名探偵コナン「あの方」について―阿笠博士は本当に黒幕か―補論

とりあえず他の黒幕候補を検討してみることにする。

◎代表:工藤優作

工藤優作の個人的要素について検討することはしない。ここは工藤優作に代表させて、黒幕候補として上げられることが多い人物をばっさりと消去する方法をとる。
まず、作者の新聞でのインタビューを見てみよう。前の記事で引用したとおりであるが、最後にこう言っている。
実はボスの名前は既に原作のどこかにでている。捜してみて下さい。…」
「どこかにでている」という言い方には、原作の中の微細な“どこか”、つまりなかなか目に付かない部分に登場しているというニュアンスがありはしないか。もし、工藤優作、あるいは阿笠博士ベルモット…などなど原作にメインとしてある程度認知されている登場人物がボスだとしたら、このような「どこかにでている」という言い方を作者はわざわざしないのではないかと思う。そして究め付けに「捜してみてください」と続く。すなわち、わざわざ捜さなければならない程度の登場数ということだろう。
とすると、有名どころはすべて候補から除外されることになる(強引か?)。阿笠博士のわけはないし、毛利蘭でも、灰原でもないはず。新一の両親や警察関係の人間、FBI等々、検討されている「あの方」候補らは、はっきり言って考察しなくてよいだろう。
そうするとますます阿笠定子あたりが怪しくなってくるのである。

名探偵コナン「あの方」について―阿笠博士は本当に黒幕か― part1

突然だが名探偵コナンの黒幕、「あの方」について予想してみよう(何で今頃…)。詳しいまとめはこちらでご確認を。とりあえずここでは「あの方」=阿笠博士説に異を唱えてみる。

1、「カクテル」からの推理

(1)アガサ・カクテル

実は作者がいろいろとヒントを言っているらしい。例えばリンクしたサイトによると、

2006年1月13日(金)朝日新聞夕刊の記事「アニメ・原作いい刺激」

「推理ものはアニメに不向き自分が思っていた。ここまで盛り上がったのはスタッフの頑張りのおかげ…自分がさらっと描いた原作がアニメで、凝った絵とメリハリのきいた演出でいい作品になっていると、『俺も頑張らなきゃ』と刺激になる。逆に、力を入れて描いた話なのになあ、と思う回もあったりしますが…いま何合目に当たるのかは秘密です。実はボスの名前は既に原作のどこかにでている。捜してみて下さい。…」

作者の挙げるポイントは大きく言って二つ。

  1. ボスの名前は原作のどこかにでている
  2. 黒ずくめの組織の名前をいうとボスの名前がバレる

この線から、ネットでの考察は阿笠博士説が有力となっているようだ。根拠はいろいろ挙げられているが、原作の中でのつじつまの合わない部分が主な証拠として考えられている。しかし、それだけでは薄いのではないか?読者が好意的に解釈すべきだけかもしれない。ここでは、原作の中で重要なキーポイントとなっている「カクテル」の観点から推理してみよう。
黒ずくめの組織のメンバーがお酒の名前をコードネームにしているのは自明だが、おそらく『コナン』の中では、お酒といってもカクテルこそが重要な視点になる。作者がカクテルの周辺知識からネタを搾り出していると思われるからだ。組織をつぶす弾丸とされる「シルバーブレッド」(ジンベースで作られる!)もカクテルであるし、またカクテルを援用したレトリックをネタとして用いた箇所がいくつもある。
そう考えてみると実は、アガサ・カクテル=Aunt Agathaというカクテルが存在していることに気づく。この名前から阿笠博士を黒幕に据える説が多く、「あの方」=阿笠博士説の根拠にされている。
けれども、このカクテルの正式名称は「Aunt Agatha」、「アガサおばさん」であることに注意しよう。阿笠博士自身に直接つながるとは考えにくくないだろうか。当たっているのはアガサの部分だけである。
ここは単純に意味から行くことにしよう。「アガサおばさん」である。阿笠博士の伯母さんなどでてきていただろうか。
実は、阿笠博士の伯母は原作で一度だけ出てきているのだ。12巻の『博士の宝箱』という事件。コナンら少年探偵団が阿笠博士と共にある洋館に宝探しに行く。その洋館が阿笠博士の伯父阿笠栗介の別荘であった。そこで起きた事件は置いておいていいが、この話にいろいろとヒントが隠されているようである。
阿笠栗介とは、大富豪で小さい頃から病弱、38歳で他界したとされる。他界する一年前までその別荘で暮らしていた。その面倒を見ていたのが栗介の妹、定子である。定子は人間嫌いの伯父=栗介が受け入れた唯一の人間で、小学校の教師をやっていた。栗介の死後、実家に戻って独身で暮らし、76歳で亡くなったとされる。

(2)女性という盲点

「あの方」はそもそも男なのか女なのか?原作で明言されてたかよく覚えていない(されてなかったような)。けれど女だったらどうか。ここでは黒幕を阿笠定子と決め付けてみよう。定子あるいは栗介。
栗介は50年前に巨額の富をどこかに隠し、「自分が20年も住んだこの別荘は、死後50年間そっとしておいてくれ」と遺言を残して死んだとされる。ちょっと怪しい。「組織が半世紀前から極秘で進めているプロジェクト」(灰原)を考えるとこの「50年」というスパンが引っかかる。それに12巻のみでさらりと一度だけ出てくるという、この物語への接触率の低さからして密かな伏線のような気がする。
ちなみに、この二人の名前、栗介と定子の由来はアガサクリスティーだろう。栗介=クリス、定子=ティー。単なるダジャレにでもあるだろうが、実はアガサ・カクテルの由来は「推理小説の女王アガサ・クリスティの死去に対する鎮魂カクテルとして、アメリカのカクテルブックに記載されている」(ウィキ)という。ますますこの二人に何か含みを持たせているような気がするのである。「鎮魂」というのがあやしい。
作者のヒントである「黒ずくめの組織の名前をいうとボスの名前がバレる」というのはもしかするとアガサクリスティーと関係があるのかもしれない。

(3)まとめ

阿笠博士はボスではない。反証としては、組織がかつて工藤家にガサ入れしたという事実(確か18巻)が意味を持たなくなることが挙げられる。博士がボスだとすると、工藤新一についてはすべて知っているので、組織が工藤家を調べる必要はなくなるだろう。
作者による「ボスの名前は原作のどこかに出ている」という言い方を考えれば、物語への接触率が低い、つまり登場回数の低い人物が妥当である。さらに、カクテルの正式名称から純粋にたどれば、阿笠定子がちょうどあてはまる。死んだ人物として登場しているところも、伏線としてふさわしい。作者が挙げた二つのポイントについては、阿笠定子説で満たすことができると思う。

つづく…