半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

田辺剛 ラヴクラフト傑作集

最近Amazonでセールで一冊99円だったのでまとめて読んでみた。
高校生の時の自分のころ、TRPGブームだったりして、ブラスバンド部の部室にもそういうSF・ファンタジー系のサブカルの波はあり、そういうのに詳しい友人と一緒になって文物を読み漁ったりもしていた。
ウォーロック」とか、買ってたな。当時。
しかしクトゥルー神話については、あらましは知っていたけど、ラヴクラフトの著作はちょろっと読んだくらいで、がっつりハマることはなく、軽く踝を浸した程度に終わったのである。

なので、今回こういうラヴクラフトのコミカライズというのを読んでみると、なかなか面白かった。

コズミック・ホラー。
コズミック・ホラーってなんやねん、とは思うけど、これって、普通のホラーが、正常の世界が基調にあって、不可思議な特異点に迷い込んでしまう、という話だとすると、クトゥルー神話の場合は、その特異点こそが宇宙の基調である、みたいな、正常と異常の感覚が反転するところにあるんだろうかと思う。
つまりは、そういう図式であると、おそろしいものこそが現実であり、逃げ場がないわけだ。

ただ、20世紀初頭には未踏峰や人跡未踏のエリアというのもたくさんあったけれども、現代というのは、そういう「余白」というものがほとんどなくなってしまったわけで、やはり、当時味わったうすら寒さを現代の我々が味わうのはいささか無理があるのかもしれない。
とはいえ、このコミカライズはよくできていると思った。

読み味としては、ミヒャエルエンデ「自由の牢獄」にでてくる「遠い旅路の目的地」の感じの不思議さ。
あれ、なんなんだろうと思ったけれども、ラヴクラフト時代感覚に似ているのかもしれないと思った。

日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか

最近Podcastとか聴いているのである。なんせ山とかを延々長時間歩いていると音楽ばっかりだと飽きるから。
そんなPodcastのはみ出し話で取り上げられていたので読んでみた。

昔話として「キツネやタヌキに化かされた」みたいな話がよくある。
あれ、明治・大正とかで、山村での民俗学の聞き取りみたいなのでも、そういう逸話がなんぼでもあったそうだ。
山村で生きている人間にとっては、因果律がはっきりしない不思議なことを、狐狸の類と関連づけるわけであったが、そういう風潮が失われたのは、はっきり1965年あたりを境にしているらしい。

自然と人間との関係性や、人間の自我のあり方が、日本では1965年以前と以後で根本的にかわってしまったんじゃないか、ということらしい。

1960年代に起こった変化:電話の普及、テレビの普及、週刊誌の増加
口伝えの噂から、活字がベースになったのが大きいのか、それとも科学立国みたいな高度経済成長期のメンタルのあり方なのか…という話だった。
また、1950年代には焼け畑農業が終わり、拡大造林によりスギやヒノキのような商用の山林になり、山の動物の食糧にとっては打撃であったらしい(ニホンオオカミ消滅の時期は焼畑消滅の時期と同じ)。ゆえにキツネの側の事情も大きくかわったのかもしれないということである。

1965年以前の日本人の思想世界は、おそらく天台本覚思想といわれるような「山川草木、悉皆成仏」だった。
そういう精神世界では、人々は個人の人格の仕切りが曖昧で、自然ともっとつながった状態であった。石も土も岩も、木も草も虫も動物たちも、この自然の中で「おのずから」のままに生きているということ、そのこと自体の中に穢れなき清浄なものを感じ取る。こういう精神世界なら、人はキツネに化かされうるかもしれない。人は個人として生きているわけではなく、村という自然と人間の世界全体と結ばれた生命として誕生し、そのような生命として死を迎える。結びあい、共有された生命世界の中にいる。そういう文脈の中では、不可思議なことは「キツネが化かす」という受け止められ方もするのかもしれない。

そんな話。
講談社現代新書なので、さらっと書かれてはいるものの、最近山に分け入ることが増えた自分にとっては、割とすんなり得心のいく内容だった。おもしろいよ。
昔の村人は、人生の最晩年は「山に帰る」っていって、家族から離れて山の中の庵で過ごす、みたいなことが結構あったらしくて、まあそれって最後は孤独死するわけだけど、それはまんざらじゃない死に方だったらしい。

確かに結び合った世界の中に還っていく、というのは悪くないような気がする。

世界金玉考

久しぶりの更新がこの本だとは…

岡田斗司夫チャンネルとかで紹介されていたので読んでみた。

まあ、いってみれば金玉というものにフォーカスをあてて、比較解剖学的、人類学的、歴史学的な考察を繰り広げた痛快な書、ということになる。

男子は小学生も中高生も若者もおじさんも、下ネタが大好きだ。
下ネタというと、基本的にはうんこしっこちんこまんこの話ではあるが、キンタマというのは、いわゆる快楽器官ではないので、陰茎に比べると下ネタでも特異な地位にあるようには思う。

なかなか面白いけど「考」と書いている割には後半は事例の紹介が多く、網羅的に載っけていて考察、まではいっていないものも多いんじゃないかとは思った。なので、後半若干ダレ気味である。まるで夏の暑い日のキンタマのように。

力作ではあるけども、名作であるかというと微妙だ。
それでも20代のころの僕なら、本棚のサブカルっぽさを醸し出すために、本棚の見えるところに意気揚々と陳列したかもしれない(今はKindleなのでそういうことを考えもしない)。

以下、備忘録:

  • キンタマの存在意義は精巣を冷やすため、と一般に言われているが、精巣が体内にある種も多い。
  • 有袋類キンタマは陰茎の「前」にある
  • キンタマ=冷却仮説・トレーニング仮説・全力疾走仮説
  • 生の玉(きのたま)が訛った説、キビシタマ(緊玉)=命に関わる玉がキンタマになった説
  • 諸外国でのキンタマスラング(解剖学的正式名称ではなく)は= Ball というのが多い
  • 加藤清正の家来に金玉姓あり
  • 去勢:中国の宦官・イタリアのカストラート、牧畜における去勢の方法など

2023買って良かったもの【書籍編】

なんか今年の後半以降、オフタイムや休日はいそいそと外に体を動かし、帰宅即バタンキュー生活になった。
おかげで、心身の健全性については大幅に改善されたものの、読む本と読んだ本のアウトプットは大幅に減ってしまった。
おそらく、読んだ本のアウトプット比率は今までも高くて30-40%*1くらいだったが、現在は 5~10%程度に落ちている。

なので、Blog記事にはしていないものも含めて列挙してゆきます。

世界

『世界はなぜ地獄になるのか』

橘玲、相変わらずの話。しかし世の中のキャンセルカルチャーの克明な描写など、世相を反映して厳しい。
『2050年の世界』これが未来予測系で一番よかったかも。
エクソダス買ったのは数年前。移民に関する割と学術的な考察。
『検証ナチスは「良いこと」もしたのか?』
halfboileddoc.hatenablog.com
『生かされて』
halfboileddoc.hatenablog.com
 一世代前のルワンダ虐殺版「アンネの日記」みたいなもの。
『「ほとんどない」ことにされている側から』
halfboileddoc.hatenablog.com
プーチンはアジアを目指す』
halfboileddoc.hatenablog.com

地理・自然

『美食地質学入門』

 とっつき悪かったが、色々勉強になる。
伊沢正名『ウンコロジー入門』『くう・ねる・のぐそ』うんこについてみんな考えようよ。野グソ率の記録は僕にはできないが。
『発酵文化人類学』 小倉ヒラク発酵の奥深さをわかりやすく伝える、これもいい本。
『人はどう老いるのか』久坂部羊自分の分野(看取り期医療)について共感すること多し。
『運動しても痩せないのはなぜか』
halfboileddoc.hatenablog.com
これも、ワークアウト中毒の自分にはいい本でした。

宗教

『神になりたかった男』宏洋

幸福の科学の破門された息子さんの本。面白いが、もう幸福の科学自体が斜陽なのが惜しまれる
『完全教祖マニュアル』

ビジネス

『苦しかったときの話をしようか』森岡

これが今年一番ぐっときたかもしれない。Jazzのコラムでもとりあげました。
『流れをつかむ技術』
halfboileddoc.hatenablog.com

あるく

『これで死ぬ』
halfboileddoc.hatenablog.com
いろいろ気をつけて歩こうと思いました。
『ナイトハイクのススメ』 中野純

夜、山を歩く?正気ではないが、一度やってみたい気はする。
『トレイルズ』ロバート・ムーア『死に山』
halfboileddoc.hatenablog.com
ソ連時代の失踪事件の話。

文学

『いつかたこぶねになる日』

『街とその不確かな壁』
halfboileddoc.hatenablog.com
もう70くらいの状態で青春時代の恋を描ける村上春樹の異能よ。
『白鍵と黒鍵のあいだに』
halfboileddoc.hatenablog.com
南博さんの自伝てきなやつ。めちゃくちゃ面白い。
三宅香帆『人生を狂わす名著50』『それを読むたび思い出す』
halfboileddoc.hatenablog.com
押井守 
halfboileddoc.hatenablog.com

社会

『家事か地獄か』
halfboileddoc.hatenablog.com
消極的にミニマリストになった人。論理的ではないがポジティブな書きように人柄を感じる。
『ヤンキー経済』

『世界が土曜の夜の夢なら』
halfboileddoc.hatenablog.com
ヤンキー、マイルドヤンキーについて、もうちょっと勉強する必要がありそう。
『エレガントな毒の吐き方』
halfboileddoc.hatenablog.com
『GRIT』


#買ってよかった

*1:つまり、紹介した本の2.5倍は読んでいる

2023年買ってよかったもの【モノ編】

ちなみに去年はこんな感じでした。
halfboileddoc.hatenablog.com

健康

一昨年から血圧の薬を始めています。CCB/ARB/TZの三剤でがっつり下げていたのだけれど、今年の検診でCrは1.39とかなり悪化したのでARB/TZを一時中止する。すると血圧はやっぱり高い。
結局エンレストを追加し、CCB/ARNIでCrも血圧も安定している。*1
10月にはぎっくり腰も経験した。50歳目前になってくると色々体もガタついてくるもんだ。
だが後述の通り運動しまくっているので、6-7kg痩せ、メタボ的な採血項目は軒並み正常値化した。

山歩き・ジョギング・ロングトレイル

コロナ禍で運動量が激減していたので、2022年9月くらいから運動量を意図的に増やした。河川敷をジョギングしたり、運動公園を歩いたり。近所の低山に登ったりもしていた。

2023年の歩数記録。7月くらいから10000歩を超え出した

転機になったのは今年のGW。
友人家族と、県北の熊野神社から比婆山系に試しに登ったが、後から考えると装備も不十分・水も持たずという危なっかしさ。脚力も貧弱だったのでバテバテで退散したが、案外楽しかったのだ。
そこでリベンジ…と思い、山の装備を少しずつ揃え、低山に登るようになった。
YAMAPというアプリを本格的に稼働したのは7月。

ゲーミフィケーションとしてよくできたアプリである。
yamap.com

山に登る脚力のためにジョギングするようになり、徐々に運動耐用量は上がった。
どうやら、登る行為自体にはそんなに自分は惹かれないようだ*2。車で登山口にいき、登山して車で帰るのには、そこまで惹かれない。山の麓からガッツリ歩きたい。
結局、散歩というか、ハイキングなんだよな。好きなのは。

「中国自然歩道」というのがある。
www.env.go.jp
これを、少なくとも広島県内は走破したいなあと現在計画中(忙しいのでセクションハイクではあるけれども)である。

そんなわけで2021年にはキャンプグッズに大ハマりしたが、2023年は登山・ハイキング系のギアに大ハマり。
おかげで、ベースレイヤー・ミッドレイヤー・シェル・インサレーション、ゴアテックス・ポーラーテック・コアロフト、タイベック・ダイニーマ・DCFなど無駄な用語と知識がずいぶん増えた。

HOKA

ジョギングにはClifton 9、山用としてMERRELLのトレッキングシューズが2023年の出発点だった。
アスファルトをMERRELLで長時間歩くとしんどい。オフロード・オンロード兼用のシューズが欲しいといろいろ探した。
トレラン用のHOKA Challengerが割とよかった。のだがこれは吐き潰し、
結局は現在 HOKA Speedgoat GTXに落ち着いている。

走って良し、登ってよし、歩いてよし、ちょいフォーマルでもギリよしで、満足している。

Arc'teryx

始祖鳥のロゴでお馴染みのアークテリクス。
山グッズを揃えるに際して「モンベルおじさん」「パタゴニアおじさん」という揶揄を知っていたから、おじさんくささを消すために色々ブランドを探した結果、アークテリクスに行き着いた。
オシャレかつ高機能。その反面めちゃ高価。
でも差別化を図るにはちょうどよい。
ただ、アークテリクス、世界的に人気でめちゃめちゃ品薄なのよ。
アークテリクスのアプリでも人気商品はほとんど売り切れている。
なので抽選で購入したりするのである、いい年したおじさんが。
やれやれだ。
Norvan 14, Arrow 26, Arrow Waist pack, Atom HeavyWeight Jacket, Hurum Hoodie, Delta Jacket, Kayanite Hoodie, Gamma MX jacket...いろいろ買った。
ついにはVeilanceにまで手を出し、完全に沼っている。楽しい*3

ただ、トップシェルは、2007年くらいに買った North Face Summit Labelのゴアテックスと、
チェコの山岳救助隊 Tilak(これも2010年代に買った)のジャケットを使っている。
これらはインドア時代に買ったのだが、10年以上たって、今本来のフィールドで活躍しているのは面白い(二つとも長年月ほったらかしていたのでヘタっている。というわけでアークテリクスのトップシェルを発注中…)

その他

リュックは Karrimor Cleave 30 , Hagrofs Corker 15, 上述のArc'teryxを買った。

KarrimorはUL系の知識からこれにしているが、軽くて便利だ。

普段履いているパンツもほとんど山用のもの。Patagonia , North Face、Houdini、のパンツを愛用している。

サーマルウェアとしては以前から目をつけていたモンベルの1000fpのインナーダウンを買った。

(色は白いやつを買っているが)

トレッキングポールは Lekiのフォルディング可能な高いやつ。

残念ながら、手袋・ヘッドライト・タオルやてぬぐいは山で何個かなくしてしまったので、消耗品と割り切ってあんまり高いものは買わないようにしている。特に手袋!

ファッション

Oliver Goldsmithのクソデカサングラスを買った(当然度入りである)割とインパクトがある。

prescribed sunglass, Oliver Goldsmith

LOEWEの折りたためるバッグ、何度も逡巡したあげく、結局買ってしまった。

折りたためるので、あまり使わなくても革の劣化・変形を防げるか

あと、ややハイエンドの腕時計を二つゲットした。
が、普段Apple Watchを使っているので、ほとんど出番がない。

デジタル:

デジタルガジェットについては今年はほとんど見るべきものがない。
JBLBluetooth Speakerをいくつか買い足したのと、同じくJBLのノイキャンイヤホンJBL tour Proはかなり満足度が高かった。ジョギング用にはShockzを買ったが、これもかなりいい感じだ。
とにかく、重厚長大さをきらい、最近は装備品の軽量化をはかっている。
小さなMobile Batteryも積極的に使っている。

今年はこんな感じです。

*1:自分はかなり塩分をとる人間だったんですが、結構減塩には気をつかっていて、検尿で測定する推定1日塩分摂取量は10g以下だった。

*2:ちょい高所恐怖症気味だし

*3:Veilanceはアークテリクスのサブブランド。値段はアークテリクスより高く、タウンユースでシュッとしたデザインなのにアウトドアの性能という狂った仕様。おまけにアークテリクスのロゴもない。Silent Luxuryってやつなのか。

将太の寿司

前回エントリの「寿エンパイア」の後、気がつくと1ヶ月以上空いちゃったなあ。

寿エンパイアの読み味で、過去の寿司漫画の金字塔、「将太の寿司」を思い、読み返していた。
実は将太の寿司にも続編があり、それはそれで読んだのだけど、今回はオリジナルの方。

将太の寿司。その後の寿司漫画のルーツとでも言えるジャンル開祖漫画とでも言えるだろうか。

しかし将太の寿司、辛いことや、赦し、癒されたりの時に、大粒の涙をぽろぽろとこぼす。
グルメ人情噺みたいな側面が強い。

あそこまで人情噺を前面に押し出すパターンは、正当後継者というと
蒼太の包丁、だろうか。これは大粒の涙をながしこそしないが、妙に目がうるうるしている漫画。
江戸の人情、的な感じでいうと一番読み味が近いかも。知らんけど。

寿エンパイア

SNSの漫画紹介で、まんまと釣られ読んでしまった。
https://twitter.com/QJOqv3oIwaeisUy/status/1724441258100175154

ハワイで海洋生物の研究をしている若い男の子涌吾が主人公。
主人公は実は日本寿司界に燦然と輝く老舗華山の4代目の隠し子だった?!
…ということで来日し、華山で修行が始まる日々。そして寿司コンテスト。

ストーリーの中心はまあまあ荒唐無稽な話が続くけれども、
すっきりとした読み味でどんどん読み進んでしまった。

・主人公がナイスガイ
・キャラはそれなりに立っている
・寿司の蘊蓄も楽しい
・食べた時の描写がだんだんエスカレート

よくないところ
・人格造形がエキセントリック
・ストーリーがいきあたりばったり
恋愛模様の感情描写がてきとう

主人公の涌吾君はすごいナイスガイでして、負けた時も素直に負けを認めるし、勝った時も対戦相手のいいところをリスペクトする。鬼滅の刃の炭治郎なみに優等生。ただ、漫画ですからね、リアリティよりも気持ちよさを優先しているんでしょう。

まあしかし、変に感じるところはある。なんか、やってんの?っていうくらい皆テンション高いし。
普通のドラマに、いきなり暗転〜そしてスポットライト、みたいなエキセントリックさがあるんだな。
そう、料理の鉄人っぽいんだよ。

まあ、リアリティよりもエンタメ性なんだよね。
あと、強敵児島さんの口癖「マッズ!」と主人公ユーゴの「エンジョイ!」は、ちょっと癖になりそう。真似してしまいそうな危険がある。