琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

【読書感想】変な家 ☆☆☆


Kindle版もあります。

2024年3月15日より映画公開!
雨穴デビュー作『変な家』ついに文庫化!
設計士栗原による「文庫版あとがき」も追加収録

知人が購入を検討している都内の中古一軒家。 開放的で明るい内装の、ごくありふれた物件に思えたが、間取り図に 「謎の空間」が存在していた。知り合いの設計士にその間取り図を見せると、 この家は、 そこかしこに 「奇妙な違和感」が存在すると言う。
不可解な間取りの真相とは!?
突如消えた元住人は一体何者!?
YouTubeで話題となった 「変な家」の全ての謎が解き明かされる完全版、ついに文庫化。
本書のキーマン・設計士栗原による文庫版あとがきも収録。


hennaie.toho.co.jp


 書店ではいつも目立つ場所に並べられていて、売れているんだろうな、と思いつつ、なんか薄くて字も大きめだし、とりあえず今は読まなくて良いかな……と先送りにしているうちに、映画化され、文庫版も出ました。
 相変わらず書店ではシリーズ作品とともに「推されて」いて、そろそろ読んでみるか、と今回手にとって見たのです。
 ちなみに、話題になった(らしい)YouTubeの動画は未見です。このタイミングで、全く予備知識なしで読みました。

 読みやすいなこれ、というのが率直な感想です。
 文庫版は250ページくらいなのですが、「家の間取り」がモチーフになっていて、重要なポイントは図でわかりやすく説明されています。
 「館ものミステリ」では、本の冒頭に「屋敷の全体図」が収録されていて、位置関係が問題になるときには、栞とかを挟んでいるその図に戻って確認することになりがちなのですが、この『変な家』では、話の流れが切れないように、問題になっているところが拡大・図示されて再掲されているのです。
 物語の経過説明も、登場人物の会話がほとんどで、最初の方をさらっと読んでみるか、と思って読み始めていたら、いつの間にか最後まで読み終えてしまっていました。
 とりあえず、本一冊読み終えた、という満足感を得るには、ちょうどいいボリュームなんですよ。
 個性的な名探偵が出てくるわけでも、驚愕のどんでんがえしがあるわけでもなく、ミステリ小説家と思いきや、謎解きのない横溝正史金田一シリーズのライトノベル化、みたいなホラーっぽい小説です。
 実際にこんなことが起こりそう、という恐怖よりは、荒唐無稽な世界観のなかを「次はいったいどんな『とんでもないこと』が起こるんだ?」と思いながら読み進めていく感じです。

 読んでいて、敷居の低さや、リアリティよりもエンターテインメントを優先した内容など、『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』というゲームを思い出しました。
 時系列としては、この『変な家』シリーズのほうが先かもしれませんが。


fujipon.hatenablog.com


 監視カメラだ、Nシステムだ、と警察の最新鋭の捜査システムや、それを掻い潜ろうとする犯人、それに対抗する捜査側の重厚な人間ドラマは、確かに読み応えはあるのだけれど、本を読み慣れていたり、ミステリやホラーの「文法」をおさえていたりしないと、そういう分厚い本を読み終えるのは大変です。

 世の中には「不動産をすぐに買う予定はないけれど、不動産広告の間取りや事故物件の情報を見るのは好き」って人は、けっこう多いんですよね。
 そういう「間取りマニア」の心をくすぐり、それ以外の人にも「見ればわかる」という視覚重視の謎解きの可能性を示した、という点でも、興味深い本だと思います。
 日頃あまり本を読まない人が、2時間くらいで読み終わることができる、そこそこ面白くて読みやすい本、というニーズにきちんと答えてくれる本なんですよね、これ。
 僕自身は、後半はとくに、けっこう強引な展開だなあ、と、ニヤニヤしながら読んでいたのですが、そういうのもひとつの楽しみかた、ではあると思いました。


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