SF短編10選

the Interviews なるサービスに登録したら「好きなSF短編を10本挙げてください」という質問が来まして。回答したら思いの外長文が書けたので、転載します。質問した方、許してください…!

基本うろ覚え。順不同。

ロバート・リード「棺」 ハヤカワ文庫『90年代SF傑作選 下』収録

90年代SF傑作選〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

90年代SF傑作選〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

ロバート・リードはサンリオで伊藤訳の長編が1冊出ているだけで、あとはぽつぽつとS-Fマガジンで短編が訳されている作家です。「棺」はしかしとても印象深く、人気があったらしく「傑作選」に収録されました。宇宙船の事故で、乗客が「ライフ・スーツ」にくるまれたまま船外に射出されます。ライフ・スーツは完全リサイクル系なので、乗客は死ぬ事もできず、栄養を与えられながら深宇宙をどこまでもいつまでも進むことになります。1000年の時が過ぎ、乗客はようやっと死を迎えますが、スーツは今度は遺体を食らうバクテリアの生命を守り始めます。もう1000年が過ぎ、ついに彼らは…という話。割とよくあるストーリー? と思われるかもしれませんが、これを短編でやってるのがキモ。私は小説でも映画でも手数重視なので、この密度にやられてしまいました。
リードは、他に「工員」「オールトの子ら」も面白かった。特に「工員」は非コミュにとってはとてもアイタタなコメディ。ちょっと2chのAAで再現して欲しいような感じ。ただし収録はないはず。

テッド・チャン「理解」 ハヤカワ文庫『あなたの人生の物語』収録

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

テッド・チャンといえば高め安定で知られた作家。どれをとっても面白いので何を選ぶか迷うのですが、あえて「理解」を選んでみました。私はこれ、チャンの渾身のギャグだと思うのですが、どうも仕掛けが分かってない人が多いみたい。ホルモン薬で超知能を身につけた2人が闘いを繰り広げます。超知能で制御が洗練されるため、身体能力も超人レベルに上がり、言語はどんどん圧縮されていき、最終的にはただ一言の「呪文」で結着がつきます。2人の視点で内面の変化が語られるため、一般には、高度なSF的思弁に軸足を置いたスタイリッシュなアクションものとして楽しまれているようです。しかし、それでは仕掛けが分かってない。これを、事情を知らない第三者の目で見ると、状況は全く違って見えてくるのです。ヒントは2人の髪が抜けた(剃った?)という描写です。この状況、客観的にはスキンヘッドがダァ!!シエリイェス!!的な聞き取り不能な怒声を発しながら小競り合いしているようにしか見えないはずなのです。つまりこの短編はパンクスが喧嘩の末、オーバードースで変死するというよくある状況をものすごくもって回った理論でSFに仕立てている一発ネタなのです。貴方の周りのDQNも、実は超知能の持ち主なのかもしれませんよ。

P.K.ディック「ウーブ身重く横たわる」 ハヤカワ文庫『アジャストメント―ディック短篇傑作選』収録

挙げないわけにはいかないが、ディックの短編はどれも同じ。さらに私は「長編なら『ザップ・ガン』と『銀河の壺直し』」とか言っちゃう所謂「ヤなディックファン」で、完成度やオリジナリティでディックを評価できないのです。短編ひとつというより、ディックの同じような短編をだらだらと受容し続ける状態が好きなんだと思う。とりあえずタイトルのかっこよさで「ウーブ」を選んでみました。ってこれ、ディックのデビュー作なのか。

コードウェイナー・スミス「クラウン・タウンの死婦人」 ハヤカワ文庫『ショイヨルという名の星』収録

シェイヨルという名の星 (ハヤカワ文庫SF―人類補完機構シリーズ)

シェイヨルという名の星 (ハヤカワ文庫SF―人類補完機構シリーズ)

最近までド・ジョーン信者だったので、長い間の信仰の記念に。口の利けるものは、犬でも猫でもロボットでもそりゃ人間でしょう。無邪気にそう思っていた時期が私にもありました。転向しましたが。彼らを人間と認めると、我々真人が障害者になってしまうことに気づいたからです。思考も遅いし身体も弱すぎる。筋論はともかく、我々は彼らを差別していくしかない。我々は彼らより劣っているんですから。

筒井康隆「チョウ」  新潮文庫『笑うな』収録

笑うな (新潮文庫)

笑うな (新潮文庫)

筒井康隆ではチョウを選びました。「時をかける少女」を除けばはじめて読んだ筒井が「笑うな」だとおもいます。中学生でした。そういう人は多いと思う。初期しか認めない原理主義者ではないし、筒井の短編にはもっと重要なものがいくつあると思うのですが、心に焼きついてしまっています。少年のペットがどんどん育って異形のものとなるモチーフや、町中に降り注ぐ鱗粉などで、一般には公害への風刺として解釈されているらしいこの作品ですが、子ども心にただただ美しいイメージに夢中になりました。最後の一文も、耽美の極みに思えます。

深堀骨「バブ熱」 ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション『アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記』収録

アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

アマチャ・ズルチャ 柴刈天神前風土記 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

日本で一番変な小説を書く男、深堀骨。この人の小説を紹介するには、まずあらすじから。「バフバフ」としか喋れなくなり死に至る謎の奇病「バフ熱」に冒された男が食用洗濯鋏開発に余生を投じる。干しイカを材料に選ぶも洗濯物にイカ臭さが残るのが悩みの種……。あっ行かないで。ほんとにこういう話なんだってば。嘘じゃない。あと別に何の寓意もないです。深堀骨はこんな話ばっかりです。同時代にここまでくだらないものが読める幸せを、現代日本人は噛みしめるべきです。
もっとも、深堀骨で一番の傑作はハヤカワ・ミステリ・コンテスト佳作受賞の言葉だと思うのです。自分がいかに松下由樹に興味がないかを延々語っている。嫌いですらない。関心がない。対象が松下由樹というのも絶妙なチョイスと思うけれど、そこでやるな(笑)。

グレッグ・ベア「鏖戦」 酒井昭伸訳 『80年代SF傑作選 下』収録

80年代SF傑作選〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

80年代SF傑作選〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

だって鏖戦ですよ。鏖ときて戦ですよ。もうかっこいいに決まってるじゃないですか。ぶっちゃけストーリーはよく覚えていません。なんか戦って、グチョグチョするんですよね、多分。どうでもいいです。文体だけあればよい。ベアの作品と言うより、酒井昭伸の最高傑作というイメージが強いです。酒井昭伸さんの名前が覚えられず、ずいぶん長いこと「酒井……えーとオウセンの人」と言ってました。普通に通じましたよ。文学としてなってないとか言われつつ、実験性の高い文体の小説は結局SFとその周辺からよく出てくる気がする。

ブルース・スターリング&ルイス・シャイナー「ミラーグラスのモーツァルト」 ハヤカワ文庫『ミラーシェード―サイバーパンク・アンソロジー』 収録

ミラーシェード―サイバーパンク・アンソロジー (ハヤカワ文庫SF)

ミラーシェード―サイバーパンク・アンソロジー (ハヤカワ文庫SF)

サイバーパンクからは「蝉の女王」と迷ったけどこちらを。「蝉の女王」は連作なので。いや人類補完機構シリーズからも選んでるけども。
サイバーパンクの盛り上がりをリアルタイムで享受した世代なので、ネット空間で黒づくめがアクションするのがサイバーパンクだとは思っていません。だって当時は「ブラッド・ミュージック」がサイバーパンクの代表作のひとつに挙げられてたんですよ? サイバーパンクにおいては、パンクがサイバーと同様に重要なのです。既存のドグマをぶっつぶす。その意味で本作には驚かされました。
昔、時間SFというと、歴史線を保つことが大原則でしたが、本作ではそのドグマをあっさり捨てます。「歴史が枝分かれする!」「それがなんなの?」パンクスだから秩序なんて気にしない。時間線が増えても構わずモーツァルトを現代に連れてきて、ロックスターにしてしまう。この「それがなんなの?」がサイバーパンクです。「身体をサイボーグ化することで人間性が失われる!」「それがなんなの?」「馬鹿が薬を盗み出したもんだから人間の体がとろけて1つの意識体に!」「それがなんなの?」チンピラの楽観主義。
今では多世界SFは珍しくないので、目新しさはないかもしれません。

飛浩隆「象られた力」 ハヤカワ文庫『象られた力 kaleidscape』 収録

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)

短編と言うより中編なのでしょうか。この本の収録作はどれもすごいけど、記号SFはなかなか希有なので。形が力を持つと言う考え方は、日本人にはなじみ深いわりになかなか小説としては出てきません。マンガ向きの題材なのかも。圧倒的な筆力があればこそ、このテーマに挑めるというもの。飛浩隆さんは去年のSF大会で「小説に大切なのはエロス」とおっしゃっていて、きゃー!! しびれるー! と思ったのを覚えています。

キジ・ジョンスン「孤船」『S-Fマガジン』2011年3月号収録

S-Fマガジン 2011年 03月号 [雑誌]

S-Fマガジン 2011年 03月号 [雑誌]

最近の話題作の中からひとつ。前評判ほどエロくなかった。エイリアンの小型救助艇に収容された女が触手エイリアンと、穴という穴を使ってファーストコンタクトするという話。触手ものというと強制的にイかされ続けるみたいなのを想像するけれど(エロマンガの読み過ぎです)、なんか微妙に具合が良くなくて、ちょっと調整してみたり、落としどころを見つけようとするあたりが、なんとも嫌な感じです。耽美に堕としてくれない。この作品、セックスと言うより結婚を暗喩しているんじゃないかと思うのですよ。付随する人間関係も、労働も、子育ても、全ての社会的側面を廃した、純粋な二人だけの結婚生活というものがあるなら、それはこういう感じなのではないかと。
リード「棺」といいこれといい、もしかしたら「狭いカプセル的なものに詰め込まれて大宇宙を漂う」という状況にコンプレックスがあるのかもしれません。
そしてまあ、言ってしまいますよね「Nice Boat.」と。

と条例カレンダーを自分のgoogleカレンダーに追加する方法

と条例カレンダーを自分のgoogleカレンダーに登録する方法を説明します*1

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これでと条例カレンダーが自分のgoogleカレンダーに追加されます。

うぐいす色推奨w

*1:別に特別な事はありません。単なるgoogle公開カレンダーの登録です。

と条例カレンダー

東京都青少年育成条例関係のイベント、議会・委員会・選挙、TVラジオ番組、関連書籍の発売日などをまとめるGoogleカレンダーを公開してみました。情報随時募集中です。
HTML
http://www.google.com/calendar/embed?src=mu59unc73pvmqk6k4kag4q39r0%40group.calendar.google.com&ctz=Asia/Tokyo
iCal
http://www.google.com/calendar/ical/mu59unc73pvmqk6k4kag4q39r0%40group.calendar.google.com/public/basic.ics
XML
http://www.google.com/calendar/feeds/mu59unc73pvmqk6k4kag4q39r0%40group.calendar.google.com/public/basic

都議会本会議傍聴記 民主酒井大史都議代表質問

12/7都議会本会議  一般質問
http://www.gikai.metro.tokyo.jp/schedule/four.html

質問1、2、7略。回答者は青少年・治安対策本部長 倉田潤

青少年健全育成について

(3)不健全図書指定について

質問
不健全図書指定は青少年健全育成審議会ご候補をあげ、業界の意見をいれた上で指定している。この審査スキームはより丁寧に行っていただきたい。作品それぞれを吟味する個別指定は業界の振興のためにも有効。今後も包括指定でなく個別指定を継続してほしい。

回答
包括指定は描写の分量のみ。またその判断は業者が自ら行う。審査が迅速だが、業者の取り組み具合によってバラつきが出る。今後も包括指定は導入しない[明言確認。ここは重要!]*1

(4)旧条例改正案の修正について

質問
旧条例改正案には「蔓延抑止」第三章の三「児童ポルノの根絶及び青少年性的視覚描写物のまん延抑止に向けた気運の醸成及び環境の整備」の条文があり、販売規制につながるという批判があった。今回の条例改正案ではこの文言が削除されたが、批判をどのように受け止めて削除に至ったか。

回答
児童が容易に閲覧することのないよう「蔓延抑止」の条文をいれたが、成人の閲覧の抑制、表現自体への抑制につながるという批判があり、それを受けて削除した。

(5)条例改正案について

質問
性交または性交類似行為を不当に賛美した図書を児童が閲覧することは避けるべき[エエエエエ!道徳を政治・行政が判断することを民主は認めるの?]表現の自由を主張する者には責任も発生するが[本当ですか?ここは憲法学者の意見をぜひ聞いてみたいところ]不健全図書に指定されるような図書を出版する業者が存在する[出版がいけないの? 都ですら建前上そうは言ってないが? 自主規制をぶっちするのがいけないんじゃないの? しかも2冊/月だよ?]。都はいかにして、条例改正の必要を感じたか。

回答
現行条例は描写の刺激度合いによって指定の基準を決めている。「刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為を不当に賛美」する図書は、必要以上に反復して描写することによって、青少年の強姦・近親相姦などへを抵抗感を弱めるものだ。しかし描写においては刺激度合いが少ないので、一般書棚で販売している。したがって、改正案で新たな基準を設けた。業界との連携は重要だが、不健全図書指定の51%が業界基準に従わないアウトサイダーが発行しているもので、自主規制だけでは無理がある*2

(6)関係業界との協力について

質問
業界は出版ゾーニング委員会を新たに設けるなど、更なる自主規制を進めると言っている。これを尊重するべきと思うが。

回答
自主規制は基本である。自主規制から漏れたものより不健全図書指定をしている。新たな自主規制も歓迎する。意見交換をきめ細やかに行っていく。

(6.5)予定にない質問

質問
国では児童ポルノ禁止法改正案で単純所持の処罰規定が論点となり廃案となっているが(「日本くらいだよ!とヤジ」)、これについてはどう考えるか

回答
所持への処罰は前回改正案にもない。今回は取り組みを求める文言に改めた。

浅野都議が一つの基準としてあげていた「個別指定を固持」が都から示されましたね。そしてそれが何の保証にもならないことは鈴木力氏が具体事例を挙げて指摘する通り。民主全体の党議がこれで決まるのか分かりませんが。うーん。今一度、条文第一に立ち返っていただきたいな。以上です。

*1:。12月6日開催のイベント「『非実在青少年規制』改メ『非実在犯罪規制』へ、都条例改正案の問題点は払拭されたのか?」において、民主浅野克彦議員が「都から個別指定を固持するという答弁を引き出せれば賛成できる」と発言している。これに対して元週刊プレイボーイ編集長鈴木力氏曰く「当局の答弁を引き出すことで抑止することは危険。小渕政権下で『卒業式・入学式における日の丸・君が代完全実施』の職務命令を公立学校に出した時『絶対に強要しない』と明言していた。しかし今、都は拒否した教員を処分している。当局は絶対に拡大解釈する」

*2:ここは言い分が食い違っている。前述イベントにおいて日本雑誌協会・編集倫理委員会委員西谷隆行氏が「アウトサイダーに対しても説明会に参加してもらっているし、そこから小口シール留め、いわゆる青シールが産まれた」と発言。また、この率は高ければ高いほどむしろいい状況であることに注意。不健全図書のうちアウトサイダー率100%なら自主規制参加団体の自主規制が完璧に機能していることになる。どのみち51%と言う数字はいかようにも解釈できる。ここは何も言っていないに等しい

都議会本会議傍聴記 民主松下玲子都議一般質問

9/29都議会本会議  一般質問
http://www.gikai.metro.tokyo.jp/schedule/third.html

松下都議の質問事項は子育て支援について、青少年健全育成について、治水行政について、道路行政についての4点ですが、ここでは青少年健全育成についてレポートします*1
※都側の回答が6点にまとめられているのに対して、松下都議の質問を6点にまとめていません。6点とまとめること自体が都側の解釈に依るものであるからです。

松下玲子都議(民主)一般質問

知事の所信表明演説において

子供たちは、インターネット上に氾濫する有害な情報や悪質な性行為を描いた漫画等を容易に手にすることができる現況にあり、これを放置すべきでないことは誰の目にも明らか
 平成22年第三回都議会定例会知事所信表明
 http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/HATSUGEN/SHOUSAI/30k9l100.htm

と述べているが、「悪質な性行為を描いた漫画等」とは具体的にはどの作品か? 「容易に手にすることができる現況」とは具体的には?
そもそも、現状が大問題であるという都民の声がどのくらい寄せられているのか?(大怒号)
(不健全図書の対策をするとしても)方法論について議論があるはずだ。都民・有識者の意見をもっと採り入れていくべき。
それとも、不健全図書が減っているとしても、自主規制がまだ足りないと言う問題か? であれば青少年健全育成審議会で指定を強化していけばいいことではないか。現行条例の運用で対応できる。区分陳列が十分でないと言うことであれば、さらに取り組めばよいことではないか。
都議会での改正案否決、パブリックコメントの反対多数、自主規制が取り組まれていることは重くみるべきでは。
条例改正案の警察での説明会があったらしいが、その会の名前と回数、概要を教えてほしい。否決議案を説明するとはどういうことか。それはオープンにやるべきではないのか[超びっくり。初耳だったのは私だけでしょうか。これはとんでもないことです!]
改正案を再度提出するなら、(一度否決されているのだから)青少協のメンバーを刷新するべきでは。答申作成からやり直すべき。専門家の意見も真っ向対決しているのだし。
子供の健全な育成と芸術文化は対立させるものではない。
改正案については、0歳から18歳がひとくくりの扱いになっていることも違和感を覚える。出版業界ではさらに細かい年齢別レーティングも検討している。

都職員[所属聞き損ないました]むらたじゅん氏倉田潤青少年・治安対策本部長の回答*2

6点回答する。

知事初心表明演説について

青少年の性交類似行為を不当に賛美し又は誇張するように描写した作品だ[具体的にと言うとろーが。回答の替わりに改正案丸読みすることが多々あるが、これはなんとかならないのだろうか]。その中でも不健全図書に該当しないものが一般書棚に置いてある。これは都職員が都内書店に行って確認している。

現状が問題だとする都民の声について

都民からメンバーを集め答申を作成している。これを重く受け止めている。
実際のマンガ作品を見た都民は一様にこのようなものを子供に見せてはいけないと言う意見だ[見せたマンガが不健全図書指定のものか、不健全図書指定されていないものかについては不明]。このようなものの規制を求める署名が4万4千集まっている。青少協へも意見がきている[数字あり]

現行条例の運用で対応できるのではないかという件について

現行条例は「刺激度合い」が基準である。少年に対する強姦や、合意があっても近親相姦など、反社会的だが描写の刺激度合いの低いものに対応できない。[ここは大事! 口が滑ったのだと思われますが、はじめて「反社会的」という単語が出ました。この改正が青少年のためでもなんでもなく、治安条例なんだということ、語るに落ちている]

警察での説明会について

家庭や地域の教育が大事と言われる。よくわかっている。であるので、問題になっているマンガの現物をもって説明する会をしている。その賄改正案についてふれることもあるだろう。警察署においてやっている。会の統一した名前はない。[反対派が家庭や地域での教育が大事といっているのは官憲の介入を許さないと言う意味なのですが、みごとに都合よく真反対に解釈されました。家庭が大事だから、家庭に対して警察の方から勝手な倫理感に基づいて説明会をしているそうです。その根拠になるべき条例改正案は否決されたのにも関わらず、です]

青少協のメンバー刷新について

答申ベースで改正案を作った。都議会において参考人も招致した。このような経緯でやっているので、青少協の再度諮問は考えていない。[だからーそれは6月否決分の改正案の話で、それが否決されたからメンバー選定からひっくり返せと言う話なのだが]

レーティングがひとくくりであることについて

業界との意見交換もやっている。



15分の一般質問ですが、行政が先走り、警察において勝手に改正案の案内を市民向けにやっていること、結局取り締まりたいのは「反社会的」な創作物であることが明確になったショッキングな都議会でした。以上です。

*1:子育て支援青少年健全育成条例改正反対が、松下都議の中では両立しているということは注目するべきところです

*2:指摘により修正

都議会総務委員会傍聴記3ー4 参考人前田雅英氏の意見聴取

5/18都議会総務委員会。

付託議案審査(参考人からの意見聴取)


参考人意見聴取のうち、前田雅英(第28期青少協専門部会長 / 首都大学東京法科大学院教授)の分をまとめます。今回もあくまで不健全図書、インターネット(ケータイ)フィルタリング、ジュニアアイドル誌規制の3本柱についての議題です。ただしこの質疑においてはインターネット、ジュニアアイドルについては意見なし。
[]内は私の感想・補足。

参考人プレゼンテーション

(都職員に会釈、親しそうな感じ。都職員は中腰になって会釈。立っちゃいけない場面で偉い人にあったとき挨拶するあの感じです。)


なぜ世論に誤解が生じたのか?これだけ議論が出るとは意外だった。他にも明確でない法案はあって、すべて通っているのに[ちょっとちょっと!]。規制という言葉が議論を呼んだのか。区分陳列のみなのに。規制VS表現の自由の歴史においては、最高裁判決で、「表現は家庭ににおいて誰でも見られるものでなければならない」という判例が出ている。それでは厳しすぎるだろうということで都ではむしろ緩和している。欧米では子供が見られる表現物は(全体の中で)かなり少ない。


青少協にPTAから「こんなマンガを書店に置いておくのはおぞましいんだ」という声がきている。パブコメも参考にした。その中には大人も読めなくしてほしいという声もあったが、青少年保護育成条例ということでそれは入れなかった。


都民は改正案に本当に反対しているのか。子供の手の届かないところに置いてくださいというだけのことなのだが。
「グレーゾーンはどうするのか」と言う作り手の声は分かるが。「ゾーニングしたら売り上げが減る」?それは否定できない[前者はともかく後者で規制に反対している人いましたっけ?]。まあ都がこの程度のゾーニングだったらいいだろうということでやっている。
非存在青少年について。日本語として違和感がある。いい言葉があれば変えていきたいが、他の条文でも難しい言葉は多々ある。法文はそういうもの。そう変とも思わない。
科学的知見については、刑罰のための条文ではないので、立法事実は必要ない。他の法律や死刑制度にだって根拠はない。


規制しない場合、被害が起こったら誰が責任を取るのか。
どこの国でも幼児が性的快感を得ているようなマンガは悪とされている。

浅野克彦委員(民主)の質疑

浅野:誤解は漫画家の記者会見が大きかったと思うが、事前に漫画家から意見を聞いたのか[誤解になっちゃったのかー、浅野さんトーンダウンしちゃったな]
前田:おっしゃる通り(漫画家の記者会見が大きかった)。出版倫理関係を出版の代表者として扱っていた。その時点ではマンガが改正の中心となる予定ではなかった。


浅野:進め方が悪かったということか。また、児ポ法との関わりについてうかがいたい
前田:低年齢のものに対してもやっていかなくちゃならない。それだけ。[ちょっと流れが読めていません…]


浅野:第七条

二 年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交又は性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

に「青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」とあるが、逆に望ましいものとは?
前田:誤った男女観がないもの[誤った…それを行政が定義するわけですか]、幼児の性愛がないものだ。有識者が集まって議論した。


浅野:例えば「女子高生のコブプレをした熟女」(のマンガキャラクター)は規制対象に入るかと聞いたら、入らないということだった。非常にわかりづらい。都知事

【記者】今のに関連しまして、知事もちょっとわかりにくい表現があるということをおっしゃいましたけれども、そういった表現を若干修正してというこ とは、検討されてないということですか。
【知事】そうですね。修正したらいいですよ。誤解を受けるような、訳の分からない、「非実在青少年」なんて、誰がどう解釈しても、幽霊の話かと思っ ちゃう、本当に。描かれたものっていうことなのだから、そういうふうにそれを書けばいいんだよ。
【記者】それは、前の一定で出したのをそのまま、二定でも検討するのではなくて、都側もそういった文言を若干修正して。
【知事】そうです、どんどん変えたらよろしいと思う。誤解を受けているのだったら、誤解解くために、文言が悪いのだから、文言を修正したらいいじゃ ないですか。特に役人がつくる言葉なんていうのは、くだらない、常套語(じょうとうご)があって、世間に通用しないこといっぱいある。僕なんか読んでて分 からない。「これ、どういう意味?」ってよく聞くんだ。はい。

石原知事定例記者会見 平成22(2010)年5月7日(金)

ということで、「分かりづらかったら条文を変えればいい」と言っている。条文を変える計画はあるか?
前田:条文作成に私は関与していないが、必要ないと考える。運用に際してのガイドラインは必要だ。

田中たけし副委員長(自民)の質疑

田中:誤解にもとづく反対があったが今は理解されている[反対意見はもう存在しないそうです]条例の本質でない一部とか、限定的な状況、あり得ない状況についてあげつらう木を見て森を見ない議論がある。本質をゆがめ、恣意的に運用するような余地はあるのか。
前田:法律はどんなに厳格に作っても悪用されるものだ。他のものに比べて不明確かというとそうでもない。ここで議論されたことはガイドラインに反映していけばいいのであって、無駄ではなかったとは思う


田中:「非実在青少年」という言葉も今や多くの人が理解できる文言となった。今回の議論で多くの人に発信できたのではないか[いや言葉の意味を把握したのと賛成するのと違いますから。それは「理解」という言葉の都合いい解釈]
前田:分かりづらい表現と漫画家へのリサーチ不足については申し訳なかった。しかしここまできて改正案を止めるのかという都民の声がある[どこに?]


田中:改正案は抑止力になるという赤枝氏のお話があった。審議が遅れる、あるいは廃案になった場合のダメージは?
前田:急に大きなダメージということはないと思う。が、ゾーニングのみだということで都民の大方の同意は得られている以上、文言レベルのことでモメて遅れることは、都民からの信頼に影響が出る。そちらのほうが問題だ。

小林健二委員(公明)の質疑

小林:なぜ誤解が生じたのか。条文が難しすぎる。宮台氏によると「法律は条文がすべて」とのことだ。誤解の生じる可能性のある条文についてどうお考えか
前田:法律の専門家から言うと、解釈の余地のない法律を作ることは不可能。解釈の余地のない法律は素人の考えだ。でないと法解釈で食っている私のような者がいる説明がつかない。解釈が国民[都民?]の同意・常識から乖離しないようにガイドラインを作る必要はある。条文でがんじがらめにして何年も運用できるものではない。解釈を重ね、違憲審査も入れながら動体[動態?]としてまわしていくのが法律。その際メディアからのチェックも大切。


吉田信夫理事(共産)の質疑

吉田:規制の曖昧さはあるのか?「みだりに」「肯定的」は曖昧か?曖昧でないか?曖昧であっても刑罰規定でないので問題ないのか?第七条二 自粛しなければならなくなるのかどうか、これは大きい。
前田:淫行処罰の曖昧さでも合憲とされている。そのバランスを考えると、文言は多少曖昧かもしれないが、法的には明確だ。
作家については描いてはいけないとは言っていない


吉田:理解できない。そうならば「みだりに」「肯定的」かどうかはどう区別するのか。あくまでも刑罰でなく区分のみと言うことだが、心理的影響についてのお考えは?
第九条二は版元へのペナルティという新たな領域に踏み込んでいるが?
前田:漫画家に対しては反省している。「こういうものは子供に見せられない」という思いのみで動いてしまって、制作の苦労に思い至らなかった[これは嘘であることが分かっています。第28期東京都青少年問題協議会第8回専門部会において前田氏自身が「これは漫画家集団の虎のしっぽを踏む行為ですから、これは大変慎重にやらないといけない。」と言っている。http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/09_singi/28b8giji.pdf ]
「みだりに」と「肯定的」と言う言葉が区別できないということだが、法律の世界はみんなそう。例えば「故なく」と言う言葉など。具体例で決めていくしかない。髪を1本抜いたら無罪だが、10、000本抜いたら傷害罪だ。では888本だったら?
(吉田理事苦笑「そういう意味で聞いたんじゃない」)基準は具体例をだんだん積み上げていくしかない。[九条についての回答なし。吉田理事の癖で、複数の質問をまとめてするのだが、回答側は都合の悪い質問に答えないことができる]


吉田:立法事実の件。学問的知見すなわち立法事実とまでは言えないと思うが、七条についての立法事実はあるのか、ないのか、必要ないのか
前田:立法事実って…(苦笑)。「立法せざるを得ない社会的事実があるかどうか」が正しい。青少協答申では立法をしたわけではないので。しかし、父母からの「こういうのはまずいんじゃないですか」という声が出た。これをもって立法事実とできるだろう。


西崎光子委員(生活者ネットワーク)の質疑

西崎:「効果が分かっていてやる条例はない」とのことだが、では何の意味があるのか。
前田:死刑で犯罪が抑止できると証明されていない。しかし死刑は存在している。[じっさい諸外国から批判されてんじゃん]効果が具体的科学的に証明されなければ立法できないということではない[だから好き勝手に立法してよいともとれるぞ、それは]


西崎:都民感覚から離れたところで立法されるべきではない。一度立法されれば必ず一人歩きする。ハブコメ←反対多数、PTA←意見を聞いていない。私たちも聞いていない。ボトムアップで希望があったのか。
前田:青少協の委員には都議会議員も入っているんですよ? 選挙で選ばれた都の代表だ。[開き直りだがまあ正論。都民のチェック不足は反省せねば]裁判員裁判も導入されたことだし、法文がどうのこうのだけですまなくなってきている。国民の常識が大事という気運[その常識に根拠がないという質問だが]。ただ今回話し合いが足りなかったのは事実で、反省したい。


西崎:児童ポルノ関係盛り込みについては。都のみの問題ではないので、国の議論を待つべきでは。
前田:児童ポルノ盛り込み?そんな条文はない。児ポ法と勘違いしているのでは?本状例ではゾーニングにとどめる、押さえた条文になっている。[ここ多分、西崎委員が単純所持のことを言いたかったのを言い間違えたのではないか。]


西崎:上から目線で悪い者を取り除いていこうという条文で、これは治安条例。どのように子供を救済していくのかという条文がない。
前田:子供目線というのは実際には難しい。子供を守る目線ということで、父兄の意見を入れた。


民主浅野委員はぐっとトーンダウン。失望しました。本当に都民の意見を入れたのかという質問はいくつかあったが、のらりくらりと逃げられた印象です。以上です。

都議会総務委員会傍聴記3ー3 参考人田中隆氏の意見聴取

5/18都議会総務委員会。

付託議案審査(参考人からの意見聴取)

青少年・治安対策本部


参考人意見聴取のうち、田中隆弁護士の分をまとめます。今回もあくまで不健全図書、インターネット(ケータイ)フィルタリング、ジュニアアイドル誌規制の3本柱についての議題です。ここでは不健全図書についての話題のみピックアップしています。ただしこの質疑においてはジュニアアイドルについては意見なし。
[]内は私の感想・補足。

参考人プレゼンテーション[順序をいじっています]

改正案は、青少年保護に児童ポルノという別概念を持ち込んだ。児童ポルノは読み手が青少年か青年かに関係なく一律禁止するべきもの。不健全図書は読み手の青少年のための規制。木に竹を接いだような改正案だ。


二つの異なる問題が交錯している。児童ポルノ所持規制と、非存在青少年規制だ。
非存在青少年に関しては、人権主体でないものを規制案に持ち込むことはかえって人権保護の理念がぶれることにもなりかねない[そうそう。現実にポルノに出演させられた被害者の子どもとフィクションのキャラクターを混同するのって、前者に対してあまりに非道ではないですか?彼らの受けた被害はそんなに軽いことですか?]。この件は都でなく国会で議論するべき問題だ。


性的表現物が青少年の性的非行につながるおそれ、性的表現物が青少年の性的判断能力の成長につながるおそれ、どちらも学問的根拠はない。学問的知見がない以上、特定の図書が青少年の健全な育成を阻害するというのは当局がそう考えているにすぎない。立法事実がない。[聞き慣れない言葉ですが、後で説明されます]したがって恣意的運用につながるのは当たり前である。質問回答集はやっきになっている。


年齢区分を非存在青少年に持ち込む件、質問回答集

3
18歳未満に見えるキャラクターが出てくる漫画やアニメは、全て見られなくなるのですか?
いいえ、そのようなことはありません。
まず、条例改正案の「非実在青少年」は、漫画などにおいて、年齢や学年についての明確な描写や台詞、ナレーションにより、明らかに「18歳未満」と設定されているキャラクターに限定されます。
見た目が幼く見えたり、声が幼く聞こえたりするキャラクターで あっても、「18歳以上」であると明確に設定されていたり、年齢や学年が不明であったりするものは、この「非実在青少年」に当たりません。
さらに、子供が見たり買ったりしないよう、成人コーナーでの 販売を求めるのは、「18歳未満」と設定されているキャラクター (「非実在青少年」)が、「性交又は性交類似行為」をしていることが 明確に描写されているもののうち、子供にとって特に悪質なものに 限定されます(問4、問6を参照して下さい)。
したがって、「18歳未満のキャラクターが出てくる漫画などが全て見られなくなる」ようなことはありません。

青少年の健全な育成に関する条例改正案 質問回答集
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2010/04/20k4q500.htm 

の通りなら実効性がない。


第九条三

2 知事は、図書類発行業者であつて、その発行する図書類が第八条第一項第一号又は第二号の規定による指定(以下、この条において「不健全指定」という。)を受けた日から起算して過去一年間にこの項の規定による勧告を受けていない場合にあつては当該過去一年間に、過去一年間にこの項の規定による勧告を受けている場合にあつては当該勧告を受けた日(当該勧告を受けた日が二以上あるときは、最後に当該勧告を受けた日)の翌日までの間に不健全指定を六回受けたもの又はその属する自主規制団体に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
3 知事は、前項の勧告を受けた図書類発行業者の発行する図書類が、同項の勧告を行つた日の翌日から起算して六月以内に不健全指定を受けた場合は、その旨を公表することができる。

は出版社に対してペナルティを課している。出版の自由への介入になりかねない。


現行条例は具体的な規制であったのに改正案は規制の要件が抽象的になっている。
今までも、各団体から規制強化の声があった。表現の自由に鑑みて、それに対抗してきた歴史がある。これは東京都の誇りではないか。


青少年にも人権があり、表現にアクセスする権利がある。規制は最小限にとどめるべき。また、不健全図書を発行する権利もある。18歳未満のキャラクターが登場するエロマンガが存在するのは女性の結婚年齢が16歳なのだから当然である。

上野委員[この方がどなたか分かりませんでした。総務委員会には上野さんという委員はいないはず。公明上野和彦さんかな?]の質疑

上野:表現の自由の侵害について。憲法12条

第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民 の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

日本国憲法第3章 国民の権利及び義務

にもあるのだが、青少年の健全育成が「公共の福祉」に当たるなら12条ベースで議論できるのでは[12条持ち出してきた!ここはとても重要だと思います!]
田中:人権がどのように侵害されるのかは人格による。[?]本件は具体的事実なく、性的成長が阻害されるのではないかという憶測にもとづく過度な制約である。


上野:科学的根拠がないとはいえ、親からの「声なき声」もある。[公共の福祉!声なき声!ファシズムキターー]曖昧な文言を排するまで規制できないのかと言う葛藤もある。どうすれば理解を得られるのか。(参加者全員「ちょw田中弁護士は廃案派なんだからさー」という雰囲気に)いや分かってるんですけど(苦笑)なんとか……
田中:今まで、親からの声に対して都は抵抗してきた。図書が性的成長を左右するという考えこそを変えていかねばならない。また仮に、100万人のうち99万9999人がいかがわしいと言ったとしても、表現規制に関してのみは、特に、法的に議論ければならない。


上野:「家庭で教育しろ」論について。家庭教育への行政の介入だと言われている。しかし一方、児童虐待に関しては行政で関わっていけという世論だ。どう考えるべきか。
田中:家庭の解決力に依拠できない場合というのは児童の生存に関わるレベルのこと。有害図書問題とは程度が違いすぎる。児童虐待に関してすら、過度の介入は家庭に亀裂を生むことが分かっている。


上野:「子どもを支配する」改正案だとおっしゃるが、現行条例についてもそう思っていらっしゃるか
田中:90年代までは「青少年も人権を持った自主的な主体である」という理念でやってきた。最近そうではなくなってきている。淫行処罰規定[青少年の淫行について青少年への処罰を盛り込む規定。東京都と長野県にはない。]には反対したが、97年の改正で青少年の人権侵害規定が入った。夜間外出禁止、故物売買禁止などだ。図書についてはこれまでなんとか保ってきたが……


上野:改正案は限定的な規制で、表現規制ではないのだが、表現規制だとする根拠は?
田中:第九条三。表現の自由は出版物に正しくアクセスできることを含んでいる。「買い手もいいけど配っちゃダメ」では事実上の規制。また、青少年ー3歳とかは問題にしないとしてーはアクセスする権利主体ではないのか? 彼らのアクセス権に関して、きわめて限定した遮断であるべき。だが改正案では範囲が広範になってしまった。


上野:岐阜県の例で「厳密な科学的証明がなければ違憲であるとは言えない」という判例がある。多くの人は子どもが強姦される図書を子どもに与えたくない。科学的根拠が出るまで、何の策もとってはならないのか。判断保留でいいのか。
田中:岐阜の例は改正案のような広範な規制でない。現行条例は岐阜の例をひいて議論してよいだろうが改正案は比較にならない。「多くの人が」と言うが「多くの人が与えたくない」と「多くの人が思えば法で規制してよい」とには距離がある。

松あきら理事(公明)の質疑

大松:児童ポルノの現状と対策についてご意見うかがいたい
田中:児童ポルノは規制しなければならない。ただし、虐待の事実を精査する必要はある。
児童ポルノ関係は人権立法。条例が人権立法だとすれば、非存在青少年関連の条文は容認できない、人格を持つもの持たないものをごっちゃにすることは人権立法としておかしい。しかし一方「性欲感情を刺激する図書」とは読み手のことで、被害者は関係ないでしょう。こちらをとるなら改正案は治安立法化している。第十六条二は私生活に対する重大な介入である。また外国の例でも実効性がない。単純所持規制で単純所持は減らないし、単純所持規制で性犯罪は減らない。


大松:インターネットに流れれば、被害者は一生の傷を受ける。アグネス・チャンさんも「本当に被害者の子供たちは、今まで撮られたものは全部消してほしいんです。だれかが持っているというのを思うだけで、本当に毎日レイプされているというような気持ちになってしまうんですね。」とのこと。こうした思いから入れているのだが……。「児童ポルノの定義が不明確である」という批判が「児童ポルノ禁止」への批判に置き換わってはならない。[誰もそんなこと言ってない]。第十六条は努力目標。「まん延抑止に向けた気運の醸成」で何か問題が生じるのか
田中:児ポ法の実績は認めている。逆に、単純所持禁止なしでもここまでできている。児童ポルノは地域性を持たない[大松理事自身が言ってんじゃんね]東京だろうが他の地域だろうが同じ。そして国会で議論されているときに都条例にいれることではない。努力目標で何か被害が出るかと言えば出ないかもしれないが、効力もないだろう

吉田信夫理事(共産)の質疑

吉田:青少年の健全な育成に対して、行政はどのように関わっていくべきなのか
田中:青少年保護育成条例制定の昭和39年当時にも反対運動はあった。「アンチ悪書追放運動」だ。それに対し、青少年の立場に立った条例であって、青少年への規制じゃないんだということで対応してきた。17期青少協にて、淫行処罰を求められたが、青少年の自己決定権をもとにした条文になった。これは子どもの権利条約採択以前のこと。22期、青少年からの聞き取りをもとに、淫行処罰でなく買春禁止にもっていった。26期、不健全図書指定を包括でなく個別指定とし、書店への警察官立ち入りを採択しなかった。成人年齢も18歳に改正になるこの大きな流れの中で、条例の持っていた先進性を継承していくべき


吉田:「立法事実」という言葉について詳しくおうかがいしたい
田中:法は権利、自由を規制する以上「こんな事実があるから規制する」という根拠が必要。それを立法事実という。現行条例では、それぞれの規制対象に、危険性・非行誘発性の蓋然性を絞りこんでいった。今回具体的にそれが示されない以上、科学的知見を立法事実とするしかないがそれもない。


吉田:表現の萎縮について詳しくおうかがいしたい
田中:質問回答集8で言うのは自由だが、

条例の「自主規制」は、子供の健全な育成を阻害するおそれのあ る図書類を「子供へ売ることのないよう」、図書類の発行や販売に関 係する事業者(出版社、書店など)に、自主的な努力をお願いする ことです。
具体的には、該当する図書類について、表紙に「成年コミック」 などの表示をした上で、いわゆる「成人コーナー」など、一般の誰 でも見られる書棚とは区分された場所に置き、子供が買うことのな いように努力していただくものです。
漫画家の方に、「そのような作品を描かないように自主規制する」 ことを求めるものではありません。そのような作品を描くこと、出 版すること、18歳以上の方に売ることは、全く規制されません。

青少年の健全な育成に関する条例改正案質問回答集
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2010/04/20k4q500.htm

第九条三に出版社へのペナルティ規定がある。構成要件が不明かつ立法事実もないとすれば、描き手に判然としない、抽象的なおそれを誘発する。自粛・混乱が起こるだろう。現実に権力行使の件数がわずかでも、どこまで規制されるのか分からないのでは表現を慎むようになる。

西崎光子委員(生活者ネットワーク)の質疑

西崎:宮台氏が質問回答集は無意味だとおっしゃっていたが、法で争った場合[裁判?]効力を持つのか
田中:法律家から見ると悩ましい問題だ。自主規制は業界が行う。不健全図書指定は青少年健全育成審議会が行うのであって、つまり規制をするのは都ではない。この際審議会は質問回答集の解釈に拘束されるのか? 拘束されるとすれば審議会に付託する意味があるのか? 逆に質問回答集に反したひどい規制を審議会がやった場合、質問回答集を根拠に訴えて勝てるか? どのみち無意味。


西崎:この条例が治安条例の色を帯びてきているとのこと。子どもの権利条例が必要では
田中:あくまで子どもの権利主体性から考えるべき。この条例も本来はそうだったはず。この5、6年の改正はそれにとどまらず「青少年はほっとくと何をしでかすか分からない」というもの。子どもの権利の基本条例のようなものがいるかも。


田中弁護士は版元へのペナルティと言う新たな論点からの表現規制批判を持ち込んだと思います。本条例が治安条例に、また青少年保護育成でなく青少年「へ」の規制に変容しつつあるという指摘も納得できるものでした。
生ネ西崎委員は会を追うごとに切れ味鋭くなっている印象です。ただ子どもの問題につて包括的に考えているのでどちらに転ぶかはちょっと想像つかない。以上です。