魔法科高校の劣等生 26 イノベーション編

 ネタバレあり。
 USNAスターズの叛乱騒ぎでリーナが日本に逃れた。リーナを逃がした時にリーナの脱出を支援した者と叛乱者たち(パラサイトや偽情報に踊らされている人々)のスターズ同士での戦闘があった。どうやらスターズのウォーカー基地司令はパラサイトに思考誘導されて、叛乱者サイド側に与同していたらしく、カノープス少佐らリーナ側の人々が禁固刑に処されることになる。
 パラサイト化した九島光宣の件では、水波のもとにくるだろう彼を捕らえるために十師族の七草や十文字家が人員を出している。そして再び水波のいる病院へきた光宣と戦闘になる。光宣はなるべく相手を重傷を負わせないように気遣いしながらの戦闘で、それでも七草姉妹は退けるものの、後からきた十文字は光宣にとって達也よりも相性の悪い相手ということもあって撤退した。そして光宣は自分一人ではその守りを突破できないと感じる。
 一方で現在四葉がかくまうリーナについては、スターズはリーナに向けて処刑チームを出動させていた。その処刑チームのレグルスに加えてレイモンド・クラークの二体のパラサイトが日本にくる。来日早々にテレパシーを使ってしまったことで追われることになったが九島光宣が彼らを助ける。そうして光宣は彼らと合流し、彼らを匿い協力関係となる。
 シリウス少佐(リーナ)の行方をつきとめる捜索協力と引き換えに、光宣が水波を連れ出すために、達也を別の場所に話しておいてくれという陽動を依頼。しかし達也のことをきいた、レイモンドがヒステリックな調子でそれなら倒してしまうべきだ、そうでなければ追いかけてくると主張。
 パラサイトは同じ意思を共有する意思の一体化が起こる。それもあってレグルスが達也を抹殺しなければという考えを持つようになったし、逆にレイモンドは「マテリアル・バースト」を排除すべき脅威と認識するスターズ隊員の意思に影響されて達也を屈服させるから抹殺されるに考えを持つようになった。『このようにパラサイトの意志は混じり合うものだ。最も強い「願い」を抱いている個体がパラサイトの集合的意識のイニシアティブをとるのは確かだが、それは一つの個体の意志がほかの個体を支配するということではない。』(P216)
 USNA側の二人はテレパシーで意思を共有しようとする。それで彼らの意思を通そうとしたが光宣の意思が勝ち、まず水波を連れてくることを第一にさせることには成功した。しかしこのテレパシーによる意思の共有によって達也はその後で処理しようと考えるようになる。そのように光宣は主導権を握ったものの、 USNA組の意思による影響も受けて、彼の意思も知らぬ間に変質した。
 大亜連合と新ソビエトが戦争状態に突入など、世界情勢も動く。そうした大きな動きを見ると、あとがきに『本シリーズも、本当に完結が見えてまいりました。』(P310)とあるし、物語もいよいよ佳境かと感じる。
 そうした情勢の変化を受けて達也は風間に呼ばれ基地に行き、テレパシーを使う密入国者の存在だったり、ベゾブラゾフの現状についての直接(遠距離ではあるが)魔法合戦で対峙した達也の推察を101大隊に教える。
 達也は東道青葉との約束もあって国防協力はいずれにしてもするのだが、風間に借りを作ったと思わせた。そうしたちょっとしたしかえしに思わずちょっと笑みが浮かぶ。
 旧第九研に封印されているパラサイトドールの奪取を狙った光宣は、旧第九研を襲撃。そこで光宣と祖父九島烈と戦うことになり、せめて自分の手でと光宣を殺そうとした祖父に『光宣の人間の心は、それを受け容れようとした。/だが彼のパラサイトとしての精神が、滅びを拒んだ。』(P281)その結果心ならずも愛する祖父を殺してしまい、心の器がひび割れる。これで引き返せない一線を超えてしまった感のある光宣。前巻までは何とか、戻れるのではないかという期待も少ししていたが、ここから戻るのは期待薄になってしまった。
 達也はリーナ処刑のために座間基地に降り立とうとしたパラサイトたちを強襲。今回の作戦にはレオと幹比古に協力してもらい、幹比古にパラサイトを封印してもらい退却。しかし別口で日本に来た三人のスターズ隊員がいることが示されて終わる。

百姓の力

百姓の力 江戸時代から見える日本 (角川ソフィア文庫)

百姓の力 江戸時代から見える日本 (角川ソフィア文庫)

 kindleで読む。
 江戸時代の村や百姓についての様々なことが書かれている。
 ○走り(欠落)から訴へ
 戦国時代から17世紀前半に走り百姓が頻出した。『「走り」とは単なる流浪ではなく、縁者や知り合いから走り先の情報を得たうえで、落ち着き先にある程度の目途を立てて行う移住行為でした。当時はどこの村でも耕地開発や荒れ地の再開発のための労働力を必要としていたので、村も大名もこぞって優遇策を用意し、他所者を承知したのです。
 こうなると、走り者の発生によって生じた荒れ地を、他所からの走りものに耕作させるという循環構造が生まれます。(中略)耕地は荒れ地化←→再開発を繰り返しつつ、次第に固定的な耕作者を得て安定していったというわけです。』(N530)
 『一七世紀前半以降、年貢の増徴から百姓経営維持の重視へと、幕府・大名が農政を転換した背景もあり、小農自立が進みました。それにともない「走り」も減少して、村請制が全国的かつ体制的に確立していきました。
 その結果、村の性格は「解放的」から「閉鎖的」へと変わってゆき、百姓の抵抗形態も「走り」から「訴」へと重点を移していったのです。
 ここで一つ補足しておくと、「走り」は江戸時代中・後期にもありました。しかし過重負担への抵抗としての「走り」が広く見られたのは、やはり中世・近世以降期の特徴です。そこには百姓の家と村請制度が、いまだ安定的に確立していないという固有の時代状況が存在していたのです。』(N544)
 ○理屈の上では将軍の土地だった山野
 『豊臣秀吉は、検地にあたって山野の大部分を、石高をつけない「高外地」としました。高外地は秀吉の領有下にあるものとしましたが、この原則は徳川氏にも継承されました。
 山野には耕地以上に、大名・旗本などの個別領主を抑えて、統一政権の力が強くおよんだのです。この原則は、山野を開発して耕地化することが重要課題とされた享保期(一七一六~三六)に、改めて強調されます。享保七(一七二二)年九月、幕府は、幕府領・大名領・旗本領が入り組んだ地域で開発された新田は、すべて幕府領にすることを明示したのです。全国の山野は将軍の領有地なのだから、そこを開発してできた耕地はすべて将軍のものになるという理屈です。(中略)この論理は、幕末にいたるまで繰り返し主張されました。大名・旗本は、この論理に正面から対抗することはできません。将軍が全国土の所有者であるという論理は、単なる観念論ではなかったからです。幕府はこの論理にもとづき、幕末まで何度か、それも集中的に、新田開発を試みました。』(N1390)もっとも『現実には大名らの抵抗により理念が貫徹できない場合があった』(N1405)。

アクセル・ワールド 24 青華の剣仙

アクセル・ワールド24 -青華の剣仙- (電撃文庫)

アクセル・ワールド24 -青華の剣仙- (電撃文庫)

  • 作者:川原 礫
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/08/10
  • メディア: 文庫


 ネタバレあり。
 ハルユキは前回のオーキッド・オラクル救出時に偶然出会った流れの鍛冶師のNPCに自分の剣を強化してもらったこともあり、彼がインティ戦でアタッカーを務めることになった。しかし剣士としての技量が足りないこともあって今度の作戦に不安があり、どこからか戦闘中に何度か語りかけてきたセントレア・セントリー(オメガ流合切剣の使い手、三代目クロム・ディザスター)に会おうと考える。極限に集中してハイエスト・レベルに近づいた時にセントレア・セントリーと交信可能になったのではないかと思って、集中して想像上の巨大な鋼鉄の玉をセントリーの教えに従って切ろうと試みた。そうするとハイエスト・レベルに行くことができ、そこでセントレア・セントリーと出会えた。
 ハルユキ(シルバー・クロウ)はセントレア・セントリーにインティ戦に向けてオメガ流の修行がつけてもらいたいと願い出る。しかしハイエスト・レベルでは切るべきものが存在しないため、オメガ流を伝えることはできないといわれる。そして修行をつけるためにセントレア・セントリーから一つの指示が出される。
 ハルユキは王を除いた幹部級の話し合いにスカイ・レイカーと一緒に参加した後、セントレア・セントリーの指示に従って現実世界のセントレア・セントリーに会いに行く。そこで現在は加速世界の記憶を失っているセントレア・セントリー(鈴川瀬利)と会い、ニューロリンカーの直結をしてもらう。そしてハルユキが加速してハイエスト・レベルに接続するだけの集中をすることでハイエスト・レベルのセントレア・セントリーと現在の鈴川瀬利をつなげることで意識を同期させて、鈴川瀬利はかつて失われた記憶とポイント喪失以後の亡霊的な存在だったセントレア・セントリーの記憶を得た。
 そんな記憶を取り戻したセントレア・セントリーは『ブレイン・バーストの最重要ルールである≪全損=強制アンインストール=永久追放≫を打ち破った存在なのだ。若宮恵/オーキッド・オラクルに続く、二人目の蘇生者。しかも瀬利は、白の王ホワイト・コスモスの力を借りずに、ほぼ独力で記憶を取り戻した。』(P122)あとがきを見ると、セントリーの復活法は『当人が言っていたとおり全ての退場者に適用できるものではない(というか実質セントリーしか使えない)ものなのですが、違う方法で蘇生したオーキッド・オラクルの例もありますし、今後どうなっちゃうのかいささか不安であります。』(P288、あとがき)とあるように彼女の復活方法は他の人にも当てはまるようなものではない特殊な復活ルートだったようだ。
 復活した後にインティ戦まで時間がないため、無制限中立ゾーンで長時間修行しなければならないから鈴川はハルユキの家に行き、そこから無制限中立ゾーンに行って修行つけてもらうことになった。
 そうして家に帰ると今回の作戦で大役を務めるハルユキを励ますための壮行会として、多くのレギオンのメンバーたちが揃って彼の帰りを待っていた。ハルユキが見知らぬ女性、鈴川瀬利を連れて帰ったので怪訝な表情をするメンバーにセントレア・セントリーを紹介。その名前を耳にした先輩たちのリアクションがいいね。偶然とはいえレギオンメンバーと鈴川瀬利が対面したのは結果的に後に一々説明したり顔合わせをしたりする手間が省けた。
 壮行会が終わって仮眠をとった後に修行開始。ハルユキ(シルバー・クロウ)はセントリーのプレイヤーホームで作戦開始時間ぎりぎりまで修行をしていた。
 作戦開始時間が近づき無制限中立フィールドの集合場所に作戦参加者が集ってくる。そんなところに、運悪く巨獣級を引っかけてきてしまった人がいた。その巨獣級は普通に倒すと爆発してしまうエネミーなので、その爆発を敵方に気づかれたら何かを仕掛ける時間を与えてしまうため、爆発させない特殊な倒し方をしようとする作戦参加者たち。そうしたところにちょうどシルバー・クロウが合流。その巨獣級退治で早速修業の成果を見せるという展開はいいね。
 そしてインティ戦が始まる。ハルユキはインティを一度撃破したものの、インティは第二形態となって蘇る。そのインティを操るオシラトリのレギオン・マスター、コスモスも作戦参加者の前に姿を現す。
 白の王はインティに命令し、インティを倒したと連絡を受けて無制限中立フィールドに戻ってきた王たちを攻撃させたといったところでこの巻終わる。そして、あとがきによると『17巻から続いてきた『白のレギオン編』はいよいよ次巻で終わる感じになってまいりました。』(P288)とのこと。

ファミリーレストラン 「外食」の近現代史

 kindleで読了。
 ファミリーレストランは1970年代に勃興し、隆盛し始める。『本書は、そんな「家族での利用」に軸を置き、外食の歴史の変遷していったのかをまとめたものだ。』(N4)
 各章末などにある色んなファミリーレストランのチェーン店に行って食事した時のことが書かれたコラムもいいね。
 大正13年に最初の店がオープンした須田町食堂。『家族での利用は、チェーン系食堂の祖であり、大衆食堂の祖でもある須田町食堂だろう。(中略)ここの当初のメニューの中心は洋食であり、洋食を安い値段で提供し普及させたそうだ。』(N254)
 『須田町食堂での食事は、いわば東京観光の一環であった。当然、家族で旅行に来た人々もここで食事をしたに違いない。非日常としてのときめきが「須田町食堂」にはあったのだ。ここに、後に「ファミリーレストラン」の要素の一つである「非日常的な食空間による高揚感」がある。
 かくして、人々は「外食も観光」であることに気づきはじめた。そして、地方から観光にやってきた人々だけでなく、都会の人々も気軽に「観光」して「非日常的な食事」ができる場所ができ始めていた。それがまさにデパートであり、デパートの食堂こそがファミリーレストランの前駆的存在であった。』(N274)
 1970年ごろに乗用車保有が大きく増える。『このような交通事情の変化が、ファミリーレストランの誕生と発達の大きな要因となる。』(N918)  すかいらーくの創業者兄弟は『デニーズやビッグボーイ、ハワードジョンソン、サンボズのようなアメリカで隆盛を極めていたロードサイドのコーヒーショップという業態に着目した。』(N1124)
 『当初はコーヒーショップを銘打ったスカイラークであったが、郊外の新興住宅地に住む家族たちがそろって食事をする空間としての存在感が増し、コーヒーショップという名前がなじまなくなっていた。そこで茅野と当時の日経流通新聞の記者が相談し、「ファミリーレストラン」との命名を行い、広めて行くことにしたのだ。』(N1137)そのようにしてファミリーレストランという言葉が誕生した。
 1970年代に続々と登場したファミリーレストランチェーン。1980年代には『ファミリーレストランは、「美味しい食事を家族で食べる」場所から、「家族や友達、そして仲の良い異性と共に『いる』」場所へと発展していった。』(N1789)そして低価格路線のガストの成功もあり、「より安くいられる場所」となっていった。
 そのように『ファミリーレストランは日常化し、休日にわざわざ家族で食べに行く場所ではなくなっていった。
 しかし、やはり休日の夜などは家族で外食をしたい。それなり当然、おいしいものがいい。このような流れのもと、家族はレストランに行って食べたいものを決めるのではなく、ある程度方針を決めて、専門料理を出す店に行くようになった。』(N2366)例えば焼肉や回転寿司など。

絶対ナル孤独者 5

絶対ナル孤独者5 ―液化者 The Liquidizer― (電撃文庫)

絶対ナル孤独者5 ―液化者 The Liquidizer― (電撃文庫)


 ネタバレあり。久しぶりの新刊、あとがきを見ると2年ぶりらしい。
 ミノルは学校の帰り道にルビーアイである液化者(リキダイザー)に待ち伏せされて思わず身構える。リキダイザーはどうやらバイターを倒したときの情報から生活圏にあたりをつけてはっていたようだ。彼女はミノルに取引を持ちかけてくる。その取引の内容はスティンガー(前回交戦した非常に強力なルビーアイ)と特課の一員であるスターゲイザー(≪組織≫に捕らえられているオリヴィエの妹クレア)の居場所の情報と引き換えに、特課が確保したトランサーの奪還に協力してくれというもの。
 リキダイザーはミノルにリキダイザーはアクセラレータとディヴァイダ(ユミコ、オリヴィエ)に取引したがっていると伝えるように言う。そして3E会議に監視されている危険性があるから電話やメールを使うなと言って、ミノルはリキダイザーから連絡用のスマートフォンを渡される。ユミコも『政府内の≪3E会議≫も、どこまで信頼できるのか解らないけどね』(P29)といっていおり、リキダイザーの口からも『特課の仲間を信じるのはいい……でも3E会議を信用するのはやめなさい。坊やほどの能力者を、連中が単なる現場要員のままでいさせるはずがない。いずれもっと都合良く利用しようとするはず……もしかしたら、もうルビーアイと関係ない仕事を何かやらされているんじゃないの?』(P89)と語られる。複数人からそのような話がされて、上層部(3E会議)のことは信頼できるかは不明であることが印象付けられる。
 取引の件を知らされたユミコやオリヴィエはクレアの居場所が交換条件と聞いて、その取引を受けることを決める。そしてリキダイザーと会合を持つが、その時にルビーアイの≪組織≫の人間である潤滑者(ルブリケーター)からの襲撃を受ける。何とか撃退するもオリヴィエは腹に銃を受けて今回の作戦からリタイアすることになる。復帰して協力してくれることになっていたスウも頭の手術後に頭に攻撃を受けたということで、ここでリタイア。スウの出番は今回は顔見せ程度だったけど、復帰したようで何より。
 ルブリケーターの襲撃でリキダイザーも怪我を負ったことやルブリケーターが用いた銃が一般的でないライフリングがないものだったことから、リキダイザーを狙った襲撃だったことがわかる。『ライフリングによって高速回転する銃弾が液体になると、遠心力で試算してしまうのだ。』(P196)現時点では何故リキダイザーが狙われたのかの理由は不明。
 リキダイザーは怪我を抱えながらもトランサー奪還に成功して、能力で車のラッピングフィルムを溶かすことで外見を変えて上手く捜索網から逃れていたが、そんな時に再びのルブリケーターの襲撃がある。ルブリケーターを振り切れず、このままカーチェイスを続けると、捜索している者たちにも捕捉されてしまいかねないので、ミノルが一人車から降りルブリケーターと対峙し、一瞬の交錯でのド派手な決着となる。
 あとで事情を知ったイサリリ教授に『最初から事情を説明してくれれば、私もそのつもりであれこれ根回しできたんだぞ』(P262)といわれるミノルとユミコ。DDにも後で事情を話したようなので、大体の特課の仲間たちには今回の取引のことを話したみたいだ。リキダイザーは作戦が成功に終わって約束通りに、クレアが現在船に囚われていることをミノルたちに伝えた。
 今回ミノルがルブリケーターと交戦、確保できた理由をリキダイザーと行動していたとも書けないため、バイクで移動中に接触したということにしたのでミノルは購入するか迷っていたバイクを買うことになったようだ。
 翌日再びリキダイザーがミノルに接触してくる。ジェットアイとルビーアイは相手陣営の能力の匂いがわかるのを利用して、ルブリケーターの協力者の能力によるマーキングで追跡されていたので、どこにマーキングされているか調べてくれという。それで調べた結果リキダイザーについたマーキングはスティンガーによるものだとわかり、それを知ったリキダイザーは『単純に考えれば、ルブリケーターはスティンガーと繋がってるってことでしょうね。もしそうなら、あたしの抹殺指令を出したのは≪組織≫じゃなくて別の勢力なのかも……』(P288)と別勢力の存在が示唆される。
 そして最後にミノルの学校で最近起こっていた成績優秀者やスポーツで有望な生徒たちの体調が崩れていたのは、サードアイ持ちと接触せずに暮らしてきた野良のジェットアイによるものだとわかり、その能力者とミノルが接触したところで終わる。

征夷大将軍研究の最前線 ここまでわかった「武家の棟梁」の実像

征夷大将軍研究の最前線 (歴史新書y)

征夷大将軍研究の最前線 (歴史新書y)

 「そもそも、源頼朝征夷大将軍を望んでいなかった?」
 新資料「三槐荒涼抜書要」の発見。その中に『頼朝が征夷大将軍に任官した経緯の一端を記す『山槐記』建久三年(一一九二)七月九・十二日条が含まれていたのである。』(P23)その『新資料で最も注目されるのは、頼朝が「征夷大将軍」ではなく、「大将軍」を望んだという点である。従来の研究では「征夷」に関心が寄せられたが、どうやら頼朝には「征夷」という言葉への執着はなかったことになる。
 一方、朝廷側では複数の候補が挙げられ、それぞれの先例が考慮されている。』(P27)頼朝は大将軍を望み、朝廷は複数の候補の中から坂上田村麻呂という吉例のある「征夷大将軍」を選んだ。
 源頼朝が「大将軍」を望んだ理由。蜂起当時の頼朝は武家の棟梁・源氏の棟梁ではなく、蜂起した諸勢力の中の一つだった。『武家社会において尊ばれた「曩祖」たちは「将軍」と称された。(中略)治承~文治の内乱では(中略)各地には「将軍」の末裔たることを自負し、ともすれば自らが「将軍」たらんと志向する武士たちが割拠していた。(中略)氏族の枠組みを超えて武士社会を糾合し、一個の武士の政権を確立しようとする頼朝が求めたのは、武士たちが尊敬し憧憬する「将軍」を凌駕する超越的な権威としての「大将軍」だったのである。』(P35-7)

 「征夷大将軍は、「源氏長者」であることが条件か?」源氏長者征夷大将軍足利義満が源氏長者・淳和奨学院両院別当となったが、足利義満以前の将軍で『源氏長者の地位に就いた者は一人もいない。』(P113)一方で江戸時代の徳川将軍はほぼ全ての将軍が源氏長者となった。
 『源氏で現職の公卿(位階で三位以上、官職で参議以上)の地位にある者のうち、最も官位の高い人(これを「現任上首」という)が奨学院別当の地位に就き、それがすなわち源氏長者となる。』(P114)源頼朝征夷大将軍に就任した当時現任公卿ではなく、その2年前に権大納言になった時も1月で辞任している。源実朝は右大臣になった後すぐ暗殺されて現任上首の地位にあったのは3カ月だけだった。足利尊氏征夷大将軍になったときの官位は従二位権大納言で、正二位大納言に村上源氏の堀川具親がいた。『そしてこの間、中世前期を通じて、源氏の筆頭公卿として淳和奨学両院別当・源氏長者の地位にあり続けたのは、全て村上源氏の一族であった。』(P115)
 足利義満は現任上首となって3年で源氏長者・淳和奨学両院別当となる。そして義満出家後に現任上首となった者は源氏長者にならず、次の将軍足利義持がその地位に補されるまで空席だった。『この背景には、どうやら足利将軍家摂関家に準ずる家格として遇しようとする公家社会の思惑があったらしい。(中略)義満の急速な朝廷進出と身分上昇に就いては、従来、彼の分を過ぎた増長・僭上、さらには皇位簒奪の野望を示すものとして語られてきた(今谷:一九九〇)しかし最近では、「正平の一統」で北朝の三上皇が一時吉野に拉致されたことなどによってもたらされた朝廷権威の衰頽に対し、武家の実力を取り込むことで、北朝指導力の欠如を補おうとした朝廷側の思惑が指摘されている(小川:二〇一二)。』(P122-3)
 『以上、述べてきた通り、源氏長者という地位そのものに、それほどの権力があるわけではないが、武家政権の首長が源氏長者となったことには、大きな意味があった。これはちょうど平安末期の仁安二年(一一六七)、平清盛(一一一八~八一)が太政大臣となって「平氏政権が成立した」とされているのによく似ている。
 言うまでもなく平安末期において、太政大臣と言う地位は必ずしも「政権」を意味するものではなく、清盛の前任(藤原伊通)や後任(藤原忠雅)の太政大臣も、決して「政権」など掌握していない。しかし、清盛が武家として初めて太政大臣になったということには、大きな意味があった。
 本来、公家社会から卑賤視されていた武家が、太政大臣や源氏長者という高位高官についたことに意味があったからである。しかもこれは、武家政権の側がそれを望んだ、というより、その多くは朝廷が武家政権の実力を取り込むための措置であった可能性が高い。』(P125-6)

異世界食堂 5

異世界食堂 5 (ヒーロー文庫)

異世界食堂 5 (ヒーロー文庫)


 久しぶりの新刊。
 今回は「おでん」で鬼の夫妻にもうすぐ子供が生まれようとしていたり、「テリヤキバーガー」で以前に異世界食堂に来ていた三人の少年達が駆け出し冒険者となっていたり、「コーヒーフロート再び」では砂の国と帝国の王室同士の婚姻の進展が書かれるなど時間経過を感じさせる話が多かった印象。
 プロローグ、祖母からその気になれば異世界とのつながりを断てるマスターキーを渡された店主は、それをきっかけに土曜日のみ異世界の言語で「異世界料理のねこや」と書いてある看板を出すことにしたことが書かれる。
 「おでん」鬼の夫妻タツジとオトラは鍋ごと買い上げて持ち帰る客がいたという話を思い出して、始めて鍋を持ち帰る。そして寒い冬で昼に帰途につき、午睡した後に持って帰った鍋(おでん)を再加熱して二人で食べる。家のくつろいだ雰囲気で異世界食堂の料理を楽しみ、食べ終えた後に二人でごろりと横になっているのいいね。
 「テリヤキバーガー」有名な剣士であるタツゴロウが三人の駆け出し冒険者たちを助けると、その三人が以前に異世界食堂で見たことのある子供とわかり、ちょうどドヨウだったこともあり一緒に異世界食堂に行く。異世界食堂で顔を知っていた人たちが、元の世界で思いがけず出会って食事しながら歓談しているのいいね。そのように思いがけない縁があることがわかって、距離が少し縮まるのいいね。そして1巻の「ハンバーガー」で一緒に冒険者になろうといっていた三人の少年が駆けだし冒険者となっていることで時の流れを感じる。
 「宇治金時」空に浮かぶ島に生まれてからずっと暮らしている一人のエルフであるエルゼガント。彼の両親が疫病から逃れて空に島を浮かべた。研究者である両親から研究を受け継いだものの、両親ほど研究に情熱にないエルゼガントはその小さな島で暇を持て余していた。そんな時に異世界食堂の扉がその島に現われたので好奇心でその扉をくぐる。空飛ぶ島で両親と自分以外知らずに過ごしてきたので興味深げに異世界食堂を観察し、宇治金時のかき氷を頼み、頭がキーンとなりながらも初めての感覚を楽しんでいる様子なのがいいね。
 「さつま揚げ」いままで一緒に暮らしたことがなかったが、最近一緒に二人で暮らし始めた兵士の父子。父が息子を異世界食堂に連れていく。父は海のある街で育ったが、息子が生まれた現在暮らす土地は海から遠く、ろくに魚が食べられないので魚が苦手な息子に異世界食堂で魚っぽくない魚料理を食べさせて魚に親しんでもらおうとする父。そして父は兵士を辞めて故郷に戻ろうかなどと考える。
 「ミルクレープ」花の国に住むフェアリーたちの女王。女王の妹を助けた異なる大陸から来た同じくらいの体格くらいの客人をもたなすのに異世界食堂を使う。異世界食堂がその社会に根付いているのがわかる用いられ方でいいね。
  巻末の番外編はアニメの特典付録の再録のようだ。「番外編一 ミックスサンド」アレッタが異世界食堂で働き始めてから間もない頃の話。「番外編三 ポークソテー」先代の時代の異世界からくる客も少なかった頃に後に常連となるタツゴロウが初めて来店した時の話。