”「医療世界一」は国際比較してみたら日本だった”に、ちょっと待った

↓の記事が先週、私の周辺でバズっていました。

 

headlines.yahoo.co.jp

   

 

国際間の医療水準の比較方法は色々あると思いますが、そもそも日本は「世界一の長寿国」なわけですから、そう悪いレベルであるはずはありません。

 

なので、記事の冒頭に出てくる、

 

>>

日本人ほど自国の医療に不信感を持っている国民はいない。2010年にロイター通信が報じた「医療制度に関する満足度調査」によると、日本人の医療満足度は15%で、これは世界の先進・新興22ヵ国中、最下位である。

>>

 

に対して、「そんな言うほどひどくはないでしょう」というのは、まあ約束された結論です。

でも、題名にあるような安易な「医療世界一」論にはちょっと待ったです。

 

筆者の真野先生は、各がん種の5年生存率をOECDの統計データと、国際共同研究「CONCORD-2」のデータを駆使して、国際比較しています。

 

記事内で触れられている数字/表現を整理してみると、、、

 

・大腸がん:68%と世界1位。加盟国平均は59.9%(根拠:OECDデータ)

・肺がん:30.1%と際立った世界1位。アメリカ18.7%、イギリスは9.6%(根拠:CONCORD-2)

・肝がん:27.0%と相当に優れた水準。アメリカ15.2%、欧州各国20%未満(同上)

胃がん:54.0%とかなりの高水準。韓国57.9%とトップ。欧米は30%前後(同上)

乳がん:87.3%とアメリカに次いで世界2位(根拠:OECDデータ)

・子宮頸がん:70.2%で世界4位と健闘(同上)

 

ふーむ、なんでわざわざ2つのデータを使うんでしょう?ちょっと気になったので、元データにあたってみました。

 

OECDのデータは↓が元データと思われるのですが、なるほど、肺がん、肝がん、胃がんの数字が見当たりません。

 

  ■”Assuring Quality to Improve Survival” (OECD Library)

  

しかし、「CONCORD-2」の方は、↓が元データで、上記のがん種はすべてデータが揃っています。

  http://www.thelancet.com/action/showFullTableImage?tableId=tbl4&pii=S0140673614620389

 

真野先生の分析に欠けている、大腸がん、乳がん、子宮頸がんの3つのがん種のCONCORD-2の5年生存率データをアメリカ、カナダ、ドイツ、イギリス、韓国、日本で比較してみると(いずれも%)、、、

 

・大腸がん:アメリカ64.7 カナダ62.8 ドイツ64.6 イギリス53.8 韓国66.0 日本64.4

乳がん:アメリカ 88.6 カナダ 85.8 ドイツ 85.3 イギリス 81.1 韓国 82.7 日本 84.7

・子宮頸がん:アメリカ 62.8 カナダ 66.8 ドイツ 64.9 イギリス 60.2 韓国 77.1 日本 66.3

 

あれ???

 

大腸がんの「世界1位」、乳がんの「世界2位」といった勇ましい数字は、ここからは伺えません。

これでは、都合の良いところだけデータを”つまみ食い”したと言われても仕方ない。

 

日本が他の先進国と比べて同等以上の医療を提供できているというのは、CONCORD-2のデータからだけでもきちんと言えるのですから、変なデータの使い方をしてミスリードするのはやめて頂きたいものです。

日本の乳がん治療医”Warm 30”

乳がんの病院・名医ガイド「イシュラン」では、患者さんがサイト上で医師のコミュニケーション・タイプに投票したり、感想を投稿したり、サンキューレターを送ったりという仕組みがあります。

 

例えばコミュニケーション・タイプの投票数は、サイト開設以後累積で1万近くになるなど、「ビッグデータ」と言えるくらいになってきました。

 

これら蓄積されているデータには、医師のコミュニケーションの質を測る上で一定の意味があると考え、このたび、全国カバーを達成した2016年7月から12月の半年間に集まった「コミュニケーション・タイプの投票」「感想の投稿」「サンキューレターの投函」を独自の観点でポイント換算し、2016下半期「日本の乳がん治療医“Warm 30”」として発表しました。

 

 ■「イシュランニュース 発表!『日本の乳がん治療医“Warm 30”』」

  

30名の医師全員のお名前を調べてみたい方は、上記のリンク先を参照して頂くとして、ここではTop3の先生をご紹介します。

 

・第3位:木下貴之先生(国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 乳腺外科)

コミュニケーション・タイプの投票が、学究型19票・リーダー型25票・聴き役型5票・話し好き型13票、と、患者さんによって色々な顔を使い分けられていることが想像できる先生です。

 

「治すという信念が伝わり、一生護って貰おうと思いました」「ユーモアがあって、頼りになる感じのかたでした」などの投稿があり、本質的には「頼もしいリーダー型」の先生なんでしょうね。

 

 

・第2位:緒方晴樹先生(東京逓信病院 外科)

学究型3票・リーダー型13票・聴き役型10票・話し好き型33票と、使い分けはされているものの、かなりお話が好きなのは間違い無さそうな先生です。

 

集計期間以前からも、ポジティブな感想が数多く寄せられていて、

 

「解り易い説明で治療方針を示していただき、納得して術前化学療法を受ける心の準備ができました。」とか、「とにかく明るく優しく気がついたら先生の魔法にかかり辛いこともなく抗がん剤治療を受けられました!」などなど、絶妙な話術を駆使されていることがうかがえます。

 

 

・第1位:西村誠一郎先生(静岡県立静岡がんセンター 乳腺外科)

学究型40票・リーダー型3票・聴き役型13票・話し好き型6票と、「学究肌」の先生です。

 

「いつでもどんな時でも、誠実に向き合ってくださり、手術も西村先生なら、と、安心してお任せすることができました」とか、「毎日毎日不安で、手術も不安で、これからのことも不安で西村先生に診察をして頂いて、話しをして頂いて少しずつ、不安も減っていき、西村先生に手術をお任せしようと思いました。」などなど、誠実なお人柄が患者さんにしっかり伝わっているようです。

 

 

この3名の先生方についての説明でも判るように、今回のランキングは、実際の診療現場における丁寧さ・熱心さ・様々な配慮といった「コミュニケーションの質」が、色濃く反映されたものになっていると考えています。

 

巷の雑誌などでの「日本の乳がん名医XX人」的な企画モノとはまたひと味違った顔ぶれになっていると思いますが、患者さんにとっては、「ウデ(技術)」×「コミュニケーション」の両面がそろってこそ、本物の「名医」。

 

今後も、日常診療で素晴らしいコミュニケーションを続けられている先生方に光を当てられるような企画を続けていきたいと思います。

イシュラン編集長が選ぶ2016年のがん医療界5大ニュース

今まで年末恒例でお届けしていた年間のがん医療界「5大ニュース」ですが、今年は年始とさせていただきます。

 

ちなみに、過去2年間の5大ニュースは↓のような感じ。

 

<2014年>

第1位:ホンモノの免疫療法の登場

第2位:近藤誠の怪進撃

第3位:C型肝炎の治療が大進化!肝臓がんは激減へ

第4位:前立腺がんに新薬続々登場

第5位:マンモグラフィの意義、大いに揺らぐ

 

<2015年>

第1位:世の中の「がん」への関心が一気に上昇〜北斗晶さん現象〜 

第2位:抗がん剤の超高額化の波止まらず、「Value」が求められる時代へ 

第3位:”ホンモノの”免疫療法時代の幕開け 

第4位:待望のがん患者の全国組織「全国がん患者連合会」設立 

第5位:反論続々、近藤誠医師の”怪進撃”に待った!

 

さて、2016年はどうだったでしょうか?

 

 

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第5位:小林麻央さん、乳がんを公表

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2015年の第1位は、世の中の「がん」への関心が一気に上昇〜北斗晶さん現象〜、でしたが、2016年も多くの有名人の方ががんの罹患を公表されました。

 

私の記憶にあるだけでも、南果歩さん(乳がん)、小倉智昭さん(膀胱がん)、渡瀬恒彦さん(胆のうがん)、、、

 

そして、誰よりも世間が大騒ぎとなったのが、6月にあった小林麻央さんの乳がんの公表でした。

 

news.biglobe.ne.jp

    

 

麻央さんの病状の公表後、夫の市川海老蔵さんの再三のお願いにも拘らず不躾な取材攻勢が続き、私の周囲の患者さんたちからも、本当にそっとしてあげて欲しいという声が数多く上がっていました。

 

そんな中、麻央さんは、9月からブログをスタートします。

 

ameblo.jp

   

 

 

ブログが公表されて以来、報道機関の記事はほぼすべてこのブログ記事がベースに書かれているように見受けられます。芸能マスコミから主導権を見事に取り戻したと言えるのではないでしょうか。

 

ブログを書き始めた日に、麻央さんはこう記しています。 

 

>>

乳がんであることが突然公になり、

環境はぐるぐる動き出しました。

 

そこで、

これまで以上に病気の陰に隠れようとして

 

心や生活をさらに

小さく狭いものにしてしまいました。

 

これは自分自身のせいです。

 

 

私は

力強く人生を歩んだ女性でありたいから

子供たちにとって強い母でありたいから

 

ブログという手段

陰に隠れているそんな自分とお別れしようと決めました。

>>

 

今日現在も進行形で継続しているこのブログは、真の強さと優しさを持った麻央さんの日常を毎日伝えています。これからも暖かく見守っていきたいですね。

 

 

 

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第4位:受動喫煙ががん罹患リスク因子として認定。防止の法制化への流れできる

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国立がん研究センターが8月末に発表した、受動喫煙での肺がん発症リスクのニュース、かなり多方面で大きく報道されました。

 

www.nikkei.com

      

 

この「1.3倍」という数値は、メタアナリシスと呼ばれる手法で、過去に出された研究結果を統合して解析した結果から導かれており、科学的には「確定的」と言って差し支えありません。

 

これに対し、JTが反論し、さらに国立がん研究センターが再反論するという、ちょっと異例の展開になりましたが、JT側が(当然ではありますが)完全に論破されてしまいました。

 

gigazine.net

   

 

受動喫煙は、JTが言うような「迷惑」や「気配り、思いやり」の問題ではなく、「健康被害」「他者危害」の問題であるという”国がん”のスタンスには、私も強く同意します。

 

この追い風を受け、10月には、ついに厚生労働省受動喫煙対策の法制化への具体的な動きを起こします。

 

www.asahi.com

   

 

「主な公共施設で建物内禁煙とする一方、飲食店などサービス業の施設は原則禁煙とし喫煙室の設置は認める」という現行案は、非常にリーズナブルではないでしょうか。

 

是非一日でも早く、法案が可決されることを願います。

 

 

 

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第3位:医療情報サイトWELQが大炎上⇒閉鎖に

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先月のメルマガでもお届けしましたが、DeNAが運営していた医療情報サイト「WELQ」が大炎上の末、閉鎖の憂き目に遭いました。

 

toyokeizai.net

  

 

医療情報サイトがこれほどまでに世の中を揺るがしたのは、初めてのことではないでしょうか。

 

WELQの手法については、今回の騒動の真の火付け役と言える、永江一石さんが詳しく解説していますので、ご興味ある方はご覧下さい。(大手マスメディアの報道は基本的に、この後追いです)

 

 ■「DeNAがやってるウェルク(Welq)っていうのが企業としてやってはいけない一線を完全に越えてる件(第1回)」 https://www.landerblue.co.jp/blog/?p=30141

 

 ■「【告発も追記】やってはいけない一線を越えたDeNAのウェルク(Welq)をとりあえず直ちに閉鎖すべき理由(シリーズ第2回)」 https://www.landerblue.co.jp/blog/?p=30166

 

 ■「東大薬学部五十嵐准教授がDeNAのウェルク(Welq)をさくっと検証した結果(シリーズ第3弾)」 https://www.landerblue.co.jp/blog/?p=30231

 

 ■「パクリWebスパムのウェルク(welq)はどのようにして誕生したのか(シリーズ第4回)」 https://www.landerblue.co.jp/blog/?p=30247

 

このWELQ問題、「医療」というものを軽く見て、患者さんのリスクや不利益を無視した形で短期的な利益最優先で事業を展開すると、一時はうまくいってもいずれは馬脚を現すことになるという良い教訓ではないかと思います。

 

イシュランにとっても「他山の石」となった出来事でした。

 

 

 

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第2位:がん対策基本法の改正法案がついに成立!

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12月9日に、「がん対策基本法の一部を改正する法律案」が衆議院で可決され、法案が成立しました。

 

www.nikkei.com

   

 

この法案、全会一致で可決され、非常にスムーズに事が運ばれたように見えますが、実は成立がかなり危ぶまれる状況もありました。

 

実際、昨夏の通常国会では、審議日程の確保ができないということで、同案の提出が一度キャンセルになって「振り出し」に戻ってしまったという経緯があります。

 

今回も、参議院での審議が滞りかけた中、全がん連やがん議連を中心とした関係者の必死の努力が実り、なんとか審議に至りました。

 

改正法案のポイントは、下記の3つになります。

 

1)患者の雇用の継続や円滑な就職に対する配慮が求められることが法律に明記された

2)治療オプションの少ない希少がんや難治性のがんにも光が当たった

3)がん教育の推進が明記された

 

一点目が、特に働き盛りの世代にとって重要な話です。治療費も生活費も重くのしかかる中で、収入の安定的な継続というのはまさに死活問題ですから。

 

しかしながら、残念ながら解雇を迫られる等で離職せざるを得ないというのは、よくあるケースなのです。

 

news.yahoo.co.jp

   

 

分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤など、革新的ではあるが高額な治療が主流を占めつつある中、がんは「お金のかかる慢性疾患」化していくことが中長期的に想定されます。

 

その意味で、雇用の継続や円滑な就職に対する配慮が求められることが法律に明記されたことは時宜にかなっており、実のある対策が官民共に策定・実行されていくことを期待したいと思います。

 

   

 

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第1位:超高額薬剤にメス。オプジーボ薬価は半減へ

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超高額な抗がん剤が次々に出てくる中、本当にそれだけの「価値」があるかどうかが、厳しく問われる時代に入ってきた、というのが2015年の5大ニュースの一つでした。

 

2016年はその流れが日本で大きく顕在化した年だったと言えます。

 

まず、4月より医薬品の薬価算定における費用対効果評価の試験的導入が始まりました。

 

  ■「【中医協総会】「ソバルディ」など7品目‐費用対効果の対象決まる」(薬事日報) 

    

対象となったのが、慢性C型肝炎治療薬(5品目)、乳がん治療薬のカドサイラ、悪性黒色腫・非小細胞肺がん治療薬のオプジーボです。

 

特に、話題の免疫チェックポイント阻害剤であるオプジーボが、再発・進行の非小細胞肺がんで承認されるにあたり、そのあまりの薬価の高さが医療保険システムに与える影響に対して、医療界の中からも疑念の声がわき上がりました。

 

代表的なのが、現役の肺がん治療医でもあり医師作家としても著名な里見清一さんの論です。

 

www.dailyshincho.jp

  

 

まあ、肺がんの場合、1人当たりの薬剤費が年間3500万円ですから、これはさすがにあり得ないレベルです。

 

そして、、、

結果として、オプジーボは「半額」となりました。

 

toyokeizai.net

  

 

しかし、元が高すぎるため、半額になったとはいえ依然として「超高額」な薬剤であることは変わりありません。

 

この先、薬価面での調整は引き続きあるとはいえ、超高額な抗がん剤を、「どう使うか」「誰に使うか」といった議論は避けて通れないと考えます。

 

深く突っ込んだ論考はまた別途出したいと思いますが、いずれにせよ「費用対効果」が日本の医療でも普通に語られる時代に突入したことだけは間違いありません。

WELQだけじゃない、怪しいネット医療情報の見分け方

半年あまりブログの更新が途絶えてしまいました。

年明けから心機一転、また定期的に更新していきますので、お付き合いよろしくお願い致します。

 

さて、DeNAが運営していた健康医療情報サイト「WELQ」が、閉鎖に追い込まれ、経営陣が謝罪を余儀なくされた件は、皆さんご存知のことでしょう。

 

toyokeizai.net

  

 

医療情報サイトがこれほどまでに世の中を揺るがしたのは、初めてのことではないでしょうか。

 

 

今回のWELQ問題は、まさに医療情報サイトである「イシュラン」を運営している私にとっても、見逃せない事件です。

 

WELQはDeNAという一部上場企業が運営していたためここまで問題が大きくなりましたが、”怪しい”医療情報サイトは他にも山ほどあり、がん関連は残念ながらそうした怪しげなサイトが最も充実してしまっている領域でもあります。

 

そこで今回は、「怪しい医療情報サイト」を見分ける4つのコツをお伝えします。

 

 

<コツその1:わかり易い”断定的”な話は警戒せよ>

 

怪しい医療情報は、「XXで100%がんは治る」「XXでがんが消えた!」「XXは副作用がありません」などなど、きわめて「断定的」&「扇情的」な表現が使われがちです。

 

たとえば、

kibou-mori.jp

のように。

(「副作用がありません」って、それで有効な治療だったら、今頃ノーベル賞取っていますよ...)

 

一方、科学的に正しくあろうとすればするほど、そして丁寧に表現しようとすればするほど、断定的な表現はしづらく、歯にものの挟まったような言い方になることがほとんどです。

 

「XX治療で再発を防げる確率はX割程度高まると考えられているが、再発しないとは言い切れない。また、治療によりYYの副作用がY割程度、ZZの副作用がZ割程度出る恐れがある」

 

というような感じで。

 

これはもう致し方のない話で、どんな治療でも「100%」の効果はまずないですし、副作用の心配が無い治療もありません。(副作用が無いとしたら、砂糖水みたいなものを飲ませているだけでしょう)

 

「世の中に”うまい話”は転がっていない」わけであって、冒頭書いたような「断定的」&「扇情的」な言葉を見たら、警戒してください。

 

え?「この文章での表現は随分断定的じゃないか?」ですって?

 

良いところに気づかれました(笑) 

断定的な表現にしないと、人はなかなか惹き付けられないし記憶にも残らないものでして...

 

 

 

<コツその2:「治療前」⇒「治療後」の写真があったらアウト>

 

えせ免疫療法クリニックのサイトによくあったのが、「治療前」と「治療後」の写真の比較を出して、「がんが消えた」ことをビジュアルで実感させる手法です。

 

最近は厚生労働省の広告規制の変更の影響で、サイト上に比較写真を掲載していない場合も増えてきていますが、未だにこの手の比較写真が掲載されていたら、そのサイトは「怪しい」と思ってください。

パンフレットなどの印刷物にあっても同じことです。

 

典型的なのは、

www.hu-clinic.com

のようなサイトですね。

 

そもそも、その薬が本当に効果があるかどうかは、たった1例の「治療前」「治療後」の比較だけでは何もわかりません。

 

例えば、その薬が投与されている間、もしくは投与の始まる直前期に別の薬が投与されていたとしたら、その別の薬の効果が出ているのかもしれないわけです。

 

きちんと効果の有無を調べるためには、年齢や進行度等々、同じような条件の患者の集団を2つに分け、その薬を投与した群と投与しなかった群で効果を比較してみないといけません。

 

いわゆる「治験」ではこうした比較試験を厳格な形で行なっていますし、そうした治験の結果はレベルの高い論文雑誌に学術論文として投稿・掲載されます。

 

そして治験結果であっても、「治療前」「治療後」の比較の写真が出回ることはないということを、憶えておいて頂きたいと思います。

 

 

 

<コツその3:一見すると信憑性がありそうな”泊付け”に注意>

 

どんな情報でも、その「情報源」が何か、で信頼性は変わってきます。

 

WELQによくあった書き方のように、情報源が何も記されておらず、単に「XXXと言われています」というのは一番信頼できません。

 

怪しいサイトはそんな稚拙なやり方ではなく、あの手この手で「信憑性」を増すような工夫をしています。

 

よくある手口が、医師のオピニオンの形をとることです。(しかも、残念なことに高名な医師の名前を担いだりする事もあります)

 

たとえば、

http://www.gan-info.jp/interview/interview01/

のようなサイト。

 

大学病院の医師だからといって、信用して良い訳ではありませんよ。

 

「学会発表」もよく使われます。たとえば、

www.saisei-mirai.or.jp

のようなサイト。

 

残念ながら、学会発表程度は科学的に首を傾げるような話でもできてしまいますので、何の説得力にもなりません。

 

臨床試験の「論文掲載」もやはりよく使われる手口です。

この場合、臨床試験の内容を吟味する必要があります。

 

先ほど挙げたテラのサイトでは、

http://www.gan-info.jp/interview/interview04/

のようなページがあります。

 

これを見ると、

 

>>

私たちが行った臨床試験(※2)では、進行性膵臓がんの患者さん7名に、樹状細胞ワクチン療法と化学療法を受けていただきました。7名の中で、非常に効いた方は3名、ほどほどに効いた方は1名、あとの3名は効果がありませんでした。治療効果があった方は3例とも非常に良い治療成績で、一番長生きされている患者さんは治療を開始してから3年6ヶ月くらい経過していますが、現在もお元気に過ごされています。

>>

 

というような記載があります。

 

この臨床試験で樹状細胞ワクチンの効果について言えることは、残念ながら何もありません。

化学療法が効いたのか、樹状細胞ワクチンが効いたのか、全然わからないからです。

 

前述した「治験」レベルの臨床試験ではじめて、その治療法に本当に効果がありそうかどうかの判断材料になると考えてください。

 

 

 

<コツその4:運営者や書き手の”顔”を見定めよう>

 

インターネット上の情報サイトの場合、運営者が誰なのか、書き手は誰なのか、まで見ておく必要があります。

 

たとえば、

www.kenko-msnet.jp

の「がん治療最新情報」というサイト。

 

webmaster.k.kobayashi なる人がやっていそうだということだけはわかりますが、その人が一体どのような人物であり会社を運営しているのか、さっぱりわかりません。

 

また、「乳がん 名医」と検索した時に、今でもイシュランが抜けないトップのサイトがあるのですが、、、

 

www.breastcancer-ranking.com

 

こちらも、運営者情報がほとんどわかりません。

 

ブログや一部のSNSのように、たとえ匿名であっても、その人の見識や人となりが累積した情報から判断しうるものであればまだ良いのですけれど、そうでない限り、運営者や書き手の情報がきちんと見えないサイトは、信用しない方が良いです。

 

 

以上、4つのコツをお伝えしましたが、こうしたコツが必要なくらい酷い状況になってしまっているというのが現実でして、怪しさを「嗅ぎ分ける」力を少しでもより多くの方が持てるよう、このブログでの発信を継続していきたいと思います。

愛犬家ご注意!〜キシリトールは犬には猛毒〜

キシリトールと言えば、ガムなどによく使われている人工甘味料

そんな馴染みの深い成分が、犬にとってはなんと猛毒だということを初めて知りました。

f:id:healthsolutions:20160630160312j:plain

 

”Artificial Sweetener Used In Chewing Gums Can Kill Dogs” 「ガムに使われる人工甘味料は犬に猛毒」 (TECH TIMES) 

ow.ly

  

アメリカ食品医薬品局(FDA)が5月12日に警告を発しました。

 

FDAには、チューインガムを食べてキシリトール中毒を起こす事例がこれまでも報告されてきたのですが、ここ1、2年でキシリトールが普及してきたからか、急増しているらしいのです。

 

でも、人間では全く問題になっていないのに、不思議ですよね。

 

実は、キシリトールは人間ではそんな作用はまったくないのですが、犬だとすい臓からのインシュリンの急激な分泌を招くのです。

 

インシュリンというのは、糖尿病の治療薬にもなっているように、血糖値を下げる作用があります。これが急激に分泌されると、「低血糖」と呼ばれる状態に陥ってしまうのです。

 

低血糖なってしまうと、脱力・ふらつき・失神・けいれんなどの症状が起き、命に関わる状態です。

 

ちなみに、猫でのキシリトール中毒は報告されていないのですが、これは甘味はネコ科が好む味ではないからではないかと言われています。

 

しかし、飼い犬が散歩中に、道ばたに落ちているガムやお菓子を拾い食べするなんてシーンは、よくありそうですものね。愛犬家の皆さま、くれぐれもご注意を。

 

糖尿病薬メトホルミンが閉経後女性のがん死亡リスクを低下させる!?

世界中で広く処方されている糖尿病薬の一つに、メトホルミンというものがあります。

 

日本での商品名は「メトグルコ」「メデット」「ネルビス」など、古い薬で特許が切れていますので色々な会社から販売されています。

f:id:healthsolutions:20160605163531j:plain

 

このメトホルミンが、どうも、閉経後女性のがん死亡リスクを低下させるらしいという研究結果が出てきました。

 

ow.ly

   

  (元の論文はこちら→ http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ijc.29944/abstract )

 

この研究では、1993年から1998年までの間に閉経後となっていた女性14.5万人の医療記録を調べています。

 

まず、がんと糖尿病の両方に罹患していた女性は、がんのみに罹患していた女性と比べ、死亡リスクが46%高い、と。これは当然と言えば当然でしょう。

 

次に、糖尿病患者はがんによる死亡リスクが、非糖尿病患者より高く、がんの罹患率は糖尿病の治療薬を何を使っているかに拘らず変わらなかった、と。これもまあそうかなと思います。

 

しかしながら、メトホルミンを服用していた糖尿病患者に限っては、がんによる死亡リスクが、その他の糖尿病治療薬の服用患者よりも低く、非糖尿病患者と変わらないレベルだった、というのです。

 

非糖尿病患者に対し、メトホルミン服用者は8%のリスク増で、メトホルミン以外の服用者は45%のリスク増と、両者の間には有意差ありました。

 

さらに、乳がんによる死亡リスクについて言えば、非糖尿病患者に対し、メトホルミン服用者は50%のリスク減(!)で、メトホルミン以外の服用者は29%のリスク増でした。

 

n数が少ないためか、有意差まではついていないようですが、これはちょっと驚きですね。

 

メカニズムがまだ全然見えていないですし、「後ろ向き」研究のみなので、これで結論が出たとは言えません。

 

しかし、同じ糖尿病治療をするのであれば、値段の高い新薬よりもメトホルミンを使った方が安くなるし、がんによる死亡リスクも下げられる可能性があるということは、糖尿病を患われている女性の患者さんは知っておいて損の無い情報だと思います。

 

がんから社会復帰したロールモデルを見つけられる「5years」

昔、乳がん患者さんを対象に調査した時に、周囲の人に対する要望として、「普段通りに接してほしい」「原因を一緒に考えてくれなくて良い」といった声が多く上がっていたのが印象的だったのですが、そんな記憶が、↓の記事を読みながらよみがえってきました。

 

 

president.jp

  

 

>>

自分が患者になったとき、身体的な辛さもありましたが、それ以上に辛かったのは周囲の人たちからかけられる何気ない言葉でした。

 

・・・

 

友人や知人からいろんな言葉もかけられました。「かわいそう」、「気の毒だ」、「君みたいな良い人が、なぜ……」とか。でも、がんって人を裁くものではありません。誰もがなりうる病気で、哀れに思われるとみじめになります。がん患者に言葉をかけるのは難しいかもしれませんが、患者としては、やっぱり普段どおりの普通の会話が一番嬉しいのです。

>>

 

 

この記事を書かれているのは、ファイブイヤーズ代表の大久保淳一さん。

精巣がんのサバイバーです。

 

大久保さんが闘病中にネット上で情報収集して行く中で困ったのが、「治療の辛さとか亡くなった人の情報ばかりで、病気を乗り越え社会復帰した人たちの情報がなかったこと」でした。

 

そこで、同じがんという病気で社会復帰したロールモデルを見つけられるようなサイトをつくるため、

 

 ■患者と家族が情報を共有できるコミュニティサイト「5years」http://5years.org

 

を立ち上げます。

 

このサイトの「ごあいさつ」のページで、大久保さんが書かれている言葉です。

 

>>

 このサイトには、治療を終え無事に社会に戻った人たちがたくさん登場します。そして治療中の人、ご家族、リハビリ途上の人、社会に戻った人が体験に基づくさまざまな情報を交換し、似た境遇の方々が交流を通じて明日へのエネルギーを生み出し合います。

 

 5years とは、そんなパワースポットのような場です。

>>

 

患者会などとはまた違った形で、オンライン上でこうしたコミュニティが出来上がったのは、素晴らしいことです。

 

で、早速、会員登録して「みんなの広場」の内容を見てみました。

  

ウィッグの情報とか、先生に感謝のお手紙を送ってみた経験のシェア、などの、患者さんにとって意義のあるやり取りは、想像以上に素晴らしい。

 

一方、一部で治療方法のアドバイスや科学的エビデンスの無さそうな治療法を行なっている医療機関の推奨などの内容が含まれていたのが気になりました。

 

私も患者向けの情報サイトを扱っているので、このあたりは気をつけているのですが、個別の治療法への言及(アドバイス)というのは、ちょっと超えてはいけない一線なんですよね。

 

運営側がきちんと内容を精査して、怪しい治療法の宣伝場にならないように是非して頂きたいところです。使う側としては、その辺りを注意して使えば有用な情報サイトだと思います。