大衆映画食堂

昭和の日本映画に登場する食べ物たちの記録

『牝犬脱走』配膳当番、サンドイッチ

牝犬脱走

規律正しいとある女子刑務所雑居房に入れられた北城加代(炎加世子)は、同房の長池春美(滝瑛子)、西田礼子(坪内ミキ子)、小出ユキ(高田美和)から脱獄計画を持ちかけられる。彼女らはそれぞれシャバに未練を残したままこの刑務所に入れられ、遠い未来の釈放日を待つ身だった。叔母に預けた子供のことが心配な加代は、心優しい関根保安課長(文野朋子)に子供の様子を見に行ってもらうも、子供がどう過ごしているかを聞いたときに関根保安課長が言葉を濁したことから、子供が不幸な目にあっているのではと思い、ユキらの脱獄計画に加担することに。看守の監視が薄くなるレクリエーション大会の日、彼女らは刑務所を脱走する。

大映の女囚もの。色物っぽいタイトルだが、内容はわりとまとも。とは言っても、映画としてはどうかと思うが……。


┃ 配膳当番

ユキらは刑務所のレクリエーション日、みなが卓球に興じている間に食事の準備をする配膳当番になり、看守の隙をついて脱獄する。東映だと刑務所もの=食い物描写が病的に執拗なのが定番だが、大映ではさほどでもないのが会社の特色か。ユキらもさらっと普通に配膳当番をこなしていた。

┃ サンドイッチ

4人は脱獄後は、それぞれシャバに残した「未練」のもとへ向け、ばらばらに行動することになる。そのうち加代はホステス時代の友人の家へ転がり込む。友人は加代の姿を見て驚くが、すぐに彼女をかくまってくれる。このとき友人が加代に作ってくれるのが、薄いトーストにバターを塗ってハムを挟んだサンドイッチ。ほかにも森永牛乳や巨峰を出してくれる。加代はこの食事にがっつく。

東映だと『冬の華』で「ムショから出たばかりの健さんがパンにジャムをぬるとき、ジャムを2度塗りする=ムショの中では甘いものに飢えて
いるので、別にそんな旨いわけじゃないジャムでも思わずたっぷりつけてしまう」というわざとらしすぎるシーンがあったが、本作ではそういうものはなかった。

『間諜中野学校 国籍のない男たち』砂糖壷のトリック、賑わう地元食堂

間諜中野学校 国籍のない男たち

太平洋戦争末期、陸軍中野学校に入学した有坂明夫(二谷英明)は中支へ派遣され、宝石商というふれこみで現地宝飾店へ勤め、抗日ゲリラの情報を収集する任務にあたる。有坂はその街で、卒業演習で軍事工場に潜入して捕縛されて以降行方不明になっていた同級生・原田(近藤宏)と再会。彼は軍部から小銭をもらって無為な日々を過ごすスパイとなっていた。有坂は原田とともに行動するうち、外国人向けの高級クラブで働く宋蘭花岩崎加根子)という女給に出会う。彼女は病気の妹(山本陽子)のため、なんとか金を作ろうと奔走していた。有坂は本来は二束三文にもならない指輪を彼女から買い取ってやり、それをきっかけに彼女と親しくなるが、戦火と抗日ゲリラの活動はますます激しくなってゆき……

陸軍中野学校もの、日活編。アクションテイストが強く、他社の戦争ものにあるような怨嗟が影も形もない。このペラペラっぷりがよくも悪くも日活らしいというか……。なので、岡本喜八などのような東宝系戦争映画を期待するとかなりずっこける。しかし、厭世的な元同級生などのキャラクターは良い。日活アクションと割り切って観るべきなのだろう。

※本来は作中に登場する食べ物すべてをカバーしたいのだが、鑑賞本数が多いため、記事を書くスピードが全然追いつかなくなっている。なので、本記事以降は登場する中で印象的な食べ物だけをピックアップして書く形式にしようと思う。


┃ 砂糖壷のトリック

陸軍中野学校の授業内容「コーヒーに毒入り砂糖を入れて相手に飲ませる方法」。
砂糖壷の片側にだけ毒入りの砂糖を入れておき、相手に飲ませるコーヒーに入れる分はそこから砂糖を掬い取り、自分のコーヒーに入れる分を取るときは逆側から掬い取るというトリック。同じ砂糖壷から砂糖を取っており、自分も口をつけるので、相手に怪しまれずに毒を盛れるというわけ。二谷英明が授業で模範実習をさせられる。

┃ 賑わう地元食堂

有坂が原田に連れて行かれる食堂。カウンターとテーブルがいくつかあるだけの小さい店で、常連客らしい地元民で賑わっている。
カウンターの上には卵が山盛りにされたカゴが置かれており、その向こうで店主がせっせと料理を作っている。原田は常連らしく、店主が適当に見繕って料理を出してくれるようだ。よそのテーブルには豚足が出されている。他のテーブルでは日本軍の横暴に怒る民衆たちが騒いでおり、まだ土地に慣れていない有坂は驚くが、原田は冷静に彼を制止。この土地に長くいる原田は、日本軍の劣勢を知っていた。

『陽のあたる椅子』カフェテリア形式の社食、葬式の寿司・供え物のリンゴ、お茶、接待のウィスキー・おかず系おつまみ、手作りの梅酒、ジュース、バーのウィスキー、枝豆、カルピス、ごぼう、ビール・ピーナッツ、弁当、2客のティーカップとケーキの銀紙

陽のあたる椅子

とある会社の経理課長が自殺。残務整理により、死んだ平川は340万円もの横領をしていたことが発覚する。会社は後任として堅物で真面目一徹の渋沢夏樹(加東大介)を抜擢した。ある日、渋沢のもとに平川の未亡人・澄子(白川由美)が面会にやって来る。横領分の返済のため、退職金等は会社が回収することを告げると、澄子は何も知らなかったと言ってひどく驚く。哀れに思った渋沢は数日後平川の自宅を訪ね、澄子に退職金等以上の賠償請求はしないで済むかもしれないことを報告。用を終えて帰ろうとすると、澄子は玄関で泣きながらうずくまった。このときから渋沢は澄子と関係を持つようになり、東北出張へ彼女を同伴するまでになったのだが……


東宝暗黒サラリーマン映画。いい話っぽく思えるのはタイトルだけ、実際の内容は暗雲たれ込めまくりな話で、池野成の不穏な音楽が不安感をあおり立てる。不安が無限連鎖し、最後の最後までイヤな方向のどんでん返しが待っているという暗黒っぷり。『ナニワ金融道』とか『ミナミの帝王』で地獄に墮ちる人を加東大介が演じている感じだった。


┃ カフェテリア形式の社食

オープニングは、ごく普通の会社員の会社生活を捉えたスチール写真。みんな揃って仕事して、みんな揃って休憩して、みんな揃って退社して、みんな揃って……、そういう画一的な会社生活の一環に、「昼休みに社食で昼飯を食う」という場面を捉えた写真が入っている。カフェテリア形式の食堂で、メニューは定食が多い感じだった。 

┃ 葬式の寿司・供え物のリンゴ

経理課長・野中の告別式。野中の家は新しく出来た大きな団地。誰もが羨むような最新の設備が整っている。その団地の部屋で、彼の告別式が行われている。喪主は奥さん・澄子で、狭い居間に祭壇がしつらえられ、弔問客が壁に沿って座っている。カメラ手前のほうに見えている座卓の上に、振る舞い用の寿司が置かれているのが見える。また、祭壇にはリンゴが盛られている。

┃ お茶

本作では会社生活や日常生活の場面でお茶が頻繁に出てくるのだが、あまりに多すぎて書いているときりがないので、1回分だけ。
平川の残務整理中、経理課長の立場を利用した380万円分もの使い込みが発覚する。役員会議の結果、後任には保守的で生真面目な渋沢が選出された。渋沢は庶務課課長(だったかな?)で、細かいところに異様に気がつく、真面目だけが取り柄の男だった。渋沢はさっそく経理課の部屋へ引っ越し。庶務課の事務員・市子(北あけみ)に湯呑みや荷物を持ってもらって、経理課の日当りのよい課長デスクへやって来たのであった。

┃ 接待のウィスキー・おかず系おつまみ

そこから渋沢の接待漬けの毎日が始まる。庶務課時代にはなかったクラブやバーづきあいに、酒にあまり強くない渋沢はすぐに参ってしまった。豪勢なクラブで出てくるのはウィスキーやおかず系おつまみ。プリント状態がそれほどよくなかったのではっきりは見えなかったが、本作ではなぜか唐揚げ(?)やサラダ盛り合わせのような、わりとガッツリ系おつまみが主流のようである。大きい皿に盛られているのも特徴。

┃ 手作りの梅酒

渋沢は平川宅を訪ね、未亡人・澄子に賠償請求はしない見込みだということを告げる。
澄子は台所へ行って、大きな魔法瓶(細長い炊飯器みたいな形状)から大きな氷の塊を取り出して、渋沢に冷たくした飲み物を出す。その飲み物というのが、田舎から送ってきたという梅酒。澄子は麦茶にしようとも思ったんですけど、みたいなことを言うが、なぜここで梅酒? 仕事で訪問してきてるのに?? と思うが、後々の展開を考えると脚本上の理由はある。いや、もしかしたら当時は梅酒がいまより気軽にジュース感覚で飲まれていたのかもしれないけど。氷がポットに入れてあるというのは面白かった。家庭には冷凍設備がそこまで普及していない時代だったんだろうね。

┃ ジュース

庶務課の社員・佐原(伊吹徹)と事務員・市子は不健全交際中である。渋沢からは「真面目につきあっているのか、ちゃんとしろ」と言われているものの、彼ら自身は渋沢のことを慕っているようだった。
澄子が住む団地にはなんと佐原も住んでいた。澄子を訪ねた帰り、渋沢は団地のプールで遊んでいた佐原と市子に出くわしてしまったのだ。その場はなんとかごまかしたものの、このままではいつか澄子との関係が会社に知れてしまうと考えた渋沢は、後々佐原が開設されたばかりの青森の現場へ飛ばされるように差し向けることとなる。
この団地のプールのシーンで、プールサイドのはつらつとした若者たちがジュースを飲んでいる様子が写る。

┃ バーのウィスキー

接待にもだいぶ慣れてきた渋沢は、バーでウィスキーをがぶ飲みできるようになっていた。酒癖が意外と悪いらしい渋沢に、他の部の部長や課長たちが絡んでいる。

┃ 枝豆

団地の入り口まで出張販売に来ているトラック八百屋で、澄子が枝豆の束を買うシーンがある。その後ろを密会に来た渋沢が通り過ぎてゆく。澄子は団地の人に気づかれないよう、そっと彼の後ろをついてゆく。
澄子が枝豆を(一人では食べきれないくらいの量の)束で買っているのは、渋沢が頻繁に彼女の部屋を訪れているということなのだろう。

┃ カルピス

澄子を東北出張に同伴し、松島で営業していた観光写真屋(沢村いき雄)に記念写真を撮ってもらった渋沢。ところがその写真屋が彼らの写真をボードに貼って掲出していたため、それを見た渋沢の旧友・荒木(有島一郎)が写真屋から澄子の住所を聞き出し、澄子の部屋を訪ねてきてしまう。焦った渋沢は地下街にある喫茶店で荒木と会うことにした。喫茶店は壁が通路に面してガラス張りになっており、ガラスの向こうに「東京デパート」「昭和堂」の看板(?)が見える。
荒木は出てきたカルピス(多分)を飲みながら、いまは旅行会社をやっており、その事業のために人付き合いをよくしたくて渋沢を訪ねてきたことを告げる。有島一郎、あやしさ爆発。

┃ ごぼう

澄子は生活のために洋裁店に勤め始めた。その仕事で、澄子は代田にある渋沢の自宅を偶然にも訪問することになってしまう。渋沢の娘がその店の得意客だったためだ。澄子が採寸をしているとき、これまた偶然に渋沢が帰ってきてしまい、気まずいことになってしまう。
その後、澄子の部屋を訪ねた渋沢は、二人で夕飯用のごぼうを裂きながら今後について話し合う。いや、ごぼうだと思うんだけど、あれは本当は何なんだろう。15cmくらいに切られた何か細長いものを二人してスーっと裂いてるんだよね。巨大ホワイトアスパラだったりして……

┃ ビール・ピーナッツ

実は荒木は市子と関係があった。荒木は市子から渋沢の弱みを聞き出そうとする。
二人がしけ込むボロい連れ込み旅館で出されているのが、ビールとピーナッツ

┃ 弁当

荒木の事務所は下町の川べりのボロい建物の中に入っている。これまたボロい事務所の中に荒木と数人の社員がおり、渋沢が荒木を訪ねていったときはその社員がモグモグと弁当を食べていた。

┃ 2客のティーカップとケーキの銀紙

荒木に脅迫された上に騙されて200万円分の小切手を略取された渋沢は、フラフラになりながら澄子の部屋を訪ねる。折角慰めてもらおうとして行ったのに、澄子は妙に冷たい。テーブルの上には「何故か」二人分の空になったティーカップと、ショートケーキの銀紙だけが乗った空のお皿2つが対面で置かれていた……

『三池監獄 兇悪犯』差し入れのもなか、ウィスキー、船倉の穀物、酒、巻き寿司、坑夫の食事のかゆ、みかん、うどん、米びつ漁り、おひつのご飯・吸い物・たくあん

三池監獄 兇悪犯

明治36年。三池監獄は三池炭坑での石炭採掘の重労働と苛烈な懲罰により、生きては戻れぬ地獄と恐れられていた。坑道別に班に分けられた囚人たちはその班長に付き従っており、中でも郡司(宍戸錠)はぼた安(伊吹吾郎)、丸目(汐路章)ら同房の者たちから厚い信頼と尊敬を得ていた。郡司たちが労苦に耐えかね脱獄を考えるようになっていたある日、北海常(鶴田浩二)という兇悪犯が釧路から移送されてくる。同房の者をいきなりサクッと殺した北海常に丸目らはいきり立つが、北海常はかつて釧路では典獄を人質にとって脱獄した者がいることを郡司にアドバイスする。三池での典獄視察は月末。郡司らは月末に向けて準備をはじめるが……

脱獄したりストライキしたりと色々忙しい大味刑務所映画。眉毛を剃った中年太り鶴田浩二が無表情な殺人鬼を怪演。宍戸錠は日活時代のプロポーションを保っていてえらいと思った。東映の刑務所映画は食い物描写に異様な熱気がこめられているが、本作もご多分に漏れず、熱意のありすぎる食い物描写が炸裂していた。


┃ 差し入れのもなか

三池監獄に送られてきた新規の囚人・三上真一郎(確か)。その女房・堀越光恵は身体の弱い彼を心配し、看守長・天津敏に頼んで監獄から炭坑までの道で彼の姿を見ることを許してもらう。彼女が身を乗り出した際、持っていた差し入れのもなか(よく見えなかった)が水たまりの中にぼたぼた落ちる。

┃ ウィスキー

囚人たちは劣悪な環境でカスのような食事しか食べていないにも関わらず、戒護課長・金子信雄はいつも何かをモグモググビグビしているのがこの映画の特徴。まずはウィスキーをグビグビ。

┃ 船倉の穀物

釧路集治監から三池への囚人移送船。囚人たちは船倉へすし詰めにされている。そこへやって来たのは護送主任・山本麟一。エラソーな態度を取ったため、手足を鎖に繋がれて片隅でおとなしくしていた北海常に、首に鎖を巻き付けられて絞殺される。まわりの囚人たちは山麟の死体の上に積荷の穀物を崩し、「主任さんが積荷の下敷きに〜〜!!!」と叫んで看守たちを呼ぶ。こぼれた穀物が山麟の顔にかかる。

┃ 酒

三池監獄のワル役人、典獄・安部徹らは三井三池坑長・遠藤達郎と癒着しており、囚人たちを牛馬の如く行使して生産高を上げさせようと目論んでいた。その賄賂会議でたしなむ

┃ 巻き寿司

郡司らの動きに不審を感じた金子信雄は、同房の老人・徳爺(谷村昌彦)を呼び出し、脱獄計画を密告するように促す。このとき金子信雄がモグモグしているのが巻き寿司。具はかんぴょう・たまごが入っているみたいだった。

┃ 坑夫の食事のかゆ

ワル役人たちは料理屋などで良いものを食べているが、囚人たちはそうもいかない。石炭採掘は重労働であるにも関わらず、薄いかゆ程度しか出ないのだ。かゆはぱっと見、ヤギの乳に玄米か麦かをほんの少し入れたもの、っていう外見。それをカマ口調の配膳係がグイグイこっちに迫りながらよそってくれる。

┃ みかん

徳爺は結局脱獄計画を謳わなかったため、リンチの末殺された。次に呼び出されたのは北海常。今度の金子信雄みかんをバクバク食っている。促された北海常もみかんをバクバク食う。だが、北海常もまた脱獄計画を謳うことはなかった。

┃ うどん

次に買収されたのは大木実。彼は別房の班長であり、郡司の脱獄計画に協力するという約束があった人物。しかし、うどんを食べさせてもらった大木実は郡司の脱獄計画を金子信雄らにバラしてしまい、郡司たちの脱獄計画はすんでのところでバレてしまう。素うどんで買収される男、大木実……。北海常や南利明らは爆破のどさくさにまぎれて脱獄するも、北海常以外のメンツは逃走中に殺されてしまい、北海常だけが生き残って屋外懲罰房へ閉じ込められる。
屋外懲罰房というと『脱獄広島殺人囚』の「お稲荷監房」だっけ、小さなお社のようなコンクリ牢屋に決まった姿勢で閉じ込められるというあれが思い出されるが、こちらはさらにひどくて、小さな猿の檻みたいなのに閉じ込められて天気関係なく放置されるという懲罰。この懲罰を受けた者は3日で死ぬという。

┃ 米びつ漁り

脱獄に失敗した郡司らは第一坑道を封鎖して立てこもりを決行。第一坑道は会社にとって重要な坑道であるため、三井三池鉱長の遠藤太津朗が解決を強行に指示してくる。立てこもる郡司らは持久戦となり、食べ物を節約していかに長期に渡って篭城するかに賭けることに。長期のストライキとなればなるだけ会社に損失が出て、会社が折れてくる可能性が高いからだ。もともと粗末だったかゆを小さな竹筒カップに分けてちゃんと計画的に食べていたけど(普段は粗末な茶碗で食べていた)、それも底を尽き、米びつを漁ったりするもそれもカラ。絶体絶命である。

┃ おひつのご飯・吸い物・たくあん

立てこもりの長期化……というかストライキの長期化に困り果てた金子信雄は、懲罰房に閉じ込めていた北海常に郡司の説得を依頼。なんと5日も懲罰房で耐えていた北海常を妓楼に連れてゆき、女郎に身体を暖めさせた。そして目の前に、炊きたてのご飯をおひつにいっぱい・吸い物・たくあん・おかずなどの食膳を出す。懲罰房はおろか、三池監獄ではありえない豪華な食事だ。郡司に義理立てしている北海常はそれに手をつけようとしなかったが、女郎が「食べられるときは食べておき、説得するかどうかは後で考えればよい」と促され、彼女によそってもらったご飯を食べ始めるのであった。

『悪魔からの勲章』銀座の喫茶店「ブラック」、コーラ、ソフトクリーム、ブランデー、コーヒー・モーニングのトーストセット、冷茶、海の見えるレストランのランチ、ルームサービスのブランデー

悪魔からの勲章

モテモテのイケメン私立探偵・阿久根五郎(田宮二郎)は、妹分のファッションモデル・リス(梓英子)とドライブ中、トラックと乗用車がぶつかる交通事故を目撃。阿久根は大けがを負った佐原氏(隅田一男)を病院へ運ぶが、佐原氏は亡くなってしまった。それ以来、阿久根は2度にわたり謎の男たちに拉致されたり、家捜しをされたりという事態に巻き込まれ……。

いかにも田宮二郎主演って感じの大映大味サスペンスアクション。途中から意識が朦朧となった上に見終わった瞬間内容を忘れてしまったため、以下は相当不完全なリストとなっている。見終わった瞬間内容を忘れる映画というのは大好きだが、こういうとき困る。田宮二郎がイケメンだったこと、リスというニックネームのロリっ子がいたこと、音楽がワイルドアームズみたいだったことの3点は覚えています。


┃ 銀座の喫茶店「ブラック」

阿久根のことが大好きなリスは、知り合いから阿久根へ「友達が誘拐された、相談したいので直接会いたい」とかいう電話をかけてもらって、銀座の喫茶店「ブラック」に阿久根を呼び出す……っていう流れだったと思う。確かテーブルが切れる構図で撮られていて、飲み物等は映らなかったはず。

┃ コーラ

メモ帳に「コーラ」と書いてあるも、記憶なし……

┃ ソフトクリーム

大けがをした佐原氏を病院へ運んだため、阿久根の愛車・コスモスポーツに血がついてしまう。阿久根はガソリンスタンドへ寄ってクリーニングをしてもらうことに。クリーニング中、暇を持て余しているリスがソフトクリームをペロペロしている。

┃ ブランデー

阿久根の自室での飲み物。ザ・ハードボイルド。カッコイーーー。

┃ コーヒー・モーニングのトーストセット

阿久根の朝食は、喫茶店コーヒーとトーストセット。新聞を読みながらゆっくり食べるのが彼流の模様。新聞に昨日の交通事故のことが出ていないことを訝しがる阿久根(というシーンだったと思う)。

┃ 冷茶

阿久根が佐原氏の自宅を訪ねると、娘の加代(江波杏子)が冷茶を出してくれた。加代の話によると亡くなった佐原氏は船医で、船の中で変死した中国人・林慶英から何か預かりものをしたらしいことが判明する。

┃ 海の見えるレストランのランチ

加代が連れて行ってくれた港のレストランでランチを取るシーンがある。しゃれた店というよりも、ちょっとさびれた観光地のレストランみたいだった。もっと言うと、学食みたいだった。

┃ ルームサービスのブランデー

リスの身を案じ、彼女をホテルにかくまうことにした阿久根。わりとのんきなリスはルームサービスでブランデーを頼んだりするが、謎の組織に襲われ殺害される。

この後、(私の)意識は途絶えたが、レストラン「クレオパトラ」がどうたらという話があったはず……

『父子草』おでん屋台「小笹」、持参白飯とぜんまい・大根、がんも・たまご・タコ・ネギマ、持参白飯と大根・お豆腐、お酒かチュウか、50円分のおでん(うんとしみたとこ)とチュウ、旅館での復員祝い、野良犬にもおでん、差し入れのお団子、差し入れの煮魚、みかん・りんご・森永のドロップ、ユビヌキ・おごりのお酒

父子草

踏切の警報機が鳴り響く線路脇。ガード下に出ている小さなおでん屋台「小笹」は女将・竹子(淡路恵子)が女手ひとつで切り盛りしている。その「小笹」に、平井(渥美清)という土工の男が来ていた。初老に差し掛かるかという年頃にも関わらず短気で喧嘩っ早い平井は、「小笹」の常連の勤労予備校生・西村(石立鉄男)が自分の奢りを受けなかったことが気に入らず、喧嘩をふっかける。老体な平井は当然のごとく西村に負けてしまうが、その翌日、雨の中西村が「小笹」へ夕飯を食べに行くと、あの平井がリベンジマッチだとばかりに待ち構えていた。しかし平井は西村にまたもぼろ負け。3日目、その日は平井がいつまで待っても西村は姿を現さなかった。しばらくして西村と同じアパートに住んでいる娘・美代子(星由里子)がおでんを買いにやって来る。西村は昨日喧嘩でびしょぬれになってそのままバイトへ行ったため、風邪を引いて寝込んでしまったというのだ。その話を聞いた平井は、「飯場の仲間に持って行ってやりたいから、おでんを鍋へたくさん入れてくれ」と女将に頼む。


滋味溢れる人情もの。トーンを押さえた演出が地味ながら味わい深いストーリーを際立たせている。石立鉄男と星由里子がとてもカワイイのが良い。人生の酸いも甘いも噛み分けた渥美清淡路恵子の派手すぎない芝居も素晴らしい。浜村純にはかなり泣かされる。渥美清と親子とは絶っ……対に思えないが。まっとうで地に足がついた本作だが、そこだけは謎設定。

┃ おでん屋台「小笹」

どこか都心から離れた住宅が多い街の駅のほど近く。踏切の近くのガード下という立地に、おでん屋台「小笹」は出店している。片方が高架で片方が地上の2路線が乗り入れている駅の近くかな。電車の型からすると京成沿線という説がある模様。お客は帰りがけのサラリーマンが多いようで、常連もそこそこついているようだ。女将の竹子は一人でこの店を切り盛りして、旦那と子供を食わせているらしい。おでん鍋ではさまざまなタネがおいしそうな湯気を立てながら煮えている。結構ちゃんと煮込んでいるようで、ちょっと形が崩れているものもある。お酒は清酒と焼酎を用意。ピカルディのようなちょっと変わった形のコップを使っている。ワンカップ大関みたいなてきとうコップじゃないところがちょっと粋。

↑ こんな感じのグラス。ただし、中身はこぼれるくらいについでくれる。

┃ 持参白飯とぜんまい・大根

近所に住む西村は、昼は予備校に通い、夜は高校(?)の夜警のバイトをしている浪人生。親からの仕送りをもらわず、自活しているというえらい好男子である。予備校が終わったあと、バイトに行くまでに「小笹」に寄って夕食をとるのが彼の日課。四角いアルミ弁当箱に日の丸弁当を詰めて持参し、おでんをおかずに食べるのが好きらしい。今日も西村は「小笹」へやって来て、ぜんまいと大根をおかずにご飯をぱくつきはじめる。
ぜんまいのおでんって自分は初めて聞いたのですが、ネットで検索すると珍しいけどある程度存在しているもののようですね。なお、自分の実家のおでんは「だし汁でタネを煮て、すりごまを加えた味噌をつけて食べる」という名古屋文化圏でした。

┃ がんも・たまご・タコ・ネギマ

このとき平井が食べていたのががんも・たまご(多分)。平井は西村のぜんまいと大根といううら寂しい注文を見て西村に奢ってやると言い出し「タコやネギマだってケチケチすんな!」と女将に注文をつける。しかし西村は知らない人におごってもらうのはイヤだと見えてそれを固辞。平井は「人の好意を無下にしやがって!」と息巻き、西村に喧嘩をふっかける。

┃ 持参白飯と大根・お豆腐

その翌日。西村はまたも日の丸弁当持参で「小笹」にやって来る。今日は大根とお豆腐を食べるようだ。あいかわらずうら寂しいチョイス。昨夜の恨みを晴らすべく待ち構えていた平井は西村に再び喧嘩をふっかける。あまりのしつこさに、西村は雨の中、となりの空き地で平井を相手に本格的な大喧嘩をする。

┃ お酒かチュウか

このシーン、前後をちょっとうろ覚え。女将にお酒(清酒)かチュウ(焼酎)か、どちらをつけるか聞かれた平田は「決まってらい!」と答える。女将は言われなくてもわかっていましたという顔で「安いほうですね」と答え、棚の焼酎びんを取る。
本作では特定メーカーとのタイアップはないようで、酒は八重桜など、色々なものが置いてあってリアル。

┃ 50円分のおでん(うんとしみたとこ)とチュウ

3日目。平井がいつまで待っても西村は姿を現さなかった。だいぶ遅い時間になって、西村と同じアパートに住んでいるだんご屋の娘・美代子が小さな両手鍋を持ってやって来る。西村が昨日の喧嘩のせいで風邪を引いて寝込んでしまったので、おでんを50円分買って帰るというのだ。女将は「うんとしみたとこ」を鍋に入れてやるが、一連の会話を聞いていた平井は突如女将に「飯場の仲間におでんを持って行ってやりたいから、鍋を貸してくれ、たくさん入れてくれ」と言い出す。
女将は別煮用らしい小ぶりな鍋を取り出し、それにおでんを入れながら、全て見抜いたように「……少しでいいんじゃないのかい?」と言う。照れた飛来は「酒も持ってくぜ、チュウのほう!」と酒&おでんたっぷり鍋を手に、西村のアパートのほうへ歩いてゆくのだった。

西村の部屋を訪ねた平井はゴロ寝していた彼と一緒におでんを食べる。貧乏アパートで家具も勉強机とちょっとした戸棚くらいしかなく、食卓はみかん箱くらいの木の台を代用。箸箱と自分用の茶碗がはじめからそれに乗せてある。昔の映画だと、下宿人なんかは一応自分の部屋なのに箸箱を使っていることがしばしばある。昔は家の中でも箸箱を使ったんですかね。ちなみに平井用には奥から適当な茶碗を出してきていた。そして1杯だけチュウを飲ませてもらっていた。

┃ 旅館での復員祝い

平井は西村を息子のように思いはじめていた。女将はそれは平井には妻子がいないからだと思っていたが、実はそうではなかった。
平井には故郷の新潟に妻子がいた。もう会うことのできない妻子が。彼は「生きていた英霊」だったのだ。彼はシベリアに長期間抑留され、帰国できたのは終戦から5年を過ぎた頃だった。船で帰るという電報を打った彼を港で待っていたのは、年老いた父(浜村純)だけだった。
父は平井をさびれた旅館へ案内した。実家では平井は戦死したと思われており、平井の妻は彼の弟と再婚したという。平井は絶望のあまり旅館を飛び出すが、追いかけてきた父の説得で旅館に戻り、父とふたりだけで復員祝いの食事をとる。別に派手な料理ではなく、おかずは魚と小鉢くらいの粗末なものだった。ごく普通の漁民である彼の実家には、終戦間もないこともあって、平井を歓待するほどのお金がないのだろう。

┃ 野良犬にもおでん

……という話をしながら、寄ってきた野良犬におでんをあげている平井なのであった。

┃ 差し入れのお団子

大学受験をあきらめかけていた西村だったが、平井の励ましで一念発起。平井と西村の3回戦目は来年3月とし、西村が大学受験に受かれば西村の勝ち、落ちれば平井の勝ちということになったのだ。
西村はしばらく休んでいた夜警バイトにも真面目に出るようになった。そんな西村を応援する美代子は、宿直室に店の売れ残りのお団子を差し入れとして届ける。あらかじめ用務員室に電話を入れておいて、裏門を開けてもらったのだ。ふたりは夜のプールでしばし話し込む。

┃ 差し入れの煮魚

平井は貯めていた虎の子の5万円(だったかな?)を西村に渡そうとする。あまりの大金に西村も女将もびっくりして、自分のためにとっておいたほうが良いのではないのかと言うが、平井はどうしても西村に受け取ってほしかった。お金の心配でバイトをしなくてすむようにしてやりたかったのだ。そして次の工事現場へと旅立って行った。
時は流れ、雪が降る季節になった。久しぶりに平井が「小笹」へ訪ねてきた。西村はどうしているか聞く平井に、女将は「先だって煮魚を差し入れに行ったら、バイトの心配がなくなったので日がな一日一生懸命勉強していた」と答える。平井は今度は8万円以上もの大金を西村にやりたいと言う。これだけあれば滑り止めも何校も受験できるだろうと言うのだ。女将は平井も年なのだから万が一を考えて貯金をしたほうがいいと言うが、平井はどうしても西村に渡してくれと女将に頼み込む。

┃ みかん・りんご・森永のドロップ

平井はさらに、背中にしょっていた大きなリュックから、栄養つけにということか、みかんとりんごを紙袋いっぱい、それと森永のドロップ缶を取り出し、女将から西村へ差し入れてくれと頼んだ。

┃ ユビヌキ・おごりのお酒

そして3月がやって来た。平井はまた「小笹」に帰ってくる。タイミング悪く女将は留守で、常連客が勝手に鍋をつついていた。確かここでユビヌキは煮えてるよとかいう台詞があったと思うのだが、「ユビヌキ」なるタネがなんのことかわからないので、もしかしたら私の聞き間違いや文脈の取り間違いかも。
平井がふと見ると、屋台にはかつて平井が叩き割ってしまった父子草(ナデシコ)の鉢が置かれていた。それには、別れる前に西村へやった父子草の種が植えられていた。これによって西村の合格を悟った平井は、屋台にいた客にをおごると言い出す。
そして、女将に呼ばれてやって来た西村とついに再会を果たすのであった。

『怪異談 生きてゐる小平次』酒

怪異談 生きてゐる小平次 [DVD]
怪異談 生きてゐる小平次

時は江戸。しがない旅芝居役者、小平次(藤間文彦)と太九郎(石橋正次)、太九郎の女房のおちか(宮下順子)は幼少の頃より一緒に遊んでいた仲。今は一緒に旅芝居をしていて、将来は梨園の名家にも負けぬ立派な役者になろうと誓い合っていた。しかしながら小平次は以前よりおちかに思いを寄せており、「俺と一緒になってくれ」と繰り返していた。当のおちかはその気があるようなないような曖昧な態度でそれに応じていたが、彼女はある時妊娠に気づく。太九郎の子は産みたくないと小平次に打ち明けるおちかは旅の途中、わざと滝に打たれてその子を流した。しばらくして、太九郎と小平次はおちかを置いて旅芝居に出るが、その先で小平次が太九郎に「おちかを俺に譲ってくれ」としつこく迫ったため、太九郎は小平次を沼に突き落としてしまう。帰宅した太九郎は小平次を殺したことをおちかに告げるが、不思議なことに小平次が彼らの家に現われ……

幽玄な怪談映画。キャストは3人のみで、彼らの会話によってストーリーが進んでゆく。台詞はかなり芝居がかった口調で、舞台演劇調。加えて主人公たちの演ずる芝居のシーンもあり、こういう言葉を使うのはどうかとも思うが、いかにもATGな映画だった。

┃ 酒

小平次・太九郎・おちかは、三人で太九郎の家でよくを酌み交わしているようだ。
明日は旅へ出るという前の晩、三人は小汚い茶の間(?)で酒を酌み交わしたり、旅芝居から帰ってくれば三人で成功祝い(?)の三三七拍子を打ってまた飲んだり。
そして、殺したと思った小平次がぬーっと帰ってきたときには、太九郎とおちかはそれまでよりずっと豪華な料理と酒を用意して彼を歓待する。しかし、まだしつこく「俺におちかくれ」と迫る小平次を、今度こそ本当に動かなくなるのを確認できるまで、三味線の撥で執拗に殴って殺した太九郎なのであった。
だが…………