諸行無常

 実家の犬の遺骸が見つかったと、母から連絡があった。実家の裏庭の藪にあったらしい。遺骸は顎の骨、尾の毛の一部くらいしか残っておらず、首輪が落ちていたのでわかったらしい。晩秋なのに2週間経過した程度にしては遺体の分解速度が速いと思ったら、「他の獣に食われたのだろう」と母。実家は野良猫もイタチも狸も出るので、スカベンジャーには事欠かない。

 死んで他の獣に食われるというのは、実に自然の摂理に適ったことだと思う。しかし、愛着の対象がそのようにして無くなっていくことはどうにも辛い。命の儚さ、万物の無常さを感じるというのはこういうことなのだろうか。方丈記日本霊異記に漂う静かな憂鬱さや、ネアンデルタール人が死者を弔った訳が少しわかったような気がする。

 私の感傷は脇に置いておくにしても、犬が死んでから(あるいは痛みを感じなくなってから)食べられたのであれば良いなあと思う。年が明けたら会いに行こうと思っていたが、結局叶わなかった。

 

 

 

最期とMP

 実家の犬が行方不明になった。
 前日の夕方、母が散歩に連れ出したところ突然倒れ、慌てた母が家に戻そうと犬を引きずったところ*1何とか立ち上がって家まで歩いて戻ったそうなのだが、ずっと苦しそうに息していたとのこと。翌日獣医に連れて行くつもりだと聞いていたのだが、朝犬小屋を見たら姿が消えていたらしい。問うと「呼吸が苦しそうだったから」と、父が鎖を離したのだそうだ。以上は直接父母と話をした妹からの報告。父は「『死期を悟った犬は姿を消す』と言うからな……」と妙に納得した様子で、母は「逃げちゃったんだからしょうがないでしょ!」と逆ギレ気味だったらしい。妹は「父は多分、犬の最期を看取りきれなかったから(犬の死に自分が直面しなくて済むように)鎖を離したのだと思う」と言っていた。私もそう思う。深い愛着を持った対象をまた失う*2苦しさを恐れて、犬を放したような気がしてならない。
 どの年齢まで犬を飼えるかどうかは、犬を世話する体力が続くかどうかが問題だと思っていたけれど、犬の最期を見届けられる精神力を持っているかどうかも重要な要素なのだな。私は何歳まで犬と暮らせるだろうかと考えることがしばしばあるけれど、考慮すべき力は体力と経済力以外にもあるのだ、と今回の出来事で悟る。そして、行方不明という形で犬を失うことのつらさを今味わっている。

 そうされることは犬にとっては嫌だったかもしれないけれど、遺体をきちんと弔ってやりたかった。そうできなくなった故に、私は犬を失った実感も納得も持てないし、うっすら父母を恨んでもいる。今は電話すると絶対恨み節を吐いてしまうと思うので、父母に電話すらしないでいる。

*1:犬は20kg越えなので母が抱えるのは到底無理なサイズ。

*2:参照:先代犬を喪った時の父に関する記事。https://hamahn.hatenablog.jp/entry/20120322/p1

No soy sauce, No life (私の体を流れる黒い汁・リターンズ2)

 今住んでいる地域は広島県の郊外になる。地方は特に顕著だが、都市部を少しでも離れると「少し良い物」を地元で入手するのが急に難しくなる。私は調味料は「少し上等な物」にしておきたいのだけど、郊外は(かつてあった)百貨店の支店や、こだわりの専門店*1がなくなっているので、「思い立った時にフラッと買いに行く」スタイルではなかなか入手できない。それでも現住地は人口が増えつつあるレアなエリアなので、「米・小麦・食塩」だけを原材料にした濃口醤油を入手することはできるだろうと思っていた。しかし甘かった。近所に全然売っていない。地元醸造場の醤油も何故かアルコールやアミノ酸を添加した醤油ばかりで、私の欲しい醤油は売っていない。どうなってんだ広島。

 ようやく見つけた「米・小麦・食塩」だけを原材料にした濃口醤油を製造している醸造場は大崎上島在で、このままでは醤油を買うためだけにフェリーで離島に行くことになりそう。物凄く高い醤油代になるので、流石にちょっとどうかと思うが、「あと1回でも刺身を食べたら醤油が切れる」という状態への不安*2に耐えるのが苦痛で、行こうか行くまいか葛藤が凄い。というか「醤油が切れたらどうしよう」という不安が凄い。毎日醤油を使っているわけではないし、醤油が切れるなんて滅多にないことだけど、醤油がない生活を乗り越えられるのか全然自信がない。

*1:「こだわりの専門店」はあるにはあるのだけど、多様性がなくなっているか、情報弱者には厳しいような気がする。現住地は「こだわりのベーカリー」は多いが、パン屋以外で私のニーズに合ったお店はまだ見つけられていない。

*2:料理に使うほどの量の醤油はもう勿論ない。

二割増しで美味しい、夏の酒

 犬の散歩は一日朝夜2回行く。夏は暑いので路面が冷めるのを待たねばならず、どうしても深夜の散歩になる。私は夕飯と一緒に飲酒するので、こうなると酒は飲めない。夕食の時刻が深夜なんて耐えられないし、飲酒してから散歩に行くと命の危険を感じる*1。そんなわけで、夏は飲酒回数が極端に減った。犬の散歩自体にそれ程苦痛はないが、酒が飲めないのは寂しい。

 しかし、雨が降れば路面が然程熱くならないので早い時間に散歩に行ける。となると酒も飲める。今日は台風が近づいているので一日中曇天、雨も降ったり止んだりだったので、早い時間に散歩に行けた。嬉しくてたまらない。ここぞとばかりにロティサリーチキン(まだレシピは確立していない)を作り、ビールを飲んだ。凄く美味しい。なかなか飲む機会がないと、酒の美味さも二割増しで美味しい。ちょっと背徳感があるのも美味さ割増の要因である。

*1:路面が冷めたと言っても、夜の気温はまだ結構高いし湿度も高い。そんな中を数十分歩くと、暑さによる発汗と飲酒の利尿作用の相乗効果で脱水を起こす。

真夏の怪談

 「しっぽの声」という漫画がある。動物福祉、動物愛護について、様々な種の動物と課題を取り上げて紹介しているのだけど、まあ漫画なので誇張もあるだろうと思っていた。その辺の猫を捕まえてほとんどケアもせず(場合によっては繁殖もして)有償譲渡する団体とか、代理ミュンヒハウゼン症候群の保護団体代表とか、募金詐欺とか。あと、「可愛い」とアニマルカフェに行く人とか、レアさに惹かれて無茶なかけ合わせ(虐待繁殖)のミックス犬を求める客とか。

 先日妹から電話があり、豆柴カフェに行ったと報告を受ける。柴犬の性質*1を考えるとカフェの看板犬は明らかに難しいだろう……と思ったら、まあそうだったらしい。無気力・無表情な豆柴達がその辺にだべり、客はおさわり禁止、賑わう店内で犬達を眺めるだけだったらしい。犬、自分の性質に合わないことを要求されて疲れてるんだろうなあ。そもそも置かれている環境自体がストレスフルだよなあ。何でそんなプチ地獄を見に行ったのかと思ったら、娘たち(姪っ子1号2号)が行きたがったかららしい。そんなもん止めろよと思うが、妹からの報告がなかったら、そんな無茶なサービスがあることも知らなかった。

 そして昨日、ペキニーズとアフガンハウンドのミックス犬を販売している店舗の話をネットの記事で読む。

note.com

販売告知にネット上のコメントでは非難轟々だったらしい。そんな店舗があったんだ、とググったら、現存していた。今はアニマルカフェと生体販売を兼業し、保護活動もしているらしい*2youtube、インスタ、Twitterでの情報拡散もしていて、それらを見ると雑居ビルのワンフロアで犬猫爬虫類、ミーアキャット、モルモット他多様なげっ歯類、更にフクロウに昆虫までが同居しているらしい。これだけ多様な動物がいるとなると、それぞれの種らしく生きるために配慮することは難しいだろうなあ。ヤマアラシが2カ月で死んだというのも無理からぬ気はする。それに雑多な種が狭い空間で共同生活を送っているとなると、新しいタイプの病原菌が誕生しそうだし、大丈夫なのか。

 リアル「しっぽの声」じゃん……とビックリした。現実凄いな。

 

*1:見知らぬ人を警戒する、他犬と遊びたがらない・距離を取りたがる、気に入らないと唸る噛む当たり前、元々神経質な個体も多い

*2:Twitterのトップには「殺処分0を目指して保護活動にも力を入れてます」との表記があった。

季節は密やかに進む

 連日35℃に達する日が続いている。先週までは何とか5時前に起きて犬の散歩に行っていたのだけど、もう疲れた。最近は起きられず、5時過ぎに起きて6時近くに散歩に行くことになり、暑さでうんざりしながら毎日歩いている。

 いつになったら暑さが収まるのか全然わからない。しかし地面に落ちる蝉の数が増え、ベトベトした房をつける草が現れ、夜の散歩では蜘蛛の糸が絡むようになった。露地は初秋の虫や植物たちに移行しつつある。まだまだ暑いのに、静かに秋が近づいているのを感じる。虫や植物は、どうして自分の季節が来るとわかるんだろう。不思議でならない。

 

しょっぱい酒飲み

 一週間ぶりに飲酒できるチャンスがやって来た。嬉しくてたまらないが、大して空腹でないので、4月に買った粕漬の瓜を切って出した。そしたらこの瓜が凄くしょっぱくて、この瓜単独では到底食べられない。口直しが必要ということで、瓜を齧ったら茹でたササミとか豆腐を食べて塩気をとばす、ということをしている。

 今、私の目の前には茹でたササミの小皿、ミニパックの豆腐(スプーンですくって食べてる)、粕漬の瓜、日本酒が並んでいる。粕漬はしょっぱ過ぎてあからさまに健康に悪そうだわ、目の前の絵柄は異様に侘しいわで何か色々しょっぱい。

 

時々ヤサグレが顔を出す

 職場の後輩が先に昼休憩を取っていて、戻ってきたので交代で休憩に入ろうとすると、後輩が「今日の昼食は何ですか」と訊いてきた。瞬間「私の昼食が、お前に一体何の関係があるというのだ」と思ってしまい、答えるのが物凄く面倒臭かった。それまで私はこの後輩に好意的だったので、自分のウザがり方に戸惑った。

 空腹だったからうざったく感じたのだろうか、とも思ったが、昼食を終えて戻って来た後で、この後輩から「どこでアイスを買ったんですか*1」と訊かれた時も「それを知ってどうしようというのか、お前に関係ないだろ」と思ったので、空腹関係なく本当にウザかったらしい。

 そんなにウザがらなくても良いだろうに、どうしたのかね自分。と思わないこともない。でも今振り返っても鬱陶しい問いだなあとは思う。何をそんなに鬱陶しく感じたのかはよくわからないのでまた今度。

*1:アイスをつけたことを話していた。