指栞(ゆびしおり)

前にも書いたかも知れないけど。

いけるかも知れない。

 今日のスイムは千メートルをノンストップで26分48秒。五十メートルを1分20秒ほどというとてもゆっくりしたペースながらタイムとしては昨日より50秒縮めた。それよりもとにかく休みなしに千メートル泳げるようになったことが個人的には本当にうれしい。還暦でも四ヶ月ほぼ毎日泳ぐと千メートルを三十分以内に泳げるようになる。・・・と定式化していいかどうか個人差もあるのでよくわからないけど(つか四ヶ月もかかってその程度かよというご意見もあるかも知れないけど)二十五年ぶりに泳ぎ始めた野良スイマーの自分としてはひとつの達成だと考えている。でももう少しはいけるかも知れないね。もう少しならタイムを縮められるかも知れない。でもまあ無理はしない。
 昨日だったか衣替えをしたらユニクロの村上RADIOコラボTシャツの「1973年のピンボール」表紙バージョンが出てきた。1973年生まれの家人も今年は五十才。僕はこの一致を単なる偶然とは思ってないんだけどそういうことを公言すると危ないヤツと思われても仕方ない気がする。でもまあ人っていろいろ根拠のないことによかったり悪かったりするつながりをその都度思い入れながら生きてるもんじゃないですか。家人の生年とこの小説のタイトルの一部が一致してることは少なくともThe World according to Meにおいては必然だったと思いなされている。カラスの勝手でしょ

いろいろよかった日。

 今日のスイムは千メートルを27分38秒とザ・ファーステスト。しかも千メートルを割にあっさりと休みなしに泳ぐ。お客さんに見受けられるノンストップスイマーにこれで仲間入りできたかも知れない。コツはなにしろ力を抜くこと。できる限りゆっくり泳いで体力(かなんかわかんないけどそんなようなもの)を温存すること。三十分を切れるようになると多少疲れが溜まっていても今日は泳ぐのやめようかなとは思わなくなる。僕にとってはもちろん千泳ぐことは容易なことではない。でも三十分で済むならそれほどきつくないなと思えて来る。今月は1日に休んで以来明日で丸二週間泳ぐことになる。なるべく長くそれを続けられたらいいなと考えている。
 帰宅後シャワーを浴びて着替えて家人と出かける。朝食はいつものカフェヴェローチェで。今回は家人が先に注文してスクラッチは五十円券。後から注文した僕は百円券が当たる。これで三回連続最低額ではない当たりで家人は本気で悔しがっている。取っ替えてあげるよと言っても首を縦に振らないくらいなので相当なんだろう。朝食後は無印良品にハンカチを買いに行く。ハンカチっていつの間にか減りますよね?うちだけなのかな。泳ぎに行くのにビニールの巾着袋みたいなのがあれば便利だなと思って探すともなく探してたらまんまと無印にあるのを家人が見つけてくれてそれも二枚買う。ハンカチはきれいな柄のを三枚。
 以下は夜になって酔っ払ってから書いてます。無印から三省堂書店へ抜けるとちょっと新刊が見たくなる。それでコミックを見ると言う家人と別れて新刊のコーナーへ。特に読みたい本が見当たらなかったので時間があると寄ることにしてる海外文学の売り場へ行くといやあ背筋が寒くなりました。黒原敏行さん訳のコーマック・マッカーシーが二冊も上梓されてるじゃないですか。奥付を見ると三月半ばの発売で一ヶ月近くまったく気づかなかったのは痛恨の極み。「最後の二部作」と帯にあるけど構想は三部作だったのに二作で亡くなったという意味じゃないといいなあと思う。いや死者をむち打つような発言であることは重々承知の上で。だってほら漱石の「明暗」の続きとかドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の続編とかさ書かれてたら世界を変えてたかも知れない永遠の未完本ってある訳だから。今読んでるガルシア=マルケスの絶筆もそうなように。でもまあそれは読んでからのお楽しみだね。とりあえずガルシア=マルケスを読んでしまわなきゃ。という訳でマッカーシー二冊で八千円弱?でもこれは図書館任せにはできない。最寄りの駅まで戻り買い物をして帰宅。あとはいつもの飲んで食べて昼寝。時節柄衣替えのため普段遣いのチェストを整理してたらユニクロ製の服でどうも今後身につけそうもないものが結構出て来る。それをいつものバックパックに入れてぱんぱんになったところで最寄りのユニクロまでリサイクルのために持って行く。小一時間の旅路。途中で家人のために酎ハイを二本買う。それ以外はひたすら歩く。でも気持ちのいい日でよかった。こんなさわやかな夕方って年にそうなんどもない気がする。夕方からバイト。最後に怒髪天つきの事態があったんだけどそれについて書くかどうかは明日の自分任せということで。

土曜日の時間。

 今年度の土曜日は今のところ塾の仕事がない。だから午前中にバイトを入れてお昼頃帰って来ても夕方まで結構時間があって昼寝をしても夕方のバイトまで余裕がある。それで昼寝からちょっと早めに起きてライオンズ対ホークス戦の中継を観たら山川穂高選手が一本目の満塁ホームランを打った直後でスコアは0-7だったっけかな?ホークスの圧倒的なリードで先発のモイネロ投手も調子よさそうだったしまず負けることはなさそうに思われた。それで観るのをやめて出かけることにした。家人はたまにはひとりで出かけたらと言って珍しく一緒じゃなかった。図書館へ行き駅前でいつものスーパーに寄ったらトマトとカップ麺が安かったので買いそれから今日はアクエリアスが安いと家人が言ってた別のスーパーまで足を延ばす。バイトの時は毎日凍らせたアクエリアスを持って行くことにしていて午前中家人が二リットル入りかなを一本買って来てくれたんだけどもう一本買っとく。あと僕の分の夕飯とか酎ハイとかレトルトのカレーとか重かったり安かったりする品物を僕が買えば家人の負担を減らせそうなのでまとめて買う。帰宅すると子供の買い物みたいだよねこれいくらだったんだ安いでしょほめてほめてほめてみたいな気持ちになる。けどまあそういうのも楽しい。
 もう酔っ払っちゃってるのでよくわかんないけど今日のスイムは27秒55秒で千。特筆すべきなのは休まずに初めて五百メートル泳げたこと。不休で千メートルを目指したくなるよね。なるよねー。

太りつつある。

 できるだけ毎日体重を計るようにしている。身長は180センチ弱でこの前まで体重は70キロを切っていた。68キロ台と69キロ台を行ったり来たりみたいな。ところがここ一週間ばかり70キロを越えてきている。今朝も71.5キロくらいあった。原因のひとつは明らかに食欲が回復したことだ。前にも書いた通り泳ぐようになって吐き気とか全然しなくなりその分食べられるようになった。おなかもよく空く。自分ではさほどとも思ってないけどこれが食べる量を増やしてることは確実な気がする。あとプロテインを飲んでることも関係あるかも知れない。ただしこちらは実感ではよくわからない。前にも書いたように二の腕に力こぶができるようにはなった。でもそれ以外に体型が変わったりとかはないような気がする。とりあえず次回の通院でどういう数値が出るかを確認するしかない。多少体重が増えても数値は悪くなければ問題はないだろう。
 今日のスイムは27分59秒で千メートルと昨日より13秒遅くなったけどギリで28分は切れた。昨日の入りで四百メートル連続で泳げたことも書いた通りで今日は調子に乗って五百メートル連続を狙ってみた。でも思ったより疲れが早く来て二百メートルで足を着いてしまった。昨日ほど体からうまく力を抜くことができなかったということのような気がする。でも残りは昨日同様百メートルずつ泳ぐことができた。消費カロリーは三百キロカロリー弱。調べるとビール中ジョッキ二杯でそれくらいのカロリーになるそうだ。ということは千メートル泳いでもそれだけ飲んだらちゃらってこと?それはちょっと実感にそぐわない気がする。

なんだかよくわからない話。

 去年の十一月なのでもう随分前のこと。オックスフォード大学を出たとかいう同じバイトに入ってるおじさんの話をした。英語はもとよりフランス語とドイツ語とイタリア語ができて中国語も少しわかって大学かなんかでスポーツ心理学とか水泳とかを教えていると言う。僕はその人のことをかなり初めの段階から薄っぺらくて胡散臭いヤツだと思ってあまり近寄ろうとはしなかったんだけど向こうから近づいて来ては話しかける。いつだったか僕はあなたのようなタイプじゃないので他人とそうたくさん話をしたりしないという意味のことをやんわり言って以来話しかけて来る頻度や内容が変わってやれやれ助かったと思ってた。オックスフォードだから敬称抜きのオックスと呼ぶことにする。その人がもう口にするのもめんどくさいんだけどオックス派閥というのをバイトの学生たちの中でつくり始めていてそれに入らないかと学生バイトから誘われたとラインで知らせて来てくれたのはボランティアのために一度はバイトを辞めたんだけど夢破れて(?)戻って来てくれた女子学生さんだった。彼女にも名前をつけておく。サコちゃんにしよう。サコちゃんは気立てがよくてまじめで仕事もきっちりするのでグレートマザーまーさんの他うっちゃんやもちろん僕もとても親近感を持っている。ただ彼女は割に独立心が強く人が訳もなく群れることをあまりよしとしない。という点で僕とはすごく話が合う。だからオックス派閥の話を聞いて即座に「気持ち悪い」と思った彼女はどうしたらいいんでしょうと僕にラインしてきた訳だ。なんでもバイトの中には最長老のデタさん擁するデタさん派閥とオックス派閥があって構図としては対立してるらしい。でもサコちゃんの考えではデタさんは超温厚な人だから派閥をつくるなんて信じられないということで僕もまったく同感だ。オックスが派閥をつくるにあたり結束を強めるための仮想の敵としてデタさんを選んだだけなんじゃないかと思われた。しかしまあなんだって派閥なんてつくる必要があるんだ?無意味なだけにかえってグロテスクに思える。それで前から言ってるようにオックスは胡散臭いと僕は思ってるからその取り巻き連中(というのが本当にいればの話だけど)とは距離を置いた方がいいと返した。もちろんサコちゃんもそれでいったん納得した。そのサコちゃんから今日またラインが来て仕事のやり方についてこの施設のは間違ってるとオックスがサコちゃんに直に言ったということでその話の中にはデタさんや僕のことも触れられていたと言う。具体的に何を言ったかサコちゃんは伝えて来なかったがどうせろくでもないことに決まってる。オックスがことある毎にデタさんのことを悪く言うのは僕も直に聞いて知ってたし。でも仕事のやり方が間違ってるなら女子学生のバイトなんかじゃなく社員でもなんでもしかるべき人にそう言えばいいだけの話だ。サコちゃんの感じたところに拠るとオックスの目的はデタさんや僕のことを悪く言うことによって学生バイトを自分の陣営に取り込むことにあるらしい。さすがにそれはサコちゃんの考え過ぎなような気がするけどたとえそうであったとしてそれで僕が被る被害なんてたかが知れてる。まーさんやうっちゃんやサコちゃんのような誠実に仕事をする仲間がいる限り僕も誠実に仕事をこなすだけだしあることないこと言われて学生さんたちからうとまれて仕事がやりにくくなるのなら辞めてしまえばいいだけの話だ。それでオックスの取り分が増える訳じゃあるまいし誰の得にもならないとは思うが。というようなことをサコちゃんには答えてとりあえず安心してもらった。ちょっとナーヴァスな女の子なんだからヘンな風にいじらないで欲しいとオックスに対しては思う。
 五十メートル泳いだとき休まずにまだ行けると思った。百メートルでも百五十メートルでもそう思った。腕に力を込めずにとにかく楽に泳ごうとした。二百メートルでも三百メートルでも休む必要を感じなかった。それで結局四百メートルまで一度も休まずに泳げた。タイムを見るとその間五十メートルあたり1分17秒ちょっとかかってるのでいつもより十秒くらいはゆっくりなペースだ。それからは一回の休憩を三十秒以内に収めるよう気をつけながら昨日までの五十メートルずつじゃなく百メートルずつ泳いだ。六百メートル泳いだところで33秒休んでしまったのを除けば休みは三十秒以下に抑えることができた。最後の百メートルがもっともペースが上がって五十メートルあたり1分10秒。合計27分46秒で千メートルを泳ぎ切る。初の20分台で先週の金曜日と比べると一週間でなんと十分以上もタイムを縮めている。自分の分析(もっともそれが可能だったのはアップルウォッチのデータがあってこそだったんだけど)と方法が間違ってなかったのもうれしいしそれに体が着いて行けたというのもうれしい。次の目標はなんだ?千メートル無休かなあ。とりあえず五百メートル無休を目指すか。

その一秒を削り出せ。

 お客さんのワミさんがプールサイドに姿を見せたので近寄って行って半月振りに挨拶したらお体でも壊されてたんですかと言う。塾やってるんですけど春期講習だったんですよと答えると一瞬の間の後にああそうだったんですかと言う。ワミさんが心配なさってるかと思ってと言うとほんっとに心配してたんですよ私と答えるのですいませんと言うと逆に恐縮したようにいえいえそういうことではないんですけどと答える。この人はプールサイドのような他に人がいるところでは話したくないみたいで長いお話をするのは決まって僕が受付にいてふたりきりで話せるときだけだ。それが他に人がいても話し込むなんて今日はほんとに相当話したかったんじゃないかと思う。一時間ちょっと後で受付の仕事をやってると更衣室から彼女が出て来て何かつぶやきながらバッグをごそごそやってたと思ったらどこぞの消印の捺された何も書いてない葉書を取り出すとそれを差し出して何か曰くを話し始めた。ところが結構忙しい時間帯だったので集中して耳を傾けることができず何を言ってるのかがよくわからない。なんでも消印が美しいのでわざわざ局員さんに捺してもらったということらしい。それでも彼女は言いたいことを言ってしまうと満足したように挨拶をして帰って行った。まあそれで気が済んだのならよかった。
 受付にいるといろいろ話す機会が増える。早稲田の学生さんを息子さんに持つお母さんがスタッフさんにいてたまにしか勤務に入らないんだけど大学のことや奨学金のことなんかで相談を受けたりしたことがあってとても仲よくさせてもらってる。そのスタッフさんが通りがかったとき息子さんが確か一年くらい留学すると聞いた覚えがあったのでその後どうですかと水を向けると六月末でちょうど一年経つのでもうすぐ帰ってくると言う。早いなあ。息子さんは就活ですかと尋ねられたのでそれが大学院に行きたいと言い出しましてとこの前書いたようにあと一年で肩の荷が下りると思ってたのに延びそうで困ったという話をすると素敵じゃないですかお勉強お好きなんですかと尋ねる。確かに勉強は好きみたいで毎晩遅くまで塾にこもってるし資料や参考書の類いも目に見えて増えて行ってる。だからまあ初めはちょっとショックだったけどやりたいことをやらせてやりたいという方向に気持ちが傾いてると言えば言える。家人なんか始めから手放しで賛成してるし。でも少子化は進んで行く一方だろうしたとえ大学に職を得たとしても一生安泰ということになるんだろうかとか親の心配の種は尽きない。でもまあ親を簡単に安心させないというのも考えてみれば一種の親孝行なのかも知れませんねと自分でもいささかひねくれてる気がすることを言ったら相手はそうですよーと答えたのでそういうもんなのかも知れない。もうひとり今年娘さんが医学部に合格した五十代女性のお客さんがいてたまに話すんだけどその人にも同じ悩みを打ち明けたら行かせて上げて下さいよーということだった。娘さんはまだ大学一年なのにもう院に進みたいと言ってるらしい。医学部はただでさえ六年なのに博士課程まで含めたらプラス五年で計十一年。それに比べりゃうちの方がまだマシかという気にもなる。
 今日のスイムは昨日考えたことをできる限り守ろうと思ってまず休憩は三十秒以内に収め泳ぐときに意識して力を抜くことを心がける。時間を確認するにはアップルウォッチよりもプールサイドの文字盤の大きな時計(ラップカウンターと呼ばれている)の方が便利なので五十メートル泳ぎ切る毎にすばやくそれを見て今の時間を確認し三十秒過ぎたら秒針がどこまで行くのか計算する。そしてその時間が来る前には必ず次のスタートを切るようにする。タイムは常に五分間で百五十メートルの最低ラインを上回っていて半分の五百を折り返したときには合計15分と数秒しかかかってなかった。このペースなら30分と数秒で千を泳ぎ切れるかも知れない。体がつらいかと言うといつも通りにはつらいけど特にすごくつらいという訳でもない。それで九百五十メートルを折り返すときにアップルウォッチを確認すると三十分までに1分ちょっと残ってる。五十の平均ラップは昨日の計算では1分7秒。こりゃ夢の三十分切りかと思ってほとんど休憩せずに泳ぎ始める。実際アップルウォッチのログでは最後は五十メートルじゃなく百メートルまとめて泳いだという風にカウントされていた。ほとんど休まずに最後の五十メートルに挑んだということを意味してる気がする。泳ぎ終えて計測を止めると・・・30分01秒。その一秒を削り出せ。明日まだ今日のモチベーションを保てるなら。

辞めたのかと思った。

 十五日ぶりの午前中のバイト。常連のお客さんの二、三人から辞めたのかと思ったと言われた。まあ半月も顔を出してなかったんだからそう思われてもしかたない。ほぼ同じ期間グレートマザーまーさんもお休みしててふたりはどうしたんだというお客さんの声が結構あったと他のバイトが言う。それほど人気があるとは思わなかった。まーさんはさておき僕なんかはね。前と同じように体が動かせるかやや不安だったけど特に問題なし。間違いもなし。明日はたぶんワミさんも来るだろうから元気な顔を見せられたらいいなと考えている。今日のスイムは33分3秒で千メートル。昨日よりやや後退したけどまあまあかな。ということにしておく。アップルウォッチによるログを確認すると秒針を見ながらお休みを三十秒以内に抑えてるつもりでもたいていの場合数秒から十数秒超過して休んでいる。おかしいなあ。でも目標の三十分で千メートルに到達するためにはこの3分3秒をどうにかして縮めるしかない。五十メートルを二十本ということは休みは十九回ということになるから93秒÷19で一回の休みを5秒弱縮めればたどり着ける。すぐには無理としても徐々に削って行けるといいなあ。明日はそれを意識してみよう。

自分を甘やかさない。=時計に着いて行く。

 朝食抜きでいつもよりほんの少しだけ遅めにプールへ行く。でも始業までには一時間以上あるのでゆっくり泳ぐことができる。そろそろ本気で不調と向き合おうと決めた。まず力を入れすぎないことをできるだけ心がける。これがなかなか難しくてお客さんの中にはとても楽そうに泳いでる人もいるんだけど僕はあまりそういうことができない。割に力いっぱい泳ぎがちだ。それが疲労や呼吸の苦しさの元になってる気がする。だから意識して力を抜く方向で泳ぐ。もうひとつは当初の目標であり自分なりのペースでもあった五分で百五十メートルをできる限り守ろうと改めて心に決める。十分で三百メートルくらいまでは着いて行けるんだけどその後時計にずるずる追い抜かれて三十分で泳げるはずの九百メートルの段階で悪くすると五分近くも超過してしまう。アップルウォッチによると五十メートルを1分3秒から1分10秒くらいで泳いでいる。仮に1分7秒くらいをアベレージとすると百五十泳ぐのにその三倍つまり3分20秒くらいかかることになる。ということは残りの1分40秒ほどなら休んでいいということだ。三で割ると五十メートル泳ぐ毎に30秒程度なら休める。現状それ以上休んでるから5分で百五十メートルを守れない訳だ。五十メートル泳ぐのに1分ちょいというペースは後半になってもほぼまったく落ちないので一回の休みを単純に30秒以内に収めれば最後まで同じペースで泳ぎ切れることになる。ただしそうするには常に自分を甘やかさず多少つらかろうがなんだろうが時間内に次の五十メートルへ挑む覚悟が必要だ。たぶん少し前の自分にあって今の自分にないのがその覚悟ということなんだろう。30分以内に千メートルというかつての目標もこの調子じゃどうせ達成できる訳ないと最近は思っている。それは甘えだ。しかし甘えてる場合ではない。もしも目標がありそれを達成したいと望むならば。という訳でサッカーのドリブルみたいに自分を蹴飛ばし蹴飛ばししながら休みを30秒以内に抑えて泳ぐ。15分後四百五十メートルのところで時計に追い抜かれそうになるも辛うじてペースを維持し30分以内に九百メートルが達成できた。結局32分41秒で千メートル。これは金曜日のタイムより6分近く速い。最後の百メートルも2分41秒で泳げてるので休んだ時間は20秒程度で条件を満たしている。強い目的意識を持つだけでこれだけの差が出るなんて我ながらかなり驚いている。あとはそれを維持するだけだ。
 春期講習も終わったしバイトもないので午前中から家人と買い物に出かける。あとは大体いつもの通り。先週体験授業をしたふたりからは連絡がない。たぶん駄目だったんじゃないかと思う。まあでもそういうのは悔やんでもしかたないのであまり気にしない。明日は本当に久しぶりに午前中バイト。うまく体が動くかちょっと不安だ。

パズーのかばん。

 朝は目が覚めても起き出す気にならず予定をだいぶ過ぎてからプールに向かう。お客さんが入って来るぎりぎりまで泳いでなんとか七百五十。26分21秒かかってたから自分が設定してる最低ラインよりも一分半近く時間がかかっている。少し前まではクリアできてたのに。残り二百五十メートルは後でもう一回来て泳ごうと心に決めていったん帰宅。シャワーを浴びてから着替えて家人と出かける。暖かくなるという予報だったのでTシャツにハーフパンツにギンガムチェックボタンダウンを羽織りスポーツサンダルを履く。それで若干肌寒い感じがする。図書館で本を返し池袋へ向かう。例によってカフェヴェローチェで朝食。スクラッチカードの順番で前回僕が家人より先にもらって百円を当てた。家人は五十円だった。なので今週は順番を逆にしてみた。そしたら先にもらった家人は五十円のままで僕は最高の二百円が当たった。もう誰の言うことも信じないと家人は言うけど運ってそういうもんだよね。朝食を堪能してからサンシャインまで歩く。無印良品で敏感肌用のボディーシャンプーの泡タイプ詰め替え用を買い西友の下のセリアでホワイトボードマーカーとか買いブルーブルーエを見た後どんぐり共和国へ行くと見つけたのはパズーのかばん。オリーブグリーンのメッセンジャーバッグと言えばその見かけにいちばん近いかな。後で家人が調べてくれたところによると予約してた人が最近やっと手に入ったとSNSに情報を上げてたそうでそんなのいきなり店頭で出くわすの結構ラッキーなのかも知れない。このところずっと無印のバックパックで外出してたんだけど季節も変わるし大がかりな買い物をしないとき用にコンパクトなバッグを探してたこともあるししかもパズーのかばんの実物大(たぶん)の再現と来ればこれはもう即買いしかない。税込五千五百円。オークションとかではもう少し高いらしい。でもこれがプロパーの値段だと思う。買えるギリギリのお金しか持ってなくてよかった。もっと持ってたら二個買ってたかも知れないから。すごく気に入ったものは二個買えというのは個人的な人生訓。でもそれほど間違ってないと思っている。それから元東急ハンズだったニトリで家人の買い物につき合ったりしながらゆるゆる駅まで戻り電車に乗って最寄りの駅まで帰る。スーパーで昼食とかアテとか調達して帰宅。シャワーを浴びてから飲んで食べて昼寝。起きると結構元気だったので予定通り泳ぎに行く。二百五十メートル泳いでからアップルウォッチを止めてウォーキングや潜水をして遊んでると上級者用のコースに誰もいないのに気づく。もったいないのでアップルウォッチをオンにしてそこで泳ぎ始めて結局全部で五百メートル泳いだときにはもう体力の限界に達している。いやでも泳いでる間は調子は悪くないように感じられた。16分52秒で五百はでもとても調子いいとは言えないけど。
 今日はまだある。帰宅後シャワーを浴びてまた着替える。家人と夕食を食べに出かける。行きは結構歩いて最寄りのJRの駅まで。途中公園とか通りとか桜が多くあって夜桜もなんか妖艶できれいだ。桜の木の下には死体が埋まっている。毎年思い出す言葉だ。今調べたら梶井基次郎の言葉で「木」じゃなくて「樹」だった。これってでも一度聞いたら忘れられないよね。桜の美しさとそれとは裏腹な恐ろしさをすごくよく表している気がする。それで駅ビルを流してたら本屋でガルシア=マルケスの未完の絶筆があった。買った。新潮社からメールで情報はもらってたんだけど忙しくて忘れてた。パズーのかばんとガルシア=マルケスの新刊があればその日は幸せな日と呼んでいい。夕食は中華屋さんで餃子をアテに生ビールを飲んだ後河岸を変えて立ち食いそば。最近胃の調子が大変いいので大盛りにして食べたら若干食べ過ぎ。おなかいっぱいでバスに乗って帰った。ということで一日お休みだととても楽しい。いろいろなことをこの方向に合わせて行きたい。

場所取り。

 お花見の季節にちなんで場所取りだけしとく。もう酔っ払っちゃったんでね。

 四月後半は実験的にバイトを減らしてみるつもりでいる。春期講習のためここ半月くらい午前中のバイトを休んでることは前にも書いた通りだ。それで講習の終わった後ほぼ毎日家人と買い物に出かけていた。するとなんだか家人がとても喜んでるように感じられる。一緒に買い物に行けるのを楽しみにしてるみたいだ。面と向かって尋ねてみた訳じゃないけどそういうのってなんとなく伝わって来る。かつて塾の収入だけで暮らせてた幸福な時期に毎日のようにふたりで買い物に出かけてたことを思い出す。それで四月の後半は半分とは言わないまでもある程度バイトを削ってできる限り家人と一緒に買い物に行けるようにしてみることに決めた。午前中フルにバイトに入ると五時間の勤務でそれだと長いので今は一時間早めに切り上げて帰ることにしている。それをもう一時間半縮める。フルの半分の二時間半だけの勤務になる。もちろん収入も減る。でもこのところ塾の方も順調だしいざとなれば年金も手つかずで残っている。お金の面に限って言えば向こう何ヶ月かなら特に問題はない。振り返ってみればこの一年くらいとにかく忙しすぎた。家族にはほんとに最低限のケアしかできずにやって来た。もちろんそうするだけの必要があったからなんだけどそろそろ足を洗ってもいいのかなと思い始めた。まあまた塾がピンチになれば話は変わってくるかも知れない。でもそうなるまでは自分にとっての優先順位に従いたい。という訳であくまで実験的という範疇内での話だけどバイトを減らす。減らしてみる。今日のスイムは16分43秒で五百メートルと相変わらずの苦戦を強いられている。理由はよくわからない。

さすがにそれは無理。

 詳細を省くと昼寝から起きた直後にメールチェックしたら二時間前にウェブサイト経由で体験授業の申し込みが来ていてその希望日時が二十分後に迫っていた。二時間前に二時間後の体験授業を申し込まれるというのも初めてだったしこちらも対応しきれるとは思えなかったので即刻電話して相手が出ると名を名乗り体験授業の件ですがと口を切ると無理ですかと即座に答えが返ってくる。そんなの無理に決まってんじゃんと思いながら一時間後からならなんとかと答える。するとじゃあということでもう少し遅い時間を希望されたので承諾して電話を切った。約束の時間に生徒さんとお父さんが姿を見せたのでしばし面談。新年度で中二になる女の子で簡単に言うと若干反抗期が入っててでもお父さんの言うことには渋々従うというスタンスに見えた。僕に対しても反抗的でやりにくいなあ。でもまあ授業をしてから判断しようと思って始めるとわかろうという気があまり感じられない。わかってもわからなかったことにしておきたいみたいな。でもまあある問題に関して解説を終えてこれでいいですかと尋ねたら今イチよくわかりませんと答えるのでそういう挑戦的なところは嫌いじゃないなと思う。なんでもいいけど入ってもらえるといいなと考えている。
 今日のスイムは千泳ぐのに38分25秒かかってる。なんで数週間前より七分も余計にかかってるのかわからん。明日は時間的に千メートルは泳げないけど泳ぎには行くつもり。

半分だけ泳ぐ。

 春期講習の始まりが早い日だけど始まる前に泳いで塾が終わった後にも泳いで合計千メートルにしようと企んだことは昨日書いた通りだ。朝食も早めに出してもらって理想的な時間にプールに入ったとしても泳げる時間は二十分しかない。二十分あれば六百泳げるはずなので泳ぎ始めると泳ぐのが本当につらくて17分42秒で五百泳ぐのがやっと。それ以上泳ごうという気力がなくて打ち切りにした。ただそのときには残りの五百を夜泳ぐ気でいた。春期講習が終わった後は毎日ほぼ同じ。雨じゃなかったので遠回りして安いお弁当を買いに行き昨日と同じスーパーで買い物。帰宅後シャワーを浴びて飲んで食べる。そこで子供が実はと切り出して大学院に行こうと思うと言う。初めて聞いたよ。初めて言ったんだろうけど。とりあえず修士課程だけを考えるとすると二年間で学費が百五十万円かかるけどそれは貸与型の奨学金でまかなう。そして就職してから返済すると言う。ただ僕の持つ情報は古いのかも知れないけど修士課程を修了しただけではあまり大したことなかったんじゃないかな。もう三年かけて博士課程を修了しないと大学とか院とかで職を得ることはできないんじゃなかったかと思う。でもまあ今はそうじゃないかも知れないし子供なりにこうしたいという方向性ははっきりしてるようでもある。もちろん反対する理由もその気もない。ただ一浪した後も受験に落ちまくってもう放送大学でいいとまで言ってた子が随分変わったもんだとは思う。子供が出かけてから僕は浮かない顔をしてたのかがっかりしてるのと家人が声をかける。正直なところを言うと卒業まであと一年と思ってがんばってきたのにまだ肩の荷を下ろしきれないのかと思うと若干うんざりする。そういう意味のことを答えると僕がそこまで背負う必要はないんじゃないかというのが家人の意見だった。本人も随分しっかりしてるし全部任せてしまっていいんじゃないかと。ただ僕としては毎月家人に渡してる生活費がたとえば月三万でも二万でも減ってくれたら随分楽になる。子供の食費を負担しなくてよくなればそれは可能だと思う。また家賃とか光熱費とかはしかたないとしてもスマホ代とかは就職したら当然自分で払うようになるだろうと思って期待していた。でも来年以降も職に就かないならそれもどうなるかわからなくなった。僕たち夫婦はそろそろ老後のために本気で貯蓄しなければならないところに差しかかっている。太宰治の「桜桃」じゃないけど「子供より親が大事」になりつつある。ここ半月バイトを休んでたらものすごい気が楽でこのままやめちゃう訳には行かないものかなあとか夢想したりもしている。まあ年金を全額貯蓄に回そうとすればそれは明らかに無理なんだけど夢想だけはしている。そうなったらどんなに楽だろうと。でもまだ向こう十年くらいはバイトしなきゃいけないのかなあ。とか考えると気持ちが暗くなる。
 昼寝の後塾へ向かう。今日は二度目の体験授業の女の子が来る日でおばあちゃんが送って来た。授業ご覧になりますかと尋ねると観たいとのことだったのでいちばん後ろの席に座ってもらう。でもしばらくぶりなので忘れてたんだけど保護者が観てる授業がいちばんきついんだよね。気を抜く暇というのがまったくない。それでへとへとになって夜泳ぐのはやめようかなあと思う。という訳で今日のスイムはいつもの半分だけ。

どうなってるんだろう。

 春期講習やらなんやかやで今月八日まで十五日間にわたって午前中のバイトに入らない。そんなに入らないのはかなり珍しいことなんじゃないかと思う。お客さんでバレンタインデイにチョコレートをくれたワミさんなんかはもしかして寂しがってるかも知れない。というのは単なる思い上がりかも知れない。とにかくそれだけシフトに入らないと状況がよくわからなくなる。四月の年度替わりで結構いろいろなことが変わったらしいんだけど今は一体何がどうなってるんだろうと思う。次のシフトに入るのが少し恐いような気もする。朝泳ぎに行くと今日の午前中は新人さんの中でもよくやってる男女のふたりがシフトに入ってることがわかった。しかも通常よりきつい二人態勢だ。僕がプールから上がるのを待ち受けていていろいろ質問する。時間もあまりないんだけどまあ不安なのかも知れないと思って丁寧に答える。質問ができるということはそれだけ仕事に対する理解が進んでるということでもあるし。ところがそういう日に限ってちょっとよくわからない指示書が詰め所に置いてあるのが見つかったりする訳だ。これって何のことですかねと女の子の方が尋ねる。読んでみたけど確かに何を言ってるのかよくわからない。社員さんに尋ねた方がいいですかと言うのでそうしたらと答えると事務所まで一緒に来て下さいと言う。自分ひとりでは社員さんに質問するのも今いち不安ということらしい。おいおいオレ仕事しに来てるんじゃないんだけどと思うけどまあ少しでも助けになればと思って着いて行く。結局僕が社員さんと話したところ社員さんにも意味不明ということで指示書に今日は来てないバイトの署名がしてあったので明日以降その人が来たら直に確認してみようということに話は落ち着く。水曜日はウィークデイの中ではいちばん楽な日だからリラックスしてやってと最後に言い残して帰る。うまく行くといいんだけど。春期講習後はほぼ昨日と同じ。家人が迎えに来て一緒に買い物に行く。セロリが半額になってたので二本買う。僕はセロリが好きだ。マグロの角切りが異様に安かったのでひとパック買う。子供が好きだから。栃尾揚げは値引きされてなかったので買わない。値引きされてるのを昨日のうちに見つけて今日の分まで買っておいたから。子持ちししゃもの試食を店員さんに勧められたらおいしかったのでひとパック買う。五尾入りで百五十円は安い気がする。家人はパンの試食をしてそれもおいしかったらしくひとつ買う。とかいうティテールが結構楽しい。僕はどうやら買い物が好きみたいだ。自分では気づかなかったけど家人がそう言うからそうなんだと思う。ちょっとしたストレス発散になる。帰宅後シャワーを浴びてから飲んで食べて昼寝。起きてから授業。合間に母親に電話して誕生日おめでとうと伝える。コロナでの入院以降は足がますます弱ってると言う。ただ同居の弟が買い物なんかよくやってくれるらしくそれはよかったと思う。仲が悪かったこともあったみたいだけど今はいい関係らしい。明日は春期講習の時間が早くて朝は泳げそうにもない。と思ったんだけど朝だけや夜塾が終わった後だけで千メートル泳ぐのは確かに難しいけど合わせ技ならなんとかなるんじゃないかと思い直す。だから朝行って何百か泳ぎ残りを夜泳ごうかと思っている。今日のスイムは36分37秒で千と相変わらずの低迷振り。でもとにかく泳ぎ続ける。

夕方泳ぐ。

 朝起きると泳ぎに行く気力というのが自分の中に感じられないことに気づいた。なんなのかねあれ。嫌な予感というのとも違うし疲れ果ててるというのとも違う。ただあえて言えば違和感みたいなのがあって泳がない方がいいんじゃないかという気がする。理由はよくわからない。それで七時前に起きて朝食の準備をしてくれてる家人にやっぱ今日はよそうと思うと言うと普段から僕はもっと休んだ方がいいと思ってるらしい家人はにこにこしてじゃあ行くのやめればと言ってくれる。こういうときに男なら一度こうと決めたことは石にかじりついてでも(意味不明)やり遂げなさいみたいに言ううちの母親みたいな人もいるんだろうと思う。でも家人は一貫して僕が楽になるような選択肢の方を笑顔で支持してくれる。そう言われるとこの人もこう言ってくれてるんだから今回は自分を甘やかしてもいいかあみたいになる。それがいい選択なのかどうかはわからない。でも夫に対する気遣いは伝わって来る。プラスできるだけ長い時間自分と一緒にいて欲しいと結婚後二十五年近く経っても尚家人が思ってることもなんとなくわかるようになってる。世界はそれを愛と呼ぶんだぜ。と思う。だからプールへ行くのはやめにして行くつもりでプロテインの粉末を入れちゃったシェイカーを携えて春期講習へ行く。授業の合間にシェイカーに水を入れて振って飲む。我ながらなんの運動もしてないのになんでそんなもの飲むのかわからない。でもまあ飲んどく。春期講習が終わると塾のドアの外で家人が待ってて一緒に買い物に出る。バスで三停留所分をいろいろ話しながら歩き昨夜居間に蚊が出たので駆除するための薬を買いお弁当屋さんで三人分のお弁当を買う。それからまたてくてく歩いて最寄りのスーパーへ行ってアテとかアルコールとか買って帰る。後はまあいつもと同じ。昼寝の後午後の授業を終えると一時間空く。つまり小学生の授業を終えると中学生の時間までに一時間空くということで今年度の時間割では火曜日はそういうことになった。それで泳ぎに行くことにする。残された時間は一時間。プールに行って着替えて準備運動するのに十分。泳ぎ終えてシャワーを浴びて着替えるまでに十分。とすると泳げる時間は正味四十分。昨今の調子で言うと四十分で目標の千メートルはお客さんもいることを考えに入れると難しいかも知れない。でも結果は34.11分で千メートルのまあまあの記録。よかった。すごい自信になった。その後も夜の授業を終えて今にいたる。じゃあね。

病者の光学。

 病んでいたり弱っていたりする人特有の視線が常人には気づけないことに気づかせてくれることを称してニーチェが「病者の光学」と言ったと記憶してる。(この前ソシュールの「コノテーション」という概念を完全に履き違えてたことに後から気づいたのでこの手の話題には慎重にならざるを得ないけど。)その伝で言えば穂村弘さんというのは「病者」に当たるんじゃないかと思う。自らを「世界音痴」と位置づけるのもこの病者の自覚ゆえのことのように思われる。だからこの人はかなり変わった人ということになる。でもその感じ方や眺め方は時としてものすごい共感を呼ぶ瞬間をつくり出す。それはまばゆい光のように一瞬目を覚まされるような鮮やかさでこちらを震撼させそして過ぎ去って行く。後には今のはなんだったんだという不思議なクエスチョンマークが残る。でもそれはこの作者の言うことに自分は今完全に共感したという確かな手応えを伴ってもいる。その人の言うことのたとえば九割が理解しがたいものであったとしても残りの一割がこれは他ならない自分のことを言ってるんじゃないかという共感を呼び起こすことができるならその言い分に耳を貸す価値は充分あるんじゃないかということになるだろう。僕にとってこの「世界音痴」とはそんな一冊だった。相変わらず短歌はよくわかんないけど。
 朝イチからの春期講習が泳ぐ時間を奪う日。午前中の授業が終わると最寄りのスーパーに出かけ先に出て遠回りして安いお弁当を買いに行った家人と合流する。夕食のためのものやアテなどを買って帰る。子供のバイトが午後すぐに始まるので正午を待たずに昼食。家人と僕は飲んで食べて昼寝。昨夜夜中にお手洗いに起きたら居間の灯りがまだ点いてたのできっと家人は夜遅くまで原稿を書いているんだろう。そのせいかいつもより長く昼寝している。僕はアップルウオッチが振動してかすかなアラームが鳴ったのに気づいて飛び起きる。見ると電話の着信だったのでそばに置いてあったスマホを手に取る。この同期機能のおかげで最近スマホへの着信を見逃すことがなくなった。便利と言えばとても便利。アイコンをスワイプするとこの前体験授業に来た新小四の女の子のお母さんからで授業の雰囲気を知りたいからもう一度体験に行きたい。ついては日時を打ち合わせたいと言うので打ち合わせて四日木曜日の午後に決まる。この前の体験が一対一だったので他の生徒さんに混ざってもう一度授業を受けたいとの趣旨。そういう人も珍しいけどまあそう言うんなら嫌とも言えない。それで目が覚めて何げなくスマホを眺めると雨が降り始めるとの警告が見つかる。家人がまだ眠ってるみたいなので起こしたくなくてなるべくそーっと窓を開けると雀の涙より細かい雀のくしゃみ程度の雨が降ってるのに気づく。それでも長時間浴びてたら結構な水分量かも知れないと思って取り込むことにする。取り込んでから居間に行くと物音で家人を起こしてしまっていた。なんか電話で話してた?と言うので事情を話すと入ってくれるといいねえとこの十一年間で何度聞いたかわからない言葉を口にする。でも家族の立場じゃそう言うのが精いっぱいなんだなと思う。僕だって家人の新刊が出る度売れるといいねえとしか言いようがないもんね。それから塾で授業。おとついご成約になった生徒さんが初めてやって来て問題を解いてもらったらすごい出来がよくて安心する。国語も算数も心配ないじゃん。塾でお友だちができるといいですというお母さんのお話で確かにちょっと内向的な子に前回は見えてた。でも今日は僕に対しても目と目を合わせてお話ししてくれるし初めて会った同学年の男子ともすぐに打ち解けて楽しそうに話し始めた。この調子で行ってくれるといいなと思う。
 塾が終わった後泳ぎに行くことも視野に入れてたけどバイトが休みの日は施設に一歩も足を踏み入れないそのことこそがストレスを軽減するかなとも思って断念。今週は三月と違って夜も塾で埋まってるので土曜までバイトに行かない。と思うとすごく気が楽になるのはやっぱ結構我慢してバイトに入ってたんだな。だから今日のスイムはお休み。明日は朝から泳ぎに行く。つもり。