ロードハウス 孤独の街(ダグ・リーマン)

 オリジナルの作品が好きなのなんて自分くらいだと思っていたら、突然リメイクされたからびっくりしました。しかし正直なところ、一部の好事家が偏愛するB級アクションというのが実質だと思うのでどんなものかと見てみましたが…

 ワイヤーフェンスで囲まれたライブスペース、自分は極力手を出さずに若造用心棒を指南する主人公、ヒロインは女医さんという要素が踏襲されていて、ああそうだったそうだった!と思い出せて楽しかったのですが、僕が原作を良作たらしめる要素だと思っていた「長年の用心棒稼業に疲弊して、しかしその世界でしか生きられなかった先輩用心棒」の描写と「その死をきっかけに爆発する主人公」がなかったのが残念でした。

 一方、まあ定番ではあるのだけど、ついに一線を越えた敵役の嫌がらせに「俺が恐れていることを教えてやろうか、俺が自分を抑えられなくなることだ!」とブチ切れる主人公については、いよっ!待ってましたという感じだったし、格闘シーンよりも主観と客観が入り混じったようなワンカットのアクションシーン(車の衝突とかボートが吹っ飛ぶところとか)が新鮮でした。

☆☆☆1/2

赤い右手(ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ)

 先日読んだ作者の短編集『恐ろしく奇妙な夜』が随分変わったテイストの作品で気になったので、長編はどんな感じかなと読んでみたのですが、いくらなんでもこれはないだろうというカルトミステリだったように思います。98年度の「このミステリーがすごい」海外2位とのことですが、いわゆる本格ミステリが物語の醍醐味というより思考のアクロバットを重視するということなら、その線で評価されたのかな?とも思うのですが、この結論でつじつまが合っているというなら何でもありだな、現実世界なら犯人が同一人物って勘違いは絶対しないだろう、むしろ主人公が犯人の方が納得がいくなという展開で、小説としては結構ガタガタだと思いました。(でもそれなりに多くの人が評価していたっていうことなんだろうな…)

 ただ、物語としての整合はさておき、筋の乱暴さに比べて、悪夢のようなディテールがやけに生々しくて、そういう面白さはありました。

☆☆☆

かがみの孤城(原恵一)

 ビジュアルの構えがファンタジー風であったからどういう物語なんだろうと思っていましたが、同監督作の『カラフル』と同じジャンルの作品だったかなと思います。人物造形や演出が実直でした。見ていて涙せずにはいられなかったし、届くべき人に届いてほしいなと思います。いい作品でした。

☆☆☆☆

※キャストを知らずに見たのだけど、クレジットをみてすごく豪華だったんだなと思いました。いい意味で派手さがなくて作品に馴染んでいましたね。特にウレシノが梶裕貴とは全く気付きませんでした。

デューン 砂の惑星 PART2(ドゥニ・ヴィルヌーヴ)

 正直、(テーマやモチーフを思うと)この時期での公開はタイミングとしてよかったような悪かったような…それはさておき、このクオリティでやり切ったのは素晴らしいと思います。圧倒的な砂漠の説得力。

 でも結構丁寧に進めるから、途中ペースが不安になってきて、まさか「もうちっとだけ続くんじゃ」とかって3部作にしないよな…と思ったらちゃんと完結したからよかった。

 兵士が断崖をふわっとスルスル反重力装置みたいなもので昇っていくシーンに(何故か)すごくSF映画を観てる!感じがしてわくわくしたのだけど、個人的にはそこが絵的には頂点だった。理由は自分にも分かりません。でも全体としてアートな画作りに腐心していてそこは素晴らしかったです。(正直いうと一瞬だけ『キャシャーン』に見えた瞬間がありました。)

 効果的だとは思ったけど、ジエディ・プライム(コロシアムのシーン)がモノクロなのはなんでだったのかな?(まさかキャシャーン?!)

 砂漠にアニャ・テイラー=ジョイが出てくるから、「後のフュリオサである」と心の中でナレーションが。

 なにーやはり3作目の構想はあるのか!匂わせてたし、原作も続きがあるからね…

☆☆☆☆

 

 

ある男(石川慶)

 射程の限界も含めて現代版『砂の器』なんだと思いました。最後あんなに辛い感じにする必要あったかな?

☆☆☆1/2

※世評の高い出演陣の演技も、どこか邦画の演出の規範どおりという印象であまり感銘を受けませんでした。

お城の人々(ジョーン・エイキン)

 ちょっと寓話的な大人の童話といった感じなのでしょうか。訳者解説にあるように濃厚な死の匂いがあるにも関わらず、ハッピーエンドが多かった印象です。正直言うと期待していたよりはちょっとパンチ不足だったのだけど、人生は生きるに足る価値がある、という作者の前向きな姿勢が根底にあるので読後の印象はすごくよかったですね。

 短編集ですが、個別の作品としては、表題作「お城の人々」と「ワトキン、コンマ」がよかったです。前者は人付き合いが苦手な医者が妖精のような存在のお姫様に救われる話、後者はたまさか幽霊屋敷に住むことになった独身女性が、思いがけず自身の欠落感に向き合い、形而上の存在と触れ合うことで救われる話で、寓話的だけど人生ってそういうものかもしれない、と思わされる瞬間が切り取られていて深みがありました。

☆☆☆1/2

羊たちの沈黙(ジョナサン・デミ)

 こういうタイプの娯楽作がアカデミー賞を獲るなんて!と当時思ったものだけど、やっぱり今に到るまで異色ではありますよね。あと公開時は面白いと思ったものの普通だなという感想だったのですが、改めて今見ると演技だけでなく、美術、衣装、撮影、細部に至るまで隙がなくて、ああこの完成度がすごかったんだなと感心しました。今更か!

・オープングクレジットの手書きみたいなフォント、意図が分からないけど珍しい感じでしたね。

・暗視カメラとか、拘束具と拘束マスク、みたいな禍々しい衣装デザインが神がかっている。

・井戸とか新聞の切り抜きみたいな意匠って、ブレードランナーの未来都市みたいに後のサイコスリラーのプロダクションデザインに呪縛に近いような影響を与えている完成度ですよね。こちらの影響についてはあまり言及されないような気がするので…(そうでもないのか?)

・プロダクションデザインといえば、レクターの刑務所とか脱出の際の無駄に手をかけた磔とか、こちらも神がかっている。(後者はよくスチール的に引用されてたような印象があります。)

アンソニー・ホプキンスはそれまでに十分な実績はあったけれど、実質この作品でブレイクした印象がありますね。

・犯人のアジトと警察の作戦のカットバック、突入したら、ジャジャーンもぬけの空でした!は今さかんに再利用されているけれど、この時点では現在ほどケレンが強くないから、ちょっとうむ?となる感じでした。

ジョディ・フォスターさすがだったなあ。

☆☆☆☆