取り越し苦労

今はどれだけ絶望的だと感じていても

投げ出さず

黙々と

今できる事を成し続ければ

いつか幸せになれるのだと

あんな時もあったねと笑って懐古できるのだと

このどうしようもない不安は

ただの取り越し苦労なのだと

 

 

貴方と貴方と貴方の為に

私はこの命までも捧げる覚悟があります

レモン哀歌

智恵子抄 レモン哀歌

著者:高村 光太郎 

そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉(のど)に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓(さんてん)でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まつた
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう