琥珀色の戯言

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【読書感想】きみのお金は誰のため: ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」 ☆☆☆


Kindle版もあります。

現代の「お金の不安や疑問」を物語で楽しく理解!

<あらすじ>
ある大雨の日、中学2年生の優斗は、ひょんなことで知り合った投資銀行勤務の七海とともに、謎めいた屋敷へと入っていく。そこにはボスと呼ばれる大富豪が住んでおり、「この建物の本当の価値がわかる人に屋敷をわたす」と告げられる。その日からボスによる「お金の正体」と「社会のしくみ」についての講義が始まる。


 発売3か月で15万部突破の大ベストセラー!
 ということなのですが、僕はもう50過ぎのオッサンで、こういう「読みやすい社会の仕組みを若者に『賢人』が教えてくれるビジネス書」がときどきベストセラーになるのを眺め続けてきました。
 いや、ミーハーなので、「◯◯万部突破のベストセラー!」とか「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024第1位」とか言われると、とりあえず読んでしまうんですけどね。

 うーむ、中高生は、一度読んでみてほしい本、ではあると思います。
 あるいは、ビジネス書なんて読んだことがないけど、新NISAとかで投資が話題になっているし、自分もやってみようか、という人が、「投資沼」にどっぷり浸かってしまう前に読むと、バランスが取れるのではなかろうか。

 今の世の中、とにかく「お金を稼ぐこと」が優先されがちなのです。
 でも、大きな戦争が自国で起こったり、漫画『北斗の拳』のような世界になったりしたら、どんなにお金持ちでも、無法者の暴力の前には無力かもしれないし、何か買おうとしても、買う物資が枯渇してしまうかもしれない。

 そんな想像をしたことはないですか?

 僕もそういうことを半世紀くらい考えてきましたが、結局、ここまではそんな世の中になることもなく生きてきました。
 
 そもそも、こういう「贈与経済」的な話って、この数十年くらい、ずっと誰かが言い続けてはいるんですよね。


fujipon.hatenadiary.com
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著者のプロフィールに、「佐渡島平氏のもとで修行し」とあって、ああ、いかにもオンラインサロンをつくって参加者を「贈与」とか「人脈」「お金より大事なものがある」と激安価格で働かせそうだ……と思ってしまったのも内緒です。書いちゃったけど。

「簡単なことや。たったの3つの真実や」
 ボスが小さな指を立てながら、数え上げる。
「一、お金自体には価値がない。
 二、お金で解決できる問題はない。
 三、みんなでお金を貯めても意味がない」

 真実も何も、すべてが真逆じゃないか。そう思った優斗は疑問をそのまま口にした。
「謎すぎますよ。だって、明らかにお金には価値があります、よね?」
 味方を探して隣を向くと、七海がうなずいて続けてくれた。
「私もそう思います。お金で解決できない問題もありますが、多くの問題はお金で解決します。お金を貯めることにしても、将来に備えるためには必要なことです」


 読んでいると、それなりの「納得感」はある本なんですよ。
 そうだよな、お金はあまりにも尊ばれているけれど、無人島で大金を持っていても焚き火くらいにしか使えないし、って。

 いまのあまりにもお金が力を持ちすぎた社会へのアンチテーゼとして、若い人には、読んでみてもらいたい、とも思います。
 
 僕も最近、とくに50歳を過ぎてから、「お金は所詮、お金でしかないな」と感じることが多くなりました。
 お金があっても、とくに人間関係においては、幸せになれるとは限らない。
 ただ、お金がある程度あったほうが、さまざまなトラブルや面倒ごとなどの、不幸に至る道を避けやすいのも間違いありません。
 
 逆に言えば、世界大戦が起こったり、無法者が「ヒャッハー!」と跋扈したりするような社会にならないと、やっぱりお金はあった方がいい、あるに越したことはない。

 お金がなくても、愛や信用があれば、みんなで助け合っていけばいいじゃないか、という人もいるけれど、こういうことを主張するのは、すでに大金持ちだったり、ずっとお金を扱う職業についていたりする既得権者が一周回って「お金じゃ買えないもの、周囲のお金持ちと差別化できないもの」を求めるからではないか、という気がするのです。

 子どもの給食費が払えない、とか、奨学金を返すので精一杯、とか、高齢で身体が不自由になり、買い物も料理もできず、年金では生活していけない、という状況であれば、「同情するより、金をくれ」になりますよね。
 カードローン地獄に陥ったり、事業が傾いて金策ばかりしたり、になると「お金以外のことを考える余裕が全然なくなる」そうですし。

 「お金は万能ではない」というのは、「お金を見飽きてしまった人が罹患する流行病」みたいなものなのかもしれません。
 事業に成功した人やハリウッドスターが慈善事業に熱心なのは、「お金でできることをやり尽くしてしまったから」ではなかろうか。
 
 僕自身も、最近は少しずつ寄付をしています。
 それは、善意というよりは、自分の人生の終わりを考えると、少しは何か世界の役に立っておきたい、という未練ではあるのです。
 そんなにお金を持っていなくても、墓場まで持って行ってもしょうがないよな、とも思いますし。


 この本のなかでは、今の「大富豪」は、必ずしも身分や立場を利用し、搾取している人ばかりではない、という指摘もされています。

 ボスは新しい紅茶を2人についでから、ヒントを出した。
「さっきの僕の話に出てきた会社には、共通点があったんや。スマホの会社、検索エンジンの会社、SNSの会社、ネット通販の会社」
 やがて、答えがわかったと言わんばかりに、七海がツヤのある茶色い髪をかきあげた。
「どの会社の創業者も、さっきお話しした1台のバスに乗っている大富豪ですね」
「いやあ、大正解やな」
 とボスは笑顔を見せた。喜びながらも、答えられた悔しさをにじませるところに、彼らしさを感じる。
「みんなを等しく便利にした会社の創業者が、結果的に大金持ちになったんや」
 ボスの説明に、七海がため息をつく。
「そういうことでしたか。格差を縮めるサービスを提供しているのに、お金持ちだという事実だけが切り出されていたんですね」
「もちろん、金銭的な格差も小さいほうがええで。せやけど、その中身を見ないでむやみに批判するのはあかん。自分の立場を利用してずるくもうけるお金持ちと、みんなの抱える問題を解決してくれたお金持ちとでは意味が違うんや」


 著者は「起業家びいき」ではあると思うのですが、確かに「民衆から制度で搾取して金持ちになる支配者層」よりも、「みんなが望むサービスを創り出して、その対価で大金持ちになった人」のほうが、現代では目立つようになりました。
 それは、社会として、サービスを受ける側にとっても、良い変化ではありますよね。
 『ファクトフルネス』ではないけれど、なんのかんの言っても、世界は、少しずつでも良いほうに進んでいる、ということなのかもしれません。


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 僕は以前、こんな本を読んで考えたのです。

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「1年間お金を使わずに生活する実験をした29歳の若者の話」なのですが、いまの世の中でお金に頼らずに生きていこうとすると、お金の代わりに「コミュニティへの所属と依存」や「高度なコミュニケーション能力」が求められるのです。
 こんなに『お金を使わない生活』がめんどくさくて、手間や精神的な負担がかかるのなら、お金に頼ったほうが僕にとってはずっとラクだな、と。

 世の中が、こんなに拝金主義的になってしまったのは、無理やり誰かに奏されたわけではなくて、結局、円滑にモノやサービスをやりとりする道具として、お金以上の最適解が見つかっていないからなのです。
「世の中カネじゃない」と言うのは、お金に困らなくなった人の特権であり、責務でもあるのでしょう。


 そうか、こういう本が「ベストセラー」になるんだなあ。
 ゴールドラッシュで一番稼いだのは、金を掘りに行った人たちではなく、彼らにツルハシなどの採掘道具を売った人たちだ、という話を、ちょっと思い出しました。


 この経済評論家・山崎元さんの話もぜひ。
fujipon.hatenablog.com

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