積層


SCAI THE BATHHOUSEの安部典子展“TIME LAG”
に行ってきた。

 安部典子の作品は紙を「手で」切り出して作り上げられている。一枚では平面の紙を一枚ずつカッターで切り抜いて重ねることで立体が立ち上がっていく。一見するとラピッドプロトタイプのようだが、製作過程としては明確に異なる。彫刻とも違う。
 よく見ると手で切ったブレがそこかしこに存在する。立体が先に存在しているのではなくて、積み重ねる過程で現れてくる(もちろんある程度のイメージは先にあるにせよ)。
重ねる紙の数は1,000枚を超えることもあるそうで、かかる手間を想像すると胸が熱くなるな

紙自体も通常の紙ではなく、「ユポ」というプラスチックの合成紙が用いられている。まあ、紙は伸びるしね・・・


 着想の元は地形図、というか等高線で、今回の展示でも実際の地形をモチーフにした作品があった。しかし、そうしたイメージから遊離した作品も存在する。
"Flat File Globe"シリーズはファイルキャビネットに積層された紙が収められた作品である。これによって作品は紙の塊としての印象が強くなるが、しかしその断面はやはり紙なのだ。

美しい器

 以前、金沢で購入したコップの作者、森岡希世子さんの作品を恵比寿のl'Outilで見つけた。

非常に薄く、怖いほど白い美しい磁器の作家で、l'Outilにはコップ以外にしょうゆ指しや急須、茶器も置かれている。

 最近は日本クラフト大賞も受賞されたそうで、今後見かける機会も増えそうだ。

TDW2010

東京デザイナーズウィークに行く。

今年のコンセプトは"Love Blue"ということで会場の床は青色。(写真撮り忘れた!)また、今年は会場構成が去年とは異なり学生展が中心に、周囲がテントになっている。

入り口の転がる椅子。つい遊んでしまうw

更に今年の特色はファインアートの展示があることだろうか。
メディアアートなんかは越境的であるとは思うのだが、こうした平面含めた展示は初めてらしい。混んでて入れなかったけどね。

 引っかかるなあと思うのは、これって「お祭り」の魅力としてどうなのか?と思うところで。
大企業とかのブースは個人的に詰まらなくて、それはその場で売ったり買ったり、「初めて製品見せます!」という原始的魅力が薄いからではないかと思うんですよ。個人のデザイナーや学生の浮かれた熱中振りと商売気と違って。CIだけだもんな。
 
 ここの作品やキュレイションはもう見てないから言わないんだけど、やるならプレイベントのような形でもっと長い期間やって欲しかった。短期のイベントだと、人も集中してしまうし良いことは無いような。

 で、注目したのを幾つか。混んでるから写真がひどいのはご勘弁。
中国と台湾のデザイナーグループChoterieの腕時計「空気の色」
色センサで周囲の色を取り込んで文字色の変わる時計。アイディアとしてはありがちだが腕時計は面白い。この他にも「月」のランプなど中国色の強いデザインだった。

デザイナーLin Rou Yunの時計 "Decieving youreself as well as others Time has been concealed"。マグネットで好き勝手に針を付けられる(もう時計じゃないw)


bitplayの"Puzzle"は、木の8セグメントで時間をセットする目覚まし時計。起きる時間だけが表示される逆転の発想。操作も直感的で、「いじる」楽しさがある。


KIKI Glassware江戸切子。本当に黒いガラスを着せてある。普通は色の濃い青程度だが、これは漆黒。実際製作するのは難しいと言う。シックで美しいね。

85INCのバナナの茎(あれは草なんだよ)の繊維を用いたオブジェ。かなり硬く、素材として面白い。

千趣会のコンペで賞をとった"rainy.tone"雨だれが落ちると風鈴の様に音がなる。

ちょっと感動したのがShir Atarの"stump01"である。これはカーペットをぐるぐる巻きにし、外側を折り込んで曲面を形成している。ひどくシンプルで、ひどく美しい。


成瀬猪熊建築設計事務所のイエタグ。木造建築の廃材を再生紙にして、家の形の付箋を作る。単純だけど巧い。

他にも面白いものは幾らでもある。こうして、人の「アイディア」そのものに触れるようなイベントは楽しい。デザインフェスタもそうなのだが、銭金が絡まない分外国から来ないというのが致命的欠点だよなあ。

Digital Tea House展

 Digital Tea House展に行った。
 これは今年8月にコロンビア大と東京大の合同で開催されたワーク ショップの成果発表で、テーマは「茶室」。コンピュテーショナルデザインならではの構造やデザインの面白さを、ソフトウェア(CADのRhinocerosと形状生成ツールのGrassHopper)を駆使して実現するのが目的である。
 3チームの内2チームは実際に制作された茶室を展示しており、実際に中に入ってみることが出来る。


 素材はベニヤ板と決まっており、畳などを付随的に用いることは出来る。

 写真上の作品は東大の「チーム洗濯板」の作品である。
 全体の形状は茶碗をモチーフにした円筒形であり、側面を波打った板で覆っている。厚みのあるベニヤを曲げるために溝が掘り込んである

底面は二畳敷きになっているが、上方に行くほど開放的になっており、出入りには側面に空けられたにじり口を使う。

 コンピュテーショナルデザインがテーマだが、この作品の肝となる側面のカーブに関しては基本的に手書きベースで造形を行い、それを3次元の板として加工した際の矛盾のチェックや、溝の加工位置の計算などを主にソフトで行っているらしい。

 もう一つは東大の「チーム換気扇」の「13:00:08:25:2010」である。
 円錐曲線を切断したサーフェス上に点を配置し、それをつないだ三角形でサーフェスを覆っている。三角形の辺にあたる部分から押し出されるようにベニヤ板のフレームが張り出し、それを結合して構造を維持している。このベニヤはレーザカッターで自動で切り出されている。

 この押し出す厚み(板の幅)はベースとなる三角形の面積と基準点(底面の茶釜を置く位置)を変数とし、生成している。
また、この題名は時刻を意味しており、この時刻になるとフレームが床に落とす影が床のパターンと一致するように作られている。

 「茶室」というテーマはこうしたデザインスタディ向きであるように思う。自由度が高く、幾つかの約束事さえ守れば(茶が点てられれば!)決まった型は存在しない。上記2点は、同じテーマでも全く違うアプローチである。
 「チーム洗濯板」の作品は、「茶室」としては美しいと思う。材質を洗練すればどこかに置いても良いくらいに。ただ、コンピュテーショナルデザインの面白さと個人的に思っている「意図しなさ」は薄い。もちろん、最終的に何が美しいかを決めるのは作者であるのだけれど、「生成規則」から作られる感じはない。

 「チーム換気扇」の作品は、影の儚さや生成規則という点でとても面白かった。儚いと言うにはちょっと構造がごつ過ぎるけど^^;

 展示会場が殺風景なのは仕方がないので、屋外に置かれたところを見たかったな。茶室はアプローチから始まると思うので。。。

現代の茶道具

智美術館の「現代の茶−造形の自由」に行く。



 ここ1−2年に製作された茶道具の展示会で、陶芸作家に自由な発想で作品を発表してもらうため、2006年から隔年で開催されているそうである。智美術館自体が茶道具のコレクションで有名であるし、茶室で、作家の作品で抹茶を飲みながら解説するイベントも行われたそうだ。

 陶芸作品の展示だけで金工や木工は無かったが、流石に近代美術館の展示と被っている作者もいる。それだけ評価が高いということだろうか。もっとも、こちらの方が展示がガラスケースに入っていないために鑑賞の自由度が高い。これは比較的狭い会場の効用だろう。

 印象に残ったものは
秋山陽の「無題 MV-104」

赤土をそのまま固めたような、非常に力強い作品。ひび割れた部分の岩のようなテクスチャと滑らかな焼き物の表面の落差が面白い…んだけどちょっと茶室には大きいような。
同作者の「無題 MV-103」は同じ質感の鉢でこちらも良い。

北村純子の「Vessel10-B」

黒地の鉢に、小さな白い三角で模様を描いたもの。近くに寄った細密な印象と、遠景での流れるようなシルエットがとても魅力的。

 茶に興味がなくても、純粋に造形的に楽しめる作品が多い。行って損はないかなと。

 

「現代工芸への視点―茶事をめぐって」

東京都近代美術館工芸館の「現代工芸への視点―茶事をめぐって」に行く。
茶道具ということで陶芸・金工が主であったものの,それ以外にも香合などの木工品やガラスの作品も置かれている。また茶道具ということで茶室に一式揃いでの展示も目を引いた。

特に印象に残ったのは

小川待子の花活け「U90」は、茶室に置かれていたものだが、コンクリートの塊を突き破るような銀の筒。陶器ではあるが質感は極めて荒く、活けるものを選ばないと弱弱しく見えそう。

また同じ作者の香合は、木片のような鉱物のような、到底意味あるように思われない形状に彫りこまれている。アイディアとしては珍しくないのだろうが、形状全体が非常に美しく、また切断面が見えにくい。

また「これぞ数奇だ!」と感動したのが須田悦弘の一連の木工作品である。これは花や葉を精密に模した木彫で、それが窓の外や、茶室の隅にさりげなく置かれている。

 言われないと気がつかないような隠微で、しかし気が付いてしまえば目が離せない作品である。写真は実際の展示ではないが、イメージとして。

メインビジュアルにもなっている長野烈の「唐銅六角捻風炉」も、茶室の雰囲気を破壊せずしかしシルエットはとても鋭い。

 まあ茶道具って実はかなり広いので、最初から茶室で使う目的を持っているもの以外でも使える(呂宋壷なんて正にそれ)からかなり広い範囲が含まれてしまうが、今回の展覧会は割りと端正にまとまっていたと思う。もちろん、それは破綻が無くてつまらない面もあるけれど、作品自体の質はとても高い。

ただ問題なのが図録が無いんだよね…製作中ということらしいが。