弊するのを待っているとしか思えない。内容は共産主義華やかなりし頃のデモの話ですが、デモの映像はすごいなと思うのですが、話している内容も現代にしてみたら古くなってしまっており、なんというか、苦行。
ゴダールが好きで好きでたまらなく、ゴダール作品を全部みておきたい、という方以外は見なくてもいいかなーと思いました。ゴダールの中でもっと面白いの他にあるよ。

コーエン兄弟を3作(ヘイル・シーザー、赤ちゃん泥棒、オー・ブラザー)

そろそろ手を出してみようか…という頃合で。


ヘイル・シーザー!


映画業界仕事人の昼夜なき戦い!面白かったです。演出自体が懐古的な作品で、登場する人物や作品も50年代頃のハリウッド映画のパロディ。勤勉な主人公が活躍する様を描きながら、その腕を買われてヘッドハントされ悩む側面も織り込まれていきます。
映画というのは総じて作り事で、映画業界にどっぷりはまっている主人公ももちろんそのことは強く意識しています。だからこそ、スター俳優のイメージを維持するために工作もする。(その手腕が鮮やかなのでヘッドハントされるわけですが)彼にとって、世間へ表出されるべきなのはそのようにして作られたイメージであって、俳優の素などでは毛頭ない。
一方で、彼をヘッドハントしてくるのは航空会社の役員であり、その人いわく「実業」の世界。映画のような虚飾にまみれ、今後衰退していくようなはかない産業ではなく、これから伸びる真に価値のある産業だと説明する。
さて、問題は主人公がその条件に惹かれながらも、映画を離れられないこと。映画業界ははかなく、今後衰退する。確かに。でも。
非常に真面目で勤勉で、優秀なビジネスマンである彼は、そのモチベーションを別の世界でも発揮できるのだろうか、というところがどうも疑わしい。真面目なだけに、映画業界に肩入れしてしまっている。まるで年老いていく夫を哀れみながら一緒にいる妻のように。

ただ、その肩入れにもいっぺんの真実があるわけで、作中、それは淡々と映画業界や産業そのものがシステムでしかないと説く共産主義かぶれのスターに対して平手打ちをくらわすというクライマックスとなって現れます。いわく、そうだ、映画は作り物だ、でも、俺たちはその作り物のために本当の汗水を流している。本当の感情を注いでいる。君だってそうだぞ。君は作り物のために本物の怒りや悲しみを感じるはずだ…とそこまで言っていたかどうかは忘れましたが、その愛のビンタによって流行思想に酔っていた俳優は撮影中の作品へと戻っていくわけです。
つまり、映画は確かに作り事であり、はかない産業なのですが、主人公にとってはそこで奮闘する自分の姿こそ真実であり、”正しい”のでした。個人的には儲かるし堅実な方が”正しい”んじゃないかと思ったりもしますが、彼の職業人としての倫理観は、これまでの仲間と一緒に映画を作り続けることを選んだ。

現実とは、忠実であるということとは必ずしも同義ではなく、デフォルメや比喩であっても、それが思考や感情を動かし、私たちを何らかの行為へ駆り立てるものであるならば、現実だと言いうる。そして映画は、すべて虚飾ではあるのですが、現実の有様を描き出せるという意味でやはり現実に加担しており、映画業界をテーマに映画を撮影したコーエン兄弟としては、なんとなく、そのあたり主張したかったのかしらと思ったりもしました。
取り立てて激しいバイオレンスもセックスもない淡々とした映画なので、どなたと一緒でも気まずくはならないです。映画好きと一緒に観るといろいろ解説してもらえて楽しいかもしれません。


赤ちゃん泥棒


コーエン兄弟の初期作品。これは面白かった!コーエン兄弟のコミカルなほうの作品群として、とても楽しめました。
警官である妻と強盗常習犯の夫というカップルが、不妊症であることに悲観して、有名人の五つ子を誘拐しちゃおう!と思い立つという筋。
めちゃくちゃな筋なのですが、けっこうアメリカのドラマや映画を観ていると、子ども愛が強いんですよね。子どもっていうのは大切なものだし、すごくかわいいし、いとしい。だからこそ、子どもに対する性犯罪などを起こす犯人に対して、時として異常なまでに攻撃的な人物がでてきたりします。
今作に関しては妻の方がとにかく子どもが欲しいと思いつめた挙句、あんなにいっぱい子どもがいるんだったらひとりくらい貰ってもかまわないだろう、と変な方向へ開き直ってしまうところから物語がスタートします。
要するに、自分たちの欲望にしたがって赤ちゃんを好き勝手に扱う大人たちの話であって、子どもがかわいい、と言いながら赤ちゃんを誘拐するカップルもどうかしてますし、その子にかけられた懸賞金目当てにさらに略奪する悪人も自分の利益しか考えていない。誰も彼も自分のことしか考えていないのですが、次第に、その赤ちゃんがかわいすぎて自分たちのことがどうでもよくなっていきます。
最終的には絶対悪(赤ちゃんのかわいさになびかない唯一の存在)としてのゴーストライダーが出てきて、彼と対決することで、ニコラスケイジが自分たちの犯した罪に気づくわけですが、なんというか、そんなにか、赤ちゃんパワー、と思わざるを得ない。もうみんなどんだけ赤ちゃんが好きなのかと。
赤ちゃんが終始メインにすえてあるので、コミカルだしほのぼのしています。何が描きたかったんだと言われたら赤ちゃんのかわいさは正義!赤ちゃんは世界を救う!的なことじゃないかと思ってしまうくらい、赤ちゃんがかわいい話としか…いや面白かったんですけどね。ファミリーで見てもカップルで見ても、ほんわかすると思います。


オー・ブラザー ジョージ・クルーニー LBXS-006 [DVD]

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オー・ブラザー


ユリシーズを元ネタに3バカトリオを描いたという話。面白かった!かなりしっかり作ってあって楽しめました。
アメリカの南部を描いたファンタジーともいえるかもしれません。
コーエン兄弟の作品て、どういうオチだったんだかよくわからないまま終わる印象が強かったのですが、この作品に関してはちゃんと結末が用意してあり、そこがまずよかったです。冒険譚であり、家族の話であり、仲間の話であり。ただそこはコーエン兄弟なので、なんというかかなり幻想小説に近い手法で映像が作られていて、それが独特の雰囲気を持っていたのも楽しめました。
つまり、日常の中に唐突に怪異が現れる。それは日常の文脈でもどうにか理解はできるのですが、やはりちょっとデフォルメされていたり異質であったりして、不思議な後味を残します。かといって、ではファンタジーのように完全なる異世界かというと、少し微妙で、そのあたりのバランス感覚がコーエン兄弟ならではなのかしらと思ったりしました。
今回みた3作のうちでは一番きちんとつくってあって、エンターテイメント性が高い作品だと思います。これこそファミリーで見ても面白い映画では。

コミカルな二作。(パディントン、デッドプール)

パディントン


以前、「ママ」というホラー映画とのコラージュで取り上げたパディントン・ザ・ムービー。ようやくみました。
特別ひねりのないハートフルな映画、というとディスってるみたいですが、面白かったですよ!パディントンの巻き起こす騒動ぶりもよく描かれていましたし、映画ならではの脚本もよかった。若干、「ベイブ都会へ行く」を思い出すようなあらすじなのも個人的には気に入りました。
人語を解する動物、という設定はよくあるものなんですが、今回の場合は完全にマイノリティである熊、という点にお話が絞られており、原作ではどうだったか忘れてしまいましたが、わかりやすくはなっていました。絵本や小説だと、そのあたりをぼんやりとしたまま読み進められるんですが、映画ではそこらへん、ちょっとハッキリさせないとイマイチわかりにくくなるのかもしれないな、とか。パディントンがちょっとリアルに描かれているので、小さい子はもしかしたら怖がるかもしれませんが、まぁみんなで見れば怖くないし、別に怖い話じゃありません。熊だけど、いい子ですよ。



デッドプール


あらかた、マーベルを見尽くしつつあるのでもう残りウルヴァリンサムライとこれくらいしかないよね…ということになり。(あ、グリーンランタンもまだか…。)いやごめん、ちゃんと面白かったです!人体実験の末不老不死になってしまったデッドプールが恨みを晴らして恋人を取り戻すお話。
ヒーローというにはちょっと、ハズレ値のようなデッドプール。こういうのを、トリックスターというのでしたっけ。ともあれ、「第四の壁」(という言葉をこの作品で知りました)をガンガンにぶち破ってくるデッドプールはなかなか小気味よく、映画としてのテンポもよくて、ジョークが多用される映画としてはくどくなく最後まで面白く見られました。
ただ、よく考えると漫画の中では第四の壁なんてしょっちゅう破られているわけで、デッドプールという存在自体は漫画界にとってはさほど目新しいわけではないのではないか、などと思ったりもしています。が、具体的にどの作品と言われるとちょっと思い出せない。手塚作品とかはメタ要素すごくありますよね。
あとなんというか、低予算だからなのか、どちらかというとCGよりもスタントによる(?)生身っぽいアクションが多く、全身タイツもあいまって、戦隊ものとか、仮面ライダーとか、ああいった味わいを感じさせる作品になっておりました。
あとこれはもう完全に作品とは関係ないんですが、刑事ものとかでよくでてくる壁に模造紙を貼って人物同士の相関や状況をメモ書きとか糸でどんどんつなげていくっていうやつ、あれって使える方法なんでしょうか。ちょっと興味ある。なんか、決まったメソッドとかあるのかしら。
とかほんとどうでもいいことを書きたくなる映画なので、まったく力を入れずに観られる良作です。割りにストレートな恋愛ものでもあるので、恋人同士で見ると楽しいと思います。

DCと、マーベルと、無法地帯

身動き取れないため、感想を書きます。また溜めちゃったな…(うふふ


マンオブスティール(スーパーマン

まったく、一ミリも期待せずに見たところ、案外楽しめてしまいました。これは、ヒーロー映画ではなく、ファンタジーだと思ったらいいんじゃないでしょうか。ほら、マイティ・ソー異世界ファンタジーなわけですし。宇宙とのつながりがあるのでしょうがないです。それか、ドラゴンボール不思議の海のナディアエヴァンゲリオンを混ぜて焼いてファンタジー風味の味付けをした映画って言った方がいいかもしれない。ドリルのあれとかも混ぜてもいいんじゃないか。
個人的に、ヘンリー・カヴィルが好きになりました。というか、知り合いに似ていてうけた。


スーパーマンVSバットマン

ワンダーウーマン最強伝説!ミステリアスなワンダーウーマンさんだけでも楽しめる映画でした。でも、きちんと本来の超人VS人間という図式も描かれており、最終的にその二つが共通の敵に向かって手を携えるというところもベタによかったです。
なんというか、やっぱりスーパーマンのような超人(というか宇宙人)って人間を超越していて、バットマンがとらわれるようなごちゃごちゃした善悪の境界とは別のところにいるせいか、イマイチ実感がわかない。その点バットマンは泥臭い。そしてほとんどやくざなのですが、とにかく力と金にものをいわせるかんじがバットマンらしくて素晴らしかったですね。基本生身の人間だから体とか鍛えちゃうしね。あと今回は、そのような2人がなんとか共通の敵を倒すわけですが、その共通の敵は自分の身内、というのもスーパーマンの悲哀として描かれておりよかったです。できれば前作のマンオブスティールとセットで見て欲しいですが、単体でも楽しめると思います!


ヘイトフルエイト

タランティーノ節炸裂!面白かったです。中盤から、この中のいったい誰が生き残るんだろう…っていうか全員死ぬのかやっぱり、的な密室展開となり、個人的にはわくわくしながらみました。タランティーノの映画で繰り返し描かれる、華々しく散る、という要素があるのですが、これが彼の映画の爽快感に繋がっているのではないかと。要するに復讐です。キルビルとか、ジャンゴなんかは生き延びて復讐を遂げるのですが、イングロリアスバスターズや今作はやってやった、という感じで(おそらく)主人公も死ぬ。本人が生きているか死んでいるかによらず、恨みをきちんと晴らすというのが、大事なのかもしれません。よく考えてみると、ルサンチマンとか嫌いそうですもんね、タランティーノ。よくわからない感情の渦と失敗の果てに、だがしかし、この一点だけは俺は成し遂げたぞ、という達成感とも繋がるこのうらみはらさでおくものかシステムが、私は好きです。なんか、そういう小さいことで満足できるんですよね、人って。血みどろなものと、無駄に長い会話シーンなどが大丈夫な方はぜひ。


シャーロック〜忌まわしき花嫁〜

TVシリーズのファンなので、映画もやっぱ観ておかないとねということで。面白かったけど、もっと面白くできたよねという感じ。ただシャーロックホームズってどの映画も壮大な二次創作なので、その意味ではこのテイストは好きです。モリアーティが相変わらずキモい(褒めています)。TVシリーズ好きな方は見ておいてもいいかな〜と思います。


シビル・ウォー

俺たちずっと友達だよね、っていう映画だと聞いて。面白かった!というか、キャプテンが…。個人的にキャプテンが気に入っているので、今回の作品はとても胸が痛みました。というか、キャップは何を言ってんだかっていうシーンがいくつかあったのですが、そこはまぁ、贔屓目で大目に見る。
内容としては実利主義者VS理想主義者の争いなのですが、最終的にはどっちも譲れない”自分の正義”のために戦ってしまうことになり、なんというか、正義って難しいです。戦争の縮図を見た。で、そこで間に入るのがブラックパンサーっていうのがなんか笑えないです個人的には。
アベンジャーズの末路としてはやっぱり見ないわけにはいかない作品です。一連の作品を見ている方はぜひ。あと昔の友は今も友、でも今の友も友は友、というところで引き裂かれるキャップが見たい方もぜひ。

ホラーとスパイとゲリラ戦、それからロッキーもね。

うっかりしているとこういことになる。うっかりは怖い。観た映画が結構あるのに、もう思い出せないもん…。
記憶が頼りにならないから備忘録をつけ始めたのに備忘録をつけることそのものを忘れていました。こういうの、なんていうんだっけ。ミイラ取りがミイラじゃなくて、まあ、いいか。


クリード


ロッキーを観たことがないのにこれから観ました。面白かった!スタローンがすごくおじいちゃんで驚きました。
とてもシンプルなスポコン映画で、主人公の2人の純愛だったり、老ボクサーとの絆だったり、物語ってこういう風にできているんだっていう核の部分が明快で、個人的にはとても好きな映画でした。
いろいろと、シリーズを見ていればわかるシーンなどもあったようなのですが、知らなくても充分楽しかったです。愛の冷めてきた夫婦におすすめしたいです。


ロッキー


クリードを観て、ロッキーを観ていないのはやっぱり、もったいないかなということで。面白かった!いい映画。スタローンて案外ちゃんとした脚本が書ける人なんだということをこの映画で改めて認識しました。クリードの意味がいろいろと明らかになったのもよかった。ロッキーってこういう、動物を愛護するキャラクターだったのか、というのは目からうろこでした。気は優しくて力持ち。スタローンがかっこいいって思ったのは初めてだったので、スタローンってなんかムキムキした人だよねくらいの認識しかない人にはおすすめしたいです。


イットフォローズ


町山さんがおすすめしてたので。面白かったけど、地味なホラーでした。デトロイトのものすごく荒廃した感じと、若者の閉塞感のようなものは感じ取れた。セックスすると感染する「何か」が実体を持って襲ってくる、というのがじわじわ怖い。のろいとかじゃなく、物理攻撃なので頑張れば逃げられる。でも、必ず追いつかれる。そういう切迫感と、自分が誰かにうつせばどうにかなるかというと、うつした相手が死んだらまた自分に戻ってくるだけなので、その相手も含めて逃げ続けないといけないっていうあたりが、逃れられない感を強くしており、主人公がそこで誰かにうつして時間稼げばいいやって終わらないところに誠意を感じました。あんまり人にすすめられないけど、ホラー大丈夫ならみてみてもいいかなと。


ババドック


これもまた、町山さんレコメンドより。シングルマザーと子供を襲う奇怪なおばけの話。イットフォローズよりはこっちのが面白かった。中盤くらいまで、主人公の感じている恐怖が主人公の妄想でしかないのか、実体があるものなのか、が不明確なまま描かれるので、サイコスリラーなのかなって思いましたが、途中からちゃんとおばけの実体がでてきました。

はっきり言ってこんな子供がいたら母親は大変だろうなと思うし、かばってもかばっても報われないと思ったら精神もおかしくなるとも思う。で、ただでさえそんな状況なのに、ババドックっていう外的脅威が現れて、ますます混乱していく母親の泥沼が前半のハイライト。このとき、母親が周囲から完全に孤立しているために「この現象は客観的に見るとこうである」という第三者視点が排除されてしまいます。実際にはババドックがのりうつっているわけですが、周囲からはそれが見えない。
で、これまでは妄想癖と奇行癖のある少年だと見えていたものが、実はただ本当のことを言っていただけだった、ということがババドック登場により明らかになり、そこからは少年と母親の、ババドックを退治するための戦いへと変わっていきます。つまりババドックという実体が私たちにも見えることによって、少年とともに、私たち自身がかのシングルマザーの家庭の状況の目撃者となっていく。このあたりの転換が上手だなーと。後半なんて少年がヒーローですからね。
最終的にババドックを飼いならすということで決着するんですが、私たちはそういう経緯を全部見ているから納得できるけど、そういうこと全然知らないけど、その2人をそのまま受け止めてくれる隣の老婆が本当に救いで、なんというか、家族ってとても閉じたものだけど、やはりどこかに信頼してくれる他者がいることで持っているものでもあるのだなと、社会との絆の大切さのようなものを感じました。ああいう老婆が居てくれる場所に住みたいですね。


アンクル


薦められたので。面白かった!久しぶりにガイリッチー映画を観ました。
個人的にはアーミー・ハマーさんが出ていたので楽しんで観られました。ハマーさんはああいう役が似合うと思う。というかあまり出演作がない中でなぜか3作くらいハマーさんの出ている映画を観ています。
ヘンリー・カヴィルはもうボンドでいいんじゃん、と思いましたが、ボンドはダメなんですかね。
結局スパイ映画を撮るには冷戦って不可欠であり、現代においてスパイ映画を撮るのはムリ、っていうのを露呈してしまったような気もするのですが、爆弾を敵役に投下してドカーン!終了!的ラストが観られてすっきりしたのでヨシとします。今じゃああいうラスト撮れないよね…。
ぜひ続編みたいですけど、続編撮る予定がないようで残念…ハマーさんの出演作で続編が撮られる日は来るのでしょうか…。


ディーパンの戦い


カンヌ受賞作とのことで。面白かったです!これはいい映画。
前半は偽装難民が苦労しながら徐々に家族のつながりを深めていく話なのかなと思ったのですが、最終的に終わってみると、ディーパンが無類の強さを発揮して窮地を切り抜けるアクションムービーだったという。ゲリラ戦を戦い抜いてきた英雄は、フランスの郊外でやさぐれているような不良とはやっぱり違うと。フランスにおける荒廃と、なんとか生き抜いていこうとする移民のたくましさの感じられる映画でした。でも殺人はよくないと思う。

マット・デイモンは地球の夢を見たか。「オデッセイ」他3本。

昨今はやりの地球へ帰りたい系映画を、命に限りがある系俳優のマット・デイモンが演じましたという「オデッセイ」。リドリー・スコットにいい思い出のない私としてはちっとも期待が持てませんでしたが、これは面白かったです。
火星や宇宙の描写はもうこのご時世なんとでもなるんでしょうが、変に真面目っぽくない演出や主人公の軽薄な性格にかえってリアリティを感じました。特に、目的に向かって課題をひとつひとつ解決しながら、出口を探っていくという過程は科学そのもの。決して派手なパフォーマンスも、ミラクルも(一応)ない中で、地味にステップを積み上げることで誰もが予想しなかった結果を手に入れることができるというのは、とても希望に満ちたメッセージでした。とはいえ、宇宙空間で新体操みたいにリボンくるくるさせてるシーンはまぁ、ないよね。ファミリーでも、恋人同士でも、ひとりでも、どなたにもおススメできる作品です。

ギャングスタ・ラップを創始したNWAの伝記映画。面白かった!
ちんぴらの抗争が絶えない地域でうまれた小さなグループが、過激なメッセージとその地域のイメージゆえに「ギャングスタ」というレッテルを貼られ、危険視されながらも圧倒的な人気を獲得していく様子が克明に描かれておりました。あと、これを見るとドクタードレが好きになる。ドレ役のコーリー・ホーキンスがよかったです。


BB8がかわいかった!っていうのに尽きます。まぁ、ずっと観てる人は観るといいと思います。なんというかスターウォーズって、お祭りですし。


アベンジャーズのシビル・ウォーを観るためには避けて通れない作品だったので仕方なく…と思ったら案外面白かった。キャプテンの地味な活躍を楽しみたい方にはおすすめです。

自己肯定を喚起する

欲望を喚起するマーケティングが終わって、今は社会的な貢献の中で自分自身の満足を得るためのマーケティングが必要というような話を上司からされております。社会的な存在意義のようなものがないと自己肯定できないって、ずいぶん今の人は大変だなぁというか、むしろ処世術というか、社会の中で役に立ってる自分が素敵とでも思わないとやってられないんだろうとか。
同僚の姪っ子の話がすごくて、欲しいものがないという。高校に入学するのだから、何でもいいからお洋服とか、文房具とか、そういうものをプレゼントしてあげるから言ってごらん、と言っても、そういうのはいい、というのだそうだ。
で、これ、私はすごくわかる。わかるっていうか、私にも少し似たところがあった。
さいころから欲しいものがなくて、ないけどムリにでも何か買ってあげると言われるのでじゃあ本を買ってと言っていたくらいで、むしろ欲しいのは美しい顔であったり、豊満な胸であったり、やせた体であったり、モテる人格であったりしたのだけど、どれも手に入らないから、他に欲しいものなんてなかった。おそらく、欲望は近いところにあるからこそ欲しくなるんであって、どれも遠いな〜って思うと、全然欲しくならない。
ところが少し成長して、やせて、着られるお洋服が増えて、買えるお金ができたら、すごく欲しいものが増えた。あれも、これも、私のためにある、って思えるようになった。お店の前に立っているマネキンと同じ格好ができるということが、すごく嬉しかったのだろうし、楽しみでもあった。
欲しいっていうのは、そこに可能性のある自分がいるから生まれる感情だ。し、そこに想像できる自分がいるから生まれる心の動きだ。ってことは、同僚の姪っ子は、お洋服を着た自分を想像していないんだろうし、それを着て何をしたいということもないのかもしれない。
反対に。旅行には行きたいんだそうだ。お友達とでかけたり、おうちに呼んだり、するのは好き。そのための準備はするし、そのためにはお金を使う。おいしいものを食べにいきたい、素敵な風景を観に行きたい。そのための交通費や食費や宿泊費には、お金を使いたい。でも着ていくのは、そんなに豪華なお洋服じゃなくっていい。お洋服きて素敵な自分じゃなくて、友達と一緒に楽しんでる自分の方が、きっと姪っ子ちゃんはいいのだ。
体験は、その人にしかできない。同じ風景も、同じ食事も、同じ洋服も、同じ時間も、ひとつとして存在しない。成熟した社会の中で、若い人たちはそれに気づいている。自分がどう感じるか、自分が体験したことをどう伝えるか、そしてそれが、他人の目にどう映るか。360度の視界の中で、”繕う”ことも”魅せる”ことも、その感覚とはちょっとちがう。彼らはきっと、安心したいのだ。異なる自己を肯定するために、異なる体験を肯定するために、自己の価値を大切にしながらも、誰かと共有することで納得してもらえるものを好きになる、突出したものではなくあらかじめ評価されたものを好む。
私には、そういうのって、許してもらうことに近い。私はこういう私ですけど、問題ないでしょうか。私はこういう感覚をもち、こういう体験をしている、こういう人間ですけど、OKでしょうか。みんな、そう言ってるように見える。それが常に評価されて、常に変動していく中で、ずっと関係を持ち続けようとおもったら、誰もが納得する理由を探すしかないし、それが利己的なものを排した、社会貢献によって達成される自己肯定なんだろうし、その意味では、今の消費の中心、労働の中心になりつつある人たちはむしろ社会の欲望のようなものをうまく自己と切り離さないと、ちょっとキツいんじゃないかなぁとか、余計なことを考えてしまう。
いや、そもそも、社会なんてないんだろうナって少し感じたりもする。それってなんとなく繋がっているもののレベルで、日常的には、友達や、家族や、同僚という範囲の中で繰り広げられる感情のやりとり、だし、そこにある程度納得できる体験が見出せたら、それ以上のものは求めないという、なんというか、謙虚な暮らし。

残るものなんてない。だから、今体験できることを大切にしたい。そういう、素直さの表れなんだとしたら、すごくわかるけど、先々大変だよなぁ、って、思って、そう思うってことは、やっぱだんだん年取ってきてるのかなぁ。とか、思います。
結論はないけど、喚起すべきなのは自己肯定だっていう話なんだと思います。