百億の昼と千億の闇

会社の女の子がね、またランチ行きましょうって言うんすよ。
ぜんぜん行きたくないけどせっかくのお誘いを無下に断るのも無粋だよね。じゃあ明日どうですかって聞いたら明日はダメなんだって。それで、明後日ならいいんだって。明後日はトミーことイケメンくんが休暇明けなんだけど、それたぶん関係あるよね?つか、密接にかかわり合っているよね?

しょうがないから休暇明けのトミーにまたランチ行こうってさって言ったらイイっすね!ってノリノリだけど、そりゃおまえは楽しかろうよ。でもちょっと思い出してみて?ランチの度に繰り返されるこの俺の耐えられない存在の軽さ。君はあんな俺をもう見たくないはずだし、俺だって君の前で透明になんてなりたくないわけ。俺は俺という一個の存在を認識してほしいし、出来れば尊重して欲しい。話を聞いて欲しいし、抱きしめて欲しい。うん、来週の火曜がいいのね。じゃあ女の子たちに言っときまーす。

てのひらの闇

いやー、いってきましたよ会社の女の子たちとウキウキランチ。賑やかでキャピキャピしててイキフンは楽しいんだけど、とにかく話が本当につまらない。だからプラマイゼロかな。じゃあ行かなくてもいいよね。そもそも俺は普段はお弁当なわけでさ。今日はランチに行くっていうから妻に「若い女の子たちとランチに行くからお弁当いらないです」って言ってきてるわけでね。うん、それから口きいてくれないよ。

そしてその後聞いたところによると、女の子たちも普段はおべんとなんだって。いつもリフレッシュルームで食べてるので一緒にたべましょうよ!って。
俺もなんだかんだ経験積んできてますからね。言わんとすることはわかってます。そんなん真に受けて一人でノコノコおべんと広げにいった日にゃ、一瞥して舌打ちして俺だけが知らない話題で盛り上がろうとするってわけでしょ?
いたたまれなくなってそれじゃお先、って姿を消したら「なんで一人で来た?」「それな」「じじいつかえねー」ってわけなんでしょ?
俺ってけっこうそういうのわかっちゃうほうっていうか。忖度だけでやってきましたみたいなとこあるんで。

仕方ないからトミーことイケメン君をお誘いしてね。いつも外食だろどうせって思いながら誘ってね。一応誘ったけどいつも外食なんだって!って女の子たちに弁解する練習してから誘ってね。そしたら彼も普段は自分でおべんと作ってんだって。なにそれかわいい。好きになっちゃう。

こうして社内でも一緒にお弁当を広げることになったんだけど、まあ、場所は変わっても話のつまらなさは変わらないね。しまいに30年前の合コンみたいなノリになってきちゃって、「血液型なに型?」なんて質問が飛び出す始末。O型だし射手座だしどうぶつ占いはクロヒョウだしって、くっそー、ぜんぜん聞いてねえなおまえら。

そうこうしている間にもトミーのおべんとが彼のルックスとは裏腹に、ごはんに卵焼きと焼き肉という荒々しい内容であるという話題になり、「もっと野菜食べなきゃダメ」だの「簡単でヘルシーな副菜のレシピ」だのでわいわいやり始めて、「じゃあもう私がトミーのおべんと作るよ!」て言い出すやつがいつ出てきてもおかしくないんだけど、それはそれとしてこの場における俺という存在の透明感、おわかり頂けるだろうか。

ほの暗い闇の底から

「由美ちゃんへ」は、はてなダイアリーのサービス終了とともに消えるものだと思っていたけど、なんだか勝手にはてなブログに移行してまだ生きてるみたいだから近況でも書いてみようかな。
ずいぶん久しぶりだけど、どうなのみんな。元気にしてんの?初孫生まれた?

いやーしかしほんとにじじいになったもんだよな。寝起きのおしっこめっちゃ黄色いからね。あと、特に何をしたわけでもないんだけど、最近ヒザが痛い。聞いた話じゃ年取るとヒザの軟骨がすり減ってくるんだってね。どうすんのそれ。いつかヒザがなくなっちゃうの?

そんな老体にムチ打って都心まで通勤してんだよ最近。これまではチャリで10分の拠点に勤務してたんだけど、しばらく都心の本社に通わなきゃならなくなっちゃってさ。たっぷり100分くらいかけて通勤してるけど、こんなの左遷だよもはや。
こっちはわざわざ好きこのんで陸の孤島と名高いこの地方都市に住んでるのに難儀だよな。もう都会に憧れるような年齢じゃないっつーのよ。

しかし嫌々ながらも通い始めてみるとこれがなかなか楽しいもので。本社の設備快適だし、仕事も集中できてサクサク進むし、困ったことが起きても周りに賢い人がたくさんいるのですぐに集まってくれて助けてくれるんだ。

みんな気さくでいい人で、おしゃれな人やキレイな人もたくさんいるし、とにかく素晴らしい。ただひとつだけ難点があって、どいつもこいつも話がおもしろくないんだよな~。
まあ俺もおもしろい話ができるわけじゃないのでそこはお互い様かな。社会ってそうして成り立ってるものだと思うし。

そしてよく一緒に仕事する機会が多いイケメンの人と仲良くしてもらっています。若くて顔のいい人に感じよく接せられると、なんか、くやしいけど、ちょっとうれしいんだよな。だからこっちもすっごいやさしくしちゃう。それでイケメンの人ももっと感じ良く接してくれる。俺もうすぐあの人のほっぺにキスしちゃうかも。

そんな噂の刑事トミーとマツを女性社員が放っておくわけもなく、こないだ若い女の子にランチに誘われちゃってね。いや、俺だって何かの冗談だと思ったよ。ヒザに爆弾をかかえるこの俺をかい?って。
でもその疑問を口にする前に彼女は答えを提示したね。

「で、イケメンさんもよかったら一緒にどうかな~って?」

つまり、マツこと俺がイケメンことトミーを誘えばいいんだね?
本社における自分の立場と役割を明確に理解した瞬間である。

【2】

その男の肌は異様に白かった。細く開いた自室の窓から男を見つけた時、俺はその真っ白な肌を欧米人のものと思い込んだ。整った面立ちはどちらかと言えば日本人のそれだったが、どこか日本人離れしたものを感じさせた。混血かと訝ったが、表情や物腰が日本人然としすぎている。観察しているうちに俺はなぜかその男が恐ろしくなってきた。窓の死角にいる誰かと談笑するその男の歯に、鈍く光る金具が装着されているのが見えた。これ以上この男を見ていてはいけないような気がした。音を立てないように注意しながら窓を閉めようとしたその瞬間、白い男と目が合った。ほんの数センチの窓の隙間から差し込んできた男の視線に射竦められ、俺は動けなくなった。男は俺の存在を認めると眼差しをやわらげ、禍々しい金具の貼りついた歯を見せて笑った。俺は圧倒的な恐怖を感じながら精一杯の力を込めて窓を閉めた。倒れこむようにソファに沈んでからも膝が震えていた。それからというもの、俺は自室の窓を閉め切る事が多くなった。あの悪魔のような白い男を二度と目にするのは嫌だった。

普段、細く開いた自室の窓からは俺に恋を与えてくれた女がゴム飛びに興じる姿を楽しむ事が出来た。大きく窓を開く事をしないのはこちらの存在を知られたくないからだ。俺は亡霊のような、あるいは神のような透明な存在でありたかった。初めて彼女を目にして以来、そうして狙撃手のように息を潜めながら彼女を愛でる事が俺の日課になった。しかし白い男のおかげでそれも叶わなくなった。こうしている今も、彼女は窓の外で無邪気な笑顔をふりまいているに違いない。そう思うと狂おしい気持ちになった。俺は白い男を憎んだ。あの男の前歯に張り付いた禍々しい金具を憎んだ。憎悪は日増しに大きくなり、やがて恐怖を凌駕した。俺は再び窓を開ける決心をした。

ショットグラスにバーボンを注ぎ、一息に飲み干す。熱い塊が喉を焼きながら過ぎて行き、腹の底にくすぶっていた憎悪に火をつけた。巨獣が炎を吐くようにして咆哮を上げながら、自室の窓を全開に開け放つ。窓辺に立つ俺のすぐ目の前で、彼女は少し驚いたような表情でまっすぐに俺を見ていた。俺という存在を認識した。数センチの隙間から一方的に覗き見ていた世界は、今、この狭い部屋とすっかり同化したのだと感じた。彼女は業火を纏った醜い巨獣のような俺を見つめたまま、人見知りな笑みを見せた。俺は彼女が肉体を持った、実在する一人の美しい少女なのだという事を唐突に理解した。二つの世界が同化した事で、彼女や、彼女の為に腰の位置でゴム紐を構える二人の少女や、通りの向こうで走り回っている少年達と同じ肉体を、俺も手に入れたのだと思った。今の俺はきっと自分の手で彼女に直接触れる事が出来る。だがもう二度と透明な存在のまま彼女を盗み見る事は出来ないだろう。俺は混乱した。混乱して、呆然とした。やがて彼女は俺を見つめたまま声を発した。なんでもない挨拶のような言葉だったが俺には意味が理解できなかった。小さな鈴の音のように耳触りの良い音の羅列は俺に「ようこそ」と言ってくれているように思えた。私達と同じ世界へようこそ、という彼女の言葉は、これまでの俺の世界が死に、新しいこの世界が生まれた事を意味していた。そこには彼女がいて、俺がいて、彼女の背後でいやらしい笑みを浮かべる白い男がいた。

ポアイズム

今の職場にやってきてもう2年の月日が流れたよ。不慣れな愛想笑いを続けるには長すぎる時間だったね。もう限界っす。これ以上働けないっす。右のおっぱいを揉むと左の乳首からあたたか〜い牛乳が出てくる篠崎愛型のミルクサーバーを発明して大儲けする夢を叶える為にバリへ飛んで毎日「あっちー」とか言いながらダラダラ暮らしたい。俺には多分そういう時間が必要だし、むしろそういう時間しか必要ないんじゃないかな。君もそう思わない? じゃあセックスしよっ?

荷物をまとめて空港に行って「BARI」って書いてある飛行機に適当に乗ればたぶんバリに飛べる。浅黒い入国審査官がこちらの顔も見ずにつまらなそうに聞いてくる。「サイトシーイング?」俺は答える「ノー、コスミック・インベンション!」審査官は両眉を上げて口笛を吹くと「ボン・ボヤージュ!」と叫びながら盛大な音を立ててハンコを付いた。俺はコンピューターおばあちゃんを歌いながら空港のゲートを出る。そこには見渡す限りの陸・海・空・ヤシ・恵まれない子供たち・薄汚れた娼婦たち・それを食い物にしている酒臭い男たち。うん、まあ、まわれ右しちゃうかな〜やっぱし!

じゃあ今日はマジでひくから笑えないのでツイッターでもあまりつぶやく事のない上司について紹介しましょう。まず歳はね、よくわかんないけど65歳くらいのじじいです。背が小さくて小太り。顔に吹き出物がたくさんあって、まあ、ここまでの条件でだいたいの人は生理的に受け付けないんじゃないかって思うけど、そんな外見です。
それでこの人が、人っつーか、じじいが、まあ〜スケベで仕方ないんだよ。スケベな事が大好きでたまらないの。そりゃまあ俺だって大好きだけどおまえには負けるわーって思っちゃう。60過ぎまでエロいモチベーション維持できる自信ないもの。ハートはともかく体がついてこない。絶対にそうなる。俺にはわかる。現在進行形でそうなりつつあるから。

だからまあ、この際スケベなのはいいよ。でもそれを人前で出してこうっていうおかしな気概があるのが問題でさ、突然、AKBやらももクロやらのファンである事をカミングアウトしてきたり、「昔はトルコ風呂に通ってた」みたいな話題をぶん投げてくんの。そのくせモラリストを気取りたいのか、出会い系なんかの事件がニュースになると「初めて会った人とセックスするなんて考えられないよ」とか真顔で意見してくるからびっくりする。初めて会った人としていいのはマットプレイまでなのかーって。そんでこのトルコ帰りのモラリストが、みんなの目を盗んで職場でちょいちょいXVIDEOSを観賞してるんだよ、きもちわるいだろ? そんなのが普通に見れてしまうPC環境の職場って時点で察して欲しいところではあるんだけど、それにしてもどうなんだって。

でさ、こないだその上司と二人で残業してたらなんかおとなしいんだよ。横眼で様子を探ったら、椅子に浅く座って、背筋ピーン!と張って、左手をグーにして膝に置いて、右手をまっすぐマウスにおいて、微動だにせずものっすごいスケベな顔でパソコンとにらめっこしてんの。俺の席からじゃ上司のパソコンに何が映ってるかは確認出来ないんだけど、誰だって「はは〜ん」て思うよね。そもそも俺が残業してんのもこの上司の尻拭いなのであって、なにをかヌラヌラしとんじゃおまえってなるじゃない。だからちょっと懲らしめてやろうと思ってさ、椅子ガターン!いわして急に立ちあがって上司の席の方へ向かってくふりしたの。そしたら上司がビックーン!てなって、背筋ピーン!左手膝、右手マウスで座ったの姿勢のまんま、少し飛んだんだよ。それまで座ったまんま飛べる人って麻原彰晃しか知らなかったからこれには驚いたね。でもそれでなんだか腑に落ちた。ああ、こいつは上司なんかじゃない、尊師なんだって。

バカオフィスにて

薄々つーか、まあ、生まれる前から気づいてたような気もするんだけど、うちの職場ってちょっとおかしいみたいでさ。おかしな奴らが集まったおかしな職場だからまともなわけないんだけど、それにしてもどーかと思うような所が多くてね。いっこいっこ挙げてったらきりがないんだけど、例えば俺以外の全ての職員が異様にボスを恐れ敬うのが理解できない。もしかしたら宗教ってこんな感じかもな〜ってくらい、みんなの恐れ敬い崇め奉るバイブスをビンビン感じる。たぶんみんな毎朝ボスのおしっこ飲んでるし、抜け毛とかカサブタとかを拾い集めて部屋に飾ってると思うよ。

この職場に来てすぐに、毎年行く社員旅行で必ずカラオケをやるって聞いてさ、危険を感じたから「俺カラオケ大嫌いなんす」ってその場でハッキリ宣言してやったの。よしっ、言ったった、これで俺は歌わなくていいなって思ったよ。ところが俺のポツダム宣言を聞いた職場のバカ達が一斉に不安げな面持ちになりながら「や、べつにちょっと歌うくらいはするでしょ?」とか「カラオケ行った事あるよね?あるでしょ?」とか言ってきてこっちはポカーンとしちゃってさ。意味がわかんないから「や、俺カラオケ嫌いなんで歌いませんよ」って再びバクザン発言してやったの。そしったらもうバカの上司が必死んなって「それはまずいな〜、一曲くらいは、ね?」て懐柔してくるわけ。

いやいいよ別に一曲歌うくらい。歌下手だし人前で歌いたくないけどそこまで言うなら聴かせてやらない事もないよ。お望みならドームでワンマン3DAYSも辞さないよ。でもカラオケくらいでなんでそんな必死になんのかさっぱりわかんないなーと思ってたら、何やらボスがカラオケ大好きなんだって。それで、歌わない人がいると不機嫌になるんだって。なんっじゃそらっ!って。この職場来て3日目(当時)だけどなんっじゃそらっ!って。あのうすらハゲのぬらりひょんみてえなじじいが不機嫌になって、それがどうしたっつんじゃこんボケが!って。バカかこいつら!って。

俺の目にはボスってものすごく温厚ないいじじいで、とてもじゃないけどカラオケ歌わないくらいで怒りだすような人には見えないし、その後現在に至るまでボスのそんな姿を見た事はないんだけど、ともかくまあ、みんなものすごく丁寧に、ちょっと慇懃無礼なんじゃねえか?つかわざと?くらいの態度でボスに接しているのを知るにつれて俺の疑問は深まってゆくばかりだし、それは今もって理解できないままでいるってわけ。

今日なんてボスがやって来て「お客さんの手土産で崎陽軒のシューマイもらったから皆で食べましょう」つってたまたま近くにいた上司に例の赤い小箱を手渡してさ。「はっ!ありがとうございます、頂きまっす!」って腰を折りながら両手でシューマイ受け取る上司見てたらシュールだなーって。おまえそれシューマイやでって。賞状ちゃうでって。

そんでそれがちょうどお昼時だったもんだから上司が真面目な顔で「ばばあ君、早速チンしてくれたまえ」ってえらそうに指示してさ。つかそれシューマイだしって俺思ってて。いつになく機敏に「ハイッ!」って返事して受け取ったばばあが素早く裏面のシールで内容数を確認して「人数で割ったら2つ余りますね…」って報告したら、なんかわかんないけど一瞬事務所がシーンとしちゃってさ。俺もうわけがわかんなくって「え?なにこれ?え?え?」ってなってたら、ボスがくるっと踵を返して「私はいいから皆さんで分けて下さい」って上階の自室に戻って行くの。そしたらみんなその背中に向かって「あざーっす!」って。もういっぺん言うけどおまえらそれシューマイだからね。それはお客さんにもらった崎陽軒のシューマイであって、ありがたいボスのうんこじゃないからね。

バカ通夜2014

お葬式なんかの話題ってたぶんけっこうデリケートだよね。まあ書くけど。

つい先日、職場の先輩の母親の通夜に職場のバカの面々と参列してきたんだけどさ、俺も詳しく知らないけど通夜って身内とかごく親しい人たちの集まりなんじゃねえの?職員の親族の葬儀なんて職場の代表が告別式に参列すれば義理立て出来るもんなんじゃねえの?俺たちまでバカ面下げて出向く意味あんの?むしろ邪魔じゃねえの?って思いながらさ、もうずっとずっとそう思いながらさ、何が楽しみなんだかバカのボスが早く行こう早く行こうって急かすから仕事もそこそこにして事務所出てさ、電車で1時間もかけて寒村まで出掛けてってさ、駅降りてから斎場までけっこう歩かされたぜ? 着いたらけっこう、つか、かなり立派なお式でさ、なんだよあいつ、あいつって私服がクソダサい先輩の事だけどさ、なんだよあいつ金持ちかよって。じゃあまずアンドレジャイアントみたいな髪切っていい服買えよって。

バカが急かすから30分も前に到着しちゃってさ、俺たちみんな手持無沙汰だよ。見かねた係の人に案内されて早々と席についたら眼前には歴史的建造物みたいな荘厳な祭壇。そして隅から隅まで贅沢に敷き詰められた花々の真ん中にでっかい遺影がドーン!!ってあって、「えっ、誰?」って。そりゃそうだよ、職場の人の母親の顔なんか知ってるわけねえし、あ、でも職場のボスはもしかして面識があるのかもなーと思ってたら「ご焼香まで今しばらくお待ち下さい」って書いてある立て札を完全に無視して、ルカー!と叫んでドカドカ行っちゃってバカだから。もうバカだからすぐドカドカ行っちゃうからさ。

何するのかと思ったら祭壇のほど近くにある親族用の席をも通り過ぎて、俺みたいなど素人にも「あそこはお坊さんが座ってお経を読む場所ですね」とわかる場所まで行っちゃって、「つまりあそこにあるローソクやお線香はお坊さんが使うんだろうなあ〜」って想像がつくまさにそのお線香をそのローソクでおもむろに着火して、誰も足跡まだつけてない一足お先の砂の上にお線香ドーン!ぶっ刺して、「お坊さんがお経のビートを刻むためにあんな火鉢みたいなでかいおリンがあるんだね〜」と確信されるまさにそのおリンを豪快にゴーン!ゴーン!いって、カルロス・ゴーン!いって、なんかニフラムニフラムみたいな事をけっこうな声量で唱えてからお棺にすり寄ってってご尊顔の所の扉をパッカー!って、おまえは本当にすごいなって。だってまだお通夜は始まってもいないんだぜ?親族のみなさんもまだお線香あげてないし、顔だって見てないんじゃないかな。

それでやりきった顔してツヤッツヤになって席に帰って来て「先輩くんはお母さん似だね」って、やっぱり面識ねえのかよ!って。俺もうおもしろくって。ああ、来てよかったなって。香典出したくねえな〜って思ってたけど元とれたなって。この職場やめる時はこれ以上笑いをこらえるのに耐えられませんって辞表に書こうって思ってる。