室橋裕和 カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」

バターチキンカレーに甘めのナン。オレンジのドレッシングがかかったサラダとラッシーがセットの安価なランチ。各所で見かけるインドカレー店の多くはネパール人によって経営されているが、インネパと呼ばれるほどカレー移民が増えた背景を追う。

近所にネパール人経営のカレー屋ができて、ピリヤニが実に美味しい。タンドリー窯で就労ビザが複数出るのかと思っていたら、本書であっさりと否定されていた。隣国インドへの出稼ぎから日本に繋がった背景をヒアリングし、斡旋業者のいるネパールまで行くルポタージュ。海外にある日本食風レストランで働く日本人も同じ構図ではないだろうか……。草分けとなったカレー店を紹介していて、日本に本格的な高級インドカレーを持ち込んだ六本木のモティに行ってみた。トマトの酸味とスパイス、塩味が絶妙で、こんな味があるのかと感動した。

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小野不由美 東の海神 西の滄海 十二国記 3

雁国に新王が即位して20年。延王・尚隆と延麒・六太が誓約を交わしてから、先王の圧政で荒廃した国土は平穏を取り戻しつつあった。しかし道半ばには達していなかった。延王に異を唱える者たちが、延麒を誘拐し謀反を起こそうとしていた。国の安泰と玉座を賭けて、2人の理想が衝突する。

人々の生活に紛れ込んで声を聞き、玉座に帰れば政治を仕切る。20年前は、そんな王を格好いいと思っていた……。現場を取り仕切り決裁を待つ役人たちのストレスを見ていると、全く感情移入できなくなっていた。

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佐々涼子 エンド・オブ・ライフ

京都で在宅医療を取り組む医療従事者たちを取材し、患者の終末期と家族を寄り添うように見てきた著者。友人の看護師が末期がんになり、自身の最後へと向き合うときがきた。著者と難病の母、献身的に介護する父。終末医療の一角を記録する。

2020年本屋大賞ノンフィクション部門で大賞を受賞した、「命の閉じかた」を書いた教科書。患者たちを見る医療従事者と、幕を閉じていくことになる看護師、著者自身の家族の3つの要素を交えながら書く。まさに今、息絶えてもおかしくない女性が家族と潮干狩りに行くエピソードは、太陽の刺さるような痛さまで伝わってくるようだった。家族の愛が潮風と波の心地よさと混ざり合い、涙を止められなかった。

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