よい製品とは - 顧客体験から考える

国鉄道模型を始めてから6年が過ぎ、 完成品、キットを含めて購入した車両は300両を超えた。自分は衝動買いを(あまり)しない方で、メーカーのアナウンスはもとより、販売店やWebメディアの紹介記事、YouTube上のレビューなどを見つつ、これはと思うものだけを買うようにしている。なので、これまで「全く期待外れだった」というような製品には幸い当たっていない。けれども「満足いく製品だ」と自信を持って言えるものは多くなく、残念に感じることもいろいろとある。

もちろん見た目や機能仕様はわかった上で買うわけなので、そこに大きなギャップが生まれることは少ない。しかし鉄道模型製品では、完成品であっても実際に箱を開けて製品を取り出してから走らせるまでに、パーツを取り付けたり、DCCデコーダーを装着したりといった、ユーザー自身が行うべき作業が存在する。これは一般的な製品にはあまりないもので、鉄道模型の製品が趣味のためのものであり、ユーザーによるカスタマイズを良しとする特殊性から来るものであろう。完成品として売られている製品も、本当の意味では完成品ではない。それが故に、真の完成品に至る過程にユーザー自身が行う作業、この“顧客体験”が、製品の満足度を決定する一要素に含まれることになる。そしてそれはユーザー固有の体験であるがゆえに、大きな振れ幅をもって満足度を左右するものになっているようにも思う。

この記事では、最近購入した2つの製品を取り上げて、メーカーがこの顧客体験を十分に理解し、それを満足させるためにどのような設計や準備を行なっていたかを紹介したい。

Dapol GWR Class 43xx 2-6-0 'Mogul'

最近リリースされるDapolの蒸機は、いくつかの新しいメカニズムを取り入れている。そのどれもがユーザーの顧客体験を向上させるための配慮から来ているように思われる。

ボイラー内のDCCソケット

テンダー式蒸機であれば、通常はスペースが十分取れるテンダー内部にDCCソケットを備えることが多い。しかしこの製品では、タンク式と同様にボイラー内にDCCソケットを備えていて、煙室ドアを外すことでアクセスが可能となっている。

ボイラー内に配置されている基板(写真左、赤矢印)は、付属の治具(写真右)を使って簡単に引き出すことができる。

引き出した基板は片面にNext18ソケット(写真左)、もう片面に15mmx11mmのシュガーキューブスピーカーを格納できるエンクロージャー(写真右)が取りつけられている。

DCCデコーダーをNext18ソケットに、シュガーキューブスピーカーをエンクロージャーに嵌め込めんで、ボイラー内に戻せば装着完了となる。

ユーザーはボディの分解やDCCデコーダーやスピーカーをどのように置けばよいかを悩む必要はないし、半田付けも不要。ボイラー内の基板の出し入れも、専用の治具を用意することで、作業ミスや想定外の方法による破損や不具合などのトラブルを起こす可能性を防いでいる。

テンダー設計

テンダーではなくスペース制限のあるボイラー内にDCCデコーダーおよびスピーカーを配置することは、作業性を高める利点がある一方で、搭載できるスピーカーの自由度がないなどの欠点もある。それに対しこの製品では、テンダーに追加のスピーカーを接続するための配線があらかじめ施されている(赤矢印)。これだけスペースがあれば様々な種類のスピーカーを搭載可能である。もちろん使わなくてもよい。この配慮には舌を巻いた。

また見えている銅板はテンダー集電のためのものだ。DCCデコーダーを安定して動作させるには安定した集電が欠かせない。テンダー式蒸機であればデンター集電は欠かせないし、ダイキャストで作られたテンダーボディもその集電性能を高めるのに一役買っている。

テンダー設計のすごさはそれだけではない。テンダー分割にも配慮が見られる。テンダーは四隅のネジを外すことで上下に分割されるのだが、ブレーキホース(黄矢印)やハンドレール(赤矢印)は、上ボディに一体となってはずれるように設計されている。スピーカー設置作業に必要な下ボディに、壊れやすいパーツは一切残っていない。明らかに意図をもって設計されていると感じられた。

機炭間接続

そしてテンダー式蒸機取り扱いの最大のWeak Pointである機炭間接続には、配線とカプラーを一体のものとして設計された機構が採用されている。

蒸機本体側(写真右)にはカプラーの先に基板で作られた突起が備わっており、上下合わせて4極の接点が配置されている。これをテンダー側(写真左)のカプラーに設けられた穴にスライドして差し込むことで接続が完了する。

機構はシンプルで、接続、切り離しも極めて簡単であり、ピンプラグ等による接続に比べて作業ミスによる破損も余程のことがない限り起きないだろう。唯一機炭間の間隔を調整することができないという欠点はあるものの、それを補ってあまりある優れた機構であると思う。

Cavalex Models Class 56 Colas Railfreight "Robin of Templecombe"

Calvalex ModelsからリリースされたClass 56はディティール、機能ともに満載で、プレミアムモデルといっても差し支えない出来であるが、今回取り上げるのは実はそこではない。パーツの取り付け、というありふれたユーザー作業に対する顧客体験が、この製品を真のプレミアムモデルに押し上げていると思う。

ホース類、カプラーの取り付け

ディーゼル機関車でほぼ必ずやらなくてはいけないのが、両端下部に備えられるホース 類やカプラーの取り付けである。Calalex ModelsのClass 56では、箱から出した時点では部品は一切取り付けられていない。

これはTension Lockカプラーを取り付けるとディティールパーツが干渉してしまうからで、ユーザーは2つのエンドそれぞれに対してTension Lockカプラーを取り付けるか(写真左)、パイプやダミー連結器などのディティールパーツを取り付ける(写真右)かを選択して作業する。

この製品には、作業手順について説明書に解説が書かれていた。いや、そんなの当たり前ではと思われるかもしれないが、ディティールパーツの取り付けに関してこのようにわかりやすく正確な解説があることの方が実は少ない。Web等で実車の写真を検索して確かめながら作業することが多いように思う。この説明書では、取り付ける順番もきちんと番号によって示されており、ユーザーは迷いなく作業することができる(順番を守らなくても作業はできるが、取り付けた部品が干渉して作業しづらくなる)。この説明書の1ページがあるかないかで、顧客体験は大きく左右されるのである。

作業ではパーツをあらかじめ本体に開けられた穴に差し込むのだが、たいていの製品において、パーツの大きさと穴の大きさがしばしば合っていない。ピンバイスで穴を拡げたり、パーツを削ったりして調整しながら作業を行うことになる。しかしCalalex ModelsのClass 56では、パーツ、穴ともにこの調整なく嵌め込めるように設計製作されており、無加工ですべてのパーツを取り付けることができた。これは設計および加工精度ともにきちんと管理されている証左であり、顧客体験の向上に結びついている。

ネームプレート、エンブレムの取り付け

このモデルではエッチングパーツによるネームプレート、エンブレムが付属している。エッチングパーツによるネームプレートはさほど珍しいものではないが、この製品が素晴らしいのは、それらを正確な位置に貼り付けるための治具(写真中央の金属板)も合わせて用意されていることである。

使い方は至極簡単で、側面キャブドアのハンドレールに合わせる形でこのプレートを置き、穴に合わせてエンブレムおよびネームプレートを貼ると完成となる。

この治具がなかったらどうやって正確な位置に貼ることができただろうか。

前出のホース類、カプラーの取り付けと合わせて、この製品は「誰でも迷いなく自分の手で質の高い完成品を作る」という顧客体験の提供に成功していると思う。

おわりに

今回取り上げた鉄道模型製品における顧客体験について、そこに価値を見出す鉄道模型ユーザーは実際には少ないのかもしれない。しかし自分は今回出会った製品を通じて、メーカーがその課題に正面から取り組んでいることを感じ、その努力をきちんと評価したいと思う。もっといろんなひとがこのようなささやかだけれどとても大事なことを取り上げてくれて、より多くの製品の顧客体験が良くなることを願うばかりである。

OO9レイアウト製作記・第13回「桜を植える」

昨年は完成が間に合わなかったTwitter Model Train Show。今年はようやく満を持しての出展となりました。

出展にあたっては、この季節ならではの企画を実行に移すことにしました。レイアウト上の樹木はすべて取り外し可能なので、線路沿いに並ぶ赤矢印の部分の樹木を桜に変え、「桜並木をくぐる列車」を再現してみようと思います。

桜の木の製作

使用する材料はKATO 24-369「広葉樹の幹(小)」(写真右)と、同じくKATO 24-556「天然素材樹木(黒染め)」(写真左)です。

まずは広葉樹の幹(小)の枝を適当にねじって樹木の形を整えたあと、KATO 24-384「ジオラマ糊」を枝に塗ります。

白い糊が透明に近くなるまで1時間ほど放置したあと、天然樹木素材(黒染め)を適当な大きさにちぎって枝に貼り付けます。どうしても大きめにちぎって付けたくなるのですが、重みでうまく固定されなくなるので、小さくちぎって付けるほうがうまくいくようです。

普通の樹木ではここから葉を生やすのですが、今回は桜の花としてKATO 34-731「日本のさくらの花びら」を付けてみます。ターフの固定には3Mのスプレーのり77を使いました。今まではボンド水を霧吹きしていたのですが、ボンド水に含まれる水分で固定した天然樹木素材がハズレがちになることがあり、作業効率重視での導入です。

スプレーのりをサッと吹いて、桜の花びらを振りかけるような感じでパラパラとつけていきます。何回か繰り返すと、それなりのボリュームの花びらがくっつきます。作業はとても簡単で、これはオススメできます。

最後に保管用の箱に据え付けて準備完了。箱に入れると、お菓子みたい。

レイアウトへ

さてレイアウトで、いざ植え替えです。

こんな感じで植え替え完了。いい感じ。

それでは、最後は動画でご覧ください。

季節に応じて、紅葉や落葉後の樹木など、他の場所でいろいろバリエーションを試してみるのも面白そうです。

Dapol GWR Large Prairie ふたたび

いまから2年ほど前にDapol GWR Large Prairieの集電改良の話を書きましたが、今回はその再チャレンジのお話です。

これはタンク型蒸機全般に言えるのですが、Dapol GWR Large Prairieも集電が微妙です。ところがDCC Sound版に採用されているZimo MX658N18はStay-Alive回路に対応していなかった... 解決には対応するサウンドデコーダーへの載せ替えが必要でした。載せ替えで余るサウンドデコーダーを投げるのはあまりにもったいない。しかしNext18インタフェースを採用していることもあり、行き先がありません。結局、従輪にPickupを取り付けてなんちゃて集電改良して運用するということにしたのでした。

Dapol GWR Mogul

そんなところに最近やってきたのがDapol GWR Mogul。Large Prairie同様に前面の煙室ドアからデコーダーソケットにアクセスできる機構を採用し、インタフェースはNext18。テンダー集電にも対応しているので、Stay-Alive回路がなくても安定した動作が期待できます。アナログモデルを購入し、Large Prairieのデコーダー載せ替え対象としたのでした。

無事デコーダーの行き先が決まり、いよいよ2年越しの解決へ進みます。

Zimo MSシリーズ

Zimoの最新ラインナップであるMSシリーズは、Stay-Alive用に追加回路が必要だったMXシリーズに対し、追加回路なくキャパシタを接続することができます。充放電回路はデコーダー上に統合されていて、15V以上の任意のサイズのキャパシタを直接接続します。さらにMS581N18では5Vのキャパシタに対応しており、より小型で大容量のキャパシタを搭載することができます。Large PrairieのケースではStay-Alive用キャパシタを含めて煙室に収まるのがベストなので、この5Vキャパシタが利用できるMS581N18を利用することにしました。

派生SKUであるMS581N18Gは2.7V 0.3Fのキャパシタが2個付属し、これを並列にしてデコーダー上の端子に接続します。YouChoosから届いたデコーダーは既に端子からワイヤーが引き出されていたので、ここに付属のキャパシタを並列に接続します。

デコーダーとスピーカーを嵌めた基板を煙室内に押し込み、手前のスペースにキャパシタを据えます。

ボイラーの直径にうまく収まってくれたので、あとは煙室のドアを閉めれば完成です(なんて簡単な!)。

従輪の改良

Pickupを取り付けた従輪にも改良を加えました。従輪には自重以外の負荷がかかっておらず、Pickupによる車輪への抵抗により車輪が回らなくなるという課題がありましたが、燐青銅板による板バネを取り付け、車輪が線路面に対してある程度力がかかっている状態にすることで、従輪がスムーズに回るようになりました。

結果発表

2年前は苦労しましたが、今回はストレートな解決となり、待った甲斐がありました。

 

 

Accurascale Class 37

AccurascaleのClass 37 が発売されたのは昨年夏。自分はClass 37/4と37/6の2両を購入した。それからかれこれ半年。本当はもっと早くにこの記事を書けたとは思うのだけど、なかなかそうはいかない理由があった。

(奥)Class 37/4 37409 'Lord Hinton' (手前)Class 37/6 37609

Class 37とAccurascale

Class 37は1960年生まれのEnglish Electric Type 3 (1500馬力級)と言われるBritish Railwaysの電気式ディーゼル機関車(Co-Co)。出力はEnglish Electric Type 4 (2000馬力級)に劣るものの、軌道制約が緩いため英国国内のあらゆるところを走っており、その活躍は今なお続いている。日本で言うとDD51みたいな存在で、British Railways時代のディーゼル機関車では、Class 55 Delticと並んで最もアイコニックな存在ではないかと思う。英国出張の際に実際にロンドン・パディントン駅で見かけ、近年のディーゼル機にはない、ちょっと愛嬌のある形がとても気にいった。

2016年5月25日 London Paddington駅にて撮影

そんな機関車なので、模型化についてもHornby, Bachmannの2大メーカーから多数のバリエーションが既に発売されていた。そこに割って入ったのが新興メーカーのAccurascaleである。2015年に設立されたIrish Model Railway ModelsのSister Brandとして'OO' & 'O'スケールの英国型鉄道模型に参入。当初はWagon中心の製品ラインナップだったが、Class 55 Delticを皮切りにLocomotiveのリリースを拡大。Coachにもラインナップを広げている。最大の特徴は中国の工場との密な連携や直販を武器に、ディテールにこだわりつつも価格がプレミアムではなく、標準的な価格帯に収まっていることである。ウェブメディアを駆使したコミュニティとのコミュニケーション戦略とも相まって、一躍英国型のトップメーカーに踊り出た。

そのAccurascaleが、Class 55 Delticに続いて2つ目のLocomotiveとして製品化を発表したのがClass 37だった。そのとき既にBachmannのClass 37を2両持っていたが、Accurascaleが製品化するとあっては期待は大きく、重連やPush-Pull運用も見据えて2両を予約した(余談だが、予約時に全額支払いを済ませたおかげで、今ではあり得ない£1=140円前後というレートで購入することができた)。直販サイトの予約分は完売。そして昨年夏、発表から3年のときを経て、ついに届けられた。

トラブル続きのClass 37/4 'Lord Hinton'

しかしながら届いた2両のうち、Class 37/4 'Lord Hinton'で問題が続発した。

モーター起因の走行不良

後から出荷となったClass 37/6が到着し、37/4との協調運転の調整をしようとしたときに、Class 37/4の走行速度が安定していないことに気が付いた。デコーダー?集電?いろいろと原因を探ったが、結局お手上げ。症状の動画を撮ったうえでAccurascaleのサポートに連絡。送り返しての修理ということになった。修理の内容としてはデコーダーとモーターの交換で、3か月ほどの時間を要した。

後からわかったことなのだが、モーター起因の走行不良はAccurascale Class 37のよくある問題として取り上げられており、YouTube上には独自に原因の解析をした猛者の方の動画が上がっていたりする。

youtu.be

パーツの剥落

修理から帰ってきたClass 37だが、いくつかのパーツの剥落があった。緻密なディティールを再現するために、モールド形成ではなく別パーツが多数取り付けられているのだが、修理過程で本体をいじる関係上、どうしてもそれのパーツが剥落する可能性が高まる。わかっていて且つ修理したものは以下の通り。

  1. 床下燃料パイプ
  2. 1エンドのフロントガラス
  3. 1エンド左のキックプレート
  4. 屋根上のファングリル

基本的には瞬間接着剤を使って部品を元の位置に貼り付けるだけなのだが、3のキックプレートは部品そのものがなくなってしまっていたので、Accurascaleのサポートに連絡。パーツを送ってもらって対応した。

赤矢印先にキックプレートが剥落した跡がある
キックプレート。この小さな部品1つが遥々送られてきた。

ライト点灯不良

ようやく37/4と37/6協調運転の調整も済み、レイアウトで走行シーンを撮影しているときに37/4のライトが点灯しなくなったことに気づいた。Front Light, Tail Lightだけではなく、Cab LightもPanel LightもEngine Roomもダメ(つまり全滅)。デコーダーテスターでデコーダーの問題ではないことを確認し、再びAccurascaleのサポートに連絡。すると、おそらくPCB(プリント基板)の問題なので、部品を送るからそちらで修理してくれないかとの回答。これには少々面食らったが、交換方法の動画を送ってもらって作業手順を確認し、なんとかできそうということで自前で基板交換を行った。

送られてきた交換用基板

ボディを外したところ

交換手順としては、基板上のスピーカーおよびコネクタを外して、四隅の線路給電の配線(赤矢印)と中程に位置するモーター配線(青矢印)の計6箇所の半田付けされた配線を外して再び取り付けるというもの。

基板を取り外すとモーターが顔を現す。ドロップインしてネジ留めという形なので、ここまでくれば問題のモーターの交換も自前で出来そうではあった。

基板を取り外したところ

 

基板裏面

白いエンクロージャーにはシュガーキューブスピーカーが入っていて、基板にねじ止めされている。これを交換用基板に載せ替えて、先ほど外した配線をふたたび半田付けする。

あとは元どおり、スピーカーを載せ、配線を繋ぎ直して完了。

ライト点灯を確認

雑感

これだけトラブルが続けば製品としていかがなものかと言いたい気もするが、サポートの対応は丁寧だったし、結果的には直ったし、Lifetime Warrantyもあるので、この先トラブってもどうにか直せるのであれば、ひとまず及第点といったところ。もう一方のClass 37/6は全く問題になっていないことを考えると、単に個体が悪かったとも言える。

ただこのトラブルを通じて、壊れにくさや、メンテナンスのしやすさみたいなものは製品の価値としてもう少しきちんと評価されるべきだと思った。自分の鉄道模型の楽しみ方としては走らせてなんぼだと思っているので、鉄道模型が動く機械である以上、メンテナンスは避けられない。愛する鉄道模型と長期間付き合えるように、メーカーはそれを目指した設計をして欲しいし、それを評価できるコミュニティでもありたいと思う。

レールクリーニングカー

レイアウトのメンテで欠かせないのが線路のお掃除。綿棒などを使ってゴシゴシ磨くのが一般的ですが、世の中には走らせながら線路をお掃除してくれる特別な車両“レールクリーニングカー”なるものも売られていたりします。有名なところではTOMIXのマルチレールクリーニングカーがあります。

OO Scaleだとdapolから似たようなものが出ています。

もちろんあれば便利そうですが、値段がそこそこするのと言うほどキレイになるの?という疑問もあり、これまでは手を出してませんでした。

そんなところに今年4月、IORI工房さんから16番ゲージ用のレールクリーニングカーのペーパーキットが発売されました。

IORIさんとこが使うのなら試す価値はあるのでは?ということでJAMで1両購入。いつものように丁寧な説明書が付いているので、組みあがりは迷うことなくさっくりと。

NEMソケットを付けてみる

カプラーはIMONカプラーやKadeeカプラーなどお好みのものを付けられるようになっているのですが、今回は英国型のOO Scaleで一般的なTension Lockカプラーの取り付けを試してみることにしました。

カプラー取り付けの土台として、West Hill Wagon Worksから出ているNEMソケットのマウンターとNEMソケットパーツの組み合わせを使用します。

本当は用意されているカプラー固定用の2mmネジ穴をうまく使えればよかったのですが、収まりが悪くなるのでパーツをゴム系接着剤で固定する方法を取りました。

(写真左)マウンターを固定 (写真右)NEMソケットを付けたところ

出来たNEMソケットにTension Lockカプラーを差し込みます。車体に固定で首振りをしないので、幅広のものを選びました。また干渉を避けるためにフックは敢えて外してあります。

BachmannのClass 37と連結してみるとこんな感じ。

高さを合わせるためにステップ形状のTension Lockカプラー(写真左側)を選んでいますが、連結する機関車によってはストレートのTension Lockカプラー(写真右側)の方が高さが合うケースもあるので、そこは連結する機関車に応じて合わせます。NEMソケットなので、カプラーの交換は自由自在です。

カプラー交換で高さ調整する

清掃パーツの調整

車両が出来上がったところで、線路を掃除するためのパーツを調整します。付属の木片に清掃用の不織布などを留めて使うのですが、うちのレイアウトはポイントや線路接続部分の隙間など、ところどころ凹凸で引っかかる部分があって、そのままではレールクリーニングカーをうまく走らせることができません。

まずは木片の両端(赤点線で囲んだ部分)をやすりで削って、凹凸があっても引っかかることなくスムーズに車両が走るようにしてあげます。

次に清掃面には毛羽立ちや破れが出にくい薄い綿生地を使いました(古い手ぬぐいをカットして使用)。そのままではクリーナー等を染み込ませることができないので、フェルト生地を敷いた上から綿生地をかぶせて固定します(画鋲で...)。

また走行時に台車が浮いて脱線しないようにおもりを載せます。写真では手直にあったRolling Roadを載せてみました。

これでようやくスムーズに走行するようになりました。

ちゃんと期待通り汚れも取れているようです。

交換も簡単。端切れを使ってるのでお金もかからずGood。

レールクリーニングカーはいろんなメーカーから出ていますが、IORI工房さんのものは構造がシンプルで調整しやすく、価格もお手頃。「なかなか手がでなかった」と思っていらっしゃる方も是非試してみることをおススメします。

まだ未塗装だが黄色に塗ってみたい

 

岩倉美津未は総理大臣になれるのか

最近ドはまりした「スキップとローファー」。田舎から東京の高校に進学した女子高生・岩倉美津未と周りの友だちが織りなす青春群像劇であり、彼女の持つ天然な性格が周りのひとに影響を与えていく様子は「青春」と言われる時期の眩しさを一層際立たせているー。

ただこの作品のちょっと変わっているところは、彼女が東京の高校に進学した動機だ。

なぜなら私には明確な人生設計があるから!

大学はもちろんT大
法学部を首席で卒業

総務省に入省しキャリアを積んで
過疎対策に大きく貢献する

定年後は地元に戻り市長を務める
官僚時代のノウハウを生かし財政を大幅に改善

死んだらお骨は日本海に撒いてもらう...

(「スキップとローファー Scene (1) ぴかぴかの高校生」より)

地頭のいい地方出身の学生が東大を目指したり、官僚を目指したりすること自体はさして特別でもないと思うのだけど、その先の目指す目的が地方の過疎問題の解決となれば、途端に政治色を帯びてくる。本人は気づいていないのかもしれないが、普通に考えてそれは「政治家になりたい」と言っているのと同義で、表舞台で展開される青春ラブコメの根底に、なかなか骨のあるテーマを据えてきたなと思う。

この「スキップとローファー」を読んでいると、どうしてもひとりの政治家の名前が思い出される。小川淳也ドキュメンタリー映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」の主人公で、最近では2021年10月の衆院選で、香川1区で平井卓也大臣を破って選挙区当選を果たし、民主党の党首選にも立候補者のひとりとして名を連ねた人物た。

小川も地方の香川県出身で、家は政治と無関係。地元の高松高校から東大法学部を出て当時の自治省(現総務省)に入省。地方自治体への出向を経験する中で、やがて官僚でいることの限界を感じ、国政に身を投じるべく、香川1区で民主党から出馬し、政治家としての道を歩み始めた。

岩倉美津未のビジョンとメンタリティを考えると、やがて同じような道を進むのではないかという妄想が頭をよぎる。彼女の地元能登半島を含む石川も香川に負けず劣らずの保守王国で、彼女が「変わらないままで」政治の舞台に立つことは、あまりにも無邪気な妄想ではある。しかし「政治家に向いてない」と評された小川ですら国会議員になれたのだ。美津未がその場に立てないと断じるのもまた早計であろう。むしろ小川より美津未の方がこれからの政治に必要とされるのではないかと思える部分もあるのだ。

「スキップとローファー」の舞台となっている高校、その時間。小川は地元香川で過ごしたが、美津未は新しい東京という場所で過ごすことになった。地元の高校では東大進学が難しかったり、叔父さんであるナオさんが既に東京に出ていたという条件があったにせよ、彼女は一大決断をして東京の高校に進学した。この決断が彼女のビジョンの実現に決定的な影響を及ぼすことは想像に難くない。小川は大学生、そして男性という立場で地元を出ることになった。一方で、美津未は高校生、そして女性という立場で地元を出た。美津未は明らかに、様々なひとの援助なくしては東京での生活を成り立たせることができない。地元では出来ていたことでさえ難しいかもしれない。必然的に彼女は東京で生きていくためのネットワークを構築することを要請される。「私を助けて欲しい」そう声を上げることは政治参加への第一歩で、彼女はそれを身体レベルで獲得していくのだろう。地元の能登と新しい場所の東京を往復するうちに相対的視座も養われるように思われる。性別、そして3年間の違い。これが持つ意味は相当に大きい。

小川にそれらの素養がないとは思わないが、地元香川の家父長的な雰囲気をまとっているところも感じられ、彼が香川1区以外から出馬することを想像することは難しい。一方で美津未は、既に能登でも東京でも彼女を支えるひとたちがいて、さらに新しい場所へ跳躍もしていけるような、そんな軽やかさを持っているような気がする。

美津未が総理大臣になれるのか。今のところ彼女にその気はないだろうけど、そんなことをふと考えさせてくれるこの作品が、僕はとても好きなのである。

憧れの場所、Corrourへ。

始まりは

1本のYouTube動画でした。

ちょうど英国鉄道模型を始めようとしていた5年ほど前、YouTubeにアップロードされた大量の英国の鉄道模型レイアウトやら展示会やらの動画を見ていく中で、"All The Stations"というチャネルを見つけました。VickiとGeoffの二人組が英国中の全ての駅を回るという企画で、駅の様子はもとより、歴史や周辺の名所の紹介、地元とのひとやそこに住んでいる視聴者との交流などが、ほぼリアルタイムにアップロードされる紀行番組でした。二人の軽快なトークもさることながら、異国に住む自分にとって英国の"いま"の鉄道事情を知ることができるという意味で、非常にありがたい番組でした。

その中でひときわ自分の興味を引いたのがCorrourという駅。ScotlandのWest Highlandの中に佇むこの駅は、鉄道以外は徒歩でしかアクセスできない(一応許可された自動車が入れる道はある)陸の孤島。それだけならただの秘境駅ですが、最大の特徴は駅自体が宿になっていて、客室として改装したホーム上にある古いSignal Boxに泊まることができるのです。かつてSignal Boxだったガラス張りの部屋も、ラウンジとして宿泊客に開放されています。

駅に泊まりSignal BoxからHighlandの雄大な景色を眺めることができるー英鉄にハマった自分にとって夢の場所に思えました。もし英国に旅行することがあるなら、是非ここに泊まってみたいーコロナ禍の収まりが見え始めた2023年1月、ちょうどEdinburgh行きを計画していた奥さんに話して、Corruor行きを旅程に組み込むことに決めました。

Corrourへの道

早速ウェブサイトにある連絡先にメールを出して予約方法を聞いてみます。返事が来ないなーと思っていたところ、1週間ほど経ったある日「今シーズンの予約を開始したよー。ウェブサイトからどうぞ。」というメールが来ました。

2名で宿泊できる部屋が3つあって、予約時に選べるようになっています。ウェブサイトの説明からは違いはわからないので、1つめの「MACCAILLIN MOR」という部屋を予約。朝食付きで£180。予約時にはお金を支払う必要はなかったのですが、宿泊する3週間ぐらい前の7月中頃に「デポジット£50を払って欲しいので、電話でカード番号をお知らせください」というメールが来ました。え、電話...?「メールでできませんか?」と聞いてみたものの「電話でないと受けられない」とのことで、時差を考慮しつつ直接国際電話をかけてカード番号を伝えて、無事にデポジットの支払いを完了。あとは現地に行くだけです。

Corrourへは、ScotRailが運行するGlasgow Queen StreetからMallaigに向かう列車で3時間ほどかかります。運行本数は1日に3便ほど。この日は12:22発のMallaig行きに乗車しました。

Glasgow Queen Street

ScotRail Class 156 DMU

夏の観光シーズンということもあって、4両編成の列車はほぼ満席のお客さんを乗せて出発です。

非冷房車だが、窓を開ければ十分に涼しい

列車はしばらくは平坦な川沿いを走りますが、やがて湖沿いに徐々に高度を稼ぎながら山あいに分け入っていきます。

さらに並走する道路とも別れを告げ、何もない草はらをひたすら進みます。

Corrour Station

15:52、出発が少し遅れたこともあって、定刻より30分ほど遅れてようやくCorrourに到着しました。

ついに来た!

トレッキングに向かうと思しきひとたちが下車して、しばしホームはにぎわいます。やがて列車が出発すると三々五々それぞれの目的地に向けて出発し、駅に再び静寂が戻ってきました。

ScotRailの列車のイラストがかわいい!

駅に併設された宿の母屋にあたるStation Houseでチェックインを済ませます。中はトレッキングに訪れるひとたちに食事や飲み物を提供するラウンジ兼レストランになっていました。

薪ストーブには火が入ってました(というぐらい外はまぁまぁ寒い)
LOCH TREIGのネームプレートと61775のナンバープレートは
かつてこのWest Highland線を走っていたLNER Class K2 2-6-0のもの

Corrour Signal Box

鍵を受け取って再びホームに戻り、まずはお部屋へ。

手前の平屋の建物に2部屋
Signal Boxの階部分に1部屋(とパントリー)

客室はシンプルでダブルベッドがひとつとシャワー、洗面、トイレ
パネルヒーターの暖房があり、十分暖かい
窓の外はすぐ線路(!)
部屋にはWest Highland線を走った蒸気機関車(LNER Class K-1, K-2, K-4)の紹介が額縁に入れて飾られていました

一休みもそこそこに、Signal Boxに向かいます。ガラス張りの2F部分は宿泊者の共用スペースになっています。階段を上っていくと...

ついに、この瞬間が訪れました。

ラウンジというぐらいで、ソファーと遊び道具なんかも置かれています。

Scotland版モノポリーが置いてあった

本来のSignal Boxとしての面影は、360度見渡せるこの景色ぐらいのものです。本線のUp/Down方向のいずれもよく見えます。

(左)Glasgow方面 (右)Fort William方面

一応Corrorの駅は1面2線(+引き込み線)で行き違いができるようになっていますが、線路の状態を見るに営業用としてはここで行き違いをするようにはなっていないようです。かつてこのSignal Boxで操作していたポイントは、それぞれのポイントの側にある手動テコを使うようになっているようです。

Loch Ossian

晩ご飯までまだ時間があったので、近くの湖(Loch Ossian)まで散歩に出かけました。

周りは基本的に湿地だが、道は乾いていて歩きやすい

30分ほどで到着。湖畔のベンチに腰掛ける。何もない。あるのは風音だけ。

英国ならどこにでも咲いているヒースの花(だがきれい)

湖畔にはユースホステルがある。トレッキングをするならこちらが便利。

帰り道。晴れたり、曇ったり、雨がパラついたり。天気は目まぐるしく変わる。

見えてきたStation House。やはり周りには何もない。

晩ごはん

晩ごはんはStation Houseでいただきます。これがどれもめちゃくちゃ美味しかったです。

鹿肉の燻製のプレート

鹿肉の煮込みシチュー(手前)と鹿肉のバーガー(奥)
シチューに添えられているマッシュポテトがちゃんと作ってあってまた美味い

ご飯のあとは部屋で淹れた紅茶やコーヒーを持って、またSignal Boxのラウンジへ。しばらくするとFort WilliamからやってきたLondon Euston行きのCaledonian Sleeperがやってきました。

21:20 Mallaig行きの最終列車が出ると、もう駅に訪れるひとはいません。風力発電の風車の回る音だけが残ります。

朝の散歩

翌朝。外気温は7, 8度といったところ。天気は申し分なかったので、ダウンを着込んで散歩にでかけました。

Corrour Station近くにイギリス鉄道網の最高地点があり、"CORROUR SUMMIT"の看板が立っていました。それでもたったの411m(1350ft)。いかに平らであるかがわかります...

朝ごはんを再びStation Houseにて。

奥さんがスモークサーモンとオムレツ。自分はScotish Full Breakfast。ソーセージが鹿肉でした。これまた美味しい。

チェックアウトを済ませて、11:21発のFort William行きの列車まで再びSignal Boxでゆっくり。すると、Glasgow方面から線路の上を走ってくる黄色い...車?慌ててホームに降りてカメラを向けます。

Network RailのRRV (Road Rail Vehicle)なのだそうです。もちろんホームは通過しましたが、その先の出発信号で一旦停車してトークンをもらったのちに再び出発していきました。

終わりに

自分が現地で見たものは、きっかけとなったYouTube動画で紹介されているもの以上のものではないのですが、それでもなお行って本当によかったと思える場所でした。この記事を見て「あ、いいな」と思った方は、是非とも行ってみられることをオススメします。